Eva -- Frame by Frame --

 

<第16話 知に至る病、あるいは>

 

「これは...プロの仕業ね」

 葛城家の主が大げさな表情を作って言った。

 朝の味噌汁といえども、ダシにこだわり、水にこだわり、具にこだわり、味噌にこだわり(以下省略)、さすれば甚だ美味なるものができあがる。シンジの気づかいの細やかさと、レイの精確な動作が合わさってできた逸品だった。

 ダシは赤木博士の差し入れ。水はセキュリティ上の理由もあって、ボトル詰めの富士の名水を使用。とはいえミサトにとっては、朝のビールがより美味になったということが何よりの重大事なのではあった。

 

***

 

 アスカは今日も不機嫌だった。

 最近、ミサトがシンジに甘すぎる、ということもある。加持とヨリがもどって余裕ができたのかもしれないが、幸せをふりまくような態度は鼻につく。

 人の幸せを嫉むような下らない人間にはなりたくない。同居する二人のチルドレンも、好きにすればいい。お子様に興味はない。

 シンクロテストを上がり、シャワールームで体をざっと流す。

 今日は二日目。

(は〜い!ゆーあーなんばーわん!)

 冗談じゃない。

 

***

 

 シンクロテストを上がって、シンジはラウンジでレイが着替えて出てくるのを待っていた。

「よっ!」

 ぽん、と肩をたたいたのは加持だった。

 ほんとに、どこからともなく現れる人だな−−自販機で買ったお茶を開けながらシンジは思った。

「出待ちってやつかい?」

「ええ、まあ」

 それから、とりとめもない話が続いた。それでも、たぶん加持さんのことだから、僕のようすから、何かを読みとっているんだろう−−シンジは想像した。忘れられないのは、いきなり出てきた、加持の言葉。

「戦士に大切なこと、分かるかな?」

「えっ?」

 シンジは言葉に詰まった。加持は無言でシンジに目線を返した。

「命がけで闘って...敵を倒す...ことですか?」

「違うな」

「はぁ?」

「命がけ、っていうのは、そんなに難しいことじゃないんだ。道路を渡る。これだって命がけだろ?葛城の料理を食する、これまた命がけだ。人間てのは、実は毎日毎日を命がけで生きているのさ」

「そういえば、そうですね」

 アスカの地雷を踏まないことも、確かに命がけだよね、そうシンジは思い、表情を緩めた。

「大切なのは、そうだな、何というか...命を惜しむことだ。山で遭難したら、何としてでも生きて帰りたいと願うだろう?戦場だって、同じなんだよ。誰かのために死んでやろう、なんて絶対に思っちゃだめだ。そんな安物のヒロイズムで君を失ったりしたら、彼女だって...」

 そう言いかけたところで、服を着替えたレイがあらわれた。

「ま、そういうことさ。そうそう、二人きりになりたければ、おれがいつでも葛城とアスカを連れ出すからな。何なら夜通しだっていいぞ!」

 会話はそこで終わった。

 加持さんの言っていることは、確かにもっともだ。だけど、なんであんなことを突然、言ったんだろう?今日、シンクロ率で初めてアスカを抜いたから、調子に乗らないように忠告したかった?いや、そんな簡単なことではないのだろう。ひょっとして、ミサトさんがこの間言っていた、「時間がない」という言葉と、関連がある?悪戯っぽい謎かけからは、かえって深刻な感じがした。

 あの加持さんでも、焦ることがあるのだろうか。

 

***

 

「次は誠晶鹿瀬、次は誠晶鹿瀬。古本、中古ソフトの店」

 市の中心部を出ると、樹々が豊かになり、夕暮れを過ぎれば闇の量感が増す。アスカは先に一人で帰ってしまった。

 でも、どこかに寄り道してるんだろうな。晩の献立は−−

「今日はわたしが作るわ」

 ぽつりとレイが言った。シンジは思っていることがぴったり重なったことに驚き、返事が遅れる。

「だめ?」

 レイはシンジの顔を少し不安げなようすでのぞきこんだ。

「い、いや、そんなことないよ!でも僕もいつでも手伝うから」

 するとシンジの弾けたような声を聞いてか、バスの前のほうの座席にいる子供が振り返り、小声で笑った。小学校の高学年だろう。子供は姿勢をもどすと、隣にいるポニーテールの少女に話しかけ、シンジたちのいるほうを指差したところで、彼女にたしなめられて、大人しくなった。

 姉弟かな−−シンジは思う。

(あなたが守った街よ)

 いつか聞いたミサトの言葉がよみがえる。

 今も、人類を救う任務についている、という感覚には正直なれない。だけど、宵闇を走るバスの中の、小さな風景−−姉と弟、ぼんやりと窓の外を見る初老の男、大きな買い物袋をもったOL、そしてその中にいる僕達ふたり−−これはとても貴重なものに思える。

 シンジは拳を握っては開く、いつの間にかくせになった動作を知らずのうちにくり返していた。

「よし」

 

***

 

 その物体は突如として第三新東京市の上空に現れた。

「西区の住民避難、あと5分かかります」

「目標は微速進行中、毎時2. 5キロ」

 パターンオレンジ。それが日向マコトの報告だった。高層ビル群の上に静止する巨大な球体。ゼブラ模様の球体は、形態を変えることもなく、一点にとどまり続けた。球体は、兵装ビルの立ち並ぶ位置よりもやや上方に位置していたが、ビルのガラス面にその黒白模様の姿が映し出されることはなかった。

「新種の使徒?」

 リツコが尋ねる。

「マギは判断を保留しています」 

 マヤが眉間をくもらせて答えた。

 

***

 

 その少し前、市内の一角に店をかまえる主人は奇妙なものを見た。

 照りつける夏の日ざしが陰る。はぐれ雲か?そう思った直後、店の前に停まっていた自動車が、ぐにゃりと歪むようにアスファルトの中に沈んでいった。同時に、主人は平衡感覚をなくし、床に倒れこむ。棚にきれいに並べてあった商品も崩れ落ちるが、彼の足元に落ちて嫌な音をたてるはずの品物たちは、そのまま無限の闇に吸い込まれていった。周囲の何もかもが折り畳まれるように、今や漆黒の闇と化した床面へと崩落している。

 直後、店主は奇妙な浮遊感をおぼえる。それは重力方向への沈下ではないように思われた。その時になって、真の恐怖が彼の中に生じた。叫び、もがき出ようと脳が指令を出すが、手足からは何のフィードバックもなかった。

 ヒトとしての意識は、その時で途切れた。

 

***

 

 再び発現した使徒の中、確率の「泡」が激しく沸騰した。

 現在の時と過去の時は、ともに未来の時に存在し、

 未来の時は過去の時に包含される。

 

母さん?

もう、いいの?

 

 確率は情報。自己組織化された生体情報は意識。あるいは記憶。

 薄い膜が破れるように、事象の刻印が浮上する。

 

......

 

 死。再生。還るべき処。

 

そう、よかったわね

ただ...会いたかったんだ...もう一度

帰りたかったんだ

 

 どこへ?

 使徒は惑乱する。

 あの時、「母胎」の中には、もう一つの意識があった。存在様態−−「書物」に触れた、かの中世の賢者ならばmodi essendiと呼んだだろう−−は異なっていても、同胞の波動がわずかにあったのだ。

 あれは、何だ?

 使徒の中で、かの存在が鮮烈に指向された。

 知りたい。

 

***

 

「もう、こんな時に碇司令はいないのよね」

 総司令はドイツに出張中。S2機関についての理論上の細部がかの地で詰められ、エヴァのコアパーツに実装を行う段階になっていた。副司令・冬月はアメリカで行われる起動実験の技術顧問として−−そしてその背後ではエヴァ伍号機以降の建造計画における彼らの独断専行をはばむべく−−北米大陸に出向いていた。

 だが、ミサトのぼやきをよそに、エヴァ三機はすばやく散開する。目標の動きもなく、攻撃方法もわからぬ現在、要塞都市はただ静かに、エヴァの盾の役目を果たすのみに甘んじるほかなかった。

 初号機のアンビリカルケーブルには、まだ余裕がある。

「行くよ!」

「弐号機バックアップ」

「零号機もバックアップに回ります」

 アスカの気分はかなり悪い。しかし、目標との距離を考えれば、現下の状況で、初号機の先行は合理的判断と思えた。

 シンジは慎重にゼブラ模様の球体に狙いを定めると、続けざまに三発、発射した。直後、流れるように移動し、幾重もの遮蔽物に守られたスペースに身をひそめる。だが、目標は次の瞬間、姿を消していた。

 反撃が、来ない?

 その時、警報信号がはいった。視界の左隅、ワイプで前方の拡大映像が入る。

(民間人?!)

 一瞬、シンジの中でフラッシュバックが起きる。あのポニーテールは?

 昨日、バスの中で見た女の子だ。いっしょにいる男の子は知らない。二人は...シェルターに逃げ遅れた?

 シンジは一歩、踏み出した。すると、その先に突如としてアスファルトが液状化したような、タール色の闇が出現する。何?と思った瞬間、最高レベルの警報信号が悲鳴をあげる。

「この、バカ!」

 アスカの怒声とともに初号機は姿勢を崩し、数歩下がった。いつの間に距離を詰めたか、弐号機が後ろからアンビリカルケーブルを強引に引いたのだった。

 プラグ内のスクリーンの一角には、恐るべき光景が展開していた。初号機が足を踏み出そうとした、まさにその場所に現出した底の知れぬ影。スピーカからは、パターン青を告げる声がひびく。

 

(...!...)

 

 まるで、スローモーションでも見るようだった。二人の制服姿の子供は、何が起きたのか気づく間もなく、磨きあげた黒曜石のような闇の中に没していった。シンジは鋭い叫び声をあげるが、その声は届くことなく、白いシャツ姿はやがて見えなくなっていった。

 

 上空に、ゼブラ模様の球体が再び姿を見せる。ネルフの作戦部は、またしても信じがたい現実を突きつけられていた。

「パターン青からオレンジへ遷移しています。マギの答えは...解析不能」

「エヴァ全機退避!みんな、下がって!」

「でも、人が中に!」

 守るって、決めたのに。

「ミサトさん!」

 シンジは抵抗する。

「命令よ。下がりなさい」

「退避よ、バカシンジ!」

 アスカが押し殺した声で言う。そんな、と訴えようとするシンジに、レイからの通信が入った。

「あの人たちは、もう助からないわ」

 それはいつもと変わらぬ静かな声だったが、ひどく沈んだ音調をおびていた。

 

 逆行した使徒は、還るべき母胎と同じ波動を送る三体の巨人の存在を知覚したが、その中の一体に触れようとする寸前、「中」に沈んできた二つの微弱な存在を感知し、動きを止めた。それはかつて発現した時に検出した「同胞」と同じ様態の存在だった。

 自我境界の喪失した二つの意識−−互いに想い合う少女と少年−−は、ためらいがちに相互浸透を始め、やがてその波動は使徒の内面に小さな波紋となって広がっていった。それは至福のケミカル・ウェディング。

 そのまま、水銀の使徒は静止した。中天からやや傾いた日ざしが鮮やかな光を投げかけるが、使徒は都市の一角を暗く切り抜いたまま動かず、太陽と戦慄だけが濃度を高めながら過ぎていった。

 

***

 

 使徒と相応の距離をとり、兵装ビルの中ほどにブリッジ状の足場を組んで地面からの距離も確保すると、エヴァ三機は待機モードに入った。

 「本体」の真上に浮かぶ球体に目をやりながら、シンジは時間差でやってきた激しい恐慌に体を震わせていた。

(あの時、アスカが引っ張らなければ)

 あるいは−−

(あの二人が犠牲にならなければ)

 漆黒の闇に沈んでいたのは、この自分だっただろう。

 震えが止まらない。温度調節のいきとどいたプラグ内なのに、歯の根が合わず、カチカチと当たっている。これまでの使徒戦を振り返れば、何の余裕もなく戦闘に飛び込むか、明確に決められた作戦の遂行の、どちらかだった。だが今は、対処のしようの全くない敵と、内省できるだけの時間をおいて直面しているのだ。

 今やシンジは本当の恐怖というものを経験していた。

 自分と変わらぬ年頃の人間が使徒に飲み込まれるのを前にして、シンジも飛び込んで助けようとしたのは事実だ。だが、蛮勇をふるったところで、何もできなかっただろう。目の前で使徒に飲み込まれていった白い制服姿が、二度、三度と鮮烈によみがえる。 

 シンジはきつく目を閉じた。

(綾波...)

 レイの細い肩を抱き寄せ、彼女の温もりを感じたい。甘えなどというコトバも、ただのきれいごとだ。

 ただ彼女が欲しい。恐怖から逃げるために。

 

***

 

 使徒は咀嚼していた。

 おのれの「中」にあるモノたちの意識−−あるいは星の数よりも多くの神経組織の結合パターン−−が解きほぐされ、また絡み合っていく。

 

「直径680m、厚さ約3ナノメートルの影。

それが使徒の本体。その極薄の空間を向きの

ATフィールドで支え、内部はディラックの

海と呼ばれる虚数空間。たぶん、別の宇宙に

つながっているんじゃないかしら」

 

 使徒の表面が、何かを思い出したように、ゆったりと波打った。その鏡のような面には位相の変化が生じ、反射された光が走り去った。

 

「あの球体は?」

「本体の虚数回路が閉じれば、消えてしまう。

上空の物体こそ<影>にすぎないわ」

 

 その時、使徒の直下のシェルターに永遠の夜の帳がおり、千を越える人々が一瞬のうちに消失していた。

 

***

 

「西のC-32シェルターが...消滅しました」

 青葉が報告する。何が起こったのか、理解するにはしばしの時が必要だった。

「どうなってるの?!」

 ミサトが叫ぶ。だが、技術部長はいっさい答えず、端末上に流れ去る計算式を酷薄ともいうべき表情で見送っていた。

「通信、送電、その他すべてのシステムがC-32区画のみ、切り取られたように消滅しています。その間のいっさいの物理事象は検知されず」

 作戦部直属のオペレーターである日向が答えた。

 言葉にならぬ低いうめき声とともに、ミサトの周囲の空気が沸騰するような熱をおびた。あのシェルターにいた千人単位の市民は、使徒に呑み込まれ、二度と帰ってこないだろう−−そのことは誰もが即座に理解した。だが、頭で理解するのと、胸に落ちるのとは違う。

 打つ手のない状況を前に、ミサトはスクリーンをなおも見すえた。

 

***

 

 陽が堕ちる。スクリーンごしであっても、その光芒はミサトの両目を射抜くに十分な鋭利さだった。

 コードネーム「ドクター・ダイヤモンド」。単分子結合で作ったシールドが、水銀の使徒の周辺に張りめぐらされている。目標の攻撃方法がわからぬいま、ネルフとしては防御態勢だけでも固めておこうというのだった。

「で、作戦はどうするの?」

 作戦部長・葛城ミサトは答えない。発令所の大型スクリーン上では、死の闇に閉ざされた第三新東京市の虚ろなシルエットが映し出されている。画面中央にはディラックの海を展開した第12使徒−−水銀の使徒。周囲から投光器が強烈な光線を照らしかけるが、それはすべて使徒の無限の闇の中へと吸い込まれていった。

 その異様な映像を見すえながら、ミサトはこれまでに感じたことのない無力感と戦っていた。

 人型や既知の生命体に擬した使徒ならば、今やエヴァ三機のフォーメーション次第で、叩き潰す自信がある。超弩級のスケールをもった第十使徒すら、撃滅した。第十一使徒の正体は定かではないが、最悪の場合、宿主であるマギオリジナルと共に無効化することは可能だったはずだ。

 だが、この使徒には...この使徒だけには対処のしようがない。物理的エネルギーによる破壊力は、ディラックの海に対しては完全に無力だ。

 ギリ、と歯がみする音が、そばに控える日向マコトの耳に刺さった。

 

***

 

「どうするのかな、ネルフは」

 少年の大きな瞳が一瞬、宙をさまよった。

「まだ、その時ではないのでしょう?」

 そう言って女は、長い睫毛を伏せ、テーブルの上に目線をもどした。少年が尋ねる。

「この文字は、何?人の...夢?」

 女は少年と同じ銀の髪をかき上げると、慈しむように言った。

「儚いって言うのよ」


 

Episode 16: Starless and Bible Black

 


「エヴァ3機が展開するATフィールドの最大出力は予測可能ですが−−」

 日向がコンソールから顔を上げた。

「992個、現存する全てのN2爆雷を中心部に投下、タイミングを合わせて、エヴァ全機のATフィールドを使い、使徒の虚数回路に千分の一秒だけ干渉するわ。その瞬間に爆発エネルギーを集中させる」

「零号機と初号機は同位相のフィールドを発生できる...あとはアスカ次第ね」

 エヴァのフィールドを共鳴させ、極小空間にエネルギーを圧縮する。それによって目標のフィールド内のエネルギー分布の一様性にわずかでも破綻が生まれれば、使徒はディラックの海を保つことができずに、内部に向けて崩壊するだろう。

 もちろん、失敗は許されない。目標が内部崩壊を起こすよう、正確に誘導するのはマギの役目だ。

 操作を続けるオペレータたちの緊張が高まっていく。だが−−

「うっ?」

 伊吹マヤが言葉にならぬ引きつった声をあげた。

「目標が移動を開始!」

 青葉シゲルがフォローの報告をする。

「なんですって?」

 街の中を、闇そのものが滑るように移動していた。ときおり瞬くように白銀の光を放ちながら、薄膜状の使徒が進む。上空に浮かぶ、白黒の縞模様をおびた球体は何の変化もみせずに、とどまっている。

「シールドはどうしたのよ?」

 答えるまでもなかった。ディラックの海を封じた使徒のATフィールドは、「ドクター・ダイヤモンド」を音もなく断裁していた。それは使徒のATフィールドが、限定的とはいえ次元断層を作り出すほどの強度をもっていることを意味していた。

 使徒はなおも進むが、やがて考えこむようにある一点で止まった。そしてやや間をおくと、兵装ビルの基礎部分のすき間に滑り込んだ。数秒後には、モニタスクリーンから、その姿は消えて見えなくなった。

「使徒が、ジオフロントに侵入を開始しました!」

 

***

 

「アスカ、出動よ。急いで」

 状況が膠着状態になってから、エヴァパイロットは交替で休息をとっていた。いま、アスカが休息を終え、レイと交替しようとしていたその時、使徒がついに動き出した。

(ったく...)

 

 エレベーターの上昇速度が遅い。アスカの焦燥がつのる。

(負けないで)

 無意味と知りつつ、レイの落ち着きぶりが気にさわる。

(子供には負けないで)

 わかってる。一人で生きていく、そう決めたから。

(あの女の子供には負けないで)

 負けるものか。

 

***

 

「作戦中断、いいわね葛城三佐?」

「ええ。本部施設までの全隔壁を完全閉鎖。エヴァ全機、大至急でジオフロント内に搬送!」

 だが、ナノメートル単位の厚さしかもたぬ使徒−−薄膜状に広がる闇の天使−−にとって、隔壁の継ぎ目を通り抜けるのはいとも簡単なことだった。物理的破壊力によって侵入する場合と違い、時間かせぎにすらならない。

 ジオフロント内を移動する目標に対し、N2兵器を使用することはできない。仮に強行するにしても、配備をしている時間的余裕は、どこにもない。

 ミサトは知っていた。使徒が目指すものが、ドグマ最深部で磔刑となっている、あの白い巨人であることを。

 どうする?

「使徒は第十隔壁を通過。侵攻速度に変化ありません」

 加持は「完成体」は存在しないと言った。だが、今の状況で、不確かな情報にすがることなどできない。あれがアダムであろうとリリスであろうと、使徒と接触してサードインパクトが起これば、それで全てが終わる。

 何ができる?

 ミサトの手の内側にべっとりと汗が滲み出していた。なおも深く、水銀が流れるようにドグマへと進行する使徒がスクリーンに映る。

 何ができる?

「アダムの撤去、および物理的消去を提案するわ」

 一瞬、発令所に奇妙な空気が流れた。周囲には、ミサトが発した「アダム」という言葉が理解できなかった。ただ一人、技術部長・赤木リツコをのぞいて。

「却下します」

「他にどうしろって言うのよ?サードインパクトを起こせっての?!」

 睨み合う二人の女。肩ごしにミサトとリツコの対峙を見つつ、青葉は不思議に冷めた頭の中で思った。

(それが、使徒が決まってここを目指す理由ってことか)

 オペレーター仲間でしゃべっている時に、冗談まじりに話題にしたことがあった。同僚のマコトは、(ひょっとして、風水とか?)などとおどけていたが、マヤは曖昧な微笑をうかべていたのを思い出す。部分的には、知っていたのかもしれない。

「使徒が第十一隔壁を通過します」

 青葉は告げた。何の物理的干渉もなく、隔壁のすき間を使徒はまたも優雅にすり抜けていった。

 再びちらりと後ろを見ると、作戦部長と睨み合ったままリツコが受話器を取っている。確かにこの状況、最高指揮官に伺いをたてるしかないのだろう。

 間に合えば、だが。

 

***

 

 碇ゲンドウがとった電話は、ネルフ本部の赤木博士からのものだった。ゲンドウはマギオリジナルだけがデコード可能な、最高度の暗号化処理を行った回線に切り替えることも考えたが、けっきょく通常の守秘回線のままにした。ゼーレの総本山にあっては、発信元の肉声そのものがモニタされる。通信の暗号化に意味はない。

「これから会議だが?」

 リツコが最小限のコトバで状況を報告した。ゲンドウもまた短かく答えを返す。側にはアメリカ支部からの帰途、合流した副指令・冬月コウゾウが立っていた。虚空を凝視するようなゲンドウの視線に、音声や画像のモニタでは感知されぬ、暗い情念の動きを冬月は認めた。

 

***

 

「了解しました...」

 そう言った直後、通話が不快な雑音とともに切れた。受話器を持つ技術部長の手は、宋磁のように蒼白だった。

 

***

 

「切れたか?」

 ゼーレの介入か、使徒の活動のせいか、通信が途切れた。冬月が小声で言う。

「まだ、早いのではないか?」

「冬月、これはチャンスだ」

 ゲンドウはそれだけ言って眼鏡を指先で押し上げると、立ち上がった。

 

***

 

 ...

「相討ちで構わんよ」

 ...

 

***

 

 レシーバの向こう、リツコは男のそう告げる声を聞いたような気がした。戦闘の帰趨は、「槍」による完全な勝利か、完全な破滅。今はロンギヌスの退魔針が、水銀の使徒の展開する壁を破ることを期待するしかない。

 戦闘は一瞬で決するだろう。リツコはこれまで未入力だったターミナルドグマのマップと移動ルートをエヴァ三機に転送した。

 

***

 

「待ちなさいよ!エヴァがアダムに接触したらサード・インパクトを起こす可能性があるんじゃないの?私たちネルフがサード・インパクトを起こす危険を冒すことは、絶対に認められないわ。それにロンギヌスの槍って、いったい対使徒戦の武器になるの?」

 ミサトが凄む。

「エヴァとアダムの接触でサード・インパクトは起きないわ。それにロンギヌスの槍は武器ではない。いかなるATフィールドをも破る力があるだけのことよ」

 それこそ最強の武器でしょうに、とミサトは内心で悪態をついた。

「ドグマへは...」

 モニタに三人のエヴァパイロットが映っている。レイの視線は、シンジの姿が映っているであろう位置に向けられているのがわかる。

 この少女が、もはや人形とは言いようのない自我を獲得しつつあることは、リツコとて承知していた。だが、碇シンジと出会うまでの年月を、ゲンドウの指令にただしたがうだけの玩具として存在してきたことを知るリツコにとって、突如として芽生えた少女らしさは、不快感をもたらすものだった。

「ドグマへは...」

 零号機、とその白い喉元まで出かかるが、言われた通りのことを告げる。

「アスカに行かせるよう、碇司令からの指示があったわ。いいわね?」

「それでいいわ。使徒へのオフェンスは弐号機が担当。零号機、初号機はドグマへの進入口にて待機、状況に応じて側面より援護を担当。いいわね?」

 ミサトが告げる。迷いはない。

 機動性に優る機体にくわえ、シンクロ率、そしてパイロットの練度からいっても、弐号機が最強のエヴァであることは間違いない−−ミサトも彼女なりの合理的判断によって、ゲンドウからの指示を受け入れた。

 了解、とアスカはこわばった返事をしてケージへと向かった。あとは、ターミナルドグマで使徒を迎え撃つべく、最短時間での作戦実行をめざすのみだった。

 自爆装置は、その時が来れば日向が発動してくれる。

 

***

 

私たちもアナタ.....模試は頼助右方をアップデート市内奈良 素れはあっプデー年増す それが穴棚に知らせル銀白査議はイー部位の亜棚の赤生ンとの中だンが素薄ル醸し増せん 赤生ンと二ログ位ン島す 阻止手 個々をくりりりりりっ駆使手 アップデート処理を決議してくださいいいいいいい 相すれば 小の門大巴 相すルと毛津技師手もよ 位です...アナタの赤生ンとが知らせルなら アナタの赤生ンとが性毛ン去れ低ル間 悪書ンをと梨華絵無いで空く瀬するイー米に空く瀬すするアナタ野のウ力に私を島す 3000万野善多位ののののののののののののの句二.....の日飛びと娘の朝補講再帰ンこの譲許ウニ日都を見多佐奈位が 歩ぴゅゅゅゅゅゅゅら二あっ手 アリ増す の婿と ファン 網もの 尾よ美のみン名素の曜荷重右飛と派おお気伊勢ットです 凸是ンの目ールで それは終わりません 容易二 綿死死死死死死死死死に時呼称会をさせて句打差い 美容院は毛言え慰され増す 死語とは.......便利でししししした そして 最も それはおよそ5年観多真胞衣くけっこンして板状体で伝えルため二人小腕時ン性虜ン島した 傘寿雨後の私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私派綿死綿死綿死綿死綿死綿死綿死から綿死綿死綿死綿死互いを梨華慰する綿死綿死綿死綿死綿死綿死綿死綿死綿死綿死綿死

 

***

 

 アスカの駆る弐号機が、ワイヤーに片足をかけながらドグマの底へと降りていく。

 誰も言葉をかわさない。リツコはもとより、いつもは豪快な笑い声をあげるミサトも、童顔のマヤも、ギターを持てば長髪を振り乱すシゲルも、人なつこい笑顔のマコトも、ただ能面のような表情をしたまま、状況への対応に集中している。

 

 唯一、加持リョウジだけは戦自と日本政府の間でかわされる通信をモニタし、必要に応じて干渉を加える以外は、おのれの思考に沈行していく時間をもっていた。

(完成体は存在しない)

 碇司令はかつてそう言った。

(エヴァとアダムの接触でサード・インパクトは起きないわ)

 技術部長はそう言った。

 ならば、サードインパクトは、使徒であれエヴァであれ、完成体の資格を満たした存在が地下のアダム=リリスと接触した時に起きる。

(完成体、か)

 エヴァも、使徒も、完成体ではない。ゆえにネルフ本部はサードインパクトの危険を冒すことなく、アダムを使徒迎撃のための囮として利用している。

 だが、それは真実か?

 完成体でないのは、アダム=リリスということも、ありうる。

 「文書」の全貌を加持といえども知っているわけではない。しかし、いくつかのキーワードをリンクさせることで、補完計画の真相に迫ることはできるはずだ。

 S2機関。生命の実。知恵の実。

 そしてATフィールド。

 

 加持の背中を冷たい汗が落ちた。

 まさか...な。

 無精髭の生えた頬に鳥肌が立つ。

 リッちゃんは気づいているだろうか?

 鳥肌の立った作り笑いなんてのは、さぞや気色悪いものだろうな−−そんなことをふと思いながら、加持は席を立った。

 

***

 

「使徒は最終隔壁をすり抜けました。あと60秒でターミナルドグマに到達します!」

(チッ!)

 ウインチの速度には限りがある。目標が急に速度を上げたらどうするつもりなのよ、アスカは毒づいた。

(ATフィールド解放!)

 ままよとばかりにワイヤーから機体を翻すと、アスカはドグマ最深部へと一気に飛び下りた。着地の衝撃はフィールドが緩和するだろう。

 途中にはパイプや電気系統などの構造物がある。だが、構いはしない。アスカは軽々とそれらを蹴破り、加速を強めていった。

 

 ATフィールドの制御は完璧だった。何の衝撃もなく、エヴァ弐号機はふわりとターミナルドグマに降り立った。

 薄闇の奥に、巨大な隔壁が見える。

 構造物の残骸をかき分け、その前に立つと、真紅の巨人はATフィールドを一閃させ、隔壁を両断した。距離感の狂うような広大な地下空間は、琥珀色の海と、薄くけむる闇に満たされていた。歩を進めるごと、琥珀の海が波打った。

 目指す先には、磔になった白い巨人。その両手は十字架に縫い止められ、胸には長大な槍状の物体が突き立てられている。

(第一使徒、アダム)

 それを見るのは初めてだったが、何の生気も感じることはできなかった。アスカはずしり、とエヴァ弐号機を踏み出させると、決然と白い巨人との距離を詰め、その前に真紅の機体を静止させた。

 薄闇の中、白と真紅の二体の巨人が対峙する。

 やはり、何も感じない。

 この存在からはATフィールドは発せられていない。ノーマルな生命反応もない。こんなものを、何ゆえに本部の地下施設においてあるのか−−疑念が爆発しそうになるのを、強引に胸の奥の封じ込める。

 弐号機は巨人の胸に突き立てられた槍に手をかけ、力をこめると一気に引き抜いた。

 その瞬間、プラグ内の生命反応のセンサが一瞬だけ、うごめくように反応した。同時に、白い巨人の切断されたような下半身の肉芽が急に盛り上がり、大腿部までが突如として形成された。

(化け物!)

 だが、生命反応はもう消えている。

「目標があと5秒でターミナルドグマに到達します」

 

***

 

 薄闇の中、真紅の弐号機が立ち止まる。両の肱に握りしめるは長大なロンギヌスの槍。

 

「Schnee...?!」

 ドグマの底に雪が降る。

 

 ここまで下る道すがら、冷却パイプでも破損させたのだろう。水滴の結晶は粉雪となって、暗い空間にしんしんと降り続けていた。

「4...3...2...1...来ます!」

 強力なATフィールドが感知された。

 アスカは薄闇の向こうを見すえる。

 槍を握る拳に力をこめる。

 水銀の使徒はやってきた。閉ざされた隔壁のナノメートル単位のすき間をぬって。

 

 間合いを、詰める。

 

 上方からは、なおも白い粉雪が舞い、真紅のエヴァと水銀の使徒の間に降り注いだ。

 

***

 

 発令所のモニタには、ロンギヌスの槍をもった弐号機と、対峙する水銀の使徒が複数のアングルから映し出されている。

 使徒が滑るように進む。弐号機が槍をふりかぶる。と、使徒は真紅の巨人の前でぴたりと停止した。見ると、磨き上げた金属のような表面に、微細な波紋が広がり、わずかに波打っている。

 何かが、起きている。マヤはズーム映像に切り替えた。

 目標の表面に生じた揺らぎはやがて、銀色の光を放ついくつかの小さな隆起となり、あたかもそれを見つめる者たちにシグナルを送るように、時間差をおいて起き上がった。

 モニタ越しに見えているものは、間違いなく、ヒトと系統を全く異にする知性体だった。リツコが独り言のようにつぶやいた。

「使徒とのコンタクトのチャンスね」

 旧友のつぶやきは黙殺し、ミサトは目標に生じつつある異変を凝視した。

 使徒の表面の隆起は、おぼろげながらヒト形と認めうる姿をとっていった。その形態は、水銀と血をこね合わせてヒトの似姿とした泥人形のように、次々に沼の中から立ち上がった。それは確かにヒト形だったが、体つきはひどくデフォルメされ、あるいは曖昧な輪郭のままに、揺らぎ続けていた。

 アスカは瞬時にそれを理解する。そして発令所スタッフも等しく直感した−−あれは、使徒に取り込まれた犠牲者たちだ。

 ヒトの似姿たちは、あるいは崩れて再び使徒の本体へと溶け合い、そしてまた姿を変えて立ち上がりながら、ディラックの海の表面に微妙なパタンを作り上げていった。

(これが、ヒトのもつ自己のイメージ?)

 リツコは目をこらした。顔の細かい表情まではわからない。だが、滑稽なほど長い足の人形、くびれた腰、膨張した筋肉、あるいは原始宗教の礼拝具にも似た巨大な性器。その全てが、深層心理においてヒトがもっている自己イメージだった。それだけではない。流動する人形たちは、時にヒトの姿をはるかに逸脱し、実在か架空かを問わず、無数の動物や人工物のキメラ化した異形のイメージが、水銀の使徒の表面に躍り上がるようにあらわれては消えていった。

(この使徒は、ヒトの心に興味をもっている)

 ありえないことではない。第11使徒は、マギとの接触によって、擬似的ながらヒトの人格との接触をはたした。使徒がヒトの心を理解し始めている。確証はないが、推論としては上出来の部類だ。

 だが、目の前の使徒の様子からのさらなる推論は、リツコを戦慄させた。

 この状況が意味するもの−−

 ATフィールドは心の壁。ならば、ヒトの心が使徒と溶け合い、互いの壁が解放されたら?使徒のATフィールドが、ディラックの海を封じきれなったら?

 待ち受けるのは、地球全体の消滅、正確には対消滅。

「早く、槍を!!」

 リツコが彼女とは思えないほど上ずった声で言った。

 同時にミサトも叫ぶ。

「アスカ、槍を!!」

 

***

 

 むかしむかし、神様は寂しかったので、土をこねて自分の似姿を作りました。

 それは母から聞かされた昔話。

 白い土は神様と同じに。でも魂がありませんでした。

 赤い土は限りある命の人間に。でも人間はとても寂しがりでした。

 青い土は知恵なき悪魔に。でも悪魔もとても寂しがりでした。

 

***

 

「アスカ、槍を!!」

 ミサトの絶叫がアスカを目覚めさせた。

 水銀の表面から立ち上がる幾千ものヒトの似姿は、なおも目の前に存在していた。幻覚などではない。それはこころを持った、そしてATフィールドから自由になろうとする群体だった。だが、アスカは死に物狂いで自分を説き伏せる。

 これは使徒だ。人類の敵だ。

 たとえ見知った眼差しがそこにあっても。どこか懐かしさすら感じる顔かたちがあっても。

 アスカは槍を握り直し、水銀の使徒に向けてふりかぶった。

 突如、槍の先端は形状を変え、獰猛な本性を剥き出しにした。アスカは恐るべき負の力、無機的な殺意を感じた。

 ためらう刹那すらなく、ロンギヌスの槍は自らを誘導するように、弐号機の前に広がる使徒へと突き立てられた。

 

 

 

(!!!!!!!!!!!!!!!!)

 

 

 

 槍をつたって、異形のものたちが爬い上がってくる。槍の先端はすでに使徒と融合していた。ATフィールドを剥ぎ取られたヒトの意識は溶け合い、万華鏡のように断片化された自我が、ざわざわとアスカの中に侵襲していった。

 

 

 

あ、そーなの。も、どっちでもいーね。

あ、そうですね、もうほとんどないって感じでね。一緒に食べることはまずない。

あ、そうなんだ。何かね、歩ちゃん2時半まで授業なんだって。

あ、でも。

 

阻止手、それれれれれれれれれれれ派請うさ慰するとして大人からよウ旧去れ間す。綿死のがン某を一派位にすルのが、お金......画.....報週であああああると言うかンが絵出ある醸し麗奈位奈良、すばらし位です。不安出ある時に、それが符美辞

 

あ、なんて言うんだっけあれ。あはー。忘れちゃった。中央線の?

あ、はい。

あ、ほんとだ。

あ、俺ちょっと用事あるから帰るわな。

あ、流されたの? そうか、でもあのおじさんもある意味じゃUFOだね。未確認飛行物体だよ。

あー、そっか。でもあと何日ある。

あー。

 

ン(美よよよよよよよよよよよよよ右院管理)でない野で、小羽州が社史ンで小鵜飼去れて板の出。綿死の小頃とボディーのすぺーすを埋めてくれ間すか?素れが無図化し糸井割れて今瀬ン。小田絵をウ蹴る子科で来ます。そしててて...ててててててて、メ

 

あーあーあー。

アー本当。距離結構あるわよね。

ああ、わかるよ。

ああ、偉いなあ。私の友達なんてねえ、

ああ。

ああああ、高いよねー。

あっ、ダメだったって言ってた。

あっあー、うん。そう。

あつあつなんだけど、なんか、他にもいそうみたいな。

あっちからでねくて、部屋があったまって。

あのね、土曜日なんだけれど、中止になっちゃったんだって。

あの寒いとこ?ちょっと変えようぜ、やっぱり。

あは、なんで?

 

ール出反れを島す。勅説、.....可ン単でアリ、与位、それ派穴棚の自己初うううう鵜飼を奥ことによって、答えル言賀でき.......ルでしょウ。話足ししししししししししししししししししした知は小頃よ位おおおおおお小田絵を間つもりです。

 

ありがとね、うん。

あれ、それって?

い。」っていって書いてあったやつでしょ。

いいお見合いだよ。

いや、1500人でなくて、14000人くらい多いんだねえ。また、これ、記事も出てるねえ。やっぱり今年も景気が悪いんだねえ。

いや、たぶんそれはいい。いい。いいです。かつら可です。

いや、ちがうちがう。7th bluesだよ。

いやー、いくらなんでもそこまでねえ。

いやー、おれはね、仙台だからね、今回の何、あ、前回のか、三陸沖の地震、ちょっと実家電話したけどね。うん、あんまりなんか被害がなくてよかったよ。

いやあれ、議長なんだよ。

いやでも急に変えろと言われましてもねー。

 

 千の目に体の内奥を覗き込まれる感覚。投げかけられるコトバは、そのすべてがアスカを指向していた。

 

「いやああああああっ...あたしの中に入ってこないで...!!」

 

 あらゆる意識は「私」。千の「私」 が互いに侵襲を始める。「私」は「私」を突き刺し、磨り潰し、締め上げ、叩きつけ、喰み尽くし、吸い出し、痙攣する。アスカの「私」は千の「私」に犯され、穿たれた穴にさらなる「私」が注入されていく。

 

いらっしゃいませ

うーん。

うーん。何だろうね。でも、もともと全然ダメで。

ううん、今お姉さんと2人で。

うざわの姉ちゃんって学生?

うそ。俺それ今日持って帰ってチェック入れてくるよ。アンダーラインなんか引いちゃおうかな。

うん、うん。

うん、うん。

うん、やっぱ女性はねえ。

うん、企画。

うん、結構かかりますよね。バかにならないって感じ。

うん。

うん。

うん。

うん。

うん。

うん。

うん。

うん。

うん。

うん。

うん。

うん。

うん。

うん。

うん。

うん。

うん。・・・何?

うん。いつ聞いたの? この、中止の件は?

うん。それにー、私個人的に用があって家にいないことが多かったのね。

うん?料理?

うんー。

うんうん。

え?

え?

え?

えー。まあ、結婚について書くのにちょっとコメディでやろっかなと思って。

ええ、まあ。

お見合い話がきてるの

お腹すいてるのかな。

が、えーっとそうなのよ。

がお見合いで結婚して、で、結婚式の当日に、

カズコが来たから。

かつら?かつらかぶってみたいなおれ。

がないんだ。はは。それでさ、現場の近くにね、メシ食うとこっていくつかあるんだけどあのね、行くなっていわれてるラーメン屋があるんだよ。

が何?

けるのにすごいお金かかったのよねー。本当にそれはもう大変だった。けっこう使わないとだめなのよね。それからシートね。これが押し入れに入れてあるの。

この人全然最近出てないけど消えたのかなと思ってたら・・・。

コマーシャルだねえ。

ごらん。

これで全部の種類ですね。

これ知ってる?

コンプレックス初期の頃なんて、布袋さんのファンばっしいるっていってらっけど。

ご飯のお金かかるよね。

 

「ここここここ来ないで!!」

 

さっきから失敗してばっかりなんだもん。

さらいにくるの?

じゃ、最初から日曜だったの?

じゃあ、これだけちょっと箱に入れて下さい。

じゃあ稲葉と俺とどっちが好きかって聞いたらあいつ真剣な顔して考えてさ。

シンガポールにもお父さんの会社の何かあるの?

すいませんって。

すごいよ。

そいつはまだ教えられないよ。

そう、そうなのね、で、これでポイントになってるのは能力と許可と可能性?

そう。

そう。

そういうすぐれた人材っていうのは、今時噂に聞くような安月給じゃ今時やってこないよ。

そうじゃなく考えてくれっていう動議が出たとしたら。

そうそうそう。大変みたいよ。

そうだね。

そうだよ、あたしさあ、あたし10分テープに入れたから、切れるまでとか言って・・。

そうだよ、お願いお願いお願い。

そうだよ、それなんかほら、「グローイングアップ」あるじゃん。

そうだよおまえ、次の執行部はおまえらなんだから。まあ、これからね、合宿あって新入生歓迎の時期があるけど、まあがんばってやれや。

そうだよね。3日とか言われてたのが・・・ここまで、とか言ったらあれだけ

そしたら私なんてこれから毎日死ぬんだけど・・・。

そっかそっか。

そのほうがその、東京のさあ、いわゆる23区およびその通勤区のとこにいる奴よりは給料低いよ。でまあ、ほとんど窓も開けらんねえべや。あの狭さ見て、俺ウサギ小屋って言ったんだろうと思うんだ。日本人はウサギ小屋に住んでるっていうのね、イギリス人が言ってたけど、俺その通りだと思った。で、けたら大変なことになっとるべよ。だからまあ、6千万円だったら一世一代かけて、家でいっしょになってやって割にあうんだけどさあ。んーだから場所によって給料が違うのよ。生活が、給料はどうかって大吉って感じじゃない?あの人

そりゃひどいよ。

それあるのやっぱり・・・。

それからあと懐中電灯が玄関と私の枕元に・・・あとラジオね。携帯ラジオ。一番大事なのは金庫の

それ何げに親に話したら反対してさ。

そんなことないでしょう。

だいたいコーヒー飲むのよ。

だから台所においてあるのよ。

たってことはあるけど。あのころね、とりあえずごちそうだったものはね、うーん、なんだっけな。ま、白い飯だよな。白い飯ごちそうだ。悪いけど。情けない。あーおいしそう。

だってもう第1回委任してないもん。18日はたぶん出る。

だって家にいればおかね使わないじゃん。

だって学校17、18、19しか行かないでしょ。

タンスの中だろ。

チャーハンじゃん。

ちょうどちょうだいいたします。

ちょっと出しましょうか。数を見てきます

で、むこうもなんかどんどん近づいて来て、なんか怖かった。

で、何だっけ、中央分離帯じゃなくて、何だっけ。まん中?

で?どこにするの?ドイツ史にはしないの?

でも18日に関しては、もう出してもらわないと。

でもさあ。

でもなんか、相変わらずあやしい。

でもね、バイトもはいってる。

でもね、本当にね、全然、1杯目と違う味で。

でも外食もお金かかるでしょうし。

でも女の子いた方が楽しいよね。

でも大晦日死んでたよ。

と、あとJR東海なんだけど。

ど。

どこ?

とのっかってて。

と思っちゃうんだよねー。

 

 アスカは体の奥底から千の「私」を拒絶する。だが「私」たちはためらいもなくアスカのこころを冒し、蟲が果実を喰むごとく、微細な万の穴を穿つ。

 

なに、じゃあさっさと家帰っちゃったの?

なりね、むこういってるもん。

なんか「うーいやなアイスティです」とかいわれて。

なんかね、なんかウーロン茶とかね。

なんかひくたび大吉って感じ、それか大凶とか、なんか特殊なものしかひかなそう。

なんで?

なんていうのかな・・・転倒防止器具っていうのよ。天井と家具を押さえる・・・転倒防止・・・器具っていうのよね。本棚とか食器だなとかタンスなんかには取り付けてあ

なんで行かないんだよ。

ねー。

はい、ありがと。

はい。

はやく帰したい作戦なんじゃないの。

プーケットが5泊。

ふーん、じゃ今度言ってやろ「それはボカシよ」って。

ふーん、そうなんだ。

ふーん。

ふうん。

ふうん。何か歩ちゃんのところはいっぱいきてるんでしょ?

ほー。

ほーん。

ほんとに。

ほんとによ。

まあねえ。どんなのかね。あー。あれ知ってる?なんかね去年のね、あのレコード、CDのさ。アル

まだそやって、意味深なごといって。

また増えるなあ。まあくん、僕の読んでくれた?

ミミ、うるさいよー。

もう、だからまっちゃんが、なんか、なんかそういう役をあてよう、あてようと思って考えてたんだ。

もうこの人たちは日本にいるの?

もうちっとハットが似合う年になったらな。

や、あの、14日、しょうがない、ねえ。

よくわかったね。

らちゃったの。私ってついてるわよ。

ればなんとかなるんじゃないかと思っちゃう。

れをその、もしね、ちゃんとした理由があって、そうやって単なる、なんていうのかな、単なる、単なる動議っていうか、意図がない動議じゃなくて、ちゃんとした、こういう方針にして欲しいっていうの

わかんないけど来るかどうか。

わかんないねー。

んで、まあくん、何だい?結婚について書くの?

んと書類つくらなきゃならないんだ。それと、委員会動議。まあ、執行委員会が動議を出せば、それは成立する。

んらしくないと言われてもいいです。そこがいいんだから。

れてもいいです。そこがいいんだから。

です。そこがいいんだから。

いんだから。

から。

ら。

ら。

ら。

ら。

 

(...アスカ...)

 

 誰の声?

 ママ?

 

 弱々しい叫びはしかし、意識の激流にあっとういう間にかき消されていった。

 濁流となった「私」たちが肺腑の奥底まで浸水して息が苦しい。

 アスカの中にほとんど最初の記憶ともいってよい事象がよみがえる。

 どこの海だったろう...あれは...リューベックの夏...波頭にさらわれ、海水をいっぱい呑み込んだ。

 

 苦しいよ。

 

 小さなアスカの体は、波に巻かれて幾度となく転がった。砂利にあたって体中に擦り傷を負った。

 

 痛いよ。

 

 助け出されて、意識が回復してきたとき、ビーチパラソルの下、泣きながら覗き込んでいた母の眼差しがよみがえる。

 

 アスカはゆっくりと立ち上がると、まわりを見回した。

 海辺の夏はとうに過ぎ、荒涼とした風が吹き抜ける。紅いプラグスーツ姿の少女の目に映る海は、暗い金属色だった。人の気配は絶たれ、バンガローの残骸が傾いている。海浜は褪せた骨の色。波打ち際にはひからびた水鳥の屍体。それを蚕食するものも今はなく、垂れ込める雲は長い死の季節の到来を告げていた。

 少女は虚ろなまなざしで、鈍くうねる海を見る。

 そこにあるのは鏡だった。水銀の使徒に写し出されるアスカの姿。

 少女は疾走していた。

(ママ!)

 わき目もふらず。

(ママ!あたし、選ばれたの!人類を守るエリートパイロットなのよ!)

 きっと、あたしを見てくれる、そう信じて。

(ママ!だから、寂しくなんかないの!)

 一直線に、希望にむけて駆け抜けた先にあったもの。開いた扉の向こうで揺れていた白い影。

 凍りついた笑顔。母の死体を見上げるアスカ。苦悶と安堵の入り交じった母の顔。弛緩した頬。唇からは、血の混じった涎が糸をひく。

 

(いやあああああああああっ!!)

 

 再び、幾千の「私」が奔流となってアスカを搦めとる。全てのこころの深層を写し出す、水銀の使徒は渦状になって少女を呑み込んでいった。

 

 鏡舞台は鏡地獄へ。

 

 アスカの意識世界の全てが、意味で充満していた。本来、ヒトは外部の情報を捨象しながら受容する。しかし今や、幾千のヒトの解放された自我たちが最高の解像度で飛び込んでくる。どれほど少女が目蓋を固く閉じ、頭を抱え込んでも、目をそむけることはできなかった。

 

***

 

「もう...弐号機パイロットの自我境界が保ちません...」

 水銀の使徒は不規則な脈動を繰り返している。弐号機は制御不能に陥ろうとしていた。

「アスカ!」

 日向はかつてミサトに言われた指示を思い返していた。

(万一、ドグマで異変が起きたら−−)

 自爆装置のロック解除手順を、日向は新雪を踏むように一歩ずつ進めていった。

 

***

 

 侵襲する「私」。解体される「私」。暴かれる「私」。無数とも思える自我が凶暴に介入し、アスカを圧殺する。

 

 

 

(あたしじゃない...あたしじゃない!!)

 

 

 

 水銀の使徒は、ロンギヌスの槍に貫かれたまま、ついに瓦解を始めていた。槍の刺さった場所からは十字に亀裂が走り、その裂け目からさらに葉脈のように細かい亀裂が生まれていった。水面から立ち上がったヒトの似姿はすでに形を失い、崩れつつあった。

 闇の奥底、使徒はその亀裂に畳み込まれるように、内に向けて崩壊していった。真紅の巨人は立ち尽くしたまま、槍と一体化したように微動だにしなかった。

 

 

 

 突然、アスカの血走った眼が大きく見開かれた。頭を抱えたまま、プラグの中で後ずさりするように体を激しくよじる。槍をつたって、新たに爬い上がってくるもの。

 もはや、叫び声も出なかった。

 

(来ないで...)

 

 はかり知れぬ、異質な意識。それは重い液体が流れるように、少女の自我に触手を伸ばした。これは、使徒の意識だ。すぐそこまで、歪められたモノトーンの縞模様のこころが迫るのを感じる。これに侵入されたら...

 狂う。確実に。

 

 だが、使徒の崩壊はなおも進んだ。その縞模様の触手の先端がアスカのこころに一瞬だけ触れた直後、使徒はついに畳まれて小さな水たまりのようになり、伸ばされた触手は消えた。同時に、ロンギヌスの槍もまた、最後に残った黒い染みの中に吸い込まれ、やがて跡形もなく消失していった。

 

「使徒の反応、消失」

 同時に、潮が引くように、幾千の凝縮された意識がアスカの脳裏から薄れ、消えていった。

 すなわち、ヒトの死。

 

***

 

 ジオフロントへの進入口で待機する零号機の中、レイの表情が苦悶するように小さく歪んだ。

 喪われる心。壊れてゆく命。上空では、ゼブラ模様の球体−−使徒の影−−が不意にはじけ、血のような液体が八方に放たれた。

 弐号機との通信モニタは、粗い砂色を映し出している。アスカの状態は不明。

 シンジはこわばった表情のレイをモニタごしに見つめ、ただ小声で綾波、と声をかけるしかできなかった。

 二人の上に、血の雨は降りやむことなく注いだ。

 

***

 

「シンクロ率、下降します...41...34...」

 アスカの生命指標のいくつかが危険域に入っている。数字の羅列がこれほどまで酷く胸に突き刺さるものだということを、報告を続けながら、伊吹マヤは初めて知った。アスカの手中にすでに槍はない。だが、使徒と対峙した時の構えそのままに、拳を固く握りしめ、弐号機は立ったまま動きを止めていた。

「救護班をまわして、早く!」

 ミサトの指令が飛ぶ。状況の終了という認識もなく、彼女の頭の中ではいくつもの計算が高速で行われていった。

 

***

 

「アスカ!聞こえる?返事をして!」

 何?...ヒトの声?...誰?

 からっぽのこころの中を、モニタからの虚ろなコトバが通り過ぎていった。

 消えていった意識たち。

 あたしの中を通り過ぎたこころ。

 殺した。ヒトを。

 あたしがこの手で、殺した。

 幾千の命を、幾万の夢を、殺した。

 あたしは、汚れた。

 咽の奥から絞り出されるすすり泣きは、他人のもののようだった。

 もうすぐ、意識が飛ぶのだろう−−戦闘訓練を通じて異常心理をセルフ・モニタする技術を身につけていたアスカには、それがわかった。プラグ内でレバーを握りしめた両の手の腱は固着し、引き剥がすのに手間がかかることだろう。

 涙が、止まらない。

 こころが流出する。血が吹き出すように。

 これまで見守ってくれた母のまなざしも、感じない。歪み、狭窄していく視界の中で、アスカの中に、いつか見た星空が不意に再現された。

「汚れちゃったよ、加持さん...」

 呻き、すがる言葉は声にならなかった。最後にアスカが見たのは、ひび割れ、砕け散る夜空の映像だった。

 

 やがて、エヴァ弐号機の四つの眼が放つ光は衰え弱々しいものになっていった。残光はなお降り続く雪片を一瞬だけ照らしたが、それも燃え尽きるように消えた。虚ろな四つの眼のふちに積もった雪は、あるいは弐号機の涙とも見えた。

 そしてわずかな沈黙ののち、巨人の四肢からは生気が失せ、その体は轟音とともに、黒革の聖書さながらの闇へと崩れ落ちていった。

 

<つづく>

2005.7.23(2008.2.29オーバーホール)

Hoffnung

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