少年はそっとため息をついた。

その吐息は傍から聞くと、唯の呼吸音としか聞こえなかった。

碇シンジは物静かな少年だった。

静かに歩き、静かに眠り、静かに食し、静かに息をした。

「……どうしよう……」

少年のつぶやきは唇を滑り、空気を震わせる事なく病室に散った。

ベッド脇に置かれたパイプ椅子の上で、

少年は姿勢を正すと、俯かせていた頭をゆっくりともたげた。

その視線の先には一人の少女が横たわっていた。

『………………』

少年の肩は微かに震えていた。

『……わからないよ……』

少年の逡巡に答えるかのように、点滴の管がゆっくりと揺れた。

白ささえ通り越えて、うっすらと青い少女の腕。

悲しいくらいに痩せた少女の腕に、その管は繋がっていた。

『………………どうして』

ほんの僅かだけ寄せられた少女の細い眉。

引き締められた薄い唇。

少年はその表情が意味するものを知っていた。

見慣れた表情。

毎朝、鏡に写る自分の表情。

『……本当に………………そうなのかな?……………』

少女の呼吸は少年のそれよりも静かで、頼りない。

殆ど起伏する事すらない少女の胸元。

ひっそりと眠る少女。

少年は決断しなくてはならなかった。

she`s so lovely

かぽて

第1話

「手紙を読んでくれたかね?」

それだけ喋るのも、ベッドに身を起こした冬月にとっては大変らしかった。

「……は、はい。……とりあえず一通り」

病室に通されたシンジは、そこで初めて冬月老人に会った。

挨拶もそこそこに冬月は用件を話し始めた。

イギリスに住む碇シンジ宛に、日本の第三新東京市から手紙が届いたのは一ヶ月前の事だった。

同封された何枚もの証書に書類、それに一通の手紙。

送り主の名前をシンジは知らなかった。

『冬月コウゾウ』

封筒を差し出した叔父の顔からすると、叔父は差出人を知っているらしかった。

「……それで考えてくれたかね?」

簡潔に話すのが好みなのか、

或いは余計なことを話す体力がないのか、

老人は無駄な事を話す気が一切無いらしかった。

「は……はい。その、僕なりにいろいろと考えてみたんです」

長い文を喋り慣れないシンジは、たどたどしく言葉を繋いで話した。

「た……ただ、あまりにも突然で。……な、なんていうか……実感が湧かなくて。

で……でも。少なくとも、会って、話をしてみるべきじゃないかなって……。

…………その。か、彼女が話してもいいと言ってくれるなら……なんですけど。

……そう思って、叔父さんに相談したら『好きにしなさい』って……それで……」

シンジは病室内の空気を重苦しく感じていた。

冬月の病状はシンジが想像していたよりもずっと良さそうだったが、

それでも老人のベッド脇には医療機器が並び置かれてい、

それらが発する機械音がシンジの鼓動を忙しなくせき立てていた。

「……ふむ。では、君自身はまだ決めかねていると。そういう事かね」

「は、はい」

老人の乾いた声音からはどんな表情も読み取る事は出来なかった。

シンジは冬月の顔色を窺う自分の心の動きを、朧気ながら感じ取っていた。

数瞬の逡巡の後、少年は続けて言った。

「ただ……その……叔父さんは僕が日本に帰る事を喜んでくれて。

早速いろいろと手続きをしてくれて。

かさばる荷物は後で……送ってくれるそうで……。

あ……あの……それで、とりあえず身の回りの物だけ持って行けばいいって……」

そう言って、シンジは病室の床に置かれた自分のスポーツバッグに目をやった。

なんとなく冬月の顔が見づらかった。

シンジの脳裏に空港から嬉々として帰っていった、叔父の後ろ姿が浮かんだ。

「…………」

シンジが思い切って冬月の顔を見上げてみると、

老人は目を閉じて、何事かに思いを馳せていた。

白髪と病み上がりの痩けた頬が老人の姿を一層と凄みのあるものにさせているように、シンジには思えた。

『この人は僕の事をどこまで知っているんだろう』

そう考えると、少年の心は羞恥の念に絞り上げられた。

今年の誕生日、一人で食事をとった自分の姿がシンジの胸を過ぎった。

「そうか。それならそれで構わんよ。

マンションの管理は行き届いているはずだし、諸々の法的な手続きもあらかた済んでいる。今日からでも暮らせるはずだよ」

「そ……そうですか……」

「うむ。全て遺言に書かれてある通りに手配しておいたよ」

老人の声が微かに変化したのを、シンジは感じ取った。

病室内に老人の感情がゆらゆらと漂っていた。

その想いが意味するものが何であれ、

ようやく老人の内面の動きを僅かでも伺い知る事ができて、

シンジは少し安堵した。

コンコン

ノックの音が空中に浮かんだ老人の感情を瞬く間に消し去った。

シンジと冬月は部屋の入り口に目をやった。

三人の女性が病室に入ってきた。

一人はシンジを病室に迎えてくれた人で冬月の姪の伊吹マヤ。

両手でシンジに渡された見舞いの花を活けた花瓶を抱えていた。

ショートカットの似合う可愛らしい幼い顔立ちの彼女は、

生真面目な感じのする真新しいグレーのスーツに身を包んでいた。

まだスーツ姿が馴染んでいない、そんな新社会人然とした雰囲気が彼女を一層幼く見せていた。

後の二人はシンジの知らない女性だった。

「シンジ君、綺麗な花をありがとね。これでこの部屋もグッと華やぐわ」

そう言ってシンジに微笑みかけてから、マヤは冬月のベッド脇に花瓶を置いた。

「ちょうどそこの廊下で先輩と葛城さんに会ったんですよ」

「冬月先生。手術大成功だったそうですね。おめでとうございます」

「ありがとう、赤木君。おかげでまだ死ねそうにないよ」

冬月は赤木と呼んだ女性に向かって苦笑を浮かべた。

「何をおっしゃってるんですか。冬月先生には一日も早く現場に復帰して頂かないと。

あ、これはうちの課みんなからです。マヤ、これお願いね」

赤木はマヤに見舞いのフルーツバスケットを渡すと、シンジの横に腰掛けた。

紹介されるまでは二人に不躾な視線を投げかけまいと、シンジは身を固くしてその時を待った。

「本当にそうですよ。副所長がいて下さらないとみんなだらけちゃって。これはうちの課からです。マヤちゃん、これもお願いね」

もう一人の女性は何か菓子折のような物をマヤに手渡した。

「何言ってるの。あなたの課で緩みきってるのはあなただけでしょ、ミサト」

「リ、リツコ!それは内緒にしといてって言ったじゃない」

「ひ、否定しなさいよ、アナタ……」

ミサトと呼ばれた女性はくつくつと破顔しながら赤木とシンジの間に椅子を運び入れ、腰掛けた。

するとシンジの鼻先をくすぐるように甘い香りが流れていった。

シンジの頬がうっすらと色づいた。

「どうやら相変わらずのようだね。その調子だと仕事も順調そうではないか」

「何とかスケジュール通りにこなしていますわ」

赤木がそう答えると、ミサトもしたり顔で頷いた。

ミサトの殊勝な仕草が可笑しかったのか、マヤの可愛らしい笑い声が病室に響いた。

三人が入ってくるなり一変した病室の雰囲気に、一瞬シンジは目眩を覚えた。

先刻までの重苦しさは冬月の病状の為でもなく、病室が持つ特有の雰囲気でもなく、

ただ自分がもたらしたものなのかもしれない、とシンジは暗澹たる気持で思った。

「ところで赤木君、葛城君。こちらが碇シンジ君だ。シンジ君、こちらは赤木リツコ君。こちらは葛城ミサト君。二人とも研究所で働いてくれている」

そこでようやくシンジは視線を隣りに腰掛ける二人へと移した。

「はじめまして、シンジ君。よろしく」

赤木リツコはそう言って微笑んだ。

とても落ち着いて、洗練された微笑みだった。

金髪にブリーチされ、丁寧にセットされた髪型。

スタイリッシュに着こなされた黒いスーツ。

彼女は知的な顔立ちをした美人で、目元の黒子が愛嬌を添えていた。

マヤとは違い、リツコは大人の女性の雰囲気をまとっていた。

「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします」

今後この人に会う事があるのかと訝りながら、シンジは返事をした。

「なによぅー、リツコ。堅い挨拶ね~。シンジ君、私は葛城ミサト。ミサトって呼んでね」

言いつつ大げさに手を動かして、ミサトはシンジに握手を求めた。

「よ、よろしくお願いします。ミ、ミサトさん」

差し出された手をシンジは軽く握り返した。

肩まで伸ばされた黒髪。

大胆に着こなしながらも、上品な紺のスーツを自分のものにしている。

リツコとは異質のものだが、大人の女性の持つ空気をミサトも確かに持っていた。

彼女の快活な性格を物語っているかのような爛とした生気を放つ目が、シンジの目をしっかりと捉えた。

数秒だけその視線を受け止めた後、シンジは視線を少し下げた。

ミサトの膝の上には、少し小さめのフルーツバスケットが一つ置かれていた。

「では早速ですまないが葛城君。シンジ君をレイの所まで案内してやってくれないか」

「それじゃあレイに会うのは初めてなんだ」

冬月の病室がある癌病棟の廊下を、シンジとミサトは連れだって歩いていた。

「そうなんです。ミサトさんは会った事あるんですか?」

快活でエネルギッシュなミサトと会話していると、

自分の感情が不思議と昂揚してくるのを、シンジは驚きの念をもって感じ取っていた。

ただいつもより自分が饒舌になっているのは、その所為だけでない事もシンジは理解していた。

これから訪れる少女との対面の瞬間に対する緊張感。

シンジの心は危なげに揺れ動いていた。

「う~んと、以前に……三度……だけね。やっぱり気になる?レイの事」

そう言って、ミサトはからかうようにシンジに微笑みかけた。

「そ、そうですね。…………気にならないって言ったら嘘になると思います」

シンジはミサトが今回の事情をほぼ全て知っていると察して、そう返事した。

「それもそうか。ま、あんまり緊張しすぎない事が肝心よー。やっぱり初めの印象がなんといっても一番大事だからね~」

逆に緊張させるような台詞をシンジに投げかけながら、

ミサトは廊下の表示を一瞥して、それから『一般病棟』と表示が出ている方へ曲がった。

「あ、あのどこかに寄るんですか?どなたか知り合いが入院されてるんですか?」

シンジはミサトの持つフルーツバスケットを見やってから尋ねた。

「……へ……。……シンジ君聞いてないの?」

ミサトは間の抜けた声を発すると、立ち止まってシンジの顔をのぞき込んだ。

こうして並んで立ってみると、ミサトはシンジより頭一つ程背が高かった。

「え……えーと……何をですか?」

「今、レイもこの病院に入院してるのよ」

歩きだしながらミサトは答えた。

「……え……え……そ、そうなんですか…………。あ、あのそれで……それで…………大丈夫なんでしょうか?」

ミサトと並び歩きながら、シンジは自分の鼓動が困惑の音をたてているのを感じた。

「うーん」

ほんの少し頭を傾けながら唸ると、ミサトは続けて言った。

「二週間ばかし前にね、浅間山のハイキング道で倒れている所を発見されて、病院に担ぎ込まれたの」

「え……」

ミサトはそこで話すのを止めて、廊下を曲がり、そして階段を登り始めた。

シンジもミサトに倣った。

「発見された時、レイは風邪をこじらせて軽い肺炎にかかっていたらしいの。それと栄養失調。

でも今はどっちも心配ないわ。今日最後の点滴を打ってもらって、それから念の為に一晩泊まって。それで明日には退院出来るらしいから」

「肺炎に……栄養失調ですか」

「そう」

「そんな…………。どうして……風邪をひいてたのにハイキングなんかに……」

「それがね、解らないの。

学校でハイキングに行ったわけでもないらしいし。どうしてそんな所に一人でいたのか、誰が聞いても教えてくれないのよ。まだ紅葉には早いし、ホント何しに行ってたのかしら」

と、そこでミサトはふいに足を停めた。

すると病室についたのか、

とシンジがミサトの顔を見やると、彼女は緊張した面もちで前方を見つめていた。

そこでシンジもそちらに目を向けた。

廊下の少し先にある病室から男が出てくるところが目に映った。

シンジにはその男が医者には見えなかった。

ミサトよりも更に背が高いであろうその男は、室内にも拘わらず濃いサングラスをかけ、

黒のスーツに黒いタートルネックという異様な格好をしていた。

病室のドアを静かに閉じると、男はシンジ達の方に向かって歩いてきた。

顎の線に沿って生やされた髭が、男の風貌を更に周囲から浮き立たせたものにしていた。

「しょ、所長。所長もレイのお見舞いですか?」

ミサトがやや上擦った声で男に話しかけた。

『所長って……え……所長!……あ……あ……じゃ……じゃあ……この人が!』

シンジは自分の耳の中で何かが激しく脈打つのを感じた。

ふいにやってきたあまりにも大きい衝撃に、シンジは無防備に撃たれた。

少年は何も考える事が出来ず、

息さえも止めて、

ただ大きく見開かれた目でその男を見つめた。

周囲の温度が急速に下がっていくのが感じられた。

非現実感に圧倒されながらも、

少年は自分が自分の悪夢に対峙している事を知った。

「葛城君。冬月の様子は?」

男はミサトの質問には答えずに、ひどく冷めた口調で質問を返した。

「……は、はい。

顔色も以前に比べて随分と良くなられていて、体力も少しずつ回復しておられるようでした」

「……、そうか……、」

とそれだけ言って、男はミサトの脇を通り過ぎ、

そして二人が登ってきた階段を降りていった。

二人は何も言えずに呆然とその後ろ姿を見送った。

数瞬の後、ようやく二人の周囲を包む時間が正常に時を刻み始めた。

「………………。ちょっ、ちょっと、あれはないんじゃない。いくらなんでも。せっかくこうしてシンジ君が来てるのに。ねえ、シンジ君。今からでも何か言いに……」

「…………」

「……ちょっと……シンジ君。大丈夫? ねえシンジ君……」

複雑な表情で振り向いたミサトは、そこでようやくシンジの様子がおかしいのに気づいた。

シンジに呼びかけながら、両手を少年の肩にかけて軽く揺すった。

すると少年の口からかすれたような音とともに呼吸が漏れた。

見開かれた目を今度はきつく閉じると、激しく息を喘がせてから、ようやくシンジが答えた。

「だ……大丈夫です……。ちょっとビックリしちゃって……それで……」

「……そ、そうね。無理もないわ~。いきなりあれじゃあね~」

ことさらにミサトは明るい声で答えた。

シンジは拡散した意識を拾い集めようと、心の中に足場を求めた。

「………………」

『そうだ。今、病院にいるんだ。これからお見舞いに……、い、いや、そうだ会いに来たんだ。それで、それから……』

「どう?落ち着いた?」

「え?……は、はい。すいません。もう……、大丈夫……です」

狼狽しつつ答えるシンジの額はうっすらと汗をかいていた。

ミサトは黙って自分のハンカチを取り出すと、シンジに差し出した。

「……ありがとう……ございます……」

シンジは礼を言うと、受け取ったハンカチで額を押さえた。

すると辺りに柑橘系の甘い上品な香りが微かに漂った。

それは先程病室でシンジが嗅いだものと、同じ香りだった。

シンジはレイの寝顔を見つめた。

彼女の周囲は現実感を受け入れるのを拒否しながら、

ひっそりと幻想的な雰囲気を振りまいていた。

暗幕が引かれた病室の窓からは昼の光が一切射し込まず、

唯一ベッド脇の読書灯だけが室内を照らしていた。

蛍光灯の光を受けて、レイの色素を持たない頭髪が白く鈍く光っていた。

暗い病室内にぼんやりと白く浮かび上がるレイの横顔を眺めながら、

シンジはまだ見ぬ彼女の瞳は何色なのだろうかと思った。

「アルビノ?」

「正確にはチロシナーゼ活性陰性の全身型。レイは生まれつき全身のメラニン色素が欠乏しているの」

「メラニン色素が……」

「そう。それでねシンジ君には二つだけ心に留めておいて欲しい事があるの。

まずレイは視力が弱いの。盲学校に通うほどではないらしいのだけど、日常生活の中で何か困る事があるようならば手を貸してあげてね。

普段は眼鏡をかけてるから不便はないだろうけど、それでも近くを見るのに苦労する時があるみたいだから。

それと紫外線には十分に気をつけてね。なんの対策もしないで陽の光に晒させては駄目よ」

「紫外線ですか……。はい。分かりました」

「うん。それじゃ私は副所長とちょっと話すことがあるから。30分くらいしたら、迎えに戻ってくるわね。それからマンションまで送るわ」

「はい。あ、あの。ありがとうございます」

「どういたしまして。そいじゃね」

瞳を閉じているだけで顔の特徴って分からなくなるものだな、とシンジは一人思った。

やつれて青ざめた少女の頬、前髪に隠された額、そして閉じられた瞳。

本来特徴的であるはずの少女の風貌も、今は唯の病人の女の子としかシンジの目には映らなかった。

ただ軽く引き結ばれた唇だけは、自分がよくする癖にそっくりだとシンジには思えた。

『………………僕の妹か…………………………』

少年が持つ事さえ許されなかった性を名乗る少女。

自分だけが両親に捨てられ、愛情を身に受ける事ができずに、全てはまだ見ぬ我が妹に奪われたと、そうシンジは思ってきた。

妬ましさと恨めしさに、少年の心は何度も焼き切れそうになった。

その少女が今、眼前に横たわっている。

頬はそげ、顔色は冴えず、苦悶の表情を浮かべて、暗い病室で一人眠っている。

そんな少女の悲しい姿を見ても、シンジの心は晴れなかった。

『……、そうだ僕は…………ずっと自分だけが………………』

『……どういうつもりだったんだろう……この子と暮らせって…………』

不意に、シンジの脳裏を黒ずくめの父親の姿が襲った。

母の遺志と父の後ろ姿がシンジの中でぐるぐると目まぐるしく回った。

『何故あの人は自分の娘を栄養失調になるまで放っておいたのだろうか。…………こんなになるまで…………。それに、肺炎になってたって…………』

シンジは自分の中に怒りの種火を見つけた。

そして、少年の中で、全てが、リンクした。

自分がどうしようもなく浅ましい人間に思えて、

胸が押しつぶされそうになったシンジは、

左手をそっと胸に押し当てながら、痛みの波が去るのを待った。

『……そうだ……僕は……僕は、嬉しかったんだ……』

冬月老人に『まだ決めかねている』と告げたのは、それはただ知られたくなかったからなのだ。

人との絆に飢え、それ故に拒絶される事を恐れた自分の心が取らせたポーズ。

『…………そうして何もかも父さんと……母さんのせいにして……

……………………本当はただ嬉しかったって……それだけなのに……』

『…………そうだ、理由なんて……理由なんて、いらないんだ』

そうだよ

傷つくことには慣れている

だから、君が望むならその手に持ったナイフで僕の心を刺してくれればいい

……だけど

もしかしたら、僕たちは家族になれるかもしれない

その希望だけで、僕はもう充分だから

だから……

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