【前へ】
新世紀エヴァンゲリオン++
第壱拾壱話:アスカが大変!
- あと4日で春休みという朝のコンフォート17
- コンコン
レイがアスカの部屋のドアをノックする。
今日はアスカとレイとで朝食を作る番だったのだがアスカがなかなか起きて来ないので、レイが起こしに来たのだった。
「アスカ?もう、朝だけど…。アスカ?」
返事が無い。
「アスカ?」
そっとドアを開けてみるレイ。鍵は掛かっていない。
「どうしたの?アスカ」
見ると、アスカはベッドで横になっているが、聞こえていないようだ。
ベッドに近づいたレイは、アスカの様子がおかしい事に気付く。
アスカは、顔を真っ赤にして、苦しそうな息をして眠っていた。
(アスカ…病気なの?)
慌ててかがみ込み、アスカの様子を見るレイ。
その額に触れてみると熱い。かなり熱が有るようだ。
(大変!…ええと…この場合は…そう、濡れタオルで冷やすんだわ)
そしてレイは洗面器に水を汲んで来て、タオルを濡らし、アスカの顔に被せる。
静かになったアスカを見て安心するレイ。
(良かった、楽になったのね)
しかし…
「ぷはっ!!ぜ〜ぜ〜」
アスカが苦しそうにタオルをはねのけ、目を覚ました。
「良かった、気がついたのね」
「良かないわよ!アタシを殺す気ぃ?」
弱々しい声で抗議するアスカ。
「そんな…私、アスカを楽にしてあげようと思って…」
「やっぱり殺す気だったのね…」
レイは、事も有ろうに、濡れタオルをアスカの顔全体に被せていたのだった。
「どうしてそういうこと言うの?」
レイにはアスカがなぜそんな事を言うのか解らなかった。
「アンタねぇ…自分でそのタオル、顔に乗せてみたら?」
そう言われ、レイは自分の顔にタオルを乗せてみる。
(…苦しい…)
「…ごめんなさい、アスカ。私、あなたを殺すところだった…」
しょんぼりとうなだれるレイ。
「ま、いいから、シンジ呼んで来て。
こういう時は、アイツの方が頼りになるから…」
と言いながら、自分の部屋を見回すアスカ。
(見られてまずい物は無いわよね…)
「うん、待ってて、アスカ」
と、シンジを呼びに行くレイ。
慌てて部屋に飛び込んで来たレイに、制服に着替える途中だったシンジは驚く。
「あっ綾波、どうしたの?慌てて…」
「碇くん、アスカが、アスカが大変なの!」
「え?どうかしたの?」
「病気なの、熱がすごくって…」
「解った、行こう」
シンジを連れて戻ってくるレイ。
「アスカ、大丈夫?」
心配そうなシンジ。
「うん、風邪だと思うんだけど、熱と頭痛がひどくて…。
シンジ、薬の有るとこ、解るでしょ?
鼻づまりや咳は無いから、総合感冒薬より鎮痛解熱剤の方がいいかもね。
取って来て」
「うん。お腹は大丈夫?何か作ろうか?食べた方がいいよ」
「あんまり食欲無いけど…軽い物なら…」
シンジは少し考えて答える。
「じゃ、パスタなんかどう?」
「うん、それでいい」
「すぐ出来るから、待ってて」
「ありがと」
ダイニングキッチンのレイとシンジ。
「綾波、朝ご飯、作ってないんだろ?綾波の分も作るから食べってってよ。
お弁当作ってる時間無くなっちゃったけど、綾波は学校行った方がいいよ。
アスカはぼくが看病してるから」
「え…でも…」
「看病に二人もいてもしょうがないよ。
それより、先生にぼくたち休むって連絡しておいて」
「そう…そうね…解ったわ」
- レイが手早く朝食を取り、ひとり出掛けた頃…
- アスカはシンジが作ったスパゲッティを食べていた。
シンジが作ったのはジェノベーゼ・ペーストを使った簡単な物だったが、ビタミン補給にとシンジが入れたオレンジ・ジュースの酸味が食欲を刺激し、アスカは一皿平らげた。
「ん、おいしかった。ごちそうさま」
「もう寝た方がいいよ。あ、汗は大丈夫?」
「うん、まだ、そんなにかいてない」
「じゃ、これからだね。
はい、薬。
オレンジ・ジュース、もう一杯飲む?
水分補給しておいた方がいいよ」
「うん。シンジ、優しいのね…」
「なっ、なんだよ、アスカらしくないなぁ…」
「うん…病気すると気弱になるのね。人にすがりたくなる…」
「アスカ、相手が違うよ」
「もぉ!バカ!…でも、そうね。ゴメン、もう寝るわ」
そう言うと横になり目をつむるアスカ。
その額にしぼった濡れタオルを乗せてやるシンジ。
「お休み、アスカ」
「ありがと…シンジ」
小さく答えるアスカだが、すぐに寝息に変わる。
(アスカもいつもこのくらい素直だったらかわいいのにな…。
でも、それじゃアスカらしくないか)
そのまましばらくアスカの様子を見ていたシンジだったが、立ち上がるとキッチンへと向かった。
シンジはそこで、テーブルの上にレイの書き置きがあるのを見つけた。
『碇くんへ。
学校へ行ってきます。
アスカの事、頼みます。
碇くんもちゃんとご飯食べてね。』
「綾波…」
(気を遣わせちゃったかな…)
そう思いながらも、自分を気遣うレイの気持ちに嬉しさを感じるシンジだった。
「そうだね、綾波、ぼくも食べるよ」
シンジはそうひとりつぶやくと、自分の分のパスタを茹ではじめるのだった。
- ひとり学校へ向かうレイ
- とぼとぼと歩きながら、レイはいつもと違う感覚に戸惑いを覚えていた。
(つまらない…いえ、寂しいのね。
碇くんもアスカもいない学校への道がこんなに寂しいものだったなんて…。
以前はひとりでもなんとも無かったのに、私、心が弱くなってしまったの?)
(アスカ、碇くんとふたりっきり。
碇くん、優しい…。
アスカが羨ましい…。
碇くん、私も病気になったら、看病してくれる?)
そこまで考えて、ハッと我に帰るレイ。
(…私、何考えてるの?アスカは病気なのに、羨ましいだなんて…。
私、嫌な娘…)
(アスカ、早く良くなって…。
私、こんなの、嫌…)
- 夕方
- 一日授業に身がはいらなかったレイは、授業が終わると飛んで帰って来た。
「ただいま、碇くん。アスカの様子はどう?」
「お帰り。まだ熱は有るけど…今は寝てるよ」
「よう」
レイの後ろからケンスケが顔を出す。
「あ、ケンスケ、お見舞いに来てくれたんだ」
「ああ、綾波が来てくれって言うから…」
「そっか、優しいんだね、綾波…」
「………」
なんとなく沈んだ顔をしているレイにシンジは気付き、怪訝に思う。
「…?どうしたの?」
「…なんでもない…」
(私…優しくなんかない…)
そこにアスカの部屋から声が聞こえてくる。
「シンジぃ、レイ、帰ってきたの?」
「あ、アスカ、起きたの?今帰ってきたよ」
「うん、レイ、ちょっと来て。シンジは来なくていいわ」
「あ、う、うん、綾波、行ってあげて」
「うん」
「アスカ、大丈夫?」
「いいところに帰ってきたわ。汗かいちゃったから着替えたいの。
身体も拭きたいし、手伝って」
「うん」
アスカの背中を拭きながら、レイが切り出す。
「アスカ…私、相田くんを連れてきたの…。
ごめんなさい…」
「そう、アイツ、お見舞いに来てくれたんだ…。
でも、なんでアンタが謝るの?」
「私、アスカが羨ましかったの…。碇くんとふたりっきりで…。
だから、私、相田くんを連れてくれば、碇くん、私と居てくれると思って…。
私、やっぱり、嫌な娘だわ。自分のことしか考えてない…。
こんな娘、きっと、碇くんに嫌われる…」
「…レイ…アンタって…ほんと、かわいいわね」
「え?…どうして?」
「そういう所がよ。
アンタって、ほんと馬鹿正直で、言わなきゃ解んないような事まで話しちゃうし、
こっちが恥ずかしくなるくらいシンジへの想いが純粋で…。
アタシね、時々、アンタが羨ましくなる時もあるのよ。レイ」
「え…アスカが?…私を?」
「そ、だから、そんなことで自己嫌悪なんてしなくっていいのよ」
「でも…私…」
「ああ!もう!ウジウジしないの!!
アタシは病人なんだから、周りの人が元気な所見せてくれなかったら、余計気が滅入っちゃうでしょ!
ほら、笑って!アンタの笑顔、アタシも好きなんだから!」
「…うん、アスカ、ごめんなさい。…ありがとう」
そう言って微笑むレイの笑顔に、アスカも優しい微笑みを返すのだった。
- リビングのレイとシンジ
- ケンスケは着替えの終わったアスカを見舞いにアスカの部屋に行っている。
ふたりは紅茶を飲みながら話をしていた。
「でも、驚いたな、アスカが病気だなんて、健康そのもののような感じなのに…」
「そうね…」
「どっちかって言うと、綾波の方が病気しそうな感じだけど…あ、ごめん…」
「いいの…。でも、私が病気になったら、碇くん、看病してくれる?」
「当たり前だろそんな事。でも、病気になんてならないでよ。
元気な綾波が一番なんだからさ…」
「うん…そうね…」
(私も…もし碇くんが病気になったらと思うと、とても辛い気持ちになる…。
碇くんも同じ気持ちなのね…)
「碇くんも…病気…しないでね…」
「うん…みんなが元気でいられる事が、一番の幸せだよね。
アスカも早く良くなるといいね」
「うん…」
パタン…
ケンスケがアスカの部屋から出てきたが、何故か顔を赤くしている。
「あ、ケンスケ…どうしたの?顔が赤いけど…」
「いっいや、なんでもない。じゃ、オレ、帰るから」
「?あ、うん、お見舞い、ありがとう」
「相田くん、ありがとう…」
振り返らずに手だけを振るケンスケ。
「また、明日な」
- 翌日の学校
- 「おはよ!アスカ、もう大丈夫なの?」
「あ、ヒカリ、おはよ。うん、治っちゃったみたい」
「で、今日は相田くんがお休みなの?」
「ああ、なんやアイツも風邪やゆうとったな」
「アスカ、風邪移すような事、したんじゃないの?」
ヒカリも最近は結構言うようになったな。
「なっ!ヒカリったら何言ってんのよ!!」
真っ赤になるアスカ。
「だって、昨日はほとんど碇くんが付きっきりで看病してたんでしょ?
その碇くんがなんともないのよ」
「そっ、それは…ほら、日本には『バカは風邪ひかない』って格言が有るじゃない」
「それ…格言じゃないと思う…」
突っ込むレイ。
「酷いよ、アスカ…」
トホホなシンジ。
確かに、一日看病してこの言われ様ではあんまりである(T_T)。
- あとがき
- これ、第四話を書いた直後に熱でダウンして1日半寝込んだんですが、その時に思いついたネタです。
しかし、レイは医学書とか読んでいて、治療の知識は有るはずなんですけどねぇ…(^_^;)。
それと、他所のSSでは風邪っていうと『お粥』が出てくるんですが、私は風邪ひいてそんな物喰った事ないぞ。そもそもドイツ育ちのアスカの口にお粥が合うとも思えないし…。
…というわけでパスタ(^_^;)。
ラストの「風邪移すような事」云々は『春の訪れ』でも使ってますが、もともとこれ用のネタとして取ってあったのを流用したのでした。実際何をしていたのかはご想像(妄想?^_^;)におまかせします。