終戦のエヴァンゲリオン



・・・伊507の放った魚雷を受け、大破する米駆逐艦、爆裂する弾頭の衝撃により、引き裂かれる鋼鉄の装甲とともに生きたまま切り裂かれ、手を、顔を、腸を生きながら焼き尽くされ、或いは瞬間断末魔の叫びをあげながら轟沈する艦体の破片とともに沈んでいく乗員の恐怖・憎悪・絶望の意識・精神・・・それらが全て奔流となってレイの中に流れ込む・・・

瞬間、痙攣し、ローレライシステムより跳ね上がる、白い水密服に包まれたその細い肢体・・・衝撃。

「綾波!・・・艦長!綾波が!!」

片腕で諤諤と震えるレイの肢体を何とか抱きとめ、レシーバー、n式と艦司令塔を繋ぐ唯一の「命綱」・・・有線電話に叫ぶシンジ、握り締めたその手にかろうじて、しかし、静かに重なる白い革のグローブに包まれた、華奢な掌。

「・・・まだ、やれるわ・・・わたしは、大丈夫。だから・・・」

限りなく狂気に近い恐怖と限界まで張り詰めた緊張の上の「海底の戦場」、見開いた彼の眼に映る、彼女の懸命の・・・しかし、微かな微笑・・・紅い瞳。覗き込む。其の侭、吸い込まれそうな錯覚の中。そっと、しかし確かに、握り返す、その手・・・

「なに?」
「傍に、居て・・・そうすれば・・・だから・・・」

大丈夫、僕は・・・此処からはなれない。決して・・・頷く。俄かに安心したのか、微笑を浮かべたまま目を閉じるレイ。肩を、しっかりと抱きとめる。彼女に流れ込む余りに多くの人の死、生命の断末魔の声・・・そのたびにそれらに共鳴し、共感し・・・そうして彼女は誰よりも傷ついていく。その声に耳を傾ける事も無く、只只管殺しあう者たちの命と、苦しみに、それでも・・・それを、分かち合えたなら
・・・みのほど知らずな、安易な想いだって事は、判ってるさ。それでも・・・ほんの、僅かでも、それを和らげる力なんて僕には無くて
も、それを、一緒に感じる事が出来たなら・・・

司令塔から聞こえるコール、n式の状況確認。一瞬、レイの瞳を見返し、微笑む。

「こちら・・・n式、碇1等兵曹。現在異常無し・・・引き続き索敵を続行する。」

テニアンは頭上の海面、わだつみを埋め尽くす米・太平洋艦隊の向こう、
まじかに・・・迫っている。


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