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NEON GENESIS EVANGELION Plus
EPISODE 24 : The Beginning and the End, or
"Knockin' on Heaven's Door"
- ゼーレ・リモート会議
- 例によってモノリスが集まっている。
「NERV、我らゼーレの実行機関として結成されし組織」
「我らのシナリオを実践する為に用意された物」
「だが、今は一個人の占有機関と成り果てている」
「左様。我らの手に取り戻さねばならん」
「約束の日の前に」
[SEELE 01]キール
「NERVとエヴァシリーズを本来の姿にしておかねばならん。
碇、ゼーレへの背任、その責任は取ってもらうぞ」
- 初号機のケージ
- ゲンドウが初号機に向かって話し掛けている。
「我々に与えられた時間はもう残り少ない。
だが、我らの願いを妨げるロンギヌスの槍は既に無いのだ。
まもなく最後の使徒が現れる。それを消せば願いがかなう。
もうすぐだよ…ユイ」
- レイの部屋
- 窓から差し込む上弦の月の光が、制服のままベッドに横になっているレイを照らし出している。
レイは月を見ながらシンジのことを想っていた。
(碇くん…。今日も私を見なかった…。
私を…避けている。
私が…三人目だから?)
(ダミープラント、破壊されていた。
私が最後の…綾波レイ。
それを行ったのは、赤木博士。
その場に碇くんもいたらしい。
碇くん…アレを見たの?)
(だから…私を避けるの?
私が…人間…じゃ…ないから?)
リツコの思惑通り、レイは苦しんでいた。
(私…なぜここに居るの?
私…なぜ生きてるの?
何の為に?
誰の為に?)
(碇司令…。あの人が必要としたから私は生まれ、ここに居る。
でも、もうすぐ終わり。
あの人の計画が実現する時、私は私でいられなくなる。
私という存在は消えてしまう。
無へと還りたい。それは、私の望み。
その日を願っていたはずなのに…今は、恐い。
碇くんと出逢ってしまったから。
私の心の形を変えたのは碇くん。
この心を失いたくない。
だから…恐いの…)
しばらくの間、そのままじっと月を見つめているレイ。
ふと、カヲルのことを思い出して姿勢を変え、枕をあごの下に抱え込むようにしてうつぶせになる。
(フィフスチルドレン…あの人、私と同じ感じがする。
…どうして?)
髪や瞳の色だけではなく、何かもっと本質的なものを感じていた。
(あの人も、私と同じ…作られた存在なの?)
目を伏せ、考え込むレイ。
- ミサトのマンション
- 明かりを消して、ペンペンを抱え、夜景を見ているミサト。
「ここが街外れで良かったわ。
あなたが巻き込まれなくて良かったもの」
ミサトを見上げるペンペン。
ミサトは深刻な表情で話し掛ける。
「でも、この次の保証は無いの。だから、明日からは洞木さんの家のお世話になるのよ」
寂しそうな表情になり言う。
「しばらくお別れね、ペンペン」
その言葉に、
「くわぁぁ」
と答えるペンペンを抱きしめるミサト。
- NERV 本部内・カヲルの部屋
- ベッドともうひとつ布団を敷いたら一杯の狭い部屋である。
カヲルはベッドに、シンジは床に敷いた布団に横になっていた。
カヲルが言う。
「やはり、ぼくが下で寝るよ」
「いいよ。ぼくが無理言って泊めてもらってるんだ。ここでいいよ」
「君は何を話したいんだい?」
「え?」
「ぼくに聞いて欲しい事が有るんだろ?」
カヲルに促されて、シンジは話しはじめた。
「いろいろ有ったんだ、ここに来てから…。
来る前は、先生の所に居たんだ。穏やかで何も無い日々だった。
ただそこに居るだけの…。
でもそれでも良かったんだ。
ぼくには何もする事が無かったから」
「人間が嫌いなのかい?」
「別に…どうでも良かったんだと思う」
続けて少し言葉を強めて言う。
「ただ、父さんは嫌いだった」
(どうしてカヲルくんにこんなこと話すんだろう?今日会ったばかりなのに。
でも、なぜだろう?こうして話していると、心が軽くなる気がする)
そして、ふとカヲルに顔を向けると、シンジをじっと見つめるカヲルと目が合い、息を飲んだ。
「ぼくは、君に遇う為に生まれて来たのかもしれない」
カヲルはとても嬉しそうな笑顔でシンジを見つめていた。
当惑するシンジ。
「カヲルくん…どうしてぼくなんかを…」
シンジには自分が好かれる理由が解らなかった。
「自分が嫌いなのかい?」
「うん…ぼくには、いいところなんてひとつも無いんだ。だから…」
「それは違うよシンジくん。
君が嫌いだと思っている自分にとっての欠点も、
人から見たら魅力に感じられることもあるんだ。
物事の価値は相対的なものだからね。
それに、人が人を好きになるのはその人に価値があるからじゃない。
その人を好きになったからその人の中に価値を見い出すんだよ」
「そうなのかな?…よく、解らないや…」
そう言ってカヲルを見ると、カヲルは優しい眼差しでシンジを見つめていた。
シンジもつい微笑む。
(人に好かれるって、こんなに嬉しい事なんだな)
「あの…ありがとう。カヲルくん」
その言葉を聞いて、更に嬉しそうな笑顔を見せるカヲルだった。
- 翌朝・ジオフロント内・地底湖畔の橋の上
- ミサトと日向の二人が車を降りて、対岸の NERV 本部ピラミッドを見ている。
ミサトがたずねる。
「どぉ?彼のデータ、入手できた?」
「これです。伊吹二尉から無断で借用したものです」
「すまないわね、泥棒みたいな事ばかりやらせて」
データを見て驚くミサト。
「何これ?」
「マヤちゃんが公表できないわけですよ。理論上はあり得ない事ですから」
「そうね。謎は深まるばかりだわ。
エヴァとのシンクロ率を自由に設定できるとはね。
それも、自分の意志で」
(またも、なりふり構ってらんないか…)
- NERV 本部内・留置所
- リツコがベッドに腰を掛けてうつむいたまま口を開く。
「よく来られたわね」
腕を組んで立っているミサト。
「聞きたい事が有るの」
「ここでの会話、録音されるわよ」
「構わないわ。
あの少年の、フィフスの正体は、何?」
リツコは、うつむいたまま答える。
「おそらく、最後のシ者」
- ケージの弐号機
- その前にカヲルが現れる。
「さぁ行くよ。おいで、アダムの分身、そして、リリンのしもべ」
そう言うと、アンビリカル・ブリッジから足を踏み出すが、その足は冷却水に触れることなく、宙を浮いている。
同時に、いきなり起動する弐号機。
- 警報が鳴り響く発令所
- 日向が叫ぶ。
「エヴァ弐号機、起動!」
信じられない、といった表情でつぶやくミサト。
「そんな、バカな!」
振り向きざま、青葉にたずねる。
「アスカは?!」
青葉
「303病室、確認済みです」
監視モニターに写る、虚ろな目をしてベッドに寝ているアスカ。
ミサト
「じゃぁ、いったい誰が?」
伊吹がのぞき込んだディスプレイには[UNMANNED]の表示。
「無人です。弐号機にエントリープラグは挿入されていません」
怪訝な表情のミサト。
「誰も居ない?フィフスの少年ではないの?」
日向
「セントラルドグマにATフィールドの発生を確認」
ミサト
「弐号機?」
ディスプレイに表示される分析結果は、第17使徒と識別していた。
日向
「いえ!パターン青!間違いありません、使徒です!」
ミサト
「なんですって?」
- メインシャフトを降りる、弐号機を従えたカヲル。
- 発令所
- ミサト
「使徒…あの少年が?」
男性オペレータの報告。
「目標は第4層を通過、なおも降下中」
「ダメです。リニアの電源は切れません」
「目標は第5層を通過」
冬月が指示を出す。
「セントラルドグマの全隔壁を緊急閉鎖!
少しでもいい、時間を稼げ!」
次々と閉鎖される隔壁。
冬月
「まさか、ゼーレが直接送り込んで来るとはな」
ファイティングポーズのゲンドウが言う。
「老人は予定をひとつ繰り上げるつもりだ。我々の手で」
その時、待機していたレイが静かに出て行ったのに気付いた者はいなかった。
- ゼーレ・リモート会議
- 「最後の使徒がセントラルドグマに進入した。現在降下中だ」
「予定通りだな」
キール
「碇、君は良き友人であり、志を共にする仲間であり、
理解有る協力者であった。これが最後の仕事だ。
初号機による遂行を願うぞ」
隔壁を破り降下中の弐号機とカヲル
- 緊迫する発令所
- 青葉
「装甲隔壁は、エヴァ弐号機により突破されています」
日向
「目標は、第2コキュートスを通過!」
ファイティングポーズのゲンドウ
「エヴァ初号機に追撃させろ」
ミサト
「はい」
ゲンドウ
「いかなる方法をもってしても、目標のターミナルドグマ進入を阻止しろ」
ミサト
「しかし、使徒はなぜ弐号機を?」
ゲンドウに耳打ちする冬月
「もしや、弐号機との融合を果たすつもりなのか?」
ゲンドウ
「あるいは、破滅を導く為かだ」
- エントリープラグ内のシンジ
- 握り締めた拳を震わせ、叫ぶシンジ。
「嘘だ!嘘だ!嘘だ!!カヲルくんが、彼が使徒だったなんて!!
そんなの、嘘だ!!!」
コントロールレバーに拳を叩きつける。
ミサトが冷静な声で突き放すように言う。
「事実よ。受け止めなさい。
出撃、いいわね」
シンジは怒りに満ちた目で顔を上げる。
- メインシャフトをなおも降下するカヲルと弐号機
- カヲルは上方を見上げ、心配そうな表情でつぶやく。
「遅いな…シンジくん」
- カヲルの後を追い降下する初号機
- 男性オペレータの報告。
「エヴァ初号機、ルート2を降下。目標を追撃中」
- エントリープラグ内のシンジ
- 怒りに満ちた表情でつぶやいている。
「裏切ったな。ぼくの気持ちを裏切ったな。
父さんと同じに裏切ったんだ!」
- 発令所
- 青葉が報告する。
「初号機、第4層に到達、目標と接触します」
- メインシャフトを降下する初号機
- シンジ、下方に弐号機を発見する。
「いた…」
初号機を見上げるカヲル。
「待っていたよ、シンジくん」
「カヲルくん!」
弐号機と組み合う初号機。
「アスカ、ごめんよ!」
肩のウェポンラックからプログナイフを取り出し構える初号機。
同時に弐号機もプログナイフを構える。
それを見ながらカヲルはつぶやく。
「エヴァシリーズ、アダムより生まれし、人間にとって忌むべき存在。
それを利用してまで生き延びようとするリリン。ぼくには解らないよ」
弐号機がプログナイフを振り降ろす。
それをプログナイフで受け止める初号機。
激しくスパークが散る。
シンジは叫ぶ。
「カヲルくん!やめてよ!どうしてだよ!!」
「エヴァはぼくと同じ身体で出来ている。
ぼくもアダムより生まれし者だからね。
魂さえ無ければ同化できるさ。
この弐号機の魂は、今自ら閉じこもっているから」
初号機のプログナイフが弾かれ、その切っ先がカヲルに達するかと思われた瞬間、
その目前にオレンジ色に輝く光の壁が出現し、プログナイフを阻止する。
驚愕するシンジ。
「ATフィールド?!」
目の前のプログナイフの切っ先を見つめながらカヲルは言う。
「そう、君達リリンはそう呼んでるね。
何人にも侵されざる聖なる領域。
心の光。
リリンも解っているんだろう?
ATフィールドは誰もが持っている心の壁だという事を」
シンジはカヲルが何を言っているのか、理解できなかった。
「そんなの解らないよカヲルくん!」
弐号機のプログナイフが初号機の胸に突き立ち、激痛がシンジを襲う。
「がっ!ぁああああああ!!」
初号機も弐号機の胸にプログナイフを突き立てる。
- 発令所
- 男性オペレータ
「エヴァ両機、最下層まで到達」
女性オペレータ
「目標、ターミナルドグマまで、あと20」
決意を固めるミサト。日向の後ろからかがみ込み、耳元へ言う。
「初号機の信号が消えて、もう一度変化があった時は…」
キーボードに手を添え、答える日向。
「解ってます。その時は、ここを自爆させるんですね。
サードインパクトを起こされるよりは、マシですから」
「すまないわね」
ミサトが辛そうに言うと、日向は力強く答える。
「いいですよ。あなたと一緒なら」
ミサトはその言葉に、少し救われた感じがしていた。
「ありがと」
- メインシャフト
- 初号機と弐号機のプログナイフが、互いに胸に食い込んでいく。
カヲルは既にそちらを見ていない。
その顔に笑みは消え、悲しげな色を浮かべている。
「ヒトの定めか…。ヒトの希望は悲しみに綴られているな」
そして、目をつむると、強力なATフィールドを展開する。
- 発令所を襲う衝撃波
- 驚くミサト。
「どういう事?!」
日向振り向いて叫ぶ。
「これまでに無い、強力なATフィールドです!」
青葉も振り向く。
「光波、電磁波、粒子も、遮断しています。
何もモニター出来ません!」
ミサトがつぶやく。
「正に結界か…」
伊吹がモニターを見ながら報告する。
「目標、およびエヴァ弐号機、初号機、共にロスト。
パイロットとの連絡も取れません」
- ターミナルドグマに到達するエヴァ両機
- LCLの海に落ち、巨大な水柱が立つ。
そこは、LCLの海の中から塩の柱が林立する、セカンドインパクト後の南極に似た光景だった。
「ぐぅうう…っく」
墜落の衝撃に耐えるシンジだったが、カヲルが先へ進むのに気付く。
「カヲルくん!」
悲しげな表情で振り返るカヲルだが、そのまま先へと進む。
「待って!!」
後を追おうとする初号機の足首を弐号機が掴む。
カヲルは、宙を浮いたまま、最後の扉へと向かう。
ドアロックはパスワードとパスカードを必要とする電子ロックだが、カヲルのひと睨みで、あっけなく解除される。
- 発令所
- 青葉
「最終安全装置、解除!」
日向
「ヘヴンズドアが、開いて行きます」
ミサト
「ついにたどり着いたのね、使徒が…。
日向くん」
緊迫した面持ちで、無言でうなずく日向。
- ターミナルドグマ付近の通路
- レイが制服のまま降りて来ていた。
その目前では、破壊された通路が光の壁に遮られている。
それを見つめるレイ。
(ATフィールド…。
これは、フィフス、あのヒトの心の壁なのね)
初号機と弐号機が格闘する音と振動が伝わって来る。
(この向こうに、碇くんがいる。
そして、その先には…アレが在る。
私、行かなければ…)
そして、素手でATフィールドを触れてみるが、パシッと弾き返され、痛みが走る。
「んっ!」
(だめ…)
(でも、私、これを知ってる。
いえ、知っているのは、私じゃない。
これを知っているのは、私の中の何か…)
(だめ…)
(でも、行かなければ…)
(だめ…)
(でも…)
(…碇くん)
うつむいたまま逡巡していたレイだったが、決意を固めたようにキッと顔を上げ、眼前の光の壁を見つめる。
その紅い瞳に映る、揺らめくオレンジ色の光は、まるでレイの意志の炎であるかのようだった。
- ターミナルドグマ
- 「うわああああ!!」
弐号機の頭部にプログナイフを突き立てる初号機。
その時、頭上から衝撃波が走る。
「なんだ?!」
不安げに上を見上げるシンジ。
- 二度目の衝撃波に緊張が走る発令所
- ミサト
「状況は?」
日向
「ATフィールドです」
青葉
「ターミナルドグマの結界周辺に、さっきと同等のATフィールドが発生」
伊吹
「結界の中に、進入して行きます」
ミサト
「まさか、新たな使徒?!」
青葉
「ダメです、確認できません。あ、いえ、消失しました」
愕然とするミサト。
「消えた?使徒が?」
冬月がゲンドウに囁く。
「レイか?」
ニヤリとするゲンドウ。
「ああ、ついに目覚めたな」
- ターミナルドグマ・ヘヴンズドアの内側
- 自らの力を解放しカヲルの結界を破ったレイが、白い巨人が拘束されている部屋を見下ろす通路に現れ、冷たい表情でカヲルを見下ろす。
(フィフス、ソレに何をするつもりなの?)
カヲルはレイが自分の結界に侵入したのを感じていた。
だが、それを予想していたかのように、まるで気にも止めず、巨大な十字架に磔になっている白い巨人の、7つの目を刻印した仮面を付けたその顔の前に浮上した。
「アダム…我らが母たる存在。
アダムより生まれしモノは、アダムに還らねばならないのか…。
ヒトを滅ぼしてまで」
カヲルは目を細めてじっと巨人の顔を見つめるが、何かに気付き、驚愕する。
「違う、これは!…リリス!!
そうか…そういうことか、リリン!」
その時、後方の隔壁を破り、巨大な水柱を上げ弐号機が倒れ込んで来る。
弐号機の頭部には初号機が突き立てたプログナイフが刺さり、機能を停止していた。
その向こうから現れる初号機。
振り向き、笑みを浮かべるカヲル。
初号機が右手を延ばし、カヲルを捕まえる。
初号機を見上げ、穏やかに言うカヲル。
「ありがとう、シンジくん。
弐号機は君に止めておいてもらいたかったんだ。
そうしなければ、彼女と生き続けたかも知れないからね」
戸惑うシンジ。
「カヲルくん、どうして?」
声が上擦っている。
「ぼくが生き続ける事が、ぼくの運命だからだよ。
結果、ヒトが滅びてもね。
だが、このまま死ぬことも出来る。生と死は等価値なんだ。
ぼくにとってはね。
自らの死、それが唯一の絶対的自由なんだよ」
「何を…カヲルくん…君が何を言ってるのか、解らないよ!
カヲルくん…」
「遺言だよ…」
「言葉は、残酷だね。
シンジくんもロンギヌスの槍を知っているだろう?
ロンギヌスの槍は神の言葉なんだ。言ってみればアレは、神の罵詈雑言の塊なのさ。
そして、ヒトも同じ物を作り出すことができる。
その言葉や仕草、態度によってね。
それはヒトの心の壁をいとも簡単に突き破り、切り裂き、その心を傷つけることができる。
だけど、ヒトの言葉は、逆に傷ついた心を癒すことも出来る。
こういうことの出来る使徒は、リリン、君達しかいない。
まぁ、ぼくもリリンに育てられたからその真似事は出来るけど、
それはぼくの本質じゃない。
でも、君のことを好きだといったぼくの言葉は、ぼくにとっては真実だった」
「さ、ぼくを消してくれ。
そうしなければ、君らが消えることになる。
滅びの時を間逃れ、未来を与えられる生命体はひとつしか選ばれないんだ。
そして君は、死すべき存在ではない」
そして、カヲルは頭上を見上げる。
そこには、レイが哀しみに満ちた瞳で、静かに彼らを見つめていた。
(そう…あなたも、碇くんが好きだったのね。
でも、どうして?
昨日会ったばかりなのに…)
(人を好きになるのに理由が要るのかい?
綾波レイ、君はぼくの分まで生きてくれ)
カヲルはレイに笑顔で答えると、初号機に向き直った。
「君達には、未来が必要だ」
コントロールレバーを握るシンジの手が震える。
(カヲルくん…ぼくは…ぼくは…)
「ありがとう…君に遭えて、嬉しかったよ」
カヲルが、優しい笑顔で言う。
そして、シンジは…
長い…
長い…
葛藤の末…
カヲルを…
その手で…
握り…潰した…。
- 夜の湖畔
- そこはシンジとカヲルが初めて出逢った場所である。
シンジは水辺に腰を下ろし、その脇にはミサトが立っていた。
「カヲルくんが、好きだって言ってくれたんだ。ぼくのこと。
初めて、初めて人から好きだって言われたんだ。
ぼくに似てたんだ…綾波にも…。
好きだったんだ。
生き残るなら、カヲルくんの方だったんだ。
ぼくなんかより、ずっと彼の方がいい人だったのに…」
シンジは涙声になっていた。
「カヲルくんが生き残るべきだったんだ」
ミサトは突き放すように言う。
「違うわ。生き残るのは、生きる意思を持った者だけよ。
彼は死を望んだ。
生きる意思を放棄して、見せ掛けの希望にすがったのよ」
そこで、少し優しい口調に変わり、
「シンジくんは悪くないわ」
そう慰めるが、シンジは納得できなかった。
「冷たいね。ミサトさん」
そして、そのまま、沈黙が流れて行った…。