輪廻

                        written by TAK-A



僕が今日たいして美味しくもない、母親のご飯を食べてると
テレビから、ニュースが流れてた「内容は少女が殺された」それだけだった。
いつもならたいして気にも止めない話だが、写真を見たとき
箸で持っていたじゃがいもの煮付けを落としてしまった。


そこまで聞くと、僕はテレビを消してしまった。
そう、綾波レイが死んでしまったのだ。

これが7月21日、夏休み初日の出来事だった・・・。





翌日、
昨日の事件を知り、すぐには眠れないだろうと思ったが
睡魔には勝てなくて、すぐに眠りに就いた。
昼過ぎに目が覚める、夢を見たが忘れた。
なんとなく後味の悪い、不安になるような夢だった。
ベットから抜けだし部屋を出ると、母さんは仕事に出かけてた。
そしてテーブルに冷めきった、卵焼きと味噌汁があって
横に母さんが走り書きをしたであろうメモ書きがあった。
読むと


・・・また男と密会か、子供だから何も知らないと思ってる・・・
・・・知らないのは母さんだけだよ・・・


そして料理に箸を付けつつテレビのスイッチを入れる
テレビの画面には、ワイドショーがやってて
綾波レイの葬式の中継が行われてた。
テレビの画面にはレイの両親と友人が写されてた。
そしてレイの両親が大きく写されてるとき、
シンジはレイの両親に「はじめまして、さようなら」と、呟いた。

・・・だって、会う必要はないもの・・・

そしてレイの通ってた高校の制服を着た女生徒がレイの棺桶にすがりつくように泣いてる
画面には学校でレイの一番の親友だった酔原ミクさんと書いてある
彼女は涙で「ヒック、ヒック」と、しゃっくりをしながらマスコミに答えていた。

「綾波さんは、学校でも人気者でいつもみんなの人気者でした。
 なぜ、殺されてしまったのか、何故あんないい人が殺されなくっちゃいけないのかわかりません」

彼女は、そう答えると「わぁー」と大声で泣き出してしまった。
シンジの心には彼女の行動は白々しい演技にしか見えない。

・・・うそだぁ、綾波がクラスの人気者だって?・・・
・・・綾波はいつも学校の子たちはみんなガキばっかりでつまらない・・・
・・・だからいつも無視してる、そう言ってたぞ・・・





夕方になり学習塾へ向かうシンジ
1年前、そこでシンジは初めて綾波レイと出会った。
シンジが綾波レイに対して抱いた第一印象は「無口で神秘的な少女」だった。

彼は1度彼女に「どうして、こんな遠くの塾に通ってるの?」と聞いたことがある
そこは壱中から4駅も離れている学習塾だった。
彼女の答えは簡潔だった
「塾にまで学校の子たちに会いたくなかったから」
このとき僕は、なぜか「かっこいい」と思ってしまった。

その日から僕は彼女への見る目が変わっていった。
近寄りがたい存在から、好意を抱く存在へと・・・。
そして春休みに入る直前、僕は彼女に告白をした。
答えは「・・・別に、かまわないわ」それだけだった。
あまりにも、簡単にOKが出たので僕は拍子抜けしてしまった。
それから半年、僕らは恋人同士のような関係になった。
だがすぐに別れがやってきた。
彼女の・・・、彼女の無表情に僕が耐えられなかったからだ。
それから彼女は、この塾から姿を消した。

そして半年が立ち、綾波はもう動かない姿でテレビの前に現れた。


塾の講義が終わり、家へ帰ろうとすると隣の本屋から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「ちょっと待ってシンジ!」

アスカが駆け足で近ずいてきた。
「ねぇ話があるのだけど、これからお茶でも飲みに行かない?」

そういうとアスカは僕を引きずるように連れていった。
「ねぇシンジ?、あそこのファミレスにでも入ろうか?」

席に案内されると、メニューに見入る
お互いに決まった?、と聞いてからウェイトレスを呼び注文をする。
「まったく、こんなときはビールでも飲んでないとやってられないわよ!」
アスカは、そう一言つぶやき中ビールを注文する。
ウェイトレスは「はい?」と聞き直し
「お客様、申し訳ございませんが身分証などをお持ちですか?」と、聞かれる。 
アスカは泣く泣くという感じで
「じ、じゃあ、アイスレモンティー」
「僕は、コーヒーを」
ウェイトレスは「アイスレモンティーおひとつ、コーヒーがおひとつですね?」
そう尋ねて、テーブルから去っていく。

アスカが怒気が含んだ顔で
「なによ!、あの店員!偉そうに!」

そう一言いうと、こっちに顔を向き直し
「ねぇ、シンジ・・・レイが殺されたって話・・・、聞いた?」

いままで、あれだけ怒ってたのに、今度は悲しみに満ちた表情で僕に喋ってきた。
「・・・うん、昨日のニュースで知った・・・。」
「そっか・・・。」

そうつぶやくと、アスカは顔を下に向け肩を震わせながら
「なんで・・・なんでレイが殺されなくっちゃいけないのよ」

アスカのやるせない、という雰囲気が伝わってくる。
僕には、慰めの言葉が出てこなかった・・・。

「明日、いつものクラブで、いつもの仲間が集まるから、シンジあんたも来なさいよ!」
そういって、僕らは別れた。





僕は夜の寂しさを紛らわせるために、ときどき夜遊びに出かける(ときどきだよ)
主にクラブばかりだったが・・・。
そこで静かな、けだるい音楽を聴きながら朝まで過ごす。
そこには同じような人たちが集まり、くだらないことを喋ったり笑ったり、
きっと同じように寂しさを紛らわせるために、ここに集まってきたりするのか。
そこで、僕ら仲間は出会った。

彼らに会うため、久しぶりにクラブにでかける。

昔、僕が綾波と付き合ってた頃、綾波に初めてクラブに連れて行かれた。
流石に、顔がまだ幼いので店員と一悶着があったが
店員がレイの顔を見ると、顔パスで通してくれた。
レイに、その理由を聞くと「・・・わからないわ」その一言だった。
僕はそのとき、レイにますます興味を持った。

久しぶりに店の門をくぐる(ちゃんと、お金は払ったよ)
薄暗い照明の中、つまらない音楽ばかり選曲するDJを後目に僕は仲間達を捜す。
店の奥深く、隅の方に彼等はいた。

「おっす!久しぶりやなシンジ」
こいつはトウジ。昔レイと付き合ってた事は知ってるが、
その事について話すのは今までタブーだった。

「元気だった?碇くん。」
彼女は洞木ヒカリ。レイとは仲が良くって
レイとトウジが付き合ってた頃、よく相談を持ち掛けられたらしい。

「やぁ、元気だったか?シンジ。」
相田ケンスケ。レイと仲良かったのを最近知った。

「昨日はごめんね、シンジ」
そして彼女が惣流アスカ。今は付き合ってる僕の彼女、昔はレイと遊び友達だった。


珍しく感情が抑えられない、といった感じで洞木さんが喋りだした。
「ほんっとに頭にくるわ!あの人達、レイのことについて何を知ってるって言うのよ!」

あの人達とは「マスコミ」のことらしい・・・。
そのマスコミが語った内容とは、こんなものだった。


「まったく、あの人達レイが殺されて当たり前みたいなこと言って!
 レイにだって・・・、レイにだってやりたいことあったのよ!
 死んじゃったら恋も夢もかなわないじゃない!!」

ケンスケが呟く。
「綾波のやりたかったことって何だろうな、知ってるか?トウジ」

「あいつ子供の頃、よく病気ばかりしてたみたいでな
 大人になったら看護婦になりたい、そう言ってたで。」

洞木さんが不可解そうな顔で・・・、
「え?、綾波さんって写真を撮られるのが好きだから
 モデルになりたいって言ってたよ」

トウジがシンジに聞く。
「シンジ、お前は何か知ってるか?」

「僕が聞いた話では、綾波は子供が好きだから保母さんになりたいって言ってたよ」

ケンスケが溜息混じりに言う。
「いったい、どれが本当の話なのかな?」

「・・・・・・・・・・・・。」

その場が沈黙につつまれた。


アスカがその沈黙を破る
「・・・きっと、レイのやりたかった事って、これみんなじゃないかな?
 夢が一つとは限らないしね」

「・・・、そうね、今となっては判らないしね」

トウジが、涙声で
「しっかし綾波の作ったメシ、もう食えへんのやな・・・。
 あいつ、脳みそ足りんちゃうか?ってくらい明るいくせに、意外にメシ作れるんやで・・・。
 若いねーちゃんが作るような、ビーフストロなんとかみたいな奴じゃなくて
 じゃがいもの煮付けとか、ちゃんとした和食を作ってくれて
 よぅ食べさせてもらったわ・・・。」

シンジの頭にいくつかの疑問がわき起こる
「僕も2人っきりで綾波の家に居ることあったけど、綾波が料理してるとこなんか見たことないよ
 家に行けば、カップラーメンのゴミがいっぱいだったし・・・。
 それに僕、綾波の明るい姿なんか見たことない・・・。」

すかさず洞木さんがフォローを入れる
「ほら、綾波さん鈴原くんと別れてから心の病気になって、いつも泣いてたの。
 それでね、久しぶりに会ったら別人みたいに変わってたのよ。
 でもね、碇くんと出会えて嬉しかった。
 初めに、この人と出会えてたら病気にならかったのに・・・。
 そう言ってたよ。」

少し涙が溢れてくるのを押さえながらシンジは
「じゃあ、どうしてそんなに好きだったトウジと別れたの?」

「ワシ、あいつに嫌われたみたいでな、メシの話で味付けが濃いとかそういう話してたら
 わたしは、あなたのお母さんじゃない!、そう言って家を飛び出してしまったんや。
 それからいくら喋りかけても無視するし、街で会っても逃げるようにどっかくし・・。」

アスカが話す。
「レイが言うにはね、『私、振られちゃったみたい・・・。最近トウジくんの様子が
 おかしいからいろいろ調べてたら、トウジくん他に好きな子ができたみたいなの。
 それで、その話したら彼は何も言わなくて、私も彼の家にいるのが居心地悪くて
 あるときがきっかけで家を飛び出しちゃったの』って、そう言ってたよ」

「結局2人は煮詰まってたみたいね、2人共、半同棲状態だったし
 お互い恋愛とか、そういう関係じゃなくなったのね、きっと・・・。」

「ねぇ、私たちってレイの事、何も知らなかったのね。
 毎晩この場所で会って、いろいろと馬鹿やったり遊んだりしたけど
 私たちの知ってるレイって、ほんの一部だったのね・・・。」

「せやな、ワイもあいつと1年くらい付き合ってたけど、結局あいつの事なにも知らんかったやな。」

「・・・・・・・・・・・・・・」

アスカが突然言い出した。
「ねぇ?、これからみんなで海に行かない?
 レイにお別れを言うために・・・。ねっ!行こうよ!シンジ!」

「・・・そうだね、綾波が好きだったケーキと花とワインを持って行こうか?」

アスカが、嬉しそうな顔をして「うん!!」と答えた。

「しかし、こないな時間に花なんか売ってる店あるんか?」

「私、知ってる!、ここの近くにあるから、そこへ行こうよ!」

「でも・・・、どうやってここから海に行くんだい?」

「あんたバカ?、タクシーに決まってるじゃない!」

「他の奴はどうするんや?」

「私、綾波さんと仲良かったからお別れを言いたい・・・。」

「オレは、綾波に色々世話になったから行くよ」

「ケンスケ、お前世話って、何を世話になったんや?」

「・・・・・、くわえてもらった。」

「何をや?」

ケンスケが下半身を指す。
「アレだよ・・・。」

「!!・・・・・・」

トウジは拳を振り上げて、
「・・・・・・・・・お、おまえ!」

「・・・さぁ!、早く行かないと夜明けが来るよ」

トウジの拳がだんだん下がってく・・・。
「くっ、しゃないわ・・・行くか」



僕らは店を出て、空を見上げてみる・・・空が、微かに明るくなってきた。

「急がないと日の出までに間に合わないぞ!」

「なんで、間に合わないといけないの?」
もっともな質問。

「日の出と共に死者の魂は天国に帰るからや!」

「そんな話、聞いたことある?」
みんな首を振る

「理由なんか、どうでもいいんや!、とにかく海から見える日の出をみたいんや!」

洞木さんがクスリと笑って
「それじゃ、急ぎましょう!」





水平線の彼方から、もうすぐ太陽が昇ってくる
そう、僕らは今、レイが殺された○○港に着いたのだ。
この○○港に着いたら、みんな黙ってしまった。
各々、心にレイに想いを馳せてるのだろう。
トウジがタバコのライターを捜してるときに、アスカが僕の袖を引っ張る。
「シンジ・・・、話があるんだけど、あそこの埠頭の先まで行かない?」

「ここじゃ、駄目なの?」
「・・・うん」

僕とアスカは港の埠頭へと歩き出す。
当然、後ろから声が聞こえる。
「シンジ!、何処に行くんや!」

僕は申し訳ない、といった顔で
「ごめん!、アスカと話があるんだ、すぐに戻るから!」

真下には海の波が見えるところまでやってきた。
「シンジ、ここに座らない?」

僕らは、体育座りをして水平線から登る太陽を待ち続ける。
登りはじめる太陽、この太陽を見て人は希望を感じるのか?それとも絶望を感じるのか?
アスカは不安な表情で、この太陽を見つめつづける。

「シンジ・・・、私ね、このことを今まで黙っていようと思ったの。
 これからも、そうするつもりでいた・・・。
 でもね、レイの・・・この事件があって、人が殺されるって、こんなに悔しくって悲しいんだって。
 改めて思ったの・・・。」

アスカの瞳がわずかに潤んできてる。
 
「シンジ・・・。 実はね、私のお腹にシンジと私の子供がいるの・・・。」

太陽から目を逸らすように顔が俯く。
きっと、今のアスカには希望という名の太陽が眩しすぎるのだろう・・・。

「妊娠4カ月だって、お医者さんが言ってた。
 最初、シンジに心配をかけたくないから、シンジとの関係も壊したくなかったから。
 そう思ってたから、黙って堕ろすつもりでいたの・・・。
 でもね今回の事があって、私のお腹にレイの・・・、そう、レイの魂が宿ってるような気がするの。
 そう思ったとき、この子を産みたい! そう心から思ったの・・・。」

アスカの心は不安で満ちていた。
シンジの顔をまっすぐに見れなかった。

「ねぇ、シンジ? あなたはどう思う?」

その言葉を聞いたとき、僕に迷いはなかった。
しずかにアスカの手に僕の手を重ねて
「産みなよ、そして高校を卒業したら結婚しよう・・・。」

アスカは「ハッ」とした表情でシンジを見つめる、そしてわずかに震える声で
「・・・ありがとう。」

アスカの右目から、涙が滴り落ちた。



後ろからトウジ達の声が聞こえる。
「なにやってるんや!シンジ!、早く来ないとみんなで日の出が見えないやろ!」

叫ぶくらい大きな声でトウジに
「ごめん!今すぐに行くから!!」と告げる

そして僕はアスカに顔を向けて
「アスカ、もう大丈夫かい?」
「うん・・・、ありがとう、シンジ。」
そう言うとアスカは立ち上がり、スカートの埃を払っている。



僕たちが知っている「綾波レイ」は死んでしまった。
でも僕たちは綾波レイが大好きだった、形こそ違うけれど綾波は僕たちの心に生き続けるのだろう。
いつまでも・・・、永遠に・・・。



「じゃ、行こうか?アスカ」
「うん!シンジ!」

アスカが僕に手を差しのべる・・・、アスカの手が暖かい・・・。
そう、僕らは生きているのだ。








Fin







Please Mail to TAK-A <peca5820@infonia.ne.jp.jp>



mal委員長のコメント:
1万ヒットでTAK-Aさんに頂いた、実に記念らしくない作品(汗)
なぜ、彼女は逝ってしまったのか、彼女の本当の姿はなんなのか
そして、ぶっきらぼうに、でもあたたかい彼ら・・・・
これもひとつの補完の形・・・・そう、思います。

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Received Date: 97.12.2
Upload Date: 97.12.3
Last Modified: 98.1.30
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