雪が、降ってきた。

12月に入って急に冷え込んできて、それまでの小春日和のような気候が嘘みたいだ。
今日は朝からどんより曇っていたけど、昼前にとうとう雪が落ちてきた。
今年の初雪。
綾波と一緒に眺める、初めての雪でもある。
彼女はさっきから僕の横でぼーっと空を眺めている。
ダッフルコートの前を閉じて、毛糸のミトンをはめた手を僕とつないでいる。
寒そうなのに、ここから動こうとしない。
・・私、雪は好き。なんだか月の光に似ている気がするから・・・
そう呟く綾波は、ふわふわと落ちてくる雪模様の中で、不思議な存在感を持っていた。

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蒼‐ao‐

Vol.3
聖夜の晩餐
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街はクリスマス商戦真っ只中で、あっちでもこっちでも“ジングルベル”やら"Last Christmas"やらが流れている。
毎年思うんだけど、この季節のテーマカラーは、「赤」と「緑」だろうな。
サンタクロースやクリスマスツリーを象ったデコレーションが町じゅうに溢れていて、店先に並んでいるものも、ここぞとばかりに赤と緑で彩られている気がす る。
綾波にそんな話をすると、
「クリスマスのイベントは、絵の具屋さんの陰謀かも」
と解ったような解らないようなことを言って、くすくす笑っていた。
で、僕らもその陰謀とやらに乗っかって、買い物に来ているわけだ。
来週末にうちでクリスマスパーティーをする事になった。
トウジ、ケンスケ、洞木さん、それに綾波と洞木さんの友達もやってくる。
今日は、そこで交換するプレゼントを買いに来た。
あまり高価なものは避ける、と言う決まりにしているだけにアイデア勝負で、何を選ぶか、と言うのを考えるのは結構楽しい。
綾波もいろんな店であちこち立ち止まっては、ショーウィンドーの中を物色している。

すっかり毎週の恒例行事になった綾波との晩ご飯の時、かあさんが後片付けや風呂掃除なんかを綾波に任せて、そのお礼としてお小遣いを渡している。
「本当は多少なりとも経済的な援助とかしてあげたい所なんだけど」
とかあさんは言ってたけれど、綾波が固辞した事もあって、綾波のこれまでの努力に敬意を払い綾波のプライドを傷つけない範囲で、という事で、そういう形に したそうだ。
ギブアンドテイクよ、と言って綾波に封筒を渡すかあさんの顔はいつもニコニコしている。
綾波がかわいくて仕方ないみたいだ。
今日の綾波は、その小遣いを貯めたお金で買い物に来ている。
お手伝い程度だけど、一応働いて貰ったお金だから嬉しい、と言っていた。
それを聞いた僕は、なんだか自分が恥ずかしかった。

一軒の店の前で、綾波の足が止まった。
不思議な色のグラスがショーウィンドーの中に飾ってある。
店に入って聞いてみると、琉球ガラス、と言うものだそうだ。
グラデーションのかかった淡い色合いに、全体に細かくひびのようなものが入っている。
確かに沖縄の強い日差しの下で眺めたら、きらきらしてすごく綺麗なんだろうなあ、と思った。
「きれいだね」
と僕が言うと、綾波は僕の方を振り向いて、嬉しそうに笑った。
「私、これにする」
そう言っていくつかのグラスを並べて、どの色がいいかな、としばらく眉間にしわを寄せて考えた後、うすい青色のグラスを選んで、店の人に渡した。
「プレゼント包装でお願いします」
かわいい青いリボンで包装された箱を、大事そうに自分のトートバッグに入れると、僕の腕に自分の腕を絡めてきた。
「碇君のを探しましょ」
「うん。でも、今のグラスよかったね。ちょうど綾波色だし」
薄蒼色は、綾波の髪の色に似て、仄かな雰囲気を持っている僕の好きな色だ。
僕は"綾波色"と呼んでいる。
「私らしくていいかな、と思ったの」
綾波は、自分の髪の色もだんだん自分の個性として捕らえるようになってきた。
僕らの友達も髪や瞳の色で何か言うような奴はいないから、少なくとも仲間内でいる限り、他人と違う事とか別に考える必要も無い、と思ってくれているみたい だ。
「行きましょう?」
そう言って、綾波が僕をぐいぐい引っ張っていく。

結局僕は、シルバーのキ-チェーンを買った。
それともう一つ、こっちは綾波用のプレゼント。
彼女がトイレに並んでいる隙に、以前から目をつけていた品を包んでもらった。
パーティーの後に渡そうと思っている。

「何を買ったの?」
いきなり後ろから声をかけられた。
「あ、ひゃなみ!?」
完全に声が裏返っている。
「は、早かったね」
動揺を隠せない僕の右側に回りこみ、袋を覗き込もうとする。
「何を驚いているの」
「い、いや、別に」
「怪しい」
「あ、怪しくないよ」
「怪しい」
「怪しくないってば」
ちょっと非難するような目つきで僕の目をじいっと見つめている。
仕方ないので、綾波の肩を抱き寄せ、
「い、行こうか」
と耳元で囁いて、そのまま歩き始めた。
体を密着させたまま、綾波は赤くなりながらそっぽをむいてしまった。
「いぢわる・・・」

最近解って来たけど、綾波はこういうスキンシップに弱い。
他人と触れ合わないように生きてきた分、慣れていないせいだと思う。
初デートで僕が告白した時は、自分が傍にいると僕に迷惑をかけてしまう、と思って断るつもりだったらしい。
でも好きになれた人に抱きしめられて、一緒にいたくなった、と言っていた。
「・・でも・・・碇君だけだから。ぎゅっ、てされたいのは」
と言われてまた、ぎゅっ、としてしまったのは、言うまでも無い。

少しむくれたままの綾波を、アパートまで送り届けた。
ここの所、ちょくちょくこの部屋を訪れている。学校帰りとかデート帰りとか。
綾波は、この部屋に他の人を入れたことは一度も無かったわ、と言っていた。

僕は、自分が置いていった座布団に座って、コタツに入った。
この部屋に僕が持ってきたものが増えつつある。
僕の部屋にあったテレビ、あまり使ってなかったCDプレーヤーとか、ゲームセンターで取ってきたぬいぐるみとか。
なんだか中古品ばかりみたいで申し訳ないんだけど、綾波はその都度喜んでくれた。
「だんだん文化的な暮らしになってきたわ」
そう言って笑いながら、説明書に目を通していたりする。

今日は、来週のクリスマスパーティーの打ち合わせだ。
料理は、綾波と洞木さん、それに今回初お目見えの山岸さんの3人がやる事になっている。両親は夜中まで帰ってこない。
トウジやケンスケは、昔からうちにはよく来ているので、問題ない。
洞木さんは僕らと友達になったのを切っ掛けに、トウジと付き合い始めたみたいだ。
最初は、トウジのお弁当を作るところから始まったらしい。
僕らが切っ掛けで親友に彼女が出来る、と言うのもなんだか嬉しい。
「そういえば、山岸さんってどういう人なの?僕まだ話した事無いんだけど」
僕自身はほとんど面識の無い山岸さんの事を、綾波に聞いてみた。
「うちの学年の、図書委員なの。たまたま借りたかった本が貸し出し中で、いつ返却になるかを聞いたのがきっかけ」
綾波が読んでいる本は、学校や近所の図書館で借りている事が多い。
そうそう本にお金を使う訳にも行かないので、借りて読む本がほとんどらしい。
「少しお話をしてみたら、私が好きな作家と山岸さんが好きな作家が似てたの」
趣味が合う、というのは友達になる最大のきっかけかもしれない、と僕は思った。
そんなわけで、今回は新メンバー山岸さんの初参加記念、と言うことでもある。

一通り相談を終え、僕はさよならのキスをして綾波の部屋を出た。
先ほどの雪はもうやんでいて、歩道の隅にシャーベット状になって残っている。
ジャケットの前を合わせて、家路を急いだ。


うちに戻ると、かあさんが先に帰っていた。
「あら、シンジ。早かったのね。レイちゃんは?」
「ああ、送り届けてきたよ」
かあさんは眉間にしわを寄せて僕を睨む。
「何でレイちゃんを連れてこないのよ」
「え、だって今日はかあさん遅いって言ってたし。晩ご飯の約束してなかったし」
かあさんが、はあ、とため息をついた。
「せっかくレイちゃんが来てくれるかと思って、早く帰ってきたのに・・・
うちの息子と来たら・・・」
もう、僕より綾波が優先らしい。
「じゃ、今から連れてこようか?晩御飯の用意まだみたいだったから」
かあさんが急に笑顔になって
「そうしてくれる?かあさん、レイちゃんの顔を1週間も見ないと寂しくて。
でも・・・せめて電話ぐらいレイちゃんの部屋に欲しいわねえ」
そう言ってかあさんは思案顔だ。

僕が綾波の部屋に行くと、彼女はちょっと慌ててごそごそ何かを押入れに片付けていた。
「な、何かしら」
と言う綾波は昼間の僕よりよっぽど怪しい。
きっと、何かクリスマスに用意してるんだろう、と思ってそっとしておいた。
綾波を連れて家に帰ると、かあさんが走り寄って来た。
「レイちゃんいらっしゃーい。ご飯たくさん作ったから、ね、早く早く」
綾波もなんだか嬉しそうだ。
なし崩し的に今日も綾波のお泊り日になってしまった。


一週間後、クリスマスパーティー当日。
綾波と二人でブランチを終えた頃、洞木さんと山岸さんがうちにやってきた。
「こんにちわ、おじゃましまーす」
「おじゃまします、碇さん」
出迎えた綾波に連れられて二人がリビングに入ってきた。
「いらっしゃい。洞木さん、山岸さん・・は、ほとんど初顔合わせだね。まあ座ってよ」
山岸さんは、綺麗な黒髪を腰のあたりまで伸ばし、眼鏡をかけている。
物静かな感じは、確かに文学少女の雰囲気が満点だ。
「綾波さんとは、図書準備室でよくお話してるんですよ。いつもいつも碇さんのお話を聞かされてますけど」
そう言って、綾波を見ながらニコニコしている。
綾波がキッチンからお茶を乗せたお盆を持って来ると、今度は洞木さんが
「なんだか、綾波さんってすっかりこの家の人なのね。お出迎えも綾波さんだったし。
いいなあ、彼氏の家族ともいいお付き合いなのねえ」
と言うので、綾波は赤くなって固まってしまった。
「そういう洞木さんはどうなのさ。トウジと」
「わ、私はそんな・・まだ、ちょっと遊びに行ったりとか、そんなところだし・・」
今度は洞木さんがうろたえている。
「いいわね、みんな」
山岸さんがまだニコニコしながら僕らを見ていた。

4人で手分けして料理の支度をする。
大体の準備が終わった所で、トウジとケンスケもやってきた。
「ええ匂いやの。待ちきれんでえ。」
「おー、目の前に壱中2年の美人トップ3が並んでいる!
カメラマンとして、涙すべき状況だね!」
そう言ってケンスケは、ケーキの箱をリビングのテーブルに置いてカメラを取り出した。
美人、と言われて悪い気はしないみたいで、3人とも笑顔でポーズをとっている。


女性陣が作った料理を囲んで、わいわいと話が弾む。
綾波も、山岸さんやケンスケと本や写真の話をしている。
キャパやブレッソンの評論と、カポーティやサリンジャーの感想が同時進行らしい。
よく頭がついていくもんだ、と感心しながら綾波を眺めた。
僕はトウジと冬休みの計画の話をした。
僕は家族で(当然綾波も一緒)父さんの会社の保養所があるスキー場に行く。
トウジは年末まで部活が有るとかで、今年は遠出は無しや、と言っていた。
でも、一瞬洞木さんの方に飛ばした視線を、僕は見逃さなかった。
まあ二人でいられればどこでもいい、と言うのは、自分に当てはめて考えると十分同意できる。

ケーキを切り分けて、コーヒーを入れたところで、プレゼント交換が始まった。
僕は、山岸さんのプレゼントが当たった。四角くて、少し重みがある。
これは本だな、と思って開けたら、本の形のオルゴールだった。開くと"となりのトトロ"が流れる。
「へええ、こんなオルゴールがあるんだ。ありがとう、山岸さん」
「どういたしまして」
綾波のグラスは洞木さんに渡った。料理好きの洞木さんはとても喜んで、
「うーん、これを器として使って、何か似合う料理を盛り付けてみたいわね」
と腕を組んで考えている。一番いい人に当たったようだ。
ケンスケの“自信作入フォトスタンド”は山岸さんに、トウジの“限定版レアルマドリード・スポーツタオル"は綾波に、洞木さんのマグカップはトウジに、そ して僕のキーチェーンはケンスケのものになった。

綾波はこういう企画は始めてらしく、にこにこしながらトウジのタオルを首にかけて、両端を手にもってぱたぱたさせている。
ケンスケはうろうろしながら写真を撮り、トウジはコーラのペットボトルの一気飲み。洞木さんがそれをたしなめていて、山岸さんは綾波と再び文学談議。
中学に入ってから友達が少しずつ増えて、今年は恋人まで出来てしまった。
きっと今年のクリスマスは、忘れられないものになるだろうな、と思った。

ひとしきり遊んでパーティーはお開きになった。
みんなが「じゃ、また」と言って帰っていく。

後片付けは、女性陣が手伝ってくれて一通り終わっていたので、僕は紅茶を入れて綾波と二人、一息つくことにした。
綾波は、初めて出会った頃とは別人のように柔らかい表情を浮かべている。
僕と付き合い始めてから、他人との壁を少しずつ薄くして行っている綾波。
僕が彼女を独占できないのは少し残念だけど、仲間達と仲良く出来る事の方が大事だ。
そんな事を考えながら綾波を見つめていたら、彼女は恥ずかしそうに視線を逸らせた。

こんなにかわいい子が自分の恋人でいいんだろうか?と思ってしまう。
僕には取り得なんか何も無い。見た目も勉強もスポーツも平凡なものだし、ちょっとチェロが弾けるぐらいで特技もこれと言ってない。
綾波は、髪や瞳の色が少し他人とは違うけど、かなりの美人だし、勉強もよく出来る。
少し無愛想に見えるのは気持ちを言葉に乗せるのが不得手なだけで、本当は優しくて、他人の痛みがわかる人で、それでいて芯の強さも持っている。
僕ももっと頑張らなきゃなあ、と綾波に話してみると、
「碇君は自分を低く見積もりすぎ」
と言われた。

「・・あなたは私を変えてくれたのよ?」
「ずっと冷えきってた私の心を、暖めなおしてくれたわ」
「私の外見をそのまま受け入れて付き合ってくれた人は、碇君が始めて」
「私に、義務ではなく、自分の世界を分け与えてくれた人も、碇君が始めて」
「私自身が気付いていなかった私を見つけてくれたの・・・」
「・・・碇君は、とても温かくて、とてもしなやかな心の持ち主だと思うわ」

・・・面と向かって言われるとかなり恥ずかしい。
恋人にそういう評価をされると言うのは、もちろん嬉しい。
でも、頑張ろう、と言う気持ちは持ちつづけなければ、思う。
綾波とずっと一緒にいられるように。綾波をずっと守っていけるように。

「あ、そうそう、綾波にもう一つプレゼント」
そう言って、僕はポケットからあの時買ったものを取り出した。
包みを見つめる綾波に、開けてみて、と促す。
出てきたのは、小さなブローチ。
三日月にウサギが座っていて、小さなルビーがはめ込まれたデザイン。
綾波の、ウサギの話のイメージにぴったりだと思ったから。
「特別な日だから、ね。何か記念の物をあげたいと思って」
照れながらそう言うと、彼女は目を潤ませて、ありがとう、と言ってくれた。
「こんなに嬉しいクリスマスプレゼントは初めて・・」
少し鼻をぐすぐす言わせながら、綾波はトートバッグから紙袋を取り出した。
あの、押入れに隠していた袋だ。
「私も、これ・・・気に入ってもらえるといいんだけど・・・」
恥ずかしそうに僕に差し出すその袋には、手編みのマフラーが入っていた。
「ごめんなさい。なんだか当たり前のもので・・・洞木さんに教わって、編んでみたの」
僕は袋から群青色のマフラーを取り出して首に巻いた。
暖かい。
綾波が一生懸命、一目一目編んでくれたんだと思うと、胸が一杯になった。
「僕も、こんなに嬉しいプレゼントは初めてだ」
そう言って、綾波を抱きしめた。


その夜『久しぶりに夫婦でクリスマスイブを楽しんだわよ』と言う両親が帰ってきた。
綾波が二人にお茶を出すと、かあさんがオレンジ色の紙袋を綾波に渡した。
「はい。これは私からのクリスマスプレゼント」
中には、携帯電話が入っていた。ライトブルー、綾波色のコンパクトな携帯電話。
「あ・・・こんな高価なもの・・・」
綾波は遠慮がちにかあさんを見ている。
「大した物じゃないから。通話プランは、一応5時間の通話料込みのにしといたわ。そこまでは私が持ちます。
それ以上使う分は、レイちゃんがお小遣いから出してね」
「え・・で、でも・・・」
「いいのいいの。私もあなたに連絡が取れないと困るんだから。
私のメル友になってちょうだい!」
そう言って笑いながら綾波の頭をなでている。
綾波は、また涙ぐみながら、ありがとうございます、と呟いた。
父さんも、うむ、問題ない、とか言いながら綾波を見ている。
「それと、機種はシンジとお揃いにしておいたから。使い方はシンジに教わりなさい?」
・・・いちいちやる事が、細かいよ。
でも、これで綾波とメールできる。ありがとう、かあさん、父さん。


僕の部屋で、綾波は目をきらきらさせて携帯をいじっている。
ここを押すとメニュー画面が出て、ほら、メール打つ時はこう、とか僕が教えると、一生懸命キーを押している。
「ずっと欲しかったけど、高くて・・。おば様にはお世話になりっぱなしね」
という綾波に、
「かあさん、きっと綾波に毎日メール送ってくるよ。綾波の事、えらく気に入ってるから」
と僕は答えた。
彼女は嬉しそうに目を細めると、でも最初のメールは碇君から欲しいわ、と恥ずかしそうに言った。
くすり、と笑って僕は自分の携帯のメール送信ボタンを押した。
ピピピ、とデフォルトの呼び出し音を響かせて綾波の携帯が震える。

“Merry Xmas with love. from Shinji"

液晶画面を見て赤面する彼女。
ガラにも無く気障な事をしてしまい、僕も恥ずかしくて赤くなる。
「記念すべき初メールね」
そう言って綾波は肩を寄せてきた。
そんな彼女の肩にそっと手を回そうとしてまた不穏な視線を感じた。
「・・父さん!かあさん!い、いいかげんにしてよ!」
扉の隙間から、2組の目が覗いている。
「いやいや」
「まあまあ」
またぶつぶつ何か言いながらリビングの方へ戻っていく二人。

「なんだか・・・ごめんね、綾波」
くすくすと笑いながら、綾波は触れるだけのキスを返してきた。
「お父様とお母様になるかもしれない方ですもの・・・慣れるわ」
小さな声で呟いて立ち上がると、おやすみなさい、と言って部屋を出て行った。
ん?今、綾波はなんて言ったんだ?なんか赤くなってたみたいだけど?
頭の上にクエスチョンマークをいっぱい飛ばしながら、まあいいか、と僕は横になった。
よく分からないけど、今日はいい夢が見れそうな気がする。

(Vol.4へ)



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