『新世紀エヴァンゲリオン』〜 longing for different future 〜

〜第1章〜『過去と現実』 第6話 『レイとの距離』



『碇君、NervとEva......もう少しうまく使えんのかね?』

『さよう。初号機の修復...国が一つ傾くよ...』

『聞けば、初号機は君の息子に与えたそうだな』

『人、時間、そして金...親子揃っていくら使ったら気が済むのかね?』

『それに、零号機の起動。シナリオとは違うようだが?』

『よもや、忘れてはおるまい......“人類保管計画”これこそが君の急務だ』

『その計画こそが、この絶望的状況下における、我々にとって唯一の希望なのだ』

『いずれにせよ、使徒再来による計画遅延は認められん。予算については一考しよう』

『後は委員会の仕事だ...碇君、ご苦労だった』

闇の中、幾つかの光が消え、バイザーを嵌めた老人とゲンドウの姿だけが残った。
老人が重そうな口を開いた。

『碇......後戻りは出来んぞ...』

老人の姿も消える。

「......わかっている」

残されたゲンドウはいつものように、テーブルの上に手を組んだポーズのまま、その口を僅かに歪ませながら呟いた。



葛城家の朝――

「おふぁよぉ〜〜」

「......おはようございます」

珍しくもミサトが、誰に起こされるわけでもなく、リビングに姿を現す。
寝ぼけ眼を擦っているあたり、たまたま目が覚めたというところか。
お約束のように、冷蔵庫からビールを取り出しプルタブを引き起こすと、この世の至福とでも言いたそうな顔で美味しそうにビールを飲む。

「ぷっはぁぁぁ! やっぱ、この為に生きているって感じよね!」

満面の笑顔のミサトをよそに、黙々と朝食を食べるシンジ。
ミサトはようやく思考回路が動き始めたかのように、きょときょとと室内を見回すと、不思議そうな表情を浮かべる。

「あれぇ? シンちゃん、レイは?」

「さっき、学校に行きました」

「行きましたって......まだ8時前よ?」

時計を見ながら答える。
シンジ達が通う中学校までは歩いて15分と掛からない距離だ。
いくらなんでも早すぎる登校に、不振に思ったミサトがシンジに尋ねる。

「さぁ。訳なら綾波に聞いてください」

無感情な返事に、内心で溜め息を吐きながらも、シンジの態度が軟化しているのを実感していた。

相変わらずのシンちゃんだけど...以前よりはマシになったわね......これもあの二人のお蔭かしら...。
伊達にエントリープラグの中のシンちゃんを見たわけじゃないわね。

あの二人とは――言わずと知れたトウジとケンスケである。
第4使徒との戦いの後、トウジから謝罪されたシンジは、少し戸惑いながらも謝罪を受け入れた。無論、殴り返してはいない。
どうやら、トウジの妹のナツミの怪我は大した事無く、近日中に無事退院できるとの事だ。
それ以来、偶に登校前、シンジを迎えに家を訪ねてくるので、ミサトは二人と面識がある。
ミサト曰く、元気なジャージの少年と眼鏡の盗撮少年...熱血少年とオタク少年...怪しい関西弁と眼鏡キラリ...etc...etc......。

ま、多少は性格に問題はあるけど......二人ともいい子達よね。

そんな二人に対して、ミサトは密かに感謝していたのだ。
表情こそ未だに無表情だが、無反応ではなく、ちゃんと返事を返すようになったシンジ。
角が取れたというか、丸くなったと言うか――以前と比べて、印象が変わってきている事をミサトは素直に喜んでいた。
シンジの変化――それは、確かに微々たるものである。
だが、シンジの瞳を一度でも見たことのある者からすれば、今のシンジの変化は喜ばしい事であった。
ミサトはそんなシンジを見ながら美味しそうにビール缶を傾ける。
残りを一気に飲み干すと、冷蔵庫から本日2本目のビールを取りプルタブを起こす。
その後暫くは、シンジの食事を続ける音と、ミサトのビールを飲む音だけが室内に響いていたが、ミサトはふと思いついたように、シンジに尋ねる。

「ところでシンちゃん。レイと仲が悪いわけじゃあないわよね?」

「...特には」

「そぉお、ならいいんだけど......レイと仲良くしなさいよ」

「別に...」

「あ、そぉ?」

ミサトは悪戯を思いついた子供みたいな表情を浮かべる。

「まぁ〜そうよねぇ、あんな可愛い子はそんなにいないもんねぇ。喧嘩なんかする訳が無いわよねぇ」

シンジはそれには答えず、寝床である冷蔵庫から出てきたペンペンを確認すると、話しかける。

「ペンペン。綾波が朝食を作ってくれているから、温かいうちに食べなよ」

「クェ」

嬉しそうにテーブル脇のマイポジションに移動するペンペン。
ミサトはふてくされた様な表情を浮かべながらも、どこか嬉しそうにシンジにちょっかいを出し続ける。

「ちょっとぉ。シンちゃん無視しないでよぉ〜〜。 ......そんなに照れなくてもいいじゃない......」

「......」

無表情のまま受け流すシンジ。
ミサトがさらに言葉を続けようとした時、タイミング良く玄関のチャイムがなる。

「......行ってきます」

流しに食べ終わった食器を出すと、そそくさと鞄を持って玄関に向かう。

「ちぃ! 逃げられたか......」

舌打ちするミサトをよそに玄関の扉が開く。
とたんに、元気の良い声が空気とともに室内に流れ込む。

「「ミサトさーん! おはよーございまーす!」」

「おっはよーーー。 じゃぁ、いってらっさ〜〜い」

ミサトは器用に片手だけをリビングから出すと、ブンブンと上下に大きく振る。
玄関から二人の悲しそうな声が響き、続いて扉が閉まる。

「いってきます...か......。 ふふっ。 確かに変わったわねシンジ君」

「クェェ?」

「んん〜〜っ。 何でもないわよー、ペ〜ンペン」

皿から顔を上げて見上げているペンペンを抱え上げると頬摺りをする。

「クェ! クエクエクェェ!!」

食事の邪魔をされたペンペンが、猛烈な勢いで両手(?)をバタつかせ始める。

「なによぉ、ペンペンったら......ん?」

ふと、テーブル上を見て動きを止める。
ミサトは数回瞬きを繰り返し頭を整理する。
急に床にしゃがみ込むと、目の前にペンペンを下ろすし肩に手を添える。
真面目な顔で見つめるミサトを不気味そうに見るペンペン。

「ペンペン、よく聞いて。 とっても重要な事よ......。」

「クュウ?」

「いい、今すごい事に気付いたのよ。それで、ペンペンに協力してもらいたいんだけど......」

真剣なミサト――
脂汗を垂らしながらも真剣に聞き入るペンペン――
不意に、パン! と小気味良い音を響かせ両の手を合わせると、ニヘラっと表情を崩す。

「朝食、分けてくんないかなぁ」

「クゥキョェェェェ!!!」

その後、ペンペンと壮絶な朝食の取り合いが始まったのは想像に難くないだろう。



3時間目は体育の授業だった。
今日は男子はマラソン、女子は水泳だった。
セカンドインパクトによって日本は年中夏である為、常に水泳の授業はあった。
プールから女生徒達のはしゃぐ声が聞こえてくる。
男子生徒は教師が遅れているのか今だに授業が開始されていない。
サッカーの話――ゲームの話――昼寝をする生徒――女生徒の授業を眺める生徒――皆思い思いに時間を潰している。
シンジも木陰で休んでいる。その視線はプールに向いていた。

「センセ、何覗いとんのや?」

ニターとした笑いを浮かべながら、隣に座っていたトウジが話しかけてくる。
ケンスケもカメラの調整を行いながら、話は聞いているとばかりにニヤニヤとした視線を送ってくる。

「センセも案外スケベやなぁ。誰に熱い視線を送っとるんや?」

トウジは無言のままジッとプールを見つめているシンジの視線を追いかける。

「んー、綾波を狙うとんのか? ええ趣味しとるのぉ」

シンジは無言のまま非難の視線を向けるが、トウジは気にせず話を続ける。

「隠さんでもええて。 せやけど、綾波は人気があるさかいになぁ...競争率激しいで。そやろ、ケンスケ」

「ああ。最近は人付き合いが悪くなってるけど、以前はそうでもなかったからな。写真が売れる売れる。いやー、稼がせてもらったよ」

「え? 綾波が?」

意外な言葉に驚きを隠せず、素っ頓狂な声を上げる。

「お、食いついてきよったで。いや、センセがそないに驚くとは...こりゃあ、本気やな」

「意外、意外」

「別にそんなんじゃ...」

「隠すな、隠すな」

「せや、健康な男子なら当然の事や!!!」

力説するトウジ。

「しっかし、綾波を見つめるセンセの視線...」

「ほんと、イヤーンな感じ」

「今のシンジの頭ん中は綾波でいっぱいなんや...スクール水着の愛しい愛しい彼女...」

トウジが頬を紅色に染めながらシンジに詰め寄る。
ケンスケも怪しい表情で続く。

「綾波のムネ...」

「綾波のフトモモ......」

「「綾波のフ・ク・ラ・ハ・ギ!!」」

鼻息も荒く、ズズイと身を乗り出すトウジ。目が怪しい。
キラリと光を反射するメガネ。こちらも負けじと目が怪しい。
怪しさ満載の二人に思わず後退さるシンジ。

「そんな事じゃないんだ......ただ...綾波らしくないって言うか...」

「んん〜〜! 綾波らしさって何かな、碇君?」

「おおーー!! さっすが同じエヴァのパイロットや。何でも分かりおうてるようやな」

シンジは基本的には、クラス内でもトウジやケンスケに話しかけられない限り、自分から進んで話に混じろうとはしなかった。
普段無口なシンジが話をしているのが珍しいのか、ただ単に面白がっているのか、二人ともニヤニヤ笑いを顔に貼り付けたまま追及してくる――たぶん後者だろう。
それと対照的に、ケンスケの言葉にふと考え込むシンジ。

綾波らしさか...
何だろう?
今まではいつも一人で居たよね。
クラスの誰とも関わろうとしなかった。
やっぱり、人付き合いが僕と同じでヘタなところかな? 
いや、違うよな。
綾波らしさってなんだろう?

「ケンスケ。僕が来る前の綾波ってどんな子だったの?」

ケンスケは突然の質問に意表をつかれたのか、ついどもってしまう。

「あ、ああ。んーそうだな...どうって言われても普通だと思うよ。でも、シンジと同じように、自分からは進んで話には入っていかなかったかな。後は...そうそう、笑ったとこは見たこと無いなぁ」

「そやなぁ。言われてみたら、綾波の笑うたとこは見たこと無いな」

さっきまでの薄ら笑いを浮かべていた時とは違い、つい真面目な表情で答えてしまう二人。
マジに聞かれれば、マジで答える。
二人とも基本的にはいい人なのだ。まぁ、普段が普段だけに周りからは、そうは思われていないようだが...。

「そう...なんだ......」

やっぱり、この世界でも笑わないんだ...。
でも...普通に接していたって事は、クラスのみんなと話したりはしてたってことだよね......。
綾波が?
みんなと?

「ど、どないしたんやシンジ?」

「えっ? 何でもないよ」

「何でもない言うたかて......」

不意に、ピー! という笛の音が響き、集合がかかる。結局、教師が到着した為、その話はそれきりとなった。
思考を頭から追い出して、授業へ向かおうとするシンジは、視界の端にレイの視線を感じた気がした。
思わず視線をプールに向けるが、レイはプールを眺めている。

気のせいかな?

視線を感じた時、シンジには一瞬レイが微笑んでいたような気がしていた。



「遅くなったけど、これ、本チャンのセキュリティカードよ。はい、無くしちゃダメよ」

ミサトがビールを片手にカードを二人に渡す。
今日は家族が揃っての夕食となった。ゲストとしてリツコも参加しているのは過去の通りだった。
ただし、ミサトカレーではない。
リツコと珍しくもシンジまでが猛烈に反対した為、料理はレイが作っている。
その事でミサトがいじけたのは当然と言えば当然だろうが、食べるほうとしては命の危険があるのだ。猛烈に反対しても罪悪感など微塵も無かった。
ちなみに、レイが料理を作っているので、肉ではなくシーフードのカレーだった。

「へえ、結構上手いじゃない。 レイが料理を作れるなんてね」

「でっしょぉぉ。いやーホントに助かってるのよ。レイ、いつでもシンちゃんのお嫁さんになれるわよ」

リツコが驚きの声を上げると、レイ本人よりも喜んでいるミサトが囃し立てる。
シンジはスプーンの動きを止めると俯く。何気に無表情の顔が紅く染まっているように見える。
レイは何事も無かったようにスプーンを口に運んでいるが、その頬はほのかに紅くなっているように見えた。

へえ、二人が照れるなんてね、結構いい雰囲気じゃない。
仲が悪いって訳じゃないのね。
案外、お互いに照れて話せないだけかも......。

二人がこんな反応を示すなんて......意外ね。
シンジ君だけじゃなく、あのレイまでとは......。
これは......。

二人の反応に、妙齢の美女達が、お互いに驚きの視線を見合わせる。
瞬間、頷きあう二人――

「レイ、カレーのおかわりお願いできるかしら」

「...はい」

「あ、シンちゃん。ビールもう一本お願いね」

「はい」

絶妙ともいえる見事な連携が繰り出され、シンジとレイは揃ってキッチンへと姿を消す。
二人が室内から居なくなったのを確認すると小声で囁きあう。

「何よミサト。仲好いじゃない」

「...うん。あんな反応を示すなんてね...意外だったわ」

「そ、そうね」

「「......」」

「確かにシンジ君、雰囲気が変わったわね」

「ええ、それにレイも...ね。今迄は少しくらいからかわれたって、表情一つ変えなかったもの」

「「......」」

二人の間に静かに沈黙が流れた。

今日、リツコが葛城邸に訪れたのには訳があった。
二人の仲が芳しくないと思ったミサトが、リツコを呼んで、急遽夕食会を開いたのだ。
リツコも二つ返事で承諾した。
ミサトは二人を心配して――
リツコは調査の為に――
思惑は違えども、二人ともレイとシンジの仲はあまり良好でないと思っていたので、この二人の反応に戸惑っているのだ。

「お待たせしました...赤木博士?」

「ミサトさん?」

難しい顔つきで黙り込んでいた二人に、揃って戻ってきた二人は不思議そうな表情を浮かべる。

「えっ!? あ、ありがとうレイ」

「あ、うん。シンちゃんもありがとう」

考え込んでいた二人は、互いに目を合わせると、薄く微笑み合う。
再び、楽しい夕食が再開された。

「二人とも、引っ越さなくて大丈夫? こんな、がさつな同居人の面倒を見て、大切な人生を無駄にする事はないわよ」

「何よぉ〜リツコ! こんな美女と暮らせるのよ、何の問題があるっての?」

「あら、家事もこなせない人が言うセリフじゃないわね、それ」

「人間の適応能力を侮ってはいけないわよ。それに、シンちゃんも料理作れないんだから......キチンとした生活習慣に食事は大切な事よ」

「......僕、料理できますけど」

シンジの呟きに驚くミサト。

「え!? シンちゃんって料理できるの?」

「...それなりには」

「へぇ、それじゃあ、今度はシンジ君の料理食べてみたいわね。ミサト......少しはシンジ君を見習って、料理くらい作れるようになったら?」

「がーーーん! シンちゃんのいけずぅ!」

楽しい夕食はそれからしばらく続くのだった――



翌日、シンジとレイは朝からNERVに向かっていた。
昨日の夕食の後、リツコからシンクロテストを行う旨を伝えられたからだった。
学校に行く時とは違い、今日は揃って行動していた。
だが二人に会話は無い。
レイの後ろを歩いていたシンジは、一人物思いに耽っていた。
シンジは記憶と違うレイの反応に、何を話しかければいいか分らなかった。それ以上に記憶のレイとの違いを不思議に思っていた。
この世界に戻ってきて、いつも思う事――レイの態度である。
繰り返してきた世界で、いつもレイは感情に乏しかった。
今回も表面的には変わっていないように思える。
だが、シンジは違和感を覚えている。
今まで自分の傍に居たレイではないような――そんな感じをシンジは受けていた。

『隠さんでもええて。 せやけど、綾波は人気があるさかいになぁ...競争率激しいで』

『ああ。最近は人付き合いが悪くなってるけど、以前はそうでもなかったからな』

昨日の体育の時間にトウジとケンスケから聞いた話が頭にリフレインされる。

本当に、僕の知ってる綾波なのだろうか?

その思ったとたんに、何とも言われぬ感覚がシンジを襲う。
恐怖にも似た感情がどんどん湧き上がってくる。
それが示しているものが何なのかシンジにもわからない。
シンジの性格上、落ち込んだり、悩んだりするのはごく日常的なことだった。
だが、今回の感覚は今までとは違っていた。

何を考えているんだ、僕は...。
そんな訳ないだろ。

自分の中で否定してみるが、出口は見えてこない。
考えれば考えるほど、シンジの思いは暗がりに迷い込んでいった。
認めたくない現実なのか。それとも、ただの妄想なのか。

『あんたバカァ! 考えても分かんない事は考えるだけ無駄でしょ』

頭の中で赤みがかった金髪の少女の声が思い出される。
悩んだ時にいつも思い出すのが、シンジの最近の癖だった。
いつも傍に居た少女――強気で自信に溢れていた少女。
優しく、愛に飢えていた少女。
そして――シンジにとって大切な女性。
シンジが深い思考の渦に飲まれそうになると、いつも思い出される声。
最近、シンジが過去に囚われなくなった理由でもあった。

また、頼っている......。
でも......そうだよね。 分かんなかったら聞けばいいんだよね。

心が軽くなった気がした。
思い切ってシンジは前を歩くレイに話しかける。

「ねぇ、綾波?」

「...何。碇君」

「綾波は...綾波......だよね?」

不思議そうに振り向くレイ。

「...なぜ...そんなことを言うの?」

「い、いや何となく...なんだけど......」

言葉に詰まるシンジ。
じっと見つめるレイ。

「私は綾波レイと呼ばれるもの......それ以外ではないわ」

そう告げると、前を向き再び歩みを進める。
シンジは一瞬硬直するも、急いで後を追った。
だがこの時、レイの後ろを歩くシンジは気付かなかった。
前を歩くレイの顔に悲しみが浮かんでいた事を――



「サードチルドレン、シンクロ率23%。ファーストチルドレンは42%です」

マヤが隣にいるリツコに告げる。

「相変わらず、シンクロ値が伸びないわね、シンジ君」

「そうね。レイも調子悪いようだしね...」

ポリポリとボールペンの先で頭を掻くミサト。
リツコも目頭を抑え揉みほぐす。

「ミサト。どうしたのよ二人とも。まあ、シンジ君は変わらないとしてもレイが安定しないなんて...何か変なもの食べさせたんじゃないでしょうね」

「失礼ね! 昨日は一緒のものを食べたでしょうが!」

「だとしたら、どうしたのかしらね。レイが安定し...」

ビィーッ、ビィーッ、ビィーッ

不意に、制御室の中に、警報が鳴り響いた。

「どうしたの! 日向君!?」

即座に軍人の顔になって問いかけるミサト

「未確認飛行物体が接近中です!」

「おそらく、第五の使徒だな」

「碇司令に冬月副指令!」

背後から聞こえた声に、ミサトが反応する。
背後の司令塔にゲンドウと冬月が姿を現す。
使徒の名が出たとたん、ざわめきが起こった制御室も、すでに緊張感に包まれている。

「総員、第一種戦闘配備」

ゲンドウが、いつものポーズのまま、低い声で呟いた。
ゲンドウの命令に即座に反応する職員達。
モニターに第5使徒ラミエルの姿が映し出されていた。

二人にも使徒襲来が告げられた。
モニターに映る二人は無表情のままだった。
いや、シンジの顔にはある種の覚悟の表情が見て取れる。

綾波を行かせる訳にはいかない。
加粒子砲の一撃があるんだ。
ATフィールドで弾き返せるとは思わないけど、何とか、僕だけ出撃しなくっちゃ。

「シンジ君、レイ。出撃よ。今回の作戦なんだけど...」

「...私に出撃させて下さい」

ミサトの声を遮って、レイの声がスピーカーから聞こえてきた。
リツコとミサトに驚きの表情が浮かぶ。
シンジも驚いていた。が、過去を知っている以上、どうあってもレイを出撃させるわけにはいかなかった。

「...僕が行きます」

再び聞こえてきた声に驚くリツコとミサト。

「ど、どうしたの二人とも...」

ミサトは、突然の事に戸惑いつつも、二人に声をかける。

「使徒がどんな攻撃をするか分からないんだったら、僕が様子を見に行きます」

「いえ、私に出撃させて下さい」

「綾波、やっぱり僕が行くよ」

「いいえ、私のほうが碇君よりシンクロ率が高いわ。私が行く」

「ちょ、ちょっとちょっと。落ち着きなさい二人とも」

発令所が戸惑いに包まれる。
通常なら戦意がある事を喜ぶべきだが、普段が普段の二人である。素直に喜べないものがあった。

「......どうする、碇」

冬月の言葉にも戸惑いが感じられる。

「初号機を出撃。零号機はいざという時の為、発進準備のままリフトで待機」

ゲンドウの落ち着いた声に発令所が落ち着きを取り戻した。



「エヴァ初号機発進!」

凛としたミサトの声が発令所に響く。
リフトが高速で上昇し、初号機が射出される。
突如、青葉の叫びが発令所に響いた。

「目標内部に高エネルギー反応!」

「なんですって!!」

「周円部を加速! 収束していきます!」

「まさか!?」

リツコが使徒の攻撃方法を予測し、驚きの声を上げる。
ミサトもモニターに映る使徒を見つめながら驚愕の表情を浮かべていた。

初号機が、地表に到達する。 同時にラミエルから加粒子が照射される。

「だめっ! シンジ君、よけてっ!!」

ミサトが叫ぶ。
しかし、避ける事が不可能である事を知っているシンジは目を瞑った。
神経を集中し、ATフィールドを発生させる。
が、ラミエルの加粒子砲の前では低いシンクロ率で張られたシンジのATフィールドは紙のようなものだった。
初号機のATフィールドを加粒子が貫いた――

Please Mail to 葵 薫
( aokao_sec@yahoo.co.jp )

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