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NEON GENESIS EVANGELION Plus

EPISODE 25 : Death and Rebirth


ミサトのマンション
既に時計は24時を回っている。
シンジは部屋に帰って来ていた。

明かりも付けずに、ベッドに横になるシンジ。
今日、リツコから聞いたことが頭にいっぱいに張り詰めている感じで、眠れない。

(使徒も、人も、エヴァも、元々は同じような存在だったなんて…)

(カヲルくんも…綾波も…ぼくらと、ちょっと違うだけなんだ…)

(綾波でリリスをコントロールして人々の心を一つにするとか言ってた。
そうなったら、ぼくらは…。
ぼくらの心はどうなるんだ?
綾波の心は?
父さんは、綾波をどうするつもりなんだ?
綾波は、そのために生まれて来たの?
そのためだけに?
そんなの…そんなのって、悲しすぎるじゃないか!)
NERV 本部内・リツコの私室
ミサトとシンジが帰った後、リツコはひとり端末に向かっていた。
その手はものすごい勢いでキーボードを叩いている。
次々と書き上げられていく、クラッキングツールのコード。
MAGI の裏コードを駆使したツール群は、強力な武器となるだろう。

更に、敵からのクラッキングを防ぐ為の防壁も組み立てる。

[CODE 666 プロテクト]
MAGI は3つの 生体 CPU で構成される並列マシンである。
3つの CPU はそれぞれが専用バスで直結されている。
また、各 CPU は専用の I/O バスを1本づつ持っている。
つまり、CPU 間のバスが3本 + I/O バスが計3本。
これら合計6本のバスを3つの CPU が互いに監視し合うことで、
容易には破られる事の無い堅固なプロテクトとなるはずである。
(負荷が高く、処理能力を大幅にダウンしなければならないのが難点ね。
ま、時間稼ぎにはなるか…)

(私、バカなことしてる?
あの人の心が自分に無いと知っているのに…。
ロジックじゃないものね。男と女は。
そうでしょ?母さん)

既に朝になろうとしていたが、キーボードを叩く音が途絶えることはなかった。
NERV 総司令官・執務室
ゲンドウがひとり電話をしている。

「そうだ」

「ああ、問題無い。やってくれ」

電話を置くゲンドウ。

立ち上がり、窓際へ歩いていく。
白い手袋をはめた両手を後ろに組み、窓から外の景色を眺めるゲンドウ。

地上の集光ビルから送られる朝日がジオフロントを照らしはじめていた。
発令所
白衣を引っ掛けたリツコが入ってくる。

「あ、先輩、おはようございます」
伊吹が明るく挨拶する。

「おはよう。あなたはいつも元気ね」
コンソールへと歩きながら返事を返すリツコ。

伊吹は、
「若いですから…」
と言いかけて、気まずい顔をする。

「正直ね」
リツコのこめかみがピクついている。
(この娘は…。ま、いいわ)

「昨日言ってた仕事、今日やることになったわ。」
そう言うとディスクを渡す。
「それ、今すぐ目を通して。
スタンドアロン・モードでね」

「あ、はい」
ディスクを受け取り、コンソールへ戻る伊吹。

そこへミサトが眠そうにあくびを噛み締めながら入って来る。
「ふぁぁ…おはよ〜」

「あら、どうしたの?ずいぶんと早いじゃない?」
とリツコ。
(いつもなら、定刻ぎりぎりか遅刻して駆け込んで来るのに…)

「ん〜、ちょっちね〜。
昨日、アレからいろいろ考え込んじゃって、結局眠れなかったのよ」

「先輩!」
伊吹の声に振り向く二人。

「先輩、これって…どういう事なんですか?」
ディスクの内容に驚いた伊吹が不安げにたずねる。

「見ての通りよ。マヤ。
ゼーレが持つ MAGI シリーズにクラッキングを掛けるの」

「ゼーレに?!」
今度はミサトが驚く。

「碇司令の命令よ。
作戦決行は本日ヒトヨンマルマル」
冷静なリツコ。

憮然とした表情でつぶやくミサト。
「でも、私は何も聞いてないわ。
作戦課長に無断で…」

「作戦課の仕事じゃないもの。
諜報参課に確認してみたら?
司令に直接でもいいけど」
そう言いながら伊吹に近づくリツコ。

「いい?マヤ、よく頭に叩き込んで…」
コンソールにかがみ込み、説明を始める。

ミサトは怪訝な表情で考え込んでいた。
(ゼーレをクラッキング?
碇司令…何を考えているの?
まさか、補完計画の遂行と関係があるの?)
ジオフロント内・加持の畑
シンジは部屋でじっとしていることも出来ず、ここへ来ていた。

シンジはスイカに水をやりながら考えていた。
(加持さん、ぼくはどうすればいいんですか?)

(カヲルくん、ぼくはどうすれば…)

『会って、話をしてみるべきだね』

カヲルが夢の中で言った言葉を思い出す。

「綾波…来てるかな?」

遠くに見える本部ピラミッドに目をやる。

(でも、会って、何を話せばいいんだ…)
発令所
リツコが作戦を説明している。
「こちらは MAGI オリジナル1台に対して、敵には MAGI タイプが5台あるわ。
まともにやったんでは勝ち目は無いわね。
でも、あの司令が、何の手も打たずに MAGI を複製させると思う?」

ミサトが答える。
「何か仕掛けがしてあるってこと?」

楽しそうにすら見えるリツコ。
「ご名答。
MAGI のコピーには、ある一定の条件が揃うと発動するタイプの安全装置があらかじめ組み込んであるの。
脳幹基底部に仕込んだハードワイアド・ロジックだから、除去は不可能だわ」

「という事は…」

「そう、こちらはその条件を揃えてやるだけでいいってこと。
と言っても、そう簡単ではないけどね。
ミサト、日向くんを借りるわよ」

黙ってうなずくミサト。

「私とマヤ、日向くんは、MAGI のメンテナンスハッチ内部で作業をするわ。
その方が確実だから」

「「はい」」
伊吹と日向が同時に答える。

続けるリツコ。
「先程渡したディスクに入っているツール群のインストールとセッティング。
間違えの無いようにチェックは3重にして。
作戦が始まったらコンピュータ同士の戦いになるわ。
反応速度から言っても、人間には手出しできないもの。
私達はメンテナンスハッチ内で待機するけど、
それは予期できない事態の発生に対応する為。
万が一の場合の CPU 強制停止を含めてね」

そして青葉の方を向くリツコ。
「青葉くん、あなたはここで全体の状況をモニターして。
それと、エヴァ弐号機の状況は?」

青葉はモニターに目を走らせ、報告する。
「現在、修復が完了して、第五ケージに固定してあります」

「そう。では、エヴァ初号機、および弐号機への回線を全てカットしておいて。
そっちを狙われたら厄介だから」

「了解」

リツコは皆の顔を見回して言う。
「じゃ、準備をはじめるわよ。
ヒトサンサンマルまでに全てを待機状態に持って行くこと。
いいわね」
MAGI MELCHIOR メンテナンスハッチ内部
伊吹がノート端末からメンテナンスコネクタにケーブルを直結している。

「でも、ほんと、大丈夫なのかしら…」

手を止め、そうつぶやくが、その手をギュッと握り締め、ノート端末を開く。

「大丈夫よ、先輩がついてるんですもの。
行くわよ、マヤ」

そしてキーボードに指を躍らせる。
MAGI BALTHASAR メンテナンスハッチ内部
日向がノート端末の画面をチェックしている。
メガネに次々切り変わる画面が映り込んでいる。

「さすがは赤木博士。
このツール群ときたら、一揃え貰っておきたいところだな」

そうつぶやくと、キーボードを叩きはじめる。
MAGI CASPER メンテナンスハッチ内部
リツコが猛烈な勢いでノート端末のキーボードを叩いている。

しばらく無言のままであったが、作業が一段落したらしく手を休め、
顔を上げてカスパーの生体 CPU ブロックのカバーを撫でる。

「母さん、私、これで良かったのかしら?」

そうつぶやくと、またキーボードを叩きはじめる。
NERV 本部内・内線電話ブース
ボックスの一つでシンジが電話を掛けている。

受話器から聞こえる秘書の声。
『司令はお会い出来ないそうです』

やっぱりという諦めの表情のシンジだが、少しだけ食い下がってみる。
「じゃぁ、電話だけでもつないでもらえませんか?」

『少々お待ち下さい』

保留音のメロディーが流れる。

(聞かなくちゃ。父さんが何をしようとしているのか。
ぼくらをどうしようとしているのか。
綾波をどうしようとしているのか…)

メロディーが切れ、ゲンドウが電話に出る。
『私だ。何か用か?』

「父さん…あ…あの…」
シンジは、考えていたことがすぐには出てこずに、言葉を詰まらせる。

『私は忙しいのだ。用が無いなら切るぞ』

シンジは慌てて言葉を探すが、その間もなく電話を切られてしまう。

『ガチャリ・ツーツーツー』

むなしくトーンを響かせる受話器を手に、うなだれたシンジがつぶやく。

「なんだよ…父さん…ちくしょう…」
発令所
ミサトがマイクを持って立っている。
「みんな、準備はいい?
作戦スタートまで後3分よ」

『メルキオール、準備完了です』
伊吹が答える。

『バルタザール、こちらもいつでもOKですよ』
日向の報告。

「カスパーは?」

リツコからの応答が無い。

(まさか、リツコ?)
訝るミサトが声を高くする。
「赤木博士?!」

『…ごめん、寝てたわ』
平然としたリツコの声。

「リツコ〜」
がくっとして、情けない声を出すミサト。

『でも、カスパーはもう40分も前から準備完了よ』

気を取り直すミサト。
「さすが赤木博士ね。
青葉くんもいいわね」

「はい」
緊張の面持ちの青葉。

「では…」
ミサトはコンソールのデジタルクロックに注視する。

唾を飲むミサト。
「10秒前」
「9、8、7、6、5、4、3、2、1…」
「作戦開始!」

同時に前面の大型ディスプレイに表示された状況モニタが急激に変化をはじめる。
NERV 第壱支部(米国)発令所
オペレータが報告する。(もちろん英語である)
「変です。日本の本部の MAGI からのデータ・トラフィックが急に増えています。
スケジュールにはありませんが…」

訝る司令官。
「どういうことだ?すぐ調べさせろ」

オペレータの報告。
「データ自体は異常なものではありませんが、どうも変です。
確定できませんが、クラッキングの可能性があります。
念のため、MAGI を抗クラッキングモードへ移行します」

「本部からクラッキングだと?
すぐに問い合わせろ!
諜報参課にもだ!
他の支部の状況はどうだ?」

オペレータの報告。
「他の MAGI タイプ保有の4ヶ所の支部も、同様のクラッキングを受けているようです」

別のオペレータから。
「本部、諜報参課共、抜き打ちの抗クラッキング演習だと言って来ていますが…」

「抜き打ち演習だと?MAGI タイプ5台を相手に同時にか?
ナメられたものだな」

苦々しい表情の司令官。

「他の支部と連携を取れ!
オリジナルとはいえ基本的に同じ MAGI だ。5対1で勝てるものか!」
発令所
目まぐるしく変化する状況モニタの前で、青葉が報告する。
「アメリカ支部、中国支部に続いてドイツ支部も、
あ、いえ、全ての MAGI タイプが抗クラッキングモードに入りました。
疑似エントリーと防壁を次々に展開しています!
同時に各支部間のデータ・トラフィックが急激に増大。
敵の MAGI が連携を取り始めたようです!」

「リツコ」
緊迫した表情でミサトが問いかける。

リツコの落ちついた声が返る。
『予定通り、マニュアル通りの対応ね。反撃が来るわよ。
こっちの進行状況は98%、残り2%を送り出さないといけないから、
回線は維持したまま、こちらも抗クラッキングモードに入るわ』

リツコが答え終わるかどうかのうちに、状況モニタの動きが変化。
[CRACKING DETECTED]
の表示と共に、MAGI が自動的に CODE 666 プロテクトを展開する。

急に状況モニタの変化が遅くなる。

『さ、これで少しは時間が稼げるわ。
後は残りのピースが無事敵の疑似エントリーと防壁をかいくぐってくれるのと、
そのピースを使って敵同士でパズルを組み上げてくれるのを待つだけ。
でも、もしその前にこっちのプロテクトが破られたら終わりよ。
その時は…解ってるわね、マヤ、日向くん』

『『はい』』
マヤと日向の緊張した声が帰って来る。
MAGI CASPER メンテナンスハッチ内部
リツコはヘッドセットのマイクを切ると、目の前の CPU 強制停止レバーを見つめる。

(これを引けば、この中の生体 CPU は機能を停止する。
それはつまり母さんの一人が死ぬということ…)

クラッキングで汚染された CPU を隔離するだけなら、外部 I/O と他の2つの CPU との接続を物理的に切断すればいいだけだが、人格移植型・生体 CPU が外部入力を全て切られるということは…。

(認識可能なものを全て失った暗黒の世界。
絶対的な孤独。
…想像したくもないわね)

その結果、人格崩壊を起こしてしまい、再構築できても後遺症を残す可能性が否定できない。入力だけを生かしておくことも出来るが、そうなればクラッキングも引き続き進行することになり、安全性の面からもその CPU は廃棄した後、新たに作り直した方が現実的なのである。

(これは、母さんじゃない。
母さんのコピーにすぎないのに、このレバーを引かなくて済むよう祈ってる。
おかしなものね)

自嘲気味に口の端を歪めるリツコ。
ゼーレ・査問会
モノリスに囲まれているゲンドウと冬月。

「碇、君の背任は、今や明らかだ」
「左様。現在、君のところの MAGI が我らの MAGI シリーズにクラッキングを掛けて来ているようだが、こちらには MAGI が5台有るのだよ」
「無駄なあがきはせんことだな」

[SEELE 01]キール
「全ての使徒を倒し、約束の時は来た。
ロンギヌスの槍を失った今、リリスによる補完は出来ん。
唯一リリスの分身たるエヴァ初号機による遂行を願うぞ」

ファイティングポーズのゲンドウが反論する。
「ゼーレのシナリオとは違いますが」

キール
「これは通過儀式なのだ。閉塞した人類が再生するための。
滅びの宿命は新生の喜びでもある。
神も人も全ての生命が死をもってやがて一つになるために」

ゲンドウはメガネの下から睨みつけるようにして言う。
「死は何も生みませんよ」

キールが最後通告を言い渡す。
「死は、君らに与えよう」

その瞬間、ゼーレのメンバーのモノリスが瞬時に消え、キール議長を残すのみとなる。

一瞬何が起こったのか理解できず絶句するキール。
手元のコンソールには、全メンバーの生命維持装置が機能を停止している事実が映し出されていた。

MAGI でのクラッキングは陽動だった。
ゲンドウの放った刺客による同時暗殺が成功したのだった。

ゲンドウはニヤリとして言う。
「所詮、人間の敵は人間だということです」

キールの無念そうな声。
「迂闊だった…。これこそが貴様の十八番だったのにな…」

そして、キール議長の背後で撃鉄を起こすのは、死んだはずの加持リョウジ。

撃鉄を起こす音を聞き、ゲンドウはファイティングポーズのまま言う。
「ご苦労」

そして銃声。
発令所
突然状況モニタに変化が起きる。

焦れるように状況モニタを見つめていたミサトが振り向き、青葉に問いかける。
「状況は?!」

「MAGI オリジナルへのクラッキングが停止しました。
支部の MAGI は5台とも同時に自閉症モードに移行しています」

「そう。間に合ったというわけね」
ほっとしたようにミサトがつぶやく。

そこへリツコの声。
『終わったようね』

「ええ。ご苦労様。
マヤちゃん、日向くんもね」

『こちらもノーマルモードに戻すわ。
マヤ、日向くん、上がっていいわよ』

そう言いながらリツコが何か操作したらしく、状況モニタが通常表示に戻る。

その画面を見ながらミサトは考え込んでいた。
(これも司令の思惑通りってことか。
ゼーレの補完計画を阻止できたの?
そして、司令の補完計画への布石なの?
本気で実行する気?
あの司令だもの、本気だわよね…)
NERV 総司令官・執務室
「今やリリスを自由に動かすための枷となるロンギヌスの槍は無い。
我らの障害となるものは、もはや存在しないのだ。
小うるさいゼーレの老人達も消えたしな」

ゲンドウの言葉に、
(消えたのではなく、消したのだろう?)
と思う冬月だが、そんな解りきったことは口にしない。

「いつ、それを行う?」

ゲンドウは口元にニヤリと笑みを浮かべる。
「満月の今日、今夜こそがその時だ。月は死と再生の象徴だからな…」

冬月が陰りのある表情で言う。
「覚悟はしていたといえ、複雑な気持ちだな。
あの子供達の未来をも変えてしまう権利が、我らに有るのか…」

ゲンドウはファイティングポーズを崩さなかったが、その影の口元は、何かを噛み潰すかのように歪んでいた。

『あら、生きて行こうと思えば、どこだって天国になるわよ。
だって、生きているんですもの…。
幸せになれるチャンスはどこにでもあるわ』

ユイの言葉を思い出しながら…。
NERV 本部内・通路
ゲンドウの計画について考え込みながら当てもなく歩いていたシンジは、曲がり角でレイとバッタリ出くわした。

「碇くん…」

シンジは心構えが出来ていなかったのでうろたえる。
「あ…あの、その、綾波…」

レイが悲しげな瞳でシンジを見つめる。
「私の…ダミープラントの…アレを見たんでしょ?」

シンジの脳裏にターミナルドグマの水槽で見た、無数のレイの形をしたモノが過る。
「う、うん…。
綾波は、その…知っているの?
自分が…その…僕の…母さんから…」

「知ってる。私はあなたのお母さんの遺伝情報を元に、リリスから作られた存在」

「そうなんだ…」

「でも、私はあなたのお母さんじゃない。リリスでもない。私は私よ」

シンジはゲンドウの計画への疑問で頭がいっぱいになってしまい、レイの言葉を聞いていない。
レイがいつもと違う思い詰めたような表情をしていることにも気付いていなかった。

「父さん…どうしてなんだ?何故そんなことを…」

「碇くん…」

「ちくしょう!どうしてなんだ…」

「…」

シンジは、うつむいたままつぶやくだけだった。
「父さん…」



「碇くん!!」

突然のレイの叫びにギョッとするシンジ。

「碇くん!どうして私を見てくれないの!!
私は私なのに!
私は綾波レイなのに!
身体は三つ目でも、魂はたったひとりの私なのに!」

今まで抑えに抑えて来たものが堰を切ったように流れ出した。
静かな声ではあったが、それはレイの魂の叫びだった。

「私は確かに碇司令によって作られた!あの人の計画の為だけに作られた存在!
あの人の人形だったの!!
それでも良かった!あの人の人形で満足だったの!
あなたに出逢うまでは!
でも、今は違う!
もう、人形なんかでいたくない!
人として生きたいの!!
あなたに出逢ってしまったから!!」

感情の爆発に言葉をほとばしらせたレイだったが、そこで我に帰り、シンジが唖然とした顔で自分を見ているのに気付く。

白い肌を更に蒼白にし、全身を震わせるレイ。目には涙があふれていた。

「私…私…ごめんなさい…。さよなら…」

それだけ消え入るような声で言い残すと、レイは走り去って行った。

「綾波…」

(知らなかったよ、綾波がそんなこと考えてたなんて…。
そうだよな…人の心を持っているなら、一番辛いのは綾波じゃないか。
そんなことも気付かなかったなんて…。
ぼくって、最低だ…。
綾波…泣いてた…。さよならって言ってた…。
さよならって?…綾波?)

ハッとするシンジ。
「綾波!!」

しかし、既にレイの姿はなかった

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