僕は爆風で窓が抜けた綾波の部屋で13回目の夜を迎えていた。

 たぶん、サードインパクトと呼ばれる物から2週間アスカとはあの海岸から少し入った廃墟で別れた。彼女は松代に向かった。松代のMAGIに真相を聞きに・・・・
 
 僕たちが気が付いた海岸は新横須賀の内陸、昔小田原と呼ばれた海岸だった。

 僕は、第三東京市が見たかった。たぶん破壊されていると思うけれど、それを見ないと、次に進めない、僕はそう思った。
 廃墟で拾った、マウンテンバイクで、第三東京市を望む、外輪山に着いた時、僕は、アスカの向かった松代に行こうかと思った。第三東京市の跡地には、ジオフロントが抜け落ちた、クレーターがぽっかり開いていた、昔の芦ノ湖の面影はもう無かった。巨大な円形のクレーターの下の方は既に埋まっていた、わずかに開いた隙間から、太平洋の水が流れ込んでいる最中だった。

 ここに来る途中の町は、爆風でなぎ倒されたような状態で人の気配はまったくしなかった、救援のヘリコプターも、飛行機も飛ばなかった。

 人の気配が全く無い廃墟・・・・そして、たどりついたの巨大なクレーターの淵・・・・

 何も無くなった第三東京市・・・・のはずだった。・・・・

 第三東京市の中心部は、地殻ごと丸ごと無いが、郊外の外れの方に、いくつか何か光っているような物が点在しているのが見えた。

 何かに突き動かされるように僕はその僅かに残った、第三東京市の破片に向かって外輪山を降りていった。

 
 
 それは、忽然と・・・そして、何も無かったように存在した・・・・・・

 綾波のアパート・・・・・


新世紀エヴァンゲリオン勝手なSS

「もう一つの人類補完計画」 その1
「墓所のある場所」


 そして、それは何も無かったように・・・鍵が開いていた。


 僕は、何も無くなった第三東京市を確認して、それが悪夢だったと結論し、居なくなった人々・・・・綾波・・・・・ミサトさん・・・・父さん・・・・・本当に全てが失われたのか?、あれは現実だったのか?、これからどうしようか考える気でここに来た。

 しかし、そこには、綾波の匂いが残っていた。


 何日かそこで過ごしていく中で・・・父さんがなぜ、母の物を全て捨てたのか解った気がした。

 父さんのメガネや、リツコさんの書いた、薬品袋、綾波の服、・・・そして、僕の握っていた、ミサトさんの十字架・・・今綾波のチェストの上に並べられ・・・・それは、お墓のように感じた。

 
 悪夢のようだったけれど、何か淡い物もあった・・・・NERVでの日々・・・・・居なくなってしまった人への思い、綾波の匂いが消えていく・・・・そろそろ2週間になる・・・・

 僕は漠然と、思い出をめぐらせながら・・・そろそろ松代に行って、アスカと会って、これからどうするか話をしようと思っていた。聡明な彼女なら、きっと何か道を示してくれるだろうと・・・・

 「明日の明け方暑くならない内に、松代に向かおう、一番暑い昼すぎ前に、外輪を越えよう。」

 この綾波の部屋・・・・僕の知っていた人の墓所・・・そこから立ち去ろうと決めていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


コンコン・・・・・・コンコン・・・・・


ドアをノックする音・・・

 人がここに来るなどと言う事は全く考えていなかった僕は、ベットから転がり落ちた・・・
夢の中かと思った。
  コンビニの廃墟に落ちていたような食料で過ごした、ここ数日が、僕の体力を奪っていた。

コンコン・・・・コンコン・・・・


「誰!」


コンコン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

何も帰って来なかった。

「誰?」

 声は出たが、半分は自問だった・・・夢では無い。
 
 誰か生きてる・・・・アスカ?・・・・でもアスカは、綾波の部屋を知らない・・・・明かりもつかないこの町の廃墟で、この時間にここに人が居るなど解るはずも無かった。

 ここを知っている人・・・・・綾波?・・・・・

 僕は、なんとか玄関までたどりついた。

 ドアの覗き穴から覗いた・・・





 「戦略自衛隊・・・・・・」

 なぜ?・・・・なぜ、こんな場所、こんな時間にここに来る、それもたぶん、戦略自衛隊の仕官の制服。
 NERVでの最後の戦いが思い出された。非戦闘員を射殺する戦略自衛隊の兵士が思い出された。第二東京とかのシェルターが生き残ったのだろうか?
 だとすれば、僕と、アスカの二人だけの世界では無い・・・・嬉しい気持ちも沸いてきた。
 不安、喜び、それが綯交ぜになって、ドアの鍵を開けるのを躊躇させた。

コンコン・・・・・

 ここは、自分の気持ちの墓場・・・そこに人が入って来るのは嫌だった・・・たとえそれが、アスカだったとしても、この気持ちを全部封印して、アスカに会おうと思っていた。
 他人などに、この自分の思い出に土足で入られるのは嫌だった。



 ベランダから逃げる・・・・ふっと頭にそれが浮かんだ・・・・同時に、ベランダに出た瞬間蜂の巣にされる自分が浮かんだ・・・相手は、戦略自衛隊なのだ・・・・ネルフの壁に出来た、血の模様が頭を過ぎった。
 
 明日ここから出て行く途中で出会ったなら、そのまま拘束されるのでも良かった。
 でも、ここだけは踏み荒らして欲しくなかった。

 自分が生活していた事で、綾波の匂いは薄れてしまったが、そこには綾波が有るから・・・・やっとの思いで、そこからの決別を決めた夜に、なぜこんな事が起こるのだろう・・・・僕は、自分を呪った。・・・・「僕はいつも、大事な事に遅れるんだ・・・」・・・・二番目の綾波が自爆した時、アスカが精神崩壊した時、サードインパクトで人々がLCLになった時、自分がいつも間に合わなかった。
 僕が、自分の中の答えを見つけた時はいつも遅い、結局、誰かに殴られて・・それからやっと自分のするべき事に気付く・・・・サードインパクトの時、ケージでたたずんで居る僕は、母さんに叩かれた気がしてやっとエヴァに乗った。それでも、皆を助けるには手遅れだったんだ。
 僕の決断はいつも遅い、そして誰かが押してくれなければ先に進めない。


コンコン・・・・・・・・・

 辛抱強くノックは続く・・・・


 そのノックが・・・・僕の気持ちを押した・・・・何かの可能性を見るには、自分で扉を開けなければいけない。・・・・・その瞬間自分が死ぬ時だったとしても・・・・・ドアのロックを外した時、何か全て解ったような気がした。開けた瞬間射殺されるかも知れない・・・でもそれでもいい、世界が終わったんじゃ無いって事が解るから。ある意味この墓所、綾波の場所で死ねるなら、それはそれでいい・・・そう思った瞬間、父の顔が目に浮かんだ・・・・もしかすると、「そうゆう事」なのかも知れないね・・父さん・・・・

 ガチャん・・・・・

 ドアを開くためにドアノブを回した・・・そしてドアを押し開ける。















 え?・・・・・・


 「あ・・・・・・」
 言葉にならない、涙が出るのが解る・・・・一瞬が、何分にも感じた・・・・涙の出る体の仕組みが解るようなスローモーションの感覚がする・・・・





 「ただいま」

 「や・・・・な・・・・・み」
 自分の口が自由に動かない。

 視線がぼやけて・・・・そして真っ暗になっていく・・・・・死ぬのかな・・・・彼女が僕を呼びに来たのかな・・・・それでもいい。そうゆう終わり方ならこの場所が相応しい・・・・思い出の締めくくりには悪いシュチュエーションじゃ無い。そんな馬鹿な事を思いながら・・・・僕の意識はブラックアウトしていった。

「おかえり」

 真っ暗になる意識の途中で、僕の口が勝手に答えたような気がした。






Please Mail to Eva
( eva@d-shell.info )

Back to INEDX NEXT
inserted by FC2 system