1998年十月二日夜半、僕はガソリン代を半分負担してもらうべく、高知から松山の秋月さん宅へ向けて国道33号を北上。

約束の日である十月三日に入った頃に同下宿に到達。少し話をしてからハードな展開を見せることが予想されるFMTTMオフ@大阪に備えてごろりと他人様の下宿でトドのように横たわり大いびきをかき始めた。

・・・秋月さんはその夜、文字通り一睡もできなかったらしい・・・




FMTTMオフ@大阪

狂乱の13時間




約束の地である「キタ」(大阪梅田界隈のこと)に到着したのはやや予定よりも遅い三日午後4時すぎ。

途中で適当な居酒屋を探して予約を入れて置くつもりがすこし時間が足らず、直接集合場所へ向かうことにする。

初動でいきなりつまづいたことにわずかな不安を覚えつつも、「キタ」ならなんとかなるだろうと自分に言い聞かせ、JRの改札口を探した。

僕の記憶では地下鉄御堂筋線に向かう大きな改札口が一つあったはず・・・だが僕が覚えていたのは入場専門の改札口だった!!

はや、二つ目のつまづきを起こしたことが判明し、暗澹とした思いにとらわれながらも自分を叱咤し駅員さんに確認したところ、どうやら出口専門の大きな改札が一カ所あるらしい。

だが、一方で他にも小さい改札が複数あるそうだ。

事態は僕の手を離れつつあるような気がするものの、手をこまねいているわけにはいかない。

とりあえず、その中央改札口へと足を急がせた。






僕の不安が秋月さんにも伝染したのか、それともハードな行程ですでに体力を使い果たしたのか、秋月さんは終始無言。

それでも僕の寒い冗談に一応笑いらしきものは返してくれている。

中央改札口は意外に閑散としていて、おそらくは東京、名古屋組の乗ってくるだろう「のぞみ」の到着時刻にはまだ少し間があるはずだから・・・

ん?改札の向こう、構内で二人の男性を発見。

一人は全身黒い色調の服装でかためており、顔立ち、雰囲気と言い、いかにも「ディレッタント」というか、教養の高さを周囲に放っている。

そして、もう一人は・・・すでに顔が赤い・・・全身にかぐわしい土と緑の香りを漂わせているかのような懐かしく暖かい雰囲気を纏っている。

僕の視線を感じたのか、それともお互いに何か引き合うものを感じたのか・・・その、すでにアルコールをきこしめしているらしい人はふとこちらに顔を向けた。

駅の改札口を挟んで、視線を合わせた僕とその人はお互いに迷いのない足取りで歩み寄る。

この人だ、この人だ

僕の中で何かが大声で叫んでいる。

なにか、大きな安堵感と充足感が僕の胸中に潮のようにどんどんと満ちてくる。

僕は喜びの余り崩れそうになる表情を引き締めながらも、思わず手を差し伸べながら挨拶をした。

「横着星さんですね。さとしです。遠いところからわざわざ本当に・・・」

「Kieです。よろしく」





Kieさん・・・

僕は視界がブラックアウトするのを実感した。

恥ずかしさのあまり顔を上げることができない。

これでもう、はやくも三度目の齟齬。

混乱した思考の中、必死でなんとか口を動かして失礼をわびていると、もう一人の知性的な雰囲気の人が僕の前にやってきて優雅に一礼し、柔らかい口調で挨拶をして下さった。

「Kieです。今回は呼んで下さってありがとうございました」

ん??・・・じゃあ、じゃあ・・・

「・・・横着星さん!やっぱりそのまんまじゃないですか!!」

「ひでえ!初対面の人間にいきなりそういうこと言うかあ!!」

こうして約束の日、もっとも長い一日、狂乱の十三時間が始まった。






どうして予定よりも早く東京組が到着していたか、ですか?

「いいんちょに乗ってきたんだ」

「・・・は?」

「いや、だからいいんちょ・・・」

ぎごちない沈黙が続く。

実はこのとき「委員長=malさん」と連想した僕と秋月さんはEOEのラスト近く、LCLの海の中でシンジの姿をした(想像上の)malさんの上にこの眼前の横着星さんがレイと同じ姿勢でのっかっているところを想像し、まさに「こんな時、どういう顔をすれば」状態。

「いや、つまり、こだまじゃなくてひかりに乗ってきたと言っているんだけど、二人ともいかんなあ」

もはやエヴァというよりはFMTTMに首まで浸かっている自分を実感。

東京組も呆れていた。

そうこうするうちにハンドル名Lich(亡霊の王様みたいなキャラクター)、メアドはスケルトンという現地の方がいらっしゃった。

こういう場合も、名は体を現すというのだろうか・・・

ご本人も「黒いロープを纏ってこようかと思った」と言っていたが、それをすると洒落にならないような気がしたのは僕だけでは無いと思う。

そして、突然小さなうちわを左右に振りながらもう一人急速接近。

レイの顔が描いてある・・・

ハンドルはritornelさん。

いきなり手製の!綾波アイテムで敵味方を識別しながらの登場である。

全員一斉に綾波うちわに群がり、テンションがぐんぐん高まってくる。

そのとき横着星さんが「電話を確認したか?」と注意して下さったので、ちょうど集合時間の五時間際でもあり、近くの公衆電話で留守録を確認する。

だが、横着星さんの声以外には入っていない。

ritornelさんもおっしゃっていたが、この「濃い」雰囲気を間違えようがないだろうし、なんとかなるだろうと思って改札口に戻るといきなり人数が増えている。

細身の体に鋭い容貌の節田Dさん、僕は随分お年を召されているかのように想像していたが、実は思いっきり若かったumaさん、某国のワールドカップの監督そのまんまなT.K岡田さん、オールバックで強そうな(後に中国拳法をたしなんでいることが判明)河田さん、紅顔の美少年中田君・・・全員、僕の不手際にも関わらず、時間通りに集合して下さった。

ありがたいことである。

早速地下鉄で二つ南下し、Lichさんの下宿の下にある喫茶店まで楽しくお互いに挨拶を繰り返しながら徒歩で十分間。

小綺麗で洒落た喫茶店があった。






喫茶店は我々だけでほぼ満員。

だが、お店の方は快く受け入れて下さった。

一次会はとりあえず自己紹介からスタート。

何と言っても初顔合わせが多いし、そうでなくても知らない者同士がいるのだから、とえびあんさんに教えてもらったとおりにやる。

僕は他人の名前と顔を一致させるのが少し苦手なのだが、なぜかすんなり頭に入ってしまった。

印象があまりにも強烈だからか、それとも「初めてなのに、初めてでないような気がする」という事なのだろうか?

そこで、Lichさんの友人でもあり、今回CD-Rを焼いて下さるハンドルD-Kaizerさんが登場。

これまた、とっても気持ちのいい方であった。

ちなみに彼もLichさんの親友だけあって、「名は体を現す」たぐいの人である。

当初4枚であったはずのCD-R焼きが、人数分ちゃんとメディアを用意して下さっており、しかもデジタルカメラで記念写真を同時に焼いて下さり、なおかつ御自身の秘蔵アイテムまで中に入れて下さった。

もはや参加者一同、感謝の言葉が出ない状態。

ついでに「他人任せで幹事は何をやっているのか」という疑問の声もでなかったため、またもや命拾い。

そして様々な話題がとぎれることなく続き、それを止めてしまうのは僕の寒い冗談だけ。

横着星さんがKieさんのためにカラーコピーしてきた同人誌の表紙の束や、河田さんが「会員制」を手作業で閉じて一冊の本にしたもの、そして横着星さんの秘蔵の「綾波の素or一部」が全員の注目を集め、閲覧されていた。






話題がだんだんRPGの方に進んでいたときに異変は発生した。

「ラストハルマゲドン、サルバンの破裂日」

「地獄の宇宙船内」

その河田さんの答えで横着星さん突如として暴走。

口角から泡を吹き出さんばかりにして「君は僕と同じだね」と口走っている。

たくましい河田さんと大きな握手を繰り返していたが、なぜ抱き合って頬ずりしなかったのかが未だに不明なほどの高シンクロ率。

急激に上昇するシンクロ率が400%を越えた時点で、あっけにとられていた周囲の人間も二人の大笑いに引きずられて大爆笑。

ちいさな喫茶店はしばらく笑いの余韻が収まらなかった。






そろそろ、飲み会に移ろうかという提案が出たのは、六時過ぎ。

もう、コーヒー一杯にしては申し訳ないくらい長居をしている。

ところが、僕は予約をしていなかったことをすっかり忘れていた。

あわてて地元のLichさんとD-Kaizerさんに相談し、この近くでもっとも都合のいい場所を推薦してもらった。

電話で予約すると八時半までは入れないとのことで、その居酒屋へいくまでに徒歩で30分くらいかかるために今しばらくここでお世話になることになってしまった。

残り一時間、とりあえず精算をという東京組の声で一斉にばらばらに精算し、お代わりは?という東京組の声でまたばらばらに注文している。

幹事は気が利かない・・・

その上、居酒屋の値段を言うと、じゃあ、今のうちにと先にみんなが酒代を払ってくれた。

隣のLichさんが率先して計算してくれ、やはり幹事はなにもしなかった。

ついでに横着星さんがお約束だからと「これ持って逃げたらだめだよ」とつっこんでくれた。

・・・はたしてこのメンツに幹事が必要だったのだろうか?

帰り際、また来てねと喫茶店の方がおみやげ(小銭入れ)を下さり、横着星さんが「ご迷惑をかけました」とのお礼と共に東京からわざわざ持ってきて下さったおみやげを喫茶店の方に渡して下さった。

僕は、やはり気がつく人は違うなあと自分の役目を既に放り投げて感心していた。






梅田キタ、阪急東通り商店街

ばらばらになりそうなメンバーを先頭でD-Kaizerさん(急遽参加して下さることになった)がひっぱり、最後尾をLichさんが固めてくれたおかげで、僕は安心してこの辺りの歴史的な話や人情のことについて、Kieさんとお話する機会が持てた。

ものすごい人混みで、文字通り芋を洗うかのような混雑、横着星さんは「ようやく関西に来たという実感がわいた」とうめいていらっしゃった。

Kieさんのもの柔らかな話しぶりで僕はすっかり会話に気を取られてしまい、残り全員が居酒屋の前で集合しているのを後目にそのままKieさんと立ち去ってしまうところだった。

慌てて追いかけてくれる人たち・・・もはや幹事とはなんぞや、などと考えているような状況では無くなった。

ようやく店に入り、入り口脇の階段を上り始めると、背中から突如として大音声が店内に響きわたった。

「綾波様ご一行、ごあんなーい!!」

続いてドドンドンと大太鼓の音も響きわたる。

これで委員会の規約も満たしたし、やれやれ・・・






居酒屋はやかましく、離れた席の人たちが何を言っているのか全く判らなかった。

中央で差し向かいになり、東西の考察両巨頭・・・東のKieさん、西の秋月さんがなにやら熱く語り合っている。

向こうの方では横着星さん、ritornelさん、T.K岡田さんが盛り上がり、その反対側ではLichさん、河田さん、中田君がなにやらげらげらと笑っている。

僕の隣は節田Dさん、その向かいにはumaさん、そして僕の向かいにはD-Kaizerさんでなぜかここはわりと静か。

僕は、最初のビールも口をつけたのかどうか判らないくらいで、料理もちょっとつまんでいるだけの節田Dさんとお近づきになろうと、なんだかんだと話しかけた。

にっこりと笑って相手になってくださるのだが、すぐに黙ってしまわれる・・・

僕は何がよくないのだろうかと身動き一つなさらない節田Dさんの背中を見つめていたが、途中で節田Dさんは東西両巨頭の会話を全身耳にして聞いていらっしゃることに気がついた。

後はもう、それぞれに任せて僕はのんびりとD-Kaizerさんと飲んでいた。

節田Dさん、邪魔してごめんなさい






終了間際にritornelさんが「終電で帰ろうと思っていましたが、もう一人だけ先に帰れません」とおっしゃって下さり、また、秘かに節田Dさんもその日のうちの帰宅を断念してくださったみたいで、居酒屋のにぎやかなノリのままで、近くの公園でお月見を始めることになった。

繁華街を抜け、少し静かな夜道をぞろぞろと歩き、途中のコンビニで補給をすませると、すぐそこに公園があった。

白々とした冷たい光を下界に投げかけてくる月の下、僕たちは腰掛ける場所を探して公園を横切った。

植え込みのそばなら月もばっちりと見える。

中秋の名月がさえざえとその姿をビル街の上に浮かび、おのおのが紙コップを持って静かに酒盛りが始まった。

比較的テンションが高いのは河田さん、中田くんコンビ。

隣で聞いていて飽きない会話を展開している。

東京の二人は並んで腰掛け、その周囲を数名が取り囲んでいる。

僕はあっちをふらふら、こっちをふらふらとしながら耳を傾けていた。

以下、時系列は無茶苦茶・・・(参照:FMTTMのBBS/横着星さん、節田Dさん、Kieさん十月五日、六日)

秋月さんはなにやら熱く自分のSSについて語っている。

突如雄大になってしまったシンジ君ネタでSSを書こうかと言う話が出た瞬間、「最初からD型装備」とさらっとピンポイントに鋭いコメントをくれたT.K岡田さん。

じっと耳を傾け、飲まず、食わずで唯一氷だけを口にする節田Dさん。

ニュータイプ論で盛り上がるKieさんと河田さん。

ユイさんがもっとも極悪という話題で全員が集結。

自らの作品、「るろうにエヴァ」が生まれてくる経緯を明かしてくれた中田君。






僕は、ちょっと買い出しに出かけた。

誰か、何か欲しいものはありますか、と聞こうと思ったのだが、みんないろんな話で盛り上がっているので、umaさんに一声かけておいて繁華街へ戻る。

アルコールを手に入れ、帰りにたこ焼き屋のおやじさんとついつい、焼き上がるのを待っている間に話し込んでしまって、かなり時間がかかってしまった。

てくてくと公園に戻ると、向こうから節田Dさんが駆け寄ってきてくれて、荷物を持ってくれた。

到着すると、みんなが口々に何かあったのではないかと心配してくれた。

突然、一斉に周囲をとりまいて「無事で良かった。おめでとう!」と拍手をしてくれる。

口々に繰り返されるおめでとうの声に僕は半分自棄になって「みんな、ありがとう」と答えるしかなかった。

・・・どうやら、補完されてしまったらしい。






このころから次第に脱落者が出始める。

まず、当日、実は風邪気味だったというLichさんがごろりと横になる。

しばらくして相方のD-Kaizerさんもその隣に、横たわってしまった。

しばらくはそのままだったのだが、どうやらとても復活できそうにないので、せっかく部屋が近くなのだから、とみんなに惜しまれながら会場?を去っていった。






人数は減り始めてもKieさん主導のエヴァという作品はア@ノのチ@チ@(@には同一の文字が入ります)であって、その小さな?チ@チ@を我々はずっと見ていたのだ、というテーマで大勢が集まってくる。

横着星さんは途中で嫌だ、嫌だ、止めようと一人で苦しんでいたが、笑いを呼ぶだけであった。

幹事権限でこの話題を中止して欲しいという要望まで出していたが、どっこい、僕も面白そうだから、と寄ってきたということが判明。

泣きが入りつつも、その場を離れられない横着星さんであった。






「色々と、難しい話をしていはるが、ちょっとこれを読んでみんなで話し合ってくれんかね」

突然、乱入してきたのは近くで寝ていた髭ぼうぼう、垢にまみれた服を身につけたおじさん。

手にコピーした紙の束を持って差し出してきた。

近くにいた人が「良いですよ」と律儀にも受け取り、みんなに配り始めた。

受け取ったのは僕をいれて六名。

機を見るに敏な人々は素早く退避していた。

僕も逃げたかったのだが、座り込んでいたためにその機を逃し、仕方なくそのチラシに目を通した。

・・・僕の理解できた範囲で要点だけつまみ上げると、要するに、現在の日本の重化学工業による発展は、自分の発明のおかげであり(テレビとか)、催眠術によってその発明を大企業に吸い取られてしまった自分を補完して欲しい、ということらしかった。

(ピー)である。

僕は一読してよく判らなかったので、「日本列島が沈んでいるとはどういうことですか」とか聞いていたが、何が言いたいのかようやく判って黙り込んでしまった。

僕なんかより、とっくにチラシの内容を理解していたらしい他の人たちは黙りこくったままうつむいている。

「わかりにくいかね?」

判るわけないだろうと言いたかった。

だが、あきらかに相手は一般社会から浮遊してしまっている。

見たところ、(ピー)にしても暴力性はなさそうだったが、用心するにこしたことはない。

それに、相手の主張だけはまあ、一応理解したと言えるのかもしれない。

曲がりなりにもわずかに会話を交わしている僕がしかたなく返事をした。

「判らないわけではないです」

「じゃあ、どうだね」

どうだねもこうだねもない。

が、それを口にするわけにはいかない。

「おっしゃることは判りますが、申し訳ありませんがお力にはなれそうもありません。もっと影響力を持っているテレビとかの人に訴えはった方が良いと思います」

相手の言い分を聞くことなく、素早くチラシを回収して「勿体ないから」と丁重にまとめて返しておいた。

これで、もう、話しかけてはこないだろう。

だが、実は一人だけはそのチラシを大事に持って帰ったことを僕は知っている。

その人の強力アイテムにまた一つ新たなコレクションが増えたらしい。






「何の話をしていたんでしたっけ」

「ええと・・・」

「そうそう、青葉は一体何に補完されたかということですよ」

強引に話をエヴァに戻した。

様子を伺っていた面々もどうやら大丈夫と見極めて素早く戻ってきてくれた。

おじさんは諦めてくれたのか、もう一度段ボールをかぶって転がっている。

青葉はギターで補完されるのなら、横着星さんは望遠鏡なのか、という訳の判らない展開でようやく雰囲気がもとに戻ってきた。

助かった・・・






「大丈夫。僕は泥酔したことは今まで一度もないんです」

「これは親友にも言ったことがないんです。絶対内緒ですよ」

一人で突っ走っていた中田君はついにダウンしたのか、河田さんに支えられながらその場を去っていった。

名残惜しいが、仕方がない。

二人の無事を祈りつつ、残りのメンバーは宴に戻った。






Kieさんが座り込んだまま、忘却の彼方に去っていった。

秋月さんは先程までのLichさんのように寝転がり始めた。

横着星さん、umaさん、T.K岡田さん、節田Dさん、ritornelさん、僕だけが未だ意気軒昂としている。

umaさんの歴史の話が始まり、色々と楽しいことを教えてもらった。

比較的無口なumaさんだが、歴史の話となると饒舌で話し始めると止まらなくなるらしい。

僕たちは時折質問を交えながら、umaさんの講義に聞き惚れていた。






ヨッパな人々が居なくなり、もう大丈夫と思ったのかどうかは定かではないが、ここにきて突然節田Dさんが必殺アイテムを繰り出してきた。

レイのクリスタルな胸像である。

あまりの美しさに全員驚嘆。

満月の冴え冴えとした白い光の下、幻想的な輝きを放ってしばらくの間、設置されていた。

これこそが我々の今日の目的であったハズ。

節田Dさんはさりげなく、そのことを行動によって示してくれた。






負けるものかと今度はumaさんが箱根を中心とした第三新東京市のある場所の地図を持ち出してきた。

二枚の地図から作り出した手製の地図である。

「ここにレイ殿が・・・」

「鋼鉄の時はここをこうデートして・・・」

「これが必ず破られる強羅絶対防衛線」

「このロープウェイにミサイルを・・・」

「ジオ・フロントはこれくらい・・・」

話は尽きなかった。

地図一枚でこれだけ語れる「濃い」メンツに横着星さんは大喜び。

もっとも放送局のすぐ横で深夜にペンライト(ネルフロゴ入り)で大の男が数名地図を覗き込んでいる姿はテロリストとしか思えないという心配もしていらっしゃったが・・・






またもや、節田Dさん。

今度は庵野監督の暴言インタビューを鞄から取り出してきた。

「まだあるんかー!おらー、隠してないでとっとと出さんかい!」

なぜか怪しげな関西弁で吠える横着星さん。

大喜び?をしている。

次から次へと繰り出される怪しげなアイテムに再び暴走しかけているらしい。






節田Dさんのアイテムを覗き込んでいると、突然umaさんの悲痛な声が。

銀色のハローを引きながら、二万五千分の一、ナメクジ型使徒が強羅絶対防衛線を突破した様子であった。

大事なお手製の第三新東京市の地図から使徒を指先でそっと取り除き、作戦は終了した。






いつの間にか空が白みかけている。

灯りをつけたビル街が不思議な色に染まっている。

気がつけばもう、五時、鉄道の始発までそう間もない時間になってきた。

月もいつの間にかその姿を隠し、不思議な時間が漂っている。

みんな、なんとなく顔を合わせてこの長かった一日を振り返り、静かな充足した気持ちを互いに確認していた。






が、このままで無事には終わらないのが関西のオフなのか。

突如としてKieさんが失踪。

あわてて全員で探し回るが、見つからない。

トイレに行ってみると、おばさんが不審そうな顔をしてこちらを見ている。

女子トイレまで覗こうかどうかと前でうろうろしていたため、声をかけてくれ、一人居なくなったんで、探しているんです、と答えると中を覗き込んでくれたが、やはり姿は見えないようだった。

礼を言って、階段を下りていると、横着星さんが見つかったよーと下から教えてくれた。

Kieさんはたばこを探し求めていたらしい・・・

最後の波乱が終わると、そろそろ、という声と共に、みんなそろって公園を後にした。






このあたりに詳しい節田Dさんの先導で梅田の駅へ向かい、途中、完成間近の駅前の巨大観覧車の下を通っていった。

朝の静かな時間の中、その赤い観覧車はかすかな朝の光の中でなんとなく靄がかかった姿で別れを告げてくれていた。






阪急五番街の辺りで長かった約束の日も終わりを告げ、ここで解散することになった。

口々に再会を誓い合って、名残惜しみながら僕たちはそれぞれの乗る路線へと足を向けた。

僕と秋月さんはT.K岡田さん、横着星さん、Kieさんを新幹線の改札口まで見送ることになった。

残念なことに御堂筋線でたった三駅先がJRの新大阪駅、すぐにお別れである。

ここに集合したのがわずか十三時間前・・・

生涯忘れることもできそうもない、狂乱の十三時間・・・






新幹線入場専用改札口

本当はここに集合するつもりだったんだよなあとぼんやりと考えている。

横着星さん、Kieさん、T.K岡田さんがお別れを言ってくれているのだが、どうもよく判らない。

自分もなにか答えているんだけど、どっかで勝手にしゃべっているような、不思議な感じ・・・

ふと気がつくと、三人は改札口を抜けて去っていく。

僕はしばらく動かないままその後ろ姿を見ていた。

構内で角を曲がるときにひょいとこちらをふりかえり、手を挙げてそのまま姿を消していった三人・・・

僕は三人の姿が見えなくなって、やっとその場から動く気になった。






秋月さんを松山の下宿の前で降ろすと、そのまま行きとは逆に国道を南下して高知へ向かった。

駐車場にたどり着いたときにはとっぷりと日も暮れ、昨日よりもちょっと大きくなった月が高知の空にも浮かんでいた。

この月は松山にも、神戸にも、大阪にも、岐阜にも、そして東京にも同じ姿を見せているんだな、と思うと、何となく絆を感じた。





Written by さとし <aab86840@pop13.odn.ne.jp>


MEMBERS of FMTTM-OFF in OSAKA

横着星、Kie、T.K岡田、uma、節田D、Lich
ritornel、河田、中田、秋月、D-Kaizer、さとし(敬称略)


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Received Date: 98.10.09
Upload Date: 98.10.28
Last Modified: 98.
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