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新世紀エヴァンゲリオン++
第四話:義理と人情のバレンタイン
- 2016/02/10(水)
- 学校の女子更衣室にて
「え〜っ!!女の子から男の子へチョコレートを贈る日ぃ?
日本のバレンタインデーって、そんな日なのぉ?!」
アスカの声が響く。
「えっ、ええ。知らなかった?」
と、意外そうな表情のヒカリ。
「だって、ドイツじゃ…」
「日本ではバレンタインにはね…」
とヒカリの講義が始まる。
「へぇ…そうなんだ、変わってんのね。
なんか、お菓子メーカーに躍らされてるって感じしない?
義理チョコなんて、単なる浪費じゃない」
と、いまいち納得できないアスカ。
「まぁ、いいじゃないの。
これも文化の相違ってやつでしょ?
それに、私達も結構楽しんでるんだし。
女の子には重要なイベントよ。
もちろん男の子にもね。
ふふ…」
と、ヒカリはそこで含み笑いを漏らすが、アスカはちょうど入って来たレイを見付けたようで、それには気付かずレイに声を掛ける。
「レイ、あんたはバレンタインデーって知ってた?」
「ええ。NERV でもその日は女の人が男の人にチョコレートを渡していたもの。
碇司令も赤木博士からもらっていたわ」
「碇司令が?チョコレートを?」
アスカにはレイがそんなことを知っていたこと自体も意外だったが、それ以上にゲンドウがチョコをもらっていた事に衝撃を受け、おまけにゲンドウがチョコレートをパクつく光景を思い浮かべてしまい、顔をこわばらせたまま固まってしまう。
「アスカ!アスカったら!」
ヒカリが声を掛け、ようやく金縛りが解けるアスカ。
「あ、うん、なんだっけ?」
「もぉ、アスカも誰かさんに贈るんでしょ?チョコレート」
「えっ?アタシは、別にぃ…」
「そんなこと言って、相田くん、悲しむわよ」
「う〜ん、どうせアイツにチョコあげようなんていう酔狂な女もいないだろうしぃ…」
(そういうアスカはどうなのよ!素直じゃないわね!!)
と心の中で突っ込むヒカリ。
「あんなやつでも、ひとつももらえなかったら可哀想だもんね。
ま、この心優しいアスカ様が恵んでやりますか。
いうなれば『郷に入れば郷に従え』ってやつね」
(アスカ、それ、なんか違う気がする)
心の中で更に突っ込むヒカリ。
ようやくアスカも心を決めたようだ。
「じゃ、明日休みだし、買い出しに行こっか?
レイも来るでしょ?」
「私も?」
「あんたもシンジにあげるんでしょ?チョコ」
(私が、碇くんに、プレゼント?
そう、そうね…そうしたら喜んでくれる?碇くん?)
「私も、そうする」
「じゃ、決まりね」
- バレンタイン前夜
- レイは自分の部屋のベッドの上に座り込み、ひとり想いに耽っていた。
その手にはヒカリの家でやり方を教わりながら、自分で湯煎して作ったオリジナルチョコが入ったかわいらしい包みが有った。
もちろん、一緒にアスカもケンスケ用のを作っている。
(碇くんへのプレゼント…。
初めての、贈り物)
「ふふ…」
(なんだか、嬉しい。
どうして私が嬉しいの?
プレゼントって、もらった人だけではなく、あげる人も嬉しいものなのね。
いえ、もらった人の喜びを、自分の喜びに感じられるからなのね)
(ああ、早く明日が来て欲しい。
こんな気持ち、初めて…)
レイはなかなか寝付けなかった。
- 2016/02/14(日)
- アスカは、
「もしもし、ケンスケ?日曜日、付き合ってよ。
新しい服買ったから、写真撮って欲しいのよね。
あんた、アタシの専属カメラマンでしょ?」
とかなんとか理由を付けてケンスケを呼び出したらしい。
ケンスケはケンスケで、
(日曜日といえば、バレンタインデー。
その日に誘われるって事は、これは…。
今年こそオレは長年の暗く空しいこの日から開放されるのか?)
と期待を胸に、ふたつ返事でそれに応じたのは言うまでもない。
一方、レイはシンジに逢いにミサトのマンションに来ていた。
「はい、碇くん、これ」
レイはシンジの喜ぶ顔を早く見たくて、玄関先で早速チョコを手渡す。
「あ、ありがとう」
(綾波からチョコレート貰えるなんて、期待してたけど、嬉しいよ)
「義理だから…」
「えっ…あ、そ、そう…はは。ありがたく頂くよ」
(ぎ…義理なの?…とほほ…)
シンジの表情が曇ったのをレイは敏感に感じとった。
それは期待していた優しい笑顔ではなく、どこか寂しげな表情であったから。
(どうしたの?なんだか寂しそう…。
どうして喜んでくれないの?
私、なにか間違ったの?)
訳が解らなくなったレイは居ても立ってもいられなくなり、そこから逃げ出すように言う。
「あの、ごめんなさい。私、帰るから…」
「あ、うん、気をつけて。チョコレート、ありがとう」
やはり寂しそうなシンジ。
- 夕刻
- レイは自分の部屋で悩んでした。
(解らない…。
間違ってはいないと思うけど…。
どうして碇くんは喜んでくれなかったの?
どうして?)
そこへアスカから電話が掛かってくる。
『ちょっと、レイ、あんた達何があったの?
帰って来たらシンジは妙に暗いし…。
あんた、チョコあげたんでしょ?』
「アスカ…解らないの…。
どうして碇くんが喜んでくれなかったのか…」
少し涙声になっているレイ。
『ちょっと、泣いてんの?レイ。
どういう事だか話してみなさいよ』
「うん…ありがとう、アスカ」
そして、事の顛末をポツリポツリと話し出すレイ。
…
『ちょっと待ってよ、あんた、義理だって言ったわけぇ?』
「ええ」
『そりゃ、暗くもなるわよ。
どうしてそんなこと言ったの?』
レイは去年の NERV でのバレンタインの光景を思い浮かべていた。
その壱)リツコの場合
「碇司令。はい、これ、私からの気持ちです。受け取っていただけます?」
「あ、ああ。すまんな、私なんかに…」
「いつもお世話になってますから。これでも私、義理堅いんですのよ(ハート)」
「あ、ああ(汗)」
その弐)マヤの場合
「はい、日向くん、青葉くん。これ」
「えっ!マヤちゃん?」
「やだなぁ!義理ですよ、義理!」
(そりゃ、二人同時に渡せば義理だって解るんだから、そこまで念を押さなくったって…;_;)
と、とってもトホホなふたり。
その参)ミサトの場合
ミサトは当時まだ NERV 本部には転属になっていないが、リツコと電話で話していた。
『ええ?なんで私が加持なんかにチョコ贈んなきゃなんないのよ!
アイツにそんなことする義理なんて無いわ!!』
そのバカデカイ声は、リツコが耳から遠ざけた受話器を通して、部屋中に響いた。
その後ろで不思議そうな顔をしているレイに、珍しくリツコが話し掛ける。
「St. Valentine's Day って知ってる?」
「はい。『その起源については諸説あるが、いずれも聖バレンタインの故事に端を発し、
現在では親しい男女がプレゼントを贈り合う行事となっている』と覚えています」
「そうね、世界的にはね。でも日本では 2/14 のバレンタインデーには、女性が
普段お世話になっている男性に感謝の気持ちとしてチョコレートを贈る日なの。
それを義理チョコと言って『義理』と言う言葉と共に渡す物なのよ」(ニヤリ)
…
「あんたバカぁ?それ、信じてたわけ?
義理チョコって言うのはねぇ…」
と、ヒカリから仕入れた知識を早速披露するアスカ。
(そう言えば、NERV でも義理チョコをもらって嬉しそうにしてる人、いなかった…)
「そう、赤木博士、嘘を教えたのね…」
その時、レイの口調に青白く揺らめく炎を見たアスカは、
(まったくの嘘って訳じゃないと思うけど…)
とは思ったものの、口には出せなかった。
- 同刻、NERV本部
- 「っくしゅん!」
「やだ、風邪?
気をつけなさいよ、リツコ。
あなたはもうひとりだけの身体じゃないんだから」
「ふふ…そうね」
「えっ!先輩、それって…」
「妊娠してるわ。三ヶ月よ」
「ええっ!!でも、でも、先輩、その…誰の子供なんですか?」
「…シンジくんの…弟…かな?」
「不潔ですっ!!先輩っ!!」
マヤは「シンジくんの」までしか耳に入っていなかった。
走り去っていくマヤを唖然と見送るリツコとミサト。
ミサトが口を開く。
「弟?もう、判ってるんだ」
「ええ、男の子よ」
「でも、なんかあの娘、変な勘違いしてない?
今の言い方だと『シンジくんの子供』だと思ったんじゃない?」
「どうも、そのようね(汗)。
妙な噂をばらまかれる前に確保しないといけないわね」
しかし、時既に遅し、NERV のイントラネットを『ぼくはやめてって頼んだのに、リツコさんが…』など尾ヒレ胸ビレ付いた怪情報が飛び交い、リツコはその揉み消しに苦労する事になる。
人間、悪いことはできないものである。
でも、NERV には休みは無いのか?(^_^;)
- 翌日(月曜日)
- アスカはシンジには本当のことを話していなかった。
昨日の電話で、
『じゃぁ、私からは何も言わないから、明日、学校であのバカにちゃんと言うのよ』
「碇くんはバカじゃない。
バカは、私…」
『はいはい、それはもういいから。
明日、しっかりね』
「うん、ありがとう、アスカ」
と、本人の口から言わせたほうがいいと考えたからだ。
真実を知らないシンジは、どんよりと影を背負った表情で登校して来た。
教室に入るとシンジを待っていたレイが駆け寄って来る。
「碇くん、昨日はごめんなさい。
あのチョコ、義理なんかじゃないの。
私、間違った事を教えられていたの。
私の本当の気持ちだったのに、私…。
碇くんを傷付けてしまった…」
そしてうつむいてしまうレイ。
「綾波…」
(よかった…義理なんかじゃなかったんだ…)
「ごめんなさい、碇くん」
つぶやくように繰り返すレイに優しく話し掛けるシンジ。
「もう、いいよ。綾波。
気持ちは解ったから。
ありがとう。
すごく、うれしいよ」
そう言うとレイに微笑みかける。
その笑顔は、昨日、あの時、レイが見たかった笑顔そのものだった。
「碇くん…」
(良かった、碇くん、喜んでくれた。
良かった…)
少し潤んだ瞳で見つめ返すレイ。
「はいはいはいはい。もうその辺にしておいたら?
みんな、見てるわよ」
アスカが割り込む。
「「え…」」
レイとシンジはクラス中が自分達に注目しているのに気付き、真っ赤になってしまう。
「ああ綾波ぃ〜(;_;)」
と涙する男子、
「くっそ〜!碇のやつ!!自分だけいい目を見やがって!!」
と嫉妬の炎を燃やす男子、
「やっぱり、綾波さんが相手じゃ、分が悪いわよねぇ…(ため息)」
と諦めの女子。
学校が再開されてから、以前のレイを知る者には意外なくらいレイが表情豊かになっているのを見ていたクラスメート達の中には、レイに好意を寄せる者も出て来ていた。
一方、シンジもこのところ女子生徒に人気急上昇中だったのである。
そんなところにケンスケが登校してくる。
「あ、アスカ、チョコおいしかったよ」
よっぽど嬉しかったのか、開口一番これである。
「なっ!バカ!こんなとこで何言ってんのよ!!」
真っ赤になるアスカ。
「なぁにぃぃぃ?!!ケンスケまでもが?!!
しかも、あのアスカ様から?!!
嘘だ!嘘だ!嘘だぁぁぁ!!!」
教室を飛び出して行く数人の男子。
「なんや、えらいことになっとんな」
「そ…そうね」
自分達に飛び火しない事を願い、教室の後ろの方で小さくなるトウジとヒカリだった。
- あとがき
- 予定外ですが、バレンタインネタ。急造ですが何とか間に合わせました。
なんか、風邪引いちゃって、熱でクラクラしながら書いているので、妙なもんが書けたような気がします(オマケに一度公開した物を加筆のため一時凍結する始末;_;)。
ラブラブなのを期待した方、ごめんなさい。
ちなみに、彼等はまだ引っ越しはしてません。