最近、変わったものを食べるようになった。
朝食にトースト、フルーツ、紅茶を一杯、それに卵料理。
片面が焦げた目玉焼き、ぽそぽその(あるいはぐちゃぐちゃの)スクランブルエッグ。
それから、「お昼にパンか、お弁当を買って食べてね」とお金を渡されるようになった。
だから、最近はパンをお昼に食べる。それと水。
夜はシチューかスパゲッティー。
シチュー、シチュー、スパゲッティー、ほかほか弁当、シチュー、シチュー、スパゲッティー。
先週の献立。
 

食べ方も変わった。
朝と夜は、話を聞きながら食べる。

「うーん。茹ですぎちゃったね。、、、、、ごめん、次からはがんばるよ」

「いつかオムレツに挑戦できる日がくるのかな、、、、、、、、はぁ〜」

碇君は料理が好きなのだろうか?
料理の話をよくしている。
そして、食べている私の顔を見ている時もある。
 

葛城さんが食べに来る事もある。
朝でも、夜でも、突然現れる。
碇君は何も言わずに、葛城さんの分も料理する。
それから、猫のペンペンを連れてくる時もある。
碇君は温めた牛乳とキャットフードをだしてあげる。
 

葛城さんはたくさん話す。
ネルフの事、碇君の事、私の事、天気の事。それと私には分からない話もする。
葛城さんがきた時は、碇君もいろいろと話す。
料理以外の話。
ペンペンは食事を終えると、私の足下に来て、丸くなる。
足下が温かい。

「あら。レイの事気に入ったみたいね」

よく分からない。
 
 
 

今朝も、葛城さんが来ている。
フライパンを持つ碇君の横に立って、何か話している。
邪魔をしているのだろうか?
碇君が抗議の声をあげているのが聞こえる。
ペンペンはミルクを飲んでいるようだ。

顔を洗って、制服に着替えて、食卓につくと、朝食が並んでいる。
トースト、紅茶、スクランブルエッグ、茹でたブロッコリー、赤い豆のようなもの。

「久しぶりに食べてみたかったんだけど、、、、嫌いなら、残して」

碇君が葛城さんにしている話によると、
豆のトマト煮はイギリスの伝統的な朝食メニューなのだそうだ。

「うん、シンジ君。おいしいわよ、これ」

どうやら「おいしい」らしい。

私には美味しいという事がよく分からない。
でも、温かい食べ物は好き。
トーストも、紅茶も、卵も、豆も、スパゲッティーも、シチューも、温かい。
だから、昼に食べるパンはあまり好きじゃない。
でも食べないと、「お昼ちゃんと食べた?」と聞かれた時に困る。
「食べてない」と返事をすると、碇君はなんとも言えない表情をする。
その表情を見ると、胸が痛い。
 

「どう、レイ?今日の朝食は。
最近、シンジ君も腕前上げてきたわよねー。ほら、卵の火加減も丁度いいし」

「、、、、、、、、、、、、、、はい」

一瞬だけ、碇君と目があった。
 
 
 
 
 
 


She`s so lovely

第四話



 
 
 
 
 
 

「呆れた。それは、いくらシンジ君でも怒るわよ」

「だってー、焦れったいんだもん。もう顔に思いっきり出てるのよ」

「だからってアナタが口出しする事じゃないでしょ。
大体、なんで保護者のアナタがシンジ君にご飯作ってもらってるのよ」

「だから、保護者じゃなくて、、」

「はいはい、それで『優しいお姉さん』は、なんで、シンジ君の家でご飯食べてるのよ」

「、、、、、、、、なんでだろ?」

「なんでだろって、アナタね、、、」

リツコのオフィスに太いため息が響いた。
とぼけた顔でソファに腰掛けるミサトは、モニターの前に座るリツコを見やった。
全てのOA機器、インテリアが整然と並び置かれているオフィス。
モニターにはネルフのロゴが大写しにされていて、
どうやら仕事中にミサトが乱入してきた事を告げていた。
脱力状態からようやく立ち直ったリツコが、ミサトにもう一度小言を言おうとすると、
その時、オフィスの扉が開かれ、コーヒーを載せたトレイを持ったマヤが部屋に入ってきた。

「どうしたんですか。何だか随分と楽しそうですけど」

コーヒーを渡すと、マヤは二人にそう問いかけた。
相変わらず初々しい、ぱりっとした服装をしているマヤ。
それでも、リツコのオフィスにきちんと馴染んでいる、といった感じだった。

「ありがと、マヤちゃん。
今ねー、ちょっとシンジ君とレイの話をしてたのよ」

「ありがとう、マヤ」と落ち着いた声で礼を言うリツコをよそに、ミサトは言った。

「そうなんですか。どうです、二人とも元気にしてます?」

「元気よー。マヤちゃんも顔見せてあげてよ、きっと喜ぶから」

「はい。じゃあ、今度、是非」

マヤはそう言うと、トレイを胸に一礼して、部屋を出ていった。
 

「どう、マヤちゃんは?アナタのいびりにも耐えてる?」

「い、いびってるわけないでしょ。まったく、、、、、、、。
よくやってくれてるわ、あの子。ちょっと生真面目すぎる所もあるけど」

そう言ってから、リツコはコーヒーを一口啜った。
オフィスにコーヒーの香ばしい薫りが漂った。

「それで、本当の所は、何を話しに来たの?
朝ご飯の自慢をしに来たわけじゃないんでしょ」

「ん〜」

ミサトはちらりと思いを巡らせると、リツコに向かって答えた。

「どうなのかなー、と思ってさ。
やっぱりちょっとお節介かな?
今朝だって、シンジ君があんなに嫌がるとは思わなかったのよ」

「珍しいわね、アナタがめげるなんて」

「、、、、、、、、、、、、、、、、」

「、、、、、、、そうね、私が思うに、シンジ君はレイの自然な反応が欲しかったのじゃないかしら。
口下手な代わりに料理して、家事をして、そうやって遠回りにしか近づけない、、、、、、。
、、、、、、、きっと、拒絶されるのが恐いのね」

そこで、リツコはめったに見られない俯き加減なミサトに視線を投げかけ、続けて言った。

「それなのに、アナタがレイに根ほり葉ほり聞くから耐えられなかったのよ。
聞きたいけど、聞きたくない、、、、、、、、、、そんな所じゃないかしら」

「、、、、、、聞きたいけど、聞きたくないか、、、、、、、」
 

リツコはコーヒーをもう一口啜ると、苦い顔をして、何事かに思いを巡らせた。
純白のコーヒーカップに淹れられたコーヒーをのぞき見ながら、
リツコは揺らめく自分の瞳に、黒い影が浮かぶのを観察した。

「、、、、、、それに、いくら聞かれてもレイは答えないわよ。
、、、、、、答えを知らないから、、、、、、、」

「、、、、何、それ?どういう意味?」

「、、、、、ちゃんとした食事、綺麗に保たれた部屋、ぱりっとしたシーツ。
そういうものに無縁な生活を送ってたのよ、あの子は。
だから、美味しいか、とか、嬉しいか、なんて質問には答えられないのよ」

「、、、、、、え?、、、、だって、そんな、、、、、、、
、、、、、確かに、以前暮らしてたアパートはそんな感じだったけど、、、、、
でも、、、、、、、ユイさんの生前には一緒に暮らしてたんじゃないの?」

「、、、、、、、、私も詳しい事は知らないわ。ただ、母にそう聞いただけ、、、」

リツコは手元のコーヒーカップを見つめながら、そう返事した。
 
 

瞳に映る黒い影

コーヒーの中に溶けていけばいい、、、、、
 
 

彼女の手元でソーサーがかちゃりと音をたてた。
陶器のたてる音は、リツコの頭の奥深くにまで響き渡った。
ほんの少しの間、彼女は目を閉じた。
 

「、、、、、、、、、、、そんな、、、、、、、、、
でも、だからって、何も感じないって事にはならないわ、、、、、」

「、、、、、、そうね。
ただ土壌が育っていないだけなのかもしれないわ。
感情の発露を表現に昇華するプロセスができるだけのね」
 
 

そうじゃない

何も答えられないのは私の方
 
 

やがて、自分の瞳がいつもの落ち着きを取り戻したのを確認すると、
リツコは静かに顔を上げた。
 
 
 
 
 
 



 
 
 
 
 
 

昼休みが始まってから二十分経つというのに、シンジは買ってきたパンに手をつけてさえいなかった。
中庭にある、何に使われているか分からない古い木造建築物。
その建物の側にある木陰に、シンジは一人佇んでいた。
十月の芝はひんやりとしていて、熱く煮詰まった頭に心地よかった。

転校から十日。
シンジは未だに教室に居場所を作れずにいた。
少年の心の引き出しには、「友達の作り方」は仕舞われていなかったから。
一歩踏み出そうとして、それだけでからからに乾く口の中。
古傷がずきずきと疼いた。
 

しかし、シンジが食欲さえ失っているのは、別の理由によるところが大きかった。
生まれて初めて人前で大声を出した事。

「もう、止めて下さい!」

居たたまれずに、食卓を離れた事。
残された二人の顔を見ることさえしなかった。
 

シンジは後悔していた。

ミサトが二人を気遣っていてくれる事を知っていたから。
冷蔵庫にしまい込まれたビール、床に置かれたミルク皿、棚に並ぶキャットフード、
そしてミサトの為に用意された一膳の箸。
ぎこちない兄妹を取り持とうと、投げかけられる軽口。
レイとシンジの為に奔走してくれたミサト。
彼女がもたらす存在感は何度もシンジを励ましてくれた。
 
 

それなのに、、、、、。
八つ当たりしてしまった。
 
 

慣れない土地、慣れない勉強、慣れない家事。
シンジの心身はかつてなかったほどに疲れ切っていた。
苛立ちをコントロール出来ないほどに。
 
 

本当は軽く受け流すべきだったんんだ、、、、、。
でも、、、、、、、出来なかった、、、、。
 
 

二人きりの時は、かけた言葉が返ってこない食卓。
レイが保つ空間に対して、どのように、どうやって関わればいいのか、少年には見当もつかない。

『せめて食べ物の好き嫌いから話題を広げられたら、、、、』

シンジの淡い期待はいつも、食卓の上に霧となって消えた。

本当は心待ちにしているレイからの一言。
シンジはうすうす自分でも本心に気付いていた。
でも、なんだか自分が浅ましく思えて、意図的に意識を逸らしていた。
 

そんな自分の気持が、むき出しにさらけ出されてしまった気がして、、、、、、

シンジは逃げ出した。
 
 

、、、、、、、、、、、、

これから、どうしたらいいんだろ、、、、、、。
 

そこで、止まってしまうシンジの思考。
日本に来てからというもの、少年は自分がいかに人との関わり方を知らないかを痛感させられていた。
 
 

素直に謝る事さえできないのか、、、、、、、
 
 

シンジは芝を一本だけ摘むと、そっとちぎり取った。
 
 

「碇」

突然、シンジの足下の人影が声を放った。

シンジが顔をあげると、そこには、いつか病院で会った、黒いジャージを着た少年が立っていた。
その隣りに、どことなくはしこそうな風貌で、眼鏡をかけた、
シンジと同じ様な体格の少年が付き添っていた。
二人の手に持たれたビニール袋。
突然の来訪者に、シンジは戸惑いを隠せなかった。

「、、、、、、、、えっと、何?」

シンジの問いかけを合図に、ジャージを着た少年はびくっと身を震わせると、
まるで額を地面に叩きつけようとするかのように、もの凄い勢いで頭を下げた。
 

「すまんかった。ワシ、、、勘違いしとった。
妹の命の恩人とは知らずに、ホンマすまんかった」

「、、、、、え?、、、、い、命の恩人って。、、、、、それ、勘違いだよ。
葛城さんって人がいろいろと教えてくれただけで、僕は何もしてないんだ」

面食らったシンジが慌てて答えると、目の前の少年は顔を上げ、ますます勢いこんで言った。

「そんなことあらへん。
病院のセンセー、応急処置が良かったって、そう言うてたわ。
妹のヤツが舌を喉につまらせたままやったら、救急車が着く前に窒息しとったかもしれんて、、、」

「、、、、、、、、、、、、、ワシ、勘違いしとった。
あの前の夜、なんや妹のヤツ、ボーイフレンドができた言うて自慢しとったんや。
それで、最近の小学生はえらいナマイキやなー、思うとったんや。
そこにあの事故やろ。
ワシ、碇がそのボーイフレンドや、って勘違いしてしもて、、、、。
『何や彼氏のくせに、なんでちゃんと守ってやれんのや』思たら、カーっとしてしもた、、、、」

以前会った時の怒りに満ちた口調と、あまりにも対照的な少年の物言い。
聞いていると気の毒になってくる程の、ひどいしょげようだった。

「、、、、、、、そ、そうだったんだ。、、、、、と、とにかく誤解が解けてよかったよ。
それより、妹さんどうなの?、、、、大丈夫、、、、なのかな?」

「もうピンピンしとるで。
それで、『私の命の恩人になんて事してくれるんや!さっさと謝ってこんかい』って、怒鳴られてしもた。
もう、来週には退院や。まあ、松葉杖と、ギプスはしとるけどな」

一転、今度は元気な口調でまくしたてる少年。
感情のめりはりが効いたその姿に、なんとなくシンジは安堵した。
あの事故以来、もっと自分が落ち着いていればと、ずっと悔やんでいたから。

「、、、、、、この場合、おめでとう、って言ってもいいのかな」

「ああ、ホンマ何から何まですまんかったな」

そこでようやく、二人の少年は笑顔を浮かべ合った。
 

「やれやれ、これでようやくトウジの『どうしよか』攻撃から逃れられるよ。
コイツ、この一週間ずっと『どうしよか』ばっかりでさ、なかなか謝りに行かないんだよ。
しまいには妹にも怒鳴られるし、ホント意外な所で気が小さいんだよなー。
まあでも、ひどく気にしてたみたいだからさ、許してやってよ」

眼鏡の少年が一歩前に出て、肘で隣り立つ少年を軽く小突きながら、シンジに向かって言った。
その落ち着いた話しぶりが、ジャージの少年と好対照で、何やら微笑ましかった。

「そ、そんな。許すも何も、全然気にしてないから、、、、、、、」
 

なんだか不思議な巡り合わせだな、とシンジは思った。
図らずも、同じ少年に二度励まされた。
偶然のタイミング。
見知らぬ力が働きかけてくる。
自分の存在を薄める事だけを考えていた頃には、このような経験をしたことは無かった。
 

「、、、、、、、そっか。
そうそう、俺は相田ケンスケ。二年B組なんだ。よろしくな」

「なんやケンスケ、ずるいで自分一人で。
ワシは鈴原トウジ。同じく二年B組や」

今度はトウジがケンスケを押しのけて、前に出るなり言った。

「はいはい。ヘタレは後にして、後に」

「なんやと!誰がヘタレや、誰が」

「おーおー、恐い恐い。まったく、内弁慶なんだからなぁー、、、、、、、、」
 

シンジの口から、自然に、笑い声がこぼれた。
 

そうか、、、、、、、、そうだよ、、、、、
 

久しぶりにシンプルに割り切れた喜び。
気のせいだろうか、晴れた霧の中に、意識のフォルムがはっきりと見える気がした。

不安な心には蓋をして、シンジは前を向いて二人に話しかけた。
 
 
 
 
 
 



 
 
 
 
 
 

「どう?なかなかのもんでしょ」

実際、なかなかの光景だった。
夕日に染め上げられた第三新東京市。
高台にある公園からのその眺めは、ミサトにとって特別なものだった。

つらい時には夕日を見て、悲しい時には朝焼けを見る。
つらさは乗り越えて、悲しみは忘れたくないから。

胸の内でそっと、隣りに座る少年に告げた。
 

「、、、、、、、、、すごいですね」

夕日に照らされた少年の横顔。
なんだかミサトの知っている表情と少し違って見えた。
 

少年を包みこむ夕日のシルエットの向こう側に、すばやく見え隠れする幼い自分の影。

少しだけ、ほんの少し、目の奥がつーんとした。
 

最後に泣いたのはいつだったろう、、、、、、

思い出すのにちょっと時間がかかった。
 
 
 
 

少年がいつも利用するアーケード。
三十分も待たない内に、学校帰りの彼が通りかかった。
想像とは違って、あまりあたふたとはせずに、静かに自分の後についてきた。
公園に着くと、計ったようなタイミングで、丁度クライマックスが訪れようとしていた。

『第三新東京シアターへようこそ』

大げさな自分の身振りに、少年は笑って応えてくれた。
特等席に腰掛けると、しばらく黙って夕日を見続けた。
 
 
 
 

「今朝、すいませんでした、、、、、、」

そう言う少年の瞳が、軟らかく波打っているのが見える。
やがてその波が寄せて返すと、ミサトの心のさきっぽが赤く染まった。

腰掛けている手すりに添えられた少年の赤い手が、微かに震えている。
 

もう一度、ミサトの目の前を懐かしい影が過ぎった。
 

「、、、、、、ううん、私が無神経だった。、、、ごめんね」
 

最後に素直に謝ったのはいつだったろう、、、、、、

今度は、、、、、ちょっと思い出せそうになかった。
 

「そんな、、、、、、、、そんな事ないです、、、、、
、、、、ミサトさんには、本当に感謝してます、、、、だから謝らないで下さい」
 

また、

いつもと少し違って見える少年の横顔。
微かな、本当に微かだけど、確かな変化。
 
 

この少年が男の子でなくなる頃には、どんな顔をするようになっているのだろう
 
 

「、、、、、、、私もね、昔、父といろいろあったの、、、、、、
、、、、、そのせいなのかな?、、自分でもよく分からないんだけど、
シンジ君の事聞いた時、なんだか放っておけなかったの、、、、、、」

夕日に目を向ける自分と入れ違いに、少年の視線が頬にそっと触れた。

「、、、、、でもね、、、別に、同情したわけじゃないと思うの、、、、
、、、、じゃあ何かっていうと、それは自分でもうまく言えないんだけどね、、、、、」

「、、、、、、、、、、、、、そうですか、、、、、、、、、、、、、
、、、、、、、大人になっても、うまく言えない事ってあるんですね、、、、」

少年の素顔の声は、静かで穏やかな、そんな優しい声だった。

「、、、、そうね、、、、、、私には、、、たくさんあるわ、、、、、、」
 

今日聞いたばかりの、リツコの話が耳によみがえる。
レイと綾波夫妻。
両者の間に、一体何があったというのだろう。
 
 

ううん、

そうじゃない、、、

一体、

まだ幼い少年と少女に、私は何を求めているのだろう、、、、、、
 
 

「今日はカレーを作ろうと思うんです。
、、、、シチューの応用というか、割と似ているみたいだし、、、、、、
それで、、、あの、、、、良かったら、又、食べにきてください、、、、
あんまり美味しくないでしょうけど、、、、」

今度は、今までの少年らしさが顔をのぞかせた。
穏やかな声で、少し怯えて。
ミサトが振り向くと、少年の端正な横顔が朱に染まっていて、思わず息をのんだ。
 
 

ああ、、、、、、、

今度こそ、
今度こそ、はっきりと見える。

ゆっくりと話す少年の向こう、
懐かしいような、悲しいような、夕日の光の真ん中に、
全てを止めてしまった少女の頃の自分が、、、、

、、、自分が、、座っているのが見える。

赤い光が落ちるダイニングテーブルに、涙の池。
深く暗い絶望が横たわる部屋。
夕焼けに彩られながら、何も、何もかもが、動かない。
 

でも、

今なら聞こえる、、、、、

あの時は聞こえなかった、自分の心の慟哭

誰か、、、、誰か連れ出して、、、、
 
 
 
 
 
 
 

ごめん

ごめんね

今まで、ごめんね、、、、、
 

行こう、、、、、

行こうね

一緒に、行こうね
 
 

さあ、手をとって
 

、、、、、大丈夫だよ、、、、、
 

ほら、、、、、、、、、、ね?
 
 
 
 
 
 
 
 


 

Please Mail to かぽて
( hajimesu@hotmail.com )

 

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