REALIZE AGAIN 幕間

lilith

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ずっと遠くで独りで膝を抱えこんで波に濡らされながら抱えた膝の上に頭を乗せて虚ろな瞳で地面を見つめている
見る
そのすぐ後ろでうずくまった背中を見つめて静かに立って身動きもせずなにも言わずにただ月と星に照らされている
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さらに少し離れた所に仰向けになって全てを止めて包帯に包まれて首に痣をつけて頬に落ちた涙の後を乾かせてある
聞く
沈黙
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ずっと遠くで独りで膝を抱えこんで波に濡らされながら抱えた膝の上に頭を乗せて虚ろな瞳で地面を見つめている
見る
そのすぐ後ろでうずくまった背中を見つめて静かに立って身動きもせずなにも言わずにただ月と星に照らされている
見る
さらに少し離れた所に仰向けになって全てを止めて包帯に包まれて首に痣をつけて頬に落ちた涙の後を乾かせてある
聞く
「……もう、いやだ」
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顔を上げもせず握った拳に力は無く波に濡らされながらただ唇だけを動かしている
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そのすぐ後ろでうずくまった背中を見つめて静かに立って身動きもせずなにも言わずにただ月と星に照らされている
見る
さらに少し離れた所に仰向けになって全てを止めて包帯に包まれて首に痣をつけて頬に落ちた涙の後を乾かせてある
聞く
「会いたかったんだ……本当に。なのに」
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顔を上げもせず握った拳に力が少し入り波に濡らされながらただ唇だけを動かしている
見る
そのすぐ後ろでうずくまった背中を見つめて静かに立って身動きもせずなにも言わずにただ月と星に照らされている
見る
さらに少し離れた所に仰向けになって全てを止めて包帯に包まれて首に痣をつけて頬に落ちた涙の後を乾かせてある
聞く
「なのに、なんでさ……どうして、こんな……」
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顔を上げもせず拳を握り締めて背中を震わせて波に濡らされながらただ唇だけを動かしている
見る
そのすぐ後ろでうずくまった背中を見つめて静かに立って身動きもせずなにも言わずにただ月と星に照らされている
見る
さらに少し離れた所に仰向けになって全てを止めて包帯に包まれて首に痣をつけて頬に落ちた涙の後を乾かせてある
聞く
「ここには誰もいないじゃないか……誰も、戻ってなんか来なかったじゃないか。それに、アスカも……いやだ、こんなのはいやだよ……」
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顔を上げもせず拳を握り締めて背中を震わせて手の平に爪を食い込ませてただ唇だけを動かしている
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そのすぐ後ろでうずくまった背中を見つめて静かに立って身動きもせずなにも言わずにただ月と星に照らされている
見る
さらに少し離れた所に仰向けになって全てを止めて包帯に包まれて首に痣をつけて頬に落ちた涙の後を乾かせてある
聞く
「なら、なにを望むの」
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一度だけ大きく震えて体を強張らせて息を止めて聞こえてきた声に驚いて目を見開いている
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そのすぐ後ろでうずくまった背中を見つめて静かに立って身動きもせずただ月と星に照らされて答えを待っている
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さらに少し離れた所に仰向けになって全てを止めて包帯に包まれて首に痣をつけて頬に落ちた涙の後を乾かせてある
聞く
「……」
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体を強張らせてそのまま息を止めてなにも考えられなくなっている
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そのすぐ後ろでうずくまった背中を見つめて静かに立って一歩前に踏み出すか迷ってただ月と星に照らされて答えを待っている
見る
さらに少し離れた所に仰向けになって全てを止めて包帯に包まれて首に痣をつけて頬に落ちた涙の後を乾かせてある
聞く
「……いやだ、もう何も望まない、何もしたくなんか無いんだ。どんな望みも叶わなかった、何も出来なかったんだ。人を傷つけて、イヤな事ばかりで。……何も出来なかった、やって見ようとも思わなかった。……僕は……エヴァに乗ったのが間違いだったんだ……誰にも会わなければよかった、こんな所、来なければよかったんだ……」
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うつむいたままで消え入りそうな震える声で何度もつまりながら爪を立てた手の平から血を流していう
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そのすぐ後ろでうずくまった背中を見つめて静かに立って身動きもせずただ月と星に照らされて少しだけ表情を歪めている
見る
さらに少し離れた所に仰向けになって全てを止めて包帯に包まれて首に痣をつけて頬に落ちた涙の後を乾かせてある
聞く
「……そう……なら、そうするわ」
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頭を抱え込んで耳を塞ぎただ震えて涙と鼻水を流して止まらない血と波に赤く染められている
見る
そのすぐ後ろでうずくまった背中を見つめて微笑んで静かな声ではっきりと思いを込めていう
見る
さらに少し離れた所に仰向けになって全てを止めて包帯に包まれて首に痣をつけて頬に落ちた涙の後を乾かせてある


呼ばれて
いる


rei

 私が私でなくなる。
 いいえ、私の体が私でないものになっていく。
 そう、あの白い体はもう使えないから。

 聞こえる声、
『おかえりなさい』
 答えられない。

 最後に、私の事を見てくれない背中を、





 目を閉じる。



「さよなら」



rei ⊂ lilith

もう体は動かせない
あの時と同じ
大きな物の一部になった感じ

それに願いを
望みを
約束を伝える

返答
―肯定

背中が弾ける白い光る翼が伸びていく
どこまでも

砂浜を
付きたてられた十字架を
誰もが溶け込んだままの海を
これの白い光る翼が覆う

空を
赤く染まったこの星を
昔二人で見上げた今は血の跡の残る月を
これの白い光る翼が覆う

太陽を
幾つもの惑星を
それらの間を漂う初号機を
これの白い光る翼が覆う

星々を
幾つもの銀河を
誰も知らない生き物の船を
これの白い光る翼が覆う

そして
これは
いいえ私は
世界一つを包んだ翼を一度だけ震わせて

宇宙を、銀河を、星々を、知らない生物を、凍てついた星を、輪のかかった星を、初号機を、太陽を、月を、この星を、空を、赤い海を、十字架を、三佐のペンダントを、白い砂浜を、もう動かない彼女の体を、


碇君を、

全てを、破壊した


lilith ∋ rei

 閉じていた目を開いた
 大きな柱の上に立っている

 混沌の泥の上に伸びた
 不確定性の大気の中にそびえる
 一本の大きな柱の上に
 これは立っている

 広げたままの翼を
 柱に比べれば小さな
 直径の半分にも満たない翼を
 そっと下に向け

 柱に触れさせる

 ほどけていく柱
 破壊される時間

 とけた歴史は
 可能性と
 自由意思のかけらになり
 幻像を一瞬描いて
 大気に溶けてゆく

 幾つもの幻

 今にも消え去りそうなこれの一部が
 生きた時間

 これに伝わる震え

 かって名前を持っていたこれの一部が
 起こす震え

 ほどけていく柱
 破壊され狂った因果律に引き摺られ

 これは
 ほどけていく柱の上
 t軸負方向に降りていく


 やがて翼が光を失いはじめる
 二度目にこれに還った時赤い海に溶けた心から集めた力が
 時間に意味があった最後の瞬間に世界を壊して集めた力が
 使い果たされていく

 問い掛ける
 これを呼んだ
 消え去りそうなこれの一部に

 ほんの一部のはずのそれから
 はっきりと帰ってきた心に驚く


rei + lilith

「まだだめ」
 夕日に照らされた電車の中で、私は答えた。
『何故』
 座席に座った私の前に立つ、私と同じ顔をした、けれど私と違うその人が聞く。
『ここでも、変えられる。この時点で、これに槍は打ち込まれていない』
 窓の外を見た。
 オレンジ色の夕闇で出来た世界。
 その隙間に映る幻、この時間に起きたはずの、すでに壊された出来事。

 ―無数に並ぶ墓標の前に立つ二人―賑やかな場所で白いテーブルに付く3人―緑色の服を着て出かける彼女−雑巾をしぼる私―

「駄目、約束したもの。……エヴァに乗せてはいけないの、あの街に来てしまってからでは駄目なの。……私達と、私と、出会っては……だめなの」
『それで、良いの?』
「いい」
『……本当に?』
「大丈夫。もう、忘れないもの」
 今の私はちゃんと覚えている。全部。
 大切な事も、嬉しい事も、あまり嬉しくない事も、どうでもいいような事も。
 三人が一つになった私は、覚えている。
「何があっても、また次の体に移っても、忘れない。記憶は私だから」
 私を形作るものだから。
「だから、ずっと覚えているから、平気。会えなくても、私のこと知らなくても、ずっとずっと覚えているから、それでいい」
 この人の中でも自分でいられた私は、もう、忘れない。
『なら、そうする。これが集めた全ての力を使って、必要な所までこの列車を進める』

lilith

 集めた力すべてを振り絞った。
 十分にほどいた柱のほつれ目に、紡ぎ直される時の中に、
 あの一部を織りこみ、私は全ての仕事を終えた。

 ”私”?
 いつから私は、私になった?
 この時間の外、不確定性の中では意味のない『いつ?』という疑問。

 けれど確信する。
 私は、あの一部の影響を受けて私になった。
 変わるはずなどないこれが、私になった。
 ……これから生まれた物が、私を産んだ。

 ならば私も、贈り物をしよう。
 この”私”という贈り物に似合った、幸いか否かの答えのないものを贈ろう。
 最後まで私が、そしてあの一部、いいや、綾波レイが壊せなかったものを。



 そして、自分を形作るだけの力が、すでに私には無くなった。
 もはやあの柱の中に入る事も、ここではない何処かへ行くことも出来ない。
 私は、消えてしまうまでの、永遠に良く似た一瞬の中で、私について考えよう。
 今まで私が手に入れることの出来なかった、”私”だけを胸に抱いて。


rei

 その次の瞬間。
『信号拒絶、駄目です!零号機制御不能!!』
 警告の文字が溢れるプラグの中。
 私が望んだ、時と場所。
『実験中止、電源を落とせ!』
 あの人の声。
『完全停止まであと35秒!』
 拳に伝わる痛み。
 この大きな体から伝わる、心と体の痛み。
『オートイジェクション作動します!』
 振動。
『いかん!!』
 激突音、衝撃。
 私の体に直接起こる痛み。
 遠くに感じる零号機の声に集中する。
 呼びかける私。
 答える零号機。
 もうなにも映さないプラグの向こうで、
 振り上げられる拳……私の思いどおりに。
『レイ!』
 叩きつけられた拳。


 闇の中に、深い地下に、あの水槽に、落ちていく私の心。

 ……これで良い。もうすぐ使徒が来る。
 怪我の無い新しい体の私がいて、零号機の再起動は間に合わない。
 これで良い。
 これで、私が独りで戦えばいい。




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