HOWEVER   少し遅れたけど綾波補完委員会30000HIT記念

                    written by Radical



よく晴れたうららかな春の午後。
シンジとレイは海を見下ろす丘の上に居た。

「・・・もう5年になるんだね」
レイは答えず、わずかにつないだ手に力を加えた。
眼下には、未だ破壊の傷痕を残す元第三新東京市と、ほのかに赤味を帯びた海が広がっている。
春のやわらかな風が二人を包むように吹き抜けた。

サードインパクトにより再び四季を取り戻したこの国は、大災害の中心にあったにもかかわらず急速に復興しつつある。
もっとも過去にも戦争やセカンドインパクトにも耐え、その度に驚異的な復興を遂げた国なのだから、今回もその底力により復活するだろう。
表向きには自然的な大災害とされたあの惨劇は、あの世界から還ってきた関係者達にとって一生忘れる事のできない事件だった。
そのほとんどは他者に対して口を閉ざし、自らの贖罪とでも言うかのように都市復興の中心となっていった。
存在意義の無くなったNERVはその能力を世界の再建のために発揮するようになり、今ではほとんど壊滅した各国行政部に成り代わり 行政指導さえ行うようになっていた。
特にゲンドウ・冬月の二人の持つ行政能力には目を見張るものがあった。
NERVが一特務機関であった頃の組織運営については冬月にほぼ一任されていたようなものだったが、使徒撃退という責務から開放された二人は 以前とは打って変わって協力し合い、国連事務総長とそのスタッフとして世界中を駆け回っている。
元NERVの主要メンバーもそのまま残り、それぞれ忙しく飛び回っている。
ただし、作戦本部は解体され、諜報部を加えて治安本部として再発足したが、サードインパクトから5年もたった今ではせいぜい小競り合い程度しかなく、 元作戦本部長で現治安本部長は毎日を夫とともに畑仕事で過ごしている。

シンジ達チルドレンも軍籍には残ったものの、予備役扱いとなり、普通の生活に戻った。
とは言っても、シンジ・アスカは精神的ショックから立ち直るのに半年を要し、レイもその間二人の世話をしていた。
そのため、いわゆる"普通"の生活に戻ったのは、約1年後の事だった。
その頃、ようやく第三新東京市も人が生活できる街としての機能を取り戻し、彼らの友人達を含む元住人達が疎開から次々に帰ってくるようになっていた。
1年のハンデはあったが、彼らは飛び級制の導入された高校、大学を先日卒業し、この春からNERVで働く事が決まっていた。
「・・・綾波はどうしてNERVに入ったの?」
再建の進む街を眺めていたシンジが視線を変えずに聞いた。
「・・・みんなとの、絆があるから」
レイもそのままで答える。
「碇君は、どうして?」
今度はシンジの方を向いて聞いた。
「うん・・・僕は、僕に何ができるかわからないんだけど・・・この世界を望んだものとして、できる事をしたいんだ。 僕の望んだこの世界・・・NERVのみんなや、アスカやトウジや、カヲル君や・・・何より綾波が幸せになれるように」
「な、何を言うのよ・・・」
レイは頬を染めて俯いてしまう。
一転、シンジは真剣な眼差しで語る。
「これは贖罪なのかもしれない・・・多くの人たちを犠牲にしてきた僕の・・・」
「碇君・・・」
レイは心配そうにシンジを見つめた。シンジはごまかすように笑みを浮かべ、つないだ手に少しだけ力を込めた。
「心配しないで、綾波。それにそうする事で、僕自信も幸せになれるような気がするんだ」
「本当?」
「本当だよ。あれから僕はみんなに迷惑を掛け続けてきたし、誰よりも綾波には世話になりっぱなしだったしね。そんな人たちが幸せになる事が、 が僕の幸せにもなるような気がするんだ」
「私ならいいのに・・・」
優しく微笑むシンジを直視できないレイは、顔を一層紅くして呟いた。

・・・本当に、綾波には哀しい思いばかりさせたからなぁ・・・
シンジの中でこの5年間の出来事が走馬灯のように過ぎてゆく。
ショックから立ち直る前は誰も信じられず、サードインパクトすら綾波のせいにしてしまっていた。
造られた生命である事に訳も無くおびえてしまった事もあった。
立ち直ってからも、綾波のお陰だという事を忘れて蔑ろにした事もあった。
もちろん、嫌な事ばかりじゃない。楽しい事、嬉しい事もいっぱいあった。
みんながあの世界から還ってきたこと。
綾波は今でも苦手みたいだけど、父さんと分かり合えるようになった事。
父さんとリツコさん、ミサトさんと加持さん、マヤさんと青葉さんの結婚。
トウジの足がNERVのクローン技術で元どおりになった事。
他にも数え上げたらきりがない。
でも、いつでも僕の側には綾波が静かに微笑んでいてくれた・・・。

「・・・碇君、そろそろ時間じゃない?」
一人感慨にふけってしまっていたシンジにレイが声を掛けた。
なんと、ゲンドウ主催で、NERVの歓迎会が催されるのだ。二人のほかにもアスカやカヲルも呼ばれている。二人はシンジ達より1年早く NERVで働いている。
「ああ、そうだね」
「もう行きましょう。遅れるとうるさい人たちばかりだから・・・」
レイはおどけた様に舌をだし、シンジの手を引いて歩き出した。

・・・いつか、君に言うよ

「そういえばアスカなんだけどさ、最近妙なんだ」

初めて出会った頃の君を

「妙って何が?」

何気ない日々の中の君を

「うちに帰るとカヲル君の話しばかりするんだ。すごく嬉しそうに」

幼さの残る声や、少しだけ気の強いところも

「そう、アスカが・・・彼の事、好きなのね」

全てが好きだって

「・・・やっぱりそうなのかなぁ」

・・・だから

「碇君には分からないかも知れないわね」

その全てを包み込める男になったら

「何だよ、それ・・・」

一緒に幸せを紡いで行こうって

「だって私の気持ちも知らないくせに・・・」

今はまだ自信が無いけど・・・

「・・・」

いつかきっと・・・


二人が去った丘の上には、何時までもやわらかな風が吹き抜けていた。



Please Mail to Radical <radical@pop01.odn.ne.jp>



作者Radicalのコメント:
どうも、Radicalです。
今回のお話しはどうでしたか?一応「Over The Trouble」の少し前のお話なんですが、なんだかよく分からなくなっちゃいましたね。 シンジ君はやけに格好いいし・・・。まあ、私なりのその後の世界を書きたかったもので、こんなになっちゃいました。
ご意見、文句、感想など有りましたらメールをください。今後の励みになります。
それでは、malさん、遅くなりましたが、30000HITおめでとうございます。私の拙文を載せていただいて、本当にありがとうございます。 また、今後もお世話になりますので、よろしく。

mal委員長のコメント:
Radicalさんに3万ヒット記念に頂いた、Over The Troubleのプロローグの
ようなこの作品、吹き抜ける風が、二人の、そして世界の行く末を
暗示するかのようにさわやかに通り過ぎていく・・・ええ話や(^^)
Radicalさん今回もどうもありがとうございました!、末永いおつきあい
よろしくお願いしますね!!

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Received Date: 98.4.9
Upload Date: 98.4.12
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