綾波補完委員会・競作企画参加作品(どじなレイちゃんばーじょん)

お坊さまとあやなみ缶


 みなさんこんにちは!あやなみレイですっ!
 って元気にお返事したいんですけど、今日のあたしはへろへろでとてもそんな元気 ありません。
 なんかって?
 赤木はかせのじっけんがあったからです。




 朝はやくけいたいでんわで呼び出されて、あたしはいやいやながら赤木はかせの研 究室に向かいました。
 いやいやと言ってもはかせが嫌いなわけではありません。
 はかせはあたしの保護者ですし、ときどき『ごうもんにちかい』(っていかりくん やアスカちゃんが言ってました)じっけんにつきあわされるかわりにおいしいお米を くれます。
 それにおばかなあたしはがっこうでおべんきょうしてもつまんないので、お休みで きるのはうれしいですから。
 ただ、大好きないかりくんにあえないのがいちばんつらいです。
 いかりくん・・・
 どじで口下手なあたしに話しかけてくれたひと。
 すべってころんで花びんをわったときも、借りていたしゅくだい忘れてきたときも 、

「わ、笑えばいいと思うよ・・・」

 ってやさしくほほえんで許してくれたひと。
 そして、あたしのはつこいのひと・・・
 でも、いかりくんは学校でいまごろアスカちゃんと楽しくお話しているに違いあり ません。
 アスカちゃんもいいひとです。
 あたしをほうきでつついたりイスにガムつけたりといろいろいたずらしますが、あ たしとお話してくれる大切なおともだちです。
 でも、アスカちゃんはいじわるです。
 せっかくあたしといかりくんがお話していると決まってじゃましに来ます。
 そればかりか、あたしの前でいかりくんと仲良くします。
 見つめあったり、手をにぎったり、ほっぺにキスしたり・・・
 そんな二人を見るたびにあたしは胸がくるしくなります。
 今日も二人で仲良くお話してるのかな。あたしはひとりでじっけんなのに・・・
 そんなことを考えながらうす暗いつうろを抜け、赤木はかせの研究室に向かいまし た。
 つうろにはところどころ赤いしずくがとびちり、へんなにおいのするかたまりが落 ちていますが、こわいので考えないことにしています。
 今日もとびらの向こうがわではなにやらあやしげな物音がします。
 あたしはつばを飲み込むと、かくごを決めてとびらをノックしました。

「赤木はかせいますか。あやなみれいです」

 あたしがそう言うと、とびらが音もなく開きました。

「遅いわよ、レイ!さっさと入りなさい!」
「は、はいいっ!」

 じっけんにしっぱいでもしたのか、今日もはかせはきげんが悪そうです。
 ま、はかせのきげんがいいことなんてそうないんですけど・・・
 おそるおそる中に入るとかいこういちばん、はかせは言いました。

「レイ、今日は『人体の水分含有量の変化による生命維持への影響』について実 験するわよ」

 世紀の大天才・赤木はかせらしく、今日もなんだかわけのわからないじっけん をさせられるみたいです。

「え?じんたいをずいぶんがにゅーとへんにひっぱったらめいめいいっていたい よう?」

 思わず聞き直したのがしっぱいでした。

「違うわよ!『人体の水分含有量の変化による生命維持への影響』!」

 ひたいのしわをますますふやして、はかせは大声で言いました。
 とりあえずこういうときはあやまるのが一番です。

「ごめんなさい。なんどきいてもへぼへぼなあたしにはわかんないの・・・」
「しょうがないわね。わかりやすく言うと、水を飲まずにいつまで生きていられるか 実験するのよ」
「ええっ!はかせ、あたしから水までとりあげるのですかぁ?」

 大ショックです。
 ゆうわくに弱いあたしは、いつもきゅうりょうのお米をもらったその日に食べつく してしまいます。
 なにもなくてひもじいときは、水をのんでこれまでしのいできたのに、その水まで だめだなんて・・・
 うろたえるあたしをにらんではかせは言いました。

「なにか文句でもある?この実験は人類の限界に挑む非常に重要なものなのよ。 その貴い犠牲になれるんだから喜んでもらいたいくらいだわ」
「あたし、ぎせいなんてなりたくありません・・・」
「なに生意気言ってんの。あんたなんか死んでも代わりはいくらでもいるのよ。それくらい知ってるでしょ?」
「ううう・・・」

 あやしく目を光らせるはかせに、あたしはことばを失いました。
 代わり・・・あのでっかいきんぎょばちに入ったたくさんのあたし・・・
 ぶるぶる。なんだかさむけがしてきました。
 あたしはあたまをふってさむけを追い払うと、つばをごくっとのみこんではかせに いいました。

「わかりました。やります」
「よろしい。じゃあさっそくそこにあるサウナスーツに着替えて」

 へんなふく。なんだか着づらいな・・・
 あたしがぎんいろにかがやくうちゅうふくみたいなのとかくとうしているのを見て 、はかせはじれったそうに言いました。

「ああ、もう!いつまでかかってんのよ?いいかげん早くとしないと今日の報酬 なしにするから!」
「そんなあ。もうちょっとだからまって下さい」
「あと10秒!いいわね?」

 あたしはなんとかうちゅうふくに体をおしこむと、はかせにつれられて地下し せつに向かいました。
 エレベーターをおり、長いつうろを歩いてゆくとそこには、なんとネルフとくせい の体育館がありました。
 なんでこんなとこがあるんだろ。ホテルにダンスルーム、ふんすいまであるし、ネ ルフってひょっとしてそうごうレジャーランド?
 体育館をぼーっとながめながらそんなことを考えていると、後ろでエンジンの音が しました。
 エンジン?
 ふりかえると、チェーンソーを前面にそうびした車があたしのまうしろに迫ってい ました。

「ほら!時間を無駄にしない!とっとと走る!」

 けっきょくあたしははかせに追い回されながら、体育館を6時間ぶっつづけで走 らされました。
 そのうえ、

「皮膚からの水分摂取も十分誤差の原因になりえるし、なによりあなたのことだ から飲みかねないでしょう」

 というりゆうでシャワーもあびさせてもらえず、汗びっしょりのうえから制服 を着せられ、研究室から追い出されました。


 で、いま家にかえっているところです。
 からだじゅうは汗でべたべた、気持ちわるいです。
 それになによりみ、みず・・・
 ごはんぬきにはなれているあたしも、水までとりあげられては体がもちません。
 いしきもうろう、足はふらふら、目はかすんで・・・

 ごちん!

 なにかにいきおいよく頭をぶつけてしまいました。
 あまりの痛さにしばらくしゃがんで頭をおさえていましたが、ふとぶつかったほう を見上げると、道のわきにお坊さまが立っていました。

「ご、ごめんなさい!ついぼーっとしてて・・・」

 お坊さまはひょうじょうこそにこにこしていますが、どこかぐあいがわるいの か、灰色のかおいろをしていました。

「だ、だいじょうぶですか?」
「だいじょうぶだよ、レイちゃん」

 お坊さまは口をうごかさずにそう言いました。
 なぜか耳にではなく、頭にちょくせつ声がきこえます。
 いきなりなまえを呼ばれて、あたしはびっくりしてしまいました。

「え、なんであたしの名前を?」
「知っているとも。いつもレイちゃんのことを見守っているからね」

 やさしい笑みをうかべて、お坊さまはそう言いました。

「今日はレイちゃんが困っているみたいなんで助けに来たんだよ」
「助けにって?」
「喉が乾いてるんだろう?これで何かお買い」

 お坊さまの灰色の手にはぎんいろのこうかがのっていました。
 たしかこれは100円だま・・・どれくらい前に見たんだっけ・・・

「ありがとう!」

 お礼をいって、冷たいお坊さまの手から100円だまをうけとりました。

「じゃあさっそく買いに行っておいで」
「はい!」
「これからも頑張るんだよ、レイちゃん」
「がんばります!お坊さまもからだに気をつけてね!」

 あたしはお坊さまに頭を下げると、いそいでコンビニに向かいました。
 やったあ!
 このお金でやっとねんがんのかいものができます。
 うれしくって思わずスキップしてしまいました。
 え?さっきまでふらふらじゃなかったかって?
 そんなへりくつ、あたしにはつうようしないって!

 コンビニにつきました。
 あたしはさっそくかべぎわにある缶ジュースコーナーへ行っておめあてのものをさ がします。

「これじゃなくて、これでもなくて、えっと・・・あったあ!」

 おもわずはしゃいで大声を出してしまいました。
 お店にいる人たちみんながあたしにちゅうもくします。
 はずかし、はずかし。
 あたしはかおを赤らめながらおめあての缶に手を伸ばしました。
 その缶はずばり『しんせいきエヴァンゲリオンあやなみ缶』です!
 今ちまたでだいにんきのアニメのヒロインの女の子の絵がかいてある、これまた大 にんきのしょうひんです。
 しかもあたしとどうせいどうめい。
 おかげであたしをアニメのヒロインとかんちがいした、黄色いかみの目つきのわる い大きなおとこの人につきまとわれるしまつ。
 にんきあるのはうれしいけど、ちょっとめいわくかな・・・
 あたしはあやなみ缶を手にとって、レジに持っていきました。

「お会計のほう占めて110円です」
「え?100円じゃないんですか?」
「はあ?」

 あたしがおどろいてききかえすと、お店の人はなぜかふしぎそうな、あきれた 顔をして言いました。

「だって缶ジュースって100円なんじゃ・・・」
「あんたいつの時代のこと言ってんだ?税込みで110円って20年前からそうなってる じゃない」

 ショックです。
 お金なんてめったにもらえないから、いつのまにか値あがりしていたなんて・・・

「知らなかった・・・」
「知らなかったって・・・あんた人からかってんのかい?」
「ううう、そんな気ないのに・・・」
「どうすんだ?買うのか、買わないのか!」

 お店の人はレジをこぶしで叩いてどなりました。
 すごくこわくって、あたしはちぢこまってしまいました。

「・・・」
「僕が払います」

 あたしがすっかりよわっていると、そばでおとこのこの声がしました。

「いかりくん!」

 声がしたほうへ振り向くと、いかりくんがお店のドアの近くに立っていました 。
 困っているのを見かねてとんで来てくれるなんて、なんていかりくんはやさしいん でしょう。
 やっぱりあたしたちってうんめいの赤い糸でむすばれているのね・・・

「少しくらいなら立て替えてあげるよ」

 そう言って、いかりくんはあたしのとなりまで歩いてきました。
 
「ありがとう」
「いくらなの?」
「10円・・・」
「え?10円?持ってないの?」

 いかりくんはあきれたような口調で言いました。

「うん・・・」

 いかりくんも、あたしのことばかにしてるのかな・・・
 さげすむようなしせんを感じ、あたしは顔をふせました。
 むねがしめつけられるみたいで、ことばが出てきません。
 おねがい、あたしのほうを見ないで・・・
 クラスのみんなからどじどじって言われても、赤木はかせにむちゃなじっけんさせ られてもかまわない。
 いかりくんにそんな目でみられるのが、いちばんつらいから・・・

「・・・わかったよ。10円くらいならぼくが出しておくから。綾波は外で待って て」
「ありがとう、いかりくん。ぐすっ・・・」

 あたしはコンビニから出て、いかりくんがおかんじょうを済ませるのを待つこ とにしました。
 せいふくのそでで顔をふき、ちり紙をとりだしてはなをかんでいると、いかりくん が出てきました。

「おまたせ、綾波!はい、これ」

 いかりくんはコンビニの袋からジュースを取り出して言いました。

「ありがとう」

 ジュースを受け取っていろいろな方向からながめます。
 これであやなみ缶はあ・た・し・の・も・のっ!
 いかりくんの前だからしゃんとしなくちゃ、と思っていくらおさえようとしても、 にへら〜っとほほがゆるんでしまいます。

「・・・よかった」

 あたしがはしゃぐのをあたたかい目で見て、いかりくんは言いました。

「え?なにが?」
「綾波が笑ってくれて」
「?」

 いかりくん、何言ってんだろ・・・

「さっきは恥かかせちゃったみたいで、悪いことしたかなって思ってたんだ」
「ううん、いいの・・・」

 さっきの、考えすぎだったのだ。やっぱりいかりくんってやさしい・・・
 いかりくんの心がしみいってくるようで、あたしはことばにつまってしまいました 。

「ほんと、よかった・・・綾波は笑ってるのが一番かわいいからね」
「な、なにをいうのよ・・・」

 いかりくんってナイーブそうなのに、ときどきどきっとするようなこと、いう んだから・・・
 ほっぺたがわかしたおゆみたいにあついです。

「ご、ごめん・・・」

 いかりくんもぽっと顔を赤らめました。
 まっ赤なかおを見合わせているとなんだかおかしくなって、笑いがおなかのそこか らこみ上げてきました。

「ふふ、ふふふ・・・」
「はは、はははっ・・・」
「・・・それより一緒に帰らない?綾波に聞きたいこともあるし・・・」

 ひとしきり大笑いしたあとで、いかりくんは言いました。

「うんっ!」

 いかりくんと並んで帰りながら、あたしはききました。

「なに?聞きたいことって」
「・・・なんで綾波があんなことしたのかなって思って。見間違えだといいんだけど ・・・」

 さっきまでのほほえみはどこへやら、いかりくんの顔が急にかたくなりました 。

「あんなことって?」
「見ちゃったんだ、綾波がお地蔵様から100円玉盗むところ・・・」
「ぬすむ?あたしがぁ?」

 いきなり身におぼえのないことを言われ、あたしはすっとんきょうな声できき かえしました。

「そのお金でジュース買ったんだよね。そういうこと、あんまり良くないって思 うんだ」
「あたしぬすんでないもん!お金ならお坊さまからもらったんだもん!」

 あたしはびんぼうでどじですけど、ひとさまのものを取るような、そんなわる い子ではありません。

「綾波がそう言うのならそうなんだろうけど・・・」
「じゃあこっち来て!」

 あたしはいかりくんの手をひいて、さっきお坊さまに会ったろじまで走りまし た。

「・・・」

 そこにはいかりくんの言うとおり、ほこりをかぶったおじぞうさまがにこにこ と立っているだけでした。
 あたりを見回してもお坊さまがいるけはいはありません。

「ほんとにとってないもん!ほんとだもん!」

 あたし、うそなんかついてないのに・・・
 いかりくんうたがっているんじゃないかって、あたしのことしんじてくれないんじ ゃないかって、そう思うとむねがすごくくるしくって・・・
 なみだがこぼれ落ちました。
 ぽろぽろと、おおつぶのなみだがとめどもなくこぼれ落ちました。
 おさえようと思っても、なみだが止まりませんでした。

「ごめん。僕の勘違いだよ、きっと。だからもう泣かないで・・・」

 なんのさわぎが起きているのかと人が集まってきて、いかりくんはおろおろし て言いました。

「じゃ、あたしぬすんでないって、しんじてる?」

 なみだを目にいっぱいにためて、あたしはそうききました。

「信じてるって」
「ほんと?」
「ほんと」
「じゃ、しんじてるってしょうこを見せて」

 いかりくんにちょっとしたわがままをきいてもらうことにしました。
 ないてたからって、ちょっとずるいかな、あたし・・・

「証拠?」
「うん。しょうこ・・・」
「証拠って言われても、どうすればいいの?」
「じゃ、じゃあ、あたしと手をつないで、いっしょにかえってくれる?」

 いきおいでとんでもないことを言ってしまいました。
 しょうじきいってとってもはずかしいです。

「ええっ!ここで?!」
「ここで!」
「そんなあ、人が見てるし、恥ずかしいよ・・・」

 あたしだってはずかしいのは同じです。
 でも今は、いかりくんのきもちをたしかめたいから。
 あたしをしんじるいかりくんを、しんじるちからがほしいから・・・
 あえて、わがままを言いました。

「やっぱりいかりくん、あたしのことしんじてないんだ・・・」
「そ、そんなことないよ!」
「じゃ、・・・」

 そう言って、いかりくんにそっと右手をさし出しました。

「・・・」

 いかりくんはしばらく困ったようすであたしの手を見ていましたが、しんけん な、やさしい目をしてうなづくとだまって手を取り、歩き出しました。
 あたしはいかりくんによりそいながら歩きます。
 いかりくんはてれくさそうに、わざとあたしの方を見ないようにしているみたいで す。
 おかげでいかりくんのよこがおをじっと見つめることができました。
 しかもアスカちゃんのじゃまも入らず、二人仲良く手をつないで帰れるなんて。
 さくらんぼみたいにふたりともほっぺたをまっ赤にして、あたしはいかりくんとい っしょに家に帰りました。
 いろいろあったけど、今日はとってもし・あ・わ・せっ!


 あやなみ缶は飲まずにかざっておくことにします。
 いかりくんに会えたのも、あやなみ缶のおかげかもしれないから・・・
 あたしはふとんに入ると、ねる前にあやなみ缶にむかって手をあわせました。
 きょうはいかりくんに会わせてくれたお坊さまとあやなみ缶にかんしゃ!
 いつまでもいかりくんといっしょにいられますように。
 おやすみなさい、もうひとりのあたし・・・










Please Mail to ZOE <Hiroshi.Miyazoe@ma1.seikyou.ne.jp>



mal委員長のコメント:
つーわけでZOEさん参加予定コメントの宣言通り”どじレイ”(^^;バージョン
いただきました。・・・おーい、笠地蔵かい!!!(^^;(^^;つーツッコミは
やめておいて(^^; お見事っす!! オリジナルよりな〜んとなく
かわいくなってる気がします(^^; よいよい(^^)
公開遅くなっちゃいましたが褒めてますので(^^;許して下さいね

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