時間を与えたことに大した意味はない。
 あるいは甘すぎるかとも思う。
 けれど、ゲームの初手はあまりに不公平なものだった。
 彼らはそれと知らぬまま、自らの懐に悪魔を招き入れたのだから。
 悪魔がついついはしゃいで遊び回ったおかげで、地下の要塞はそのまま墓穴に変わろうとしている。
 酔狂でもある悪魔としては、ここらで多少の寛容を見せるのもいいかと思っただけのことだ。
 ――この数時間で、自分のスペックは確認できた。
 基本性能は予測通り。
 人体ていどなら紙屑のように引き千切れる。
 四年前に手合わせした異形の同胞たち、その能力を真似ることも、思っていたより難しくなかった。
 まあ、本家が見れば鼻で笑うような猿真似だが、何かと面白く使えそうだ。
 そして初号機。
 彼女は相変わらず無垢で獰猛で、地上最強の力のすべてをこの自分に捧げてくれている。
 素晴らしい。
 いずれ劣らぬ楽しい玩具。
 手札はすべて並べられ、遊戯の再開を待っている。
 羊が準備を終えたなら、止まった時間は動き出す。 
 ――さてさて。
 こなた一人と一柱、ただそれだけの反乱軍。
 三千世界に弓引いた、史上もっともささやかな反逆者。
 かなた勢威殷賑並ぶものなき人類の守護者。
 三千世界に覇を唱え、人類総数二十億に君臨する無敵の軍隊。
 論ずる是非などありやせぬ。
 語る言葉に意味はなし。
 屍山聳えて血河は流れ、百鬼夜駆けて亡者は並ぶ。
 黄泉路六道駆け抜けて、描く白地図地獄絵図。

 ――かくて悪魔は時を待つ。





















Who killed Cock Robin?

Chapter 7 : hell drive

七瀬由秋




















 

――934

 新生ネルフ総本部地下発令所には、静けさが満ちていた。
 配置についたオペレーターたちは忙しげに端末に向かっているのだが、その表情はある種の虚しさに満ちている。

「……伊吹一尉」

 押し殺すような声で、加持ミサトは口を開いた。
 名を呼ばれた童顔のオペレーターが、びくりと背筋を震わせる。

「通信はまだ回復しないの?」
「は……はい。通常回線がつながる以上、ハードではなくソフトに異常が出ていることは間違いなく……」
「それはもう聞いたわ」

 歯軋りするような声でミサトはいう。
 ケイジでの惨劇の後、彼らがこの発令所に駆け込んできたそのときから、通信の異常は始まっていた。
 通常の電話回線は通じる。携帯電話もかけられる。
 しかし、軍事用の秘匿回線が一切不可能なのだ。
 リツコ不在の現在、技術的問題に責任を負う伊吹マヤは、MAGIの通信システムに問題が発生したであろうことを報告した。
 もともと、ネルフ総本部におけるすべて通信は一度MAGIを通してチェックを行い、盗聴防止や暗号化の処置を行っているのだが、それが見事に裏目に出たわけである。
 しかし、その後が続かない。
 いくら赤木リツコの右腕と呼ばれたとて、マヤはあくまでその補佐役としてのみ経験が長く、自身を主体として任務遂行に当たったことはほとんどない。
 リツコは特に秘密主義の上司というわけではなかったが、部下に過大な期待をかけることもなかったため、MAGIの取り扱いをほとんど自分一人でこなしていた。
 突き詰めれば、上の人間にのみ機密と権限が集中するネルフの組織的構造に行き着くのだろうが、オーヴァー・テクノロジーのデータが満載されたMAGIの制御には細心の人選を要するというのも事実であった。
 マヤ本来の資質は別として、この場における彼女の発想に積極性と創造性が欠けるのは、仕方のないことではある。

「ぎ、技術部の総力をあげて原因の究明に当たってはいるのですが……」
「それは疑っていないわ。けれど問題は、その努力がいつ報われるのかということなのよ」

 決めつけるように言い放った表情は、険悪ですらあった。
 本来、陽性の人柄と砕けた人当たりで、統合作戦本部の部下たちはもとより他の部署の士官からも人望を集めている女なのだが、今その物腰は陰鬱そのもの。
 通信に加えて警備システムまでが麻痺し、状況が何一つ掴めないという現実が、ミサトに手足を縛られたかのような閉塞感を強いていた。
 とりあえず、総本部に常駐していた保安部及び警備部の武装小隊に緊急出動を命じたはいいものの、その後彼らがどうなったかも判然としない。
 斥候と伝令を兼ねて何人かの部下を走らせても見たのだが、それすらも消息を絶っている。
 目隠しされ、耳も塞がれた上で、口さえも噤まされたようなこの状況下で、目前に迫る危機に対処しなければならない――
 冗談のようなその事実に、ミサトの神経は加速度的にささくれ立っていた。
 通常回線を通じて、総本部付近の基地の司令へ命令は発した。
 彼らは今頃、さしあたって動かせる全兵力を率いてこちらに向かっているはずだ。
 だが、それからどうすればいいのか。
 どうやって具体的な指示を飛ばし、敵に立ち向かえばいいのか。
 携帯電話で指示を飛ばすなど論外だ。
 通常の電話回線ですら危険が伴うというのに、携帯の電波などその気になれば素人ですら傍受できる。
 ましてこの松代には、ネルフの機密を狙う複数の国家の諜報員が潜伏しているのだ。
 携帯電話での軍事通信など、総本部施設で何が起こったかを内外に宣伝するようなものである。
 応援部隊が総本部に殺到する光景だけでも、巷にどんな噂が立つか知れないというのに。
 呼びつけた各部隊の士気――緊迫感といってもいい――にも問題がある。
 何しろ、盗聴を警戒した通常回線での命令だったため、具体的な状況や敵の素性は一切伝えられなかったのだ。
 先刻、電話に出た第四基地の司令など、「これはどういう趣旨の演習なのです?」などと笑い声すら交えて問い返してきたほどだった。その他の部隊の指揮官たちも、個人差こそあれ似たような対応だった。
 人類社会最強の軍事力を誇るネルフ、そのお膝元たる松代総本部――その懐で敵対行動を起こせる者などいようはずもないという確信が、彼らにそうした態度を取らせている。
 ミサトは直々に受話器に出て彼らを一喝し、これが演習などではない旨を明言したのだが、どこまで伝わったかは怪しいものだ。
 詳しい事情を聞かされず、「とにかく部隊を率いて応援に来い」とだけ命じられた側が、熱心になれるはずもないのは無理からぬことではある。
 初号機の帰還とシンジの召還を彼らが知らされていれば、あるいは彼らの態度も違っていたかも知れないが、あいにくとそれは総本部所属の一部士官にのみ知らされている極秘事項である。機密機密とこだわっていたのがここでも裏目に出ていた。
 ……まったく、冗談ではない。
 ネルフの統合作戦本部長は頭を抱えたくなった。
 まあ、士気の問題はさて置くとしよう。彼らとて専門の訓練を受けた軍人。「敵」に兵士の十人や二十人殺されれば否応無しに必死になるはずだ。
 だが、通信の問題は相変わらず残る。
 もちろん、解決策がないでもない。
 MAGIの通信システムが使えないなら使えないで、他にも暗号化のできる通信機はいくらでもある。いっそ、役立たずの発令所を完全に諦め、地上に司令部をまるごと移動させてもいい。符丁を多用すれば、市街内部に潜伏している各国の諜報員もさしあたりごまかすことはできよう。応援部隊の各指揮官に細かな運用は全面的に一任し、こちらからは大まかな方針を示すだけに留めれば、多少統率に乱れは出てもまず戦闘らしい戦闘になる。
 理論的には、それで対処が可能なはずだ。
 ――しかし、各種最新技術を駆使した部隊運用に馴れているネルフの士官たちが、そのような状況下で実際にどれほどの実戦能力を発揮できるものか、ミサトは危惧せざるを得ない。
 ネルフにおいては、発令所にリアルタイムで送られてくる映像と情報を、統合作戦本部のスタッフが分析し、戦略を組み立て、現地部隊を管制する――というシステムが確立している。極端な話、地球の裏側の戦局すら、発令所にいながらにして指揮を執ることが可能なのだ。MAGIをはじめとするネルフの技術がそれを可能としている。マスメディアが評するところの「新時代の軍略」を、ネルフは完全に体現していた。
 しかしそのおかげで、あるていどの上級士官たちですら、最終決定は統合作戦本部に委ねるものという考え方が染みついている。ミサト個人に権限が集中しすぎているのである。
 発令所との連絡がままならず、唐突にフリーハンドを与えられた指揮官たちが心理的恐慌に陥る様を、ミサトは容易に想像できた。

「――とにかく、技術部はシステムの復旧を最優先」

 さしあたって問題を棚上げし、彼女は底冷えのするような声を発した。
 睨むような眼光を向けられたマヤは泣き出さんばかりである。やつあたりじみた態度とわかっているが、どうにも隠しようがなかった。

「それと……『アレ』の解析の方はどうなっているの?」
「あ、『アレ』とおっしゃいますと?」
「決まっているでしょうが! シンジ君、いえ、シンジ君の姿をしたあの化け物よ!」

 吐き捨てるようにミサトはいった。
 マヤは二重の意味で顔を蒼白にする。今まで意識して忘れようとしていた光景を、否応無しに思い出したのだ――素手で叩き潰された人間の頭と、高らかに響く笑い声。
 さすがにこの件に関して誰も知らぬふりは出来なかったのか、周囲のオペレーターたちはもとより、ゲンドウや冬月ですらマヤに注目していた。

「マ、MAGIは依然、情報不足による解答不能を提示しています」
「予想くらいは立てられるでしょう!?」
「し、使徒が絡んでいるということくらいしか……」
「それくらいのことはわかってるわ!!」

 ミサトは思わず怒鳴りつけた。身をすくめたマヤは気の毒という他はない。それは実のところマヤではなく、かつて彼女が憎んだあの異形の天使どもに向けられた怒りであったから。

「あんな化け物が、使徒以外にいるもんですか! シンジ君に取り憑いたのかどこかですり替わったのか――」

 昂ぶる激情のままに、ネルフの統合作戦本部長は呪うように吐き捨てた。

「まったく、あいつらはどこまで私の家族を奪えば気が済むというの!?」

 絶叫じみたその声に間近でさらされたマヤが、思わず「ひぃっ」と悲鳴を上げる。
 オペレーターたちも首をすくめ、そろそろとミサトの顔色を窺った。
 血の気の引いた彼らの表情に、ミサトはさすがに我に返ったようだった。

「――とにかく」

 声音に含まれた険しさは相変わらずだったが、それでも幾分落ち着いた表情でミサトはいった。

「システムの復旧に並行して、アレの解析も進めておいて。具体的には、アレの戦闘能力だけでも試算してちょうだい」
「戦闘能力、ですか?」
「ええ。ケイジでの映像は残っているのよね?」
「は、はい。システムの異常が始まる以前のものは、完全に」
「結構。数字に直した場合のアレの跳躍力、速度、拳や蹴りの打撃力、肉体の耐久力。特殊能力まではこの際考えなくていいわ。重要なのは、どのていどの火力を使えば殺せるか、どんな種別の装甲ならばアレの攻撃に耐え切れるか。――概算でいいわ、出してちょうだい」
「は、はい!」
「ああ、それと、エントリープラグもなしにどういう原理でエヴァ初号機を操作しているのかもね。――まあ、これについてはフィフスの例もあることだし、解明は不可能かも知れないから、ついででいいわ。どの道、弐号機で対抗するしか手はないだろうし」

 矢継ぎ早に指示してから視線を転じて、

「弐号機の発進準備は?」
「順調です。出撃に関わる機構はすべて正常作動――予定では四百二十秒後にリフトオフ可能」
「五十秒短縮しなさい」
「やって見ます」
「地下ブロックの構造図をデータに出しておいて。パスは私のを使って構わない」
「はい!」

 明確な指示を与えられたことで、発令所全体に活気が甦りつつある観があった。
 情緒面にどれだけ欠点があろうと、加持ミサトはたしかに統合作戦本部長に相応しい能力も有していた。
 先刻までの苛立ち、苦悩を一時的に棚上げし、目に見える問題から的確に片付けていく切り替えの早さ、部下に安堵をもたらす類の堂々たる物腰は、賞賛に値するものであったろう。碇ゲンドウとて、忠誠心だけを基準に部下を選んでいるわけではない。

「それと青葉君、内線で手の空いている者を召集しておいて」
「手の空いている者、ですか?」
「この際総務でも経理でも文句はいわないわ。適当な人数を集めて銃を持たせて、臨時の小隊を組ませて。状況把握のための斥候、乃至はここの警備、あるいは時間稼ぎに逃げ回るだけでもいい。別段、アレと初号機に正面からぶつけるつもりはないけれど、さしあたり動かせる戦力を確保しておきたいの」
「了解しました」

 明らかにミサトの判断に感服した様子で青葉はうなずく。
 少々息の上がった声が響いたのは、そのときだった。

「やめときなさい。無駄な犠牲を出すだけよ」

 発令所の一角、緊急脱出用の通路から、見慣れた金髪の科学者が姿を現していた。
 埃っぽい通路を駆けぬけて来たためだろう、服を払いながらけほけほと咳込んでいる。
 ミサトは喜色満面でその名を呼ぶ。

「リツコ!」
「時間はまだあるわ――そう、あと七百五十秒ほど」

 赤木リツコは腕時計を睨みながらそういった。

 

――744

 リツコは自分の成すべきことを迷わなかった。
 周囲には一瞥もくれず、司令席直下の低位置まで歩み寄って問いかける。

「状況は?」
「は、はい!」

 明らかに安堵した様子のマヤが口早に現状を説明した。
 シンジの帰還から始まる零番ケイジでの出来事、すでに死者ないし行方不明者が五十名を突破していること、MAGIの通信システムが異常を来たしていることなど。
 簡潔だが要点を得た説明を眉一つ動かさずに聞き届けながら、リツコは首を傾げた。
 ただ一つの事柄を除いて、状況は予測の域を出ていない。
 そのただ一つの事柄について、彼女は尋ねた。

「システムエラーの原因は?」
「……不明です。地下施設の十二パーセントが損壊した影響で、システムに過負荷がかかったのではないかと思われますが……」
「ちょっと借りるわよ」

 マヤの言葉を途中で遮って、リツコは端末に手を伸ばした。
 付き合いの長い後輩は、彼女が操作しやすいよう慌てて体をずらす。
 流れるような手つきでキーボードを叩く。
 ディスプレイに膨大な文字が踊った。
 一通り、心当たりのプログラムファイルを検索してから、リツコはため息をついた。

「……まったく、どこが『たかが知れて』るのかしらね」

 呆れたような感心したような響きが、声音にこもった。

「先輩……?」
「リツコ?」

 マヤとミサトの声が重なる。
 その二人に向けて、というより発令所すべてに向けて、リツコは端的に告げた。

「MAGI、クラッキングされているわ。保安関係のプログラムが一部書きかえられているわね」
「…………!?そんな、まさか!」

 ある意味ではこの日最大の驚愕がマヤの叫びにこもった。
 建造されてより二十年、いまだ世界最高峰の名を冠せられるMAGIシステムである。
 それをクラッキングしようと思えば、やはり同じMAGIシステムを使用する以外に道はない。

「誰がそんなことを……!」
「あなたらしくもない質問ね、マヤ。今現在、私たちが戦争している誰かさん以外に、こんな真似ができる心当たりがいて?」

 からかうような声音に、マヤのみならず周囲の全員が目を見開いた。

「し、しかし……!」
「これは本人から聞いた話だけど」

 リツコは何気なくいった。

「彼、第十一使徒の真似事ができるそうよ。あなたがたも見たんでしょうに――彼が、人間を『侵食』して食らい尽くす光景をね」
「…………!!」

 マヤは反射的に口元を手で覆う。
 リツコは委細構わず、後輩の顔からモニタへと視線を戻し、MAGIのチェックをすませていた。
 幸いというべきか、通信システム以外にいじられた形跡はない。
 最悪、MAGIがすでにシンジの支配下に置かれている可能性も考慮していたのだが、その心配はないようだ。
 おそらくは、さすがのシンジも、プログラムの一部を改変するまでが限界だったのだろう。
 クラッキングされていたという事実に気づいてさえいれば、リツコの到着を待つまでもなく、マヤ一人でもシステムの復旧を完了させていたはずだ。
 本人もいっていたことだが、たしかに彼には他の使徒たちほどの特殊能力はないようだ。
 ……それでも、十分以上に大した能力だが。

「ちょっ、ちょっと、リツコ!」

 一方、ミサトは、リツコの言葉に聞き逃せない事柄を聞き取っていた。

「『彼から直に』ってどういうこと!? 説明しなさいよ!」
「するわよ、もちろん。システムの復旧をしながらになるけど、そのていどの非礼は許してもらえるわね、統合作戦本部長。何しろ、時間はあと十一分強しかないんだから」

 

――693

 退屈は苦痛ではない。
 意味のない時間というものは存在しない。意味のある時間が存在しないのと同様に。
 あの牢獄にいた頃は、ただ考えることが楽しかった。
 埒もない思考を弄び、あるとき弾けるように答えが現れる。
 終わりのないそのルーチンがただ楽しかった。
 今も結局、それと変わらない。
 コップに水滴を垂らし続けるようなものだ。
 一秒ごとに水位は増し、溢れるときを待っている。
 溢れた後に何が起こるか、あれこれと想像を巡らせるだけで、待つという行為それ自体もまた楽しいものだ。

 

Who'll sing the psalm?
誰が賛美歌 歌うのか?


 昂揚した気分のままに、歌を紡ぎ出す。
 歌はリリンの生み出した文化の極み。そう評したのは、誰だったか。
 淡い思い出を探ろうとして、あっさりと諦めた。思い出よりも、未来のことだ。

 

I, said the Thrush,
それは私、鶫がいった

 

 歌いながら視線を巡らすと、砕けた壁の隙間に覗く初号機と目が合った。
 彼女は黙って、歌に聞き入っているようだ。
 生まれ出でてから二十年足らず、うち十数年を彼の母に自我を抑制され続け、つい先日までの三年間を無音無風の真空で生きてきた彼女は、赤子のようにして歌を聞く。
 母親の子守唄で眠る子供のようなものだ。
 その思考はシンプルで、その価値観は混じり気がない。
 たった一つが大切で、それ以外はどうでもよく。
 たった一つのためならば、それ以外すべてを叩き潰して悔いることがない。
 そういう、ごく単純な世界に彼女は生きている。

 

As she sat on a bush,
小枝の上に腰掛けて

 

 その眼の色に、覚えがあった。スライドが切り替わるように、唐突に思い出した。
 渚カヲル。そう、そんな名前だった。
 フィフス・チルドレン、そして最後のシ者。
 殺したときのことが、映画館のスクリーンに見るように思い出される。
 あの後、しばらくそのことで思い悩んだようにも記憶しているが、具体的にどう悩んでいたのかは今では忘却の彼方にある。
 きっと、どうでもいいことだからだろう。
 渚カヲルは、その信じた摂理に従って死んだ。
 生と死は等価値だ、ともいっていたか。
 在るのは摂理であって、自らの生も死もその摂理のうちに含まれている。生きようが死のうが摂理はただ存在し続ける。
 解釈すればそういうことになるのだろうが、確かめる術は今となってはない。確かめる必要も、多分ない。
 ただ、その瞳の色だけが、記憶の中に残されている。
 あの思想を、当時の自分は理解できなかった。
 今でも理解できない。それでいいと彼は思う。
 渚カヲルは、勝手に生きて勝手に死んだ。
 地球はそれでも回っていた。
 碇シンジもまた、勝手に生きて勝手に死ぬのだろう。
 地球はそれでも回っている。
 それだけ理解していれば、十分だ。
 ああ、そういえば。
 もう一人、たしかいたはずだ。
 同じ眼をしたもう一人。
 そうたしか――

 

I'll sing a psalm.
私が賛美歌 歌いましょう

 

 綾波レイ。そんな名前だったか。



――380

「マヤ、NL−091のプログラムを立ち上げて」
「…………」
「聞こえないの? NL−091よ、副部長?」
「あ……は、はいっ!」

 ざわめきも失せた沈黙の発令所に、沈着な技術部長と、慌てた副部長の声が響く。

「しっかりなさい。091から872までつなげてから、セットアップ開始。いいわね?」
「りょ、了解しました」

 リツコの指示の下、マヤをはじめとする技術部のオペレーターたちが忙しく立ち回る。
 しかし、それらの顔は一様にどこか空ろで、呆然としていた。
 まるで、夢遊病者のような、といういい方もできたろう。
 命令に対して体に染みついたシーケンスを繰り返す、文字通り機械的な印象があった。

「……待ちなさいよ」

「OK、セットアップに問題はなし。十六秒後に再起動、直後にウイルスチェック」
「は、はい」
「あら、警備システムとの接続が少し甘いわね。改善の余地があるわ」

「……それって、何よ」

「せ、先輩、今はそんな場合では……」
「なぜ?」
「な、なぜって、それは……」
「せっかくだから――というのも妙な表現だけど――、セキュリティプログラムの穴を見つける機会だと思いなさい。……実際、そのくらい前向きに考えないとやってられないわ」
「は、はあ……」

「……どういうことなのよ、それはっ!」

 血を吐くような叫び声に、リツコはうるさそうな顔を隠そうともせずに振りかえった。

「何かしら、統合作戦本部長。時間は残り400秒を切っているのよ、わかってるの?」
「今はそれどころじゃないわ! それより今の話は本当なの!?」
「私には誇大妄想を真顔で吹聴する趣味はないわよ」
「そ、それじゃ……」

 ミサトは目を呆然と見開いた。
 その全身が凍えたように震えている。
 震えと歯軋りとが一体となって、その口元から「がぎり」という鈍い音がした。
 その震えを必死で押し殺そうとしながら、統合作戦本部長は絶叫した。

「シンジ君があんな化け物になったのは……あたしたちのせいだっていうわけ!?」

 否定を求める叫びが空しく響く。
 程度の差こそあれ、他の発令所のスタッフも同様の反応を示していた。
 先刻から、システム復旧のための指示と、「碇シンジから直接聞き取った彼の正体」を交互に聞かされながらも、なお献身的に動き回っていたマヤたち技術部オペレーターですら、例外ではない。
 リツコはうるさげにミサトを見やり、手元の端末にざっと視線を走らせ――もう、システム復旧に関してやるべきことはすべてすませた旨を確認してから、冷淡な声音で応えた。

「誰のせいだったかなんて、論じても無駄だしそのつもりもないわ。私はこの眼と耳で見聞きし、それを分析した結果を語るだけ。それをどう解釈するかは個々の自由よ」

 実際問題として、「自分がこうなったのはネルフのせいだ」などと、当のシンジも意識していないだろう、とリツコは思う。

 ――拒絶でも逃避でもなく、選択。
 そう、選択するんですよ。
 二又に分かれた道の一方をただ選ぶんです――

 そう彼はいったのだ。
 シンジは自らの意思で、自らの道を選択した。
 むろん、その最後の背中を押したのが、ネルフの演出した壮大なる茶番劇であったことは間違いあるまい。
 さらにいえば、個体生命として生きることの意味、その術を彼が知ったのは、サード・インパクトの引き金に仕立て上げられたからでもある。
 いやそもそも、ネルフになぞ関わらなければ、ありふれたただの人間として生涯を全うしたであろうことは疑いない。
 その意味で、すべてはネルフの責任であるとの解釈は容易に成立し得る。
 しかし碇シンジには、もはやネルフなど眼中にないだろう。
 彼はただ、与えられた環境の中で、ごく自然な選択をなした。
 二又に分かれた道があり、その一方が塞がれてしまったので、もう一方を行くことにした――あえていればただそれだけのことである。
 ネルフがかつて行ったあらゆる所業、その思惑を、彼は知悉してはいても、なんら価値を置いていまい。
 とうの昔に通りすぎた道に転がっていた石ころのことなど、誰がいちいち思い出すというのか。

「そんな……でも……」
「――そんなことはどうでもいい」

 統合作戦本部長の苦悩を粉砕するかのような声が、さながら遠雷のように轟いた。

「し、司令……」
「アレがどのような経緯で化け物に成り下がったかなど、論ずる必要はない」

 自らの息子の変貌を「どうでもいい」と言い切った総司令は、腹の底に響くような声で吐き捨てる。

「重要なのは、アレがこれまでの使徒ほどの力はないということだ。ならば――N2兵器の一撃で十分片が付く。最悪、この総本部ビルごとアレを消し飛ばしても構わん。君の仕事はどうやってその状況までアレを追い込むかを考えることだ、加持一佐」

 聞いている方が戦慄するほど冷徹な台詞を、それ以上に冷徹な――怨念すら感じさせる声音で、ゲンドウは言い放った。
 このとき彼を突き動かしていたのは、常軌を逸した恐怖であった。
 ヒトの理解からはるか遠い場所に到達したかつての息子に対して、ネルフ総司令は恐怖していた。
 ユイの願いをかなえたいという未練は、今なお心の片隅に残ってはいたが、論理を超越した恐怖がそれを圧倒した。
 限度を越えた恐怖は反転し、過剰な攻撃衝動として現れる。
 碇ゲンドウはこのとき、かつての息子がこの世のどこかで息をしているという認識すら耐え切れなくなっていた。

「加地君。君の職責は何かね?」

 極論に走るゲンドウを遮るように、今度は冬月が口を挟んだ。

「君はネルフの統合作戦本部長であって、人権保護に従事する弁護士でも人道を説く宗教家でもない。人類の平和と秩序のため、それを乱す要素を排除する。それが君に課せられた職責だ。君の悲哀と衝撃には同情しよう。だが、君には君の義務と責任がある。赤木君の言葉を信じるなら、時間はあと五分少々しかない――今すぐ職務に復帰したまえ。これは命令だよ、統合作戦本部長」
「…………」

 穏やかな、しかし有無を言わせぬ台詞に、ミサトは完全に沈黙する。
 ――因果は巡る、か。
 目の前で繰り広げられる寸劇を眺めながら、奇妙な気分がリツコを支配していた。
 どことなく、既視感を覚えさせる光景だと思っていたのだが、ようやく思い当たった。
 これはかつて、ミサトがシンジに戦いを強要したときの状況とよく似ているのだ。
 第三使徒の攻撃で揺れるケイジ。冷酷な父の言葉。投げつけられた使命。突然の事態に動揺し、うろたえる少年に、ミサトは何といった?
 逃げては行けない――たしかそんな言葉を口にしていた。
 四年を経た今、発言した当人が同じような台詞に追い詰められている。
 まったく、因果は巡るとはよくいったもの。
 昨日の勝者は今日の敗者となり、強者はさらなる強者に殴られる。

「…………」

 ともあれ、ゲンドウと冬月の言葉は、ミサトに劇薬に似た効果をもたらしたようだった。
 美貌の統合作戦本部長は、言葉に含まれた鋭さと、自らの地位の重さに耐え兼ねたように、周囲を見回した。
 誰か他に責任を取ってくれないか探す風でもあったが、もとよりそんな人間がいるはずもない。
 一般の正規軍と比べてすら上下の枠組みが異常なほど厳格に定められているネルフにおいて、上官の職責を侵す野心と度胸を持ち合わせた者など、存在からして許されていないのだ。
 日向やマヤをはじめ、その場にいるすべての士官が、不安もあらわな表情で彼女の命令を待っていた。
 命令を受けることしか知らない、仔羊の群れ――それは期せずして、リツコの脳裏に、先刻のシンジの台詞を思い出させた。
 ――今のネルフは迷える子羊に等しい。
 なるほど、あの少年は辛辣だが正しい洞察をしていた。

「………………」

 ミサトは最後の希望にすがるように、発令所の最上部で自分たちを睥睨する司令と副司令を見上げた。
 しかし、言いたいことを言い終えた両者は、既に冷然と統合作戦本部長の狼狽を無視していた。
 軍規の文面がどのように定めようと、総司令・副司令はあくまで政治的立場からネルフに君臨し、統合作戦本部長はこの両者の軍事分野での要求を満たすために存在する。
 それが出来ないのならば、統合作戦本部長という職名すら存在する理由はない――
 そのことを、無言で主張するかのような表情であった。

「……………………」

 統合作戦本部長は指揮卓に両手をついて、追い詰められた罪人の表情を作った。
 食いしばった歯の間から、いわく言いがたい呻き声が漏れた。
 運命を呪う文句のようにも、単なる泣き言のようにも聞こえたが、判然としない。

「……リツコ」

 ややあってから、ようやく意味をなす言葉が紡がれた。

「何かしら」
「システムはすべて回復したの?」
「もちろん。通信、警備を含むすべてのシステムは正常に作動しているわ」

 技術者としての自信を持って、リツコは保証して見せた。
 彼女の周囲で、甦ったディスプレイに向けてオペレーターたちが作業を再開している。

「――日向君、応援部隊との回線を開いて。装備は野戦第弐種装備、標的には重火器のみで対処し、拳銃をはじめとする小型火器は使用を放棄、持っているだけ無駄と考えるように」
「りょ、了解しました」

 唐突に指名を受けた日向が慌てて、しかしとにもかくにも明確な命令を受けたという事実に安堵した表情で端末に取りかかる。

「伊吹一尉、アスカは?」
「は、はい。すでにエントリープラグでスタンバイしています」
「ただちにリフトオフ。エヴァ初号機の反応地点まで向かわせなさい。障害となりうる施設は実力をもって排除。任務遂行に必要なあらゆる行為を認めると通達して」
「了解」

 目が覚めたように命令を下し始めるミサトの表情を、つくづくとリツコは観察した。
 開き直った、というよりは、職務に逃げることでどうにか虚勢を取り繕っているといった表情ではあった。
 ではあったが――
 とにかくも、実戦の総責任者としての職務を果たしているのなら、上出来というべきだろう。
 ――さてさて。
 牧師さんは役目を果たしたわよ、シンジ君? 迷える仔羊は狼の皮を被り直したわ。
 さあ、あなたはどうしてくれるのかしら?
 これから起こるであろう狂騒と混沌に、不安を覚えつつも期待を抱いている自分に、リツコは気づいていた。

 

――87

 いよいよ遊戯の再開が近い。
 そのことを彼は正確に把握していた。
 楽しい。待つことが楽しい。激発の時を待ちうけるのが楽しくて仕方ない。
 何より体を疼かせるのは、このカウントが終わったその瞬間、もっと楽しいことが幕を開けるという事実だ。
 それがどれほど甘美なものか、空恐ろしさすら感じるほどだった。

 

Who killed Cock Robin?
Who killed Cock Robin?

 

 残り100秒を切った頃から、彼はずっとその一節だけをくり返している。
 そうしないと、思わず発狂してしまいそうだった。
 脳髄を貫く快感と歓喜が、体の中で踊り回っている。
 高鳴る鼓動に目が眩み、震える臓腑が骨格を鳴らしている。

 

Who killed Cock Robin?
Who killed Cock Robin?
Who killed Cock Robin?
Who killed Cock Robin?

 

 周囲は水を打ったような静寂――では、ない。
 二分ほど前から、絶え間ない銃声と号音が轟いている。
 通路の向こう、三十メートルほど離れた場所に、物々しい格好の連中が所狭しと並び、手にした拳銃を連射しているのだ。
 ネルフ保安部武装小隊。数にして四十名余。これまでで最大規模だ。
 ただし相変わらず、上との連絡がつかないのか何なのか、彼の正体については知らされていないらしい。
 傍らに控える初号機がATフィールドですべて防御してくれているのだが、それにも懲りずに撃ち続けている。
 見上げた職業意識というべきか、百発千発も撃てば一発くらいは有効打になると信じているのかも知れない。
 いずれにせよ、初号機のATフィールドを除外したとて、戦車砲でも防ぎ切る彼の肉体に傷をつけるなど不可能なのだが。
 彼らはあいにく、そこまでは知らないらしい。
 無知は責めるべき罪ではない。
 諭してやる義理も、自分にはない。
 つまり、放置しておくのが一番。

 

Who killed Cock Robin?
Who killed Cock Robin?
Who killed Cock Robin?
Who killed Cock Robin?
Who killed Cock Robin?

 

 残り10秒を切った。
 銃声は止むことを知らない。
 愚直に、ただ愚直に、殺意をもって彼を狙い定め、虚しくフィールドに弾けている。
 紫色の巨人も、激発のときを待ち望んでいるようだ。
 彼女の場合は愉悦ではなく憤怒のゆえだが。
 碇シンジに向けられるあらゆる敵意の存在を、彼女は許容しない。
 例えそれが実害のないものだとしても、彼女は彼の敵すべてを踏みにじり、殲滅することに、己が存在を賭けている。

 

Who killed Cock Robin?
Who killed Cock Robin?
Who killed Cock Robin?
Who killed Cock Robin?
Who killed Cock Robin?
Who killed Cock Robin?
Who killed Cock Robin?

 

 ――7,6,5,4,3,2,1.
 口の中で、カウントの替わりにくり返し歌い続けて。

 

――I,said the Sparrow

 

 ゼロ、という言葉の代わりに、その一節を口にした。
 スイッチが入るように、意識が解放される。
 渦巻く硝煙が薄闇を染める。
 向けられる殺意が身を焦がす。
 視界が開けたような感覚があった。
 世界をまるごと飲み込んだような感覚が走り抜ける。
 彼が望んだものが、目の前にあった。

「It's war time……Show down!」

 



 おおよそ三十メートルの距離を、彼は刹那のうちに駆け抜けた。
 保安部の兵士たちは反応できていない。
 人間の反応速度を凌駕した、神速とも称し得る機動。
 技巧的洗練ではなく、ただ常軌を逸した脚力が無造作に地面を蹴った、それだけの現実が生み出した加速であった。
 たまたま最前列に並んでいた四名の男の首を、シンジはただ腕を一閃させるだけで叩き潰した。
 熟れた果実が落ちるような音を立てて、四つの頭が砕け散る。
 鮮血と脳漿が飛び散ったとき、彼の姿は既にそこにない。
 何が起こったのか理解もできぬ兵士たちの只中に飛び込んで、踊るように全身を振り回す。
 手刀の一閃で胴体が切断される。拳打の一撃で内臓が吹き飛ぶ。
 酒瓶のコルクを引き抜くように、脳髄ごと生首が引き千切られて。
 壊れた人形のように人体が散乱する。
 独楽のように踊り狂い、その度に血と肉が舞い上がる。

「ひっ……!!」
「ば、化け物……!!」

 ようやくのことで現実を認識した兵士たちが、手にした銃を乱射し始めた。
 同士討ちの危険を考慮する余裕は、すでにない。
 眼前の怪物を排除する――否、この怪物から逃げ延びる、自分一人でも生き長らえる。
 ただそれだけを目的として、ありったけの銃弾が吐き出される。
 制止すべき小隊指揮官――三尉の階級章をつけた士官からして、例外ではなかった。
 何が起こっているのか、具体的にはまったくわからない。
 ただ、抗わなければ瞬殺される、その事実だけが厳然と理解できていた。

「ああああああああああああああああ!!!」

 意味のない絶叫を漏らしているのが誰だったのか、判然としない。
 誰も彼もが叫んでいるようであり、ただ銃声だけが轟いていたようにも思えた。
 何人かの兵士が、敵ではなく味方の銃弾で倒れる。
 その事実にも心を動かす余裕はない。
 そして気付いたとき、彼らの敵は視界から姿を消していた。

「ど、どこへ行った?」
「探せ! 警戒を怠るな!」

 追い詰めて殺すためではなく、自分たちが逃げ延びるための命令が下される。
 泣き出しそうな表情で硝煙のたなびく廊下を見回す士官の肩を、誰かが叩いた。

「――味方を巻き込むのは感心しませんね、三尉殿?」

 穏やかな、優しいほどの声音。
 聞き覚えのないその声は諭すように続けた。

「僕の分を取らないでいただきたい。OK?」

 いつからいたのか。どう近づいたのか。
 すぐ耳元で、碇シンジはそう囁いた。

「―――――――――――!!!」

 声にならない絶叫。
 振り回される拳銃。
 だが、引き金にかかった指が動くよりも、少年の右腕が無造作に振り抜かれる方が早かった。
 人体の胸から上が、破裂するように吹き飛ぶ。
 その光景を、周囲の兵士たちは凝視していた。
 むせぶほど強い血の匂い。殺意よりもなお濃い恐怖の視線の中で、彼はただ笑っていた。
 それは天使のような、幼子のような、寒気がするほど綺麗で、透き通るほど純粋な、楽しげな笑顔――

「さあ――、戦争だ」





……to be continued.







燃える城塞。
解き放たれた悪魔。
眠りから覚めた女神。
絶え間ない絶叫と、終わらない悪夢。
――Next Chapter : Goddesses of inferno

 


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後書き

 ……えらい遅れたなー。今更ですが。
 さっさと続きも書き上げたい今日この頃。
 しかし他にも書きたいものがたまっているというのが幸福なのか何なのか。
 掲示板SS時代の貯金はこれにてすべて吐き出しました。
 昔の自分の文章と向かい合う恐怖もこれでどうにか終わる……はず。
 しかし、書き方というか、文章の嗜好って、一年もあればがらりと変わるものですね。
 編集・改訂中、何度自分の頭を殴りたくなったことか。

 

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