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新世紀エヴァンゲリオン++

第六話:酔っぱレイ事件


2016/02/21(日)
引っ越しは案の定ミサトの荷物の整理に手間取って、結局午後までかかった。
業者のトラックが加持のマンションへ向け出発し、ミサトと加持がミサトの愛車で出るのをシンジたちは見送りに出ていた。

ミサトはシンジとアスカに、柄にも無く寂しそうに言う。
「結局、私はあなた達のお母さんにはなれなかったわね」

「いいんですよ、そんな事。ぼくは感謝してます」

「ま、アタシもいろいろ勉強になったしね」

「ありがと。じゃ、落ち着いたら連絡するから、遊びに来てよね」

「はい、ぜひ。ミサトさん、ほんとにお世話になりました」

「何言ってんのよ、お世話になったのはミサトの方でしょ?」
アスカの突っ込みが入る。

「ははは、ま、そうかもね。
じゃ、しっかりね、シンジくん」

「しっかりするのもミサトの方でしょ?」
再びアスカ。

「う…うっさいわね!」

後ろで加持も苦笑を浮かべている。

「レイとの仲を深めるチャンスよ、頑張ってね。
でも、アスカを襲っちゃダメよ」
と、シンジの耳元で囁くミサト。

「なっ、何言ってるんですか!からかわないで下さいよ、もう!」
そう言いながら赤くなるシンジ。

(ミサトったら、まーたシンジに妙な事吹き込んでるわね)

アスカがそう思っていると、ミサトは今度はレイに何か囁き、レイは顔を赤くしてコクコクうなずいている。

(ミサトさん!綾波に何を吹き込んでるんだよ?!)
きっとさっき自分に言ったような事をレイにも言ってるに違いない、と確信するシンジだった。

「アスカ、レイを頼んだわよ。
いろいろ教えてあげてね」

「解ってるって」

「レイ、何か困った事が有ったらアスカに相談するのよ」

「はい、葛城さん」

「じゃ、またね。どうせ本部に行けばいつでも会えるし。
さよならは言わないわ」

「うん、じゃぁ、また」

けたたましいスキール音を立てて走り去っていくミサトの車を見送る三人。

「行っちゃったね」
寂しげにつぶやくシンジ。

「うん…。さ、今夜はレイの歓迎パーティーよ!パーッとやりましょ?」
アスカは気持ちを切り替え、明るく言う。


夕刻
ミサトは炊事道具や食器類はほとんどそのまま残して行ったため、食事の用意には困らなかったので、シンジは少し奮発してちょっと豪華な夕食を準備した。

少し遅い時間にはなったが食事の準備が整ったダイニングに入って来たアスカは、後ろ手に隠していた物を高く掲げた。

「ジャーン!秘蔵のモーゼルワインよ」

「アスカ、お酒はまずいんじゃ…」

「ワインなんてお酒のうちに入んないわよ」

「でも、ビールよりアルコール強いよ?」

「堅い事言いっこなしよ。
ささ、グラス持って来て、乾杯しましょ」

(まぁ、少しくらいならいいか…)
と思ったシンジだったが、これが甘かったと後に語る。


「私達の新しい家族に、乾杯!」
アスカが音頭を取る。

「乾杯!」
シンジもグラスを上げる。

(家族?私、碇くんとアスカの家族になったのね?
家族…私達の新しい絆…。
嬉しい…)
「ありがとう、アスカ、碇くん」
レイは嬉しそうに礼を言い、ワインに口を付ける。

「どお?レイ」

「おいしい…私、ワイン、初めて…」

「ほんとだ、飲みやすいね。
これ、アスカがドイツから持って来たの?」

「ふふん、いいワインでしょ?これはね…」
と、アスカの講釈が始まる。

「でね、そこのシャトーではね…」

こくこく

「へぇ、そうなんだ」

こくこく

「うちでは毎年箱で…」

こくこく

「じゃ、アスカは向こうではよく飲んでたんだ…って、綾波、もう飲んじゃったの?」

「うん、これ、おいしい…」

「へぇ、結構行けるわね。じゃ、もう一杯」
と、レイのグラスにワインを注ぐアスカ。

「さて、これからの生活のために、いろいろ当番を決めといたほうがいいわね」

「うん、そうだね。
綾波は料理って出来るの?」

「料理?…私、した事無い…」

「そっか、じゃ、やっぱり料理当番はぼくかな?
綾波、いつもお昼は購買のサンドイッチだもんね。
お弁当、作ってあげるよ。
どうせアスカの分も一緒に作るんだし、二人分も三人分も手間は同じだし、
なにより、綾波にぼくのお弁当食べて欲しいんだ」
と、照れ臭そうな笑顔で言うシンジ。

「ありがとう碇くん。私、嬉しい…」
レイも嬉しそうに微笑みを返す。

「うん、じゃ、それは決まりだね。
朝食・夕食もぼくがここで作るよ。
みんなでここで食べようよ。その方が楽しいし。
掃除・洗濯は各人やる事にしよう。
それでいいよね」

「う〜ん、ま、それは仕方ないか」
アスカも渋々了解する。

「さ、料理が冷めちゃうよ、どんどん食べて。
綾波、肉ダメだったよね。
肉抜きの料理も作ったから」

「うん、ありがと…」

「あんた、好ききらいしないでちゃんと肉も食べないと、
アタシみたいなナイスバディになれないわよ。
シンジもそう思うでしょ?」
と、アスカ。

「え…まぁ、ナイスバディとかはともかくとして、
身体のためにも好き嫌いはしない方がいいと思うけど、
アレルギーとかが有るならダメだよね」

「アレルギーとかじゃないの。
ただ、あまり好きじゃないだけ。
そうね。努力、してみる」
レイも食べてみる気になったようだ…。

「じゃ、これなんかどうかな?クセが無いから大丈夫じゃないかな?」
と、シンジは中華風サラダに入っていた鳥のササミの小さいのを小皿に取り分ける。

レイはそれを取って口に入れ、試すように何度か噛んで飲み込むと、驚いたような表情をして言う。
「おいしい…。私、肉って、血の匂いがするものだと思ってた…」
レイはそう言ってもう一切れ、今度は噛み締めるように味わっている。

その言葉を聞いてシンジは、
「ちゃんと火が通してあれば、普通、血の匂いはしないよ」
と言いつつ、
(父さん、リツコさん、綾波にどういう食事をさせてたんだよ!)
と、今更ながらに怒りを感じていた。

リッちゃん、株下がりっぱなし(;_;)。

一方アスカは、
(つくづく、不憫な娘ね…)
と、思いつつも、
「アタシは、いつもステーキはレアだけど、おいしいわよ」
と、料理をパクついている。

「うん、多分、慣れれば綾波も食べられるようになるよ。
さ、他の料理もどんどん食べてよ」
シンジはレイに料理を勧める。


「でね、ヒカリったら…」
アスカが会話の主導権を握っている。

「あはは、そうなんだ」
聞き役に回って、相槌を打つシンジ。

もくもく
こくこく
(楽しい…おいしい…。
碇くんがいる、アスカがいる。
こんな楽しい夕食、初めて…)
ふたりの話を聞きながら、ひたすら食べて飲んでいるレイ。


料理もなくなった頃、シンジがキッチンに立った際、アスカが気がついた時にはレイは既に三杯目のワインを空けていた。
シンジは一杯でいい気分になっていたし、アスカは自分の限度を知っているので二杯で止めている。

「ちょっと、レイったら、もう四杯目よ。大丈夫?」

「問題無いわ」

白い肌がほんのりと桜色に染まっているが、受け答えは酔ってなさそうなレイ。

「さ、引っ越しといえば、お蕎麦だよね。
普通は引っ越して来た人が近所に振る舞うんだけど…」
と、シンジが蕎麦を持って来る。

「お蕎麦?
…細くて長いもの…。
第16使徒…。
碇くんは、私が護る…」
などと蕎麦を睨んでつぶやいているレイ。

それを聞いて青くなるアスカとシンジ。
ふたりの脳裏にあの時の辛い記憶が一瞬蘇るが、今はそれどころではない。
(ちなみに、レイにはあの時の戦いの記憶は無く、後で記録を見ただけである)

「ちょっと、シンジ、あの娘、見た目よりかなり酔ってるわよ。
どーすんのよ」

「そんな事言ったって、綾波にワイン注いだの、アスカだろ?」

小声で囁きあう二人をじっと見つめるレイ。

「アスカ、碇くんと、仲、いいのね」

「なっ、何言ってんのよ、そんなこと無いったら!」

レイのジト目に、慌ててシンジを突き離すアスカ。

「そう…」
レイはそう言うと、グラスに残っていたワインをクーッと空けてしまう。

シンジはアスカに突かれた胸をさすりながら言う。
「綾波、もうそのくらいにしておかないと…」

(まいったな〜。綾波って、もしかして酒癖悪いの?)
シンジがそんな事を考えていると…。

「…暑い」
レイはそう言うと立ち上がって、着ていたTシャツをいきなり脱ぎ捨ててしまった。
ほのかに桜色に染まった肌にシンプルなブラがまぶしい。

「ちょっ!綾波!!」

慌てて止めようとするシンジだが、レイは既に履いていたGパンのファスナーを降ろし かけていた。

「ちょっと、レイ、待ちなさいって!シンジも見てるのよ」

「どうして?碇くんは、もう、私の裸、見てるわ」

オタオタするだけのシンジを横目に、アスカは食い下がる。
「う…それは、そうかもしれないけど、だからって…」

「問題無いわ」
そう言うとGパンを脱ぎにかかるレイ。

だが、アルコールに麻痺した三半器官はバランスを取れず、レイはよろけてシンジに倒れかかる。

「あっ」

どたっ!!

シンジはよろけたレイを受け止め切れずバランスを崩し、シンジを下にしてふたりとも床に倒れてしまう。

「あたっ!綾波、大丈夫?」
シンジは打った背中が痛かったが、レイが気になってたずねる。

しかし、レイはシンジの胸の上で幸せそうに目を閉じて、つぶやいていた。
「碇くんの匂い…。
気持ち…いい…」
そう言いながらシンジの胸に頬をすり寄せるレイ。

すりすり

「あああ綾波!ちょちょちょちょっと!!」
レイの身体の柔らかい感触に、自分の下半身に血が集まるのを感じて、真っ赤になってパニクっているシンジ。

横ではアスカが笑い転げている。
「ぷっ!くくく、あはははは…」

実際、Gパンを膝まで降ろした状態で倒れているレイの姿は、はっきり言ってかなり情けない。
その下になっているシンジの情けない真っ赤な顔が更に輪を掛けている。

「アスカ、笑ってないで何とかしてよ」
シンジはレイを起こそうにも、その下着だけの身体に触っていい物かどうか、手出しできないでいた。

しかし、すぐにレイが寝息を立て始めた事に気付く。

「あ、綾波、寝ちゃったんだ…」

「はぁ、まったく、しょうがないわね」
アスカも笑い疲れたようで、一息ついている。

「ほら、あんたも、裸のレイを抱きしめちゃったりしたんでしょ?
今更下着姿くらいでオタオタしてないで、抱き上げて部屋に連れて行ってあげたら?」

「何言ってんだよ。あの時は状況が…」

「いいから、ベッドに運んで」

「…解ったよ」

そして、そっとレイを抱え起こすと、態勢を整え、抱き上げる。

アスカが先導してレイの部屋を開け、ベッドを整える。

レイは軽い方とはいえ、華奢なシンジには酔っている事もあり少しきつかったが、なんとかベッドまで運び、そこへ寝かせる。

シンジはアスカがレイのGパンを脱がすのを横目でチラッと見ながら、
(はぁ、ちょっと鍛えないといけないな…)
などと考えていた。

するとアスカは先に部屋を出て、
「じゃ、頑張るのよ」
と、とんでもない事を言って外からドアを閉めてしまう。

「ええっ!アスカ!!」
またもやパニクるシンジ。

「あはは、バカ、冗談よ」
そういって、ドアを開けるアスカ。

「もう、酷いなぁ…」
とレイの部屋を出るシンジ。

そこで一息ついたシンジは、アスカに言う。
「アスカ、ありがとう。
綾波を…受け入れてくれて…」

「な、何よ、いいわよそんな事!
あんた達、見てると飽きないしね」
と、照れ臭そうなアスカだが、まんざらでもないようだった。


その夜
シンジは自分の部屋で自分を慰めていた。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、あ、綾波ぃ!うっ…」

「はぁ…。ぼくって、サイテーだ…」

うんうん、男の子だね、シンジくん(^_^;)。


同刻
レイは誰かに呼ばれた気がして目を覚ました。

「…誰?」

(胸がドキドキする…どうして?)

(どうして…)

まだ酔いが醒めていないレイは、そのまままた眠ってしまった。


翌朝
アスカに叩き起こされたレイは、戸惑っていた。

(知らない、天井…。
ここどこ?私、どうしてここにいるの?)

そして横を見ると、ベッドの脇にアスカが立っている。

(この人、知ってる。
元弐号機パイロット、アスカ。
私の新しい…家族。
そう、私、昨日からアスカと一緒に住む事になったんだわ)

「あ、おはようアスカ」

と起き上がるレイだったが、頭痛に顔をしかめる。

「頭、痛い。どうして?」

「ようやくお目覚めね、レイ。
頭痛いの?それは二日酔いって言うのよ。
あんた昨日飲みすぎてダウンしたんだから」

「二日酔い?」
(初めての体験…。
気持ち…悪い…。
好きじゃない…。
私、何杯飲んだの?
三杯目の途中までしか覚えてない…)

「アンタったら、いきなり服脱いじゃうし、
そのままシンジに抱きついたりして、大変だったんだから。
最後はシンジに抱かれてベッドまで運んでもらってるし」

「え…私…そんな事…したの?」
真っ赤になってしまうレイ。

「そ、シンジに謝っておきなさいよ。
ま、アイツは役得だと思ってたかもね」

(私…そんな事…覚えてない…。
そんな…いいこと…覚えてないなんて…。
なんてもったいない事したの…)

今後はワインは二杯までにしておこうと思うレイだったが、飲むのは止そうとは考えないらしい。

「ほら、さっさとシャワー浴びて来なさい。
シンジが朝食の準備して待ってるわよ」


彼等の新しい生活が、こうして始まった。


To Be Continued...

あとがき
これも予定外だったんですが、レイを家族として迎える儀式を書いておきたかったので。

なんか、予定外のエピソードがどんどん出来て来ちゃって…。
ま、ネタを思い付くうちは、書けるだけ書いておこう(いつ何時、書けなくなるか解らんし…^_^;)。

ぜひ、あなたの感想をこちらまで>[ kusu3s@gmail.com ]

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