『新世紀エヴァンゲリオン』〜 longing for different future 〜
序章 終局、そして始まり
赤い海――。
血のように赤い――真紅の海――LCL。
浜辺に繰り返すように小波が寄せては返していた。
漆黒の空からは満月の穏やか光が地上を照らしている。
どこまでも続く浜辺に一人の少年が膝を抱え、蹲って座っている。
中性的な容姿をした黒髪の少年は、ただ繰り返す小波を眺めている。いや、その瞳は何も映していなかった。意思の表示がされていない、生きる意味も意欲もない――そんな目をしている。
彼――碇シンジは一人だった。
この世界に存在しているただ一人の『ヒト』。話掛ける相手も、話してくれる人もいない。
そんな環境が、シンジを深い内面の闇へと意識を追い遣っているかのようだ。
シンジは元来、他人との接触を極端に避ける性格をしていた。
そんなシンジにも数は少ないが友人が、そして大切な人は存在した。
だが、それも過去の事――。
全ては自分のせいで失ってしまったのだ――その何もかもを。
悠久ともいえる時間をシンジは一人、こうして浜辺で座り込んで過ごしている。
どの位の時間が経ったろうか――。
ザッ! という砂を踏みしめるような音がシンジの背後から聞こえた。
それすらもどうでもいいかのように、シンジの目は、ただじっと赤い海を見つめている。
この世界には、シンジただ一人しか存在していないはずだった。だが、シンジの背後には人が立っている。
「......碇君」
青銀の髪に真紅の瞳をした少女――綾波レイが、悲しげな表情でシンジを見ながら透き通るような声で呟いた。
沈黙が二人の間に流れていた。
レイがその沈黙を破るかのように、再び声を掛ける。
「......碇君」
「.........綾波...」
数度の問いかけの後、ようやくシンジに反応を現れた。徐々に――感情が戻ってきたかのように、シンジの身体が震え始めた。
両手で自らを抱きしめるように腕を回すと僅かにその口が動いた。
それは波の音に掻き消されるくらいの、微かな声音だった。
「また......僕一人になったよ......」
「.........」
「......止められなかった......」
「.........」
「......止められなかったんだ......また......誰も救えなかったんだ......アスカを...ミサトさん...加持さんにリツコさん...トウジにケンスケ...洞木さんも.........父さん.........今度こそ......今度こそうまくいくと...思ったんだ......」
「.........」
「そう...思ったんだ......」
波の音がその言葉を打ち消していく。
だが、シンジの呟きは止まらない。
「...どうして...どうして僕なの...何で僕だけが.........」
全てを忘れさせてあげたい...せめて今だけでも......。
そんな思いからか、レイの背後から、シンジの抱え込んだ手の外側から、ゆっくりと優しく抱きしめる。
「...碇君......」
「...綾波...もう助けて......助けてよ...たす...けて......」
最後は声にならなかった。
レイは言葉なく俯いたシンジをただ優しく、それでいて、さっきよりもきつく抱きしめた。
「...ゴメンなさい......私には...どうする事も......」
悲しそうに言葉を漏らすレイ。
もう泣くだけの力すら残ってないのか、シンジの体はグッタリとしている。
シンジにはわかっていた。
いくら嘆いてみても、再び時の鎖が己を縛るのを...それを止める事など出来ないと...。
「また......繰り返すのかな......何も......出来はしないのに......」
全てを諦めてしまったかのような、そんなシンジにレイは何も言えなかった。
「どうせ救えない......だったら...何もしない方がいい......もう見たくない...見たくないよ...つらいんだ...もう疲れたんだ......ねぇ...誰か...誰か助けてよ......それが無理なら...もう.........コロシテホシイ.........」
「!」
レイの表情が恐怖の色に染まる。
「ダメ! 死んではダメ! 諦めないで......碇君」
シンジの頭を抱き寄せ、その頬に顔を寄せると縋る様に言葉を紡ぐ。
「もう...イヤ...だ......死に...た......い......」
「諦めないで......碇君は...私が......守るから......」
「............」
「.....碇君は...私が守るから.........」
「......」
「...守るから......」
レイはシンジの腕を――身体をぎゅっと抱きしめながら囁き続ける。
レイの体温をシンジは感じていた。
それが例え今だけとわかっていても、シンジにはその温もりに縋るしかなかった。
だが――時の鎖はその僅かな温もりすら許さないと言うのか、シンジは自分の世界の色が段々と遠のいていくのを感じていた。
暗き闇の底に落ちていく――
世界が色を失っていく――
レイの姿も――徐々に霞んでいく。
イヤダ......モウ...クリカエシ...タク...ナイ......ココ...デ...ズット.........。
自分の思考が途切れていくのを感じながら、どこかでレイの声を聞いた気がした。
「信...じて......いか...く......」
最後にシンジの意識が求めたのは、記憶の中にあるレイの微笑みだった。
それは初めての――ヤシマ作戦のエントリープラグで見たあの微笑み――
まるで、母の胎内にいるかのような安らぎに包まれながら、シンジは最後の意識を手放した。
あとがき
はじめまして。
葵 薫と言います。
リアルタイムでEVAを見たときは、それほど思い入れがなかったのですが、最近ビデオを見る機会があり、自分なりにEVAの世界を描いてみたくなりました。
自分の中のEVAを完結させるには、他の人に提示してみるのが良いと思い投稿に踏み切りました。
とりあえず、序章を送らせて頂きます。
自分への約束として最終話まで書き上げる所存です。
自己満足の為の拙い文章ですが、良ければ他の方達にも読んで頂ければ幸いと思っています。
では。
Please Mail to 葵 薫
( aokao_sec@yahoo.co.jp )