(ぼく…綾波に嫌われるようなこと、何かしたかな?)

15歳の誕生日を迎えて1週間、シンジは悩んでいた。




最近は以前よりも人当たりの良くなったレイが、下校時などはシンジたちと一緒に帰ることも多くなってきていたのに、ここ2週間ほどは放課となるとレイ一人で先に帰ってしまっていたのだ。

加えて、シンジが声をかけようとしたり視線を向けたりすると、目を逸らされてしまったりするし、誕生日の前日シンジが思い切ってレイに声を掛けた時なども…

『綾波、明日、ぼくの誕生パーティーをやるんだけど…。
その…良かったら、来てくれるかな?』

『……私…行けない…』

『!…そ、そう。ごめん、急だったよね』

『……ごめんなさい…』

ということがあったのだ。

(何か、用事が有ったんだよね?)

と思うことにしても、それ以後もレイの態度は『あからさまにシンジを避けている』という感じであったので、冒頭のような思いに囚われるのも無理からぬ事であった。


(綾波の機嫌を損ねるようなこと、した覚えないんだよなぁ…)


今日もそんなことを考えながら、おしゃべりに花を咲かせながら前を歩く友人たちの後を、とぼとぼと歩いているシンジであった。


「あら?ファーストじゃない?
アンタ、帰ったんじゃなかったの?」

アスカの声に顔を上げると、そこには先に帰ったはずのレイが静かに佇んでいた。

(?綾波…どうしたんだろ?)

アスカがちょっと首をかしげ、合点が行ったように小さく頷くのが見える。

(??)

シンジが不思議に思っていると、アスカはクルリと後ろを振り返り、友人たちに声を掛ける。
「ちょっとゲーセン寄って行きましょ?ねっ、ヒカリ!」
「え?ええ、ほら、鈴原!行くわよ!」
「ちょ、いいんちょ、引っ張らんかて…」
「相田!!アンタも来るのよ!」
「はいはい。じゃな、シンジ、しっかりれよ」

二人を残して立ち去る友人たちを呆然と眺めるシンジは、まだ事態を把握しきれていなかった。

レイは後ろ手に何かを持っている様子で、何か迷っているように、視線はシンジの足元を右へ左へと揺れ動いている。

シンジはそんなレイの仕草を新鮮に感じながらも、どう対応すべきか分からずにいた。

(ぼく、嫌われたんじゃなかったのかな?)



そのまましばし、言葉無く対峙するふたり。




(どうしたんだろう?何か話があるのかな?)

「ええっとぉ…」

先に口を開いたのは沈黙に耐え切れなくなったシンジであった。

「綾波、どうしたの?」

シンジの問いかけに…

「間に合わなかったの…」

うつむいたまま、消え入るような、微かなレイの声。

「えっ?」

よく聞き取れず訊き返すシンジに、レイは意を決したように顔を上げる。

「誕生日…プレゼント…
知ったの、1週間前だったから…」

「綾波…?」

「もう、誕生日過ぎてしまったし…
迷惑かと思ったけど…
どうしても…渡したくて…」

(!それでか!…良かった…嫌われたわけじゃなかったんだ…)

心底ホッとすると共に喜びがあふれ、自然に笑顔が浮かんで来る。

「迷惑だなんて、そんなこと無いよ!
嬉しいよ、綾波にプレゼントをもらえるなんて」

シンジの返事と笑顔に応えるように、レイの表情にもゆっくりと微笑が広がる。

「…良かった…
…これ…もらって、くれる?」

「もちろん、喜んで」

「綺麗には…出来なかったけど…」

おずおずと差し出されたそれは、編み目の揃わない、不恰好な手編みのサマーニット。
おそらくは、シンジの誕生日を知ってから、なんとか間に合わせようと慌てて編んだであろう、初めての…。

それは、1週間遅れの、シンジへの誕生プレゼント。




「誕生日…おめでと…」


「うん、ありがとう」




シンジには、その控えめな微笑こそが、何よりのプレゼントだった。












presents for you...

written by xxxs














コメント
『綾波展』公開直前の週末、準備作業に一段落ついて、アップロード用の時限サーバが立ち上がるまでの待ち時間、公開が当初予定の6/6から1週間遅れてしまったことに対し、何か謝罪の言葉が必要だなぁ…と思って、正味1時間ほどで書き上げたこの超短編。
使い方については何も指定しなかったにもかかわらず、想定通りの使い方をしてくれて、zettonさんに感謝。

もちろん、『綾波展』へお越し戴いた皆様にも、大感謝。


戻る

inserted by FC2 system