「全く………ミサトさんにも困ったよな〜〜。いくらなんでも中学生にビールを買いに行かせるか?普通。」
ブツブツ言いながらシンジは時計を見る。既に10時を廻っていた。
シンジはミサトにジャンケンで負けてお使いに来ていた。目指すはコンビニ。買う物はビール。
ミサトとシンジは時折一緒に晩酌をしていた。今日に限って買い足しておくのを忘れたシンジも迂闊なのだが、ないなら我慢しよう等と殊勝な考えを持つミサトではなかった。
人間というものは自分の欲しい物がないとわかると余計欲しくなるらしい。かくして凄絶なジャンケンバトルが繰り広げられシンジが敗者となった。
「ふう〜。やっと着いた。マンションからここまで割りと距離があるんだよな………さっさと買い物を済ませて帰ろうっと。」
シンジは店内に入ると目的の物を求めて真っ直ぐに歩いた。籠に無造作に『えびちゅ』を放り込むとレジに向かう。そのシンジの視界に蒼銀の髪が目に入る。
絆
Legendary EVANGELION 外伝
「あれ?………綾波………かな?」
シンジは小さく呟き一瞬で消えた蒼銀の髪を追いかける。コーナーを曲がった所で目的の人物を見つける。
「綾波、何してるの?………お弁当買いに来たの?」
「………碇君。」
シンジはレイが手にした弁当を見て尋ねた。レイはコクンと頷きシンジを見つめる。
「あれ?母さんは?いないの?」
レイはシンジの両親と暮らしているはずである。ユイがいて弁当を買うはずはなかったがそれでもシンジは尋ねてみた。
「………今日は司令もユイ博士も帰ってこないって。」
レイはコクンと頷くと説明した。
「そっか〜、母さんも綾波を一人きりでほっとくなんて何を考えてるんだ?ゴメンね、綾波。」
あくまでもゲンドウの事は触れないシンジ。シンジに謝罪され俯きながらフルフルと首を振る。
「………いいの。私、一人にはなれてるから。」
「ダメだよ、綾波!一人でいることに慣れたら。前にも言ったろ。一人じゃ寂しいって。綾波にはそんな思いして欲しくないんだ。今までずっと一人だったとしても、これからは母さんや僕もいるんだから。ネ!」
レイが小さく呟くとシンジは肩を掴みながら言った。シンジに突然肩を掴まれ驚いていたがそこから感じる暖かい思いと笑顔で顔を赤くする。
(………私の事を心配してくれるの?………鼓動が早くなる………でもイヤじゃない………この感じ………気持ち良い。)
「………ありがとう。」
小さくだがシンジに対して素直に感謝の言葉が出た。それを聞いてシンジの顔が更に綻ぶ。
(………碇君のこの顔を見ると心が暖かくなる………何時もこの顔を見ていたい。)
「もうすぐ母さんや綾波と一緒に暮らせると思うから。そしたら母さんが留守にしても僕が一緒にいられるようになるから。もうちょっと我慢してね。」
シンジは自分の顔をじっと見つめるレイにやさしく言う。レイはコクンと頷いた。シンジの笑顔を見ながら。
「遅くなっちゃうから帰ろう。綾波をちゃんと送って行くからね。」
シンジはレイと一緒にレジで会計を済ませるとコンビニを出た。レイはシンジの後を歩いて付いてくる。シンジはそんなレイに声をかける。
「綾波、どうして後を歩いてくるの?並んで歩こうよ。ね♪」
恥ずかしそうに、しかし何処となく嬉しそうにコクンと頷くとシンジの横に並んだ。シンジとレイは目が合う。ニッコリと笑うシンジ。レイはその顔を見て俯く。
「早くみんなで暮らせる日が来ればイイね♪」
シンジが呟くとレイも一緒に住める日が早く来れば良いと思った。2人はそれから会話らしい会話がなかったが、お互い満ち足りた気持ちで一杯だった。
「どうしたの?」
レイが不意に足を止める。シンジはそんなレイに首を傾げながら聞いた。レイは小さな公園の入口で立止り、ブランコを見ていた。以前もここを通った時小さな子供が楽しそうにブランコで遊んでいるのを見た事がある。今まではそんな事に興味を持つ事がなかったが今日に限ってそれが気になっていた。
シンジはレイの視線の先にあるブランコとレイの顔を交互に見ていた。
「綾波、ブランコ乗りたいの?」
レイはシンジの問いに小さくコクンと頷く。レイはシンジを上目使いに見ていた。
「じゃあ、乗って行こうか♪」
シンジの言葉に嬉しそうにコクンと頷く。レイの表情が少しずつだが豊かになっていくのがシンジには嬉しかった。
ブランコの所まで来るとレイは何時か見たように椅子に座る。が、漕ぎ出そうとしない。シンジはレイを見て不思議に思い聞いた。
「どうしたの?」
「………わからないの。」
小さく、寂しそうに呟く。
「綾波はブランコ初めて?」
俯いたまま小さくコクンと頷くレイ。シンジはレイの後に立っていたからその顔を見る事が出来なかったが、きっと悲しそうな顔をしている事は間違いないと思っていた。
(綾波はずっと1人で生きてきて、楽しい事なんて知らないでここまで来ちゃったんだな、きっと………でも、これからはそんな思いさせちゃいけないんだ。)
「綾波、僕が教えてあげる。この鎖を両手でシッカリ持ってるんだよ!」
シンジがそう言うとレイは顔を上げる。言われた通りシッカリ鎖を握ったのを確認するとシンジはレイの背中を押してあげた。ブランコに乗ったレイはそのまま押し出される。それはレイがいつか見た通りの動き方だった。
初めて乗ったブランコ。1人で乗ったならきっと楽しくないだろう。でも、シンジと一緒にいる時のレイの心はいつになく弾んでいた。
(………碇君………不思議な人………心が揺れる………でも………心が和らぐ………気持ちいい………)
シンジと一緒にいる時間がレイにとっては大切な時間となっていた。
「そろそろ行こうか?」
シンジによって楽しい時間が終る事になったが続けて聞こえた言葉に素直に頷けた。
「また、一緒にこようね♪」
そう言ってニッコリ笑うシンジ。コクンと頷くのがその時のレイに出来る精一杯の表現だった。
歩き出そうとするレイの目の前にシンジの手が差し出される。キョトンとその手を見ていたがシンジの言葉に顔を赤くして俯くレイ。
「手を繋いで帰ろう!………綾波はイヤ?」
フルフルと首を振りオズオズとシンジの手を握る。シンジは嬉しそうに笑ってレイの手を握り返す。
「良かった♪」
手を繋ぎ、他愛のない話をするシンジ。それに俯きながら僅かに頷くレイ。それはレイの家に着くまで続いていた。自分の部屋でシンジの事を考えるレイ。帰り道でシンジの言ってたことを思い出していた。
………今度デートしよう♪………2人で遊びに行こう♪………約束だよ♪………
また1つシンジとの間に生まれた1つの絆。レイには何にも変え難い物がまた1つ出来た。
シンジとレイの間を結びつける物が次第に太くなって行く事を実感し、それを嬉しいと思うレイだった。
― End ―
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