Once More Final.


St. Chirstmas Carol/Komm,susser Tod.






夢って・・・なんなんだろう?









・・・夢?



そう。・・・夢。




・・・わからない。・・・現実が、よく、わからないや。


他人の現実と、自分の真実との溝が、把握できないのね。


僕の幸せがどこにあるか、わからないんだ。


夢の中にしか、幸せを見出せないのね。



・・・だから、これは現実じゃない。

・・・だれもいない世界だ。


そう、夢。


・・・だから、ここには僕がいない。


都合のいい作り事で、現実の復讐をしていたのね。


・・・いけないのか。


それは、夢じゃない。




ただの、現実の埋め合わせよ。






じゃあ、僕の夢は、どこ・・・?


それは、現実の続き。


僕の・・・現実はどこ?


それは、

夢の終わりよ。









  綾波・・・。・・・・・・ここは?


  L.C.Lの海。生命の源の海の中。

  隔たりを失った、自分の形を失った世界。

  どこまでが自分で、どこからが他人なのかわからない、曖昧な世界。

  どこまでも自分で、どこにも自分がいなくなっている脆弱な世界。


  僕は死んだの?


  いいえ。 すべてが一つになっているだけ。




  ・・・でも・・・。これは違う。

   このペンダントは、違うと思う。


  他人の存在をもう一度望めば、再び心の壁がすべての人を引き離すわ。

  また、他人の恐怖が始まるのよ。





  ・・・いいんだ。

  ありがとう・・・。





  ・・・ええ。











  ここは・・・?

どこかの、町の中。
人が行き交い、声が飛び、様々な情報が交差する場所。
商店街だろうか・・・。

  僕、どうしてここにいるんだろう・・・?

妙に、寒かった。体が震えるくらいに。

  そうか・・・。

道を行く人々が、それぞれ、精一杯のおしゃれをしている。

  そうだ・・・。今日は、クリスマスだったんじゃないか。

雪は降っていない。今にも降り出しそうな雲行きだが・・・。
日の落ちた空は、重く厚い雲を被っている。
それでも、町の人々は、落ち込んだりしない。
町全体が、その明るさを惜しみなく振りまいている。

  そうだよ、クリスマスなんだもの。

そう考え、シンジは歩き始めた。
一応、厚着はしているが、それでも少し寒い。
・・・でも、気分はそうは感じない。

  みんな、楽しそうだなぁ・・・。

きょろきょろと当たりを見回しながら、町の中心へと向かうシンジ。
目には、元気なイルミネーションが自己主張しているのが見える。
一つの街灯でさえ、浮かれているように見える。

  ・・・僕は、どうなんだろう?

答えられない。
・・・よく、わからない。

  ・・・なんで、ここに来たんだっけ・・・?

疑問符を浮かべた顔で、密度の高い歩道を歩く。
よくよく他の人の顔を見ると、驚くほどたくさんの顔がある。
喜びの顔、ぼうっとした表情、若いカップルの幸せそうな顔。

知っている、顔。

  綾波!

大声を出し、彼女を呼ぶ。
はっ と顔を上げ、こちらを振り向く少女。

  ・・・碇くん!

数メートルを走り、勢いを落とさずにシンジに飛び込む。

  うわっ!?

すぐ眼前に迫り、頬が重なって視界から消える寸前、
彼女の顔が微笑んでいたように見えた。

  綾波・・・

細身の少女の身体が壊れないように、そっと、シンジはレイを抱きしめた。

  そうだ・・・。探してたんだ。

道を塞いでいる子供たちを、しかし、誰も咎めようとはしない。
暖かい目を向ける若い女性。
軽くヤジを飛ばす青年たち。
にこにこと笑いかける老人。
あらゆる人から、祝福の笑顔を向けられる。
・・・少し、くすぐったい感じがする。

  綾波・・・。ちょっと、恥ずかしいね。

レイは答えない。ただ、少し身じろぎする。

  ふふ・・・。
どこからか、歌が流れてきた。
笑い声と共に、吐息がレイの髪を揺らす。
レイが、ますますシンジに身を寄せる。

  ・・・あったかい・・・。

♪...♪... 
目を閉じて、お互いの体の温かさを感じる。

...♪...♪... 
  ・・・・・・。

♪...♪... 
無言のまま、しばらくして。

...♪...♪... 
  ・・・綾波?寒いの?

I know ... 
震えていた。

I know I've let you down ... 
心配して、シンジはレイの顔を見ようと 少し体を離そうとした。
だが、腕に力が入る前に、
I've been a fool to myself 
レイが、自分から、 すっ と離れた。

I thogut that I could 
  綾波・・・?・・・泣いてる!?

live for no one else 
数歩離れて立つレイの顔は、涙に濡れていた。
でも・・・笑っていた。流れる涙を堪えながら。
But now... through all the hurt and pain 
レイが、泣きながら話し始める。

It's time for me to respect 
  ここは、わたしの世界。

the ones you love 
  わたしが夢見た、わたしの世界。

mean more than anything ... 
  このちっぽけな町が、わたしの夢の世界の全て。


少女は、ゆっくりと後ずさっている。わずかずつ、レイが遠くなっていく。

So with sadness in my heart 
  何を言ってるんだよ!?どうして一緒にいられないんだ!?

I feel the best thing I could do 
何もわからないシンジが、叫ぶ。
レイが、悲しい歌を歌うように答える。
is end it all 

  わたしは、現実にはいられない。
and leave forever 

  わたしはもう、現実には いてはいけないから。
what's done is done it feels so bad 

  この夢は、幸せを掴めなかった、わたしの現実の埋め合わせ。
what once was happy now is sad 

  わたしは夢を見続けてはいられないの。
I'll never love again 

・・・最後の瞬間、シンジが伸ばした指は届かなかった。
その言葉を言い終えて、彼女は消えた。



  ・・・わたしの世界は、消えていく・・・。
...... my World is ending ... 







 「・・・綾波・・・?」

I wish... that I could turn back time 
一瞬前まで彼女がいた空間を、シンジは呆然と見ていた。
町の人達は、時々 訝しげな視線を向けるが、何も言わずに去っていく。
やがてシンジは走り出した。町の中心のほうへと。ただ、闇雲に。
cos now the guilt is all mine 

 『綾波・・・綾波・・・!!』

can't live without 
走っても、いくら目を凝らしても、レイの姿は見えない。
道路を挟んだ反対側にも、目を向ける。
そこに見えた人影は。
the trust from those you love 

 「・・・加持さん!!」
  ──────違うッ!
   ──────加持さんは、もう いないんだ!!
I know we can't forget the past 

さらに、その隣を歩く女性の顔が見えた。
アスカ・・・それに、ミサト。

you can't forget love and pride 
 「ど・・・どうして!?ミサトさんは、撃たれた・・・!撃たれて・・・!」


痛みを全く見せない穏やかな笑顔で、自分をケイジへと送り出してくれた、ミサト。
because of that, it's kill in me inside 
 「アスカは・・・!だって、もう・・・!!」


アスカの悲鳴・・・。
バラバラに食いちぎられた、弐号機。
...... It all returns to nothing, it all comes 

───でも、視界の二人は、いたって元気そうだ。
その笑顔が、心に焼き付いた時、
彼らも、消えていった。
tumbling down,tumbling down 

 『え・・・・・・?』


tumbling down ... 
立ち尽くすシンジのすぐ横を、かなり長身の男が歩いていった。
シンジが、振り返る。
その男に連れ添う三人の女性と、一人の初老の男。

It all returns to nothing, ... I just keep 
 『父さん!!それにリツコさんに副司令!』


シンジは、追いかけようとした。
だが、人込みが、行く手を阻む。
letting me down, letting me down 

 「すみません、ちょっと・・・!!通してください!すいません!!
    ま・・・待って!父さん、リツコさん!冬月さん!」

letting me down ... 
声は雑踏にかき消されてしまった。
人々は、ただゆらゆらと、その流れに身を任せている。
・・・やがて五人は、その流れに紛れてしまった。

In my heart of hearts 
 『あれは・・・父さんの隣の女の人は、誰だったんだ・・・?』

一人は、知らない。見た事はない。
もう一人は・・・知っている・・・知っているはず。
I know that I called never love again 

 「あ・・・! か・・・ 母さん!!」


I've lost everything ... 
もう、呼び声は届かない。
瞳に、熱いものが湧き出てくる。
そんなシンジの耳に、少年のものらしい声が入った。
everything ... 

 「・・・少し疲れたかな?・・・綾波・・・」

 「っ!!」
everything that matters to me, 

紛れもなく、自分の声。
その声が聞こえてくる所には、確かに、もう一人 自分がいた。
matters in this world ... 

 「そうだね・・・。じゃあ、ここの真ん中にあるっていう、モミの木の所で休もう?」


レイの声は聞こえない。それどころか、姿すら見えない。
もう一人のシンジの側には、人 一人分の空間があるだけ。
他の人達も、その空間は避けていく。
シンジは、立ち尽くすしか、なかった。



僕は、逃げようとしてた。
だけど、現実が、無理矢理突きつけられた。
綾波は・・・必死に、僕を助けようとしてた。
僕の願いを聞いて、世界を、海に戻した。
だけど・・・僕はその時、綾波を拒絶した・・・。
綾波の心が・・・その時から、感じられなかった。

 「・・・くぅっ!!」

シンジは、走り出した。
町の、中心へ。





色とりどりの、装飾。
あちこちに散りばめられた、様々な飾り。
大きい、クリスマス・ツリー。

なぜか周りに誰もいない、この町の中心の公園。
そこに・・・、レイは、いた。

 「綾波!!」

名を呼ぶまでもなく、レイは自分に気づいていた。
駆け寄ろうとして、足が止まった。・・・止まってしまった。
レイが、泣いたまま・・・微笑んだまま、口を開いた。

... It all returns to nothing,it just keep 
  私は・・・本当は、心を持てなかったの。

  だけど、あなたが、こころを教えてくれた。
tumbling down,tumbling down 
  あなたの側にいれば、わたしも心を持てるんだと、思ってた。

  でも・・・。わたしは、いつまでも、存在してはいられないの。
tumbling down ... 
  無へと、還るしかないの。

  もう・・・会えないの・・・。
... It all returns to nothing, I just keep 
  現実には・・・わたしの居場所はないの。

  でも・・・。
letting me down, letting me down 
  嬉しかったと、思う・・・。

  抱きしめてくれて・・・追いかけてきてくれて・・・。
letting me down ... 
  ・・・ありがとう・・・


It all returns to nothing,it just keep 
レイが、羽根を広げた。

 「綾波!ま・・・待って・・・!」
tumbling down,tumbling down 
ふわり、と レイの体が地から離れる。
自分の体を、力の限り抱きしめながら、木のそばをレイはゆっくりと昇っていく。
レイの体が、ほんの少しずつ、透けてきた。
tumbling down ... 

 「そんな・・・綾波は、一緒にはいられないの・・・!?」
雪が、降り始めた。
It all returns to nothing, I just keep 


  ごめんなさい・・・。でも、わたしは、嬉しかったから・・・。
letting me down, letting me down 
  本当に、嬉しかったから・・・。

  碇くん・・・ありがとう・・・。
letting me down ... 


 「あ・・・・・・。」
...♪...♪... 

そうして、少女は、消えていった。
幸せそうな、笑顔と共に。
♪...♪... 


雪が、クリスマスツリーに降り積もる。
...♪... 

少女の涙と、羽根の混ざった雪が、降り積もる。
♪... 

天を見上げるしかない少年の肩に、白い雪が、ゆっくり降り積もっていく・・・。






赤い光が、青い星に降っていく。

一つ一つが、人の魂。

それは、彼には、少女の流す涙に見えた。

赤い瞳から流れ出る、澄んだ悲しい涙に見えた。


星に・・・赤い雪が降り積もる・・・。






  ザ.......ン......

・・・小さい、波の音。
目を覚ました少年が、身を起こした。
・・・視界は、一変していた。
湖面は、赤すぎる水に満たされていた。
自分の横たわる砂は、焼き尽くされ、ただの白い粉になっていた。

ふと、人の気配を感じた。
気だるい体を無理矢理左のほうへと向ける。
遠くに・・・レイがいた。
でも、瞬きをしたら、消えてしまった。

人の気配は消えなかった。

 「側に・・・いるんだよね・・・?』

問いかけに答える声は、ない。

 「みんなは・・・まだ、帰ってきてないんだ・・・。」

再び横になり、それまで待つ事にする。
レイの気配は、薄くなっていた。
でも、消えはしない。

悲しい気持ちが、溢れてきた・・・。
涙が、顔を濡らしはじめた。


耳についた歌が、離れなかった。



いつまでも、鳴りやまなかった。









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