『新世紀エヴァンゲリオン』〜 longing for different future 〜

〜第2章〜『家族の輪郭』 第11話 『アスカの心』



見慣れた天井――
シンジが気付いたのはいつもの病院――いつもの病室だった。
まだはっきりと覚醒しきれていないのか、ぼーっと天井を見ている。
どのくらい経っただろうか――不意に瞳に意思が戻った。
思考の復帰と共に現状を把握する事に成功すると、シンジは勢いよくと身体を起こそうとする。が、自らの身体に痛みを覚え、再びベッドへ身体を投げ出してしまう。
プシュっと音が聞こえ、扉から学生服姿のレイが入ってくる。

「......綾波?」

横たえていた身体を無理に起こそうとする。 
レイは静かに首を横に振りながら、そのままでいいとジェスチャーで押し止め、次いで同様の事を言葉でも伝えた。

「......そのまま...寝ていて」

レイが微笑む。
何故かその笑みに心が落ち着くような感覚を覚えた。
身体を動かすという事はシンジにとっても辛い所作なのだろう。レイの言葉に素直に従う。
レイが入室するのを待って、思い浮かんでいた質問を投げかけた。

「...使徒はどうなったの?」

「現在、自己修復中......当分は動けないわ」

「...そう」

安堵の息が漏れる。
どの位自分が眠っていたのかは分らないが、どうやら思ったほどに刻は流れていないらしかった。
安心感からか忘れていた痛みが戻ってきたかのように、シンジは顔を顰める。
レイは顔に悲しみの表情を浮かべながら言葉を紡ぐ。

「碇くん...当分は安静にしておくようにって......」

「えっ?」

「初号機は現在修復中...戦闘は無理。今回の使徒戦には間に合わないって...赤木博士がそう言ってたわ......」

「綾波?」

シンジは驚いた。レイは何を言っているんだろう。

「使徒は...私が倒す......。零号機の最終調整...終ったから」

「なっ」

「碇くんは......休んでいて」

「ダ、ダメだ......」

「なぜ?」

「.........」

シンジは答えに窮した。
何故――何がダメなのか――
レイを戦わせたくないと考えている自分に気付く。
それともアスカとのユニゾンの心配か。
どちらにしてもアスカ一人ではあの使徒――イスラフェルは倒せない。
自分が戦えないのであればレイが戦うしかない。
それが分かっているのに、どうしてそう思うのだろう。

「大丈夫...私は......死なないから...」

シンジは知らずに心配そうな表情を浮かべていたらしい。その表情にレイは笑顔を持って返答した。

「......」

シンジは何も言えなかった。
シンジの無言を承諾と取ったのかレイは扉を出て行こうとする。
無理しないでね。安静にしていて。色々な言葉が頭に浮かんでいたが、レイの口から漏れたのはたった一言の言葉だった。

「......じゃ」

レイの姿が消えてもシンジは扉を見つめていた。



3日がたった――が、3日前の見舞い以来、レイは姿を全く見せなかった。
アスカはというと一度も姿を現さない。

たぶんユニゾンの特訓が始まったんだ......。
きっと綾波が、僕の代わりにアスカと特訓しているんだ。

ユニゾン――二人の息をピッタリと合わせる特訓。
過去にもレイとアスカでペアを組んだ事がある。
その時の結果はギリギリの及第点――過去でユニゾンが上手くいったのは、あくまで使徒という共通の目的意識からだ。それでも危うかった――今回も上手くいくのか、どう転ぶかは分らない。
そもそもレイとアスカは仲が良い訳ではない――いや、逆にはっきりと仲が悪いと言える。お互いに反目していた節もある――あくまで今迄は――だ。 
過去でもこの時期にレイが葛城邸で暮らしていた事など一度もなかったのだ。
今現在の二人の関係がどうなっているのかなど無論シンジに分かるはずがない。

そんな状況で上手くいくのだろうか......。

今のアスカがレイの事をどう捉えているか――それが問題だった。
そもそもシンジ自身が、今生のアスカの事を分っていないのだ。
学校でも過去と違い、アスカがシンジに声をかけて来ることは少ない。
シンジ自身も、過去の二人の関係から、アスカに話しかける事に抵抗を感じていた。
何故、抵抗を感じるのか――それは前生にある。
幾度の生を繰り返しても、アスカとの関係は曖昧なままだった。 
そんな二人の関係に変化があったのが前生――シンジの態度が前向きであった事や、アスカ自身がシンジに片寄っていた事など色々な要因は重なっていたのだろうが、結果として前生で始めて二人は一線を越えた。
そしてあの悲劇が起きる――シンジにしてみれば、アスカにどう接すればいいのか分らないでいるのだ。
その結果、今生ではお互い相手を避けているという訳ではないが、話す機会が少ないといいう現状を生み出した。
過去の事で現状に変化が起きる訳ではないだろう――アスカに前生の記憶などないのだから。だが、それでもシンジはアスカに進んで話しかける事は出来なかった。



シンジは見舞いに来たミサトに無理を言って退院させてもらった。
ミサト曰く、シンジは怪我を完治させる為に今回の戦闘は本部待機。レイとアスカで戦闘するとの事だ。 
二人はシンジの思惑通り、ユニゾンの特訓をしているらしい。
珍しくもミサトの説明を、不承不承という感じで納得したシンジは、奇跡的な安全運転を行うミサトの車で帰路につくことになった。
そしてルノーがマンションに到着する。駐車場はマンション裏である。
いつもは直接駐車場に向かうミサトだったが、シンジの怪我を心配したのだろう、マンションの前にルノーを停車する。ミサトなりの配慮であった。
ミサトが優しく声をかけてくる。

「シンちゃんは先に降りて。私は車を止めてくるから」

「ありがとうございます、ミサトさん。でも、大丈夫ですよ」

「シンちゃん! いつも言ってるでしょ。家族なんだから遠慮する必要はないのよ」

怒り口調とは裏腹に、笑顔を浮かべ注意するミサトに、シンジも笑顔で謝罪した。

「そう...ですね。じゃ、先に行ってます」

助手席の扉が閉められ、ルノーが発進する。
駐車場に向かうルノーの車内では、ニタリ顔のミサトがいた。

「三日ぶりにレイとのご対面だもんねぇ。人生の先輩として、優しく見守ってあげましょ。 それにアスカもいるし......一波乱あったりして......キシシシシ......」

どうやら、心配とは別の感情もあるらしい。
シンジにはアスカの事は伝えていないのだ。
それがどんな結果になるのか、非常に楽しみなミサトだった。
が、すでにシンジが全てを理解しているとは思ってもいない――ミサトの思惑はこの時点ですでに完結していた。



一人で車を止めに行ったミサトを後に、シンジがマンション内に入る。

「シンジ!? シンジじゃないか!!」

エレベータ前にトウジとケンスケがいた。

「シンジどないしたんや、学校にも来んと」

「そうだよ。綾波も登校してないんだ。ネルフで何かあったのか?」

「おおぅ、そおや! 怪我でもしとるんちゃうかって心配したんやぞ」

機関銃のように矢つぎ早に問いかける二人に微笑みながら返答する。

「ありがとう。別に何でもないよ...ネルフの用事で学校に行けなかっただけだから」

落ち着いた声音で語るシンジに安心したのか二人に落ち着きが戻る。

「そ、そうか......何でもないならいいんだ」

「ほんま、無事でよかったわ。ま、元気が一番ちゅうこっちゃな」

チーンという音と共にエレベータの扉が開く。
3人は揃ってエレベータに乗り込んだ。

「で、心配して来てくれたんだ」

「ま、それもあるんやが」

ケンスケはガサガサと自分のカバンを漁るとプリントの山を取り出した。

「ほら、溜まってたプリント......これを届けにね」

「そうだったんだ、ありがとう」

「ええて、ええて。親友やろが」

親友...か...。

今生では過去ほど二人と会話をしている訳ではない。
まあそれでも、他のクラスメイトと比べると、格段と話はしているのだが...。
そんな二人が、自分の事を親友と呼んでくれる。
それはシンジにとって、心の底から嬉しい事であった。
エレベータが目的の階に到着する。
扉が開くと委員長――ヒカリがいた。
お互いに驚いた表情を浮かべる。
口を開いたのはトウジだった。

「なんや、いいんちょ。なんでココに居るんや」

「す、鈴原こそ......って、碇君! 大丈夫なの」

「えっ、何が?」

「だって、ずっと学校休んでいたから......」

トウジを見て頬を赤く染めるも束の間、エレベータ内から現れたシンジに気付くと声をかける。

「うん。ネルフの用事で行けなかっただけだから」

「そう。ならいいんだけど......」

「で、なんでココに委員長がいるんだ?」

ケンスケが不思議そうに首を傾げ、改めてヒカリに尋ねた。

「私は惣流さんと綾波さんに...」

話をしながら一行は廊下を進んでいく。と、1つの扉の前に辿り着く。
4人の足がその扉の前で一斉に止まった。
表札に書かれた苗字は葛城――

「「委員長、なんでここで止まるんだ(んや)?」」

「わ、私は学校で渡された住所のとおりに...」

ヒカリは訳が分からず戸惑いを隠せない。

「どうぞ」

シンジが苦笑しながら扉を開ける。

「ん!? ミサト?」

玄関の扉が開いた事に反応して、アスカがリビングから顔を覗かせた。後ろからレイが続く。トウジ達3人は、リビングから現れた2人の姿に唖然とした表情を浮かべる。
2人は全くの色違い――アスカが赤色、レイが水色のレオタードを纏っていた。
呆然と沈黙する他を横目に、シンジは微笑みながら2人に言葉を投げかけた。

「ただいま」

シンジを除く他と同じように、アスカとレイも揃って戸惑いの表情を浮かべていた。
アスカはみんなが揃って現れた事に――レイはシンジの姿に――
一瞬の沈黙の後、トウジとケンスケがハモリながら叫ぶ。

「「イヤーンな感じ!!」」

「ア、アスカ......いくら女の子同士でも......ふ、不潔よ!」

ヒカリの声がマンションに響き渡る。

「ヒ、ヒカリ...誤解よ! これは訓練の一環として......」

「ゴカイもロッカイも無いわ!」

慌ててアスカが説明しようとするが、ヒカリの耳には届かない。
ヒカリはイヤイヤをするかのように左右に首を振り続けた。
ケンスケが不信に思い問いかける。

「か、仮に訓練だったとしても、エヴァのパイロットでもない惣流がなんで訓練する必要があるんだ...って、ま、まさか......」

「そうよ! 私もエヴァのパイロットなのよ!」

「「なぁにぃぃぃぃ......」」

驚く、トウジとケンスケ。
ヒカリは未だに俯いたままブツブツと呟いている。

「シ、シンジ! これはどないなっとんねん!!」

「惣流が......エヴァの...パイロットぉ!? そ、そんな......」

トウジがシンジの洋服の襟を持ち、ガクガクと前後に揺らす。
ケンスケはと言うと、両膝を地面について頭を垂れうなだれている。水滴で地面が濡れていることから泣いているのかも知れない。何が悲しいのかは言わずと知れているだろう。
シンジは皆にどう説明しようかと頭を悩ませた。
不意に背後から声が聞こえてくる。実に楽しそうな声だ。

「あらぁ、なんか楽しそうねん♪」



葛城邸のリビングに笑い声が響き渡った。

「そやったらそうと、はよ説明してくれたらよかったのに」

「だから、そう言ったでしょ!」

腕組みをしたまま、ウンウンと首を縦に振るトウジに、首だけをこちらに向け、顰め面で食って掛かるアスカ。
ミサトの説明により納得した3人は、葛城邸に入り、テーブルを囲んでお茶を飲んでいた。
目の前にはダンスマシーンが置いてあり、レイとアスカが曲に合わせて、同じポーズで踊り続けている。

「それで、訓練の方は......うまくいってるようですね」

ヒカリが微笑みながらミサトに問いかけた。

「ま、最初の方はね......ただ...見てのとおり...」

ヒカリの問いに、ミサトは溜め息混じりに答えた。
規則正しい音が室内に響いている。

「?」

何も問題なさそうに踊る二人を見て、不思議そうな表情を浮かべるヒカリ達。
曲は中盤に差し掛かる。
と――
不意に音が外れた。
一度テンポが外れると修正が効かないかのように次々と音が外れていく。

「......な訳なのよね......これが......」

「「「な、なるほど...」」」

それぞれが額に冷や汗をかきながらしみじみ頷いた。
それほどにタイミングは酷くなっていく。
ついに我慢の限界か、ヘッドセットを床に投げつけるとアスカが叫ぶ。

「キィィィィ!! ファーースト! 何で、私に、合わせないのよ!」

癇癪を起こすアスカ。
それを見たトウジとケンスケがシンジに呟く。

「な、なぁ、惣流って......家じゃあんな感じなんか?」

「うぅぅ......イメージがぁ......」

「.........」

シンジは無表情のままレイとアスカを見ていた。

「ハァ......土台無理なのよ。ファーストが私に合わせるなんて」

「じゃぁ、試しにシンジ君にやってもらったらどうだ」

不意に扉から声が聞こえる。

「加持さん♪」「か、加持ぃぃぃ!」

真っ赤な顔と真っ青な顔。それぞれ相反する反応を返す2人。

「どぉもぉー」

軽いノリで右手を上げると加持が姿を現した。

「ち、ちょっとなんであんたがここに居るのよ!」

「いやぁ、一応は発案者として見学でもと思ってね」

青から赤に顔色を変えたミサトが詰め寄るが、相変わらず加持は飄々としたままだ。

「勝手に部屋に入るなんてどういう了見よ!」

「俺と葛城の仲じゃないか」

「ど、どんな仲なのよ!!」

「まぁまぁ......それより、シンジ君。試してみないかい?」

今だ噛み付いてくるミサトを軽くあしらうと、優しい眼差しでシンジを見つめる。
シンジは加持を一瞥すると、何か考えるかのように数テンポ間を置き、再び加持に視線を返し答えた。

「......わかりました」

「ちょっ...幾ら何でも初めてじゃ無理よ......それにシンちゃん怪我してるし......」

「大丈夫ですよ、ミサトさん」

心配そうにシンジに視線を送るミサトにケロッとした表情で答えるシンジ。

「ハ、ハン! 怪我人が無理するんじゃないわよ」

負い目がある為かアスカはシンジにきつく言えずにいた。が、シンジにはその仕草や言葉から、アスカが真に心配していることが分かっていたので微笑みながら言葉を返す。

「大丈夫だよ」

シンジの微笑みにアスカが戸惑うのがはっきり分かった。

「じゃあ、レイちゃんと試してみようか」

「な「わかりました」」

アスカの声を遮り、床に落ちていたヘッドセットを付けるとダンスゲームに向かう。
さすがのアスカもシンジを睨みつける。
だがシンジはそれに構わずレイを見る。レイもシンジ視線を返すとお互い頷きあう。
曲が流れ始める――
規則正しい音がリビングに響く。

「綺麗...」

「ピッタリだ......」

「ほぉー。シンジもやるやないか」

それぞれ驚きの声を上げる。

「なっ......」

アスカの顔に動揺が走る。

「これはシンちゃんとレイで行ったほうがいいかもね」

「なっ......そんな......も、もう......やってらんないわよ!」

勢いよく扉を開けると、玄関から飛び出していくアスカ。
その瞳には涙が浮かんでいた。
無表情でそれを見つめるシンジとレイ。

「いぃ〜かぁ〜りぃ〜くぅ〜ん! 女の子を泣かせたのよ! アスカを追いかけなさいよ!」

ヒカリがシンジに詰め寄る。
だが、シンジは落ち着いた様子で加持に視線を送る。ゆっくりと首を縦に振る加持。
シンジは加持に頷き返すと玄関に向かって駆け出した。
レイはそれを悲しそうな顔で見送っていた。
玄関を潜り渡り廊下に出たシンジは今までの記憶を呼び起こす。

アスカが行った場所はたしか...。

シンジは納得したかのように一つ頷くと、アスカを追いかけてマンションを飛び出した。



コンビニ――ジュースが並んでいる棚の前にアスカはいた。
無表情のままアスカに声をかけるシンジ。

「...アスカ」

「人の名前を気安く呼ばないでよ!」

怒鳴るアスカだったが、その表情は沈んでいた。

「......」

「わかってる......私は、エヴァに乗るしかないのよ...」

沈黙するシンジに重々しい声でアスカが呟く。
その言葉にシンジは瞬間眉を寄せる。そして目を瞑ると言葉を紡いだ。

「...そんなこと無い」

シンジの声音に驚いたのかアスカが振り返る。
アスカはシンジの浮かべる表情に、戸惑い気に呟く事しか出来なかった。

「サードチルドレン......」

シンジはその面に柔和な表情を浮かべると、アスカに優しく語りかけた。

「そんなこと無いよ...アスカ。エヴァに乗るだけがアスカじゃない。乗っていても、いなくてもアスカはアスカだと僕は思う」

「サー「シンジ、僕は碇シンジだよ」」

「う、うるさい。アンタに何がわかるのよ」

「わからない...僕はアスカじゃないから......でも、これだけは言える。洞木さんもトウジもケンスケも、それに...クラスのみんなも、『セカンドチルドレン』じゃない...一人の女性である『惣流・アスカ・ラングレー』と接している...もちろん...僕も......」

「.........」

「『エヴァに乗ってるアスカ』じゃなくて、『アスカがエヴァに乗ってる』だけなんだよ......もっと、肩の力を抜いてもいいと思う」

「......」

「アスカ...君は凄いよ。僕よりもずっと凄い。でも、僕だって少しはアスカの力になれるはず...いや、なってみせるよ。だから、自分一人で全てを背負い込もうとしないで。少しは僕にも背負わせてよ...」

そっぽを向き、少し顔を赤らめながらアスカが答える。

「フ、フン......アンタに慰められるなんて私も終わってるわね」

「......」

「だいたい、私がいつ呼び捨てにしていいって言ったのよ!」

「ご、ごめん」

「謝るくらいなら最初から呼ぶな!」

シンジを睨みながら立ち上がるアスカ。その瞳には強い意思が宿っていた。

「行くわよ......シ、シンジ!」

アスカの戸惑いを含んだ声にシンジは苦笑すると、駆け出したアスカを追うようにコンビニを後にした。



高台の公園――その公園に備え付けられている石椅子の上に立ち、サンドイッチを摘まみながらシンジに話しかける。

「こうなったらファーストやミサトを見返してやる...傷つけられたプライドは十ぅぅぅ倍にして返してやるんだから」

不意に背後から女の声がする。

「そう...なら、私も負けない......」

レイが公園の入り口から歩み寄って来ていた。

「ファ、ファースト! ......フン!! 言ってくれるじゃないの......なら、勝負よ!」

レイに告げるとアスカは石椅子から飛び降り、マンションに向かって悠然と歩き出す。
そんなアスカに、シンジとレイは顔を合わせると苦笑を交わすのだった。

「あんたら、何ぼさっとしてんのよ! さっさと来なさい!」

2人は頷き合うとアスカに向かって歩き出した。



戻ってきた3人を心配そうなミサトと、微かな驚きを瞳に宿した加持が出迎えた。
トウジ達はすでに帰宅していた。

「ファースト、さっさと始めるわよ! シンジも本気になった私をよーく見てなさい!」

「......わかったわ」「...うん」

ミサトは家を飛び出す前とあまりに違う雰囲気の3人を、目を瞬かせながら眺めた。

「...あの子達...どうなってんのよ?」

怪訝そうな顔で問いかけるミサトに苦笑しながら加持が答える。

「さてね......だが、いい雰囲気だ」

アスカを立ち直らせるか......。
だが、その結果が自分にも返って来ているって事に気付いているかい...シンジ君......。

温和な視線でシンジを見る加持。
踊っている2人を見るシンジの顔はどこか幸せそうに微笑んでいた。
曲が終わる――
踊り終わると2人は、すぐさま表示板に視線を集める。
そこには今までで最高の点数が表示されていた。

「どう! ミサト」

ミサトはあまりの変わりようにしばし驚き、その後、面に満足な笑みを浮かべ、グッと親指を立てる。

「よかったぞ、アスカ。それにレイちゃん」

「ホント、ビックリしたよ」

男性陣の賞賛の声に胸を張り、いつものポーズで答える。

「ま、本気になった私の前では、こんなダンスくらい軽い軽い」

「......まだ、ピッタリ息が合ってないわ......それに、まだ合格点には達していない......」

「!! わかってるわよ! ファースト、練習続けるわよ!」

「......準備......とっくに出来てるわ......」

冷静に切り返すレイに青筋を浮かべながら怒鳴り返すアスカ。

「キィィィィ! いちいち、うっさいわねぇ!」

「ま、まぁ...アスカ、落ち着いて......取りあえず今日はここまでにしましょ。よくやったわ二人とも。 夕食にするから二人とも着替えてらっしゃい」

すかさず、フォローを入れるミサト。

「はぁ〜い」「......はい」

「はぁぁぁぁ......せっかく仲良くなったと思ったのにぃ......」

ミサトはリビングから退出した2人を見ながら、肩を落とし溜め息を漏らすのだった。
出て行った2人を見ていたシンジは、ふとした疑問をミサトに投げかける。

「ミサトさん、着替えって言ってましたけど、二人はどこに住んでるんですか? ここじゃ部屋が足りませんよ?」

このマンションの間取りは3LDK。当然4人で暮らすには部屋数が足りない。
シンジは過去を思い出した。

そういや、4人で暮らした時もあったっけ......。
その時は...たしか、綾波はミサトさんの部屋で寝泊りしていたよな。

マンションの両隣にレイとアスカの2人が引っ越してきたこともあった。
過去に思いを馳せていると、まじめな顔をしたミサトがシンジを覗き込んでいる。

「!? ......ミサトさん...どうしたんですか?」

ミサトはシンジの目の前で手を合わせると、急に表情を崩す。

「ゴミン...シンちゃん」

「ハ...ハイ?」

「...シンちゃんの荷物...隣の部屋に移しちゃった...テヘッ♪」

「は!?」

「だって、退院するなんて思ってなかったんだもん...」

「おいおい葛城...それはさすがに......」

加持が呆れた顔で呟く。

「そ、その、ユニゾンの間だけのつもりだったし...入院してたから......」

一生懸命に言い訳する。 助け舟はシンジ自らが出した。

「...いいですよ。隣の部屋に越しただけだし......」

「ホ、ホントに! ゴメンね...シンちゃん」

本当にすまなさそうに誤るミサト。

「その代わり、アスカをこのままここに住まわせてもらえませんか?」

「ハ、ハイ?」

目を丸くするミサト。

「...一人は寂しいですよ。アスカも綾波も......大事な仲間ですから......」

そう言いながら悲しそうな表情を浮かべるシンジにミサトは微かに驚いた後、満面の笑顔を浮かべ、嬉しそうに返事をする。

「わかったわ...このミサトさんに任せておきなさい!」

シンジもつられて笑顔を浮かべながら頷く。
そんなシンジを見ながら加持は過去のやり取りを思い出していた。

アスカの事、よく理解している......なるほど...どうやら疑う必要はないようだな......。

シンジの態度に加持が満足げに頷く。
アスカとレイが着替えてきたのを確認し、一同は夕食の準備に取り掛かった。
ミサトがカレーを作ろうと言い出したのを除けばごく普通の日常だった。
その後、ユニゾンを完成させたアスカとレイは、シンジの過去の記憶を越えるユニゾンで使徒の殲滅に成功した。


Please Mail to 葵 薫
( aokao_sec@yahoo.co.jp )

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