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    Over the Trouble   - Part 8 -

                    written by Radical



うずくまっていた量産機がのっそりと立ち上がった。
そののっぺりとした眼のない顔は、それでも値踏みするように弐号機を上から下へと見る。

『・・・ジロジロ見てんじゃないわよ。シンジ!早く離れないと踏み潰すわよ!』

ガン!

500メートルほど離れたところにもう一つの壁が出現する。
シャッターが開いたその内部にはうな垂れたような生気の無い紫の巨人が拘束されていた。

『シンジ君、今のうちに初号機へ行って!』

シンジの車が離れて行くのを確認して、弐号機は手にしたソニック・グレイブを握りなおす。
高振動粒子を発するその刃は、浮かび上がる様に妖しい光を宿し始める。

『あの時のお返し。まさかできる事になるとはねっっ!!』

予備動作さえなく、一瞬で間合いを詰めた弐号機の腕が一閃する。
バックステップでかろうじてかわす量産機だが、音速を超えた刃先より生み出される衝撃波が 一拍遅れてその巨体を襲う。
弐号機はさらに踏み込み、返す刀で下から刃を振り上げる。
第一撃で受けた衝撃波によろめいたため直撃は避けたものの、 再び襲った衝撃波が量産機を吹き飛ばした。

『まだまだぁっ!』

ダッシュとともに肩のユニットを開き、ニードルを撃ち込む。
ニードルはわずかに逸れ、量産機の左肩に数発突き刺さる。
アスカは小さく舌打ちをすると、スピードに乗ったまま量産機を蹴り上げ、 グレイブの柄で打ち下ろす。
そのまま殴る蹴るの暴行を続ける弐号機。
量産機も反撃しようとするのだが、ワンテンポ遅れた動きは隙だらけで、なんの脅威も感じない。
やがてローキックから回転が止まらずに回し蹴りを繰り出す弐号機。
頭部にヒットした蹴りは機能障害を引き起こしたか、倒れこんだまま動かなくなる。

『とどめっ!!』

弐号機は高くジャンプすると、持ちかえたグレイブに全体重を乗せて倒れた量産機に突き立てた。
長大な刃は量産機の頭部を縫い付けるように突き刺さる。
ビクンと大きく痙攣したあと、量産機は活動を停止した。


「うわっ!わっ!わっ!」

初号機に向かったシンジは必死にハンドルを操っていた。
弐号機の奮闘により量産機の脅威は去ったが、意外な障害が行く手を阻んでいた。
弐号機のアンビリカルケーブルと格闘による地面の振動である。
大地震並の揺れの中、大蛇のようにうねるアンビリカルケーブルは、ともすればシンジ達の車を 弾き飛ばさんばかりの勢いで迫ってくる。
いくつかの瓦礫の山を迂回しなくてはならないのだが、遅々として初号機の元へは近づけない。
もちろん、自分たちをかばい戦ってくれているアスカに文句など言えないが、 だんだん平衡感覚がおかしくなるのを感じると閉口せざるを得ない。

「あっあやなみっ!だ・・・いじょ・・・うぶっかっっ!!」

いつのまにか以前の呼び方に戻っているが、それに気付く余裕はレイにも無い。
とっくに車酔いの症状が始まっており、クラクラする頭を抱え、体を支えるのに精一杯だったからだ。

・・・初号機に辿り着けば・・・初号機に辿り着けば・・・

その事だけが彼女の脳裏を支配していた。

『とどめっ!!』

アスカの声が響き渡り、ひときわ大きな揺れが起こる。
車は大きくバウンドし、その勢いで横転する。
が、ちょうど一回転した車は一瞬停止したが、疾走を再開する。

「・・・し、死ぬかと思った・・・」
「・・・ええ・・・」

青い顔でハンドルを握るシンジ。
助手席のレイは目を見開いたまま呆然としている。
初号機まではあとわずかだった。


「J.A.S.(JetAloneSecond)、頭部大破です」
「そうか・・・”ライト”はどうなってる?」
「あと12秒!」
「では”セカンド”は高速回復モードへ。他の機能は全て停止だ」

手早く指示を出す時田。

「大丈夫でしょうか?」
「高速回復モードの存在は機密に機密を重ねている。他の機能を切ってしまえば 活動停止しているようにしか見えんさ。それに光学カメラも無い頭部など飛行モード時のバラストに過ぎん。 要はくっ付けば良いだけだ。それよりも”ライト”を出すぞ!」

オペレータはいくつかのスイッチを操作して”セカンド”を休眠状態にすると、 ”ライト”の発進準備に取りかかった。
「全機準備完了です!」
「J.A.L.(JetAloneLight)全機起動!出撃!!」


「量産機、活動を停止しました」

マコトの声に安堵のため息が続く.
しかしミサトもリツコも表情を緩める事は無い。

「油断しちゃだめよ。前の時も再起動していたからね」
「使徒の持つ回復力を備えているならば可能性は高いわ」

『ミサト、これどうする?』

アスカから通信が入る。
動かない量産機をグレイブの刃先でツンツンつついている。

「もう2〜3回刺しときなさい」
『分かったわ』

一度痛い目になっているため、アスカも念には念を入れてブスブスと突き刺す。
結構怖い光景でもあるが・・・。
だが刺した傷口からは一滴の体液も漏れてない事に気付くものは無かった。

「新たな反応、多数!」

シゲルの声が響く。
通常兵器など効かないエヴァに対して今度は何を繰り出してきたのか?とメインモニターを切りかえる。
もちろん量産機がこれ以上存在しない事は確認済みである。

「・・・?」

モニターには灰色の影が延々と兵員輸送用のトレーラーから吐き出される様子が映し出されていた。
規則正しい行進をするその影は通常の歩兵よりもやや大きいが、パワードスーツの類にしてはシルエットが細い。
その背には飛び出すように槍のようなものを背負っている分かるが、距離があるため今一つはっきりしない。

「装甲兵かしら?」
「青葉君、拡大して」

モニターが徐々に拡大され、その影がはっきり映し出された。

「うっ・・・」
「こ、これは・・・」
「・・・気持ち悪い・・・」

そこに映し出されたのは列をなして行進する、100体以上の等身大JAの姿だった。



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作者Radicalのたわごと:
ご無沙汰しております、RADICALです。
しばらく執筆を休止していましたが、なんとか復活できました。
どうもmal委員長もお休みしていたようですね。
今回は復帰作という事でちょっと短めになっております。続きは・・・なるべく早く書きたいと思ってます (^^;
それでは、感想・叱咤・激励・催促などのメール、お待ちしています。

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Received Date: 99.11.21
Upload Date: 00.1.25
Last Modified: 00.1.25
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