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NEON GENESIS EVANGELION Plus

EPISODE 26 : Be Real


NERV 付属総合病院・ナースセンター
「相田くん、また来てるわよ」
「ああ、惣流さんのとこ?」
「毎日毎日、熱心ね〜。うらやましいくらい」
「でも、あの娘、まだ、回復の兆しが見えないんでしょ?」
「かわいそうねぇ…」
アスカの病室
コンコン

ケンスケはドアをノックする。

「惣流、入るよ?」

いつも、(もしかしたら今日は返事が有るかもしれない)と期待するのだが、今日も返事は無かった…。

アスカはいつもと変わらず天井を見つめていた。
かつては宝石のような輝きを誇った碧い瞳は光を失い、美しかった栗色の髪は艶を失い、シルクの様だった白い肌も今はくすんでしまっていた。

ケンスケはしばらくアスカを見つめていたが、持って来た荷物を下ろすと話しかけた。

「惣流、今日はプロジェクターを持って来たんだ。
これなら、天井に映せば寝たままで写真を見れるからね」

そして、プロジェクターのセッティングを始める。

「オレ、エヴァのパイロットとしての惣流って、良く知らないけどさ、
学校での惣流はずっとカメラで追ってた…。
惣流の写真は高く売れるから…。
うん、最初のうちはそうだった。
はは、悪いけど、その頃は惣流のこと性格ブスだと思ってたから…」

セッティングを終えたケンスケは、窓のカーテンを閉めると、ベッドの脇の椅子に腰掛け、天井を見上げてスイッチを入れた。
画像を1枚ずつ送っていく。
ほとんどがアスカを撮ったものだ。

「でも、そうしてファインダーをのぞいているうち気がついたんだ、
惣流がごくたまにチラッと見せるほんとの自分に」

画像をゆっくりと送りながら、話し続ける。

「惣流って、ほんとは、すごく、弱い娘なんじゃないかな?って…。
ほら、この不安げな表情」

1枚の画像で手を止める。

「でも、その直後には、ほら、いつもの強気な惣流になってる」

次の画像。

「惣流って、弱い自分を隠すため、いつも強がっていたんだろ?
一度それに気がついたら、惣流のいつもの憎らしい態度も、
たまらなくかわいく感じちゃって…」

言葉を途切り。また、画像を何枚か進める。

「好きになってたんだ、惣流のこと、いつの間にか…」

そして、画像を送りながら続ける…。

「惣流、早く元気になってよ。
もうすぐ学校も再開される。みんなも帰って来るよ」

アスカとシンジ、レイが並んで歩いている画像で手を止める。

「シンジと綾波は最近までいろいろあったみたいでなかなか会えなかったけど、
昨日、お見舞いに来てたろ?あいつらが帰る時、ロビーで会った。
オレが見舞いに来てたんで驚いてたけどな」

それが毎日だなんて知ったらもっと驚くかな?などと思いながら画像を送る。

「シンジも綾波も何だか感じが変わったね。
シンジからは、何か、強さを感じたし、綾波は雰囲気が柔らかくなってたよ。
何があったか知らないけど、ふたりとも何だか良い方向に変わっていってる。
うらやましいな」

教室でのヒカリとトウジのツーショットで手を止める。

「トウジはもう歩けるようになったよ。
NERV特製の動力義足をもらったんだって。
でも、しばらくは調整を兼ねたリハビリが必要だって。
洞木が付きっ切りで世話を焼いてるよ。
はは、これで少しは仲が進展するかな?あのふたり」

少し声のトーンが落ちる。

「洞木も心配してたよ。惣流のこと。
こっちに戻って来たら一番で見舞いに来るから、って言ってた」

アスカとヒカリが笑い転げている横で、シンジが情けない顔をして何か言っている画像。

ケンスケはしばらくそれを眺めていたが、立ち上がるとアスカの顔を正面からのぞき込み、その目を見つめて言った。

「惣流…。オレも寂しいよ。
惣流が、元気でいてくれないと、オレ…何を撮ったらいいんだよ」

メガネのレンズに涙が落ち、アスカの顔が見えなくなる。

ケンスケは、眼鏡を外し、それを右手に持ったまま、更に顔を近づける。

「オレの目には君しか映ってないのに、君の目にはオレは映らないのか?
オレじゃダメなのか?」

涙がアスカの唇に落ちる。

そして、ケンスケはゆっくりと顔を近づけ、そっと唇を重ねる。

涙の味…。

そのままケンスケはアスカの頬に自分の頬をすりよせ、左腕でアスカの頭を抱え込むようにすると、肩を震わせ、嗚咽を漏らした。

「う…う…惣流…」


その時、アスカの瞳に光が戻った。


「ケ…スケ」

かすれた声で囁くアスカ。弱々しく左腕を持ち上げ、ケンスケの頭に手を置く。

「!!惣流??」

驚いて身体を起こすケンスケ。アスカの手が、頬の位置に来る。
見つめ合うとアスカの頬が少し赤く染まる。

「アンタ…アタシの…唇…奪ったんだから…責任…取りなさいよ…」

かすれて、弱々しくはあるが、いつものアスカの口調だった。

「惣流…」

ケンスケの心に熱いものが込み上げて来る。

「アンタの…そのカメラは、もう…アタシだけしか…撮っちゃダメ。
約束…して。ファーストや…他の女の子なんて絶対…撮らないで。
いつも、アタシだけを…見ていてくれるって…約束、して」

そう言うと、じっとケンスケの目をのぞき込むアスカ。

正面からその眼差しを受け止めるケンスケ。

「…約束する。約束するよ」

ケンスケは笑顔で答えたが、その目には涙があふれていた。

「もう…辛気臭いわね。男のくせに…簡単に泣くんじゃ…ないわよ」

そう言うアスカの目も潤んでいた。

「それから、アタシのことは…惣流じゃなくって…アスカって呼んで…」

「そ…あ、アスカ…」

「…グート」

久しぶりに見せるアスカの笑顔は、今までにない柔らかなものだった。
NERV 本部内・エレベータ
ミサトがひとり乗っている。

チーン

ある階で止まり、ドアが開く。

「!!」
息を飲むミサト。

「よっ、久しぶりだな」

そこには、無精髭によれたシャツという相変わらずの格好の加持がいた。
ミサトの返事も聞かず、そのまま乗り込む加持。

「加持くん…生きてたの…」
一度は加持の死を受け入れたはずだった。あんな辛い思いをしてまで…。
(なのに、この人は…)
ミサトの心には、嬉しさと怒りが混ざり合った複雑な感情が渦巻いていた。

「加持くん!アンタ!!」
ミサトは加持の胸倉をつかんでいた。その目には涙が光っている。

「すまなかった、葛城…」
加持は真剣な表情でミサトに答えた。

「こんなムードの無い場所で悪いが、約束したろ?
もう一度会えた時には、って…」

そして、加持はミサトの目を見つめて言う。
「葛城…いや、ミサト。愛してる。俺と結婚してくれ」

ミサトの手から力が抜ける。

「…バカ」
それだけ言うと、ミサトは加持の胸に顔を埋め、すすり泣きながら涙声でつぶやいた。
「バカ…バカ…」

加持はそんなミサトの肩に腕を回し、優しく抱きしめていた。
NERV 総司令官・執務室
冬月はゲンドウ無き後、総司令代行を任じていた。
「ご苦労だったな。加持くん」

加持はいつもの口ぶりで言う。
「これで諜報零課もお役御免ですかね」

冬月はとぼけたように返す。
「そんな部署は NERVには存在しないし、存在したこともなかった。
最初から無いものは、無くなったりはせんよ」

「ま、そんなとこでしょうね」
(やれやれ、まだ当分、諜報零課長か…)
苦笑する加持。
NERV 作戦会議室
青葉
「エヴァ量産機は全て確保しましたが、いずれの機体も素体の石化が確認されています。
各支部に保存されていたアダムの培養組織も同様です」

冬月
「弐号機と同じか…。
よろしい。では、決定事項を伝える。
量産機およびアダムの培養組織は全て回収。
ターミナルドグマへ永久封印する。
弐号機も同様だ。
パイロットのチルドレンは解任。エヴァが無くなった以上、パイロットは不要だからな。
ただし、しばらくの間は監視が付くことになる。安全確保の為にもな。
それと、彼らにはダミー企業を通して相応の奨学金が支給される。
エヴァに関しては以上だ」

伊吹が心配そうにたずねる。
「NERVはどうなるんでしょうか?」

冬月
「NERVは規模は縮小されるが、国連の直属機関として存続する。
ターミナルドグマの封印の管理と、エヴァの開発で得た派生技術の軍事利用を防ぐ為の情報コントロール、
一部は民間への転用の為の技術開発、これらが主な任務となる。
君らにも新たな仕事が与えられる」

ミサトがつぶやく。
「とりあえず、失業の心配は無い、か…」
ミサトのマンション
アスカ退院・祝賀パーティーの準備の為、ヒカリとシンジ・トウジ・ケンスケの3人はパーティーの料理の材料を買い出しに行っている。
加持はまだ来ていない。
リビングルームの片付をしているミサトとレイ
レイは制服姿だった。

ミサトが問いかける。
「レイ、あなた、もしかして、制服しか持ってないの?」

「はい?」
レイはキョトンとした顔で答える。
「何か、問題でも?」

「問題って…」
ミサトはこめかみを押さえて眉間にシワを寄せている。
(まったく、リツコのやつ…)

そして、レイに向き直ると言う。
「問題ってことはないけど、不自然ね。
私服もちゃんと揃えておいた方がいいわ。
どういうのを買ったらいいか判らなかったらアスカに相談してみなさい。
シンちゃんも、可愛い服着ておしゃれしたレイを見たら惚れ直すかもよ」

そこで、パチッとウインクしてみせるミサト。
(それとも、シンちゃん、制服の方がいいのかしらね?意外とオヤジ趣味だったりして…)
そう思うが、口には出さない。

(そう…そうした方が碇くんが喜ぶなら…)
レイは、小首を傾げて考えていたが、
「…はい」
小さく答える。

そこにアスカが入って来る。

パッとしない表情のアスカを見てミサトが言う。
「どうしたの?アスカ。
今日はあなたの為のパーティーだってのに、不景気な顔して」

不機嫌そうなアスカ。
「始まっちゃった…」

「あら、良かったじゃない。止まっちゃってたんでしょ?」
ミサトが明るく言う。

さらに不機嫌そうになって言うアスカ。
「良かないわよ。
女だからって、なんでこんな目に合わなきゃいけないのよ。
アタシは子供なんて要らないのに…」

「…どうしてそういうこと言うの?」
話の内容を理解したレイが口を挟む。

アスカ、ジロリとレイを見て反論する。
「なによ。アンタだって、この辛さ解るでしょ!!」

「…解らないわ。私には、月経、無いもの…」
寂しそうに言うレイ。

アスカは意外そうに言う。
「え?アンタ…まだだったの?」

レイは目を伏せて小さな声で言う。
「私には…受胎能力が無いから…」

「えっ…?」
アスカが驚いたように小さく声を上げる。

レイは悲しげな瞳でアスカを見つめると、静かに言う。
「だから、うらやましいの。
あなたは、私が望んでも手に入れることが出来ない力を持っている。
それなのに…『子供なんて要らない』なんて、
そんな悲しいこと、言わないで…」

「…ファースト」
アスカは何も言えなかった。

レイは淡々と続ける。
「私も、以前は子供なんて必要ないと思っていた。
私の代わりはたくさん居たもの…。
でも今は違う。私が最後の綾波レイだからじゃない。
碇くんと出逢ったから…」

レイは膝の上で両手を握り締め、うつむいてしまっていた。
その声もほとんどつぶやくように小さくなっている。
「碇くん…。私…碇くんとの子供が欲しい…」

そんなレイを見てアスカはつぶやく。
「アンタ…そこまで…シンジのこと…」

「あっら〜、レイったら、大胆な発言ねぇ」
重くなってしまった雰囲気を和らげようとミサトがわざと軽く言うが、その目は笑っていない。

すると後ろから、いつの間にか部屋に入って来ていたリツコの声が。
「レイ、方法は有るわ」

顔を上げるレイ。
「赤木博士!?…本当ですか?」

リツコはうなずく。
「ええ。でも、今は、それが可能であることだけしか言えないわ。
そして、それがどういうことか良く考えてちょうだい。
まだあなたたちは若いし、時間はたっぷり有るから」

「…はい」
頬を染め、うなずくレイ。

ほっとした顔のミサトはアスカに振る。
「アスカだって、今はそんなこと言ってるけど、5年もしたらどうだか解らないわよ」

「う…そりゃ、解んないけど…」
言い淀むアスカ。

「あら?意外と素直ね。かわいいわぁ、アスカちゃん」
からかうようにミサトが言う。

「!!ふん!」
真っ赤になってふくれるアスカ。
キッチンでシンジとヒカリが腕を振るっている
レイはその後ろで食器の準備などを手伝っている。
リビングにはテーブルが用意されていた
その周りで、ヒカリと一緒に帰って来たペンペンを抱いたアスカと、買い出しから帰って来てしばらく仕事の無い男共がTVを見ながらしゃべっている。
ベランダに出て外を眺めているミサトとリツコ
リツコはあれだけ吸っていたタバコをやめていた。
代わりに今はキャンディーをなめている。

しばらく無言の二人だったが、ミサトが切り出す。
「リツコ、あんなこと言っちゃって大丈夫なの?」

リツコは事も無げに答える。
「問題無いわ」

ミサトは自分の疑問をぶつける。
「何言ってるの、リツコ。
レイにはシンジくんのお母さんの遺伝子が使われているんでしょ?
ってことは、異父兄妹みたいなもんじゃない!」

リツコはミサトの方を見もせずに言う。
「ミサト、知っているはずよ。
近親相姦が忌避されてきたのはその子孫に現れ得る遺伝障害を回避するためよ」

怪訝な表情のミサト。
「それが??」

リツコは事務的に言う。
「つまり、レイの遺伝子とシンジくんの遺伝子から、
遺伝障害になる要因を除去したうえで融合させて受精卵を作ればいいのよ。
遺伝情報の解析には MAGI が使えるし、エヴァの開発で蓄積した技術もある。
5年もあれば実用化できるわ。
子宮を貸してくれる代理母が居れば一番だけど、培養タンクでも問題無いし」

その答えにたじろぐミサト。
「でも、そんなこと、倫理的に許されることじゃないわ!」

「それで二人が幸せになるなら、私は協力したいわ。
せめてもの償いに…。
自然出産でも望まれずに生まれる子供は多いわ。
でも、たとえ培養タンクで生まれても、
望まれて生まれて来る子供はきっと幸せになれるわ」

そう言うリツコの表情は優しく、言葉には慈愛が満ちていた。

「リツコ…」
そんなリツコに、ミサトはもう何も言えなかった…。

「それに、あの娘、女らしい身体してるでしょ?
必要な器官は全てそろってるのよ。
ただ、スイッチが入ってない部分があるだけ。
何等かの誘発因子が見つかる可能性もあるわ」

「それって…」
ミサトがその意味に気付き、問い返す。

「そう、自分で産めるようになる可能性も有るってこと。
あくまでも、可能性だけどね」

「そう…」

ふたりはそのまましばらく無言で外を眺めていた。
パーティーの準備が整ったリビング
ヒカリが代表して挨拶をする。
「アスカ、退院おめでとう!!」

パチパチパチパチ
拍手が響く。

続けるヒカリ。
「ごめんね、お見舞いに行けなくって」

「ううん、いいのよ。みんな大変だったんだし」
(それに、毎日お見舞いに来てくれた人もいるし…)
そう思ってチラッとケンスケを見ると、ケンスケは右手でビデオを構え、
空いている左手で親指を立て"GOOD"マークを作っている。

「ありがとう、ヒカリ。みんなも」
アスカが嬉しそうに言う。

パーティーが始まった。

「おいしい!」
食べ盛りの子供達はシンジとヒカリの料理に夢中になっていた。

「あ、それとって」
「ちょっと、アンタ、それ、私にもよこしなさいよ!」
「アスカ、ちょっと欲張りすぎだよ!」
「まだたくさんあるから…」
「…」
「ったく惣流はがめついのう」
「ぬあんですってぇ?!そう言うアンタはなんなのよ!」
トウジの皿には、ヒカリが取り分けた料理が山になっていた。

そんな子供達を見ながら、ミサトはいつものヱビスをぐいぐい空けている。
「っぷはーっっ!!んまい!」

加持とリツコもビールを片手に、微笑ましげに子供達を見ながら料理をつまんでいる。

「いいわね、こういうの」

「ささやかな幸せ、ってやつか」

「アスカも、久しぶりに加持くんに会ったんだから、もっと加持くんにべったりかと思ったのに…。
振られたんじゃない?加持くん」
リツコが意地悪そうに言う。

「おいおい」
苦笑いの加持。

「そう言えば、ミサト、加持くんにプロポーズされたんでしょ?ちゃんと返事したの?」
いきなりミサトに振るリツコ。

「ぶっ!!ごほっごほっ!」

ビールを吹き出し、むせるミサト。
「ちょっと、リツコ、何言い出すのよ!こんな所で!!」

いつの間にか辺りが静まり返っている。

「ミサトさん、加持さんと結婚するんですか?」
シンジがたずねる。
「嬉しいな。ぼく、加持さんのこと好きだし、ミサトさんのことも。だから…」

「う…」
ミサトは観念した。
「そう、私、加持くんと、結婚するわ」

「えーっ!!」
「やった〜!」
「おめでとうございます!」

子供達から歓声が上がる。

「結婚式はいつですか?」
「プロポーズの言葉はどんなだったんですか?」

次々に質問が出る。

「新居は…」

ケンスケが質問しかけて、ハッとその意味に気付く。
一瞬、シーンとなる。

シンジが口を開く。
「そうだ、ミサトさん、結婚したら加持さんと暮らすんでしょ?
ぼくたち新しい部屋を探さないと…」

ミサトはちょっと困ったような顔で言う。
「そうなのよね〜。どうする?あなたたち。
エヴァのパイロットではなくなった以上ここにいる理由も無いし…」

シンジが顔を曇らせて答える。
「そんな、寂しいこと言わないで下さい!
ぼくは、ここにいたいです。みんながいるこの町に」

アスカも沈んだ声で言う。
「私もまだ帰れないわ。あの人達とはまだ離れていたほうがいいと思うの、 お互いにね」
アスカはまだ、両親に対してわだかまりが有るようだった。
(それに、今は、私にも…)
チラッとケンスケの方を見ると、心配そうな表情のケンスケと目が合った。

ミサトはしばらく考え込んでいたが、決心したように明るく言う。
「じゃ、こうしましょう。アスカ、今まで通り、ここに住みなさい。
レイ、あなたも私の代わりにここに住むのよ」

いきなり振られて戸惑うレイ。
「え?私も…ですか?」

アスカが立ち上がって言う。
「何言ってんのよミサト!
今までは”一応”保護者同伴ってことで、なんとか問題無くやって来たけど、
年頃の女の子ふたりと男の子だけで暮らすなんて!
ほら、シンジも何とか言ったら?」

赤くなって口ごもるシンジ。
「え…ぼくは別に…」

アスカは腕組みをし、シンジをジロリと見下ろして言う。
「アンタ、なんか変な期待してるんじゃないでしょうね」

焦って否定するシンジ
「ちっ違うよ!」

「シンちゃん、ハーレムを期待させといて悪いけど、出てってね」
ミサトがからかうように言う。

「ええっ?!」
(「ハーレム」?!…じゃなくって「出てけ」って?!)
驚くシンジ。

笑いながらミサト。
「うそうそ。驚いた?
ここの隣が空いてるから借りられるよう手配しといたげるわ。
そのくらいの年金…じゃない、奨学金は出るから。
シンちゃんはそっちに移ってね。男の子だし、大丈夫でしょ?」

(退役パイロットの為に何人も張り付かせられるほど NERV も暇じゃない、
っていう保安上の理由も有るんだけどね。1ヶ所にまとまっててくれた方が助かるのよ)
そう思うミサトだが、これは口に出さない。

「なんだ、そういうことなら…」
シンジはほっとしたように言う。

ミサトはレイの方を振り返って言う。
「レイもいいわね」

レイはチラッとシンジを見ると、
(本当は碇くんと一緒に暮らせたら良かったけど、それでも今よりずっと近くにいられるのね…)
そう思い、小さくうなずく。
「…はい」

「じゃ、決まりね。
アスカ、レイと仲良くやってね」
ミサトがそう言うと、

「…命令なら、そうするわ」
アスカがレイの口調を真似て答える。

「アスカ!」
とがめるように言うミサト。

アスカはレイに向かって言う
「って、昔のアンタならそう言ったんでしょうけど、
なんか、アンタも感じ変わったわね。
ま、アタシも、ちょっとは変わったかな?」

そう言うと笑顔を浮かべる。
「いいわよ。仲良くやりましょ?『レイ』?」

戸惑うレイ。
「惣流さん…」

アスカは両手を腰に当てた姿勢で首を斜め後ろに傾けて言う。
「ああ、ダメダメ!『惣流さん』じゃなくってぇ、」
そのままズイっと前屈みになり、座っているレイに顔を近づけ言う。
「『アスカ』でいいわよ」

レイは一瞬目をぱちくりさせるが、ゆっくりと笑顔になり、答えた。
「…アスカ、ありがとう」

そんなふたりを見ていたトウジとヒカリは、目を丸くしてお互い顔を見合わせた。

「ど〜なっとんのや?あのふたり。しかも、あの綾波が…」

「うん。アスカも、綾波さんも、変わったわね。すごく、いい感じ」

ヒカリはケンスケとの件はアスカから電話で聞いていたので、
アスカから刺々しい雰囲気が消えている理由は何となく解ったが、
それよりもレイの変わり様に驚いていた。

(やっぱり、碇くん…かな?綾波さんを変えたのは…)

そう思いながら、シンジとレイを眺めるヒカリであった。
パーティーはいつの間にかカラオケ大会と化していた
熱気に当てられたシンジは外の空気を吸おうとベランダに出ていた。

「は〜、みんな、よく歌うなぁ…」

大きく深呼吸するシンジ。

「碇くん、どうしたの?」
後を追うようにベランダに出て来たレイが心配そうに問いかける。

「あ、綾波。なんでもないよ。ちょっと風に当たりたかっただけなんだ」
安心させるように言う。

「そう…」
レイはシンジの隣に並んで立つ。

「星が奇麗だね」
シンジは星空を見上げて言う。

レイもつられて空を見上げる。
リビングでは加持にマイクが回って来ていた
先ほどシンジとレイがベランダに出て行ったのを見ていた加持は、ふと思い付くと、ある曲をセレクトした。

(シンジくん、レイ、これは、俺からのプレゼントだ。
夢…願いは、自分自身で実現するものだが…。
ま、今夜はそんな野暮なことは言わないでおこう)

そして、歌い出す。

「When you wish upon a star〜」
ベランダでシンジは加持の歌に気付いた
Makes no difference who you are
Anything your heart desires will come to you
シンジはその歌を知っていた。
ずっと昔に見た、この曲が使われていた古い映画を思い出す。

(まるで…綾波のための歌みたいだ…)
そう思いながらつぶやく。
「星に願いを…か…」
If your heart is in your dream
No request is too extreme
When you wish upon a star as dreamers do
「星に…願いを?」
レイはその曲を知らなかったが、何かの本で見た『流れ星を見つけたら、それが消えるまでに願いを3回唱えれば、その願いはかなう』という話を思い出していた。

そして、流れ星を探して星空を見上げる。
Fate is kind
She brings to those who love
The sweet fulfillment of their secret longing
その時、ふたりは手の甲が触れ合うのを感じ、顔を見合わせる。
自然とふたりは見つめ合い、シンジはレイの手をそっと握る。

レイもその手を優しく握り返す。

ふたりは微笑みを交わすと、また星空を見上げた。

そして、シンジが星空を見つめたままたずねる。
「綾波は、何を願うの?」
Like a bolt out of the blue
Fate steps in and sees you through
When you wish upon a star your dreames come true
「私…私の願いは…」

言葉を途切り、じっと星空を見つめるレイ。


そのままふたりは、寄り添うようにして満天に輝く星を見つめていた。

その瞳に、未来への希望の光をたたえて…。






下弦の月が、そんなふたりを優しく包み込むかのように、淡い光を投げかけていた…。









BGM : [ Fly me to the Moon ] (Rei version)







Fly me to the moon

And let me play among the stars

Let me see what Spring is like

On Jupiter and Mars


In other words, hold my hand

In other words, darling, kiss me


Fill my heart with song

And let me sing forever more

You are all I long for

All I worship and adore


In other words, please be true

In other words, I love you

























This is The End of EVANGELION Plus.

[ When you wish upon a star ] Lyrics by Ned Washington
[ Fly me to the Moon ] Lyrics by Bart Howard

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