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    Over the Trouble   - Part 7 -

                    written by Radical



「パターン・オレンジ検出!・・・エヴァ量産機、起動しました!!」

シゲルの声が本部内に響き渡った。
スクリーンを凝視したままだったオペレーター達が急にあわただしく動き始める。

「各センサー、精度最大に」
「エヴァの発進準備は?」
「初号機は準備完了!弐号機は準備完了まであと62秒です!」

リツコとミサトも次々に指示を出す。
だがそのほとんどはあらかじめ準備されている事項をチェックするだけである。
オペレーターや作業員たちは滞り無く作業を進めていく。

「・・・まるっきりシナリオ通りだな」
「ああ、ここまでうまくいくとはな」

高い指揮所でほくそえむ二人。
その姿はほとんど「越後屋と悪代官」のようである。

「各センサーの結果出ました!」

マヤがコンソールを操作しながら報告する。

「S2機関の稼動を確認。これは以前の量産機のものと同一のようです。 エントリープラグおよびコアの存在は確認されませんが、トレーラーから 誘導信号が発信されています。おそらく無線操作されているものと思われます」

スクリーンに映し出された量産機の頭部には、アンテナらしきものが3本立っている。
その様は「オバQ」を連想させるが、それに思い至ったのは冬月とゲンドウだけだった。

「無線操作されているなら『チャトラン』でなんとかなるんじゃないの?」
「だめみたいね。『チャトラン』からのデータでは、あれを操作するシステムは ネットワークから独立しているみたいだし。それに情報では第6世代コンピュータを コアの代わりにしているらしいわ」
「・・・じゃあ」
「ええ、妨害電波を使っても人工知能の自己判断によって稼動しつづけるわ。直接殲滅するしかないわね」

リツコはこともなげに言い放つ。

「でもいいの?壊さなければ良い研究材料になるんじゃない?」
「・・・そうかもしれないわね。でももうエヴァはいいわ・・・今ある分だけでね」

苦笑交じりにミサトに微笑みかける。
ミサトも同じような笑みを浮かべて「そうね」と言って親友の肩をポンポンとたたいた。

「国防省の返答です!」

マコトが打ち出された書類をミサトに手渡す。

「・・・そう、あくまで『演習』なのね」
「ええ、『開発中の機動兵器を含む作戦行動演習』だそうです」

ミサトの口元が微妙にゆがむ。

「演習には・・・」

上方の司令席からゲンドウの声が響いた。

「事故が付き物だな」

一瞬静まり返った本部内は一種異様な含み笑いに包まれた。



再び咆哮が響き渡る。
愕然としていたシンジはレイの手をとり、車に飛び乗った。
そのままギヤをバックに入れると、一気に加速する。
障害物の少ない開発区では身を隠す物陰も少ない。
適当なところでハンドルを切りターンを決めると、そのまま量産機から離れるように走り始めた。
バックミラーに悠然と浮かぶ白き堕天使は否応無しに過去の惨劇を思い出させる。
響く悲鳴、向けられた銃口、床に流れる血だまり。
崩れ落ちるミサトの姿。無残に屍をさらした弐号機。打ち込まれる聖痕。そして・・・。
不意にシンジの肩にレイの手が添えられた。
一瞬身を硬くするが、その手のぬくもりに緊張が薄れていく。
視線を向けると、気遣うようなレイの視線とぶつかった。
それだけのことであったが体の震えは止まり、心を捉えようとしていた恐怖心が薄れていく。

「・・・レイは強いね」
こんな時でも僕の心配をしてくれている・・・。

自嘲の笑みを浮かべてシンジが呟く。
レイは軽く頭を振ると、肩に添えていた腕をシンジの左腕に絡ませた。
そのまま体を預けるようにすると、「そんなことはないわ」と視線を外した。
その声にわずかな震えを感じたシンジは、ハンドルを握る手に力を込めた。
シンジの左半身にすがるようにしているレイの体は小刻みに震え、良く見ればその白い肌も一層血色を失っている。
平気な訳はない。
レイはその心の内で、襲い来る虚無感や恐怖と戦っていたのだ。
それをシンジに見せることなく。

・・・何があっても守るんだ。僕がこの人を、一番大切な人を。

シンジがさらに強くアクセルを踏み込んだとき、量産機が動いた。
白い両翼を羽ばたかせたかと思うと、まっすぐシンジ達の方へ向かってくる。
すでにアクセルベタ踏み状態なのだが、量産機はグングン近づいてくる。
レイは運転の邪魔にならないようシンジから身体を離し、手をきつく握り締めている。
距離を詰めた量産機は、車を捕まえようと腕を伸ばした。
後わずかで捕まりそうになるところでハンドルを切り進路を変える。。
勢いのついた車体は転倒する寸前まで傾いたが、なんとか耐え切って再び疾走を始める。
同じく勢いのついた量産機はそれでも小さく旋回すると、また後ろから手を伸ばしてきた。

「・・・まずい」

シンジが小さく漏らした声をレイは聞き逃さなかった。
シンジの視線は赤く点滅する小さなランプに注がれていた。
それは充電池の残量を示すメーターであったが、一日中逃走に活躍したためバッテリーには もうほとんど電力は残っていなかった。
当然電力が尽きれば車は止まる。
それは二人の逃避行にとってもデッド・エンドを示していた。

PIPIPI・・・

沈黙に包まれそうになった車内に携帯のコール音が響いた。
後ろに放り投げられたシンジのそれではなく、レイのもののようだ。

「・・・はい」
『レイ?シンジ君に代われる?』

ミサトからだった。
レイは携帯のボリュームを上げ、必死に運転しているシンジに向かって突き出す。
とても携帯を片手に運転できる状態ではないからだ。
右に左にと車を蛇行させながら携帯に向かって叫ぶ。

「ミサトさん?一体どうなっているんですか?なんであんな・・・量産機なんて・・・」
『あれは戦自の”ジェット・アローン・セカンド”よ』
「ジェット・アローンって・・・あの時の?」
『ええ、松代で作られていたみたいで、あの後戦自がくすねてたのね』
「じゃあやっぱりエヴァなんじゃないですか!」
『あの機体にはコアもエントリープラグもないわ。基本的には遠隔操作で、誘導が切れると 内部の人工知能で自律行動をするシステムね。』
「それがなんで・・・」
『国防省から演習の通知が来たわ』
「演習?」

再び追いつかれそうになり今度は急ブレーキをかけて量産機をやり過ごす。
その様子を超望遠カメラからの映像でモニターしているミサトは 「腕を上げたわね」と場違いな感想を浮かべている。

『今そこで起きている事は演習中の出来事として処理されるわ。でも大丈夫。 あなた達を見捨てるような事はしないから』

ミサトをはじめ、サードインパクト当時からの勤務者には、戦自に対して憎しみに近い感情を持つ者は多い。
自分に向けて銃弾を撃ち込み、あるいは斬撃や火炎放射を放った相手なのだ。当然と言えば当然だろう。
今まで報復行動がなかったのは世界的な復興作業の中心となった忙しさと、各職員のモラルの高さによるものだ。
しかしそれもきっかけがなかったからに過ぎないのかもしれない。
技術部などはほぼ全員が襲撃の犠牲となっていたため、N2兵器の投入すら提案していると言う。
もちろん司令部では却下されたが。
そのうち意識を取り戻したのか、数台の装甲車も追撃に加わってきた。
足の遅い装甲車であるが、数が増えれば厄介になるだろう。
もちろんその後ろには量産機も懲りずについてきている。

「ミサトさん、それよりもうバッテリーが・・・」
『それじゃこの先は私の指示通りに運転して』
「はい」
『じゃあ100メートル先を左』
「はい」
『50メートル先を右』
「はい」

ミサトの指示通りに車を動かす。
その指示は巧みに追撃をかわし、あるいは量産機をやり過ごす。
やがて大き目の交差点が見えてきた。

「・・・あれは・・・」
『そのまま直進して!』

突然周囲にサイレンが鳴り響く。

・・・やっぱりそうだ。見捨てないって本当なんだ。

いつしかシンジの顔に安堵の表情が混じる。
レイもミサトの意図を分かったのか、やや安心した表情を浮かべている。

「彼女にも迷惑をかけてしまうわね」
「そうだね。後で何を言われるか・・・」

シンジの車が交差点を通過し、遅れて一台の装甲車が交差点に差し掛かった時、道路が動き始めた。

「!?」

装甲車の隊員たちは何が起きたのかわからない。
交差点の中央にあいた巨大な穴に前輪がはまり、そのまま穴の中に落ちそうになる。
勢いのついた車体はつんのめるように穴の向こう側へ飛ばされ、ひっくり返った。
ついて来たほかの装甲車は穴の手前でなんとか止まっている。
その上を量産機が通過しようとした時、交差点に壁が出現する。
ガン!
壁の出現とそれに量産機が激突したショックでひっくり返った装甲車が正位置に戻った。

『いったいわね〜!前ぐらいちゃんと見なさいよ!!』

壁の側面のシャッターが開き、紅い巨人が姿を現した。
その四つの目には不敵な光が宿っている。
軽く周囲を見回しぶつかった頭部を押さえてうずくまっている量産機を見つけると、片手を腰に、もう片手で量産機を 指差す。

『アンタのお仲間にはずいぶんとお世話になったからねぇ・・・た〜っぷりお相手してあげるから、覚悟しなさい!!』



「エ、エヴァンゲリオン弐号機・・・確認・・・」

まだ若い隊員が報告する。
若い隊員の中にはインパクト後に入隊したものも多く、当然エヴァを見たことがない者も多い。

「チッ、仕方ない。こうなれば”ライト”も出すぞ」
「”ライト”もですか?」
「ああ・・・全機出せ!」

MP隊長が倒れ、ケンスケが姿を消した指揮所内には、時田を止められるものは居なかった。



Please Mail to Radical <radical@pop01.odn.ne.jp>



作者Radicalのたわごと:
皆さん、覚えておいでですか?
すっかりご無沙汰してしまっています、Radicalです。
個人的な理由ですっかり遅れまくってしまいましたが、久しぶりの「Over」です。
もう少し先までで切る予定だったんですが、思ったより長くなりそうだったので、 とりあえず、です。
続けてPart8の執筆に入ってますので、少しお待ちください。
「REAL MIND」はその次ですかね?
それでは、感想・文句・叱咤激励のメール、お待ちしています。



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Received Date: 99.02.16
Upload Date: 98.02.17
Last Modified: 00.1.25
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