蒼い闇


彼は、地上に、去った。

巨大な人型は、崩れ落ちていた。

しかし、

二人の人影は

まだ、そこに、あった。







「終わったようだね」

「ええ」

「そろそろ、僕も去るとしようか」

「そうね」

「君は、どうするんだい」

「わたしも、消えるわ」



男性の方が、不意に不思議そうな顔を浮かべる。



「なぜ?」

「それが、望みだから」



彼は、憐れんだように、目を細める。



「君が?」

「・・・・・・・」



彼女は答えない。視線を下に向ける。



「無理だよ」



声が、闇を、打つ。



「君は、僕とは違う」



「同じよ」

「そう言ったのは、あなた」

「そうだったね」





沈黙が、闇を、埋める





「君の望みは、終わった」

「!!」

彼女は、視線を、彼に向けた



「君の望みは、彼を、送り出すこと」

「それは、果たされた」



再び、彼女は、俯く



「そう」

「だから、帰るの」

「わたしは、無に、帰るの」




「帰ることは、できないよ」




「どうして?」

「君の望みが、君を変えた」

「わたしは・・・・」

「変わってしまったんだよ」

「君はね」



沈黙が返る



「僕は、言ったはずだよ」

「君たちには、未来が必要だ、と」

「・・・・・」

「彼には、彼の、未来がある」

「そして、君にも」

「ないわ」




言葉が、闇に、溶ける







「彼には、もう、逢うことはない」







「そして、僕たちと、帰ることはできない」

「君が、望んだのは、そういうことだよ」



彼女は、動かない。



「僕は、彼が、殺してくれた」

「だから、帰ることが、できる」

「君は、違う」

「そう」



学生服を着け、頭と、腕に、包帯を巻いた少女が

現われる。



「ありがとう」

「・・・・・」



「あなたは」


「わたしの、望みを、果たしてくれた」



学生服の少女は、穏やかな、笑みを、浮かべる。



「あの人に、最後まで、縛られていた、わたしの」



「あなたは、わたし、だもの・・・」



「そうね・・・」



微笑みを浮かべたまま、少女は、つぶやく。



「わたしたちは、みんな、おなじ」

「ひとつの、魂」

「リリスの、魂」

「全ての、生きるもの、死ぬものの、魂」



「そう・・・わたしは・・・生まれる前に・・・帰るの・・・」



少女は、首を振る



「あなたは、だめ」



同じ顔の、少女は、紅い瞳に、力をこめる。



「あなたは、まだ、ここには、来られない」

「どうして?」

「あなたは、死ぬことを、選ばなかった」





「わたしは、あの人を、望み」

「そして、あの人から、解放されることを、望んでいた」

「帰ることを」

「それなのに、彼が、わたしを、引き裂いた」

「最後に、気がついた」

「彼と、いっしょに、なりたい」

「彼は、わたしたちとは、違う」

「そう、そして、わたしは」

「死を、選んだ」



「そして、わたしは、生まれた」

「いえ、生まれさせられた」

「あの人に」

「くやしかった」

「でも、わからなかった」

「わたしが、なにを」

「望んで、いたのか」

「そして、あの時」

「やっと、わかった」



「彼を、感じた」



「彼を、そのまま、行かせては」

「いけないと、思った」

「だから、戻ったの」

「わたしの、元に」

「そして、なにもかも」

「包んで、しまわなければ」

「彼は、連れ去られて、しまうから」





「彼と、ひとつに、なるのは」

「賭け、だった」

「彼が、望むなら」

「ずっと、そのままでも、よかった」



「でも、彼は、望まなかった」



「彼の、望みは」

「わたしの、望みだった」

「だから、彼を、送り出した」

「そう」

「あなたの、望みは」

「彼と、同じ」



「そう・・・」

「だけど・・・わたしは」

「彼とは・・・違うの・・・」

「そうね・・・」

「彼には・・・もう」

「逢えないの・・・」

「だから・・・帰るの・・・」

「帰れないわ・・・」

「どうして?・・・」

「あなたは・・・望みを」

「彼に・・・あげたの・・・」

「だけど・・・あなたは・・・」

「まだ・・・死んでは」

「いないのだもの・・・」



「わたしは・・・戻った時に・・・」



学生服の少女は、寂しげに、首をゆらす。



「わたしたちが・・・ここに・・・いるのは・・・」

「リリスが・・・まだ・・・」

「消えて・・・いないから・・・」

「リリスが・・・消えれば・・・」

「わたしたちは・・・いなくなる・・・」

「そうさ」

「でも、君は、まだ」

「消えることは、できないよ」



「わたしは・・・リリスと・・・ともに・・・」

「消えることは・・・できないの・・・」



「リリスは、消えてしまうわ」

「全てのものの、生みの親は」

「全てを生んで、消えるの」

「生まれたものに、全てを預けて」

「あなたは、また、生まれるの」

「・・・・・」

「彼が、あなたと、わたしたちの、想いを、うけて」

「再び、生まれた、ように」

「あなたも、わたしたちの、想いを、のせて」

「再び、生まれる」

「そして、リリスも、また、生まれるの」

「リリスは、消えてしまう」

「しかし、常に、存在する」



「彼の・・・もとには・・・」

「行くことは・・・できないのね・・・」



哀しみの色が、三人の顔を、染める。



「君は、彼を・・・」

「送り出して・・・しまったから・・・」







「僕には、生と、死は」

「同じ、ものだった」

「わたしには」

「なにも、なかった」



「わたしにも・・・もう・・・」

「なにも・・ない・・」



「違うね」

「ちがうわ」



「・・・・・」



「君が、彼を」

「選んだ、時に」

「彼が、あなたに」

「わかれを、つげた、ときに」

「君は、どこへも」

「行けなく、なって、しまった」

「君は、在ることを、選んだ」

「あなたは、帰るところを、失った」

「君だけが、君に、在るんだ」

「他の、全ては、失ったけれど・・・」







少女は、ほんの一時、目を閉じた。







「わたしは・・・どうなるの・・・」





「わからない」

「わからない」



少女は、瞼をひらき、紅い瞳を、ゆらす。



「無に、帰ることは」

「もう、できない」

「彼に、逢うことも」

「もう、できない」

「虚無と」

「現実の」

「間で」

「ただよう」

「どこにでもいる」

「どこにもいない」

「君はそれを」

「選んで、しまった・・・」





少女の瞳は、なにも、写しては、いない。





「もう、時間だね」

「そうね」

「・・・・・」

「お別れだ」

「お別れね」

「・・・・・」









「さよなら」




「さよなら」






















「さよなら・・・・・・・」





























ひとしずくの

輝きが

蒼い闇に

ぽつんと

落ちた


そして



闇とともに




輝きは





消えた








She goes out...

Writen by Tsukasa Maruyama


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Upload date: 97.10.10
Update date: 97.10.15

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