第弐話 白南風過ぎて……

 

 

 市立第一中学校英語教師葛城ミサト教諭の朝は、がなりたてる目覚まし時計を黙らせることから始まる。それも、一つや二つや三つではなく、いくつも。

「うーん、もうちょっち寝かせてぇ〜」

 ふとんのなかで、もぞもぞと未練がましくいましばらくの睡眠をむさぼろうとするが、幾重にもはりめぐらされた電子音の包囲網は、彼女の無駄な抵抗をあっさりと粉砕する。

「だぁーっ! もうっ、うっさいわねー!」

 しかたなし、といった様子でふとんのなかから這い出してくるミサト。タンクトップとショーツだけというあられもない姿でお腹のあたりをぼりぼりとかきながら、順ぐりに目覚まし時計をとめていく。枕もと、机の上、本棚のたな、クローゼットのなか、ちゃぶ台の下、テレビの裏、炊飯器のなか、エトセトラ、エトセトラ……。やっとのことですべての時計をとめ終わると、はじめて洗面所にむかい顔を洗い歯をみがきはじめる。

 鏡の中に写るのは、そろそろやくざな生活の荒れが浮かびはじめている、三十路に入ろうとしている疲れた女の顔であった。

「……ちっ」

 かるく舌打ちをすると彼女は、あえて自分を景気づけるように陽気な声で言い聞かせた。

「よし、今日も一日、せいいっぱい生きよう!」

 と、その瞬間、

「ひぃえっくしゅぉいっ! うぃいぃ」

 くしゃみまでもが、陽気であった。

 

 ミサトがマンションから職場の市立第一中学校への通勤につかっているのは、死別した父親が残してくれた、青いルノーアルピーヌA310GTである。これを道交法を無視した速度でかっ飛ばし、遅刻ぎりぎりに学校の駐車場にすべりこませるのが、いまのミサトの最大の楽しみでもあった。当然、教務主任にさんざんお小言を頂戴することになるが、それもふくめて彼女の通勤は、この市立第一中学校の朝の恒例行事となっていた。

「おっはよーございまーすっ」

 職員室に入りミサトは、まるで生徒のような明るく大きな声であいさつをする。そこには、すこしきつめの美貌とスーパーモデルなみの肢体とをもち、それをノースリーブのブラウスとタイトミニスカートで惜しげもなくさらしている、抜群の美女が立っていた。だからといって近寄りがたいというわけではない。開放的で人好きのする雰囲気が、彼女の美点であった。

 手にしたスカートとおそろいのジャケットを肩に引っかけ、大股で自分の席にむかう。彼女が一歩一歩を踏み出すたびにセミロングの直ぐの漆黒の髪がなみうち、あたりに「女」の臭いをふりまく。

 彼女は、同僚の教師たちのぽつぽつとした挨拶にもめげずその一つ一つに丁寧にこたえ、自分の机にたどり着く。

「今朝もごきげんですね」

 むかいに机を与えられている、体育教師の青葉シゲルが話しかけてきた。

 この、当年とって二六歳になる同僚が、ミサトは決して嫌いではなかった。

 彼は、肩近くまである長髪となかなかに甘いルックスをもち、アマチュアロックバンドのギタリストもやっていたりする。じつは校内の女生徒にはけっこう人気があるのだが、それを鼻にかけることもしないし生徒に手を出してみたりすることもない。これでなかなかの好青年であるのだ。

 別に恋愛感情うんぬんというわけではない。

 ミサトは、こうした公私の別をさりげなく分けてみせる人間が好きなだけだった。じつにそうでない教師の多いこと多いこと。ミサト自身もそうした教師にいいよられたことがなんどもあり、そのつどやんわりと追い払うことに苦労したものである。

「ふーん、そう見える?」

「ええ。呑んできました?」

「まっさかぁ、今日は期末試験の最終日よ」

 なかなかに殊勝なミサトの言葉に、青葉は感心したような表情をみせる。

「うちあげがあるのに、そんなこと出来るわけないじゃなぁい」

 見事な彼女のぼけに、さっそく彼は撃沈させられてしまった。

「……試験中に酔っ払ったままではいけないとか、そういう理由ではないんですね」

「とぉうぜん」

 職員室中に忍び笑いがひろがる。

 当然眉をひそめている教師も少なくはないのだが、そうやって奔放にふるまっていても決して憎まれたりしないのが、ミサトの人徳というものであった。ただし、それが通用しない相手も当然いる。

「葛城教諭。職員朝礼が始まります。よろしいですか」

 厳格で威厳のこもった声が、ミサトにあびせかけられた。

 ひょい、といった感じで首をすくめると、彼女は、あわてて机の上の端末をのぞきこむふりをする。

 彼女に注意をうながしたのは、ミサトの校内最大の天敵にして、教務主任の数学科主任教師、細井平洲であった。彼女は校長教頭関係なしに校内を傍らに人が無き如くにかっぽしているが、その彼女が唯一頭があがらないのが、彼であった。

 このすべての無駄な肉をそぎ落としたような容貌の壮年の教師は、校内随一の堅物とよばれており、生徒にすら生徒指導主任以上に恐れられている存在であった。彼は、チタンフレームのロイド眼鏡の位置をなおすと、教頭にむかってうなずいてみせた。貧相な中年男の教頭は、うんうんとうなずくと、もそもそと朝礼を始める。

 ミサトは、シャープペンを上唇と鼻の下ではさみながら、おもしろくもなさそうに聞き取りにくい教頭の言葉を聞き流していた。どうせなら貧相な中年男の顔よりはと、青葉に視線をむける。と、その瞬間、

「びえっくしゅょほぉいっっ!」

 職員室中に響きわたるくしゃみと、机二つへだてた青葉の顔にあびせかけられる大量のつばき。

 どっと笑いがわいた。

 

「終わったーっ、終わった、終わった、終わったーっ!!」

 教室中に生徒の歓声があがる。

「はい、はい。終わったのはテストで、学校が終わったわけじゃないわよん」

 一応はこの2−Aの担任であるミサトは、わき返る生徒たちを手をたたいて席にすわらせる。

「……それじゃ、あしたは終業式だから、そのつもりでね。じゃ、またあした」

 必要な連絡事項だけつたえると、ミサトは教室を出ていこうとした。

「ミサトせんせぇ、どうです、いっちょ明日はわしらとぱーっとうちあげでも……」

 葛城ミサト親衛隊隊長を自認しているトウジが、ミサトに近づいたそのとき、

「ひいぇっくしゃんっ!」

 またもミサトは、盛大にくしゃみをした。

 大量のつばきがトウジの黒いジャージをぬらし、ついでに鼻水までもが彼にあびせかけられる。あぜんとしてそんな二人を見ている生徒たち。ぐずぐずと鼻をすすりあげたミサトは、目の前に立っている少年がぼうぜんと自分を見ているのに気がついた。

「!! ご、ごみん!」

 あわててなにかふくものはないかと服のポケットを探すが、こんなときにかぎってなにも出てこない。

「いやあ、せんせ、かまいませんわ。それより、風邪をこじらしたらあかんよって、今日はもう帰ったほうがいいんとちゃいます?」

 あわてふためいているミサトとは対称的に、トウジのほうは、ゆうゆうたるものでもあった。

「それじゃ、せんせぇ、また明日」

「う、うん。それじゃ、トウジ君ごめんね」

 鼻をすすりあげながらミサトは、それでもトウジのことを気にしながら教室を出ていった。

 担任がいなくなると同時に教室中がわきかえる。当然台風の目の中心はトウジである。

「へっへっへ、ミサトせんせのくしゃみやぁ」

「ちっくしょう、うらやましい奴めぇ、なんでおまえなんかがぁ」

「それはな、わしの人徳っちゅうもんやぁ。ま、普段の行いがええからのう、わしわ」

「くっそう、ぬかしていやがる」

 それはそれは楽しそうなトウジ。

 とうぜん、クラスの女子の反応はつめたい。

「なによ、鈴原って、変態みたい」

「ばっかじゃない、あいつ」

 そんなクラスメイトの反応についていけないシンジは、ぼうぜんとみんなを見ているしかできなかった。確かにミサトは美人ではあるが、なんで彼女にくしゃみを浴びせかけられたのがうれしいことなのか、そこらへんがさっぱりわからなかったのである。彼は、おそるおそるそばのケンスケに聞いてみた。ケンスケも、われ関せずといった様子でカメラのレンズの手入れに余念がない。

「あのさ、なんで、みんなあんなに騒いでるのかな」

「……うらやましいからだろ」

「? なんで?」

「……………」

 ケンスケは、うまれてこのかた感じたこともないような殺意が、心の内からわきあがってくるのを感じた。だが表面上は、自分ではなかなかにかっこいいと思っているポーカーフェイスをくずさずに、言葉を続けた。

「そりゃ、ミサト先生をみんな好きだからさ」

「?」

 自分のかばんから取りだしたタオルで顔をふいているトウジを見ながら、シンジはわけが分からないといった感じで眉をしかめている。

 こいつはいつもそうだ。

 ケンスケは思った。

 なぜかいつも美女にまわりを囲まれていて、しかもその幸運にまったく気がついていない。

 だが互いにとって幸運なことに、ケンスケの思考がそれ以上暴走する前に、シンジは得心がいったように声をあげた。

「そっか、あのタオルで、ミサト先生と間接キスができるんだ」

 …………………………。

 一瞬教室内を沈黙が支配する。

 次の瞬間トウジは、殺気だった少年たちの怒濤のような攻撃の波にのみこまれていた。

 教室内の少女たちは、なぜか一様にほほを赤らめておし黙ったまま、いそいそと帰り支度をはじめている。

 シンジといえば、自分の一言が引き起こした騒動に、なすすべもなくおろおろするばかりであった。

 こいつはいつもそうだ。

 ケンスケは、内心天を仰ぎながら思った。

 トウジが人波にのみこまれる瞬間、こっちを見たその棄てられた犬のようなつぶらな瞳が、ケンスケにはなぜかのちのちまで忘れることができなかった。

 

 自分の担任しているクラスでなにが起きているかも知らず、ミサトは自分の机で盛大に鼻をすすりあげていた。

 とりあえず期末試験はつつがなく終わり、あとは夏休み中の研修や林間学校そのほかの催し物についてのローテーションの割りふりや、事前連絡があるだけである。この夏のあいだミサトには、とくに担当しなければならない業務はないはずであった。

「葛城先生、風邪ですか? これから夏休みなのに大変ですなあ」

「いえ、最近めっきり暑くなりましたから。季節の変り目はだいたいこうなんです」

 そばの机の中年の教師が話しかけてくる。

 ミサトは、表面上は笑って受け答えしていたが、内心ではさっさと家に帰る算段を始めていた。彼女はこの男が、さも親切ごかしに話しかけてきてはいるが、じつは自分にその気があるだけなのに気がついていた。実際、なんども飲みにさそわれていたし、研修と称した慰安旅行ではさんざんすりよられからまれている。本来ならば、一発ひっぱたいてほうり出してしまってもよかったのではあるが、なまじ相手が善人なだけにそれも出来ないでいた。

 さすがにあいての男のしつこさに、堪忍袋の尾が切れかかってきたそのとき、教室に何人かの生徒が入ってきた。

「葛城先生、いらっしゃいますか」

「はぁーい、こっちよん」

 すかさず席を立つと、生徒らにむかって手をふってみせる。

 男は、置いてけぼりをくらわされた犬のような情けない表情をすると、自分の席にもどっていった。

「先生、具合は大丈夫ですか?」

 入ってきたのは、2−Aの女生徒たちであった。

 中心にいた学級委員のヒカリが日誌をわたす。そして、となりのショートカットの女の子が、ミサトに湯気の立っているマグカップをさしだす。中に温かなココアがはいっているのをみて、ミサトはびっくりした表情で女の子らを見まわした。

「あら、どうしたの、このココア?」

「先生、風邪でつらそうに見えたんで、それで、みんなで話しあってつくってみたんです」

 てへっ、そんな感じで眼鏡をかけた女の子が照れくさそうに笑ってみせた。

「でも、温かいココアなんて、つくるの大変だったんじゃない」

「いえ、そんなことないです。火は保健室で借りたんです。あと、薬ももらってきました」

 そういってヒカリが、袋にはいった風邪薬もいっしょにさしだす。

 ミサトはその袋をおしいただくように受け取ると、にっこりと心の底からの笑顔を浮かべてみせた。自分がこんなに生徒らから慕われていることが嘘のようで、怖いくらいにうれしかった。

「本当にありがとう。さっき鈴原君が言ってたわね、本当にうちあげ会をやるんなら、明日くわしい話をしましょう。さ、今日はもうお帰りなさい」

「はい。それじゃ先生、風邪、気をつけてくださいね」

「うん、だいじょぶよん。ほら言うじゃない、莫迦は風邪をひかないって」

「やだぁ、もうひいていますってば」

 ころころと笑って女の子らは職員室から出ていく。

「良かったじゃないですか」

 むかいの机の青葉が、顔をむけることはせずに話しかけてくる。口元が微笑んでいるのが、ミサトにもわかった。

「へっへーん」

 すこしだけ得意げでいたずらっ子な笑みを浮かべて、ミサトは机につっぷした。そして、そのまま目の前のマグカップをみつめる。

 マグカップには、星の飾りのついた杖をもつ天使のイラストがプリントされていた。

 

 

 結局シンジは、またいつものお好み焼き屋でトウジにお好み焼きをおごるはめになっていた。

「なんで、僕がぁ?」

 なぜ自分が悪いかわからないシンジは、それでも抵抗してみせたが、結局はケンスケの、

「碇があそこであんなこと大きな声で言わなきゃ、トウジだってここまでひどい目にはあわずにすんだんだぜ」

 という言葉に、しぶしぶ財布のひもをゆるめることを承知したのである。

「でも、あそこまでみんながむきになるなんて……」

「わかっとらんなあ、せんせぇ」

 ここぞとばかりに、店で一番値のはりしかも味も最高とのほまれもたかい、それだけに皆のあこがれのまとの、シーフードミックスお好み焼きをつついているトウジが、首を左右にふってみせた。着ている黒のジャージのあちこちがほつれ、ぼろぼろになっているだけに、シンジはなにも言えない。

「それだから碇はお子様だって言われるんだよ」

「……………」

 好物のキムチお好み焼きをつつきながら、ケンスケもトウジの言葉にうなずいてみせる。

「なに二人ともばかなこと言ってるのよ」

 あいもかわらずせっせとお好み焼きのめんどうを見ているヒカリが、二人をたしなめる。

「せやけどなぁ、いいんちょ、こいつはなんでミサトせんせがあんだけ人気があるか知らんからなぁ」

「しかたがないよ。まあ、転校してすぐだし、すぐ夏休みだもんな」

 焼きあがったばかりのチーズお好み焼きを四等分しながら、トウジとケンスケの二人がしんみりした口調で言う。それを聞いて、おもわず口をとじてしまうヒカリ。三人を等分に見ながら、シンジはわけが分からないでいた。

「? なんかあったの?」

 腕をくんで天井を見あげるトウジ。

「あのな、ミサトせんせはな、体をはってわしらのことを守ってくださったんや」

「話せば長くなるけどな、去年の秋のことだったんだ」

 眼鏡をなおすとケンスケが、トウジの言葉の後をつぐ。

「うちって、市立だろ? 生徒の質があんまりよくないんだ。

 でさ、なにかあるとうちの生徒が疑われるんだよ。そのときも、うちの生徒がけんかに巻きこまれてさ、相手がここらじゃけっこう有名な私立校の生徒で、親同士のあらそいにまで発展しそうになったんだ。

 そうなったら、どうしたってむこうの方が強いからさ、そのけんかに巻きこまれた生徒が全部悪いってことで一件落着、そうなるところだったんだ」

 ケンスケの握っているはしのさきが、わずかに震えているのが見える。

「そうしたらミサト先生がね、子供のけんかに親の力関係で黒白つけるのか、どっちが悪いのかきっちりあきらかにするべきだって啖呵をきってさ、あちこち走りまくってむこうの生徒のほうが悪いって証拠をみんなの前に出してみせたんだ」

 トウジが、わがことのように胸をはってみせる。

「むこうの妨害もひどいもんやったらしいからなあ。しかもうちの学校の先公どもときたら、そんなミサトせんせの足を引っ張ることばっかりしくさりよって。あいつら、性根が腐っておるんや。

 そんときのこと根にもって、今でもちょくちょくせんせのところに嫌がらせがあるっちゅうこっちゃ。それでも、そないなことがあるってことを、全然おくびにも出しはせえへん。

 うちの学校でミサトせんせだけや、わしらのために泥をかぶってくださるのは」

「……全然知らなかった」

「いいことはいい、悪いことは悪い。教師の言うことはいつもそうさ。でも、それを実際に体を張ってやってみせてくれたのは、ミサト先生だけなんだ」

「すごい人なんだね、ミサト先生って」

「おう、なんといってもわしらの誇りや」

 自分がどれほどこの何週間か幸運であったことを、シンジはいまさらのように感じることができた。前にいた学校で彼は、そんなミサトの足を引っ張った教師と同じようなどうしようもない教師に、さんざんな目にあわされていた。

 四人は、なんとなくしんみりしてしまった。

 が、それも長くは続かなかった。

「時間よ。碇君」

「あ、綾波!」

「綾波!?」

「綾波ぃ!?」

「綾波さん!?」

 四人はおもいっきり驚き、そして、おののいた。

 あいもかわらず綾波レイの登場は突然で、とうとつだった。いっさいの気配も感じさせずに四人のそばに立ち、その澄んだ紅の瞳でみじろぎもせずにシンジのことを見つめている。

「な、なんや、あいかわらず心臓に悪いやっちゃなあ」

 びっくりさせられた照れかくしか、トウジがすこし乱暴な口調で言う。

「そう」

 あいかわらずレイの口調はそっけない。

 が、シンジをのぞく三人は、トウジのなんということはない言葉にレイがちゃんと反応してみせたことに、のけぞるほどにおどろいていた。おそるおそるケンスケが、言葉をつないでみる。

「綾波って、いつも現れるのがとうとつだよな」

「……そう?」

 すこし考えるそぶりをして、確認をとるレイ。

 わずかに小首をかしげている。

 目と口をまん丸にしているヒカリ。通路で踊っているトウジとケンスケ。なにが起きているのかさっぱりわからないシンジ。そんな四人を無表情に見つめているレイ。

 ……♪だってー、九時間半だもーん、スタミナハンディーカーム♪……

 カウンターの上においてあるテレビから流れるCMが、エコーがかかりながらあたりに響く。

 この木造の古ぼけたお好み焼き屋で、その一画だけがまぬけ時空のかなたにとんでいってしまっていた。

 

 最初にまぬけ時空から脱出をはたしたのは、当然のことながらこのなかでは一番の常識人であるヒカリであった。

 流れているCMにあわせて通路で踊っている二人の耳をつかんで座席の奥におしこみ、レイを席にすわらせ、あまっていた取り皿に焼きあがったばかりの野菜お好み焼きをとりわける。

 レイはヒカリの瞳をまっすぐにみつめると、こっくりとうなずいてそのお好み焼きにはしをつけた。

 が、レイは、それ以上はしをすすめることもなくお好み焼きを見つめている。

「どうしたの? なにかあった?」

 レイの様子に、なにか気にさわることがあったのかとヒカリが心配そうにみつめる。

「ごめんなさい。熱くて食べられないの」

 一瞬きょとんとして、それからぷっと吹きだしてしまうヒカリ。それこそ彼女は、目尻に涙をうかべながら笑いころげている。レイは、こまってしまったかのようにずっとお好み焼きを見つめている。

「綾波さんって、ねこ舌だったの」

 目尻の涙を指先でぬぐいながら、ヒカリはたずねた。

 もう一度こっくりとうなずくレイ。その視線は、ずっとお好み焼きを見つめたままである。

 そんな二人のやりとりをぼうぜんと見つめながら、三人の少年は、ぼうっとおなじことを考えていた。

 綾波って、実はとってもかわいいのかもしれない。

 綾波レイという少女が、アルビノであるにもかかわらず、いや、そうであるからこそ美しいというのは、市立第一中学校の男子生徒のほぼ全員の共通の意見であった。しかも、ただ無口なだけではなくて、なにか深いものをその心に秘めていることが彼女の雰囲気を神秘的なものにしていて、近寄りがたいオーラのようなものをそのまわりに作っていた。本来なら、そのあまりにも他人とちがう容姿にいじめの対象になってもおかしくはなかったのにもかかわらず、彼女がむしろ男子生徒のあこがれの存在となっていたのには、そういったわけがあった。

 トウジは思っていた。

 今日のわしは、大安吉日や。神さん、仏さん、ほんまにおおきに。

 シンジは思っていた。

 よかった、ほんとうによかった。綾波がこんなに早くみんなにうちとけられるようになって。

 ケンスケは思っていた。

 おれの目にくるいはなかった。おれのニコンのF5のためだ、シンジ、おまえには絶対に協力してもらうぞ。

 そんな少年たちの思いとはべつに、ヒカリはずっとレイに話しかけている。

「そういえば、碇君に用事があるんでしょ」

「ええ」

「なに? もう研究所に帰るの?」

「いいえ。これから買い物をする予定になっているわ」

「……二人でいっしょに?」

「ええ」

 もう一度おののいてしまう三人。

「不潔、不潔よぉっ!」

「で、でぇーとかぁ!」

「うう、いやぁーんな感じ」

 なにが起こっているのか最初はわからないままに、三人とレイとを交互に見ているだけだったシンジ。しばらくそうやってきょろきょろしていると、こんどは耳までまっ赤になってしまった。さすがの彼にも、三人がなにをどう考えているのか、こうなってははっきりと理解できた。

「ちがう、ちがうよ! そんなんじゃないってば!」

 必死になって否定してみせるが、だれもそんな言葉に耳を貸すはずもない。

 再度のまぬけ時空発生か、と思われたその瞬間、

「違うわ」

 無情で冷たいレイの一言で、すべては平常位置にひきずりもどされてしまった。

 もうちょっと、ほかに言いかたがあるよな。

 そのいっさいの誤解をさせないきっぱりとしたもの言いに、シンジは、すこしだけ不満であった。

 ただ、シンジは気がついていないだけであった。そのときレイのほほが、ほんのすこしだけ上気していたことを。彼女の手が、スカートをぎゅっと握りしめていたことを。

 

 シンジとレイの買い物は、ようするに研究所での生活のための道具一式の購入であった。

 まず、独身者寮の食堂の料理が、シンジにとってあまりにもひどかったこと。そのうえ購買部の品ぞろえがかなり悪く、値段も高かったこと。そして、レイがあまりにも自分の身のまわりのことにむとんちゃくでありすぎたこと。

 そんなこんなでシンジは、二人の「健康で文化的な最低限度の生活」を確保するために、乗り気ではないレイをつれだして買い物にでることにしたのだ。

 なにしろシンジ自身がこの何週間か、前いたところから送られてきた荷物をやりくりして生活していたのである。

 レイにいたっては、着るものといえば制服が何着かと戦闘服各種だけ。食事は夕食だけ寮の食堂でとって、あとはビスケットタイプのレーションのみ。身だしなみのための道具いっさいなく、わずかに歯ブラシと櫛と業務用石鹸があるだけ。

 はじめてレイの部屋をおとずれたシンジは、あまりの生活感のなさに頭をかかえてしまったのであった。

 一応リツコに相談してはみたものの、彼女は、

「それで、なにか不都合があるの?」

 とのたまい、シンジはおろか、その場にいたマヤや日向までもを轟沈させたのである。

 僕がしっかりしなくちゃ。

 胸のうちに新たな決意を秘めたシンジは、その場で何日間かの休みをリツコからむしりとり、二人のこれからの生活の下準備ために使うことにしたのである。

 

 だいたいこれだけのことを、まあそれなりに脚色し、ぼやかすところはぼやかして、シンジは、トウジとケンスケとヒカリの三人に説明した。

「そうだったの」

 自分の勘違いに、照れくさそうに笑いながらヒカリがいった。

「そや、そや、シンジがそんなに女ぐせわるいはず、あらせえへんもんなあ」

 腕を組んで、トウジがうんうんとうなずいている。

「いやあ、おれはシンジのことをしんじていたよ」

 ほほのあたりをひきつらせながら、ケンスケがしらじらしく笑った。

 レイといえば、冷たくなったお好み焼きを肉をとりのけながら黙々とつまんでいる。

「うん、それでさ、今思ったんだけど、これからみんなで買い物にいかない? どこにどんなお店があるかも知らないし、僕には女の子の着るものなんて全然わかんないし」

 本当なら、マヤと日向にいっしょに来てほしかったのだが、さすがに二人とも忙しくて休みを一致させることができなかったのだ。二人のチルドレンの生活のめんどうを見るのも業務の一環であると、さんざんマヤも日向も主張し、さしものリツコも賛同したのであったが、研究の遅れを取り戻すことにやっきになっている研究所上層部が、最後まで首をたてにふらなかったのである。研究者というものがいかに生活感がない存在か、さすがのシンジもあぜんとさせられたのであった。

 シンジの熱心なおねがいに、当然三人に異存はなかった。

「それじゃあ、みんないったん荷物を家におきに帰って、駅の改札口の前で二時に集合ね」

 三人のなかでもっとも乗り気のヒカリが、具体的な計画をたてはじめる。

 さっそく、これからの買い物の予定をたてはじめた四人。最初に決まったのは、レイの着るものであった。なんといっても他人のめんどうを見るのが大好きなヒカリが、またたくまに必要なものをリストアップしていく。

 普段着、おしゃれ着、室内着。靴やインナー、帽子やアクセサリーのようなちょっとした小物。リップや乳液、シャンプーとかリンスとか、特別なときのための香水とか。

 ヒカリは、それらを一つ一つレイに確認をとりながら決めていく。

 レイは、よほどお好み焼きのことが気に入ったのか、話のあいまにいっしょうけんめいはしをうごかし、それを口に運んでいる。とくに彼女のお気に入りは、シーフードミックスお好み焼きであった。まるまる二人前は口にしてしまっていた。ふだん小鳥がついばむほどわずかしか、ものを食べない彼女が。

 みんなにつきあってもらうことからここでの勘定を全部もつつもりでいたシンジは、内心、冷や汗でおぼれそうな思いであった。が、レイが積極的になにかを求めるのを見るのがはじめてだけに、なにもいうことはできなかった。いちおう今日の買い物のために、それなりの現金を用意してあった。

 僕の分の買い物は、カードですればいいか。

 ぼうっとそう考えながらシンジは、レイがさらにシーフードミックスお好み焼きを追加するかどうか考えているのを見ていた。

 父のゲンドウに生活用のカードを渡されてはいたもの、基本的にカードというものが信用できない彼は、これまで一度もそれをつかったことがなかった。ある時払いの現金決済。それが、いやもおうもなく一人で生きていかねばならないシンジの身についたモットーであった。

「それじゃ、だいたい買うものは決まったわね」

 ヒカリが手帳をぱたんととじてたちあがる。

「それじゃ、今日はぼくが払うから」

 伝票を手にとり、シンジも立ちあがる。

「おい、おれのぶんは自分でだすよ」

 あわててケンスケが伝票に手をのばす。しかしシンジは、微笑むとそのままレジにむかって歩き出した。

「いいよ、今日はみんなに買い物につきあってもらうんだし」

「でも……」

 ヒカリがシンジのあとを追う。だがシンジは、なにもいわずにさっさと勘定をすませてしまった。なんとはなしにきまずくなった五人は、そのまま店の外にでた。と、レイがシンジの腕にすっと手をのばす。

「自分のぶんは、自分で払うわ」

 そのまま服の内側から黒革の男ものの財布をとりだし、彼の手に自分が食べた分だけきっちりと最後の一円までにぎらせる。ぼうぜんとしてそのままお金をうけとってしまうシンジ。

「ま、ここは綾波のいうことが正しいよな」

 ケンスケも、そういって代金をシンジに手わたす。

「友達でしょ、貸し借りなんてそんなこといいっこなしよ」

 ヒカリも、自分の食べた分をしっかり支払う。

「うん、ごめん」

 自分が今大変な失敗をしてしまったことに気づかされ、シンジは内心はずかしくてたまらなかった。面に朱がさし、なんとはなしにもじもじしてしまう。

 そんな四人を見ていたトウジが、一言ぽつりとつぶやいた。

「綾波、じぇに、もってたんやな」

 

 

 第三新東京市の市街地は、東京湾岸環状線、久留里線、内房線、といった複数の鉄道のキーステーションである第三新東京駅を中心に、碁盤の目状に整備されている。とくに第三新東京駅駅ビルや、第三新東京市総合庁舎、第三新グラスタワー、といった高層ビルが市の中心部にその偉容をしめしており、一種独特な未来都市の風景をつくっていた。

 家に帰り私服に着替えてあつまった四人が買い物にでかけたのは、その市の中心部からすこしはなれたD−Martという総合量販店であった。この店は、五階だてのビルのすべてのフロアを店舗として開放し、最低限の店員で運営することによってぎりぎりまで店頭価格を下げている、なかなかに利用しがいのある店であった。

 当然トウジやケンスケにこんな気のきいた選択ができるわけもない。母親のいない家で主婦がわりをしている、ヒカリならではのチョイスであった。

「いやあ、ここってただのスーパーかと思ってたんだけどなあ」

 この店にはじめて足をふみいれたケンスケが、おもわずため息にも似た感想をもらした。

「だいたいみんな、便利だからってコンビニを利用しすぎるのよ」

「そうやなあ、ここまで来るバス代考えたって、ここで買いもんしたほうが全然お得やもんなあ」

 ヒカリが、こしに手をあて、胸をはって言った。山とつまれているブランドもののシューズのダンボールにはられている値札をみて、トウジはしみじみと考えこんでいる。

「でも、ここって、すごく品ぞろえがいいよね。ものも良いものがおいてあるし」

 シンジが、ずらっとつりさげられているエプロンの裁縫をみながら感心している。レイといえば、あいもかわらず無表情なままで、ぽつねんとたっていた。じつのところ、呆然としているとも、圧倒されているとも見えなくはない。

 ここが完全に自分のフィールドであることを確信して疑っていないヒカリは、四人にむかってたからかに宣言した。

「さあ、買い物を始めましょう!」

「「「はーい」」」

 男三人が同時にハモる。レイは黙ってうなずいてみせた。

「それじゃあ、最初は綾波さんの買い物からね」

 

 ヒカリの選択眼は、さすがになかなかのものであった。

 レイのための大量の衣類、化粧品、洗顔道具、あとはシンジが夢にまで見た調理道具、そして、その他のこまごました生活用雑貨。男三人の両手一杯にまだあまるほどの量を購入したにもかかわらず、シンジの予定のほぼ七割の出費ですんだのである。

「うーん、もう、まんぞくまんぞく。おもいっきりいっぱい買っちゃったわ」

 店をでたヒカリが、ひとつ伸びをする。

「たしかによう買うたわ」

 テフロン加工でステンレスのフライパンや、鍋や、その他の調理道具に、ついでに食器までもたされているトウジがつぶやいた。

「でも助かったよ、ほんとに今日はありがとう」

 レイの衣類や化粧品やらなんやらを抱えているシンジが、三人に礼をいう。

「それじゃこれから、碇か綾波のところでぱあっとなんかやらないか?」

 こまごました雑貨を両手にさげているケンスケが、さも今思いついた、といった感じで提案した。なぜか彼の眼鏡が、夕日に妖しくきらめいている。

「ええ」

 なんだかんだで、それなりに楽しかったし興奮もしたのであろう、レイが四人にうなずいてみせた。

 そんなレイの反応に、ヒカリはちょっとだけびっくりしたようであったが、すぐに輝くような笑みを浮かべるとうれしそうにいった。

「それじゃ、今日はみんなで試験終了のパーティーね」

 とうぜん、シンジにもトウジにも異存はない。

「でも、どうやって帰ろうか? バス停から研究所まで二〇分は歩かなくちゃならないし」

 ふとシンジが、困ったようにつぶやいた。

 シンジとレイの二人が住んでいる国立基礎理論研究所は、この第三新東京駅からバスで二〇分、もよりのバス停から歩いて二〇分はかかるという、なかなかに辺鄙なところにあった。もしこれだけの荷物を抱えてバス停から歩いて帰るとなると、みんな疲れてしまってパーティーどころではないのは、目に見えるようにはっきりしていた。

「やっぱり、タクシーに乗るしかないんじゃないか?」

「せやけど、高いで、ここから研究所まで乗ってくんは」

 あまりに多い荷物に、五人がこれからどうやって研究所まで帰るか相談をはじめたそのとき、突然クラックションが彼らにあびせかけられた。

「はぁーいそこの皆さん、疾風迅速、葛城印の白タクはいかがん」

「ミサト先生!」

 五人がふりかえってみると、そこには夕日に照らされて紫色に輝いてみえるルノーアルピーヌA310GTが停まっていた。運転席から身をのりだして微笑んでいるミサト。まるでカーグラビア雑誌の写真のように、きまってみえる。おもわずケンスケは、抜く手も見えぬ早技で愛用のキャノンのEOS5をとりだし、その情景をフィルムに焼きつけていった。

「どうしたのみんな、こんなところでいっぱい荷物を抱えて」

 レンズの前でさりげなくポーズをとってみたりしながら、ミサトはルノーをおりて五人に近づいた。ヒカリにトウジにケンスケ、それにシンジ。さらにはレイまでもがいる。いつのまに自分のクラスの生徒とこの二人の転校生がなかよくなったのか、彼女はなかなかに好奇心がうずいたのである。

「いや、じつは……」

 さっそくトウジが身ぶり手ぶりをまじえて説明をはじめる。

 しばらくそれを聞いていたミサトは、五人にむかってウインクしてみせた。

「それなら、碇君と綾波さんはあたしが送っていくわ。今日は遅いわ、あなた達はもうお帰りなさい。明日はまだ学校があるのよ。はめをはずすには半日早いわ」

「そ、そんなあ」

 情けない声を出してケンスケが抗議する。しかし、ミサトはあくまで担任教師としての立場をゆずる気はなかった。にっこりと満面の笑みを浮かべつつ、目だけは笑わずにケンスケに問いかける。

「あら、どうしてぇん? べつに今日じゃなくってもパーティーはできるでしょう? それとも、相田君はどうしても今日綾波さんの部屋にいきたいわけがあるのかなあ?」

 結局ケンスケは、慟哭の涙をながしつつ、家路につくことをみとめたのであった。

 やっぱり、何かわるだくみをしていたのね。

 そんなケンスケをみながらミサトは、心のなかでため息をついていた。彼がまるでストーカーのごとくにあちこちに出没し、パパラッチのごとく写真を撮って歩いているのは、校内では知る人ぞ知る事実であった。よっぽど他人に迷惑をかけないかぎり、生徒を自由にさせておくのが彼女の方針であったが、今のケンスケにはどうもそのよっぽどの場合を適用するべきであるように考えられたのだ。

「それじゃ、また明日ねぇ……っくしゅんっ!」」

 帰っていく三人に手をふりながら、ミサトは盛大にくしゃみをする。

 それからずるずると鼻をすすりあげ、かるく身震いをした。どうやら本格的に風邪を引いてしまったらしい。ひたいに手をやってみると、どうやらかなりの熱があるようだ。

 だが彼女は、あえて明るくシンジとレイに言ってみせた。とりあえず、まだ身体はもちそうであった。

「それじゃ車に乗って。ちゃっちゃと送っていってあげるから」

 へっきしんっ!

 もう一度くしゃみが出る。

 そんなミサトを、シンジが心配そうに見つめていた。

 

 ミサトの運転技術は、じつはかなり上等の部類にはいる。

 ライセンスをもってはいないし、とくに峠や高速をせめているわけではないが、その気になった彼女と彼女のアルピーヌをつかまえるのは、警視庁の交通機動隊の猛者にですらむつかしいらしい。すくなくともこれまで、一度として事故を起こしてはいないし、切符をきられたこともないという。免停はずいぶんくらっているようだが。

 今のミサトは、そのドライビングテクニックのすべてをつかって、田舎道を爆走していた。助手席では、本来ならばナビゲーターをしているはずのシンジがすでに絶叫すらあげられずにおり、後席では、レイが顔色を青ざめさせながらも必死になって荷物をその身体をはって護っている。かんじんのミサトといえば、すでにゼロの領域を突破していて、ただひたすらに車を走らせることしか頭になかった。

 彼女自身は、自分が風邪のせいでいつものとおり流して走ることができない状態にいることをわかっていた。だからこそ彼女は、まさしく本気でそのテクニックのすべてをつかって、慎重に走っているつもりであったのだ。同乗している二人にとっては、慎重という単語の意味をもう一度辞書を引きなおしてしらべて欲しかっただろうが。

 結局ルノーアルピーヌA310GTが、研究所の女子独身寮の玄関前にターンを半回転決めてすべりこんだのは、ミサトがD−Mart前でスタートをきってからきっかり九分四七秒後のことであった。

「ほい、おまたせ。ついたわよん」

 だが、そのミサトの声に反応はなかった。

 熱でかすみがちな目を助手席にむけてみると、そこには泡を吹いて気絶しているシンジがころがっており、さらに視線を後席にむけてみると、レイの白く細い両足が大量の荷物のなかから天井にむかってはえている。

「……ちょっと、二人とも、大丈夫?」

 あわてて二人を助け起こそうとして、彼女の視界はゆがみ、ぐるぐると回転しはじめる。

「りゃ?」

 ミサトは、そのままシンジのひざのうえに突っ伏してしまった。

 どうやら彼女の身体は、とうに限界にたっしていたようである。

 最後にミサトが見たのは、女子寮から飛び出してきた白衣の金髪の女性が、ものすごい形相で自分の車に駆けよってくるところであった。


 あとがき

 

 ごきげんいかがでしょうか、おひさしぶりですH金物です。

 いやあ、早いものでもう第弐話です。

 前回の話が書き上がるまでも早かったですが、今回の話が書き上がるのも早かったでした(笑)。今回は、とりあえずの息抜きのつもりで、かるーく流してみました。でも、予定よりごりごり増えています(笑)。ちゃっちゃと書いて終わらせるつもりでいたのが、綾波レイがくいくいっと私の服のそでを引っ張りまして、セカンドチルドレンがもうすぐ出てくるのに碇君といっしょにいられる機会がないのはいや、ってな感じで見つめるもんですので、結局こんだけ長くなってしまいました(笑)。こんなことやっているから、友人から「綾波らぶらぶ」とかよばれてしまうんでしょうなあ。

 さて、今回はミサト先生の話です。

 私自身は彼女のことが、実は不得意なんです。

 なぜかといえば、エヴァ本編での彼女が軍人としてかなりナニなために、シンジにしろ、レイにしろ、アスカにしろ、子供たちがかなり悲惨な目にあったためです。たとえば最初の三話だって、どうみても戦場神経症にかかっているシンジを、あそこまでほったらかしにしてかつ追い詰めてみたり、シンジに追い抜かれてどんどんノイローゼになっていくアスカを、ほったらかしにしてとうとう自殺するまで追い詰めてみたり、と、指揮官としても、保護者としても「なんだかなあ」といったところが多すぎました。実際、作戦指揮官としての彼女も、私の目からすると決してそこまで有能とは思えませんでしたしね。

 まあ、だからといってエヴァにおいて彼女のことを無視するわけにもいきません。

 で、どうしたかといえば、彼女にはシンジやレイの担任教師になってもらい、さらに、原作よりもう少し人間としての気遣いや優しさというものを持ってもらいました。これで、保護者としても、一人の女性としても、けっこうそれなりの線までいったと思っています(笑)。

 ……なんか、ミサトファンにおもいっきり喧嘩売っている内容だな、これ(笑)。

 でも、まあ、本文であんだけ格好良く書いておけば、みんな許してくれるだろう。かな?(笑)

 ま、そういうわけですので、この第弐話は、私にとってはけっこうな息抜きなわけです。でも、どんどん文章が増えていく(笑)。いいかげん、なんとかしなければなあ。このままでは「ラブラブシンちゃん」までいったいいくらかかるやら。まだ、アスカも、カヲルも、マユミも、マナも出てきていないっていうのに。みんなそろう前に、エヴァ小説ファンがいなくなってしまうぞ、まったく(笑)。

 さて、次こそはミサト先生とシンちゃんがからむ話になるはずです。

 なるでしょう。なるかな。なるといいなあ(笑)。

 まあ、そういうわけですので、みなさん、期待せずに待っていてください。

 ちなみに、最後になりましたが、このストーリーのテーマは、あくまで「ラブラブシンちゃん」です。

 それではまた、機会がありましたら、次の作品でお会いしましょう。

H金物 拝 


 B Partへ続く

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