FMTTM 80000 Hits 記念投稿SS



Take It Easy.





ある日の、芦ノ湖・・・・・・。



静かに山々を写すその湖に、

随分と賑やかな雰囲気の船が浮かんでいた。









「・・・それで、この辺りは水深が・・・」
「あ〜〜ぁもうつまんなーい!さっさとそんなの終わらせてよー!」
「だったらちゃんと聞いてなさい!」
「そーよぉアスカ。今日のメインは遊びじゃないんだから。」
「とか言ってなに冷蔵庫なんてあさってるのよ!またビール!?」
「葛城・・・仕事中は控えとけよ・・・。」



第八使徒を無事 殲滅し、意気揚々とネルフ本部に戻ったシンジたちは、何故か今日、
芦ノ湖へと招集をかけられていた。
[芦ノ湖方面から敵性体が接近した場合の有効な対処方法の模索及び現地の地形的形状を
直接的に学習する事]
が、今日の目的である。


──────というのは建前で、実際にはチルドレンたちの修学旅行の埋め合わせに、
芦ノ湖の遊覧をしているのだ。

「普段、ホントに死ぬほど頑張ってるんだもんね・・・。今日くらいは、いいでしょ・・・?」

というのは作戦部の葛城ミサト一尉のお言葉である。



そして今、彼ら──────本部トップオペレーターの三人、リツコ、ミサト、
チルドレン三人、さらに何故か加持までもが
  湖に浮かんだクルーザーの上ではしゃいでいる。

建前の目的は一通りこなし、それぞれ、自分なりに遊覧を楽しんでいるようだ。

「青葉さん・・・このクルーザー、どうしたんですか?ネルフが持ってるとは
思えないですけど・・・。」
グラサンを思いっっっきりキメてクルーザーを操縦する青葉に、シンジが尋ねた。
青葉は片手で操縦をしながらもう一方の手でグラサンを外して答える。さらりと。
「あぁ。ネルフの権限で民間人から徴収したんだ。」
「え〜!?で、でもそれでこんな事に使ってたら・・・。」
あたふたと くつろぎまくっている一同の姿を見て、心配そうにシンジはもらす。
その肩をぽんぽん と叩いて、加持が笑いながらシンジに言った。
「そんなはずないだろう?いくらネルフでも無意味に接収したりしないよ。」
だが、シンジは冷静に突っ込む。
「ミサトさんは、僕がここに来た時、車のバッテリーを他の車からくすねてました。」
「葛城ぃ〜〜〜。」
「違うわよっ!!」
非難がましい加持の口調に、ミサトが怒鳴る。
つかつかと加持に歩み寄りながら、ミサトはなおも大声で弁解する。
「その時はシンジくんを大急ぎで本部に送り届けなくちゃならなかったんじゃないの!
ちゃんと始末書だって書いたわよ!」
加持の襟を絞めながら、ミサトが叫ぶ。
その様子を笑って見ながら、青葉が説明をした。
「本当は借り物なんだ。バンド仲間に持ってる奴がいてね。少し前、一緒に飯を
食いに行った時に話してさ。
  その時の晩飯はおごらされたんだけどな。」
「で、その晩飯代はネルフに請求したわけだな。」
「そうです。」
ようやくミサトの腕から解放された加持が突っ込み、青葉が言葉を返す。
「なるほど・・・。」
納得したシンジの横から、ミサトが口を出した。
「確かに、ネルフ権限で接収してるかもね♪」



「リツコさん・・・ここでも仕事ですか・・・。」
船室(って言うのか?)の方で携帯用チェアーに座って、リツコはハンディパソコンを叩いていた。
多少呆れた感じも含んだシンジの声に、不機嫌な声でリツコは答えた。
「忙しくってね・・・。誰かさんはお気楽でうらやましいわ。」
「何ですってっ!」
怒鳴り声は当然無視。
隣のマヤは、苦笑している。
──────ちなみに、全員制服である。
「マヤさんも・・・せっかくですし、少しはくつろいだら・・・。」
同じく座ってパソコンを操作するマヤは、シンジを見上げて言った。
「先輩が仕事してるから・・・とりあえず、仕事のふりでもしておかないと、落ち着いて
いられないもの。」
淡く微笑んでそう答えたマヤに、リツコが冷たい声を出す。
「・・・・・・マヤ・・・本当に振りだけでしょ・・・?」
「え・・・。あ、ば、ばれてました?」
「そりゃぁね・・・。」
疲れたような声でリツコが呟く。
シンジがマヤのパソコンを覗き込むと・・・そこには通信対戦型のゲームが表示されていた。
ちなみに、相手は同じく船室にいる日向である。
「リツコさん・・・。」
シンジの声に、リツコはキーを叩く手を止めた。
「・・・・・・そうね・・・。」
よっこいせ と立ち上がって、伸びをする。
「少し、くつろぐのもいいかもしれないわね・・・。」



  風が気持ち良い・・・
ぼんやりと市の方向を見ながら、シンジはそんな事を思っていた。
ぼんやりしているのも勿体無い気がするが・・・
『まぁ、こんな時だもんな・・・。』
そう結論づけて、先ほどからシンジはぼぉぉっとしたままでいる。
さらにしばらくしてから、ふとシンジは視界の隅に文字どおり異色のものを見つけた。
レイの、空色の髪。
彼女も、風景を───いつものように───見つめている。
またも大騒ぎを始めたミサトやアスカは無視して、シンジはレイにそっと近づいた。
この少女に近づく時は、何故かいつもそうしてしまう・・・。
「・・・なに、碇くん?」
今回は、先にレイが声をかけた。
「いや・・・何、見てるのかな って思って。」
レイは一度顔をシンジに向けたが、シンジの返事を聞いて視線を箱根の山々に戻した。
しばらく、沈黙と、───ミサトたちの騒ぎ声が続いてから、レイは答えた。
「特に、何も・・・。ただ、こんなふうに湖を見るの、初めてだから・・・。」
呟くようなレイの声。
───いや、実際シンジに聞かせようとしているのでは ないのかもしれない。
さらにしばらくしてから、今度はシンジが口を開く。
「僕は・・・・・・。ずっと、見ていられたらな って思ってた。」
別にシンジ自身、深い意味など全くない言葉だったのだが。
レイが振り向いて、シンジを見つめた。
その薄い唇が何かを言うようにわずかに動き・・・
結局何も言わずに顔を戻す。
細く、聞こえないほど小さい声で、レイが呟いた。
「・・・・・・・・・そう・・・。」
少しして、今度は幾分はっきりした声で。
「そうね・・・。」


クルーザーのエンジン音が、風のささやきと入り交じっていた。



「二人とも!何やってるの?」
突然、後ろからアスカが呼んだ。
ずっと辺りの風景を楽しんでいたシンジとレイが振り向く。
シンジが答える。
「いや・・・別に、ただ湖を見てただけ。」
同じく、
「別に・・・何も・・・。」
だが、アスカは不満らしい・・・最初から上機嫌には見えなかったのだが・・・。
「ふんッ!仲がよろしい事でっ!!」
皮肉げに言い放ち、ぱたぱたと船室に降りていく。
聞こえるはずもないような声で、シンジが文句を言うように呟いた。
「・・・別に仲が良くてもいいじゃないか。」
「あら?そうなの、シンジ君?」
「うわぁっ!」
いつのまにかシンジの側にリツコが立っている。
珍しく冗談めいた口調でシンジをからかう。
「どうなの、シンジ君?」
「あ、いやその・・・。」
既にシンジは混乱モードだ。
リツコはレイにも目を向ける。
「レイ、聞いてたでしょ?・・・どう思う?」
「え・・・。」
レイは視線を横のシンジに向ける。
その頬が、わずかに染まる。
「リツコさん!からかうのはやめてくださいよ!」
「ふふ、本当にシンジ君をからかうと面白いわね。」
「なになに、リツコ!どしたの!?」
───ミサトまで集まってきた。
リツコが笑いながら説明する。
「それが、シンジ君がねぇ・・・。」
「うわーーーーっ!」

「へぇ〜!シンちゃん、よくレイのいる前で言えるもんね〜!ホント、仲が良いっていいわ〜!」

「シンジ君・・・レイなら大丈夫だとは思うが、ガサツなコとは・・・ぐ、ぐが〜〜!」

「ミサト〜!何加持さんの首絞めてるのよ!」

「あら、面白そう・・・先輩、何の話してるんです?」

「マヤ・・・シンジ君が、とうとう告白したのよ・・・レイに・・・。」

「ちがうぅぅぅっ!」

「青葉くーん?さっきっからビール探してるんだけどどこにも見当たんないよね〜。どこにあるの?」

「・・・葛城さんが飲み干さないように、今日は持ってきてませんよ・・・。」

「なんですって〜っ!?」

「お、おい!俺を武器にするんじゃない!」

「えぇい、邪魔ね!芦ノ湖に落としてやるわ!」

「うあ〜〜〜!り、リっちゃん、助けてくれ!」

「マヤちゃーん!頼むからあと一戦だけ勝負して・・・負けっぱなしじゃ面目立たないよ!」

「マヤ、何勝したの?」

「全勝です。日向くんヘタだから・・・。」

「綾波〜!黙ってないで、何か弁解してよ〜!」

「・・・・・・。」


















ま、なんにしろ・・・





今日の第三新東京市は平和なようである。


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