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新世紀エヴァンゲリオン++

第弐拾話:碇くんの誕生日


2016/06/01(水)夕方のコンフォート17
今日はシンジはスイミングクラブへ行く日なので、レイとアスカは二人で先に帰って来ていた。

帰りがけに買い物を済ませて帰って来ると、今日はレイが先にシャワーを浴びていた。
その間、アスカは買って来た食材を冷蔵庫にしまうついでに、冷凍庫から棒アイスを取り出してかじっている。
「まったく、毎日暑くって、まいっちゃうわよね〜」
などと、独りごちながら。

そのうち、シャワーを終えたレイが、いつものように首にかけたバスタオルで髪を拭きながら出て来た。
「アスカ、次、どうぞ」
例によって、身体を隠す素振りも無い。

はぁ…とため息をひとつつくアスカ。シンジがいない時はいつもの事だ。
「アンタねぇ、女同士とはいえ、ちょっとは隠そうと思わないの?」

レイはアスカをチラリと見やると、自分の胸元に目を落とし、数瞬考えるような間を取るが、
「…別に、問題無いわ」
そう言って自分の部屋に入って行ってしまう。

アスカはヤレヤレと肩をすくめると、自分もシャワーを浴びる事にするのだった。


しばらくしてシャワーから出て来たアスカは、いつもならもうキッチンに立っているはずのレイの姿が無いことに気づく。

「??何やってんのかしら?」

タンクトップにホットパンツというラフな格好になったアスカは、髪を拭きながらレイの部屋へ向かうとドアをノックする。

トントン

「レイ、入るわよ?」

「…どうぞ」

レイの返事を聞くと、アスカはドアを開けて部屋に入るが、そこで立ち止まり、目をパチクリさせる。

「アンタ…何やってんの?」

レイは鏡台の前に裸のまま座っていた。
その透けるように白く滑らかな曲線を描くしなやかな身体に、赤いリボンを巻きつけて…。

そう、それは、ホワイトデーの時にアスカからもらった、あのリボンであった。

「リボンの結び方が…よくわからないの」
レイは胸の前でリボンをいじりながら、首だけ傾けてこちらに顔を向けている。

長い広幅のリボンの両端を背中から両脇の下を通して前に持って来て、胸の膨らみの上側で結ぼうとしているのだが、なかなか奇麗な結び目ができないらしい。

あっけにとられて立ちつくしていたアスカは、ハッと我に返ると尋ねる。
「なんでそんな事…」

「もうすぐ、碇くんの誕生日だから…練習…してるの」

レイの言葉に、アスカはピンと来る。
「はは〜ん、『プレゼントは、わ・た・し(はあと)』ってか?」

レイは頬を染めてこくりとうなずく。もちろんそれがどういう意味か知っている。

(そう言えばこの前の『An-noN』にそんな記事が載ってたわね)
アスカは愛読しているティーン向け雑誌の特集記事を思い出す。
(この娘ってば、すぐ真に受けちゃうから困ったもんね。
 まぁ、純粋って言やそうかもしれないけど…)

「アンタねぇ、雑誌に書いてある事をすぐ真に受けるんじゃないの。
 『こんな考えもあるんだ』って参考程度にしておくもんよ」

温泉の時はアルコールが入っていた為イケイケ(死語^_^;)状態だったものの、実際にシンジが事に至ろうとした場合は止めに入るつもりだったし、冷静に考えるとまずい気がする。

(好き合ってる者同士、問題無いかもしれないけど、この娘って…まだ…)
「そりゃ、シンジは喜ぶかもしれないけど、ちょっと早いんじゃないの?」
とりあえず、そう言ってみる。

(早い?…そういうものなのかしら?)
「アスカは…相田君に、あげてないの?」

「あ…アタシだって、まだよ!」
(いきなり、なんてこと訊くのよ?!)

予期せぬ質問にうろたえながらのアスカの返答に、レイは考え込む。
(アスカがまだなら、私には早すぎるのかもしれない…。
 でも、どうしよう…名案だと思ったのに…)

「でも…私には、他に何も無い…」
困り果てたように俯いてしまうレイ。

アスカは呆れたように肩をすくめる。
「買って来りゃいいじゃない」

「何を買ったらいいの?」

「自分で考えなさい。
 こういうのは気持ちの問題だから、そんな高いモンじゃなくったって、アイツは喜ぶわよ。
 ま、土曜日までに決めればいいから、じっくり考えなさい。
 それより、そろそろ夕ご飯の支度しないと、シンジが帰って来る時間に間に合わないわよ」

「そうね。わかった。
 ありがとうアスカ」
レイはそう言うと、着替えるべく鏡台の前を立つのであった。


翌日の夜
夕食後、宿題を終えてしばらくくつろいでいたシンジが自分の部屋へ帰った後、考えあぐねたレイは、参考のためにアスカは何をあげるのかを尋ねた。

アスカの答えは「最新式の S-DATプレイヤーを買ってあげるわ」というものだった。
結構お値段が張るのでケンスケと相談して、折半で二人からのプレゼントということにしたらしい。

それを聞いた後、レイは自分の部屋に入ると、ベッドにうつ伏せになって、枕の上に組んだ両手の上にあごを乗せて考え込んでいた。

(私は何をあげたらいいだろう…)

(碇くんは何が欲しいだろう?)

(アスカのように、碇くんが普段使うような物を選ぶのがいいのかもしれない)

(普段使うもの…)

(台所用品?…もう少し大きい電子レンジが欲しいって言ってたけど…たぶん高価すぎる)

(身につける物、服?…何を選んだらいいのかわからない)

(アクセサリー?碇くんはそんな物、身につけない)

(鞄…そうだ、通学鞄なら…)

レイはシンジの通学鞄を思い浮かべる。
シンジ愛用のその鞄は大分くたびれて来ていて、ストラップの所にほつれが出来ているのを知っていた。

(そうね、そうしましょう。
 土曜日に買いに行こう…)

こうしてレイのシンジへのプレゼントは決まったのだった。


土曜日
駅前のデパートに鞄を買いに来たレイは、いろいろ迷った末、明るい色合いのキャンバス地の鞄を選んだ。
今シンジが使っているのと同様に背中に背負えるタイプだ。
軽くて丈夫そうで、背中にあたる部分はメッシュになっており、通気性も考えられている。

値段を確かめて、それをレジへと持って行く。

「人に贈るので、リボンをかけてもらえますか?」

「はい。プレゼントですね。お名前をお入れしましょうか?
 このタイプですとステッチングになりますが、すぐにできますし、
 お値段も500円とお安くなっております」

「…はい、お願いします」

「では、ここに相手の方のお名前を…」

渡された用紙に『碇シンジ』と記入しながら、レイは気分が高揚するのを感じていた。

(この碇くんの名前の隣に、私の名前を私の髪で刺繍するの…)

そんなアイデアが浮かんだのだ。

(鞄ならいつも使うし、登下校の時には碇くんの背中に背負われているから、
 そうすれば、私が一緒に帰れない時でも、いつでも碇くんと一緒…)

そう考えると、不思議に嬉しい感じがして、心が弾むのだった。


2016/06/05(日)早朝
スズメのさえずる声にレイは目が覚めると、ベッドの枕元に置いてある目覚まし時計を見る。
セットしてあった8時までは、まだ30分ほどある。

そのままベッドの中で手を頭の上で組み、ひとつ伸びをする。

「う……ん…」

カーテンの隙間から陽の光が漏れている。

(今日もいい天気…)

壁に掛かっているカレンダーに目を移す。

(明日は6月6日、碇くんの誕生日)

(碇くんがこの世に生を受けたことを祝う日)

(なんだか嬉しい…)

(どうして私が嬉しいの?私が祝われるわけではないのに…)

その不思議な気持ちについて考えてみる。

(この日に碇くんが生まれたから、
 私たちは出会うことができて、
 今、こうして一緒に住んでいる…。
 そうね…生まれた事を祝う日でもあり、
 こうやって出会うことができた事を感謝する日でもあるのね)

そうして今日の予定を思い浮かべる。

(今日は1日早い碇くんの誕生パーティー。
 みんなが碇くんを祝ってくれる)

6月6日は月曜日なので、日曜日の今日パーティーを開くことにしたのだ。

(以前はこんな楽しみがある事を知らなかったし、
 知っていても楽しいとは思わなかったかもしれない)

そもそも、レイには誕生日を祝ってもらったことはおろか、誕生日という概念自体が無かったのだ。

(でも、今は違う)

(たくさんの友達が来て、
 みんなが楽しそうにしているのを見るだけで、
 私まで楽しい気分になれる)

(碇くんも、きっと嬉しいはず)

(プレゼントも、用意した)

机の上に視線を移すと、昨日買ってきておいたシンジへのプレゼントの鞄が奇麗にラッピングして置いてある。
昨夜のうちに鞄の蓋の裏地に縫い付けられたシンジの名前の隣に寄り添うように、自分の髪を使って「レイ」と小く刺繍を施してある。レイの短い髪の毛ではかなり苦労したが、文字が直線ばかりなのでなんとかなったのだった。

(早く碇くんが喜ぶ顔を見たい)

もうすっかり目が冴えてしまって、寝直すなんてできない。

(ちょっと早いけど、もう起きてしまおう)

レイは身体を起こすと、ベッドから降り、朝のシャワーを浴びるべく、風呂場へと向かうのだった。


キッチンにて
ブルージーンズのフレアスカートにオフホワイトのブラウスを組み合わせ、その上からシンジとお揃いのエプロンを着けたレイが朝食の準備をしていると、シンジが入って来た。

「あ、おはよう、レイ。休みなのに、早いね」
シンジは短パンにTシャツというラフな格好だ。

「おはよう、シンジさん。今日は私に任せて」
(今日は碇くんが主役だもの)

「でも、朝食くらい手伝うよ」

「いいの、座ってて。お茶、淹れるから」

「そう、じゃ、待たせてもらうよ」

シンジはそう言うとダイニングテーブルの指定席へ座り、入って来た時に郵便受けから取って来た新聞を広げる。

「はい、お茶」

「うん、ありがとう」
一口すする。
「アスカは、まだ起きて来ないみたいだね」

「私が早すぎたの」
レイはシンジに言葉を返しながらも手は休めない。慣れた手つきで鍋のお湯に削り節を潜らせている。

「いつもの時間に身体のペースが慣れちゃってるのかな?」

「そう、そうかもしれない」
そう答えながらも、レイは心の中でつぶやいていた。
(ほんとは、気がはやってしまって、寝ていられなかったの。
 今日は特別な日だから…)

本当は明日なのだが、この際それは言わないでおこう。


概ね食事の準備が整った頃、アスカがパジャマ代わりのダブダブのTシャツだけという格好で眠そうな目をこすりながら起き出してきた。
「ふあぁぁ…おふぁよ〜。アンタ達、休みだってのに、早いわよぉ」

「おはよう、アスカ」
アスカの格好はいつもの事なのでシンジは慌てない。シンジが先に起きてキッチンに立っている時は、アスカだけでなくレイも似たような格好で起きて来るから慣れてしまったのだ。

「おはよう、アスカ。シャワー浴びて来たらご飯にするから」
レイはそう言いながら味噌汁の鍋に味噌を溶いて火を落とす。

「りょ〜かい。ちょっと待ってて」
アスカはそう言うと風呂場へと入って行った。


朝食の後
シンジは一旦自分の部屋に戻って行った。溜まっている洗濯物を片付け、1週間ぶりに部屋の掃除をする為だ。

それはレイたちの部屋でも同様で、レイは洗濯をする傍ら自分の部屋を掃除し、アスカは自分の部屋と続けてリビングの掃除をしていた。
ダイニングキッチンはいつも清潔にしているし、これからいろいろ料理を作るので汚れるだろうから軽く片付けるだけにしておく。

そうこうしてひと段落付くと、もう10時過ぎになっていた。

外に洗濯物を干していたレイが空になった洗濯かごを持って帰って来ると、アスカがダイニングからレイを呼ぶ。
「レイ、お茶にしない?」

「そうね。碇くんを呼んで来る」


三人で一服した後、パーティーの準備に取り掛かかる。
今日の主役のシンジは仕事が無いので、準備が出来るまで自分の部屋で待っていることにした。


昨夜のうちに下ごしらえしておいた肉や魚などの素材を冷蔵庫から取り出す。

「煮物と揚げ物はレイに任せるわ。
 アタシはスープとサラダを作るから」

アスカも最近は結構いろいろ作れるようになって、レパートリーが増えて来ている。
レイの味付けはどうしてもシンジのそれと似てしまうため、味付けの違うアスカの料理はありがたかった。

「飲み物はジュースと烏龍茶を買ってあるし、ケーキの時は紅茶がいいわね」

「大人用にビールも買ってあるから」

今日はミサト・加持夫妻、それにリツコとマヤも来る予定だ。


料理に取り掛かってしばらくすると、玄関のチャイムが鳴った。

「こんにちわー」
「お邪魔するでー」
ヒカリとトウジだ。

レイがエプロンで手を拭きながら出迎える。
「いらっしゃい」

アスカもキッチンから顔をのぞかせる。
「シンジは自分の部屋にいるから、トウジはシンジの相手しててよ」

「ほな、そうさせてもらうわ」
トウジはそう言うと、シンジの部屋へと出て行った。

「はい、これ、ケーキ。
 それと、おかずを少し作って来たから使って」

ヒカリは自分の家でデコレーションケーキを焼いて持って来てくれていた。(持ったのはトウジだが)
おまけにおかずを何品か作ってタッパーに入れて持って来てくれたのだ。
ヒカリは料理が上手だし、また一味違った味付けなので新鮮味がある。

「ありがとう、助かるわ」
受け取ったタッパーをテーブルに並べるレイ。

「うわ〜、さっすが、ヒカリ、上手ね〜!美味しそうなケーキ!」
アスカは早速ケーキの箱を開けて品定めしている。

レイはまだケーキを焼いたことはなかった。
「今度、私もやってみる」

「アタシも〜。ねっ、ヒカリ、教えてね」

「うん。今度、うちに来る?」

「行く行く、レイと一緒に行くから。ね、レイ」

「ええ、楽しみ」

「じゃ、私も手伝うから、お料理、仕上げちゃいましょう?」

「そうね、そろそろみんな来る時間ね」

そう言って料理の仕上げにかかる3人だった。


大小の器に料理を盛り付けはじめた頃、マナとケンスケがやって来た。
「こんにちは〜!」
「こんちわー」

「ちょっと、アンタ達、なんで一緒に来るのよ」

「いや、途中で会ったから…」

「…怪しいわね」

「ホント、偶然なんだから。
 大丈夫、相田君、私の趣味じゃないし」

「それって、ちょっと酷くない?」
例によってトホホのケンスケである。

(なんか、ムカッと来るわね)
アスカはマナの言い草にムッと来ている。

「だいたい、本人を目の前にして、言うかよ、そんなこと」
ケンスケはわざと口を尖らせて、しかし、冗談混じりに抗議する。

「あはは、ごめ〜ん。だってそうでも言わないと、アスカがヤキモチ焼くしぃ」
マナはそう言いながら、ケンスケの背中に隠れるように身を寄せる。

「誰が!」

「ちょっと、霧島、そんなにくっつくなよ」

「あれ?照れてんの?相田君」

「ケ・ン・ス・ケぇ〜」

「う…アスカ…(マズイ…)」

「ほら、マナもいいかげんコイツをからかうの止めて、料理並べるの手伝いなさい!」

「は〜い!」
マナは軽い足取りでキッチンへと入って行った。

アスカはそれを見送ると、ケンスケに向き直る。
「ケンスケ」

「な、何かな?」

「後で覚えてなさい(ぼそっ)」
低い声でそう言い残すと、踵を返し、キッチンへと向かうアスカであった。

ケンスケが冷や汗をかいていると、今度は大人たちが4人まとまってやって来た。

「お、もう大勢集まってるな」

「ん〜、この部屋に来るのも久しぶりね〜」

「私は初めてですよ、あ、先輩は来たことあるんですよね」

「ええ。でも、あの頃より管理状態がいいんじゃなくって?」

「ちょっと、それ、どういう意味よ?!」

「そのまんまじゃない」

「あ、加持さん、いらっしゃい。
 リツコ、久しぶりね。レイから聞いてたけど、お腹大きくなったわね〜」
ガヤガヤと入って来た大人たちを見て、アスカは軽く挨拶しながら、頭の中の参加者リストをチェックする。
「これで全員揃ったわね」

「ええ、お料理の方もあとはこれだけ」
レイが大皿を持ってリビングへと向かう。

既にリビングのテーブルの上には料理がずらりと並んでいた。
ヒカリは飲み物やグラスを用意している。

「オッケー!じゃ、ケンスケ!シンジたちを呼んで来て!!」


「シンジ〜、トウジ〜、そろそろ始めるぜ」

ケンスケが呼びに行くと、シンジはさすがに主役があまりラフな格好じゃまずかろうと、ブルーのデニム地のボタンダウン半袖シャツと生成りのパンツに着替えていた。意識してのことか、ちょうどレイと上下対称の組み合わせになっている。

3人揃って会場へ到着。パーティーの始まりだ。


みんな揃ったリビングにて
「本日は、シンジの15歳の誕生パーティーにお集まりいただき、ありがとうございます」
アスカが開会の挨拶をする。
「なんて、堅苦しい挨拶は抜きにして、楽しく行きましょ!はい、キャンドルに火を着けるわよ。
 ケンスケ、カーテン閉めてくれる?」

ケーキの上に並んだ15本のローソクに灯が燈り、カーテンを閉めると、オレンジ色の光に照らし出された室内は、なんとなく厳かな雰囲気になる。

「じゃ、せ〜のっ! Happy birthday to you〜」

アスカが音頭を取り、合唱が始まる。

『ハッピー バースデー ディア シンジ(碇くん|シンジ君|シンちゃん)〜
 ハッピー バースデー トゥー ユー〜〜…』

合唱の終わりと共に、アスカがシンジに目配せする。
それを見てうなずくと、シンジは大きく息を吸い込むと、一気にロウソクの火を吹き消す。

『おめでと〜!!』
パチパチパチパチ…

盛大な拍手と共にケンスケがカーテンを開くと、シンジは皆を見回して礼を言う。
「みんな、ありがとう」

シンジは、本当に嬉しそうだった。


例によって子供たちの間で料理の争奪戦が始まる中、大人たちはビールを飲みながら歓談していた。

「15歳の誕生パーティーか…」
加持が感慨深げにつぶやく。

「何よ、しみじみとしちゃって」
ビールのグラスから口を離してミサトが応える。

「俺達の頃は、それどころじゃなかったからなぁ…」

「そうね、私も…あの頃は、自閉症に陥ってたし…」

「私は祖母の所にいたから、ささやかながら祝ってもらえたわよ。
 こうやって、友達を呼んでのパーティーじゃなかったけど」
妊娠7ヶ月に入り、もうどこから見ても妊婦さんのリツコは、烏龍茶を飲みながら料理をつまんでいた。

「そうか、先輩たちの頃って、セカンドインパクト直後だったんですよね。
 私はこうやって、友達呼んで、お誕生会開いてましたよ」

「あなたが15の頃にはもうかなり復興が進んでいたものね」

「それでも、こんなにたくさんのお料理は出せませんでしたよ。
 ケーキだって、こんなに立派な…」

「ま、そういう時代だったからな」

「もう、あんな思いはさせたくないわね、この子たちには」
ミサトがしんみりと応える。

「その為に、俺達は働いている。そうだろ?
 辛気臭い話はこのくらいにしておこう。
 シンジ君の未来に」
加持はそう言うと、グラスを上げる。

「そして、子供たちの未来に」
リツコが応え、ミサトとマヤもグラスを上げるのだった。


しばらくして、頃合いを見はからったアスカが立ち上がる。
「えっと、それじゃここで、シンジへのプレゼント贈呈と行きます!
 はい、シンジ、立って立って」

「あ、うん」
シンジが立ち上がると、隣に座っていたレイも立ち上がり、そっとリビングを出ると自分の部屋に用意しておいた包みを取りに行く。

それを横目で見ながら、アスカは後ろ手に隠していた包みを出す。
「じゃ、最初は、アタシとケンスケから。
 これ、高かったんだから、大事にしてよね」

「開けていいかな?」

「あったりまえでしょ?さっさと開けなさいよ」
アスカは両手を腰に当てたお得意のポーズで催促する。

シンジが包みを開けてみると、それは最近TVでもよくCMが流れている最新型の S-DATウォークマンだった。

「うわ!これ、欲しかったんだ、ありがとう、アスカ、ケンスケ」
シンジが笑顔でアスカとケンスケに礼を言い、アスカはそれに笑顔で応え、ケンスケは軽く右手を挙げて応える。


「じゃ、次は、ヒカリ!っても、ヒカリのプレゼントは、もう、みんな見てるのよね」

「うん、私のプレゼントはこのケーキなの。
 手作りだけど、簡単でゴメンなさいね」

「え?いや、そんなことないよ。
 そう、これ、洞木さんが作ったんだ。
 奇麗にできてるから買って来たのかと思ったよ。
 美味しそうだね、ありがとう」

「それに、これだけじゃ悪いから、後で綾波さんに作り方を教える事にしてるから。
 それも碇君へのプレゼントってことで、いいかしら?」

「そっか、うん、ありがとう」


「はい、次、鈴原!」

「ワシからのプレゼントは、これや!」

受け取った包みを開くと、それは、白いジャージだった。
良く見ると、色以外はトウジがいつも着ているのと同じデザインだ。

「い、色違いのペアルック?」
「イヤーンな感じぃ!」
「何アホなことぬかしとる!これはプレミアム付きの限定モデルやぞ!
 これを手に入れるのに、どれだけ苦労したと思ってんのや!」
トウジは鼻息を荒くしている。

どうやら大変レアな物らしい。

(トウジらしいな)
と内心苦笑しながら、シンジは素直にお礼を言う。
「ありがとう。使わせてもらうよ」


「はい、次は、マナね」

「はい、シンジ君、お誕生日おめでとう」

「ありがとう。何かな?」

「開けてみて」

ガサガサ…

受け取った小さな包みを開けてみるシンジ。

「これ…水泳パンツ?」
それはライムグリーンの地にカラフルな模様の入った競泳タイプの水泳パンツだった。

「だって、シンジ君、スイミングクラブではいつも学校指定の奴じゃない?
 こ〜ゆ〜のもシンジ君には似合うんじゃないかな?って」

「アンタねぇ、そーゆーのは自分の彼氏に着せとけばいいでしょ?」

「だって、ムサシとはなかなか会えないもん」

「はいはい、悪かったわよ」

「じゃ、シンジ君!ちょっと試着してみない?」
マナがにこやかに(シンジにとって)とんでもないことを言う。

「えっ?ここで?勘弁してよ…(;_;)」

「私も見てみたい…」
いつの間にかレイが戻ってきていた。

「あ、綾波ぃ…」

「そうねぇ、アンタ、レイに見せずにマナだけに見せるってのは、問題有るんじゃない?」

「そ、そんなこと言ったって…」

「私も見てみたいわねぇ…シンちゃんの凛々しい水着姿」
ミサトは目を輝かせている。

「あ〜、葛城さんはこの前一緒に海行ったじゃないですか。
 その時見たんでしょ?ズルいですよ!」
こちらはマヤ。

「あなたたち、好きねぇ…」
リツコは呆れている。

「まぁ、今日のところは勘弁してやれよ。
 主役のシンジ君をあまり困らせるもんじゃないぞ」
加持が助け船を出す。

「う〜ん、ま、いっか」
マナは(私はどうせ水曜日に見れるもんね)と考えていた。
シンジがそれを着ないというオプションはマナの頭の中には存在しないようだ。

「レイもいいわね」
アスカの問いかけに、レイは(碇くんを困らせてはいけない)と思い、うなずく。


「じゃ、次行きましょ。レイの番よ」

レイは持って来た包みをシンジに渡す。
「はい、碇くん、おめでとう」

「ありがとう。大きな包みだね。何かな?」
そう言いながら包みを開ける。
「わぁ、鞄か!ちょうど買い替えようかと思ってた所なんだ」
シンジはそう言いながら、鞄を手にとって、ためつすがめつ眺めている。

(気に入ってくれるかしら?
 それに…気が付くかしら?)
少しドキドキしてしまうレイ。

だが、シンジはこの場では蓋を開けて中を見る事まではしなかったので、蓋の裏の刺繍には気付かなかった。
ちょっとがっかりするレイだが、シンジはその鞄が気に入ったようで、満面の笑みを浮かべるとレイに礼を言う。
「ありがとう。早速明日から使わせてもらうよ」

「うん」
(残念。でも、気に入ってくれて良かった…)
レイはシンジが気に入ってくれた事にホッとしていた。


「良かったわね、レイ」
アスカは小さな声でレイにそう囁きかけると、贈呈式(?)の続きを再開する。

「じゃ、次は…」

「はい、私と先輩から!」
お腹の大きなリツコが立ち上がろうとするのを制して、マヤが立ち上がる。

「はい、シンジ君。15歳の誕生日、おめでとう」
マヤはにこやかに何かが入った封筒をシンジに渡す。

「え?開けて見ていいですか?」

「もっちろん!」

ペリ…カサカサ…

「あ…母さん…と、父さん?…それに、ぼく?」
それは真ん中に制服を着たシンジを挟んで、ユイとゲンドウが立っている写真だった
シンジにはそんな写真を撮った記憶はないし、だいたい、歳が合わない。
白衣を羽織ったユイはまだ女子大生くらいの若い姿だし、黒い NERVの制服を着たゲンドウは最近の年格好をしている。
そのふたりの間に中学生のシンジが写っているのだから、父親と年の離れた姉弟、という感じである。

リツコが座ったままシンジに声を掛ける。
「15歳の誕生日に本人の家族写真ってのも変だけど、もらってくれるかしら?
 いらないなら、捨ててもらっていいわ。」

「そんなことないです。
 ぼく、こういう写真、何も持ってないから、嬉しいです。
 どうも、ありがとうございます」

そう言って、もう一度手に撮った写真をしみじみと眺める。

「でも、父さんはともかく、母さんの写真、よくみつかりましたね。
 父さんは全て捨てたって…」

「まぁね、あの人自身も写真嫌いでなかなかいい写真が無かったけど、問題はユイさん。
 NERV内のアーカイブからはきれいさっぱり消されていたし、
 あの人の個人ディスク領域を管理者権限でのぞいて見てもみつからなかったわ。
 マヤにあちこちさがしてもらって、ようやく京都大学の古いサーバーの中にかろうじて残っていた物を見つけ出したの。
 だから、ユイさんのは学生時代の写真なのよ」

「シンジ君、それ、私が合成したのよ」
マヤが嬉々として説明を始める。
「ソースの写真が3枚共光源の方向が違うもんだから、
 専用のレンダリングツールを書いて光源方向を統一する処理をかけたから、自然な感じに合成出来てるでしょ?
 背景も MAGIによる自動生成なの。これも専用のジェネレータを書いたわ」

「あ、ありがとうございます」
(なんか、凄く高い写真のような…(汗)

「これがシンジ君のお父さん?なんか、コワそ〜」
「これがシンジのママ?ひゅ〜!きっれいね〜」
早速皆がのぞき込んでいる。

「なんか、綾波と似てへんか?」

トウジのなにげない一言に、一瞬、身体をこわばらせるレイ。

大人たちもハッとしたように表情を固くし、事情を知らない子供たちがいる所でこの写真を見せたのは迂闊だったかと、後悔していた。

「綾波は…綾波だよ」
だが、シンジはそう言って、何でもない事のように笑う。

「トウジ、失礼よ!」
ヒカリはトウジをたしなめている。

「あ、いや、すまんかった。悪気は無かったんや」
トウジはシンジとレイに頭を下げる。

「いいよ、そんなこと。ね、綾波」
そう言うとレイに微笑みかける。

レイは一瞬シンジを見つめると、表情を和らげてうなずく。
「…ええ」

そんなふたりを見て、大人たちは感慨にふけっていた。
(シンジ君、強くなったな)
(なんか、いいわね、このふたり…)
(シンちゃん、なんだか、大人になっちゃって…)
(レイちゃん…いいわね…こんなにシンジ君に想われて…)


「はい、じゃ次はミサト?加持さん?」
アスカが次を促す。

「うん、これは俺達二人からだ」
加持とミサトが立ち上がる。

「おめでとう、シンちゃん」
「シンジ君、おめでとう。
 15歳と言えば、もう、大人だ。
 何事も自分で責任を取る覚悟で、自覚を持って行動するようにな」

「はい、わかってます」

「よし、そういうわけで、これを贈ろう」

加持はそう言うと、奇麗にラッピングされた小さな箱を渡す。

「?」
シンジはそれを開けてみる。

それは、何か商品名らしい物が英語でプリントされているだけの、模様も何も無いシンプルなデザインの箱だった。

「NEO SUPER SKINLESS 2016…?何ですか、これ??」

「ブッ!けほっ!けほっ!」
その商品名を聞いて、グラスに口を着けていたマヤが吹き出して顔を真っ赤にして咽せ込み、リツコは一瞬目を丸くし、すぐに呆れたような表情になる。ミサトは加持の隣でニヤニヤしていた。

「ちょ、ちょっと、加持さん?!」
それが何であるか察しが付いたアスカは顔を赤くしている。

ケンスケはニヤリとし、その他の子供たちは(?)と頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。

「おっと、この場ではそれ以上開けない方がいいな。
 まぁ、それはおまけで、本当のプレゼントはこっちだ。
 もっともこれは、俺達からのプレゼントってわけじゃないけどな」
そう言うと、少し大きめの封筒を懐から取り出す。

(また、封筒?何だろう?)
シンジはそう思いながらそれを受け取る。

「そろそろあれから半年が過ぎる。
 法律上ゲンドウ氏の死亡が認められるだろう。
 あの人はかなりの個人資産を持っていたからな。
 それは、君が引き継ぐべき物だ」

[シンジ君のお父さんって、最近亡くなってたの?]
マナが小さな声でアスカに尋ねる。

[う〜ん、アタシもよく知らないんだけど、ちょっと、いろいろあったみたいね]
アスカも小声で答える。

「遺産…ですか?」
ゲンドウは、シンジにとっては死んだわけではなく、今もユイと共にどこかで生きている存在なのだから、実感が沸かない。

「そうだ。ま、相続税でかなり持って行かれるけどな。
 君が成人するまでは、冬月司令が管理してくれる。
 今日渡すのはその目録だけだ」

「はぁ…」

「あまり嬉しそうじゃないな。まぁ、受け取ってくれ」
加持は苦笑しながらも、シンジの心境も解る気がしていた。
(ま、そりゃそうだな。
 いきなり書類上だけ大金持になったって、何が変わるってわけじゃないしな)

「はい。わざわざ、ありがとうございます」

「シンちゃんにはもっと所帯染みた物の方が嬉しかったかしらねぇ。
 そうそう、シンちゃんの為に新しい掃除機買ってあるから、いつでも使いに来てよ。
 新型の洗濯機も有るわよん。使ってみたいでしょ?」

「はぁっ?」
呆れ返ったシンジはタメイキをひとつ吐く。
「ハァ…。ミサトさん…家事、ちゃんとやってるんですか?」

「家事は加持にお任せ〜なんちって」

「…………」
重い沈黙。

「あ、あれ?(汗)みんな、どしたのかな〜?」

「加持さん…後悔してないですか?」

「ハハ…俺はシンジ君がうらやましいよ」

「ちょっと、加持ぃ?それ、どういうこと?」


「レイちゃん、レイちゃん」
加持とミサトの夫婦漫才に皆の意識が行っている時、マヤがレイに囁きかける。

「?なんですか?」

「ほら、さっきの写真、レイちゃんも一緒に合成したのが有るのよ」
マヤがレイにこっそりと手渡した写真は、先程の写真のシンジの隣に制服姿のレイが不思議そうな顔をして写っている物だった。

レイは目をパチクリして、それを見つめる。
(この前、定期検査の時撮った写真…この為の物だったのね…)

「レイちゃんにあげるわ、それ」

「あ…ありがとうございます」

胸に写真をかき抱いてマヤに見せた微笑みは、本当に嬉しそうで、愛らしくって、マヤは少し見とれてしまった。
(レイちゃん…いつの間にか、こんなに可愛い笑顔を浮かべられるようになってたんだ)
定期検査の時くらいしかレイと顔を合わせないマヤにとってはレイの笑顔は新鮮で、それだけに感慨深いものがあるのだった。


またしばらく歓談の後、アスカはパーティーの〆に掛かる。
「それじゃ、最後になったけど、今日の主役、シンジから、みんなに一言」

シンジは立ち上がると中央へ出る。
みんなの顔を見回すと、みんなが優しい笑顔でシンジを見てくれているのがわかった。

「えと、今日はぼくの誕生日に集まってくれて、みんな…ありがとう…」

感極まったのか、シンジは言葉に詰まり、目を瞬かせる。
嬉しそうに笑顔を浮かべているが、その目が少し潤んでいるのが判る。

(碇くん…泣いてるの?
 …でも、嬉しそう。嬉し泣きね…私も嬉しい…)
レイはシンジの喜びが自分の喜びでもあるように感じていた。

シンジは気を落ち着け、言葉を続ける。
「今まで、誕生日を、こんなふうに祝ってもらえるなんてこと、無かったから。
 …ホントに、嬉しかったです」

(私も無いわ。
 だって、今まで誕生日も無かったのだから。
 でも、今年は有る。
 私の誕生日の時が楽しみ。
 私も泣くかしら。
 それに、碇くんは何をプレゼントしてくれるかしら…)

「今日は、どうもありがとう。これからもよろしくお願いします」

そう言って頭を下げるシンジに、誰からともなく拍手が沸き起こるのだった。

パチパチパチパチ…


みんなが帰って…
19時を回った頃パーティーはお開きになり、リビングを片付けた後、ヒカリとトウジ、リツコとマヤはそれぞれ連れ立って帰って行った。

ミサトと加持はリビングでお茶を飲みながら、シンジと話をしている。

キッチンではレイとアスカが食器を洗っている。

「作るのは楽しいけど、片づけが面倒なのよね〜」
アスカはそう言いながら、せっせとお皿の汚れをキッチンペーパーで拭き取っている。

汚れをあらかた拭き取られたお皿を受け取ったレイが、洗剤を付けたスポンジで奇麗に洗う。
最近の洗剤は以前のものと比べて格段と人体に優しくなっているので、レイの敏感な肌でも手が荒れるようなことはない。
その分洗浄力は落ちているのだけど、あらかじめこうして拭き取って置けば充分だ。

レイが洗ったお皿をケンスケが奇麗に拭き上げて、一旦ダイニングテーブルに並べる。
いつもはシンジがこなすパートを今日はケンスケが担当している。
汚れ拭きを終わったアスカがそれを然るべき場所へと片付ける。

「そう言えば、アンタも料理、出来るのよね」
アスカはケンスケも、朝が苦手らしく弁当は作って来ないが、家では料理をする事を知っている。

「まぁね。うちも片親だしね。家事はオレの仕事さ」
何でもない事の様に答えるケンスケ。

「そっか〜、今度、何か作ってよ」

「オレは洞木や綾波、シンジみたいな凝ったモン作れないぜ?」

「いいわよそんなの」

「じゃ、そのうちにな」

そんなことを話ながらでも3人でやると仕事が速い。
すっかり片づくとコーヒーを入れてしばらくみんなでおしゃべりしていたが、ミサトと加持が腰を上げると、
「あ、じゃ、オレもそろそろ…」とケンスケも帰って行った。


いつもの様に3人だけになって気がつけば、もう21時を回っている。

「アタシ、先にお風呂入るから」
アスカはふたりに気をきかせたのか、そう言うとリビングを出て行った。

「プレゼント、何か入れる袋を持って来るわ」

レイが手ごろな紙袋を探しに行こうとするが、シンジはそれを止める。

「あ、いいよ、ジャージ以外はこの鞄に入るから」

そう言って鞄の蓋を開けると、その裏の部分にシンジの視線が止まる。


    碇
    シ
    ン
    ジ


シンジの一瞬驚いたよう表情が、照れたような笑みに変わる。

(あ、気がついたのね)

「名前、入れてくれたんだ。
 それに、このレイの名前の刺繍、これって…」

シンジがそう言うと、レイは自分の髪に手をやり、コクリとうなずく。

「やっぱり、そうじゃないかと思ったんだ」
そう言いながらそこに縫い付けられたレイの名を見る目が優しい…。

シンジはレイに視線を戻すと、優しく微笑む。
「ありがとう…大事にするよ」

「嬉しい…大切にしてね」
レイも優しい微笑みを返すのだった。


プレゼントを鞄にしまい、ふたりがキッチンで今日の料理の残りで明日のお弁当のおかずの下ごしらえをしていると、お風呂場からアスカの叫びが聞こえて来た。

『あ〜っ!ケンスケにお仕置きするの忘れてた!!』

「なんか、あったの?」
「知らない」
目を丸くして顔を見合わせたふたりは、思わず苦笑を交わすのだった。


明日のお弁当と朝食の下ごしらえも済み、シンジも帰る事にする。

「じゃ、ぼくもそろそろ帰るよ」

レイはいつものように玄関までシンジを見送る。

「レイ…今日は、ありがとう…」

「うん……今日は…」
そこで、言葉を切り、逡巡するレイ。
(どうしよう…言ってしまおうか…)

レイが何かを言いかけて俯いてしまったので不思議に思うシンジ。
「?」

やがて、レイは決心したように顔を上げると、口を開く。
「今日は…ホントは、違う物をプレゼントに考えていたの…」

「え?何?」

「……私……」
顔を真っ赤に染めながらも、シンジを見つめてそう答えるレイ。

「え、そ、それって…」
シンジも真っ赤になってしまう。

「でも、アスカが、まだ早いって…」

シンジは内心焦りながらも、なんとかフォローしようとする。
「そ、そうだね、まだ、ちょっと早いと思うよ」

さすがにレイも恥ずかしかったのか、赤い顔のまま俯いてしまう。
レイにとっては、シンジに変に思われたんじゃないかという事の方が恥ずかしいのだ。

シンジはレイがどれほどの勇気を振り絞ってそれを口にしたのかと思い至ると、そんなレイをたまらなく愛おしく感じてしまう。
そして、その気持ちが、シンジにも少しばかりの勇気を与えた。
「でも…このくらいなら、いいかな?」

「え?」

シンジの言葉にレイが顔を上げると、その目の前にシンジの優しい笑顔が有った。

ゆっくりと近づくシンジの顔に、レイはそっと目を閉じる。

それは、いつもの軽いお休みのキスではなく、初めての深いキスだった。
レイはシンジのぎこちないキスにたどたどしくも応えながら、その初めての感触に、感動と快感を覚えていた。

(碇くん…嬉しい…。
 気持ち…良くって…クラクラする…)

思わずシンジの背中に両手を回し、抱き付く格好になるレイ。
シンジもそれに応え、レイを抱きしめる。

「んっ…はぁ…」
やがて、どちらからともなく唇を離し、熱い息を吐く。

「ありがとう…これが、今日1番のプレゼントだったよ」
赤い顔で照れたように笑うシンジ。

レイも熱く火照る頬を両手で押さえながら、瞳を潤ませてこくりとうなずく。
(そうね…私にとっても、素敵なプレゼント…)

「じゃ、おやすみ。また、明日」
照れ隠しなのか、少し慌ててドアを開けて出て行くシンジだった。

「…おやすみなさい」

(そうね、なにも、慌てることはないのね…)

(ゆっくりと、お互いを求め、求められることに慣れて行けば…)

レイはしばらくの間、そのままぼ〜っと、閉められたドアの前に佇んでいるのだった。


その夜
「か…加持さん…これを、どうしろって言うんですか!」

シンジの部屋では加持からもらったプレゼントの箱を開けて、真っ赤になってうろたえるシンジの姿があるのだった…。




To Be Continued...

あとがき
「海編」から宴会シーンが続くので、今回はレイの一人称で綴ってみようかと思ったんですが、「++」としてのカラーから外れるので、やっぱりいつものスタイルになってしまいました。
タイトルと、レイの視点でのモノローグが多いのがその名残ですね。

『An-noN』は女子高生をメインターゲットとする女性総合情報誌。
初代編集長は「アンノヒデアキ」(爆)という設定(^_^;)。

今回、アスカが一部読者から恨まれ役に(^_^;)。

それにしても、各人のプレゼントを考えるのに苦労しました。こんなんで良かったんだろうか?


さて、次は七夕。内容はまだ全然決まってません(^_^;)。


ぜひ、あなたの感想をこちらまで>[ kusu3s@gmail.com ]

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