「PRESENT」参考文献
by HAL
「えっと・・・」
私は扉の前でハタと立ち止まってしまった。
(どうしようかしら?)
今まで気がつかなかった迂闊なんだけど、この時点で両手にプレゼント持っちゃったらインターフ
ォン鳴らせないじゃない!
私はもう一度両手をじっと眺めた。
(・・・無理よね・・・)
こうやって持つのも大変だったのに、これをもう一回落とさずに下ろすなんて出来そうにもない。
折角かっこいいポーズも考えてきたのに私の馬鹿っ!
「あ、もしかして肘だったら。」
何とか扉をたたけるかも。碇君は気がつかないかもしれないけど、おばさまが気がついてくれる・
・・と信じたい。
コンコン
「・・・ダメか〜」
やっては見たけれど、やっぱりこの体勢じゃ無理。とてもじゃないけど聞こえるような音なんて出
ないの。
「アスカやマユミは・・・もう中だろうな。」
私はため息をついた。
あの二人が遅刻なんてするわけない。ヒカリは家族とするって言うし(ホントかしら?)、マナは
ムサシ君、だったかしら?とするっていってたから来るわけないし・・・
「仕方ないか・・・」
これだけはやりたくなかったけど、仕方ない。
私はゆっくりとインターフォンの前に立つ。
(大丈夫よね?)
周りに人がいないか確認。人気がないのを確認すると、私はその前で軽く膝を曲げる。
「うっ・・・辛いわ・・・この辺よね・・・」
うう、格好悪い。
つまり額でボタンを押そうって言うんだけど、碇君の家のボタンってあんまり出っ張ってないから
押しにくいの。
両手にプレゼントの山を抱えて額をインターフォンにすりつける女。はっきり言ってこれは怪しい。
ピンポーン
(やたっ!成功!!)
ガチャ
(えっ?!)
喜びに沸くまもなく、私は混乱してしまった。何でこんなに早く出てくるの?
「こんばんわ、綾波。」
「あ、碇君こ、こんばんわ・・・」
ちょっと待って。
何で碇君そんなににやにやしてるの?いや、本当は分かってるんだけど、脳がその理由付けをした
くないのね。きっと。
「そんなことしなくてもさ、くくっ、足で蹴ってくれれば良かったのに、くっくっ・・・」
「いやそれは・・・」
お呼ばれしておいて人様の家の扉を蹴るなんて・・・ってやっぱり!!
「碇君見てたのぉ!!」
私は碇君に詰め寄った。
「だって綾波が遅いから。それで覗き窓から見たら綾波が百面相してて・・くくっ・・・それから
このレンズ広角だから見えちゃって。」
必死で笑いをこらえようとする碇君だけど、私はと言えばむかむかと腹が立ってくる。
「ひっど〜い!女の子のあんな格好見て笑ってたの?昔の碇君はそんなんじゃなかったのに。」
「ごめんごめん。悪い意味じゃなくてさ、綾波見てるの楽しいなって思って・・・」
「それがいけないの!女の子の苦しんでる姿見て楽しむ、んっ」
瞬間、私は暖かい感触に口を塞がれてしまった。
目の前には目を閉じた・・・碇君。
状況をそこまで理解した段階で、再び唇に12月の寒風が感じられるようになった。
「ごめん・・・悪かったよ。さ、入って。寒いでしょ?貸して。」
「ずるいな・・・碇君。」
あまりに唐突なキスに、それまでの怒りもどこかへ飛んでいってしまった。
されるがままに私は荷物の半分を碇君に渡す。
誤魔化されてるのは分かっている。
でも私も本気怒ってたわけでもないし、ま、いいか。
ホント、都合良く口封じされちゃったかな?
「あ、そうだ。」
扉を開けて、私を先に入れてくれようとする碇君が思いだしたように声を上げた。
「何?まだ何かあるの?」
「あのさ、メリークリスマス。」
「あ・・・」
そうだ。そうよね。私はこの顔が好きなのかもしれない。
照れたようでいて、それでいてしっかり私の心をまっすぐ見ていてくれる碇君の笑顔が。
だから私も精一杯の笑顔を作って応えて上げた。
「うんっ!メリークリスマス!」
これまで