暖かな色の照明にてらしだされたその部屋は、内装をビクトリア朝時代の英国貴族の書斎を思わせる質実ではあるが華やかな調度で統一してあった。
そんなこの毒島博士の書斎に足をふみいれるたびに、リツコは彼がいったい何者であるのか見当もつかなくなった。
当の毒島博士は、チーク材でできた畳み二畳分はあるかと思われる巨大な執務机のむこうで、いつも通りの真白いタキシード姿で机の上のプラズマディスプレイに見入っている。そこには、昨晩医務室の一室で行われていた教師と教え子の交歓が、細大漏らさず映し出されている。
これが外に知られたならば、それだけで私たちは皆破滅ね。
内心げっそりとした思いでリツコは、ディスプレイのなかの映像を眺め続けていた。本来ならばとてもではないがこんな犯罪まがいの行為につきあいたくなどなかったのだが、毒島に「非常に重要な問題が発見された」と言われては、最後までつきあわざるをえなかった。しかも彼女が出歯亀をしている相手は、十年来の親友なのだ。
この研究所内での彼の地位は、事実上医療研究のトップにいると言ってもよい実力者である。しかも「人類補完計画」生体研究部門の総責任者とあっては、年齢のわりにきわめて高い権限と地位を与えられている彼女であっても、それなりにこの老医師に我慢しなければならないことが多いのもしかたがなかったのである。
ディスプレイのなかでは、教師と教え子がまるで恋人同士であるかのように抱き合っている。
さすがにいいかげん友人の痴態を見ることに嫌気がさしてきたリツコは、それでも努めて冷静な声で老人に話しかけた。
「これが、重要な問題でしょうか?」
いいかげん、このセクハラ同然の状況に腹も立ってくる。
「ふむ、重要といえば重要ではあるが。そうだの、君は彼女と交友関係があったのだな。ならば彼女がこれからどうやってサードチルドレンとの間に精神的な交流を行っていったのか具体的に知る必要はないな」
老医師にはその気はないのではあろうが、なんともとげのある言い方にリツコは内心辟易した。
そんな彼女の内心を知ってか知らずにか、彼はなれた手つきでディスプレイに映し出される情景を先送りにしていく。画面にレイが乱入してきて、ミサト笑い転げ、二人をベットに引きずり込んで三人で川の時になって眠ってしまったところで、またもとの早さで情景が再生される。
「さて、問題はここからかの」
画面が突然二分割され、ベットに寝ている三人の同じ映像が同じアングルで映し出される。
「右が、三人が睡眠状態に入った直後の静止が。左はそれから後の室内の映像を早回しで映し出しておる」
リツコは、この映像を見始めてから初めて精神に緊張感をとりもどした。なにが映し出されるかそれなりの予測ができてはいたが、だからといって事実を事実として確認できるまでは、それはただの予断でしかない。
室内の空気が緊張で満たされ、針の落ちる音でも聞こえそうなほどの静けさに支配される。わずかに、冷風を送りこんでくるエアコンのモーター音と、執務机のなかに設置されているのであろう端末の作動音だけが、リツコの耳に聞こえてくる。
ほとんど動きのない二つの映像が延々と映し出されていく。
さすがにリツコの緊張の糸が弛みかかってきたその瞬間、わずかにだけ画面に変化が現れた。
すこしだけ、ほんのすこしだけ、部屋の中が明るくなったような気がしたのだ。
リツコは、とっさに両方の画面を目の焦点を合わせないようにして重ね合わせてみる。ディスプレイのなかの情景が完全にぼやけてわからなくなるが、しかし画面全体の印象が変わってきていることが明白に明らかになる。
「教授!?」
にたり。
老医師は、彼女の声に緊張の色が見えたことにあわせて唇の両端を、耳まで裂けるかと思えるほどに跳ねあげる。
「見ていたまえ」
画面の光度は、今では目に見えるほど明らかに違ってきていた。時間の経過とともに部屋全体が明るくなっていく。今では、三人の寝ているベットのしわの一つ一つまでもがしっかりと確認できるほどに。
いや、明るいのは部屋ではなかった。
ベットのなかに寝ている三人が光っているのだ。それも中央のシンジが。そして、その光はどんどん強くなっていく。
そして、一瞬だけ日中のように明るくなり画面が真っ白になったかと思うと、まるで白色灯のフィラメントが切れるようにふっと暗くなってしまった。
そして、もう一度室内は、なにもなかったかのように暗闇の中に眠りに就いていた。
わずかに息を漏らし、リツコは画面内の時間の経過を確認した。変化が確認されてから正味一時間。
「室温の変化は?」
即座に室温の変化を表す折れ線グラフが画面に現れる。平均室温よりも、三度以上も急激に上昇し下降している。
「まさか、ベットにセンサーは仕込んではありませんよね」
「それについては、前に女子職員から厳重な申し入れがあったからの」
けくけくと声すらたてずに笑うと、老人は揶揄するような色をふくませてそう答えた。以前、女子寮に居住している女子職員が、このセクハラまがいの行為を平然とやってしかも自覚がない老医師に、病院内での禁止行為事項を文章にして所長の冬月の立ち会いのもとで突きつけたことがあったのである。ちなみにリツコは、それにはまったく興味がなくて参加しなかったのではあるが。だが今この瞬間だけは、「EVANGELION」観測用の機材が病室内に設置してあればとほぞをかんでしまった。
「まあよい。しかし、いまのところこの映像の存在を知っているのは儂と赤木博士だけぞ」
「?」
「「委員会」に知られてもよいのかの?」
はっとして、固まってしまうリツコ。
「サードチルドレンは、「力」のコントロールがどこかでたがが弛んでいるのかもしれぬ。左様知られては、委員会の慎重派がどう動揺するか見当がつかぬのではないかな?」
「それは……」
なぜか、無性に身体がニコチンを欲していた。
「まあ、彼のために弁護するならば、たしか今日はなにか宴席に顔を出さねばならぬのだろう、この三人は? そのためにはあの女教師が健康にならねばならぬ。左様考えて人知れぬように「力」をつかったとも言える。それに」
「それに?」
「この映像を見ただけでは、彼が「力」を行使したという証拠にはちと弱い。それに、いまだ彼の治したのは、まあ、それほど問題のある怪我でも病気でもない。まだ、事態がコントロールできないところにはいっていない、と考えるがの。が、だ」
「?」
「問題は、彼がこのまま力を強めていき、そうさの、死人を蘇らせたりしたときよ。その瞬間が、「委員会」も含めた我々全員にとっての分水嶺となるだろうのう。その時、彼が「力」を完全にコントロール出来ているかの?」
もう一度室内を静寂が支配する。
そのまましばらく時が移る。ディスプレイの画面がとぎれノイズが走り始めたその瞬間になって、リツコは自分がディスプレイの前で凍りついてしまっていることに気がついた。ゆっくりと腰を伸ばし、全身の緊張してしまっている筋を伸ばす。
エアコンの聞いた涼しい室内で、リツコはなぜか全身が水でもかぶったかのようにしっとりと濡れそぼってしまっていることに、その時になって初めて気がついた。
少年たちの影がシンジとミサトの足元に届いたその瞬間、シンジは自分が決断を迫られていることに気がついた。
ふだん走りなれていない二人は、この繁華街の裏道をなんとか表通りまで出ようと走り回ったが、やはりふだんからここら辺をテリトリーとしているこの不良少年たちにはかなわず、結局こうして追い詰められてしまったのだ。なんとか駐車場のフェンスを乗り越えて外へ逃げ出すことができたときには、うまく逃げられそうな希望もあったのだけれども、結局は連中にここに追い込まれてしまっている。
薄暗い上に逆光で、少年たちの表情はシンジ達からははっきりとは見えないが、彼らがそれこそしぶとい獲物を追い詰めたときのようなゆがんだ笑いをみなぎらせていることが、シンジにはよくわかった。そのうえ、彼らはミサトをそれこそ想像もしたくないような酷い目にあわせようと躯のなかの野獣を煮えたぎらせてもいる。
だが「力」でそのことがわかったとしても、ここで彼らを「力」でたたきのめすことが許されることなのか、どうしてもシンジには決断することができないでいた。
かつて自分を酷い目にあわせたいじめっ子達を「力」でぶちのめしたことがある。その一瞬だけの解放感と、その後の今も続いている罪悪感と、それからそこでうけたそれまでまで以上の疎外が、シンジをこのような状態でも「力」をふるうことに臆病にさせていた。
今自分とミサトがいる場所が、古いビルとビルのあいだにできた袋小路で、どこにも逃げ場がないことをもう一度確認した。どっちへ行けば大通りにでるかわからなくて、ここのそばを誰か人が通る確率もほとんどないに等しい。今自分たちが背中を着けているビルの壁は、両側のビルの壁面と同じようになんの取っかかりもないのっぺらぼうな姿をさらしている。
「ミサト先生」
「大丈夫、私がなんとかするから」
シンジが話しかけてきたのを、恐怖のためと勘違いしたミサトは、内心の恐怖を教職にある身としてのなにかで無理やり押さえこんでシンジをかばうように、近づいてくる少年たちにむかって一歩を踏み出した。
「あんた達、私に何の用なの?」
シンジは、自分の腕をつかんでいるミサトの手に痛いほどの力が込められていて、わずかに震えているのに気がついた。
そんなミサトに気がついてか、気がつかないでか、少年たちは獣欲に濁った瞳をぎらつかせ、いやらしく口の端を跳ね上げて近づいてくる。
「それはよう、あんたにいろいろとお礼をしたくてさあ。まったくおかげですっげえ迷惑したんだぜ、やっぱちょーむかつくんだよ、あんたみたいな女をみてっと」
「冗談! 寝言は寝て言いなさいよ! 自分たちがどれほどのことしたのかわかってはいないみたいね!!」
さすがにミサトが頭にきて言い放つ。だがこの少年たちには、それはただの強がりにしか見えない。
「いいんだよ、俺たち十六才未満だもーん。なにしたって大丈夫なんだぜ、へへーん」
少年らの一人が、あごを突き出すようにして挑発するように言う。ご丁寧にさるのように腰をふって手をぶらぶらさせてもみせながら、心から楽しそうな調子で。
「ふざけんじゃないわよ!!」
ミサトの絶叫は、しかしむなしくビルの間をかけぬけただけであった。
ミサトの叫びを聞いたその瞬間、シンジの気持ちは決まった。
戦わなくちゃ。
ぎゅっと目をつむって、自分に言い聞かせる。
「力」を使わなくても戦うことはできる。
逃げちゃだめだ! こんどこそ逃げちゃだめだ! ミサト先生のためにも、逃げちゃだめなんだ!! 綾波、お願いだ、僕に力を貸して! 目の前の戦いから逃げ出さない力を!!
「ミサト先生! 逃げて!!」
シンジは絶叫とともに少年たちに突っ込んだ。そのうちの一人の腰にタックルし、跳ね飛ばす。そして、自分もそのまま勢いあまって転がってしまうが、それでもアスファルトの上を転がってショックを和らげる。
突然のシンジの暴走に、少年らは一瞬呆然として動くことができずにいた。動くことができなかったのは、ミサトも同じではあった。が、修羅場をくぐり抜けてきた経験の差が、彼女を少年らよりも早く我に返らさせ、彼女をシンジと同じように少年らへと突っ込まさせていった。そう、自分のためにこの野獣どもに単身突っこんでいったシンジを助けるために。
「シンジ君!」
「ミサト先生!」
だが、こんどは少年らの立ち直りも早かった。それに、喧嘩なれしているという点では、彼らのほうがはるかに多くの場数を踏んでいる。
そのままシンジもミサトも、左右後方から少年らに取りつかれ、地面に転がされて押さえこまれてしまう。やはりこういった修羅場になれていないために、シンジ自身もミサトの突然の動きに呆然として反応が遅れてしまった。
「ちっくしょう、ざけやがって、おとなしくしていりゃちっとは優しくしてやったのによ、このばばあ!」
ミサトに殴られたリーダー格の少年が、手下の少年が押さえつけているミサトのわき腹を容赦なく蹴りあげる。そのたびにくぐもった声がミサトの歯をくいしばった口から漏れるが、彼女は決して悲鳴を漏らそうとはしなかった。
「やめろぉっ! やめろっ、やめろっ、やめろっ! やめろおぉっっ!!」
「うるせぇっ!!」
こんどはシンジの腹にけりが叩きこまれる。革の編み上げ靴のつま先が、ずぶずぶと彼の細い身体にめり込んでいく。
シンジは身体をくの字に曲げると、アスファルトの地面にむかってさっき食べた料理をぶちまけてしまった。そのままむせるようになんども咳こもり、腹を抱えて地面に転がる。
「へっ、弱えくせにいきがるんじゃねえよ」
リーダー格の少年は、そのままシンジの頭を編み上げ靴で踏みつけ、路上の今までシンジの腹の中にあった料理のなれの果てにその頭を押しつけた。そのまま体重をかけてごりごりと踏みにじり、予想外の反撃にうろたえてしまったことの腹いせをする。
「やめなさい! その子は関係ないでしょう!!」
「うるせぇっ! ばばあは引っ込んでろっ!!」
ことこの期におよんでも泣いて許しを乞うどころか、いっそう闘志をみなぎらせているミサトに、少年はいっそう頭に血をのぼらせてシンジに暴行をくわえる。少年のけりがシンジに叩きこまれるたびに、何かがつぶれるようなくぐもった嫌な音が漏れ、シンジの苦痛にうめく声があたりに流れていく。
「へっ、へっ、へっ、ちくしょう、思い知ったかよ、この野郎」
さすがに激情のまま暴れるのに身体がついていけなくなり、肩で息を切らしながら少年はミサトのほうにむきなおった。
「あんた、許さないからね! 絶対に許さないからね!!」
少年らに押さえこまれながらもその瞳に爛々と闘志の炎を輝かせながら、ミサトは少年をにらみつけた。この暗い裏町で、誰にも助けられる可能性がないにもかかわらず、彼女は決して戦うことをやめようとはしなかった。そんな彼女を見て、少年はふっと思った。それはとりとめのない印象でしかなかったが、あえて言葉になおすならば、次のようなものであったろう。
彼女は、肉食獣のように高貴で、美しい。
突如として、下半身に焼けただれるような劣情が生まれ、全身にその炎が燃えひろがっていく。この目の前にいる手負いの獣を思うがままに蹂躙し、自分の獲物とする情景が、たまらない快美感をともなって脳裏に点滅する。あくまで誇り高いこの雌豹を、泣き叫ばせ、許しを請わせ、辱める。その妄想が、たまらないほどの現実感を持って少年を支配していた。
少年は、欲望に目を血走らせながらミサトに一歩一歩近づいてゆく。胃を直接握りしめられるような感覚になんども唾液を飲みこみながら、彼は、ゆっくりとあえぐようにしゃべり始めた。
「そうかい、だったら、俺たちの言うことをきけよ。そうしたら、このガキは助けてやる」
「何?」
ミサトは、少年の獣欲に濁った目を見ながら、これから自分の身の上に起こるであろう事態についての覚悟を決めた。どうせそうなってしまうことはわかっていたし、ならばこの獣どもに肉体は蹂躙されても、精神まで屈伏するつもりはなかった。だが、女性として、それが耐え難いものであることにかわりはない。それこそこの場で舌をかみ切ってしまいたいくらいの屈辱と恐怖を感じながら、その瞬間が始まるのを一瞬でものばそうとあがいてみる。
「なんだよ、わかんねえのかよ。だったら、このガキの体に聞くぜ?」
「ミサト先生! 僕は大丈夫ですから、だから……」
シンジの言葉は、最後まで続けられることはなかった。押さえ込んでいた少年らの一人が、気をきかせて彼の腹にけりを入れたのだ。シンジのくぐもった悲鳴に、ミサトは覚悟を決めた。自分が原因のこの騒動で、これ以上シンジを傷つけたくはなかった。
「好きに、すれば、いいでしょう」
屈辱にミサトの声が震える。
そんな彼女の声に、少年はそれこそ全身の肌にあわ粒が生まれるほどの快感を感じ、ねっとりと唾液のからまった舌で唇をひとなめした。
レイは、走っていた。
全身に鳥肌が立つほどの恐怖と、後悔にさいなまれながら、それでもシンジのもとへと走っていた。
少々時間をさかのぼる。
レイが焼き肉屋からハンケチをハンドバックにしまいながら出てきたとき、それなりに時間がたっていたにもかかわらず、シンジとミサトが現れる気配はまったくなかった。しばらく店の前で二人を待ちながら、これからの行動を何通りか考えてみる。
このまままっすぐ研究所に帰る場合、いったんミサトのマンションに寄ってから研究所に帰る場合、そして、どこかでシンジとしばらく二人きりでいっしょにいる場合。
と、その瞬間だった。突然意識にシンジの「声」が聞こえたのは。
綾波! 警察に電話を! ミサト先生と不良にからまれて逃げてるんだ、早く!!
そのあまりにもせっぱつまった彼の「声」に、レイはすぐさま車が停めてあるはずの駐車場にむかって走り始めた。だが、今の彼女は、生まれて初めてといってもいいおしゃれな格好をしていて、とてもではないがそんないつも通りの運動を許すような状態にはなかった。ヒールの高いサンダルが彼女のバランスを崩させ、柔らかなスカートの生地が足にまとわりついてその動きの邪魔をする。
それでも彼女は、なんとかシンジの意識を追いかけながら、必死になって走り続けていた。
夜の第三新東京市の街の光が、どぎついネオンの色を持って少女を照らし出す。路行く人が、なにがあったのかとこの異形の少女に目をとめるが、しかしだからといって関わろうとすることもない。
そして、レイが駐車場に着いたその時には、そこには誰もいはしなかった。
だが彼女が呆然としていたのは、ほんの一瞬でしかなかった。
ゆっくりと腹式呼吸法によって息をととのえ、意識を鮮明にする。思考がパニックによって混乱しているのを、まずは今日一日の行動を振り返ることで落ち着かせ、冷静に状況を分析すると素早く次の行動について思考する。
シンジとミサトがここで敵と遭遇し、いったんここから脱出したことは確実のようである。あれからシンジの「声」が聞こえてこないところをみると、どうやら二人はまだ敵から逃げているのであろう。とするならば、なんとかシンジの意識を追跡することで、二人と合流をはかることは可能である。
幸いにしてレイは、短い距離ならばシンジほどではないにしろ「見る」ことができた。
レイは、ゆっくりと息をととのえると、意識を外にむかって解放した。視界が一瞬で広がっていき、暗闇のなかに無数の光が瞬いている街の様子が見えてくる。そして、誰かに追われて走っているはずの二人を見つけようと、たんねんに路地から路地へと意識を走らせていく。
二人を見つけるのには、それほどの時間はかからなかった。
そして、二人が何者に追われているのかを知るのにも。
その少年たちは、レイにとってはまさしく軽蔑の対象以外の何物でもない存在であった。理性も、知性も、品性もなにもなく、あるのはただ肥大した自我と欲望だけ。そのあまりにも醜悪な連中に、レイは、それこそこれまで一度しか感じたことのなかったような殺意が全身に満たされていくのをとめることができなかった。
そして、自分がシンジらのもとにたどり着くのが一瞬でも遅れればそれだけ、彼らがシンジの心に深い傷を残すであろうことも、十分に理解できた。
「碇君」
シンジのことを声に出して呼んでみる。
レイは、久しぶりに自分の中に眠っている何かが目覚め、全身に電流が走るような緊張感をともなって満ちていくのを感じた。
青葉シゲルは、夜の街の匂いが大好きであった。
陽の光のもとですべてが照らし出されてしまう昼間、みんな仮面をかぶって世の中に折り合いをつけて生きている。青葉自身もそうであることに違いはない。
だが、いったん陽が西へと沈み、夜の暗闇があたりを支配し天に蒼い月が浮かぶこの時間は、人はわずかだけだがその仮面を脱ぎ捨てて本当の自分をさらけ出すことができる。青葉も、自分の内心にふだん眠っているそれが全身に満ちて皮膚を喰い破って出てこようとしているのを、震えるような昂揚感と、わずかの恐怖とともに楽しんでいた。
「相変わらずだな」
すこしだけ揶揄するような口調で、隣を歩いている友人の日向マコトが話しかけてくる。そんな彼の口調に、青葉は少々大げさに頭を左右にふって答えてみせた。
「当たり前だろ。俺はミュージシャンだぜ。皮膚の下でざわついている奴等のパワーのままに音楽をヤるのが、楽しいんだよ」
黒いプラスチックフレームのむこうで彼がどんな表情をしているか、見るまでもなかった。この高校時代からの友人が、普段のとぼけた様子とは裏腹に、実はどうしようもなくプラグマティックな男で、しかも冷酷といってもいいほどの論理的な思考の持ち主であることを十分理解していたのだ。
「なるほどね、だから今日のライブの演奏は凄かったんだな」
「やっとわかったのか」
「いや、実はいまだに、よくわからないんだ」
「ばーか」
肩にくいこむギターの重さが、昂揚した身体がどこかに飛んでいってしまいそうになるのを押さえつけているおもりのようで、なんとはなしに落ち着かない。
と、その時であった。突然日向が足を止めて道路の反対側に視線をむけ、しばらくそうして固まっている。
「おい、どうした!?」
「すまん、急用ができた。今晩は飲みに行けなくなりそうだ。この埋め合わせはこんどするから、じゃあ」
突然彼は、早口でそれだけ言うとかるく足をひきずりながら走りだす。
「おい、ちょっと待て、マコト!」
青葉も、それにあわせていっしょに走りだした。前にいっしょに東南アジアの戦場ですごしたときの経験から、今何かとてつもない騒動が起きようとしていて、そのことに友人が気がついたのがよくわかった。だからといって、このまま彼と別れるつもりはさらさらない。バンドの連中との打ち上げをほうり出して、彼と夜通し飲むつもりでいたのだ。このまますごすごと家に帰れるはずもない。
足を引きずりながらもそのスピードはかなり速い彼のあとを苦労してついていきながら、自分の視線のかなり先に一度見たらまず当分は忘れることのできない印象的な少女の姿が目に入ってくる。しかも、その少女の夜の街並みのネオンに色とりどりに輝いてみせるプラチナブロンドは、普段体育教師として働いている学校でしょっちゅう見ている代物であった。
「ふーん」
これは、とてつもない騒動を楽しめるかもしれない。
普段の好青年ふうの彼からは想像もつかないようなことを、青葉は考えていた。実は高校時代からお祭り騒ぎの大好きな問題児であった彼は、三度の飯より騒動が好きで好きでたまらない悪い癖があった。そして、彼の勤務する中学校で一二を争う美少女が、こんな時間に気配を消して、足早に夜の歓楽街の雑踏を人混みをかき分けどこかへ行こうとしている。それも、品行方正な優等生として知られる彼女が。
まさしく、何かもめ事の始まろうとしている前兆といってもいい。
夜の街を、少女と二人の青年が、それとは知らずにおいかけっこを始めようとしていた。
「ちくしょう!!、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう……」
自分の吐瀉物のぶちまけられたアスファルトに押さえこまれながら、シンジはずっとそう呻いているしかできないでいた。
今まさに少年がミサトにのしかかり、彼女の服を引き裂き乱暴をしようとしている。そして自分は、それを止める力を持っているにもかかわらず、その「力」を使うふんぎりがつかないでいた。ミサトにだけは嫌われたくはなかった。自分が人間ではない化け物であると、知られたくはなかった。
だがそのために、彼女がこの屑どもに汚され、傷つけられるのを見過ごしてしまっては、それこそ一生罪悪感にさいなまれながら生きていくしかないのもわかっていた。
だが、その最後の一歩を踏み出す勇気が、好きな人のために自分を犠牲にする勇気が、振り絞れないでいた。それほどまでに、シンジの自分の「力」に対する恐怖と自信の欠如は、根深い傷となって彼の心に根を張っていたのであった。
そして、その一瞬、シンジとミサトの視線が重なった。
ミサトは微笑んでいた。
これまで愛した男以外にさらしたことのなかった玉肌を、この獣に汚されようとしているにもかかわらず、彼女は優しく微笑んでいた。
声には出さないまま、彼女の唇が動く。
大丈夫。
その意味を理解した時、シンジは、頭の中が真っ白になるのを感じた。
臆病で、卑怯で、そしてどうしようもなく情けない自分に、こんどそ本当に愛想が尽きた。
「ちっくしょおおおぉぉぉぉっっ!!」
シンジの絶叫がビルの谷間に響いたその瞬間、風が走った。
風が走った。
レイが駆けつけるのと同時に、熱く、悲しい風がビルの間を駆け抜けた。
気をたわめてその風をやりすごしたレイは、サンダルを脱ぎ捨て風の吹いてきたビルとビルの間の空き地に駆け込んだ。全身のばねをたわめて、どこから敵が襲いかかってきても対処できるように準備をする。だが、その必要はなかった。
そこには、へどで汚れ、口や鼻から血をたらしながら、だが瞳だけが怒りと絶望に煌々と輝いているシンジが一人たちすくんでいた。
あたりは、ひかえめにいっても、ひどい有り様であった。
シンジの周囲に、何人もの少年たちが血へどを吐きながら重なり合って倒れている。彼らの服はずたずたに裂け、その身体には縦横に裂傷が走っている。彼らの身体から流れた血で、あたりに甘くて鉄の味が舌に残る嫌な匂いがたちこめている。
すこし離れたところにミサトが、これもまた呆然として何が起きたかわかっていない様子でアスファルトの上に座りこんでいた。彼女の格好もひどいもので、今しがたこの少年らになにをされようとしていたのか、なにをされていたのか、一目で分かるほどであった。
「碇君」
そっと、レイは立ちすくんでいるシンジのそばに近づいた。
「綾波?」
レイがシンジに手を伸ばそうとしたその時、シンジはおびえるように身をすくませた。その時、初めてレイはシンジが泣いているのに気がついた。
「……碇君は、悪くないわ」
しばらくの沈黙のあと、ぽつりとつぶやくようにレイはそれだけを口にした。
「僕は、また、人を傷つけてしまった。僕が弱くて、意気地なしで、卑怯で、だからこんなことになってしまったんだ……」
「違うわ」
「違わなくは、ない」
「違うわよ!」
突然強い口調で声を浴びせられて、シンジははっとして声のしたほうにふりかえった。
そこでは、蹂躙のあとも生々しい姿の半分下着と柔肌をさらしているミサトが、立ちあがろうとしているところだった。
「ミサト、先生?」
「シンジ君は、悪くはないわ。あなたは私を守ってくれたのよ。あなたがなにをしたのか、私にはわからないけれども、でも、そのことが分かっていれば、それで十分」
「……でも、僕は何もできなかった。結局、こいつらにミサト先生を汚させてしまった……」
「そんなことはないわ。それに、ちょっとくらい触られたぐらいで汚されたなんて思うほど、私もヤワではないわよ」
「……………」
だがシンジは、そんなミサトの言葉を聞いても、うなだれたまま静かに肩を震わせているだけであった。
「レイ」
「はい」
ミサトは、こんどはレイのほうにむきなおる。
「シンジ君は、なにをしたの?」
「……答えることを、許されていません」
「お願い。私には、知る義務があるわ」
「……ごめんなさい」
「お願い」
「……………」
あたりを、もう一度沈黙が支配する。ミサトの口調があとわずかでも居丈高であったならば、レイもこれほどまでに苦しむことはなかったであろう。だが、ミサトの声は、あくまで静かで優しかった。むしろ、レイやシンジのことを気づかう様子すら見てとることができた。
二人のきまずそうな沈黙に、ミサトはふっと今朝のリツコとの会話を思い出していた。
今のレイの言葉と、その調子と、表情が、なぜか今朝のリツコのそれとだぶって見えたのだ。
「もしかして、私の風邪を治してくれたのは、シンジ君、あなたなの?」
二人とも、答えようとはしなかった。だがその瞬間、凍りつくように身体をすくませたシンジの有り様と、一瞬でいっさいの表情を消して氷のような雰囲気を身にまとったレイの様子から、ミサトは自分が問題の中核にふれてしまったことを知った。
シンジが、文字通り人を生かすも殺すも自在の強大な力を持っている。そしてそれは、たぶん世間で超能力といわれているもの。
ミサトは、なぜシンジが他人にたいしてみょうに気を許さないところがありながら、やたらと人恋しがるのか、その理由がわかったような気がした。それは、あまりに強大な力を持ってしまったが故に、人々の間から浮き上がってしまうことを恐れてのことなのであろう。だが、孤独が耐え難いのは、この少年もかわりはない。
ミサトは、もう一度シンジにむかって話しかけた。
「シンジ君は、悪くはないわ。あなたは、人にほめられる立派なことをしたのよ。それは他人におおっぴらに言えることではないのでしょうけれども、でも、みんなのためになったことにかわりはないわ。そして、私はそのことを知っている。だから言わせて」
そしてシンジに近づき、そっと優しく抱きしめる。
「ありがとう」
シンジの答は、押し殺したような嗚咽と、ミサトの背中にまわされた腕の力であった。
その時であった。
「こりゃ、ひでえ」
なんとも間の抜けた声が、三人の耳に聞こえた。
はっとしてレイは、シンジとミサトを守るように声のした方向に身体を移し、腰をおとして態勢をととのえる。
そこには、日向マコトと青葉シゲルの二人が、周囲の惨状に呆然とした様子でたちすくんでいた。そして、三人に気がついた日向が、ゆっくりと周囲に気を配りながら近づいてくる。
「すぐに移動しよう。で、綾波君、誰がやったんだ?」
低く押し殺してはいるが、しかしはっきりとした口調で日向はレイに質問した。レイの答は簡潔であった。
「自分が、やりました」
「レイ!?」
はっとして、ミサトがレイに声をかける。その声に初めて誰がここにいるのか気がついた日向は、ミサトの惨状にあわてて上着を脱ぐと、彼女を直接見ないようにしながらそれを手渡そうとした。
「ありがとう。あら、お久しぶりね」
「ああ、いえ、どうもこちらこそ。いつぞやはずいぶんとお世話になりました」
なんともこの場の惨状ににあわない間の抜けた挨拶が交わされる。おもわず青葉は、不謹慎ではあると思いながらもくすくすと忍び笑いを漏らしてしまった。
「すまないんだけれども、弧狸庵てそば屋の裏の駐車場に青いルノーアルピーヌが停めてあるの。ここまでまわしてもらえないかしら」
あわてて日向に手渡された上着をはおり、これまで着ていたジャケットのポケットから車のキーを探し出す。
「わかりました。すぐに戻ってきますから」
「ありがとう。あなたに助けられるのは、これで二回目ね」
不意にミサトは微笑んだ。それは、まるで大輪のあでやかな花が咲くような鮮やかな笑顔であった。
のちのちまで日向は、この笑顔を忘れることはなかった。そう、この瞬間、彼は彼女に恋をしたのだった。
「今日は、ゆっくりと休みなさい」
シンジの部屋の前で、リツコは静かに優しくシンジに言った。
「あの」
「何?」
部屋のドアのノブに手をかけたまま、シンジはリツコの方にむきなおろうとはせず、ぽつりとつぶやいた。
「あの人達の怪我は、どうなりました?」
ドアのノブにかけられている手のひらが、わずかに震えているのがリツコの目に入った。
「部屋に入って」
シンジのその手のひらの上からドアのノブをまわし、リツコは扉を開けさせた。そして、彼の肩を抱くように部屋の中にそっと入らせる。後ろ手にドアを閉めようとして、若い男とその個室で二人きりになることにすこしだけ懸念を感じるが、だからといって外にこれから話すことが漏れるのはもっと危険であると思い直す。
「服を着替えていらっしゃい。シャワーはさっきあびたわね」
「……はい」
「ここで待っているわ。さ」
「はい」
そのまま着がえをもって脱衣所へ消えるシンジ。リツコはそんな彼の後ろ姿を見ながら、これから何を言うべきか少し考えてみた。
基本的に、シンジは悪くはない。むしろ、あの不良達を殺すこともできたにもかかわらずそうしなかったことで、「委員会」に対して彼の立場はいっそう安定したといってもいい。それも、彼が「力」をつかったのは、ミサトが暴行を受けそうになったぎりぎりのタイミングであったのだ。しかも、あれだけの暴行を受けながらも、自分のためには「力」をつかってはいない。
あとは、いかにして彼の傷ついた心を癒すか、だけであった。
「あの」
リツコがシンジをどう立ち直らせるか考えているその最中に、シンジは着がえてリツコの元に戻ってきた。
「もういいの? なら楽にして。ここはあなたの家よ」
せいいっぱい穏やかな微笑みを浮かべて、リツコはシンジをリラックスさせようとする。だがシンジは、そんなリツコの気遣いに感謝の微笑みを浮かべながらも、今にも消え入ってしまいそうなほど弱々しく打ちのめされた様子であった。そんなシンジに、リツコは努めて冷静に話を始めた。
「あの少年たちは、結局、全治三週間から二カ月程度の怪我ですんだそうよ。傷跡は残るかもしれないそうだけれども、ここの研究所の付属医院のスタッフは優秀だから、それほど目立つ傷にはならないと言っていたわ」
「そう、ですか」
だがシンジは、そんなリツコの言葉にも、心ここにあらずといった様子で部屋の隅で立っているだけであった。しばらくの間、部屋の中を沈黙が支配する。
「みんな、僕のことを叱らないんですね」
つぶやくようなその言葉は、リツコにはまるで悲鳴のように聞こえた。
「叱って、欲しいの?」
「……………」
ひとりぼっちで震えているこの少年が、なぜとはなしにいとおしく感じられる。
「あなたを叱る理由は、ひとつだけあるわ」
びくっと、シンジの肩が震える。
「ミサトや、あの不良達にわからないように「力」を使わなかったことよ」
そこでいったん言葉を切って、その言葉の意味をシンジが理解するまで待つ。
「シンジ君、あなたが自分の「力」を必死でコントロールしようとして苦しんでいることは、私にも分かっているつもりよ。でも、「力」は結局道具でしかないわ。あなたは、今その道具を必死に使いこなそうとしているだけ。
あなたが「力」で楽をしようとしたり、ずるをしようとしたりはしないことを、私は立派なことだと思う。それは分不相応の力を持ってしまって、結局その力に振り回されて破滅してしまう人にはできないことだから」
リツコは、立ちあがってシンジの手を取る。そして導くようにベットに座らせ、自分もそのとなりに座る。
「あなたは、すくなくとも一人の人を救うことはできたわ。そして、あの少年たちを傷つけたことは、あなたの心が今こうして苦しんでいることで十分に罰を受けているのではなくて? 人は、何をもって罰を受けると思う?」
そっとうかがうように顔をあげるシンジ。リツコは、穏やかな表情のまま、彼の顔を正面からみつめる。
「自分自身に対する評価を、つまりは誇りを自分で傷つけることで、その痛みにに耐えることでよ」
「僕は、卑怯で、ずるくて、弱虫で、それに綾波にまで……」
「でも、あなたはそれを言い訳にしようとしない。そして自分が弱い人間であることを十分理解している」
リツコは、ずっと握ったままのシンジの手をもう一度しっかり握りしめた。
「あなたがそうして自分の弱さに立ち向かおうとしているかぎり、私はあなたの味方であり続けるわ。たとえほかの誰もがあなたを責め立てても、私はあなたの味方でいるわ。それでは、だめかしら」
こんどは、シンジの手に力が込められる。
「だから、今はゆっくりとお休みなさい。レイのことも、私たちにまかせて」
「はい」
リツコはシンジの手をそっと放すと、立ちあがり部屋を出ていこうとした。その時、シンジはそっと押し殺した声で何かをつぶやいた。その意味するところは聞こえはしなかったが、リツコはふりかえると、にっこりと微笑んでささやいた。
「どういたしまして」
顔をあげたシンジの表情は、涙で濡れていたけれども、何かを吹っ切ったように明るかった。
「シンジ君、大丈夫だった?」
女子寮のリツコの部屋でとぐろを巻いていたミサトは、部屋の主が戻ってくるなり開口一番そう口にした。
「ええ、落ち着いたみたいよ」
「よかった」
「まったくね。で、ミサト」
きたわね。
内心やっとここに残った理由が本題になろうとしていることに、ミサトは意識をはっきりとさせてリツコの次の言葉を待った。
「単刀直入に聞くわ。あなた、どこまで知ったの?」
「シンジ君に秘密があって、その秘密が何なのか、まで」
「その秘密とは?」
なるほど、開くまでしらを切り通すか、私の幻覚ということでことをおさめたいわけね。
「シンジ君が言うには、超能力みたいなもの、だそうよ」
「信じるの?」
「あの悪がきどもの傷に、ほかに理由をつけられるのならば教えて欲しいわ」
そう、あれから日向の運転する車でいったんこの研究所の付属病院に担ぎ込まれて、治療を受けたのだ。その時に、あの少年らの受けた傷については一通り医師に話を聞いておいてある。すくなくとも、瞬時に鋭利な刃物で全身をずたずたにするなぞ人間にできるわけがない。
そして、こうしてどさくさにまぎれてシンジとレイを送るという名目でわざわざこの研究所までやってきたのは、今目の前にいる友人からすべてを明らかにしてもらうためなのだ。
「……親友として、ひとつだけ忠告させて」
「聞くわ」
ほう、この私を脅すつもり? 彼女は、十年つきあってきて、この私が脅迫されておとなしくしていると思っているの?
むらむらと持ち前の負けん気が、内心にわきあがってくる。理不尽なことを強制されるのが、ミサトはなんといっても我慢がならなかった。
「不用意にシンジ君の前でその話はしないことね。あの子の心を傷つけるだけよ」
「?」
「私が、あなたにありきたりの脅迫でもすると思った? 十年からのつきあいになるのよ、私たちは。あなたにそんなことをしても、かえって事態を混乱させられるだけなのを、私はよく理解しているつもりよ」
リツコの声のトーンがちょっとだけ揶揄するように変わったのに気がついて、ミサトは、恥ずかしさで顔が真っ赤になってしまった。おもわず照れ隠しに左手で頭をかいてしまう。
「でもね、シンジ君について話すことは、今の私には許されてはいないことも事実。だからお願い、あなたの目で見て、あなた自身で判断して。たぶんその方が、シンジ君のこれからにとってきっと役に立つから」
「それで私に納得しろと?」
「私がどういう女だか、あなたも知っているはずよ」
そう、リツコがミサトについてよく理解しているように、ミサトもリツコについてよく理解していた。
彼女が、一度口にしたことは絶対にひるがえさない頑固者で、しかも徹底した秘密主義者であることも。たぶん彼女にとって一番の親友であるミサトにも、一度話さないと決めたならば絶対に話そうとはしないであろう。せめてうそをつこうとしないことが、彼女がミサトをどれほど大切に思っているかの証明であった。
「ではひとつだけ聞かせて。昨日の夜、私を治したのはシンジ君ね」
「ええ」
間髪いれずにリツコの返事が返ってくる。
その口元が、笑っているようにゆがんでいるのが見えて、ミサトには彼女が何を言いたいのかがぱっとひらめくように見えた気がした。
おもわずミサトは笑い出してしまった。リツコが、実はミサトに仲間になれと言っていることがわかったのだ。そう、シンジを支え、助け、すこやかに育てるための仲間に。
「あなたが親友で、よかった」
「私もよ」
心地よい沈黙が二人の間に満ちる。
「ねえ、リツコ」
「何?」
「レイのことはどうするの? あの子、シンジ君の身代わりになるつもりよ。やってもいない罪をひっかぶるなんて、一時のヒロイズムでやるものではないわ」
その質問にリツコは、まずは穏やかに笑ってみせた。そして、冷蔵庫からブランデーのビンを持ってくると、ミサトにグラスを手わたす。いぶかしげなミサトの手のなかで、琥珀色の液体が静かな音を立てて満ちていく。
「レイなら大丈夫。私たちしかいないシンジ君とちがって、あの子には味方がたくさんいるもの」
「レイに? でも、あの子の身上書には肉親は誰もいないって……」
「肉親はね」
それからリツコは、グラスを目の高さまで掲げると一言つぶやいて、いっきにその中身を仰ぐ。
「チルドレンに幸あれ」
部屋を舞うほこりに窓から入ってくる光が反射して、まるで光の構造物のように見える。
レイはこの暗く古びた一室で、もしかしたならばその構造物の上を歩いて外へと出ていけるのではないかという妄想に自分がとらわれていることに、自分がわけもなく心が昂ぶってしまっていることに、軽い驚きを感じていた。自分がよく手入れをされた兵器のように確実に任務を果たす機械であるとずっと思っていたのが、実は全然そんなことはなくて、感情を持ったおどろきもすればとまどいもする一人の人間であることに。そして、それを知ったのが、この薄暗い第三新東京市市警察の取調室であることに。
「では、もう一度聞くが、あの少年たちに暴行をくわえたのは、君だと言うのだね」
「はい」
光の構造物のなかに座っているために、レイにはその表情の見えない取調官が、いいかげん困ったようにもう一度おなじことを聞く。だからレイは、これまでと同じように彼に答えた。
「しかしね、あの場には六人からの少年がいて、彼らの誰もが君のことを見ていないと言っているんだよ。それに、あの傷は、どうすればつけることができると言うんだね」
困ったように取調官が聞く。朝からずっとこの調子で取り調べが続いているのだ。
「逆上していましたので、よくは覚えていません。しかし、自分はそれを行い得ます」
「それはそうかもしれないが……」
困ったようにため息をつく取調官。
彼にとって困ったことに、昼前に行われたレイの戦闘能力を調べる調査で彼女が柔道の高段者の警官を三十秒でたたきのめした光景が、なにものにもましてその言葉に説得力をあたえていた。そう、彼女は、その警官がつかみかかってきたのをまずはよけると、彼の膝のさらに痛烈な一撃を叩きこみ、バランスの崩れた彼の肝臓にこれもまた容赦のない鋭い一撃を叩きこんで、あっさりと彼をKOしてしまったのだ。
そばで見ていた弁護士が、なぜか瞳を熱に浮かされたように輝かせてその光景に見入っているのが、この中年の取調官には印象的であった。
「では、聞くけれども、なぜあの少年たちをあそこまで傷つけなければならなかったのかね」
すると彼女は、なぜか考えこむように押し黙ってしまう。そしてこちらから何か話しかけないかぎり、ずっとその赤い瞳を昏く沈ませたまま、みじろぎもせずに考えこんでいるのだ。
だが、取調官が困惑している以上に、実はレイにも分からなかったのである。
なぜ?
わからない。
なぜ私は碇君の代わりに罪を引き受けようとしているの?
あのとき私は、葛城先生と碇君が抱き合っているのを見て、心が痛かった。私にはできなかったことを、碇君の心の傷を彼女が癒していくのを見て、心に苦いものが満ちていった。
だから、私はあのときすべてを自分の行為にしようとしたの?
でも、なぜ?
二つの行為の間にどんな関係があるというの?
わからない。
その時であった。
「弁護士が被疑者に面会を求めていますが、どうします?」
若い刑事が、これも困った様子で取調室に入ってきた。
「しかたないな。このままではらちが明かないし、面会を許可するしかあるまい」
やれやれといった様子で、この中年の取調官は腰を上げた。
「久しぶりだね」
「はい」
面会室でレイと弁護士の二人は、金網を隔ててむかいあっていた。レイがこの左ほほに醜いひきつれたような傷を持つ弁護士と会うのは、今日が三回目であった。一回目は、あの人に彼が挨拶をしに来たとき。二回目は、あの人の葬式のとき。二回ともこの人は濃緑色の制服に身を包んでいた。
「話して欲しいのだが、今回の事件は、君がやったのかね」
「はい」
うん、うん、とうなずくと、彼はさらに言葉を続けた。
「なぜかね?」
「……わからないのです」
「わからない?」
「はい」
しばらく黙って手もとの手帳を見ていた彼は、穏やかに話し始めた。
「私は現場を見たし、傷をおった少年たちについても調べた。君はまず確実に無罪にできると思う。ただそのためには、ひとつだけわからないところがあるのだよ。影佐さんに育てられた君の実力と、あの不必要なまでに残虐な暴力との間の整合性だ」
「はい」
「私には、あれが君が行ったようには思えない」
「はい」
「なぜだね」
「……わかりません」
本当に、レイにはわからなかったのだ。
そんな本当に困っている様子のレイに、彼はしばらく考えこんでいたかと思うと、つぶやくように一言もらした。
「あの少年か、教師が、酷い目にあっていたせいかな?」
碇君が?
碇君のせい?
それは、天啓のようにレイの心に浮かび上がってきた。そう、まるで暗い部屋に突然光が射しこむように。
私は、苦しんでいる碇君に、何もできなかった。
碇君の苦しみを癒すための優しい言葉も、慰める行為も、私にはなかった。それを持っていたのは葛城先生。あの夜も、あのときと同じように心が苦しかった。
だから、私は、私ができることをしたのだ。
そう。
私は、碇君のことが、好きなのだ。
葛城先生が言ったように、私は、碇君のことが、好きなのだ。
レイは、突然心が軽くなったように感じた。今、自分の心は、差しこんだ光の橋の上を歩いて暗い部屋から光り輝く外の世界へと出ることができたのだ。そして外の世界は、温かく、優しく、そして心地よかった。
弁護士は、何ということはない自分の言葉に、突然レイの表情が変わってしまったことに驚愕した。
これまで人形めいた生気のない少女が、それこそぱっと花開くようにまったく別の輝かしいなにかに変わってしまったのだ。
「わかりません」
だが、その穏やかにはにかむ少女の表情は、すべてをはっきりと語っていた。
ミサトは、他人に軽蔑の念を覚えるということがどういうことか、とくと思い知らされていた。
事件のあった次の日、事件にどう対処するかを討議するという名目で緊急の職員会議が開かれた。しかしそれは、ようするにこの騒動を引き起こしたミサトをつるし上げるためだけにあとからとってつけられた理由でしかなく、すぐに彼女の責任を問うことが唯一の目的となってしまったのだ。
普段からはでで目立つことおびただしい彼女を快くは思わない教師はけっこう多く、これさいわいと彼女の普段の行状を含めたすべてが非難の対象となったのである。
曰く、平素から教師にあるまじき挑発的な格好をしているから、目をつけられるのだ。
曰く、生徒となれあっているから、つけ入る隙をあたえるのだ。
曰く、教師としての分をわきまえずにしゃしゃり出るから、いらぬ問題を引き起こす。
曰く、……。
よくもまあこれだけ次々と人の行動のあらを見つけられるのものだ。
自分がまな板に乗せられているにもかかわらず、ミサトはそう他人事のように話を聞き流していた。目の前で青葉がそんな教師にかみつきたそうではあったが、彼女はそれを押しとどめていた。こんな狭い箱庭のなかのことしか知らない連中とけんかをしたって、得るものは何もありはしないのだ。
今も中年の女教師が、ヒステリックにミサトのことを非難している。
もっとも、彼女の非難の内容は、ようは派手で目立ちたがり屋のミサトが全て悪いということらしい。よくもまあ、人の行動をここまで悪意に満ちて曲解できるものだ。ミサトは、腹が立つより先にその思考のめぐりかたにあぜんとなってしまって、拍手のひとつもしてあげたいような気分であった。
「そういうことですので、やはりここは葛城教諭が十分に反省をした上で責任を取るというのが、校内の秩序を保つ上で必要かと思いますが。そうは思われませんか、細井教務主任?」
この職員会議が始まってから、なぜかずっと黙ったままでいる教務主任の細井平洲に、彼女は話をふった。普段もっともミサトを目の敵にしている彼が、なぜかこの場においては我関せずといった様子で黙って話を聞いているだけである。その様子にもの足りなさを感じた彼女は、なんとかして大勢をミサトの責任をとる形でまとめようとしたのだ。
職員室内のすべての人間の視線が、細井教務主任に集まる。
彼は、その無駄な贅肉のいっさいをそぎ落としたような容貌になんの表情も浮かべず、わずかにずれたチタンフレームのロイド眼鏡の位置をなおすと、静かに口を開いた。
「とくに、意見はありません」
「何ですって!?」
かん高い声で、彼に話をふった教師が叫ぶ。
だが、そんな彼女に一瞥だにくれず、細井教務主任はもう一度口をとざした。
「説明をお願いします!」
もっとも強力な、アンチミサト派の筆頭のように思われていた彼のあまりに意外なその一言は、この会議を混乱に陥れた。そんな混乱から一人超越しているように見える彼は、さすがにこの混乱を収集しなければならないと思ったのであろう、こんどはゆっくりと静かだがよく通る声で話し始めた。
「この職員会議の目的は、何なのでしょうか?」
全員があっけにとられて彼の次の言葉を待つ。
「私の聞いたかぎりでは、昨日の夜起きた障害事件について学校側の取るべき態度について討議するというものでしたが。違いますか」
その通りだ。
教師の一人が、何をいまさらといった感じでつぶやく。
「ならば、我々の取るべき態度は、事件の経過が司直の手で全て明らかになったところでそれを全校生徒と親御さんにきちんと説明し、いらぬ風説で校内を動揺させないことでしょう。違いますか」
こんどは、沈黙があたりを支配する。
だが彼の言葉は、淡々と続けられた。
「一部に事件の当事者であった葛城教諭の責任を問う声もありますが、その根拠はなんです」
誰も答えようとはしない。
いや、青葉がここぞとばかりに発言する。
「今までの話をまとめると、葛城教諭が普段から教師らしくない行動が多くて、それが今回の事件を招いた、というのが理由みたいですが」
「異論のある方は」
いはしない。
「私が事件の経過を聞いたかぎりでは、この事件はあくまでことの発端から怪我をした他校の生徒たちが原因であり、葛城教諭は最初から最後までその非を訴え続けていただけのようですが。それとも、その行為自体に問題があるというのでしょうか」
もはや、誰も何か言える雰囲気ではなくなってしまっている。
「葛城教諭も、いっしょに暴行を受けた生徒も、相手の生徒に暴行をあたえた生徒も、全て被害者であると言っていいように見えます。あくまでこの事件の主犯は相手の生徒たちであり、我が校の三人に落ち度があるとは思えません。それとも、あくまで葛城教諭が暴行を受け、我が校の生徒が大怪我をしたほうがいいとでもいうのでしょうか」
蝉時雨が、皆の耳に聞こえてくる。
「それでは、我々は、いかにして生徒を預けていただいている親御さん達の信頼に応えることができるというのでしょうか」
大勢は、決した。
職員会議が終わったあと三々五々教師たちが帰る校庭で、ミサトは細井平洲とむきあっていた。
「お礼を言っては、いけないのですね」
「はい」
ミサトは、この冷酷そうに見える中年の教師が、実はただ筋を通すことに厳しいだけであることを十分に理解したのであった。それは彼女にとって、心地いいといってもよい発見であった。彼女は、そんな男が大好きであった。そして、自分の上司に尊敬できる人間がいることに陶然としてしまうほどの喜びを感じていた。
彼が守ったのは、ミサトではない。この学校の教師に対する生徒や親たちの信頼なのだ。
それが、うれしくて、うれしくて、たまらなかった。
「それでは」
「はい」
「私は、細井主任のことを尊敬します。これならば、かまいませんか?」
「……はい」
右手でチタンフレームのロイド眼鏡を直す彼を見て、ミサトは思った。
照れてる。
少年たちの親は、怒りに身を焦がしていた。
よりにもよって自分の息子にあれほどまでにひどい暴行をくわえた相手の親権者が、忙しいから会いに行けない、面会のための時間はつくるから第一新東京市まで来てほしいと言ってよこしたのだ。そのあまりの不遜な言いように、自分たちの子供のほうが問題を起こしたといううしろめたさが加わって、いっそうその怒りの火をかきたてていたのだ。
そのために今彼らは、忙しい中わざわざこの国の行政機構の集中している旧松本市、現第一新東京市に来るはめになったのだ。
「まったく、親権者の監督責任を問わねばなりませんな」
市議会議員をしている親が、額の汗をハンカチでふきながら大声で話している。
「まったく、あの親にしてこの子ありだな。これほどの事件を起こしたというのに反省の色がない。ふざけおって。厳しく追求する必要があるぞ」
第三新東京市でかなりおおきな建築業を営んでいるという父親が、そう相づちをうつ。
そんなこんなで、とうとう相手の指定した建物に着いてしまう。
「それでは皆さん、いきますぞ」
久しぶりに来る第一新東京市は、冬月にとってあいかわらず好きになれない街であった。
それも仕方のないことではあった。リベラルなことで有名な京都大学の出身で、しかもその教授たちのなかでもかなり左側に位置している彼にとって、この街はなんとも息苦しく冷たい感じがしたのだ。この国の政府の行政機構を統括するためだけに造られたこの街は、それだけで権威の象徴のようなところがあったのだ。
碇ゲンドウに直接手渡す必要のある資料を持ってきた冬月は、そのゲンドウの執務室のある部屋から何人もの中年の男たちが顔色を真っ青にして憔悴した様子で出てくるのを見て、今日なにが予定されていたのかを思い出した。
執務室の中で当の本人は、あいかわらず無表情なままで膝の上の猫の背中をなでていた。
「もういいのか」
「ああ、全て終わった。問題ない」
かるくため息をつくと冬月は、書類の入ったスーツケースの鍵を開けると、なかの書類をゲンドウに手渡した。
「前に話しておいた資料だ。これで「委員会」の説得は楽になるだろう」
「ああ」
「それにしても、碇」
「なんだ」
いいかげんこの男の性格を理解しているにもかかわらず、さしもの冬月も何か一言言いたくなってしまう。
「また、やったろう」
当の本人は、わずかに片ほほをゆがめて笑っただけであった。
「おめでとう。結局、レイは不起訴処分で無罪放免。相手の親たちも訴訟を起こさないそうだし、これで何もかも終わったわね」
寮に帰ってきたレイをでむかえたリツコの第一声は、彼女らしくまったくめでたそうには聞こえなかった。しかしシンジには、彼女が彼女なりに、何ごともなく終わったことを喜んでいることがよくわかっていたのであった。
「綾波、その、ありがとう」
「……そう」
ミサトの車から降りてきたレイは、なぜかこれまでとは違う印象があった。何がどう違うのか、シンジにはこれと説明することができなかったが、だが何か違うことだけはわかったのだ。
「よかったね、これで夏休みだよ」
「ええ」
まっすぐシンジのことをみつめるレイに、彼の心臓の鼓動がなんとはなしに早くなる。彼女の視線は相変わらず強く揺るぎなかったが、だがこれまでとは何かが違っていた。
そのことに最初に気がついたのは、やはりミサトであった。
「レイ、どうしたのん?」
「はい」
ぱっとレイの顔に微笑みがひろがる。
その笑顔に、ミサトはだいたいのところがわかったような気がした。そして、そのことに触れてはいけないことにも。だから彼女は、一言こう言ったのだ。
「よかったわね」
蝉時雨と、入道雲と、アスファルトに立つ陽炎が、やっと子供らの夏が始まったことをつたえていた。
終
皆様、御久しぶりです。ほぼ一ヶ月ぶりになりますか、H金物改め金物屋亡八でございます。
ようやく「EVANGELION1999」第弐話が終わりました。いや、とにかく長くかかってしまいました。まさかこれほどまでに手間がかかることになろうとは、いくらなんでも思っておりませんでした(笑)。
まあ、とにかくこれで第参話「アスカ来日」に取りかかることができるわけです。
いやもう、やっとこれを書き出すことができるわけで、今からもう楽しみで楽しみでならないわけですよ(笑)。それこそもう、ありとあらゆる私の趣味大爆発の作品になるでしょうから、たぶん今回ほど書いていて辛いということはないでしょう。いや、わかりませんけれどもね。本当は今年中に書き終えるつもりでいたのですが、結局来年の春までかかりそうですし(笑)。いえ、シノプスを切ったいまの段階では、たぶん8Partで終わるはずなのですけれども、この第弐話のように2Partで終わらせるはずの話がこうして5Partまで延びて、しかも分量的には第壱話をかるくしのぐということもあるわけで(笑)。
ま、アスカをやっと出せる今となっては、どうでもいいことなんですけれどもね(笑)。
ああ、これでやっとシンジを巡るアスカとレイの三角関係が書くことができる。るんるん。
さて、実は近日中に私のホームページの見学者数が一〇〇〇〇人に達しそうなのです。
これを記念した作品を書かねばなあ、と思ってもおりまして、第参話の始動までちょっと時間がかかりそうです。できれば気を長くして待っていてくださいませ。
最後になりましたが、今回さんざん煮詰まってしまった私を励まし、蹴りを入れ、多くの有益な示唆をくださった舞村そうじ氏に感謝の意をささげて終わりたいと思います。
まことにありがとうございました。
で、またまたしつこく繰り返させていただきますが、このストーリーのテーマは、誰がなんと言おうと「ラブラブシンちゃん」です(笑)。
とにかく、シンちゃんを中心としたラブコメを書くことが目的であり、それ以外のいっさいは些末事であると、いまさらながらに書いておきましょう。しつこいなあ、俺(笑)。
さて、作者の他愛も無いご託はここらへんで終わりにしておきましょう。語るべきことは、作品によって語ればよいのですから。
それではまた、機会がありましたら、次の作品でお会いしましょう。
金物屋亡八 拝
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