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  「不思議な願い」

                    作:yosi


 <作者より:ナレーションは森○レオさん風でご想像下さい。>

 

  

 

『ジンゴ・べー、ジンゴ・べー、〜』(ジング○・べルが流れる)

 

クリスマスまで後わずかに迫った日のこと。

雪の降らなくなった常夏の街で、雪の白さを持つ少女は願いをかける。

 

 

 

そして、雪を覚えている世代は、昔を懐かしむ。

 

 

    *****

 

 

戦いの終わった後、ネルフはUN配下の研究施設となった。

日本政府からの委託の形で、MAGIが第三新東京市の行政管理を行って

いるのは、それまで通りである。

電力供給の管理、上下水道の施設管理、電車の運行、交通渋滞の緩和、等。

MAGIなくして、快適な生活は実現しえない。

いや、街の復興さえも、ままならなかったであろう。

 

 

 

司令所のスクリーンには、街のそこかしこの様子が映し出されていた。

リツコがコンソールの前でコーヒーを飲んでいると、冬月がやってきた。

 

「・・・やはり、クリスマスには雪くらい降らないと風情がないな。

 半袖シャツのサンタクロースでは、様にならんよ。」

 

「あら、副指令。お言葉を返すようですが、セカンドインパクトの前でも

 オーストラリアのサンタは水着でサーフィンをしていましたわ。」

 

「まぁ、それはそうなんだが。雪の京都を思い出してね・・・」

 

「『京都のサンタ』を『風情』とおっしゃるんですか?」

 

「い、いやぁ。そう、論理で割り切られても困るな。」

冬月は苦笑いしながら、そう答えた。

 

 

 

「ところで、あのツリーは、どうしたんだね?」

 

司令所の中には、2m程のクリスマスツリーが立っていた。

ビールの空き缶や、七夕の札のような場違いな飾りがかかっていた。

 

 

「今朝、青葉君が持ってきたんです。彼、ネルフ社友会の幹事ですから。

 でも、所詮は模造品ですわ。ただの安物セラミックスの塊。」

 

それを聞いて、冬月が再び苦笑いを浮かべた。

「毎月、給与から天引きされている会費が、こんなところに使われているのかね。」

 

「後でしかっておきましょうか?」

 

「いや、そういう意味ではなくて・・・

 せっかくだから、もっと楽しいイベントにしたらと思ったんだよ。」

 

「・・・クリスマスが楽しいだなんて、昔の話ですわ。」

リツコが、むげもなく言った。

 

「冬の賞与に、特別プレゼントを付けるのはどうかね。

 みんなが自分のほしい物を書いて、抽選で現物を支給するんだ。」

 

「副指令のお好きなように・・・」

 

  

論理しか信じていなかった彼女の心にも、雪解けの気配が感じられた。

 

 

 

    *****

 

 

こうして、『ネルフ冬のプレゼント大会』が幕を開けた。

参加資格は、ネルフ職員であること。

『常識の範囲内で実現、購入できるもの』なら何でもかまわないこと。

ほしい物をメールに書いて応募し、MAGIが選定を行うこと。

そして、お祭り気分を盛り上げるために、誰が何を希望したかを

電子掲示板に貼りだしていくこと。

  

 

ミサトの場合

「ビール1年分! いや、ビール一生飲み放題! これで決まりよねん。」

 

 

リツコの場合

「ミサトったら、恥ずかしいにも程があるわね、まったく。

 ・・・でも、何にしようかしら?

 作戦部の予算をまるまるもらうっていうのが、いいかしらね。」

 

 

マヤの場合

「う〜ん、どれにしようかなっと。これも可愛いし、こっちもいいなぁ。

 先輩よろこんでくれるかなぁ・・・キャッ。」

(ペットショップのホームページで猫を選んでいるようです)

 

 

アスカの場合

「プラダに、シャネルに、フェラガモに・・・

 ヨットに、別荘も必要ね。豪華世界一周クルーズもしたいし。

 まぁ仕方ないから、下僕のシンジも3等船室で連れていってあげるわ。」

 

 

シンジの場合

「プレゼントって言われても・・・もらったこともないし。

 自分のほしいもの・・・特に思いつかないな。

 みんな何にしたんだろう?

 ミサトさんは、ビールか・・・いつでも買えるのに。

 アスカは・・・あんなにいっぱい書いたらダメなのに。

 綾波はまだ応募してないんだ。

 ・・・

 そういえば、綾波のマンションってボロボロだったよなぁ・・・」

 

 

レイの場合

「・・・クリスマスって何? サンタクロースって誰?

 プレゼントがどうしたの?

 ・・・そう、ほしい物はなんでももらえるのね。」

 

 

 

    *****

 

 

そして、みんなの夢をのせた大抽選会の当日がやってくる。

 

「いいですか、みなさん! それでは、抽選を始めたいと思います。

 今回、うれしいことに、ネルフ職員全員の参加をもって

 クリスマスの・・・」

 

「青葉君! 前説はいいから、早くやってちょうだい。」

ミサトが、ビール片手にヤジをとばした。

 

「す、すみません。つい、ライブの時の癖で・・・

 それでは、まず、第一次選定の結果で〜す。」

 

 

メイン・スクリーンに、表示されたいくつもの『応募』が点滅を始めた。

ドラムロールとともに、点滅が徐々にゆっくりになる。

選定に落ちたものは暗くなり、それが次第に増えていく。

最後に10個だけが残り、ズームアップされる。

 

 

「さぁ、この10人が、一次関門を突破しましたぁ!

 MAGIによると、予算と実現可能性、道徳性の観点から

 振り落としが行われた模様で〜す!」

 

あちこちから、悲観と羨望の悲鳴が上がった。

 

「ちぇ。ビール飲み放題の夢が・・・」

 

「ミサトのは道徳的に不可ね。私のは何でダメだったのかしら。

 MAGIの解析ロジックにバグが残ってるようね・・・

 それにしても、レイったら・・・しょうがないわね。」

 

「・・・うっうっ、先輩、ゴメンなさい。

 世界中の猫を買い占めようとしたのに・・・」

 

「ち、ちょっと、何でアタシのが落ちるのよ。

 ファーストとシンジのは、残ってるじゃない!」

 

「綾波のって・・・意味が分からないよ。」

 

「碇君・・・あんなこと。」(ポッ)

 

 

残った各人の『応募』内容が、スクリーンに大写しになる。

シンジとレイのものも、含まれていた。

 

落ちたアスカは、地団駄を踏んで悔しがり、リツコにくってかかった。

「もう一度やり直しなさいよ! こんなのインチキじゃない!」

 

 

ミサトがシンジにすり寄ってきて言った。

「シンちゃんたら。なぁに、あれは。まったく隅におけないんだからぁ。

 『綾波の新しいマンション』ってことは、一緒に暮らすってことね。

 知らない間に、そんなとこまで進んでたのかしらねぇ〜。」

 

「ち、違いますよ。誤解です。僕は、ただ・・・

 ミサトさん、もう酔っぱらってるんですね。」

 

「バカシンジ! 何よ、あれ。いつの間にあんなの応募したのよ。」

アスカがやってきて、シンジにかみつく。

 

行き場のないアスカの怒りは、シンジの上に舞い降りたようである。

ずいずいと詰め寄るアスカの前に、シンジはおろおろと助けを求めていた。

 

「で、でもさぁ。ほら、綾波のって、おかしいよね。

 あれ、文字化けでもしてるのかな。」

 

それを聞きつけたリツコが。

「失礼ねっ。MAGIに限ってそんなことはありえないわ。

 あれは、あの通りに、レイが送ってきたのよ。」

 

「ファーストったら、プログラムでも欲しいんじゃないの!

 『欲しい物は、01RSI9GA:])"3478〜』って、何を考えてるんだか。」

 

 

 

レイの書いた『願い』は、数字と記号の羅列だった。

 

 

 

「あれはねぇ・・・まあ、いいわ。ところで、レイは・・・」

 

そんな騒ぎも知らずに、レイは部屋の片隅でぼーとしていた。

シンジの書いた願いが、自分に関するものだったから。

 

 

 

「綾波。あれって、どういうことなの?」

 

「い、碇君・・・あれは、その・・・あの・・・」

 

日頃は冷静沈着なレイが、珍しく恥ずかしそうに俯いていた。

 

 

「私からも聞くわ。レイ、どうしてなの?

 あれじゃ、他の人には分からないじゃない。」

 

リツコには分かったのだろうか。

なぜか優しそうな目でレイに問いかけていた。

 

 

「・・・みんなに見られると、恥ずかしかったから・・・」

やっとの思いで、レイが口にした。

 

リツコが、そんなレイに再び聞いた。

「だからって、隠したらサンタクロースにも読めないわよ。

 選定に残ったんだもの・・・もう、いいわよね?」

 

「・・・はい。」

消え入りそうな声でレイが答えた。

 

 

「マヤ。レイの『願い』を解読してちょうだい。

 たぶん、ヘルマン式分散楕円方程式の改良型で暗号化されているわ。

 ・・・時間がかかるようだったら、レイの専用マシンをハッキングして

 鍵を取り出してもいいわよ。」

 

「はい、先輩。わかりました。

 ・・・解読できました。今、スクリーンに出します。」

 

 

 

ただの数字と記号の羅列が、意味のある言葉に変わった。

 

 

 

 

 

    *****

 

 

結局、抽選に残ったのは、冬月の書いた『自然の雪で遊びたい』だった。

今や常冬と化したオーストラリア支部から、急遽、輸送機いっぱいの雪が

ネルフ本部に運ばれた。

その直後、汗水垂らしてかまくらを作る青葉と日向の姿が見られた。

そして、その中でうれしそうにお茶をすする冬月の姿がほほえましかった。

 

 

 

一方、あの二人は・・・

 

「あ、綾波。よかったね。新しいマンションが決まってさ。

 前のマンションは取り壊しが決まってたなんて、知らなかったんだ。

 知ってたら、あんな変なこと書かなかったのに・・・

 勝手なことして、ゴメン。」

 

「ううん、いいの・・・私、うれしかった。

 私の方こそ、ゴメンなさい。」

 

「と、とりあえずさぁ。新しいマンションに移るまで、うちにおいでって

 ミサトさんも言ってるし・・・どう? かなぁ。」

 

「・・・お願いするわ。」

 

 

 

レイにとって、はじめての願い。

 

 

 

    *****

 

 

「へっぷしゅん! まぁた、誰か噂してるわね。もてる女はつらいのよん。」

 

「汚いわね、ミサトったら。

 日頃の行いが悪いんだから、悪評に決まってるじゃない。」

 

 

終わり


Please Mail to yosi <ayoshida@po.kumagaya.or.jp>



作者コメント:
時節がらクリスマスものです。あまりにありがちなネタですが、
それなりの味付けをしてみました。レイちゃん主役なのに、
オールキャスト!って感じになりました。
最近の暗号化技術の報道を見て、思いついたものです。

mal委員長のコメント:
一万ヒット記念に頂いたこの作品、ちょっとしたヒネリと
ほのぼのな小品、う〜ん、うまい!!!(^^;
レイちゃんわざわざ暗号化してまで・・・恥ずかしがりやなのね(^^;
あ〜んど嬉しいハッピーエンド(^^)、にしても冬月への景品・・・
うーむ今年の雪は遊ぶどころじゃなかったな(^^;(^^;
yosiさんまたよろしく!!(^^)

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Received Date: 97.11.30
Upload Date: 97.12.3
Last Modified: 98.1.30
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