第一章 赤い海

 シンジの一日は横に寝ているアスカを起こすところから始まる。大体はそうなのだがアスカの方が早起きをすると大いばりでベッドの横に仁王立ちして叩き起こしてくれる。叩き起こされず済んだ所を見ると、今日はシンジの方が早かったようだ。

 シンジは上半身を起こすと伸びをした。目を擦った後隣のベッドで眠るアスカを見る。寝床を共にするようになってから四年経つが、いつ見ても綺麗な寝顔だと思う。シンジは自分の布団を剥ぎ足をベッドの横に出すと頭を掻いた。そこでアスカのお腹に目が行った。盛り上がっている。ふと、初めての夜に行為の後しくしく泣かれたのを思い出した。痛くてしょうがなかったらしい。一週間ほどは怯え顔で痛がって抱かれていたアスカだが、急に立場が変わり主導権を握るようになった。のべつまくなしとまでは言わないが、好き者同士と言われるぐらい励んだ結果がこれだ。そろそろ予定日だ。

 シンジが見ていると視線を感じたのかアスカが目を覚ました。もともと朝が弱いアスカだが、お腹が大きくなってからは余計に弱くなった。ぼけぼけっとした顔で天井を見ている。シンジは立ち上がるとアスカの横に立ち身を屈めた。優しく口づけをする。身を起こすと、アスカが手を伸ばしてきたので手を取り起こしてやった。大きなお腹から布団がずり落ちる。アスカが重たそうに足をずらし床に下ろしたので、シンジが手を貸し立ち上がらせた。

 シンジはタオルと着替えを持つとアスカと共に浴室に向かった。アスカは妊娠してからますます体臭がきつくなった。本人がやたら気にしているので朝はシャワーを浴びることにしている。更衣室まで行くと真っ赤なパジャマと下着を脱ぐのを手伝ってやる。今では髪留めにしか役に立っていないインターフェイスセットもシンジが外した。アスカを脱がすとシンジは自分も手早く服を脱いだ。シンジは結局母親似らしい。十七歳に成った今でもそれほど背は高くない。アスカより少し高いぐらいだ。

 二人で浴室にはいるとアスカを蓋の閉まった浴槽の上に座らす。シャワーは二十四時間使える。少しぬるめに温度を調整した。アスカにかける前にシンジは大きくなった腹の辺りに耳を当てた。音が聞こえる気がする。そんなシンジの頭をアスカは静かに見ている。やがてシンジは耳をどけた。少しいたずらをしてやろうと思ったのか鼻をアスカの右の脇の下辺りに持っていく。頭を起こすといかにも臭そうな顔で鼻をつまんだ。妊娠してからはやたら吹き出物だらけになったが、やっぱり綺麗だと思うアスカの顔がいつもの怒り顔に変わった。シンジはすかさずキスをする。しばらくは怒り顔のままだったがそのうちアスカの表情も優しい物になった。

 顔を離すとシンジはぬるめのシャワーのお湯でアスカの汗を流し始めた。まず艶がある金髪の間にお湯を流す。シンジはこの瞬間が好きだ。シンジの指の間できらきらと光が踊っている。アスカも気持ち良さそうな顔で目を瞑っている。次はお腹だ。優しく汗を流していく。脇の下や局部はやたら体臭がきついのでよく洗ってやる。普通はその後シンジが自分の汗を流して終えるのだが、時々は性行為に及ぶ。アスカは床に座り込みシンジを口で愛撫してくれる。前その事を女同士の猥談でヒカリに話したところあきれ顔をされた。そのヒカリも今は妊娠四ヶ月だ。

 シンジが汗を流すと浴室を出た。タオルで水気を切り服を着せてくれる。真っ赤なマタニティウェアーだ。アスカは一生真っ赤で過ごすことに決めたらしい。シンジが着替えるとアスカの手を取ってダイニングキッチンに向かう。いかにも重そうにアスカは椅子に座った。シンジはキッチンに向かい朝の用意を始めた。食事を終えるとシンジは後かたづけをする。アスカはその間熱心に新聞を読んでいる。新聞と言ってはいるが一週間の報告書の事だ。紙面にいろいろな文字が踊っている。暫くすると飽きてきたのかシンジがテーブルに用意してくれた端末を叩き始めた。大学で学んだ機械工学について一からやり直し、論文をまとめている。出産までは論文書きをする予定だ。

 アスカが論文書きに熱中している間にシンジは寝室に戻ると外出着に着替えた。シンジはいろいろとやることがある。着替えてポケットに端末を入れベルトにホルスターをつけるとダイニングキッチンに戻る。すぐに熱中するお猿さんタイプのアスカは全く気が付かないで熱心に端末を叩いている。肩を叩くとやっと気づいた。アスカが目を瞑り上を向いたのでシンジは優しく唇を合わした。唇を離すとアスカはにっこりと微笑んだ。

「いってらっしゃい」

 唇は動いたがシンジに声は聞こえなかった。

「行ってきます」

 シンジの声もアスカには聞こえなかった。

 目の前に星が煌めいていた。夜らしいのだが、夜でも明るい第三新東京市ではこんな星空はあり得ない。しばらく空を眺めていたシンジは、自分が何をしていたか判らない事に気が付いた。ただ空が見えると言うことは上を向いているらしい。動くのが面倒なのでそのままの格好で考えた。

「夜かな」

 空は星だけではなく、TVで見た事があるオーロラの光のような物がはためいている。

 ふと涼しいなと思った。どうやら身体の下にある砂が体温を奪っているようだ。手と足を少し動かすと砂がさらさらと音を立てる。砂浜らしいと気が付いたのは、波の音がするからだ。極々単調な繰り返しの波の音がする。しばらくしてシンジは身を起こした。目の前は海なのだがそう思えなかった。真っ赤な色をしていてはそう思うのも無理はない。時々緑色が混じってみえるのは海水自体が赤いと言うよりも、赤い油滴が混じっているからかもしれない。そして暫くの間シンジは海を見つめていた。正確に言うとレイの残骸を見ていた。

「富士山ぐらいかな」

 レイの頭の大きさだ。何があったか正確には覚えていないが、巨大なレイやカヲルを見たような気がする。その巨大なレイが倒れて海に横たわっている。人と同じ物質で出来ているのかは判らぬが、崩れ始めている。シンジの方を向いているレイの顔は笑っているように見えた。

「崩れた」

 シンジが見ている間にどんどん崩れていく。一度特殊撮影で物が腐って行くところを早回しで見たことがあるが、目の前のレイの身体は正にそれだ。重力の関係か上の方から腐敗が始まり、どろどろとした腐汁の様な物が白い肌に沿って海に流れ込んでいく。

 どのくらい経ったかは判らないが、レイの身体は完全に崩れ去り海に沈んだ。

 シンジは左右を見回す。右を見ると砂浜が広がっていて、先の方に都市が見える。どうやらどこかの港の一部分が風化したようになり砂浜に成っているようだ。左を見ると同じ様な砂浜と都市が見えた。一つ違う点は横にアスカが横たわっている事だ。アスカはプラグスーツ姿だが、右手の部分は破れて包帯が全体を覆っている。同じように左目を斜めに包帯が覆っていた。右目は開いたまま空を見ているのだが、意思がまったく感じられない。以前精神崩壊をして入院していた時とそっくりだった。

「アスカ」

 シンジは呟くように言う。実際ただ呟いただけかもしれない。

「アスカ」

 返事も反応もない。

「アスカ」

 いらだってきた。

「アスカ」

 シンジはアスカの腹の上に馬乗りになる。

「アスカ」

 首に手が行った。

「呼んでるだろう」

 自分でも表情が歪んでいるのが判る。アスカは無表情なままだ。

「アスカ」

 手に力が入るとアスカの口が開いた。無反応だったが、苦しくなってきたようだ。急にアスカの手が振り回され左手がシンジの頬に当たった。

「あっ」

 それでシンジは正気にもどり慌ててアスカの上から退き後ろに尻餅を突いた。アスカは暫く咳き込んでいたがそれもすぐに止まった。シンジは怖々這いながら近寄っていく。アスカの頬に手を伸ばし触った。

 反応はない。

 暫くそうしていたが、横に転がり仰向けになった。

 寝込んだようだ。朝に成ったせいで青い空が目に痛い。横を見るとアスカは昨夜と同じ姿勢のままだった。ただ寝返りをしたりむずがったりして少しは動いている。眩しいらしく目を瞑っている。暫くそうしていたシンジだが、やがて座り込んだ。

「あっ」

 昨晩は夜でその上ぼけていて気が付かなかったが、明るくなった今現状の異常さに気が付いた。それに何が起きたか少し思い出した。とにかく人がいない。それ以外の生き物はいるようだ。小鳥のさえずり等は聞こえるし遠くの山の緑は変わっていないように見える。辺りを見回すと砂浜はシンジから海に向かって最大幅百m程の放物線状の範囲だけだ。場所はすぐに判った。ネルフが新熱海に持っている小さな港だ。暫く辺りを見回していたシンジだが、そのうち日差しがやたらキツイのに気が付いた。常夏の日本でも異常だと思い顔をしかめた。

「そうだ、アスカ」

 白人の血のお陰で肌が白いのはいいが弱いと自慢がてら愚痴を言っていたのを思い出した。どこか日陰はないかと辺りを見回すと、見覚えが有る建物が見えた。以前海辺の作戦の講習をした作戦部の分室がある建物が側にあった。

「アスカ」

 両肩を掴んで揺らすが反応は全然無い。しばらくそうしていたが、溜め息を付くと諦めた。抱き上げようとしたが生憎とアスカはシンジより背も高く重い。悪いなと思いつつ両手を持って砂の上を引きずって行く。砂浜の端まで行くと辺りを見回した。幸運な事に小さなEVが有った。シンジはEVAの訓練でついでにEVの操縦なども習っているので運転が出来る。鍵も車内に有り戸も開いたので、頑張って後ろの荷台にアスカを乗せると二百m程先の建物に向かった。

 入り口まで来るとEVを降り、アスカを苦労して担ぎ上げて建物の中の仮眠室に運ぶ。不幸中の幸いと言うべきか電気は来ていた為戸は開いた。IDカードは持っていなかったが、指紋と虹彩のパターンを読みとり機にかけると通路のロックは解除された。仮眠室のベッドに寝かせようとしてベッドを整えていたシンジは、イスに座らせていたアスカの顔が妙に赤いのに気が付いた。慌てて額に手を当てるとやたら熱い。ふと気が付きアスカのプラグスーツのインジケーターを見た。バッテリーが切れてそのせいで熱がこもっているらしい。

 しばらく呆然としていたが、シンジはアスカをひとまず置いてシャワー室に駆け込んだ。水が出るようなのでアスカの元に戻ると担ぎ上げシャワー室に運んだ。覚悟を決めるとまず自分がブリーフ一枚になった。シャワー室にアスカを引っ張っていくと恐る恐るアスカの顔と手の包帯を解き始めた。思わずため息が漏れたのは包帯で覆われていた手も顔の半分も特に傷などはなかったからだ。念の為よく見る事にした。

「どうだったっけ」

 左目の中心辺りが少し白く濁っているのを見つけた。確か澄んだ瞳だったとは思うが自信はない。よく考えてみるとアスカの事をあまり知らない。食事の好みや下着の好みなどを知ってはいるが、瞳を覗き込んだりはしたことがない。本当に同居していたのだろうかと考え込んでしまったぐらいだ。

 しばらく考えていたが、考えても仕方がないと思いアスカのプラグスーツを脱がしはじめた。右手のロックをはずすと極々ゆっくり空気が入っていった。少しずつアスカの体臭とスーツが処理しきれなかった尿の臭いがして来た。ある程度空気がスーツと素肌の間に入ったところで首の辺りから剥ぐように脱がしていく。ますます体臭が濃くなる。とにかく脱がしていく。白い肌が全体的に真っ赤になっている。胸が露わになった時困ったことが起きた。急に勃起してしまった。思わず押さえてしまったため、余計に大きくなった。でもしょうがないのでアスカを脱がしていく。大きめの縦に長いへそまでが露わになった頃には、大事なところがずきずきするほどになっていた。

「大丈夫かな」

 このままだと無反応なアスカを襲ってしまいそうだ。情けないと思いつつパンツを脱いで更衣室に投げ込んでから自分で処置をした。すぐに終わったが、まだ勃起したままだ。もう一度もすぐ終わった。少し興奮が収まった。シャワーで局部と手をきれいにした後、その場に寝かせたアスカを振り返ったのだが無駄だったようだ。意識が無い半裸の美少女は刺激的すぎ、また勃起した。あきらめて勃起したまま作業することにした。

 思い切って全て脱がすと、漏らした尿と汗でぐちょぐちょの局所から立ち上る体臭で、吐き気と興奮が一度に襲ってきた。シンジはぬるいお湯でとにかくアスカを綺麗にした。汗や尿を流した後少しずつ湯温を下げていき、アスカの体温を下げた。

「こうなっているんだ」

 いけないと思いつつもアスカの局所に目が行く。ほとんど無毛の為はっきりと見えた。手が伸び、触れた。柔らかい感触に慌てて手を引く。

「体温も下がって来たよね」

 言い訳を呟いて立ち上がるとシャワーを止め、アスカの脇の下に手を差し込み持ち上げる。

「あっ」

 勃起していたシンジの物がアスカの尻の割れ目に触れてしまい、その感触に射精してしまった。あまりの気持ち良さに目眩をおこし座り込む。脈を打ちつつ射精は続いた。しばらく座り込んでいたが、やがて動き出す。ともかくアスカをもう一度タイルに寝かせる。アスカの尻部に自分でもあきれるほどの量の精液がかかっている。

「僕って……最低」

 しばらく見ていた。立ち上がるとシャワーのノズルをとりもう一度ぬるま湯を出し自分の局部を洗う。さすがに萎えている。次にアスカの局部もよく流した。

 更衣室にあったタオルでアスカと自分自身を綺麗に拭いてから、アスカに備え付けのガウンを着せ自分も着た。また苦労してベッドまで運ぶと自分はベッドの横に座り込む。静かにしているとアスカの呼吸音が聞こえてきた。

「あっ」

 昔EVAについての技術講習でマヤに聞いたことを思い出し声が出た。シンクロの最中にあまりにも凄まじい攻撃を受けると、大脳の一部が一時的に動きを止め外部に何も出力しなくなる。ようは動きが止まってしまうらしい。ただ意識はあり外部で起きたことを認識はしているらしい。シンジは立ち上がるとまじまじとアスカの顔を見た。両目とも開いたまま天井を見ているが何も他に動きはなく魂が抜けているように見える。

「何で僕こんなに積極的なんだろう」

 つぶやくとまた座り込む。思考が千々に乱れてまとまらないのは疲れているからかもしれない。シンジは立ち上がるとアスカが横たえられているベッドに潜り込む。母に甘える子供のようにアスカの横に丸まって目を閉じた。すぐに眠り込んだ。

 空腹で目が覚めた。アスカの右手にすがって寝ていた。アスカも寝ているのか、目を瞑っている。シンジは手を放すと体を起こしベッドから降りた。アスカの寝汗が凄かったので側にあるタオルでふいてやったのだが、キツい体臭が鼻についた。

「アスカって普段から体臭きついんだ」

 アスカもそれなりに気を使っていたのか、ずっと一緒に住んできて気が付かなかった。

「そっか」

 何となく嬉しくなりアスカの顔をしみじみと見てしまう。力が抜けている寝顔は掛け値なしに可愛いい。首筋に目が行き、胸元に目が行く。

「体中汗だらけかな……」

 自分でつぶやいて言い訳だなと思い赤くなったが、もう全部見ちゃったしとまた呟いてアスカのガウンを脱がせた。タオルで隅々まで綺麗に拭いたが、腹が減っているのが幸いしているらしく今度は勃起しなかった。汗が取れたところでタオルを持って仮眠室を出る。シャワールームに行くとタオルを洗面所ですすぐ。アスカの着ていたガウンは篭に入れた。備え付けのガウンは六着あるので一つ取りまず自分自身が着替え、薄目の物をもう一つとり仮眠室に戻る。アスカはまだ眠っている。毛布を剥いでガウンを着せようとして手を伸ばしたが、思わず手が止まった。

「奇麗だな……こんな奇麗な子と暮していたんだ……」

 ずっと見ていたいぐらい奇麗だった。胸や局所には正直興味がある。触ったりいろいろしてみたいと思ったが、今はアスカの寝顔を見ていたいと思った。そのうち手が柔らかそうな唇に伸びた。人差し指で触れ軽く口の中に入れる。指が暖かい柔らかみに包まれ背筋に震えが走る。我慢出来ずに唇を重ねてしまった。もっとも今度はその唇の柔らかさに正気に戻り慌てて顔を離した。先ほど射精してアスカを汚した時よりも激しい罪悪感を感じ顔が真っ赤になってしまう。

「ごっゴメン」

 眠っているアスカに謝り、また汗を拭ってガウンを着せた。

「あれ?」

 アスカのお腹の辺りで変な音がしたので耳を付けると、ごろごろと大きな音がした。

「お腹減っているんだ」

 アスカのお腹の音に自分も空腹なのに気がつき、何か可笑しくなって忍び笑いをしてしまった。暫く笑っていたがそのうち少し寂しくなり笑いを止めた。

「食べ物探して来る」

 シンジは仮眠室を出て行った。

 いくつかの部屋をまわると、更衣室に冷蔵庫がありエントリー前にとる液体食料のパックが入っていた。電気は来ているせいでまだ冷たい。そこで飲もうかと思ったが、何となく仮眠室に戻って来た。アスカはやはり寝ている。一つ溜め息を付くとベッドに腰をかけ、パックの封を切ってストローを入れ啜る。冷たい液体が喉を降りて行く。凄い勢いで吸い尽くすと胃が動き出し恥ずかしいぐらい鳴り始めた。

「アスカにもあげないと」

 一息付いたところでアスカ様のパックの封を切ってストローを差し込んだ。

「飲むかな」

 物は試しにストローを口に突っ込みパックを押したのだが、口の横から溢れるだけだった。ストローを抜いてしばらくアスカの顔を見ていたシンジは急に思い付いたように今度は自分で吸い込んだ。口に溜めるとパックを横に置きアスカに口づけて飲料を吹き込んだ。たまたまその時に頭の後ろと喉を持ったためその反射行動かアスカは飲み込んだ。気管などにはいかなかった様で咳き込んだりはしていない。早速アスカの腹が動きだし鳴り始めた。気を良くしたシンジはそれをパックが空になるまで繰り返した。

「完全に……この状況利用しているよね、僕」

 ベッドの横に座って呟くと、アスカの髪を揃えはじめた。アスカは黙っているとやたら可愛いと思う。

「どうしよう。この後。みんなどうしたんだろ……多分サードインパクトだよね。これ」

 暫くしてアスカを見殺しにした事を思い出した。ただ麻痺した様にあまり感情が湧かない。ミサトやリツコは死んだのかなと思う。レイの事は何となく思い出したくない。やはり見殺しにしたのかなと思う。

「カヲル君……どうしたらいいのかな」

 そして右手が痙攣するように動いた。

 しばらくぼけっとしていたが、立ち上がり伸びをした。アスカの方に顔を向けると何故か近づいてくる。思わずキスをしてから慌ててしまった。本当に襲いそうな気がしたので慌てて部屋を出た。しばらくの間仮眠室の入り口に立っていたがもう一度建物を廻ってみることにした。作戦部と技術部が共同で持っているこの建物はフルに装備を使っても自家発電で電気が三日持つと聞いたことがある。その自家発電の燃料電池から飲料水も取れて地下のタンクに保存されるとも聞いた。暫く考えてから出来るだけ節電のため建物内の器機のスイッチを切って廻った。ついでに何か役に立ちそうな物があれば持ってきた。

「これ必要だね」

 医療室に車椅子があったので、いままでとってきた物を入れたバックを乗せ押して仮眠室に戻った。バックを置くとアスカのガウンを脱がす。

「奇麗だよなぁ」

 思わず胸に目が行く。頭を振って堪えるとタオルで汗を拭いてからまたガウンを着せ車椅子に乗せた。

 外に出るとEVの助手席にアスカを乗せシートベルトをしめてやる。車椅子を後ろの荷台に乗せ小型トラックEVを動かし始めた。ゆっくりと街を廻ってみるとひとっこひとりいなかった。ただ鳥は飛んでるし犬の鳴き声は響いて来たりする。どうやら人だけいない様だ。信号機などは動いているのでライフラインは大丈夫だなと考えた。あまり好きではなかったがEVAの講習でサバイバル技術の講習もあり、こういう時の対処方法も教えてくれた。

「ああいう訓練だとアスカって面倒見いいんだよね」

 その様な訓練でシンジがのたのたしていると、いつも優越感混じりだがアスカが教えてくれた。そういう時のアスカは実に丁寧に教えてくれる。もっとも後で自慢もたっぷりされるが致し方ない。横をちらりと見たがやはりアスカは眠っている。何となくため息を付いてしまう。

「あっ」

 そのうち変な臭いがしてきたので辺りを見回すと、アスカのガウンの股間の辺りが湿っているのが見えた。漏らしたようだ。EVを道の脇に止め、アスカのガウンの前を思い切って開くと局部から少しずつ尿が染み出ていた。しばらくその光景を見ていたが、慌ててタオルを当てた。尿が染み込んでいく。

「こんなのアスカじゃないよ」

 乱暴になったのは悲しくなったからかもしれない。下腹の辺りに手を置き押すと、それが刺激に成ったのか勢いよく尿が出た。しばらく経つと止まったのでタオルをもう一枚使って綺麗にした。ガウンが汚れたので取りあえず脱がしたはいいが着替えを持って来ていない。辺りを見回すと幸運にも通りの先に服屋があった。衣料品小売業と言った方がいいかもしれないがともかくもそこまでEVを動かしとまる。そこで少し迷ったが自分の着ているジャケットを脱ぎ着せると、EVの荷台から車椅子を降ろしタオルを敷きアスカを座らせた。

 ジャケットは腰までは隠れないのでアスカの腰にタオルを乗せ隠してから店に入っていく。暫く捜すとまずショーツがあった。アスカの下着のサイズはよく知っている。履かせやすいように少し大きめの飾り気のない物をとると包装を破き足の方から履かせていく。

「ほんと綺麗な足だなぁぁ」

 何か言っていないとアスカの大事なところに悪戯をしてしまいそうなので、とにかく何か言う。同じサイズのショーツを数枚とり車椅子に付いているバックに入れた。

「決めた。アスカが気が付いたら思い切って言おう」

 呟きつつ今度は側にあるブラを取った。白い出来るだけ質素な物を選んではバックに入れていく。

「僕余裕無かったんだな。アスカって本当に綺麗だったんだ」

 女性物の下着を手に取りながら言うのはちょっと変かなと頭の隅で思ったが、思った事が口からなぜか垂れ流しに成ってしまう。二人ぼっちだからかなと思った。本当に世界で二人きりに成ると一人でいたいなど思わなく成るのかなとも思った。

「あっこれ」

 上に着せる物を探していると、初めて会った時アスカが着ていたワンピースに似ている山吹色のワンピースがあった。結構な値段がするが勝手に拝借する事にしてガウンを脱がせてブラを付けてから着せた。そのほかにアスカ用の普段着や寝間着、自分の下着と普段着と寝間着などを取りタオルも山ほどとった。持ってきたメモ帳に手に入れた物を書き理由も書いてレジにおいておく。もしこの店の主がいるのならネルフに連絡を取るだろう。

 店を出るとすぐ側のコンビニに入り食料品やトイレットペーパー、生理用品などを調達する。同じようにメモを残しておき次の店に行く。一時間ほど商店街をあさってから建物に帰る事にした。

「どうしようかな」

 アスカは横のベッドでショートパンツにTシャツ姿で寝ている。あの後建物に戻るとまず仮眠室に戻った。荷物を下ろしたあとワンピースを脱がすと着替えさせた。

「オムツいるのかな。でもそんなアスカ見たくない」

 怒っているアスカ、見下しているアスカ、ヘッドロックをしてきたアスカ、やたら元気なアスカの姿が頭に浮かぶ。なんとなく、なんとなくだが頬を突っついてみた。勿論反応は無い。しばらくそんな事をしていたがやがてベッドの脇に座り込んだ。

「ばかにされてもそっちがいいな」

 そんな事をぼけっと考えていたがそのうち眠り込んでしまった。

 目を覚ますと夕方だった。綺麗な夕日が窓から差し込みアスカの顔を照らしている。

「寝汗かいたな」

 シンジは悪夢の見どおしでやたら汗をかいていた。アスカも汗だらけで体臭がきつくなっていたが、嗅いでいたいと思ってしまい顔が赤くなった。

「シャワーかな」

 自分の声が少しうきうきしているのを感じて苦笑いしつつも、アスカを車椅子に移し下着やタオルなどをもってシャワー室に向かった。更衣室にはいるとアスカを脱がせ始めた。

「あっアスカ」

 自分も裸になり横抱きにアスカを抱いてシャワー室に入り、浴槽の縁にもたれさせてシャワーの温度を調整していると何かを感じた。その方向を見るとアスカが見上げていた。と言っても身体は麻痺しているらしく、頭は動かないで視線だけでシンジを見上げている。恐怖の感情が視線にあった。

「大丈夫だって」

 慌ててシンジはアスカに近寄った。裸のアスカを抱き上げたためシンジの物は勃起している。それが顔の近くまで来たので、よけいアスカの視線は恐怖に彩られる。もっともその恐怖のせいか顔面の麻痺が解けたらしい。顔がひきつる。口がぱくぱくと動き何か話そうとしているが声は聞こえぬ。一旦動き出したせいか、今度は少しだけ身体の他の部分の筋肉が動く。それが災いして、横に倒れそうになった。シンジは慌ててアスカを支えた。恐怖に体中を振るわし涙も出てきたアスカを取りあえず無視して、抱き上げた。更衣室に戻るとタオルで拭いてガウンを着せ車椅子に座らせた。取りあえず何かされそうではないと悟ったのか、アスカも少し落ち着いた。

「アスカ、落ち着いて」

 話しかけたのだが、よく聞こえないらしい。まだ麻痺の影響があるようだ。

「アスカはずっとまったく意識が無く寝てたんだ。寝汗が酷いからシャワーを使おうと」

 別に悪い事をしようとしていた訳ではないのにしどろもどろに成っていく。

「だから何も」

 シンジが近づくとまたアスカが恐怖の視線をシンジに飛ばした。

「あっ」

 視線の先はシンジの腰だった。慌て過ぎていてまだ何も着ていなかった。しかもまだ勃起している。

「その」

 慌てて下着を付けてガウンを羽織る。

「襲おうとかしてたわけじゃないんだからね」

 それは判っているのかガウンを着たところでアスカは少し落ち着いた。ただ口をぱくぱくさせているのは変わらない。

「アスカ聞こえない。声が出ていないよ」

 シンジは少し離れて屈んでアスカの顔に高さを合わせた。すぐ横に椅子があるので座る。

「まだ喉は麻痺しているみたいだよ」

 シンジが言ってもアスカは何か話そうとしている。

「もしかして聞こえていないの?き・こ・え・て・い・る・?」

 ゆっくりと口を開き唇を読んでもらうことにした。以前読唇術が出来るとアスカは自慢していたことがある。アスカは二度ほど瞬きをすると首を横に振った。

 今度はアスカがゆっくり口を動かした。すぐに止めて右目をぱちぱちとさせた。

「あっモールス信号」

 シンジは判ったというように手でジェスチャーをした。アスカはウィンクの通信を続けた。

「シンジの声も聞こえていない。他の音は聞こえるのにシンジの声だけ聞こえない……へ?」

 シンジはアスカの顔をしみじみと見た。

(私の口の前に手を当ててみて。大声出してみる)

 シンジは手をアスカの口の前に当てた。

「あっ震えてる……」

 振動を感じた。今度は自分の口の前に手を当てた。やはり震えてる。

「お互いの声だけ聞こえていないって事?」

 シンジがゆっくり口を動かすとアスカは頷いた。しばらく唖然としてアスカを見ていた。

(とにかく今まで何が起きたか、シンジが何をしたか教えて、それと……)

 ウィンクの通信と共にもの凄い怒り顔になった。

(私の身体でよくも楽しんでくれたわね)

「えっあっその」

 身に覚えがいっぱいありすぎて、声が出ない。もっとも元々聞こえない。

(責任はとって貰うわ、ともかくおたついてないで、きちんと服を着せてこの建物の中央制御室に連れていって。あと唇を読むのが面倒だからPDAをどっかからもってきなさいよ)

「うん」

 有無を言わさぬ怒り顔にシンジは頷いた。

 言われたとおりまずアスカに服を着せた。ワンピースだ。着せている最中も何かがみがみ言っているようだ。少し腹が立ってきた。助けたのにと言うところだ。少し動作が荒っぽくなった。するとアスカの怒り顔に微かに怯えが見えた。何となく気分が良くなり腹立ちが収まる。着替えさすと中央制御室に連れていく。

 アスカの指示で端末から世界中のインフラのサーバーにアクセスした。シンジ自体はよく判らなかったがジオフロント以外の世界中の電力水道ガスなどのインフラの施設自体はまったく無傷だと言うことが判った。ただ当然無人ではこの先すぐに停止する施設も出てくる。シンジはアスカに指示されているうちに熱中した。後ろで何か振動するので振り返ると、アスカは顔を真っ赤にして身もだえていた。

「どうしたの」

 携帯端末に打ち込んでアスカに見せた。アスカは顔を真っ赤にして何もしない。瞬きもしないでそっぽを見ている。何を怒っているのかはしらないが下手に何かを言うとよけい怒らすので作業に戻った。

 しばらくするとまた後ろから音がした。アスカが体中を振るわしていた。顔を真っ赤にしている。ウィンクの通信でシンジは困った。

「トイレって……」

 さんざん悪戯した割りにはシンジも真っ赤になり狼狽えた。

(覚悟はしたから早く連れていって)

 アスカが泣きそうな顔でウィンク通信をしたので慌ててトイレまで車椅子を押していく。女の子のトイレなどどうしたらいいか判らないのでワンピースを脱がして下着姿にして洋式の便器に座らせた。その後固まった。

(早く)

 思い切ってショーツを脱がしてやりアスカの指示通り座り直させた後外に出た。自動シャワーと温風乾燥機能付きのトイレでよかったと胸を撫で下ろし、手にアスカのショーツを持ったままなのに気が付いて慌てて車椅子に置いた。

 十分後怖々トイレにシンジが入るとアスカは目を瞑って便器に座っていた。日本が世界に誇る自動便器は手があまり動かないアスカのお尻も綺麗にして乾燥させていた。どうしようかとシンジが固まっていると、しっかり目を瞑ったままアスカが口を動かした。

(それ以上見てると舌噛むわよ。早く履かせて)

 恥ずかしくて死にそうと言うのが一番あうようだ。目尻が震えて涙が滲んでいる。シンジは慌ててショーツを履かせた。その時春草越しに大事な所に触れてしまいとうとうアスカは泣き出してしまった。

 お互い何かを言うと喧嘩になりそうだったのでその後は黙って過ごした。もっとも声は聞こえない。ともかくこの実験用の施設を本拠にして周囲を調べるため、シンジは忙しく働いた。一般生活でのハウスキーピングは得意だがこういう異常な状況下ではアスカの方が頭が働く。シンジはアスカの指示で動いた。その方がシンジも楽だ。

 夜になった。屋上の太陽電池からの電力が無くなる為、明かりを付けると燃料電池の消耗が激しい。節電のため殆どの機器を落としているため室内は暗い。明かりは充電式のLEDライトだけだ。

 二人は先ほどから液体食料のパックで夕食をとっていた。と言っても車椅子のアスカは手が殆ど上がらないのでシンジが口元にパックを持っていっていた。珍しくと言っては悪いがアスカは感謝して啜った。食事が終わるとアスカは感謝のウィンクをした。

 シンジは少し照れくさくなりアスカの車椅子の側に座り込むとぼけっと窓の方をみる。

 しばらくすると音がした。そちらの方を見た。アスカが車椅子の肘掛けを叩いて合図をしている。肘掛けに会話用に携帯電話がくくりつけてある。アスカは打ち込む。

(手鏡ある?)

 流石に女の子だなと思ったシンジはシャワールームから取ってきた。アスカの顔の前に立てる。アスカは首を動かして暫く自分の顔を見ていた。またアスカは打ち込む。

(シンジ、あんた今緊張で凄い顔よ。鏡見てみなさいよ)

 シンジはそう書かれて鏡を見た。酷い顔になっていた。目がつり上がっている。唖然としてアスカの方を見た。

(責任感や不安感でアンタの神経結構限界よ。もってあと一日。で切れたら多分私に暴行する。強姦するかは微妙だけどしそう。どっちの責任でもないけど私刺激しすぎた。気づいていないと思うけどアンタ私の大事なところばっかり見てるわよ)

 言われてついまた視線が行ってしまう。

(怒ってないわよ。私は多分あと一週間はまともに動けない。アンタにトイレだってシャワーだって頼むしかない。それだけ刺激したら襲うわね。その前に言っておくわ。意思を蹂躙されるのはもう嫌。身体をもてあそばれるのもいや。だから私の意思でシンジに抱かれる事にする。今夜抱きなさい。私をお風呂でぴかぴかに磨いて、シンジが私を抱いてこんなに幸せな事はないと思える様にしてから抱きなさい。それなら自分自身を誤魔化せる……)

「そんな事しないよ」

(するわよ、それにさっきの訂正するわ。シンジがいいわ。EVAパイロットは私達二人だけ。これから同じ経験を味わう事は誰も無いわ。だから)

「でも」

(じゃあこう言うわ。アンタが私をもし襲ったら私達はもう協力出来ない。共倒れよ。わたしは死にたくないし、犯されて生きたくもない。ならシンジと合意で抱き合えばいい。それが一番気が楽。パートナーとして生きる為に抱き合う。食事を一緒にするのと同じよ)

「だって」

(私もシンジがそんなにがちがちに成っているのを見るのは疲れるわ。楽に成ろうよ)

「うっうん」

(じゃ、私シンジが好きなの。シンジの全部が欲しいし私の全てをあげたいの。押し付けたいのかもしれないけど)

 疲れているのか会話や考えるのがおっくうに成ってきた。アスカか言うんだからという気になって来た。それにアスカは人並み以上に魅力的だ。

「判った。準備する」

(うん)

 二人で出かける事にした。アスカを車椅子に座らせると押して建物を出る。EVの荷台に車椅子を乗せ助手席にアスカを乗せる。夜の闇の中、シンジはEVをゆっくり走らせる。アスカは外を見ている。まず医薬品を扱っている店に入ると香水を探す。薔薇の香りの香水が好みだそうだ。避妊具も手に入れた。次にパジャマだ。これは赤いシンプルな物だ。下着は白い大きな物が好みだそうだ。もっともそれは葛城邸時代から知っている。最後にお酒と食べ物だ。素直にSEX自体は怖いとアスカは言った。興味があるとも言った。ドイツ時代から酒は慣れているので不安を抑えたいと言ったので、ワインを探した。

 一通り探し終わりEVに戻ると何となく二人で空をぼけっと見てしまった。綺麗だ。辺りには音が全くしない。

(世界の終わりなのかな)

 星明かりの下でもなぜかアスカの唇が読めた。シンジは頷いた。そう言ったアスカの寂しげな横顔が綺麗だと思った。

 研究施設に戻るとシャワーを浴びることにした。更衣室で車椅子のアスカを降ろして服を脱がす。自分も脱ぐ。この後する事を思い浮かべてしまいシンジは股間が痛いぐらいになってしまった。アスカは顔をしかめた。と言うより怖がっている。だが興味もあるようでしみじみと見ている。

(我慢できないのなら、ここでもいいわよ。そうだ…………私……ミサトに聞いたことがある)

 そう唇を動かした後アスカは目を瞑り口を大きく開けた。何となくシンジはどういう意味か判り思わず唾を飲み込んだ。そして好意に甘えることにした。

(不味い。ミサトの嘘つき)

 行為の後のアスカの感想はこれだった。咳き込んで目尻に涙を貯めてだ。シンジはあまりに気持ちが良くてへたり込んでいる。しばらくぼけっとしていたが、アスカがべそをかきつつ睨んでいるのに気が付き慌てて立ち上がると抱き上げる。シンジの物が少し顔にかかってしまったがそのまま浴室に連れて入ると壁にもたれかけさせた。シャワーの温度を調整すると顔を流してやる。

 とりあえずシンジはすっきりしたらしく、勃起はしていてもそれなりに我慢できるらしい。アスカの体中をよく流した。あらためてアスカの裸を見るとやはり綺麗だと思う。同年代の裸は他にレイを見ただけなので何とも言えないが、やはり見た目で行けばアスカより上を行く同級生はいないと思う。妙に落ち着いた心持ちでアスカにシャワーを浴びさせてから、更衣室に戻る。よくタオルで水気を拭いてやる。覚悟が決まったせいか胸や局部も堂々とタオルで拭った。アスカは触れられる度に体を振るわせていた。顔は見ないようにしていたが、ちらりと見ると怖そうにぎゅっと目を瞑っていた。

 ショーツを穿かせてパジャマを着せると仮眠室まで連れていく。ベッドにもたれかけさせて座らせた。シンジ自身はどうしていいか判らずアスカの目の前に座った。

 アスカが怖い顔をして睨んでいたので少しびびってしまった。

(シンジ、ワイン飲ませて)

「うん」

 シンジはワインをコップにとった。アスカの口に持っていく。少しずつ傾ける。うまくタイミングが合わず口から少しワインが垂れてしまった。ワインの赤い筋がアスカの肌にうねり、ぞくっとするほど綺麗だった。

(もっと。口移しの方が確実よ)

「うっうん」

 シンジは思わず唾を飲み込んだ。シンジの様子を見てかえって落ち着いたのかアスカの顔に笑みが浮かんだ。なんだか少し腹が立った。シンジはワインをコップにいっぱい注ぐと思い切って全部飲んだ。むせてしまったがどうにか飲み込んだ。もう一度コップに注ぐと半分ほど口に含んだ。そしてアスカの唇に自分の物を重ねた。少しずつアスカの口にワインを移していく。アスカの唇の柔らかさに心臓の鼓動が高鳴る。ワインを移し終えるとゆっくり唇を離した。

(ベッドに寝かせて。シンジの好きなようにして)

「うん」

 シンジはアスカを抱き上げるとベッドに寝かせた。アスカは目を瞑っている。胸に触れてみた。アスカの体中にふるえが走り、シンジは慌てて手を戻した。もう一度触る。パジャマの上からでも乳首が固くなっているのが判った。シンジはパジャマの前を開いて胸にむしゃぶりついた。

 シンジは困っていた。本能に導かれるままどうにか二人で初体験を終えたのだが、アスカが泣きやまない。シャワーに連れていって血と体液で汚れた局部を綺麗にしてやり着替えさせたのだが泣きやまない。それも結構大声で泣いているらしい。声は聞こえないが涙と鼻水で顔がくしゃぐしゃだ。仮眠室に戻り汚れたベッドを綺麗にしてからアスカを寝かせたがまだ泣きやまない。そのうち腹が立ってきた。自分で誘っておいてうるさいというところだ。乱暴にアスカの顔をタオルで拭う。アスカは泣くのはやめたが怯えた顔でシンジを見ている。そんな表情を見て自分のやったことに気が付いた。

「ごっごめんアスカ」

 アスカは慌てきったシンジの顔を見て少しおびえが引いた。そのうち怯えより悲しそうな表情になった。

 (シンジ、多分世界は二人だけ、どう言ったらいいか判らないけど、出来るだけ生きていこう。人類の最後の二人として出来るだけあがこう)

「うん」

 シンジの答えを聞いてアスカは目を瞑った。シンジは優しく唇を重ねた。

つづく

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