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新世紀エヴァンゲリオン++

第壱拾四話:ライバル登場


学校へ向かう道
2週間の春休みも終わり、いよいよ新学期である。

相変わらずの強い日差しの中、いつもの制服に身を包み、連れ立って学校へと向かうシンジ・レイ・アスカの3人。
シンジを挟んで右隣にアスカが、そして左隣にはレイが寄り添うように歩いている。

「ぼく達も、もう3年生か…」
シンジが感慨深げに言う。

思えばこの街に来てまだ1年にも満たないのである。

(ここに来るまでの人生からは、とても考えられないほどいろんな事があったよなぁ…。
 辛い事ばかりだったけど、ぼくも少しは成長したかな?)

すぐ横を歩くレイをチラッと見る。

(初めてこの街へ来て、綾波と出逢って…)

今度は反対側のアスカをチラッと見る。

(アスカがやってきて…)

抜けるように青い空を見上げてつぶやく。
「ホント、いろんな事があったよなぁ…」

「はぁ?なにブツブツ言ってんのよ!」
アスカが怪訝な顔で見ている。

「あ、いや、ちょっと」
シンジはなんとなく感傷的になっていた気持ちを見透かされたような気がして、慌てて場を取り繕う。
「その、今度も一緒のクラスになるといいね」

なにげないシンジの言葉にレイは短く、
「そうね」
と答えるが、少し不安げな表情である。

(碇くんと離れたくない…。ずっと一緒にいたい…)

春休みの間ほとんどの時間をシンジと一緒に過ごしていた為、以前にも増してシンジと離れがたい気持ちが募っているレイだった。

そんなレイの表情からアスカはその心中を察し、肩をすくめてわざと軽い感じで言う。
「多分一緒だわよ」

(今でもガード付いてるんだから、わざわざマンパワーを分散させるような事しないでしょ?
 NERV保安部だって暇じゃないんだから)
アスカにはそんな確信があった。


第三新東京市立第壱中学校
改めて言う事もないが、シンジたちの学校である。

途中でヒカリやトウジ・ケンスケと合流して学校に着いてみると、掲示板の前は既に黒山の人だかりであった。
新クラスの発表などメールを使えばいいようなものを、未だに張り紙である。

「前時代的ぃ!」

とはアスカの言。

再開発事業の関係者は既に大勢この第三新東京市へ流入して来ていたが、子供の転校は春休みに合わせた者が多かった。
そのため、市立第参・第四中学校が新設されたにもかかわらず、ここ第壱中学校も新学期から急に生徒数が増え、2年の時には2クラスだけでしかも定員を大幅に割るまでに減少していた生徒数が、今学期からは4クラス分に増えていた。

アスカの予想通りシンジ・レイ・アスカ・トウジの4人は同じクラス[3−A]になったが、ヒカリとケンスケは[3−C]と、彼らとはバラバラになってしまった。

「ほらね、言った通り、アタシたちは一緒でしょ?
 でも、ヒカリは、残念だったね」

「うん、でも、仕方ないわよ。ね、トウジ」

「あ、ああ、ま、世の中、そんなもんや」

トウジの反応はこんなものだろうが、思ったより残念そうな様子が見えないヒカリに、アスカは、
(これは!何か…進展あったわね)
と勘を働かせる。

ヒカリは親友であるアスカにもトウジとの仲の進展状況を自分から進んで話すようなタイプではなかった。
照れもあるのだろうが、こういう所は相変わらずのお堅さである。

「ヒカリぃ?鈴原と、何があったのかなぁ?」
と、ニヤケ顔で鋭く突っ込むアスカ。

「えっ?!ななな何もないわよ、別に!」
と焦りまくるヒカリ。
いかにも『何か有りました』という感じで、怪しすぎである。

「ふ〜ん?ま、後で、じっくり聞かせてもらいましょ?
 ところで、ケンスケ!」
アスカは深追いせず、ヒカリへ向いていた矛先が今度はケンスケに向けられる。

「へっ?」
急に振られ、間抜けな返事をしてしまうケンスケ。

「アンタ、アタシの目が無いからって、他の女なんて撮っちゃだめだからね。
 アンタは、一生アタシだけを撮ってればいいの!」

「ちょっ、ア、アスカ…?」
ケンスケは赤くなっている。

ヒカリはここぞとばかりに逆襲する。
「あら、アスカったら、『一生』?ふ〜ん、それって…」

ヒカリのツッコミに、自分の言葉の意味深さに気付いて慌てるアスカ。
「えっ!ちっ、ちが、違うってば!!単なる言葉のあやよ!!
 こいつは、アタシの専属カメラマンなんだから、そ、そう、アタシが
 どこかの素敵な殿方と結婚しても、ハネムーンに引き連れて、こいつに
 記念写真をバシバシ撮らせるんだから!」
真っ赤になってるのは照れ隠しだろうが、言ってる事は結構酷すぎ。

「アスカ、それはちょっと酷いんじゃ…」
さすがにシンジがとりなしに入る。

「いいんだよ、シンジ…。どうせオレなんか…」
トホホなケンスケであった。


[3−A]
シンジたちの新しい教室である。

さすがに馴染みの顔は少なく、半分以上が見知らぬ顔であった。
黒板に席順が張り出されていたが、出席番号順であり、グランドに面した窓際の前から2番目がレイ、その後ろがシンジであった。

(私…碇くんの前…近くてよかった…)
レイはちょっと嬉しそうに机に向かう。

(綾波が近くでよかった。やっぱり、周りが知らない人ばかりじゃ辛いもんなぁ…)
と、シンジもレイが近くでほっとしたようだ。

ちなみに、アスカは隣の列の後ろから2番目、トウジはその前の席である。

シンジたちが机に着いてカバンを下ろしていると、早くも自分の机のカバンを置いたアスカがやって来た。
トウジはトイレに行ってしまったようだ。

「やっぱり、結構知らない顔が多いわね」
シンジの机の上にドッカと腰を下ろして足を組んだアスカは、そんなことを言いながら教室を見回している。

それにしても、やはりアスカとレイは一際目立つ。この美少女ふたりが一緒にいるのだからクラスの男子の目は自然とそこへ集中する。元々壱中だった生徒で彼らを知らないものはいなかったが、新たに転入して来た生徒には格好の話題の種になっていた。

「おい、あのふたり、すっげ〜可愛いじゃん」
「あれって、髪、染めてんのかな?」
「ええっと、綾波レイに、惣流・アスカ・ラングレー?こっちはハーフかよ!」
「だけど、なんであいつの所にいるんだ?碇シンジ?何だよあいつ?」
そんなヒソヒソ声があちこちから聞こえて来る。

(うわ〜、何だか話題になってるよ、居心地悪いなぁ…)
シンジの感想であるが、それくらいの代償は安いもんだと思ってもらいたい物である。

(ま、私の美貌だから、噂の的になるのもしょうがないわね!)
こちらはアスカ。まんざらでもない様子だ。

(碇くんと一緒…)
レイときたら、よっぽど嬉しかったのか、全然聞いちゃいない(^_^;)。

…と、そこへ思わぬ闖入者が現れた。

「シンジくん!」

「えっ?」
突然隣の机の方から掛けられた元気な少女の声に、シンジは思わず振り向く。

そこには、机の上にカバンを下ろしてにこやかに立っている少女がいた。
ちょっとくせっ毛の茶色の髪をショートカットにし、灰色掛かった深い緑の不思議な色合いの瞳をした、アスカやレイとはまた違ったタイプの美少女だった。

「マ…マナ…」
シンジは驚いたようにつぶやく。

「えへへ、一緒のクラスになったね!しかも隣の席だなんて、ラッキー!」
椅子を引くと、シンジの方を向いて座るマナ。

「同じ学校だったんだ…」
意外そうなシンジ。

「この4月からね」
マナはニコニコしてシンジの顔を見つめている。

アスカはシンジにこんな可愛い女の子の友達がいるなんて初耳だったので目を丸くしていたが、我に帰ってシンジに問い掛ける。
「ちょっと、シンジ、知り合い?」

「あ、う、うん、ちょっと、ね」
どういうわけか歯切れの悪いシンジ。

「あ、私、霧島マナです。よろしく!」
立ち上がってにこやかに自己紹介をするマナ。

マナにつられ、慌ててシンジの机から降りて自己紹介するアスカ。
「私は惣流・アスカ・ラングレー。アスカでいいわよ」

アスカは一歩下がってレイの視界を開き、レイを紹介する。
「こっちは、レイ」

「………綾波…レイです…」
レイはそれだけ言うとじっとマナを見つめる。

マナもレイを見つめ返し、一瞬意味深げな間を置いて、ニコッと笑う。
「よろしく!」

レイは虚をつかれた感じで、目をパチクリするが、一応答える。
「よ…よろしく…」

その間に、シンジたちへ向けられた視線はますます多くなっていた。

「おい!もう一人可愛い娘が増えたぞ!」
「なんであいつばっかり!」
「くそ〜!!不公平だ!!」
「でも、碇って綾波と出来てるはずだけど…」
「マジかよ!じゃ、あとのふたりは?」
「いや、霧島って娘は知らないけど、惣流は相田って奴と…」
「あ〜あ、せっかく可愛い娘とクラスメートになれたのに、なんて不運なんだ…」

と、みんな好き勝手な事を言っている。


その時、教室の入り口からシンジを呼ぶケンスケの声がする。
「シンジー!ちょっと!」
こっちへ来いと言ってるようだ。

「なに?ケンスケ」
居心地の悪さに落ち着かなかったシンジは、渡りに舟とばかりに席を立って廊下へと出て行く。


廊下ではケンスケとトウジが待っていた。

「シンジ、あの娘誰だよ?オレのデータベースにはないぞ?」
ケンスケがシンジをつかまえて問いただす。

「いや、ちょっとした、知り合いで…マナ…たしか、霧島…マナって言うんだ」
やはり歯切れの悪いシンジ。

「どえらいベッピンやないか!まさか、センセ、綾波と二股かけとるんやないやろな?」
トウジは『二股かけるような奴は男やない!』と言う信念の持ち主だった。

「そ、そんなんじゃないよ!」
慌てて否定するシンジであった。


その頃、教室に残された彼女らは…。

(何なの?この娘?シンジは名前で呼び捨てにしてるし、そんな近しい間柄なの?)
と、マナを観察するアスカ。

(この人…何?…碇くんの知り合い?…なんだか不安な感じ…好きじゃない…)
と、マナに警戒心を持つレイ。

(今、誰かが『碇って綾波と出来てるはず…』とか言ってたわよね、ほんとかしら?)
こちらはマナ。

マナはチラッと廊下の方を見てからアスカとレイのほうに向き直って切り出す。
「えっと、3人は、どういう関係なんですか?」

教室内の一部の生徒の間に緊張が走る。
旧来からの壱中生には厳しい箝口令が敷かれているのだ。
うかつに『元エヴァンゲリオンパイロット』等とは言えない。

アスカがさりげなく答える。
「3人の関係?」
そこで一呼吸置いて、
「アタシとレイはルームメート、シンジはお隣さんよ。
 ま、家族みたいなもんね。」
と、当たり障りのない返答をする。

「ふ〜ん?じゃ、シンジくんと同じとこに住んでるんだ!いいな〜」
羨ましそうに言うマナ。

そんなマナを見ながらアスカはこめかみを引きつらせていた。
(シンジくん、シンジくん、って、何なのよ!この娘!
 シンジもシンジよ!レイがいるってのに、なんで他所の女にちょっかい出すのよ!)
既にシンジの浮気を決めつけてしまっている。

レイは探るような鋭い目をマナに向けている。
普通の神経ならその強烈な視線に思わず引いてしまう所だが、マナはさして気にする様子もない。
それどころか、レイの方を向いてにこっと笑顔を見せ、レイの方に身を乗り出してたずねる。
「綾波さんって、シンジくんの何なんですか?」

(?!何よこの娘!いきなり、なんてストレートな!?)
目を剥くアスカ。

いきなりのマナの質問に戸惑うレイ。
「え?…私が?…碇くんの?…何?」

(私にとって…碇くんは…私の全て。とても…大切な人…。
 でも…碇くんにとって…私は…何?…どんな存在なの?)
返事に詰まってうつむいてしまう。

そんなレイの様子を見て、
(ふ〜ん、まだステディってわけじゃないんだ。
 割り込む余地はありそうね。良かった!)
と、マナはちょっとホッとしたような表情を浮かべる。

「ちょっと!そういうアンタはシンジの何なのよ?!」
アスカが代わりに反撃に出る。

「私?私、シンジくんの彼女です!」
と、あまりにも突然な宣言をするマナ。

ギョッとするアスカ。
レイはうつむいて考え込んでしまっていたが、その発言にバッ!と顔を上げ、マナの顔を凝視する。
アスカは久々にレイの背中から立ち昇る青白い炎を見た気がした。

「…って言えたらいいなって…。
 あ…綾波さん、顔、怖い。
 残念ながら、まだそこまで行ってないんですけどぉ」
さすがにレイの雰囲気に押されたのか、マナも少し弱腰になっている。

「は?」
アスカの力が抜ける。
(なんなのよ、この娘、調子狂うわねぇ…。
 でも、レイのライバルってわけ?
 シンジったら、いったいいつの間に…)

レイはまだマナを見つめている。

そこに構内放送が入る。
『始業式を始めますので、全員講堂へ集合してください。
 繰り返します。
 始業式を始めますので、全員講堂へ集合してください』

「あ、ほら、講堂だって、行きましょ?」
マナが立ち上がり、先に歩き出す。
(あ〜、ドキドキした。綾波さんって、迫力有るんだもん。
 でも、頑張らなくっちゃ!)
そんな事を考えながら、教室を出て行く。

「あ、ほら、レイ、アタシ達も行こ?」
まだジーッとマナの出て行ったドアの方を見ていたレイにアスカが声をかける。

「えっ…ええ…」
レイも我に帰ったようだ。

「綾波、アスカ、行こうよ」
レイ達がなかなか出て来ないので、ちょうどシンジがドアの所からこちらをのぞき込んだ所だった。


放課後
今日は始業式だけなので、シンジ達はお昼にはコンフォート17へ帰って来た。

帰りがけに近所のパン屋さんで買って来たフランスパンをカリカリに焼いて、ベーコンエッグとサラダ、それにカップスープで昼食を取る。

シンジはレイの様子がおかしいのに気付いていた。
(綾波、どうしたんだろ?なんだか考え込んでるようだけど…)

しばらくして、それまで黙って食事をしていたレイが、意を決したようにシンジに問い掛ける。
「碇くん…」

「なに?」
カップを置いてレイを見るシンジ。

「……あの人……」
レイはためらいがちに言葉を続ける。

「うん?」

しかし、シンジの顔を見て決意がくじけてしまう。
(ダメ、訊けない…。訊くのが怖い…)
「ごめんなさい。なんでもないの…」
そう言うとうつむいてしまう。

シンジはレイの一言でだいたい察しがついた。
(『あの人』って…多分、マナの事だよなぁ?
 そうか…綾波、マナの事気にしてたんだ…。
 そうだよなぁ…綾波の知らない人だもんなぁ…)

そして逆に訊ねてみる。
「マナの事?」

シンジの言葉にビクッとするレイ。

(やっぱりそうか…不安にさせちゃったかな?)
そう思うと、なんだか悪いことをしたような気がして、レイを安心させようと落ち着いた口調で説明する。

「マナとはただの友達だよ。
 春休みに、ちょっと、知り合ったんだ」

そこで今まで口出ししていいものか様子をうかがっていたアスカが口を挟む。
「それにしちゃ馴れ馴れしいじゃない?
 ファーストネームで呼び合っちゃってさ?
 大体アンタが女の子の事呼び捨てにするなんて…」

「だって、名字知らなかったし…」
苦笑を浮かべるシンジ。

「はぁ?何よそれ?!」
アスカが食ってかかる。

「アスカ、やめて…」
この話題を切り上げさせようとするレイ。

シンジはひとつ溜め息をつくと、おもむろに話し始める。
「綾波、いいよ、話すよ。
 別に大した事じゃない。考えてみれば隠す程の事じゃなかったんだから…。
 実を言うと、ぼく、3月から毎週水曜日、スイミングスクールに通ってるんだ」

「スイミングスクール?
 そういえば…アンタ、いつも水曜日は帰りが遅かったけど、ケンスケ達と一緒だったんじゃなかったんだ?!」

レイもアスカもそれまでは疑問に思ったことすらなかった。

「うん。マナとはそこで知り合ったんだ」




駅を挟んで学校の反対側に10分ほど歩いた所に総合スポーツクラブがある。
シンジは3月頭からそこのスイミングスクールに通いはじめたのだった。

そのキッカケは、レイの歓迎会の時酔って寝てしまったレイを抱き上げてふらついてしまった事にあったが、今まで苦手だった事を克服する意味でも水泳を習う事にしたのだった。
もちろん、綺麗なフォームで泳ぐレイの姿に憧れを感じていたからでもあるが。

週に1回の練習ではあったが、春休みにはシンジは25mを途中で足を着かずに泳げるようになれたのだった。

ここには25mと50mの2つのコースがあるが、初心者のシンジは当然25mのコースで練習していた。
必死に足と腕を動かし、時々水を飲みそうになりながらも、なんとか25mを泳ぎ切った時、
(やった!!25m泳げたよ!!ぼくだってやれば出来るじゃん!)
そう思いながら思わずガッツポーズをとってしまったシンジだった。

と、その時…

「ふふっ!」

隣のコースから聞こえた少女の声にハッと我に返りそちらを見ると、見知らぬ少女(それもかなりの美少女である)が口元を押さえてこちらを見ていた。

今のガッツポーズを見られていたのだろう。そう思うとシンジは気恥ずかしさに赤くなってしまう。

少女はにこやかにコースの仕切りのフロートのところまで近付くと、フロートに両手を乗せて話掛けて来た。
「こんにちは!私、マナ。君の名前、教えてくれる?」

これがシンジとマナの出会いだった。
マナは春休みの間に第三新東京市へ引っ越してきており、偶然このスポーツクラブへ来たのだった。

シンジはこの初対面の美少女が自分に何の用だろう?と訝りながらも、その深いブルーにサイドに白のラインが入ったシンプルな水着姿にドギマギしてしまい、どもりながら答える。
「あ、こ、こんにちは。ぼくはシンジ、碇シンジですけど…」

「シンジくんね!ここへはよく来るの?」
畳み掛けるように質問するマナ。

「あ、う、うん、週に1回、水曜日だけだけど、最近始めたばかりだから…」
すっかりマナのペースにはめられて受け答えしているシンジ。

「へぇ、私は今日が初めてなんだけど、ラッキーだったな
嬉しそうに言うマナ。

だが、最後の一言は小声だったのでシンジには聞き取れず、思わず聞き返してしまう。
「え?」

「へへっ!なんでもない!ね?来週も来るんでしょ?一緒に泳ごう?」
明るい笑顔で誘うマナ。はっきりいって、かなり可愛い。

だが、シンジは初対面の少女にいきなり誘われて『うん』と言えるタイプではない。
「でも、ぼく、下手だから…」

「私がコーチしてあげる!」
引かないマナ。結構強引である。

「そんな…悪いよ…」
シンジのこの辺の優柔不断さは相変わらずである。

「いいからいいから。
 あっ、いっけな〜い、もうこんな時間?じゃ、また来週ね。バイバーイ!」
その白く細い腕に不釣り合いな黒い武骨な腕時計をチラッと見たマナは、慌てて水から上がり、ぱたぱたと走り去ってしまう。

「…何だったんだ?…いったい?」
ただ呆然とその後ろ姿を見送るシンジだった。




「…というわけで、マナとはまだ春休みに2回しか会ったことなかったんだけど、
 3年になって同じクラスになるなんて思ってなかったから、びっくりしちゃったよ」

一通り説明を終えたシンジであったが、アスカはまだシンジを疑わしい目つきで見ている。

「じゃ、霧島マナとはなんでもないのね?」

「言ったろ?ただの友達だって」

(向こうはそうは思ってないわよ!)
そう思うアスカだが、今日のマナの発言をわざわざシンジに教えてやる事も無い。
(ったくこのバカは、自分が結構モテるんだって事を気付いてないから始末が悪いわね。
 いや、気がついてやってるんだとしたら、もっと質が悪いわね。
 天性の女たらしだったりして?レイも苦労するわね)

そう考えながら、更に食い下がるアスカ。
「それじゃぁ、なんで今まで黙ってたのよ?後ろめたい所が有ったんじゃないの?」

ばつが悪そうな顔で答えるシンジ。
「だって…その…泳げなかったなんて、恥ずかしいじゃないか。
 いつか本部のプールで見たけど、綾波ってすごく泳ぐのうまいし、
 アスカなんてダイビングも出来るのに…」

「あんたバカぁ?つまらない見栄張っちゃってさ!!」
すっかりあきれ果ててしまったアスカだった。

「うん、ゴメン。でも、ぼくだって、綾波と一緒に泳いでみたかったんだ」
シンジは少し真剣な表情になって謝ると、
「もう少しうまく泳げるようになったら…そうしたら、一緒に泳ぎに行こうよ」
そう言ってレイに微笑みかける。

「そうね…私も碇くんと泳ぎたい」
レイもシンジの説明に一応安心したようで、ほっとした様に柔らかな笑顔を返す。

「じゃぁさ、5月頭に連休有るじゃない?黄金週間っての?その時、海行こっか。
 アンタもそれまでには人並みに泳げるようになってんでしょ?」
アスカが提案する。

「そ、そうだね。海かぁ…。でも、この辺に泳げる所有るの?」

今では1年中海水浴の出来る気候になってしまった日本であるが、セカンドインパクト後の水位上昇で、昔ながらの砂浜は全て水没してしまっていた。新湘南には人工渚の海水浴場も出来ていたが、彼らはそれまでそんなこと考えたこともなかった為よく知らないのだった。

「さぁ?…そうだ、ミサトにでも訊いてみたら知ってんじゃないの?」

「そうだね。今度聞いてみよう」


こうして彼らの新学期は始まったが、マナの存在はレイの心の水面に投じられた一石となり、けっして小さくはない波紋を描き出していた…。


To Be Continued...

あとがき
今回は苦労しました。先3話分くらいの伏線とネタがごちゃごちゃに絡み合ってしまい、ほとんど知恵の輪状態になってしまったのを切った貼ったでなんとかまとめたんですが、何だか長くなっちゃいました。今の私の実力ではこれが精一杯…。

さて、いよいよ登場のマナですがキャラクターがなかなか掴めなくって…。どうしてもリナレイとかぶっちゃうんですよね。
ともあれ、この先マナはシンジに何かと絡んで来ますので、レイもうかうかしていられません。シンジとの更なるラブラブな世界を築くにはこの試練を乗り越えてこそ!…って試練と言うほどの事でもないんですが(^_^;)。
ま、今後の展開をお楽しみに(^_^)。


ぜひ、あなたの感想をこちらまで>[ kusu3s@gmail.com ]

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