からす

中編

written by トモヨ


 「碇〜〜起きとるかぁ」

 「シンジ準備できたぁ」

 「綾波さんおはよう」


 最近の葛城家には、朝三人が訪ねてくる事が多い。土曜日で学校がないにも関わらず、その日もヒカリとトウジとケンスケがやってきた。今日はシンジもレイもシンクロテストなどがない自由日だ。今日三人が来たのは、レイの買い物に付き合う為だ。葛城家に来ることが多くなったヒカリがまず驚いたのは、レイが私服を殆ど持っていないと言うことだった。そこでクラスのおっかさんは皆でレイの私服を買いに行くことに決めた。勝手に決めた。

 ヒカリに逆らうと後が怖いというのか、トウジとケンスケも付いてきている。


 葛城家の戸が開く。


 「うわぁ〜〜」

 「うおぇ」


 変な叫び声はトウジとケンスケのものだ。レイが下着姿のまま戸を開けたからだ。全体的にはほっそりとしているのだが意外なほどに胸と腰が豊かだ。声を上げたくなるのも判る。しかもいい加減な下着の付け方なため今にも下着が取れそうに見える。


 「おはよう」


 挨拶をする。前で興奮している二人の首根っこを掴み、左右にはね飛ばすようにヒカリが慌てて前に出る。


 「綾波さん下着姿は……早く戻って」


 レイは少しヒカリを見ていた。考えているみたいだ。


 「そうね」


 廊下を戻っていく。部屋に戻る。後ろでヒカリの不潔よ〜〜と言う声と共に変な音がしていた。トウジとケンスケが折檻でもうけているのだろう。


 「あっ洞木さん」

 「大体碇君がきちっと言ってあげないから……ミサトさんに任せていちゃ駄目よ。まさか碇君、綾波さんが全然気にしないからって変な事していないでしょうね」

 「する訳が」


 部屋から出たところを巻きぞいを食らい、ヒカリに怒られているシンジの声が聞こえる。BGM代わりに聞きつつレイは一旦素っ裸になり、全身に紫外線避けのクリームを塗る。今日のように日差しが強い日は、きちんと処理をしないと肌が水ぶくれだらけになる。やはり紫外線から眼球を保護するための目薬をさす。下着を付けてシンジのYシャツとジーンズパンツを身につけた。私服が無いので制服以外だと他にあまり着る物がない。勝手にシンジのシャツを着た。胸が少しきついがあまり気にしない。

 厚手のソックスもだ。部屋を出た。玄関口でまだシンジがお説教をくらっている。


 「用意できた」


 レイがやってきてぼそりと言う。


 「綾波さん癖毛が一本」


 ヒカリが持ってきた小さなバックから手鏡を出す。レイに渡す。レイが手鏡を見ると、確かに頭頂に一本棒のように癖毛が立っていた。なんども手で寝かせようとするが、もともと太くて固い髪質のせいかぜんぜん寝ない。リツコに言わせると髪の蛋白質が遺伝子レベルから少し違うそうだ。レイは面倒になったのか引き抜いた。


 「いいわ。ありがとう」


 レイはヒカリに手鏡を返した。


 「碇君は準備できているの」

 「出来てるよ」


 シンジは可もなく不可もなくという普通の格好だ。


 「あっちょっと待って」


 シンジは居間に戻って行く。大きな麦藁帽をもって戻ってきた。レイの髪の毛は常人の物より熱がこもりやすい。簡単に熱射病になる。レイの頭に乗せた。


 「じゃ行こう」


 皆が外に出るとシンジは鍵をかける。皆でエレベーターに向かう。エレベーターが上がってくるのを待った。


 「ねえ碇君、ミサトさんって家政婦さんとか雇わないの」

 「何で」

 「だって、ミサトさんは家事まるで駄目そうだし、綾波さんもそんなに得意そうじゃないし。それに」


 何となく言いにくそうにヒカリが口ごもる。


 「ほら下着なんかは洗いにくくない」

 「わたしは構わないわ」


 ヒカリとシンジの会話に珍しくレイが横から口を入れた。


 「あの、綾波さんがいいならいいのかもしれないけど。どっちにしてもネルフで費用出してくれるんでしょ」

 「うん、そうだね。相談してみる」


 エレベーターの戸が開いた。



 下に降りてマンションの前の通りをバス停に向かう。今日は日差しが強いので、歩いてレイが熱射病にでもなったら困る。バス停までの道のりをヒカリがレイを引っ張るように連れて行き、その横にシンジがいる。少し離れてケンスケとトウジが付いていく。

 シンジとレイが外を歩くと、通行人はいろいろな反応をする。小さい子供は、ロボットのパイロットだぁと寄ってきたりする者もいる。同じぐらいの年齢に成るとシンジやレイに憧れの視線を向ける者、わざと意識していないような振りをする者、本当に気にしていない者などがいる。ただ時々、嫌悪や憎悪の視線を向ける者もいる。親戚が使徒戦で死傷したのかもしれない。大人も似たようなものだ。レイは全然気にしないが、シンジは視線が気になるらしい。俯き気味に歩く。

 中には近寄ってくる者もいるが、ヒカリとトウジとケンスケが側にいるため、何かしたり言ったりする者はまれだ。


 バスに乗っても似たような物だ。外に出て少し経つと視線に慣れてくる為、シンジもびくつかなくなってくる。一時視線恐怖症になりかけたシンジは、気にしなくなるような軽い暗示をかけて貰っている。バスで10分ほどで第三新東京市の中心部駅前の大通りに着く。流石に土曜日の午前中は人通りが激しい。特にこのところ使徒が来ていないので町に活気が戻っている。人通りが激しくなると、シンジは人混みに紛れやすい容姿のせいか視線も感じなくなる。レイも大きめの帽子で髪の色が隠れるので目立ちにくくなる。もっとも瞳の色で気づかれるのだが。


 一行は駅前の百貨店に入っていく。エスカレーターで8階の衣料雑貨のコーナーに向かった。ヒカリに気合いが入りまくっている。今日の買い物はヒカリの提案だが、ミサトにも頼まれている。その上財源としてネルフのチルドレン用の雑費から落ちるクレジットカードを渡されている。レイの買い物と今日の皆が使う分は余程非常識な額でなければ全額負担してくれるらしい。


 その後レイは殆ど着せ替え人形に成った。ブラウスやスカートをとっかえひっかえ試着させられる。特にレイはどれがいいと言わないので、ヒカリの見立てだ。あとシンジやトウジ、ケンスケにも一応意見は聞くがあまり参考にはしない。

 二時間ほどで上下10着、下着も可愛い物を20着、靴や帽子なども買った後、一つ上の階のレストランで昼食になった。買った物は一組だけ紙袋に入れシンジが持ち、残りは送って貰うことにした。シンジが持ったのはヒカリがそうするものだと力説したためだ。


 食休みに屋上のプラネタリュウムで時間を潰す。トウジなどは軽いいびきをあげて寝ていたが、レイとシンジはそれなりに興味があるらしい。じっくりと見ている。ケンスケは写真小僧だけではなく天文小僧でもあるらしい。隣の席のレイにあれこれ説明をしている。ヒカリは神話のお姫様の悲劇を聞いて涙ぐんでいる。


 トウジが目を覚ました頃上演が終わったのでみな会場を出た。早速トウジはヒカリに居眠りのお説教をくらっている。


 階段を下りていき7階のブランドショップの横を通り過ぎたときだった。珍しくレイが自分から足を止めた。ショーウィンドウを見つめている。一応常夏の国になった日本だが、それでも季節毎に発表されている新作が飾ってあった。

 黒いワンピースだ。そのワンピースに合わせた靴やハンドバックや帽子などがあった。それは大人用だけではなく、親子で着る為か子供用の物も飾ってあった。流石新作だけあって目が飛び出るような値段の札が置いてある。


 「素敵よねぇぇ」


 大人びたそのワンピースと一式にヒカリも目を奪われるが、値札を見てため息を付く。暫くレイは見ていたが、店に入っていった。慌てて皆ついていく。店長らしき女性が一行に近づいてきた。場違いな高級婦人服売場に入り込んだせいかヒカリ、シンジ、トウジ、ケンスケは少し居心地が悪そうだ。


 「いらっしゃいませ」


 場違いとは思っているだろうが、そこは営業スマイルを崩さぬ店主が挨拶をする。


 「ショーケースの秋の新作ください」


 レイに言われてしみじみと店主はレイを見た。暫く見ていた。今までの営業スマイルが消えた。真剣な表情だ。


 「はい。ではこちらへ。お連れの方はこちらでお待ちいただけますか」


 それでも微笑みを取り戻し応接セットに案内する。店員にお茶などを用意させ、店主はレイと共に試着室に消えた。暫くヒカリ達が待っているとレイが戻ってきた。


 「素敵」


 ヒカリの言葉で全て済みそうだ。病的に白い肌のレイが黒いワンピースを付けると、人間離れした雰囲気を醸し出す。黒いと言っても喪服ではないので、艶がありきらきらと輝く素材のワンピースだ。色映りしないように下着まで黒らしい。似たような素材のつばの大きい帽子と小さなハンドバック、黒いローヒールの靴。まるであつらえたかのようにレイにサイズがあった。


 白い肌を黒い艶のある生地が覆う。そして紅い瞳が輝いている。どこか忌まわしさがあり、その為余計美しかった。やはり黒は人の為の色ではないのかもしれない。


 三バカの反応は人それぞれだった。トウジは一瞬びくっと震えていた。シンジは瞬きを何度もして見つめていた。ケンスケはポケットのデジカメを思わず服の上から探った。


 「本当にお客様お似合いです。実を申しますと、この新作の子供用の方は似合う方はいらっしゃらないと思っていたのですけど……」


 店主もそこで言葉を区切った。形容の言葉を捜しているのだろうか。


 「あの少々お待ちいただけますか」


 店主は店の奥に戻って行く。暫くして小さなブローチを持ってきた。血の様に真っ赤な小さいブローチだ。


 「これはサービスさせていただきますので、着けていただけないでしょうか」


 特にレイが何も言わないので肯定と受け取ったようだ。後ろにまわりブローチを首に掛けた。


 真っ黒なワンピースの胸元に小さな紅い輝きがともる。先程から目をしばたいていたシンジが何か納得したような表情になった。


 「使徒か……」


 初めてEVAで闘った第三使徒の、人には作り出せない黒い肌とコアの輝きに似ていると思った。そしてぞくっと震えた。



 あの後店員がみなレイを見に集まった。店主と同じように言葉を失って、少し怖がった様な表情を浮かべていた。クレジットカードで支払いをしてそのままレイが店を出て行くまで、店は奇妙な静けさに包まれていた。

 帰り道は見物だった。レイが歩くと人波が裂けた。皆見とれると言うより、何か怖がっているように避ける。レイが着てきた服と買った服が入った紙袋をもってシンジが後ろに付いていく。皆の視線は何故レイの後ろにシンジがいると言いたげだ。確かにシンジでは普通すぎる。


 バスに乗ってマンション近くの停留所まで戻った。


 「綾波その……写真撮らせてくれない」


 公園の横を通ったとき、ずっと考えていたケンスケがレイに声を掛けた。暫くレイはケンスケを見ていた。


 「ネルフの規定があるから、一旦フィルムを葛城課長に渡してチェックして貰うならいい」

 「勿論だよ。それでいいから」


 ケンスケは今までシンジ達が見たこともない様な真剣な表情をしていた。そんなこととは無関係にレイは公園の中に入っていく。慌てて一行は付いて行く。


 「綾波ここに座って」


 ケンスケは着ていたサマージャケットを脱ぐとベンチの上にひいた。結構値が張るサマージャケットに見えるがどうでもいいようだ。レイも遠慮無しに座った。背筋を伸ばし揃えた両膝の上に手を置く。みな無言でレイを見つめてしまった。少し傾いてきた日の中で非現実的に揺らめいて見えた。


 「撮らないの」


 レイに言われてケンスケは慌ててポケットカメラを取り出す。忌々しげにカメラを見る。役者不足だと言いたげに。ただ撮らないよりはいい。唾を飲み込むとレイにレンズを向ける。デジカメの疑似シャッター音が何度も響き、すぐにメモリーが一杯になった。


 「綾波ありがとう」


 ケンスケは丁寧にお辞儀をした。レイは立ち上がるとサマージャケットをケンスケに渡す。汚れているのも構わずにケンスケは身につけた。シンジの方を向く。デジカメからメモリーを取り出し渡す。


 「シンジ、これ葛城さんに渡してチェックして貰って」

 「う、うん」


 あまりにも真剣なケンスケの視線に、少しシンジは気圧されて下がってしまったくらいだ。



 「あれ、今日はジャージじゃないんだ」

 「そうや」


 翌々日の月曜日の朝の事だった。いつものようにヒカリとトウジとケンスケが迎えに来た。ただ少し違っていたのはトウジが黒いジャージで無く学校指定の学生服だったことだ。


 「……この前の綾波見たら、黒っちゅう色はワシが身につけていい色やない……そう感じたんや」

 「ふぅ〜〜ん」

 「俺、判るなその感じ」

 「そうね」


 ケンスケとヒカリは頷いた。


 「あっそうだ、ともかく上がって」


 三人を家に上げる。三人とも挨拶をして上がるとシンジに付いていく。ダイニングのテーブルではレイがもぐもぐとトーストを囓っていた。スクランブルエッグが皿に乗っている。


 「おはよう」

 「おう」

 「おはよう」


 三人が口々に挨拶をしたので、レイはトーストから口を離す。


 「おはよう」


 そう言ってまたトーストを囓り始めた。いつもの対応だ。昔に比べれば話すだけましだろう。


 「座ってて」


 三人ともテーブルの開いているところに着いた。


 「ミサトさんは」

 「昨日徹夜でまだ寝てる」


 シンジは答えながら素早く三人分のお茶を煎れる。いい香りが辺りに広がる。


 「はい」

 「ありがとう」

 「すまんなぁ」

 「サンキュー」


 シンジは三人にお茶を出すと自分も椅子に座る。普通はこの様にされたら朝食がとり辛いだろうが、レイは全然気にしていない。同じペースで食べ続ける。


 「でケンスケこれ」


 机の上に置いてある封筒を渡した。


 「特に問題ないって。ただ写真展などに出すのなら先に許可を貰ってだって」

 「ありがとう」


 ケンスケは封筒を素早く取ると鞄に入れた。封筒にはデジカメのメモリーが入っている。レイはどうでもいいのかもぐもぐと食べ続けた。



 その日の夜だった。玄関で音がしたようなので、目が覚めたシンジが行ってみると、靴入れの戸が開いていた。この前買ったレイの靴がない。戸はチェーンロックが外れて外から鍵がかかっている。

 慌ててレイの部屋の前まで来る。そこで止まった。声をかけて応えが来たら、恥ずかしい。深夜女の子の部屋に忍び寄ったみたいだ。かといって何かあったら。部屋の前で悩んでいると、徹夜で資料をまとめていたミサトが、部屋から出てきた。いつもの制服姿だ。


 「どったのシンちゃん。夜這い、このこのぉ、シンちゃんもとうとう目覚めたか。避妊はしてよねぇ。何だったらお姉さまが教えてあげるわよ」


 お気楽に声をかける。


 「違います」


 シンジもむっとした表情になる。と言うよりあきれ顔だが。


 「玄関の方で音がしたから行ったら綾波の靴がなくって。鍵あいていて」


 ミサトの表情が引き締まる。お気楽とはいえ作戦課長殿だ。やることの切り替えが異様に早い。


 「レイ開けるわよ」


 豊かな胸のおかげで、あまり目立たぬ脇の下のホルスターから、デトニクスというもう40年程前の設計の自動拳銃を取り出す。小型の自動拳銃だが45口径とインパクトの強い弾丸を使うこの拳銃は、無精ひげに君みたいだと言われてから愛用している。

 ミサトは戸を開けた。予想通り誰もいない。電灯をつける。ベッドの上には寝間着代わりの大きなTシャツとショーツが落ちていた。ミサトは近寄って触ってみる。まだ生暖かいし湿っている。脱いだばかりだろう。シンジも部屋に入る。


 「あれ、ワンピースが無いや」

 「ほんとう」


 この前の黒いワンピースをレイは気に入ったらしい。残りの服は適当に箪笥にたたき込んでいるが、それだけは衣紋かけにかけて壁に飾っていた。時々ベッドに座って見ているときもあった。


 「誘拐にワンピース着せることもないし、家出には向いてないわね」


 ミサトは腕を組み考える。ミサトだと胸を組む、かもしれないが。


 「そう言えば、夜散歩する癖があるって言っていたわね」

 「……そう言えば……でも着ている物が」

 「レイなんだから」


 何となく納得してしまう。行き場所は公園だと聞いていたので向かうことにした。



 月が明るい。道に影が出来る。細い影だ。動いていく。その影が伸びている根本を見るとやはり影に見える。月夜に黒いワンピースは、微かに艶やかなきらめきを振りまいている。黒のワンピース、黒の鍔の大きい帽子、黒の手袋、黒の靴。闇に溶け込めない黒い色が動いている。


 レイは公園まで来る途中、三人の通行人に出会った。仕事帰りのサラリーマン、コンビニに買いに来た大学生、夜泣きをした子供を外であやす若い主婦。正確には四人だが。

 レイの姿を見つけると、みな後ろに体を引きその場に固まった。その後、黒に包まれた白い顔の紅い瞳と、手にしたお皿に載るオムライスの残りに目が行く。月明かりにオムライスの黄色とケチャップの赤が鮮やかだ。あまりにも不釣り合いなせいか、夢でも見ている様に感じる。レイの動きにつれて首だけが動く。レイは気にせず歩いていく。

 サラリーマンはそのオムライスを食べてみたいと思った。大学生はその皿を持つ手に触れてみたいと思った。主婦は赤ん坊が泣きやんだことに気づかず後ろ姿を見送った。


 しばらく行くと公園に着いた。ベンチに座る。膝の上には皿を持っている。彫像のようにしばらくそうしていた。

 羽音がした。目をやると、十三夜の月をバックにカラスが飛んできた。左足に汚い包帯が巻いてある。カラスはベンチのレイの反対の隅にとまる。左足は結局不自由のようだ。


 レイは皿を差し出す。中間あたりに置く。カラスはひょこひょこと寄ってきてオムライスの残りを食べ始めた。頭に手を伸ばし撫でる。今度は突っついたりしない。


 「そう……色なのね」


 カラスの頭は黒い手袋にとけ込んでいるかのように見えた。



 ミサトとシンジが公園の入り口に着いたとき、カラスはオムライスの残りをあらかた食べ終えたところだった。物音に食べるのを止めて入り口の方を見る。カラスが見たのでレイもそちらを見た。


 ミサトもシンジも見つめてしまった。月の明るい公園にわだかまる、大小の黒い影。共に瞳を光らせていた。紅と白に。シンジの背に震えが走る。忌まわしいぐらい綺麗に思えた。ミサトも固まっているのは同じように思っているからかもしれない。


 三人と一羽のこの状態は、カラスが飛び立つまで続いた。羽音と共にまた月の方へ飛んでいく。レイは顔を上げてその姿を目で追い続けた。


 しばらくして立ち上がるとお皿を持ち近寄ってきた。


 「余っていたから」

 「うっうん」

 「夜散歩するときは、私と一緒にね」


 ミサトに言われ頷いた。三人で帰ることにした。





 そして翌日、使徒が来た。





 つづく






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