僕は混乱していた、人類補完計画と言うのは聞いた・・それが二個有る事、いや三個有るとは聞いていない。

 綾波は、二杯目の紅茶の用意をすると言って席を立っていた。

 僕の聞いた限りのその計画は漠然としていた。正確な所は知らなかった。エヴァとリリスの融合とか、アダムとの融合とかその程度の話だった、それがサードインパクトでそれを防いでいくのがネルフの仕事で・・・僕らは守っていたはずだけど・・・守れなくて、僕を巻き込んでそれは起こってしまった。僕は最初、アスカと僕の二人だけになったと思っていた、そして綾波が現れて混乱した・・・・人類の20%は生き残った?・・・・・人類が勝者?


 綾波が、紅茶とクッキーを持って来た。長い話になりそうなのだろう。

 僕は綾波が話し出すのを、待っていた。


 「まず、人類補完計画について話します、そして、私のリリスとしての意識の話をします。長いけれど聞いて」



新世紀エヴァンゲリオン勝手なSS

「もう一つの人類補完計画」 その3
「人類補完計画の果て」


 「うん」
 ごっくん・・・喉が鳴った。

 「まず、現時点の結果から言います。旧西暦2000年のセカンドインパクト以降に生まれたリリンは、全て生存しています。正確には、セカンドインパクト以降に受精したリリンはLCLに還元されませんでした。」

 「リリン?人類の事だよね。」

 「はい、基本的にそうです、でも一個体リリンで無い者が居ます、もしかすると二個体です、それが私です。」

 「綾波難しいよ、リリンと人類で、違うの?」

 「碇くんは私を人だと言いました、私もそう考えて居ます、リリンと言う仕分けで言えば、私はリリンでは有りません、だから、人類・・・人の類(ひとのたぐい)と言う分類に私を含めます。だから、リリンの総数プラス1か2が、人類の総数です。」

 「綾波!・・・・」

 「私がリリンで無い事は明確な事実ですから否定しません、でも碇くんと同じ人の形をした者です。そして、第五の体が無い今は、全く碇くんと同じです。この体が失われれば、私の魂は消滅します。」

 「・・・・・・・・・・」

 「元々、使徒もアダムも、リリスも、リリンも人も、ほとんど同じ者だと言えばいいと思う・・・・外見が違うだけ・・・・その中で、リリンは、この地球に適合した形態を持ち群体として存在している。・・」

 「そうなの、そうゆう事なの、僕たちと、使徒は、白人と黒人と黄色人種の差程度なの?」

 「いいえ、その例えは正しく無いわ、例えとしては、碇くんと葱流・アスカ・ラングレーとの差ほどは平均値で無いわ。・・個体を判別する程度の差しか無いの」

 「え!・・・僕らが戦ってたの、その程度の差の相手なの」

 「ええ、リリンと、動物で言うライオンとの差や、サルとの差よりずっと小さなレベルです。」

 愕然とした、外見は大きな差が有ったけれど、それは、僕とトウジやアスカを判別するための差より小さい程度だと言うのか・・・・・・・あ、人は20%生き残ってるんだ・・・それは凄い量だ、サードインパクト直前の地球人口は、80億人程度だったから、16億人は生きてるんだ。

 「すこし話を進めるわ・・・・・本来、サードインパクトとは、地球に生きる権利を取得するための種族の選択の会議なの。それは、アダムへ早くたどり着いた方が勝ちと言うルールでスタートするの、そのスタートの合図がセカンドインパクトよ、あの瞬間に、全てが始まったの。・・・・・あの時初めて、使徒は生まれたの、無垢の子供として。同時にそこから生まれた、参加者にも印が付いたの。碇くんにも有るはずだわ。」

 「え・・何処に・・・」

 「そうゆう目で見て解る印ではないの。そして、それ以前の者にはその印は無いわ。だから、勝利者の印の有る種族は生き残る権利を得たの、だから、旧西暦2000年以降の子供は生き残った、そもそも、それ以前のリリンは、それに参加する事さえ許されなかったの。そして、それに干渉しようとしたのが「人類補完計画」で、エヴァに14歳以上の人間が乗れなかった理由でも有るの。」

 「そうか、2000年以降に生まれたから、エヴァに乗れるんだ」

 「この、会議と言うか競技は、人間の受精に例えると解りやすと思うわ、50億と言われる精子は、意思を持って卵子に向かうけれど、最後に勝ち残る勝者は一人であって・・その時初めて人になる。」
 確かに保健体育の時間に習った事だ、その時は残酷だと思う以前になんかとっても恥ずかしかった気がする。

 「人類補完委員会、ゼーレと言うのが正しい事かも知れないけれど、それが持っていた「人類補完計画」は、その時に干渉して、自分たちにとって理想の人間を作ろうとしたの・・つまり、人口が減った後、古い知識を継承できる者としようとした。それは基本的に無意味な事。」

 「・・・・・・・」

 「リリンにとっての勝利の方法は、リリスを勝たせる事つまり、私と、アダムとの融合、アダムに私を受精させる事とも言える・・・ただ、その結果は無垢な人類が生き残るだけ、今の状態はそれに近いわ。結果的にリリスの勝利に終わったの。それを曲げるために作られたのが、私と同じ、リリスの力を持った、エヴァンゲリオン初号機、もう一つの問題が、魂の問題、リリスには魂つまり私が有るけれど、魂は、電子化も出来なければ、制御も出来ない、私がすぐアダムに融合すればそれで、この決着はつくが、それを変更したかった・・それがこれらの計画の基本」

 「・・・・・・・・・・・」

 「そして考えられたのが、リリスの魂の入れ替えだったの。」

 「リリスって綾波じゃ無いか」
 
 「そう、私と言うのが意思を含む魂の事と定義するとわかり易いの、リリスから魂を抜いたら死んでしまうかもしれなかった。最初に計画されたのは、まず、魂を二つリリスに入れる事、そうすると、はみ出した魂が出てくるであろうこと、そして、その魂が自由に動くためのエヴァンゲリオンと、私の体が必要」

 「・・・・・・・・・・・・・」



 「まず、リリス本体を動けないように封印した事で、その複製のエヴァンゲリオン初号機に、私の魂が移動するように仕向け、そこに碇ユイの魂を入れる事で、魂が余った状態とし、更に、初号機を拘束することで、より自由な体である、綾波レイの体に移転させる。・・そうやって取り出されたのが私、その計画を推敲したのは、碇くんの・・・・お父さんとお母さんよ。」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・母さん・・・でも、なんで、綾波、いや、リリスはすぐにアダムの所に行かないの?」

 「2000年に始まり、その時点で、私たちの魂はゼロとして発生したの、つまりゼロ歳の子供と同じ、アダムの下に行くと言う本能だけを持って・・・・私が取り出された時もまだ、知識も無ければ、体を明確に動かす意思には達していなかったわ、本能だけで動く状態・・その状態で無ければ、取り出すことは不可能だったと思う、罠だと解るし、力の使い方も解るはずだから。それは使徒も同じで、彼らは、有る一定の年月を置いて知識と能力を見につけて、アダムの下に戻るの・・・・これは鮭の産卵への帰還などと同じような事と考えて・・・アダムから放たれた、使徒は一度地球に交わり別の進化の可能性をたどり、そして元のアダムにその力を使って戻るの。四歳の子供の知識では、罠は見破れないわ、本能に赴くまま生きるだけ・・・・・体は違っても、碇くんと全く同じだと思って。」

 「私はそのまま、リリンの一員として育てられたわ、そして、初号機が失敗した場合の、最悪のバックアップとして、零号機が有り、私がそのパイロットとなった、リリンの自由になるリリスの分身として。」

 「この計画の大きな予算と、私と言う存在を使って、もう一つの「人類補完計画」を実行したのが、お父さん、99%まで、ゼーレの考える「人類補完計画」と同じ要素が必要だったからその司令官になれるよう行動したのだと思う。私の存在は隠蔽されていたの、綾波レイと、リリスの魂が同一の者だと知っていたのは、碇・・指令と、赤城博士と冬月教授だけです。」

 「その理由は、私を教育し、私がアダムと融合する事で、碇ユイの魂が戻ってくるから、新しい世紀に、碇ユイを呼び戻すことよ、これには、私が今ここに来られた事も関連します、もしかすると私は碇ユイとしてここに来たかも知れません。」

 「それはどうゆうこと?」

 「つまり、リリスには三つの体が有り、その内一つには碇ユイの魂が宿っていて、綾波レイと言われたこの体には、リリスの魂が宿っているならば、その入れ替えも可能だと言う論理から来ています、ゼーレの無意味な計画より、確実に可能性は有りました。・・・そして、その実行理由は、碇ユイ、碇シンジを、次の世紀に残したいと言うだけの計画です。」

 「父さん!」


 「ゼーレも、碇・・指令も、明確に、サードインパクトの後の状況は把握していませんでした。明確なリリスの勝利が有ったとしても、多くの生命は使徒と共に無に帰ると言うは知っていました。絶対確実に生き残れる者は、使徒と同じ能力を持ち、最後まで生存した者の魂だけでした。そして、初号機に、碇くん、弐号機に葱流・アスカ・ラングレーが選ばれました、この二人しか残らなかった場合の、人類の種子として。」

 「元々、碇ユイは、初号機の魂になる予定では有りませんでした、実験成功後、適任者をゼーレとの協議で選択する予定でした、初号機に、碇ユイが入るように、変更したのは、碇ユイ本人です。計画では失敗の結果になっていますが、当時の計画担当者碇ユイ本人は成功しました。それは、碇ゲンドウにも伝えられていない計画でした。これが、「第三の人類補完計画」となります。」

 「・・・・・母さんなんで?・・・・」

 「碇ユイの計画はより単純かつシンプルで、2001年に生まれた、碇シンジを、次の世紀に継続させるため、エヴァンゲリオンの構造から、融合された者の近親者以外搭乗不可能なため、その時点で、碇シンジの搭乗は決定していました。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 綾波は淡々と、知っている真実を喋っている、ほとんど軍式の報告のように、でもその表情の端々に感情が出そうなのを押し殺しているのを感じたので、僕は何も言えなくなった。同時に、母さんも父さんも、結局は、僕を、この新しい状況に送り出すために働いていた事が解って来た。・・・・確実なのは、二人とも、僕の事をずっと思っていたと言う事なのだ!


 「元々、現代の科学でも台風さえ曲げられないので解るように、より大きな、人類の選択と言う地球規模の儀式の中に、リリンの計画は、ほんの僅かにしか影響しませんでした、同時に、大きな計画の順に不可能な要素が有りました。最後に残り、実現できたのは、碇ユイを、綾波レイの体に戻す事と、リリスが勝ちさえすれば確実な、碇シンジの、未来への継承だけでした。」

 「母さんの帰還?・・・・それは父さんの計画だよね・・・・成功したの!父さんの補完計画!」
 はっと顔を上げた僕の目に入って来たのはボロボロ涙を流す綾波の姿だった。



 「うぅ・・・・・うっ・・・・くぅ・・・・」
 僕は動揺した、どうしていいか解らなかった、でも体が動いた、さっき泣いてる僕に綾波がしてくれた事・・・僕は綾波の肩を抱き寄せて抱いた。
 
 「・・・・・・お願い・・・・・・・・・お願い・・・・・・・・・・・・・・」
 え、と僕は思った、お願い・・・僕が動揺しちゃいけない、動揺しちゃいけない・・・
 「綾波お願いってなあに?」
 僕はまるで子供をあやすような口ぶりで言った。

 「・・・・・・私の体は、本来、碇ユイのために用意して有った物・・・・・・碇ユイさんは、ここに来る役目を私に代わってくれたの!・・・・そして、・・・・・碇指令と共に私がここに来るのを許してくれた・・・そして、私の体を作り用意してくれていたのは、碇指令!・・・・・そして、もっともっと大事・・・・・碇シンジを作ったのは、碇ユイと碇ゲンドウよ!!・・・・私を今ここに来させてくれているは、碇くんのお父さんとお母さん!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 お願いが出ていない、そう感じた僕は静かに聞いていた。

 「・・・・・私も、お母さんと、お父さんって・・・・呼んでもいい?・・・・・・・・」

 解った!、僕は今までの綾波の言動になんとなく変な物を感じていた。碇指令とか、碇ユイとか、お父さんとか、その言い方の直前にどう使うか選んでいたんだ・・・そして、一番使いたい言葉を避けて必死に喋っていたんだ、綾波は、僕の父さんと母さん・・いや・・・・綾波にとっても、母さんと父さんに、感謝してるんだ!
 
 そして、この呼び名が、彼女にとっての、今求めている絆なんだ。・・・・僕へ繋がる明確な絆なんだ。!
 
 僕の涙が、噴出して来るのが解った、止める気も無かった。

 二人がひとしきり泣いて声が出るようになった時に僕は言った・・・

 「・・・・・うん、僕の父さんと母さんは、綾波の父さんと母さんだよ、そう呼ぼうよ・・・・・」
 「・・・・・・・・・」
 綾波から返事は無かったが僕の肩で綾波がうなずくのを感じた。










 



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