綾波補完委員会・競作企画参加作品
「夜空に願いを・・・」 作:yosi
これは、ミサト宅にアスカちゃんとシンジ君が、まだ一緒に住んでいた頃のお話し。
「・・・はぁ。まったくアスカのわがままにも困ったよなぁ。
こんな夜に『シュークリームが食べたいから、すぐ買ってくるのよ!』だもんな。
う〜ん、やっぱり売り切れか。
仕方ない、向こうのコンビニに行ってみよう。」
*****
「肉を使ってないお弁当はないの?」
「すみません。もう売り切れちゃったんですよ。
いつもの『栄養バー』なら、ありますけど。」
「・・・そう。でも、今日は買わないわ。」
*****
「・・・ダメか。ここにも無かった。生菓子は夜、入荷しないのかな?
仕方ない・・・確か、この先にもう一軒コンビニがあったよなぁ。」
シンジは、アスカの厳命によってコンビニを探し歩いていた。
こんな夜に、シュークリームもヘチマないものだが、そんなわがままを
断り切れないのが、彼の良いところでもある。
しかも、ただのシュークリームではない。
カスタードクリームとホイップクリームの2層になっていて、当然ビックサイズのものだ。
左の頬が心持ち赤いのは、『夜中にお菓子食べると太・・』と余計なことを
言いかけて、アスカに叩かれたせいであろう。
*****
「肉を使ってないお弁当はないの?」
「ええと、今残ってるのは、牛丼弁当と三食そぼろ弁当だけですね。
あとは・・・冷凍食品ならいくつかありますよ。」
「・・・ダメ。電子レンジ、持ってないもの。」
レイは、夕飯を買うためにコンビニを探し歩いていた。
ほぼ毎日コンビニ通いをしているため、バイトの店員達からは『青い髪の天使』と
噂されている。
普段は、固形栄養食しか買わないのだが、今日は違っていた。
昼間、学校でシンジにこう言われたためである。
『・・・もうちょっと、ちゃんとした食事じゃないとダメだよ。
身体に悪いと思うよ・・・あ、綾波のこと心配だし・・・」
そういうわけで、レイはお弁当を探していた。
彼女にとって、『もうちょっとちゃんとした食事』はコンビニ弁当くらいしか
思いつかなかったのである。
”自分で食事を作る”、”外食する”というのは彼女の理解の範疇外にあった。
*****
「・・・ずいぶん遠くまで来ちゃったな。
あのコンビニで売ってなかったら、あきらめよう。
これだけ探したんだもの。でも、アスカ、わかってくれるかなぁ。」
*****
「・・・もう一軒だけ・・・」
私、碇君の言ったことに従っているの?
命令じゃないのに・・・何故?
食事なんて、ただの栄養補給にすぎないのに。
・・・・・・
でも、私の心は碇君の言うことを信じている。
私の心は碇君の近くにいたいと願っている。
だから、こんな夜中にお弁当を探している・・・
お弁当を買えば、碇君と一緒に居られるのかしら。
*****
二人の家から、ずいぶん離れた場所。
徒歩でも20分はかかる距離である。
「・・・よかったぁ。やっと見つかったよ。
これでアスカに怒られなくてすむかな。」
シンジは、安堵のため息をつくと、シュークリームを持ってレジに向かう。
「綾波っ!」
「!」
「こんな遅くにどうしたの? ここって綾波の家からも
結構遠いんじゃない?」
「・・・い、碇君・・・ホントに碇君?」
レイは、やっと見つけた『いなり寿司弁当』を手にしたまま、呆然としていた。
お弁当を見つけたとたんに、シンジに会えたことが信じられなかったのである。
それは、彼女にとっては偶然ではなく、必然と感じられた。
「それ、今日の晩ご飯なの? 昼間言ったこと気にしてくれてたんだ。
・・・でも、そんなんじゃ・・・
よ、よかったら、今度、僕がご飯作ってあげようか?」
「・・・・・」
「嫌かなぁ・・・変なこといってゴメン。」
二重のショックを受けたレイは、俯きながらもなんとか言葉を紡ぎだした。
「・・・そんなことない・・・私、碇君のご飯が食べたい・・・」
相手に食事を作ってあげること・・・
それは、一緒になってほしい時に言う言葉・・・
「とりあえず、レジ行こっか。」
二人はそろってレジに行き、別々にお金を払った。
コンビニを出てもまだレイは、わずかに頬を染めて俯いていた。
そんなレイを見て、シンジは思った。
綾波、どうしたのかな。さっきから下を向いているし・・・
そうか。こんな遠くまで来たから、一人で帰るのが心配なんだ。
「遅いから、家まで送っていってもいいかな?」
こんなことまで許可を求める疑問形で話すシンジは、はたから見ると
情けなかった。
が、しかし、レイにとってそれは至高の言葉であった。
「・・・・・」
「やっぱり、嫌だよね・・・ゴメン。でも、女の子一人じゃ心配だし・・・」
「・・・お願い・・・するわ。」
*****
コンビニから、レイの家までの帰り道。
昼間なら距離も周囲の景色などで気にならないが、夜の単調な道は静寂に満ちていた。
しかも、レイはコンビニを出てからずっと黙ったままである。
耐えきれなくなったシンジは、レイに何か話しかけようと考える。
「星、きれいだね。」
「えっ。」
「星だよ。今までじっくり夜空を見るなんてこと無かったし。」
そういわれてレイも夜空を見上げる。
戦いが終わって、徐々にビルも再建されつつあるが、まだ街の光は弱かった。
「そう。・・・私は時々見るわ。」
「綾波って、お月さまが似合うよね。なんか、静かな輝きって感じがしてさぁ。」
「・・・何を言うのよ。」
「ゴ、ゴメン・・・
でも、平和になって良かったよね。もうエヴァに乗らなくてもいいし。
僕たちにも未来があるんだって気がするんだ。」
「・・・未来・・・」
「そう、未来が。って、何かキザだよね。ハハハ・・・」
*****
一人で歩けば長い道のりも、二人で歩くと短く感じられる。
やがて、レイの住むマンションが見えて来た。
レイの頭の中では、シンジの言った言葉がメリーゴーラウンドのように回っていた。
『・・・僕だけに食事を作ってほしい・・・』
『・・・君は輝く月の女神だ・・・』
『・・・君と僕とで、二人の未来を作ろう・・・』
この前読んだ本にあった言葉。
それは、誰かと一緒になりたいときに言う言葉。
それは、プロポーズというもの。
・・・私は、どう答えればいいの?・・・
いったいどんな本を読んだのか、レイの思考は大きく筋道をはずれていった。
二人は、レイのマンションに着いた。
深夜のシンデレラにも終わりを告げる時が来る。
「じゃ。おやすみ。」
私は、碇君と一緒にいたい・・・
「あっ。碇君。あ、あの。」
私は、碇君の言葉に応えたい・・・
「ん? なに?」
『ふつつか者ですが』・・・違う気がする。
「・・・ありがとう。」
『お味噌汁作って下さい』・・・これだったかしら。
「いいよ。気にしなくてさ。」
そうよ。思い出したわ・・・
「碇君っ! わ、私の下着を洗ってくれる?」
「別に良いけど。じゃ、明日にでもうちに持っておいでよ。
乾燥機もあるから大丈夫だよ。それじゃ、また明日ね。」
*****
そして、彼女は一人、部屋の中で至福の笑みを浮かべる。
碇君・・・私たち明日からずっと一緒に居られるのね。
そして、少年は一人、暗い夜道で困惑の表情を浮かべる。
綾波って、洗濯機持ってないし、あんまり服も持ってないよね。
洗濯するのが間に合わなかったのかもしれないけど・・・
アスカのと一緒に洗ったら、嫌がるかな?
女性の下着を洗うことに何の違和感も、不思議も持たないシンジであった。
終わり
yosiさんへ感想メールを送って下さい!
Received Date: 97.11.20
yosiさんのコメント:
特急で書き上げたものです。ミステリータッチはいつもより弱いですが、
落ちはまあまあでしょうか。ラブラブな話しってどうも難しい。
mal委員長のコメント:
yosiさんに突発的に(^^;、競作作品投稿していただきました!!
ありがとうございます!!綾波サイトに限らず(^^;投稿なさってる方ですが、
「愛の形」シリーズ(Freedom in Dreamlandの愛のN2地雷劇場(^^;コーナーです)
は爆笑!!、あーいうのをミステリータッチというのでしょうか?
この作品もラブラブなんだけど、ヒネリが効いてますね
『お味噌汁作って下さい』でめぞん一刻思い出したのはわたしだけか?(^^;
よろしければまたなにか書いてくださ〜〜〜い
常連の方に一言、yoshさんでなくてyosiさんだから(^^;