月


   上弦の月
     下弦の月

 満ち足りた月
              満月

   新たなる息吹
                新月

 月


    生まれて
  育って
        消えて行く

    それが、命

  零に戻って
          また、生まれる


     それが、月

             それは、私・・・

                   






「何で僕がアスカの為にアイス買いに行かなきゃいけないんだよ!?」
「あんたバカぁ?こんな夜中に女の子をコンビニに行かせるっての?」
「夜中って・・・まだ10時じゃないか・・・」
「10時でもシンジでも関係ないのっ!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・ねぇアスカ、今の・・・ギャグ?・・・」
「ぅ・・・・・・うっさいわね!バカシンジのくせに!」

パ〜ンッ!
   ・・・・・・

「い・・・行くの?行かないの?」
「はいはい・・・行かせていただきます・・・」
「「はい」は一度でいいの!」
「はい」
「よろしい」
「はぁ・・・」








  
    独りが怖いから

  水銀灯
    闇が怖いから

  虫の音
    生きてる証

  歩道に映る影
    存在している証

  月の光
    気持ちいい

  夜の空気
    気持ちいい

  今はそれだけでいい
         今は、それだけで・・・








−Pi

「永森バニラスーパーカップ1・5が2点で432円になります。」
「ありがとうございました。」








...外の風も案外気持ちいいな
...夜の散歩も悪くないかも
...それにしても、本気で叩くんだもんな
...アスカはいつもそうなんだ
...思い通りじゃないと気が済まないんだ
...自分勝手でわがままで
...他人の気持ちなんて考えてくれない
...僕は、アスカが嫌いなのかな?
...嫌いなのかな?
...ううん、嫌いじゃないと思う
...アスカは僕にないモノを持ってる
...僕はそれが羨ましいだけなんだ
...だから、アスカを嫌いじゃない
...じゃぁ、好きなのかな?
...好きなのかな?
...多分、それも違う
...そんな気がする
...じゃぁ、僕の好きな人って?
...僕の好きな人って
...僕の好きな人って








「あれ、綾波?」
「碇君?」
「どうしたの、こんな時間に?」
「碇君こそ・・・どうしたの?」
「僕はアス・・・あ、いや、アイスが食べたいなぁって思って・・・」
  (僕、どうしてアスカの事を隠したんだろ?)
「そう・・・」
「あ、綾波は?」
「私?」
「うん・・・どうしたの?」
「・・・散歩」
「散歩?」
「そう、散歩」
「こんな時間に?」
「ええ」
「だ、駄目だよ!」
「・・・どうして?」
「どうしてって・・危ないよ、こんな時間に・・その・・女の子が独りで・・」
「そう・・なの?」
「そうだよ」
「考えてなかった・・・」
「え?」
「・・・ごめんなさい」
「あ、いや・・そうだ!僕が家まで送るよ!」
  (僕、なに言ってるんだろ?)
「碇君が?」
「う、うん・・駄目?かな?」
「ううん・・・かまわないわ」
「うん、じゃぁ行こう」
「ええ・・・」




「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「あの・・・綾波?」
「なに・・・」
「あの・・・よく散歩するの?」
「・・・ううん」
「そう・・・」
「・・・ええ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」




「あ、あのさ」
「?」
「アイス、食べない?」
  (僕、なんでこんな事言ってるんだろ?)
「アイス?」
「うん・・・アイスクリーム」
「でも・・・」
「アス・・・や、安かったから二つ買ったんだ」
  (帰ったらアスカに怒られるぞ・・・)
「・・・・・・そう」
「アイス、嫌い?」
「・・・ううん」
「あ、嫌いだったら無理には・・・」
「好きよ・・・」
「あ・・・じゃぁ、そこの公園で食べない?」
「ええ」




「はい、バニラしか無いけど・・・」
「あの・・・碇君」
「なに?」
「私いま、お金持ってない・・・」
「そ・・・そんなの気にしないでよ」
「でも・・・」
「ぼ、僕も独りで食べても、その・・・美味しくないと思うし・・・」
「・・・」
「だから、お金なんていいから・・・あの、よかったら、一緒に食べてくれない、かな?」
「・・・うん・・・ありがとう」
「よかった」
「・・・いただきます」




「どぉ?綾波?」
「冷たくて、おいしい・・・」
「そう?良かった。」
「・・・・・・」
「どうしたの?」
「冷たくて、白くて、丸くて・・・あの月みたい・・・」
「あ、本当だ・・・今日、満月だったんだね・・・」
「そう・・・」




「あの時も、満月だったね?」
「え?」
「あ、ごめん・・・その・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」




「・・・ねえ、綾波」
「なに?」
「二子山の月・・・覚えてる?」
「ええ、少しだけ・・・でも、ごめんなさい、私、三人・・・」
「綾波!」
「!?」
「それは言わないって・・・約束・・・だよ。」
「・・・そうね、ごめんなさい。」
「・・・・・・」
「・・・・・・」



「僕、嬉しかったんだ・・・」
「?」
「あの時、綾波が「僕を守ってくれる」って言ってくれて」
「・・・そう」
「あの時も満月だったんだ・・・」
「・・・そう」
「ごめんね、こんな話して」
「そんな事ないわ、私も知りたいもの。」
「・・・綾波って、月のイメージ・・・あるよね?」
「・・・私が?」
「うん」
「・・・月?」
「うん」
「そう・・・」
「なんか・・・白くて、心やすまる感じ・・・」
  (な、なに言ってるんだ僕は!?)
「・・・でも」
「?」
「でも、月は太陽にはなれないわ。」
「あ・・・綾波?」
「いいの、わかっているもの・・・自分でも」
「あやなみ・・・」
「光り輝く太陽にはなれないの」




「私は月なのかもしれない・・・」
「地球という生命の星になれなかった、月なのかもしれない・・・」
「生まれて、満ちて、死んで、また生まれる・・・」
「ただ、それだけ・・・」



「でも、月が無かったら・・・」
「月がなかったら、地球も生命の星にはなれなかったと思う・・・」
「月の引力が地球の潮流を生み出したからって・・・先生が言ってた・・・」
「太陽があって、月があって、地球があって・・・」
「いらないものなんて、無いと思う・・・」
「月も、太陽も、地球も、水も、花も、風も・・・そして・・・」




「碇君・・・」
「え?」



「・・・アイス、溶けてる・・・」



「え?う、うわ!あ、なんで?このカップ漏れてるよぉ・・・」
「はい」
「え?」
「ハンカチ」
「え、でも・・・」
「いいの、つかって」
「・・・うん、ありがとう」




「ゴメンね、汚れちゃったから・・・洗って返すね」
「いいわ、そのままで」
「わるいよ、そんなの」
「いいの」
「でも・・・」
「アイスの・・・お礼・・・」
「・・・うん、ごめんね、ありがとう」
「私こそ・・・おいしかったわ」
「うん。じゃぁ・・・行こうか?」
「ええ」




「碇君、ありがとう」
「え・・・でもまだ・・・」
「大丈夫、もうすぐそこだもの」
「でも・・・」
「怒られちゃうわよ」
「え?」
「待ってるんでしょ?アスカ」
「・・・どうして、それを?」
「早く行ってあげて・・・」
「うん・・・ごめんね」
「ううん、ありがとう」
「じゃぁ・・・またね」
「ええ」




「あ、綾波!」
「・・・?」
「あ、あのさ・・・」
「・・・?」
「その・・・さっきの話だけどさ・・・」
「さっきの?」
「うん・・・その・・・綾波は・・・」
「私?」
「う、うん・・・綾波は、独りじゃないよ・・・」
「・・・私が?」
「うん・・・太陽も、地球も、風も、緑も・・・そして僕達も・・・みんないるから・・・」
「・・・みんなが・・・いる・・・」
「そう、みんながいて・・・その中に、綾波もいるから・・・その・・・えっと・・・」
「碇君」
「え、な、なに?」



「・・・月、すき?」



「え・・・うん」
「そう・・・」
「綾波は?」
「私?」
「そう、綾波は・・・どうなの?」

「・・・好きになれそうな気がする・・・」

「・・・きっと・・・きっと好きになれるよ!」
「ええ、そうね・・・好きになれると思うわ」
「ごめん・・・変な事言って」
「ううん」




「じゃぁ、またあした。」
「ええ、またあした。」








...私の部屋、いつもの部屋
...何も変わらないはずなのに
...何も
...この気持ち、わからない
...どうして消えないの?
...碇君
...碇君の声
...碇君の笑顔
...碇君の、甘い香り
...これが、私の
...これが、わたしの

......ココロなの?








「アスカ、怒っていたな」
「明日、もう一度謝らなきゃ・・・」

「明日・・・」
「綾波・・・またあしたって・・・」

「どうして僕はあんな事言ったんだろう?」
「月・・・か・・・」
「きっと満月のせい・・・」
「月の力が僕に少しの勇気をくれたのかな?」
「月の力が・・・」
「月の・・・」
「月」
「・・・綾波」
「綾波の・・・?」
「綾波の・・・せいなのかな?」
「綾波の力・・・」
「綾波の魅力・・・」
「綾波の・・・」
「もしかしたら・・・これが?」
「これが・・・」
「・・・・・・」
「そうなのかな?」
「僕は・・・」
「綾波を・・・」

・・・僕は
・・・僕は、綾波の

・・・・・・太陽になれるだろうか








 月
 
 窓から差し込む月明かり
           私を包む月明かり

 新月になっても、また生まれてきますように・・・
           今と同じ私に、生まれてきますように・・・

   おやすみなさい。

 碇君。
















End of Document / 月満ちる夜に僕らは


Written by

月副監@isao











あとがき

いつもお世話になっている綾波補完委員会。
せめてもの恩返しと思い、書き始めたのは早かったのですが・・・
出来たのは、締め切り約一ヶ月後・・・副監失格です。
ごめんなさい。
と、謝ってばかりでも仕方ないので、このご恩はまた別の形で。

さて、今回書かせていただいたSS、私にとって初めての試み。
情景描写無しで何処まで表現できるのか?がテーマでした。
(勝手に実験に使って、更にごめんなさい。)
出来上がったものは・・・?
表現や言葉の足りない部分は、各自の綾波レイ、碇シンジで
補完していただきたいと思います。(また、逃げてる・・・)

では、綾波補完委員会と全てのアクター・アクトレスに
少しでも幸多かれと願いつつ、競作を提出させていただきます。

本当に、ありがとうございました。
                                         25.Nov.1997 @isao






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mal委員長のコメント:
月の光に沁みいるシンジの心、レイの心・・・
そんな言葉が浮かびます。思わず雰囲気にひたってしまいました
「僕は...綾波の...太陽になれるだろうか...」にはじぃぃぃぃんとなりました...
と、いうわけで遂に@isao副監の作品です(^^;
こーいう作品にコメントつけるのはつらいものがありますね(^^;
なにも言いたくない・・・(^^;、待ったかいがあったというものです(^^;

参加予定者に連絡(^^;:どんなに待ってでもいい作品を待ってます、って自分のはどうした!(^^;

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