涙流れて−As tears go by−

 

それは夕暮れ時のこと

 

二人は幸せだった 支え合う すべは多くなくとも
人口の激減 社会基盤の激変
二人 レイ と シンジ は 結ばれていた
「綾波」 と 「碇」 のままではあったけれど

 

座って童の遊ぶを見つめ

 

子供はいない 町はずれの 急ごしらえの 公園
「綾波が 溶けていっちゃいそうだ」
まもるべきものを ためらわず 抱きしめることのできるようになった
青年は 強く 折れそうな肩を抱きよせ しかし 涙をこらえた
無言で 彼女は身をあずけると 紅い瞳から 

 

ただ 涙流れて

 

「時が 止まればいいのに」
「碇君が 望むのなら」

 

だから 時は流れた

 

碇シンジは 齢を重ね 世を去った

 

たくさんの記憶 名前をたった一人あげるだけでも...
次から次へと 溢れ出し 「私」が溶けてしまいそうになるので

 

綾波レイは 時を止めた

 

幾世代もが過ぎた ネルフ エヴァ 全てが忘れられた

 

人類のありようは 補完されぬまま 姿を変えていった

 

綾波レイは しかし 想いを抱き続けた 何も忘れはしなかった 何も
「私 いい奥さんだったかな」
新たな氷河期を迎え かつて第三新東京市とよばれた廃墟で
何千年かぶりに ATフィールドを 外部に解放する ほのかに
ホログラフの中に
エヴァパイロットであり
2年A組のクラスメートであり
愛し合い
死を看取るまで いたわり合った
碇シンジの笑顔が 浮かんでは消えた

 

涙が頬を伝った
「うれしくても 泣くことがあるの あの人が 教えてくれたこと」
異様な進化をとげた 精神感応力をもつ ポスト・ヒューマンたちと
過ぎた日を語り合った

 

たくさんの記憶 名前をたった一人あげるだけでも...

 

太陽系が滅びるときも
スーパーノヴァの風を うすい 水色の髪にうけて
彼女 綾波レイは 思い出を抱きしめた
「碇くんと 一つになってる」
星系の崩壊も 熱い抱擁の想いを よびさます

 

 

時の終わり 宇宙の終わり 僅かだけ 少女は不安になる
収束
光波の反転
「あれは 初号機?」
刹那 想いが堰を切ったように 溢れ出す
「...いいのね?」
細い両肩を 独りかき抱く 虚空のレダ

 

 

それは夕暮れ時のこと

 

 

全てが収束し たそがれに還る 絶対の虚無

 

 

...無...

 

 

... ...

 

 

...

 

 

..

 

 

 

 

「さびしい」

 

 

ただ 涙流れて

 

 

もしも 二人 逢えたことに 意味があるなら

 

 

 

 

..

 

 

...!!

 

 

「碇くん?」
「綾波!」

 

 

そして 再び ビッグ・バンが
少女と少年の出会いをめざして

 

 

ただ ひたすら それだけのために

 

 

--Juli 31, 2000


<あとがき>

はじめまして。「綾波展」でふれることのできた素晴らしい作品を読んで
想いがふくらみ、文章になってしまいました。夏映画から3年もたって、
初めて書いたエヴァFFです。題名はバレバレにローリング・ストーンズ
の曲からです。お便りお待ちしています。
        


■By Hoffnung

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