爽やかな涼しい風が教室を通りすぎた。

「ふぁあ」
退屈な授業が終わって私は思いっきり大きな伸びをした。四季がはっきりしなくなったとは言え、12月にもなれば流石にかなり涼しくなってくる。昔はこの時期になると寒くて大変だったみたい。まだ、この辺が「箱根」と呼ばれていた頃みたいだけど。

「アンタ忘れてないでしょうね」
「わ、忘れてなんかないよ。ちゃんと考えてるって」
「ふうん、去年みたいにわけわかんないもんだったらぶっ殺すわよ」

あらあら、碇君たらまたアスカに難癖つけられてるの。今回はなんなのかしら。
アスカももう少し言い方を考えればいいのに。碇君落ち込んでるみたい。

「じゃあ、私はヒカリと帰るからしっかり考えなさいよ。楽しみにしてるんだから」
アスカはにやりと碇君の方を向いて笑うと洞木さんと一緒に帰っていっちゃった。

碇君たら下向いてまた自閉モードね。

「い・か・り・く・ん、何考えてるの?」
「あ、綾波か。べ、別に大したことじゃないよ」
あ、またすぐ赤くなる。こんなとこ可愛い。

「またアスカに無理難題押しつけられたんでしょ」
「え? いや、もうすぐアスカの誕生日だから、プレゼント何するかってだけの話だよ」




    プレゼント

                    written by つっくん





「ふうん、付き合っていると違うね」
「そ、そんなんじゃないよ。ただアスカとは幼なじみだから子供の頃からの習慣なんだよ」
アスカのことになるとすぐムキになるのね。

「で、去年はいい加減に選んだら怒られたと」
「しょうがないんだよ。クリスマスも近いしそっちがいい加減だとまた怒るし。だいたい女の子が何欲しいかなんてよく分からないよ」
「あら、心をこめて選んだらどんなものでもうれしいはずよ」
「そうかな。あ、そうだ綾波良かったら一緒に選んでくれないかな?今日あたりプレゼント探しに行こうかなって思ってたんだ」
「え、私?」
「うんトウジと行こうと思ったんだけど、去年それで失敗したし」
「・・・なんとなく想像付くわね」
洞木さんには悪いけど、鈴原君じゃ・・・ね。

「やっぱり。で、いいかな」
碇君と二人きりか。悪くないわね。

「いいけど、何かおごってくれるんでしょ」
「あ、そうくる?ホント綾波って、食べるの好きだよね」
「ひっどい、碇君て私のことそういう風に見てるのね」
もうそれじゃ食欲魔人じゃない。

「じょ、冗談だよ。気を悪くしたらゴメン」
「ふふふ、すぐ謝らなくてもいいの。じゃ行きましょう」
せっかくのチャ〜ンス(笑)、逃すわけには行かないわよね


「で、どこ行くの?」
「う〜ん、今度出来た駅前のSCにしようかと思っているんだけど」
「私もそこ行きたかったの。ラッキー、そうしましょう」
ホントは二人きりならどこでもいいの。


外へ出ると日が短くなったので、影が長く伸びていく。碇君と並んで駅前へ向かう。
師走ともなるとやっぱり人出が多いわね。駅前に近づくと更に人混みが酷くなる。
やっぱり、遷都も間近になると人が増える訳か。

「きゃ」
いけない、余計なこと考えてたら人にぶつかっちゃった。

「だいじょうぶ?」
優しいのね碇君。アスカはいつも気を使ってもらってるんでしょうね。

「これじゃはぐれちゃう。えいっ」
腕組んじゃおうっと。へへへ

「あ、綾波ぃ。ちょっと恥ずかしいよ」
あ、顔真っ赤。もっと強く腕絡めちゃう。

「だって、こうしないと見失っちゃうもん。それとも私とだったら迷惑かな」
って言って、下俯くの。

「そ、そんなことないよ」
ほらね、慌てて否定してくれる。今はこの腕を独り占めしてもいいよね。

「ところで、どんな物をあげるつもりなの」
やっぱり私も赤くなってるみたい。誤魔化すために言葉を繋ぐの。

「う〜ん、全然分かんない」
「去年は何あげたの?」
「思い出したく無いなあ。アスカったら、包み開けるなりゴミ箱に投げ捨てたんだよ」
「ひっど〜い、私だったら碇君がくれる物なら何でも大事にするのに」
「えっ?」
碇君の怪訝な顔。私ったら、うっかり本音言っちゃった。どうせだから勢いで続けちゃえ。

「もちろん、碇君ならもっと大事にするわよ」
「え〜」
アラ?真剣に驚いてる。今日のところはこのくらいにしておきますか。

「なんてね」
「綾波ったらホントに冗談うまいんだから」
「テへへへへ」
私って駄目ね。この先の言葉聞くの恐いのよね。


そんなこと話しているうちに目的地に着いたみたい。碇君たらそわそわしてる。

「ねえ、綾波、お店の中に入ったんだからこれ止めようよ。みんな見てるよ」
恥ずかしがり屋さんなんだから。でも確かにみんな見てるわね。碇君可愛いから女の子の視線が痛い。でも、

「駄目、お店の中も混んでるもん」
って、にっこり微笑むと、困ったような顔してそっぽを向いちゃうの。こういう顔もいいなあ。

「ねえ、何見るの?」
「う、うん。アクセサリーなんてどうかな」
「いいわね、ふむふむ碇君の選択眼をお姉さんが判断して上げる」
「ああ、それが自信ないから綾波に来てもらったんじゃないか」
「でも、まずは碇君が選ぶのよ」
「分かったよ」
いいなあ、アスカ。碇君にプレゼントもらえて。


噴水が上がっている吹き抜けの階段を通って2階のアクセサリーショップへ着いた。店先にまでアクセサリーが積み上がっているのよね。店の中女の子ばかりだから、碇君おどおどしている。

「さあ、入るわよ」
「う、うん」
私は強引に引っ張って店内にはいる。

「目移りするわね」
「僕、良く分かんないよ」
ここの棚は髪飾りか。色々あるけど、アスカのあの赤い髪飾り(ヘッドセット)はトレードマークだもん。

ここは、イヤリングか。あれ、碇君立ち止まってる。

「これなんかどうかな」
ふーん、赤いお魚のイヤリングね。

「なかなか、いいじゃない」
「そう?じゃこれにしようかな」
「他にも見てみたら」
「なんか、恥ずかしいし」
「そんなことじゃ、アスカにまたはたかれるわよ」
「・・・そだね」
あらあら、やっぱり恐いのかしら。

と言うわけで二人でぐるっと店内を回った。女の子達の視線が気になるのか碇君顔赤くして下向いてる。
私のことを羨ましそうに見ているのは気づいてないのよね。きっと。

あら、あれはさっきのイヤリングと同じデザインの魚をレリーフにしているヘアバンドね。白の色違いで私に似合わないかしら。
碇君が見ていないのを確認して、さっと手に取ってみる。うん、やっぱりいい感じ。

碇君は、さっきのイヤリングと別のブローチを手にとって真剣に見ている。
いつものほんわかした顔もいいけど、真剣な顔もとってもステキ。結局どんな顔でもいいのかなあ、私。


「やっぱり、こっちにするよ」
「へ? ああそう」
「もう、ちゃんと見てなかったでしょう」
まさか、碇君の顔を見てたとは言えないよ。どれどれ、やっぱりイヤリングにするのね。

「うん、これならアスカも気に入ると思うわ」
ちょっとだけ、胸が痛い。

「イヤリングなんて早いかな?」
「そんなこと無いと思う」
私も今度つけてみようかな。

「綾波が見てくれると思うとすぐ決められたよ」
そうね、碇君が決めた方がアスカも喜ぶわね。

「済みません。これ下さい。プレゼントなんでリボンもお願いします」
「はいはい」
やることもないし、またさっきのヘアバンド見ちゃう。


「それと、これも下さい」
「え?」
碇君たら私の目の前のヘアバンドをさっと取り上げた。

「綾波、さっきもこれ手に取ってたでしょう。買い物つき合ってくれたお礼にプレゼントするよ」
「え、いいよ。悪いじゃない」
「駄目かな。少し早いクリスマスということで」
はにかんだように笑う碇君。うれしいに決まってる。

「高いものじゃなくて悪いんだけど」
「ううん、凄くうれしい。ありがとう」
心の底からうれしいよ。思わず胸の前で指を組んでジャンプしちゃった。


「あらあら、これもお包みしましょうね」
店員さんが笑ってる。ちょっと恥ずかしい。碇君も私のオーバーな行動に照れたのか顔赤くしてる。




1階の噴水の前の藤製のベンチに二人で腰掛けてジェラートのアイスを食べた。碇君はダブルでも奢ると言ってくれたけど、さっきプレゼントもらったし、食いしん坊と思われるのは癪だからシングルで我慢。でもコーンがおいしいんだよね。
端から見てるとカップルに見えるかしら。


「綾波って、一生懸命な顔して食べるんだね」
「あら、どういう意味かしら」
君のことを考えていたんだぞ。

「いや、アスカだとこうして食べてるときもずっと喋るから・・・」
「ほう?二人で良くデートに来ると言いたいの」
「いや、そんなんじゃないよ。ただの買い物だよ」
顔を真っ赤にしてるけど、アスカはそうは思ってないよ。

「それにしても、こういうとき他の女の子の話題をするのはマナー違反よ」
「えー?なんで?アスカと一緒の時も洞木さんや綾波の話するけど平気だよ」
「あっそう」
私なんか目じゃないってわけね。

「でも、そういえば最近綾波の話題をすると睨むときがあるかも」
(◎-◎;)ト゛キッ!!でも私の気持ちばれてないはず。とにかく釘を刺しておいた方がいいわね

「今日のことは内緒ね。私も品物選びに関わったと知ったらアスカに怒られるわよ」
「う〜ん、そうかなあ?」
「だって、しっかり考えなさいと言われてるんでしょ」
「そうだった。ありがとう。そうするよ」
屈託の無い笑みの碇君。アスカは毎日間近でこの笑顔が見られるんだわ。なんか不公平。



帰り道すっかり暗くなっている。碇君の笑顔を見ながら歩いていたら、いつもの曲がり角。この先は別々なのよね。



「じゃあ、綾波今日はありがとう。また明日」
にっこり笑って手を振る碇君。

「あ、プレゼントありがとう大事にするわ」
「その台詞、アスカに爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいねえ」
ううん、だって本当の気持ち。


振り返りもせずに去っていく碇君。私はしばらく後ろ姿を見送っていた。これからまた一人の寂しい部屋に帰るのよね。でも、今日はプレゼントがある。うれしいから一晩ベッドの上に飾って置くわ。
いつも碇君に色々してもらってるアスカには分からないでしょうね、この気持ち。




「くしゅん」
「あら、アスカ風邪でも引いたの」
「また、誰かが私の噂をしてるのよ。もてる女って罪よね」
「慣れない事するからじゃない?」
「あ、ヒカリ酷〜い」
「あら、愛しの碇君と帰るのをあきらめてまで、私に編み物手伝わさせているんじゃない」
「だって、クリスマスに間に合わないんだもん」
「最初からサマーセーターなんて無謀じゃない?全くアスカって素直じゃないんだから。去年の誕生日プレゼントだって、みんなの見てる前でゴミ箱に投げたりして」
「だってあいつセンス悪いんだもん」
「でも後でこうして、大事に机の上に置いてあるのにね」
「バカシンジが来るときは隠すのよ。そうすれば今年はもう少し真剣に考えるでしょ」
「あ〜あ、ごちそうさま。あ、そこ違う。ほらこうしないと、また一からやり直しになるわよ」



Fin




Please Mail to つっくん <tsuyama@alles.or.jp>
His HomePage at
つっくんの部屋



熱烈LAS派のつっくんです。自分のホームページでもそれらしいのを書いてます。でも、HALさんの切ないリナレイを見ていたら、彼女にキュンと来ちゃって(^◇^;)。それで私も書いてみました。学園エヴァです。ただし私のSSはもっとレイが積極的で盛んにシンジにアプローチしてますが、こっちのレイはもう少しけなげです。よろしかったら私のページも見て下さい。

Top Page Contributions  

Received Date: 98.11.06
Upload Date: 98.11.06
Last Modified:
inserted by FC2 system