ミーン、ミン、ミン、ミーーーーン・・・・・・


それは、

夏休みを、直前にひかえた

暑い日の、ことだった。


    「祖父、危篤」


発信人不明の、電報が届いたのは、昨晩のこと

彼女はそのまま、夜行に飛び乗った。



  「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ」


4ヶ月前に、離れた故郷は、濃い緑と、緑の稲のにおいがする。

空は抜けるような蒼に染まって、そよ風も吹かない。

刺すような太陽の光と、熱く包み込む草の匂い。

かなり、不快だ。

  「はっ、はっ、はっ・・・晴れなんか・・・嫌い・・・」

息切り走る、短髪の少女・・・

いや、何故か蒼みがかった、薄い色の髪の毛を、弾かせて。

真っ白い、耳の脇を、真っ白い頬を、透明な汗が滴り落ちる。

いわゆる、アルビノというやつだろうか?

よく見ると、懸命な瞳の色も薄く、赤みがかっているよーな・・・

  「はっ、はっ、はっ、はっ・・・・おじーちゃん・・・」

観察している場合ではない(^^;

生まれ育った、丘の上の家までは、駅から走ると、結構遠い・・・

まして坂なんぞあったりしたら・・・これは辛い。

  「こんな坂・・・慣れてたのに・・・はっ、はっ、はぁ・・・」

がんばれ(^^)

  「・・・何か・・・言った?・・・はぁ、はぁ・・・・」

悪かった、急いでくれ(^^;

  「うん・・・・・あれ・・・誰?・・・・はっ、はっ、はっ・・・・」

こらこら、きょろきょろしてないでいいから、急ぎなさいって(^^;

とにかく、蒼い短髪と、セーラー服のスカートと、はじける汗を、弾きつつ、

少女は、丘の上に、息せき走る・・・・




   Eva What?

          - Phase 1 -   レイ、帰還




ばん!

派手な音と共に、開かれる、玄関の扉

「おじーちゃん!・・・・・え?・・・」

ひゅるるるるるるるるるる・・・・・・・・・・

落ちている。

玄関の、扉を開けると、そこは・・・下にひらけた広い空間・・・

「落ちるぅっ・・・!!」

しっかりと頭を抱える、確かに頭から落ちたら危ない。賢明である。

「まだ・・・落ちてる・・・」

この家の地下室は玄関に入ると直にあって・・・というわけではないようだ。

「まだ・・落ちてるの・・・?・・・え?・・・速度が・・・ゆるい・・・」

どーも・・・現実味がない。これでは不思議の国のアリスだ。

「浮かんで・・いるの?・・・あ!」

彼女は何かに気がついたように体勢を下に向ける。

「おじーちゃん!!!」

そう、彼女の右下方に、幼女を連れて林を歩く白衣のじーさんの姿があった。

「玄関から、わたし・・・落ちたのに・・・どうして?」

白衣のじーさんは振り向いた。彼女に気がついたのか?青い顔をしているが・・・

「わたし・・・見えてるの?・・・」

驚くじーさんの横で、幼女が「どうしたの?」とでも言っているのか
くいくいと、白衣を引っぱっている。

「それにしても・・・あの子、小さい頃のわたし・・・・みたいだけど・・・」

・・確かに・・蒼白い髪、真っ白な肌・・そうそうあるものではないが・・・
それにしてもなんで玄関から落っこった先に林がある? まして小さい頃の自分など
夢の中でもなければ逢えるものではない・・しかしこれは現実だ。

「・・・いったい・・・どういう現象なの?・・・・ん・・・」

彼女は腕を組み考え始めた、こんな状態で妙に冷静である。
それどころではないと思うのだが・・・



サァァァァァァァァァァァッ・・・・・

「ん・・・?」

いつの間にか、かすかな水の流れるような音とともに、小さな影の群が
彼女を目がけて素早く動いていた。

「え?・・・」

影の群はあっというまに彼女の足元に・・・泳いできた、としか言いようがない。
魚・・である。鈍い黄土色の魚体に広がる背ビレ、腹ヒレ、尾ビレ・・・
こきたない金魚のようだが妙に口元が大きい・・・。

「なに・・・この子たち・・・」

彼女はぼーぜんと魚の群を見つめた・・・無理もない。


ぐい!!

「ばか! なにしてんのよっ!!」

「はい!?」

「あれは肉食魚なのよ!!、ぼーっとしてたら喰われちゃうわよ!!」

「あ、はい・・・はじめまして」

「は?」

「こんにちわ、綾波レイともうします」

ぺこりとおじぎをする彼女・・・綾波レイ・・・何を考えている(^^;

「こ・・こんな時に何いってんのよ!!、早く来なさい!!」

ぐいと彼女・・レイと言った方がいいか・・の腕をつかむ、唐突に現れたやたらと
声の大きい、くりくりっとした蒼い目の少女。レイも初対面らしいが、何者なのだろう・・
とりあえず服は半袖ブラウスにゆったりした吊りスカート、なかなかかわいらしい(^^;

「あの・・わたし、あっちに用があるんですが・・・おじーさんもいたし・・」

「あれは、過去なの!!」

「過去って玄関の下にあるものなんですか?・・・知らなかった・・・」

「ひくっ」

ひきつる蒼い目の少女、無理もない・・がこの子をよく見るとぱぁっと横に広がる
栗色をした髪の毛の上に薄い金色の巻き毛がふたふさ、頭のてっぺんから右と左に
のっかっていて・・・なによりも、やたらと長い耳、10cmほどあろーかという耳が、
顔の両側にピン!と立っている・・・本当に何者?

「いまは、んーなことゆーてるばーいとちゃうのっ!!
 あいつらに喰われたらどーーすんのよーーーっ!!!」

「・・・そーいえばさっきの魚・・・水もないのに泳いでた・・・不思議・・・」

「肉食魚だっつーてるでしょーが!! 不思議とかゆーより
 さっさと逃げなきゃあんたもわたしも喰われちゃうってなんど言ったらわかるぅぅ!!」

「・・ちょっと待ってて・・1匹つかまえてくる・・」

「あんた人の話きーてんの!!!」

「1匹じゃ足りない・・・・・飼育用と、解剖用と・・試しに食用も?・・・」

「いったいなに考えてんのあんたわぁ!!!、つかまえる前にわたしらが
 食用になっちゃうつってるでしょーが!!!、状況を考えてよ、状況をっ!!!!」

・・・なんとも派手なボケとツッコミの応酬である、これほどのものはなかなか
見られるものではない・・・とはいえ初対面でこれではこの二人、今後が非常に
楽しみである(^^;・・・などとゆーことを言っていていいのだろーか・・・
魚に気を取られすっごい大事なことを忘れていないだろうか、綾波レイ・・・

「あーもう、あぶなーい!! 手ぇかじられる前に早くこっから出るんだってばーー!!」

「駄目、ここで逃がしたらまた見つけられるとは限らない・・・つかまえる!!」

「いーかげんにしろぉ!! この馬鹿娘ーーーーーー!!、早くこいっつーのに!!」

またもやぐい!とレイの首根っこをひっつかみ、無理矢理引っぱっていく蒼い目の少女
・・まだまだレイは四肢をじたばたさせて暴れている。

「放してっ」

「あんたねぇ!、あんな肉食魚に喰べられちゃうためにここに来たわけぇ!?」

「喰べられるじゃなくてつかまえるの・・・」

「それも違うぅぅぅ!!、あんたのじーさんが死んだからここに来たんじゃないの!?」

はた、と動きを止め蒼い目を見つめるレイ。

「あ・・・そうです・・・あなたどーして知ってるの?・・・すいませんがどちら様ですか?」

「あーーーもういらいらするったら・・・わたしはアスカ!!、じーさんのとこに連れてって
 あげるんだから、おとなしくしてよぉ!・・・お願いだから・・・」

「アスカ・・・さん?・・・はい・・・でも・・・おじーちゃんの所って・・・生きてるの?
 それとも・・・あの世とか・・・」

「ああああああああ・・・・はぁ、そのへんの説明はここを出てからちゃんとするから!、
 とりあえず、何も言わずについてきて・・・お願いよぉ!!」

「はい・・・わかりました・・・」

どーやってかは分からないが、このアスカという少女、玄関の下の妙な場所からの出かたは
知っているらしい。あいもかわらずレイはアスカに妙な質問をして、アスカがけたたましく
返事をしているようだが、何とか話はついたよーだ・・・





「うーむ」

すみきった青空を見つめる、長髪の後ろをひもでくくった、むさい無精髭の男がひとり。

「いい天気だ・・・作物の生育には、良い天気とほどよい雨がなによりだ、
 そうは思わないか?」

誰に言ってるのかわからないが(^^;、この男、鍬を片手にキャベツやら、
トマトやらキュウリやらあげくの果てにスイカの花まで咲いている畑を見つめ
にこにこしている。趣味の家庭菜園にしてはかーなり本格的である。

「加持主任っ」

どどどどどどどどど・・・と駆けてくる若者が一人、年の頃は20そこそこなんだろうが
童顔のほっそりした体つきのせいか、いいとこ高校生くらいに見える。
夕食の買い物してきた帰りと見えて、缶詰やら肉やら詰まったでっかい紙袋を抱えているが、
似合わない真っ黒なスーツがやたらと暑苦しい。ましてサングラスまでしてた日にゃぁ
やったらめったら暑苦しい(^^;

「大変です、加持主任!!」

「すとっぷ!」

「へ?」

「そこはよけてくれ、きのう種をまいたばかりなんでね」

「・・・・主任・・・そんな場合じゃないです!!」

と、いいつつもちゃんとよけて歩いてくる若者、けっこう生真面目というか律儀というか。

「話を聞いてくれますか・・・加持主任・・・」

「なにかな? 新入り君、いや竹3号と呼んだ方がいいかい?」

「新入りもコードネームもやめて下さい!!、碇シンジって名前がありますっ・・・って
 そんなことよりもっ、六分儀教授の孫娘が帰ってきてるんですっ!!」

「ほー、そりゃーまた、何事かあったのかな?
 それよりも、夕飯の買い物、ちゃんとしてきてくれたかい?」

「はい、それはもちろん・・・・ってそんなこと言ってる場合なんですかっ!!
 先月末のあのことが原因に決まってるじゃーないですかっ
 教授の家に偵察に行かせた調査員が行方不明になってしまった事件!!
 忘れたわけじゃないでしょうにっ!!
 あの事件となんらかの関係があることはじゅうぶん考えられるでしょうっ」

「うーん・・・シンジ君、しかし彼は、この仕事をやめたがっていたんだ」

「は? なんの関係があるんですか?」

「結婚したい・・・と言っていたなぁ・・・。結婚して、平凡でいいから
 幸せな家庭で暮らしたいと・・・いい夢だとは思わないか・・・」

しみじみと語る加持主任とやら、何かずれている。

「なんなんですかっ、それわっ・・・僕たちの仕事とは関係ないですっ」

「仕事つったって・・・なぁ」

「『なぁ』じゃないですっ、とにかくっ、僕もこれから偵察に行ってきますから・・・
 で・・・あの3人は?」

「うむ、そのことについては・・・ちょっと耳を貸してくれ
 実は彼らには、特別任務を与えてあるんだ」

「は、はいっ」

ようやくまじめな話かと加持主任の口に耳を近づけるシンジ君。

「実はな・・・」

「何ですか?」

小さな声でささやく無精髭のむさい男と、暑苦しい黒づくめのひょろりとした
若者の図、はっきり言って見ていて気持ちのいい光景ではない(^^;

「肥料がきれてるんで、買い出しに行かせている」

沈黙・・・・・・・

「なんなんですかっ、それわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

大声を出して、ついでに買い物袋をぶちまける若者ことシンジ君であった。

「こらこら、食い物を粗末にしちゃあ、いけないぞ、うん」

「あなたとゆーひとは・・・・」

ぶつぶついいつつ肉のパックや缶詰を袋に詰め直すシンジ君、やっぱり律儀者である。

「わかりました、もういいです、ひとりで偵察に行ってきますっ」

詰め直した買い物袋を加持主任に渡しながら捨てぜりふをはく。

「あのな・・・シンジ君」

「なんですかっ!」

「よそさまの家の事情に、いちいち首をつっこむのは、やめておいたほうが
 いいと思うぞ」

「か、加持主任っ!!!!!!あなたは何を言ってるんですかあっ!!!」

一瞬力を落としつつ、加持主任に詰め寄るシンジ君。

「僕たちがっ、ここにいるのわっ、何のためですか!
 六分儀教授の研究内容を探るための調査員ですよっ、ぼくたちわっ!!
 もし他の組織に先を越されたらどうするつもりなんですかっ!!」

「こら、そーゆーことを大声で言うもんじゃない」

「あ・・・そうでした・・・すいません・・・」

「いいけどな・・・地方在住の、何考えてんだかわからない科学者の見張りなんて、
 事実上左遷だからな・・・
 他のどこかの組織が探りに来るなんてありえない・・・と思うけどな」

「そっ、それでもっ、それが僕たちに与えられた任務なんです・・・
 だから、僕は任務を遂行する、それが仕事だと思ってます」

「んーーーー・・・、俺も早く、結婚したいなーーーーーー!!!」

「加持主任っ、あなたは自覚が足りなさすぎるんですよっ
 その畑仕事もっ、いーかげんやめてくださいっ」

「そーいうことを言うかい・・・これが唯一の楽しみなのに・・・
 やめろ、だなんて・・・・ううっ・・・ひどいじゃないか・・・・ううっ」

「か、加持主任・・・なにも泣くほどの・・・」

「あ、泣かせたね」
「泣かしてるね」
「泣ーかせてるね、いけないよ、シンジ君」

「うぁぁぁぁぁぁぁっ、どっ、どっから出てきたんだっ、君たちっ」
 い、いきなり目の前に出現するのはやめてくれって言ってるだろぉっ」

「そんな・・・」
「嫌わなくても・・・」
「いーじゃないか・・シンジくーん」

「そのくらいのセリフひとりでしゃべってくれって言ってるじゃあないかぁっ」

・・・一応説明しよう(^^;、唐突に現れた3人・・・三つ子と言わんばかりに
同じ黒スーツに黒サングラス、黒ネクタイという風体はシンジと対して変わらない
のだが・・・小さい。どーみても小学生並である。そのくせこの妙な話し方が
不気味さを(^^;増大している・・・

「お、帰ってきたか、梅1号、梅2号、梅3号」

「失礼な」
「コードネームで」
「呼ぶなんて」
「僕たちには」
「『渚カヲル』という」
「ちゃんとした名前が、ありますよ」

「わかってるさ、ただ区別が出来ないからな(^^;、
 ごくろーさん、ほい、買い物袋よろしく頼むよ」

「はい、わかりました」
「はい、夕食ですね」
「はい、肥料はいつもの場所に置いておきますから」

にこりと笑う渚カオル3人、3人並んだ姿は・・・ちょっと恐いぞ(^^;

「頼むな・・・シンジ君もいーかげん慣れたほーがいーぞ。
 同じパターンで性懲りもなく驚いてばかりじゃ、進歩というものがない」

「そーいう問題じゃないっ・・・と思うんですけど・・・そう、だからっ
 この畑仕事ですっ、いーかげん・・・」

「シンジ君、君にも前に言ったはずだけどな、毎月本部から送られてくる
 生活費の額のこと」

「うっ・・・それは・・・」

「それでも、おかずを一品でも増やそうと、野菜作りに励んでるわけだ、
 俺たちは。もーすこし、理解してくれないかな?」

「わ・・・わかりましたよっ、でも僕は教授の家に偵察に行ってきますからっ
 僕ひとりならかまわないでしょうっ」

「文句を言う筋合いはなにもないよ、いってらっしゃい(^^)」

「いってらっしゃーい」
「ごくろーさま、シンジ君」
「シンジ君、夕食には帰ってきておくれよ」

「わかったよぉぉぉっ、もお・・・いってきますっ
 ・・・いーんだいーんだ・・・新入りの気持ちなんて、誰も分かっちゃくれないんだっ」

ぶつぶつ言いつつ歩いていくシンジ君・・・言ってることは正論の気はするが(^^;
やる気のない調査員たちに囲まれて、彼の未来は多難なようだ(^^;





「は?」

「『は?』とはなんだ、『は?』とは・・・」

ここはどーやら例の丘の上の家・・・六分儀教授宅のリビングらしい。
綾波レイと名のった少女は丁寧にも正座して話を聞いていた・・と
いうとこだろうか。アスカと名のった少女も同室し、窓際で腕を組んで
立っている。そして・・・白髪で白衣の老人、おそらく六分儀教授その人
のようだが、問題は・・・軽くあぐらをかいているその足が、浮いているのだ。
何となく影が薄く、宙にぷかぷかと浮いている・・・・

「つまり・・・おじーちゃんは、もう、死んでしまった・・・の?」

「ゆうべ、夜遅くな」

「じゃあ・・・今、目の前に浮かんでるおじーちゃんは・・・?」

「ならば、死ぬときの様子を見るか?
 こんなこともあろうかと、ビデオにとっておいてある」

「おじーちゃん・・・それ悪シュミだと思う・・・・」

「悪シュミとは何だ、自分が死ぬときの記録は、一生に一度しか
 できんのだから、当然やっておいてしかるべきだ」

「それは・・・そーかもしれない・・・」

「であろう。さもありなん」

「おじーちゃん・・・死んでも学者根性は直らないのね・・・」

「何を言う、レイ(^^;」

「えっへん!」

「あ・・・そう・・・おじーちゃん、こちらのアスカさんって・・・」

おーげさに咳払いをするアスカに視線を向けるレイ。
六分儀教授は情けない顔をしながら頭をかく。

「うむ・・・・もう自己紹介はすんでいるようだが・・・
 このアスカはな・・・
 この世界の・・・・人間では、ないのだ・・・」

レイは目をぱちくりさせながら

「それで?」

「レイ・・あのな・・・」

「それで? アスカさんって、どこの世界から来たの?」

「−−−−−−わからん」

アスカは「はぁ」とため息をつく。

「なんで?」

「わしが、タイムマシンをつくろうとしていたことは知っているな」

「それは、知ってる」

「つまり・・・・2ヶ月ほど前のことだが・・・」


−−2ヶ月前

六分儀教授の研究室、なにやら大げさな機械類でいっぱいになっており、
コードや基盤、怪しげな工具類が散乱している。

六分儀教授は第365回目のタイムマシンの起動試験の準備中、チェックリストを
老眼鏡をつまみながら一つ一つ確認していた時のこと・・・

カタン!

「ん?・・・」

教授が振り向いたまさにそのとき、突然電源装置のファンが音を立て、まだ配線中の
機器類の接続部分から火花が飛ぶ、バチバチという音がそこら中に伝染をはじめ
冷却溶液でも流れていたのか、蒸気が視界をさえぎりはじめる。そして・・・・

ドン!!ンッンッンッンッンッ・・・・

エコーまで響きわたる爆発音。猛烈な臭気と、灰色の煙、散乱する部品類に教授は目を
開けていられず、ごほごほと咳き込んでいると・・・・

「けほっ」

なぜか教授以外の咳き込む声が聞こえる、けほけほと続く音の方向を覗いてみると・・・

「けほっ、けほ・・・なんなのよ〜・・・へ?」

壊れた機器類と部屋のがれきの中にうずくまり、止まらない咳に涙目になっている、
蒼い目、ふたふさの金色の巻き毛、やたらと長い耳のかわいらしい少女が、
ぼーぜんとした顔で教授の顔を見上げていた・・・

−−

「と、いうわけでな、どーもその事故で空間が歪んでしまい、別世界につながって
 しまった・・ということらしい。で、このアスカはその別世界からこっちの世界に
 来てしまったわけだが、事故の影響か元の世界に帰れなくなってしまってな・・・」

「そぉ・・・大変だったのね・・・」

レイは片手に顔を抱え、情けないような顔をしているアスカに目を向ける。

「耳のおーきいひとだなー、とは思っていたけども・・・
 そーなの・・・日本人じゃぁなかったのね・・・・」

「あんた・・・レイとか言ったっけ・・・いまさらだとは思うけど・・・
 いったいなに考えてんのよぉ・・・・」

「と、とにかくだな、それ以来、空間の歪みが頻発してな、レイが落ちたとゆー
 玄関の穴とやらも、おそらくは空間のひずみであろう・・」

「なるほど・・・そういうことってあるのね・・・感心してしまった」

なんぼなんでもそー簡単に起こることではないと思うが・・・あっさり納得してしまう
レイという娘、やはりただ者ではない。いや・・・この六分儀とゆう教授の奇人ぶりに
慣らされてしまっていると言うべきか・・

「わたし、おじーちゃんが掘ったとばかり思ってた」

「いくらわしでも、そんなことはせん」

言い切ってはいるが、可能であるならば、やりかねなさそーだが・・・このじーさん。

「うるさい(~_~;)、とりあえず今のところは、空間の歪みは家の中だけにおさまって
 いるが、これから先どーなるかわからんのだ。
 それに、アスカも帰さなきゃならん・・・
 で、幽霊になってこの世にとどまった、というわけだが・・」

「なるほど・・・そーいう理由なら納得・・・」

あっさり納得するんじゃないっつーの、理由があれば誰でも幽霊になれるって
わけではないと思うが・・・(^^;

「それで・・・だがな、レイ」

「はい?」

「わしの研究が、完成するまでの間、アスカの面倒をみてくれ」

「は?」

「『は?』と言われてもな・・・
 なにぶん女の子であるわけだし、わしは幽霊になってしまって・・・」

「でも・・・わたし・・・学校がある・・・」

「わかっとる、だが他にこーゆーことを頼める人間がいないというのも確かだ」

「だって・・・今年の春に・・・入ったばっかりなのに・・・」

「あのねぇ!!」

ばん!と机をたたき、アスカは力説する。

「わたしは!、帰りたいのっ!!」

きょとんとした目でアスカを見つめるレイ

「あんたのじーさんのおかげでこんな目にあっちゃったのよ!
 身内のしたことの責任の一端でも、負わなきゃなって気にはならないの!?」

「うん」

きっぱりと答えるレイ、沈黙し目が点になるアスカ、冷や汗をたらーりとたらす
六分儀教授・・・三者三様と言うべきか

「『自分の尻ぬぐいは自分でやる』
 おじーちゃんは、わたしにそー教えて、育ててくれたのだもの・・・」

「あ・・・あんたって人は・・・教授ぅっ!!!」

「わしわ・・・知らんぞ」

両手で耳をふさぎながら言う六分儀教授。はっきりいって権威も
説得力も、まるでありゃしない。

「教授は知らないって言ってるわよ!!、やっぱりあんたがどーかしてるっ!!」

「わたし、変じゃないし・・・おじーちゃん、嘘ついちゃ、駄目」

「レイ〜〜〜〜〜〜〜」

「・・・・ったく教授も教授だけど、あんたもあんたよっ!! なんでそんなに
 自分勝手なのっ!!!」

「わたしの責任じゃないもの・・・そんなこと言われても困る」

「困ってんのは、わたしの方だっつってるでしょーが!!!
 この馬鹿娘ぇっ!!」

「わたし・・・馬鹿じゃないし・・・変でもない・・・ボケてるかもしれないけど」

「馬鹿でわるけりゃ、この大ボケ娘ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!
 突然こんなわけのわかんない別の世界に来ちゃって困ってるのは
 わたしのほうだっつーの!!」

「困っているのは分かるわ・・・でもわたしが帰してあげられるわけじゃないもの」

「だ・か・ら、教授が死んじゃって幽霊になっちゃったから!、
 手助けしてくれたっていーじゃない!!」

「それも分かるけど・・・わたし学校もあるので・・・ごめんなさい」

「あやまりゃすむことだとおもってんのっ!! そこをおして頼んでるんじゃない!!
 わざわざ幽霊にまでなった教授の気持ちも考えてよっ」

「アスカ・・わしのことはおいておくとして・・」

「なによっ、元をただせばみんな教授が悪いんじゃないっ、おかしなもの作って
 事故起こしてわたしを見たこともないこんな場所に来させたのも、このレイって子を
 こんな冷たい変な子に育てちゃったのも、全部教授のせいじゃない!!」

「そこまでいわんでも・・・いいだろうに」

「そう・・・全ての原因はおじーちゃんにあるの・・・そんなに責めちゃかわいそう
 だけれども・・・」

「ひとごとみたいに言うなぁぁぁぁぁっ!!、あんたが素直に言うこと聞かないから
 怒ってるんじゃないっ!!」

「そーは言われても・・・わたしにはわたしの都合というものがあって・・・」

「だからぁぁぁぁぁぁぁぁっ、そこをおして・・・・・」





六分儀教授宅のリビングでそんなことをやってるうちに、
教授の家の脇にある巨木に上って、オペラグラスを持つ若者がひとり・・・

「うーーーーーん・・・状況がよくわからないなぁ・・・」

黒づくめの新入り調査員、シンジ君である。

「教授らしき影はあるんだけど・・・よく見えないなぁ・・・
 あそこに正座しているのが教授の孫娘かな?・・・
 本当にそうなのかなぁ・・・真っ白い顔しているけども・・・」

とぼけた観察力である(^^; それにしても巨木の上でぶつぶつ言う
黒づくめの若者の図・・・どーみても変態かストーカーである。

「それとも、後ろ向きのさっきから怒りまくってる女の子の
 方かな・・・後ろ向いてるからよくわからないけれど・・・
 なんだか頭の両側が長いというか・・・耳?みたいだけど・・・
 そんなわきゃないよな・・・怒ってる声が響いてくるのは
 ありがたいんだけど・・・早口でよくわからないよ・・」

あんな響く大声がわからないというのは耳が弱いのかもしれない。
しかし、それは調査員として致命的な気がするぞ、シンジ君。

「どっちが孫娘なんだろう・・・うーん、盗聴マイクか何かあれば
 いいんだけどな・・・でもそこまで費用がまわんないし・・・」

そこまで貧乏なのかっ、お前らは(^^; そんなもん今時安いもんなら数百円で・・・

「それにしても・・・加持主任、なに考えてるんだろう・・・
 配下の調査員が行方不明になったっていうのに、のんきに畑仕事
 ばっかりで・・・・本職のこと完全に忘れてるよ・・・はっ!」

目の色が一瞬真剣になる。新入りで観察力はまだまだとしても、、
やはり調査員であることには間違いないようだ。

「視線が・・・って、あれ?」

シンジが見たものは・・・小柄なコウノトリ(爆)、だがコウノトリの視線は
真剣で、彼の方をじっと見つめている・・いや、殺気を帯びている。

「なんだよ・・・あ・・なるほど」

コウノトリの背後から聞こえる「ぴーぴーぴー」との鳴き声、どうやら
シンジには見えないが、枝葉のかげに隠れた所に巣でもあるのだろう。

「安心していいよ・・・お前の巣なんか用はないからさ」

コウノトリの視線が鋭くなる・・・馬鹿にされたのがわかったのか?
そして、突然!!

ココココココココココココココココココココココココココココココココッ!

「いて、痛い、いて、やめろよっ、いて、あ・・・うぁあああっ!!!」

シンジの頭をつつきまくるコウノトリ。スキのない連続攻撃に、バランスを
崩したシンジは・・・

バサバサバサバサバサーーーーーーーーッ、ドシンッ

落っこちた(^^;、まぁ巨木といっても2階程度の高さからだったようで
命には別状はない、幸運なことに怪我もない。

「あの・・・・バカ鳥の奴ぅ・・・ってーーーーーーっ・・・・ん?」

「今の、見たかい?」
「鳥に、負けるとはねぇ」
「同僚として、情けないよ・・・シンジ君」

やっぱり(^^;、突如現れるカヲル君3匹(^^;

「き・・君たち突然どこから・・・なにしてる・・・・」

「あ、」
「気がついたんだね」
「シンジ君」
「主任が」
「もーじき夕飯だから」
「呼んできてくれ、ということで、ね」

「・・・何度も言うけど・・・そのくらいのセリフ、ひとりがまとめて
 しゃべってくれないかな・・・頭が痛い」

「それはそれは」
「結構な高さから落ちたからね」
「頭から落ちれば命の危険も」

「そーゆーんじゃなくってっ!!、君たち見てると頭が痛いんだって!!」

「そ・・・そんな」
「シンジ君に・・・嫌われてしまった・・・」
「暖かく受け入れてくれないんだね・・・」
「ぐっすん・・・」
「泣かせてる・・・」
「泣かしたね・・・僕たちを」

「だからぁぁぁぁぁっ!!、嫌ってるとかそーゆーんじゃなくってっ!!」





「・・・うむ、なにか外の方がさわがしいようだが・・・・」

「教授・・・話をそらさないで下さいっ!!」

「わ、わるかった・・・確かにわしがわるかった」

「教授が悪いってのははじめっからわかってるんですけど・・・
 ん?・・・ちょっと目を離したら静かになったと思ったら・・・
 あのレイって子はどこいっちゃったの?」

周りを見渡すアスカ・・・言われてみればさっきまで正座をして話を
していたレイの姿はそこにない。が・・・

「すーーーーー・・・・」

わきにのけてあったちゃぶ台に、いつのまにか突っ伏して寝息をたてている
綾波レイ・・・なんちゅう神経をしているのだろーか。

「こ・・・こ・・・・っ・・・・この・・・・っ・・・!!!
 起床ーーーーーーーーおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

ぐあば!と顔を上げるレイ、突っ伏していただけのことはあり、
おでこに手の跡が真っ赤についている。

「あんたどーゆー神経してたらこーいう状況で眠れるのっ!!
 だいいちまだ話は終わってないのよ!、勝手に寝ないでったら!!」

「・・・だって・・・眠いの・・・」

「眠くったって、真面目な話してる途中で寝られちゃかなわないわよ!!」

「それは・・・確かに・・・ごめんなさい」

「あやまるくらいなら、寝ないでよっ
 ・・・ったく!!、大体ね!、こんな文句言うときにまで!!
 よその言葉使わなきゃなんない!!、あたしの気持ち!!
 どーしてわかってくれないのよっ!!
 少しは・・・少しでいいから!!、気を使うとか気持ち察するとか
 してくれたって!!、いーーーーじゃないっ!!!!!」

アスカの瞳には・・・ほんの少し、涙がにじんでいたのかもしれない。
しかし・・・・

「・・・どうして・・・そういうこと言うの?・・・」

真摯な・・・冷たく聞こえる言葉だけれど・・・アスカに投げかけられる
その赤みを帯びた視線は・・・まっすぐに・・・アスカをつらぬく。

「・・・・・な・・・なんであんたにそんなこと言われなきゃいけないの・・・」

「そう・・・わからなければ・・・いい・・・」

レイは、つい、と立ち上がり、アスカに背中を向け、歩き出す。

「あんた・・・何が言いたいのよ・・・」

アスカに向けられた背中は返ることなく、レイは部屋を出ていき、
ぱたん、と扉は閉められた。

「なによ・・・なによなによなによ!
 悪いのはあんたじゃないっ
 なんで・・・なんでわたしのほーが悪いことしたよーな
 気分になんなきゃならないのよっ・・・ぐすっ・・ぐすっ!!」

「アスカ・・泣くんじゃない・・」

「なんでよ・・・なんでなのよぉ・・・ぐす・・・・」

アスカは既に泣き出していた。





空は既に暗くなり、中天には三日月が、真白な弧を描いていた。

「ぐすっ・・・ぐす・・・・すん・・・」

アスカはでっかいクッションに顔を突っ込んで、
しばらく泣き続けていた。

「もう・・・泣きやんだかな・・・」

「すん・・・・嘘つき・・・」

「泣いてても、きつい娘だな・・・アスカ・・・」

「だってだって・・・優しくて、いい子だって、言ってたじゃない
 だから、よかったと思って、安心してたのに・・・」

「・・・ほんとうは、そうなんだがな・・・」

「どこがよっ・・・あんなに冷たいこと言うなんて・・・信じらんないっ」

「冷たい・・ということではないんだろう」

「冷たいわよっ、冷たいし、無神経だし、なに考えてんのかわかんないし、
 自分勝手だし・・・あれのどこが優しいってゆーのよっ」

「そう・・いわんでくれ。さっき寝てたのにしても、
 帰ってきた時間から察して、夜行に飛び乗ってきたのだろう」

はっとして、クッションから顔を上げたアスカ

「わしが、危篤だというアスカの出した電報を見て
 すぐに、来たの・・だろうな・・・・・」

六分儀教授の、切なげな・・・概観のこもった・・・小さな声・・・
眼鏡に隠された小さな瞳は・・・遠く・・遠くを見るようで・・・

アスカは教授をじっと見つめ、次にレイの出ていった扉を、
しばらくの間、何か考えるように見続けていた・・・

・・・忘れてた・・・あの子のおじいさんが死んだんだってこと・・・
・・・幽霊になってここにいるから・・すっかり忘れてたけど・・・
・・・どんな気持ちで・・電報を読んで・・電車に飛び乗って・・・
・・・ここまで走ってきてたのよね・・・
・・・気持ち・・わかんなかったのは・・わたしのほうだったのかな・・・
・・・わたしも・・悪いこと・・・した・・かな・・・

アスカは再びクッションに顔をうずめ、なにも、話そうとはしなかった。





レイの部屋の窓からも、三日月は、真白な光を
部屋の中に投げかけ、暗い床に、一筋の線を、描いていた。

4ヶ月前、高校入学のため、レイが六分儀教授の家を出た後も、
この部屋はレイの帰りを待つかのように、そのままにされていた。

ひとりレイは、でっかい枕をかかえて、さっきまで眠りこけていた
はずなのに、壁に背中をよっかからせて、ぼーっと目を開けていた。

なにも考えていないわけではない、ただ、昔のことを思い出していただけである・・・

あーん あーん あーん 「おじーちゃん」 あーん あーん あーん 「おじーちゃああん」 あーん あーん 「ん?」 「おじーちゃん」 「どーした、レイ」 「指切った」 「うむ、それは大変だ」 「すんっ」 「泣くな泣くな、ここに座って、  少し待て・・・」 「うん」 「なぜ、指なぞ 切った?」 「うん あのね」 「ああ」 「おじーちゃん  いそがしそーだから」 「ああ」 「おじーちゃんの  ごはん  つくろーと 思ったの」 「おお  それはそれは  ありがとう、嬉しいぞ」 「すんっ」 「レイは  いい子だな」 「ぐすっ」 「レイは  いい子だな・・・・・・・・・・」
人差し指を、じっと、見つめるレイ 薄赤の瞳は、まるで何も、見ていないようで・・・ ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ シリアスなシーンに腹の虫の音、雰囲気台無しである(^^; 「そーいえば・・・朝からなにも・・・食べてない・・・」 くるるると鳴るお腹に手を当てるレイ、そりゃ腹も鳴るわ(^^; 「台所に・・・なにかあるかな・・・」 床におろした足は、ぺたぺたという音を響かせ、 レイの部屋から階段へ、階段から台所へと移っていった。 中天にあった三日月は、かなり西方に、居を移していた。



台所のコンロの上
しゅんしゅんと音を立てるケトルの口

「まだかな・・・」

しゅんしゅん・・・・わいたぞっわいたぞっわいたぞっわいたぞっ
わいたぞっわいたぞっわいたぞっわいたぞっわいたぞっわいたぞっ
わいたぞっわいたぞっわいたぞっわいたぞっわいたぞっわいたぞっ

珍妙なケトルじゃ(^^;

「これもおじーちゃんの発明なの・・・加減知らずね」

解説&きつい批評どうも(^^;

「どーいたしまして・・・えと・・・どこに置いていたかな・・・」

わいたぞっわいたぞっわいたぞっわいたぞっわいたぞっわいたぞっ
     かたん・・・・
わいたぞっわいたぞっわいたぞっわいたぞっわいたぞっわいたぞっ

「あった・・・あれ?」

台所の戸を開けて、現れたアスカ。

「あなた・・・どうしたの」

「どうしたの・・・って言われても・・・」

ぐきゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる

「お、お腹・・・すいたんだってば・・・・」

「うん、その音で、わかった」

「音でって・・・恥ずかしいわね!!、まったく・・・ホントに同じ女の子なの?」

「女です・・・わたし」

「見りゃわかるっつーのっ、意味がちがうっ!」

「なら・・・いいでしょ・・・あなたも・・・お腹・・・すくのね」

「な・・・なんでそんな人が怒りたくなるよーな言い方ばっかりするの! あんた!
 わたしだって生きてるんだから、お腹ぐらいすくわよっ!!」

「でも・・・別の世界から来たってゆーから・・・
 お腹がすくのかすかないのかわからない・・・・」

「わたしの世界でも生き物はみんなお腹がすくのっ!!」

「そーなの・・・ひとつわかったわ」

「わかったって、なにが?」

「アスカの世界でも、生き物はちゃんとお腹がすくってこと」

「あんた・・・そんなことわかったからってどーだってゆーのよっ」

「勉強になるわ」

「なんの勉強よっ・・・ほんと・・・あんたと話してると頭が痛くて・・・
 頭じゃなくってお腹!!、何か食べられるものないの?」

「ん・・・4分ほど待って」

いつの間にやら、ふたつのインスタントカップにお湯が注がれて、
テーブルの上に細い湯気をたてていた。

「もしかして・・・これ? んで・・・なにこれ?」

「インスタントカップうどん。商品名きつねどん兵衛」

「なんなんだか・・・よくわかんないけど・・・食べてもいーの?」

「どうぞ・・・二人分作ったから・・・」

「・・・言ったほうが・・いいわよね・・・ありがと・・」

「どーいたしまして・・・そろそろ時間・・・のびないうちに召し上がれ・・」

「あ・・はい・・・・」

なんと申しましょうか・・・微妙な二人である。
とりあえずずるずるとうどんをすすっているうちは二人とも無言だった。

「ごちそうさまでした」

「ご・・・ごちそうさま」

「・・・関西のカップうどんは・・・びみょーに出汁加減が違って・・・
 さっぱりしてておいしいの・・・また食べたい・・・」

「へ?、関西って何よ?、これと違うのがあんの?」

「うん・・・関西といえば・・・京都・奈良・大阪とか・・・
 中学の修学旅行で行ったの・・・」

「ふーん・・・よくわかんないけど・・・遠くに遊びに行ってきたってこと?」

「そうね・・・」

「で、遠くにまで遊びに行って、わざわざこんなもん食べてたの?」

「夜にお腹がへったので、みんなで食べたの・・・おいしかったな・・・」

「ふーん・・・」

「あなたは?・・・これ・・・おいしかった?」

「んーーー、わたしはごはんのほーがいーな」

「ごはん・・・うん・・・ごはんはわたしも好き・・・」

「でしょ!、やっぱり、こーゆーお手軽ものはいまいちよねっ」

「・・・あなたの世界って・・・どーいうもの食べてるの?・・」

「どーいうものって言われても・・・こっちの世界にあるものと違うから、
 どう説明したもんやら・・・」

「そう・・・」

「なんか気になることでもあんの? わたしの世界の食べ物のことなんか
 聞いたって、どーなるとゆーもんでもないでしょーに」

「そんなことない・・・わたし・・・別の世界の・・・
 人間の生態って・・興味がある・・・」

「あ、あんたねぇっ!!!!
 あんたってば、わたしに対してそーゆー見方しかできないのっ!?
 それじゃわたし実験動物かなんかみたいじゃない!!」

「あなた・・・それは・・・実験動物のみんなに対して
 失礼というものよ・・・差別はいけないわ・・・」

「実験動物に対して差別もなにもあったもんじゃないわよっ!!」

「実験動物でも・・・人間関係でも・・・ある対象に興味を持って・・
 それについて・・・詳しいデータを知りたいって・・・・
 思うとゆー点においては・・・同じでしょ・・・」

「そ、それはそうかもしれないけどさ・・・
 ・・・言い方と表現に雰囲気ってもんが全然ないじゃない!!」

「雰囲気・・・ないけども・・・言ってることの意味は
 まったく同じよ・・・」

「・・・・・・・・・あんたぁっ!!!
 あたし!!、そーゆー!!、でりかしーのない人って
 だあああああいっ嫌いよっ!!!」

「そう・・・わたしは別にかまわない・・・」

「あんたがかまわなくったって、わたしがかまうのっ!!!
 あんたなんか・・・あんたなんかあんたなんかっ!!!
 だあああああああああああああああいっきらいいいいいっ!!!!!」

「そう・・・・」

「馬鹿ああああああああああああああああああああああっ!!」





「あんの馬鹿娘ぇっ・・・せっかく・・・ちょっとは
 悪いことしたな・・って思ったわたしがばかだったっ!!
 あんな奴、もう知らない!!
 だあああああああああいっきらい!!!」

「やはり・・・無理があったか。
 もとはといえば・・わしが悪いのだがな。
 できれば仲良く・・・なってほしいものなのだが・・・」

「明日こそは、なんらかの発見ができるように・・・
 いや、発見をするように・・・でもなくて、
 発見を・・・してみせる、で・・・いいな
 まったく・・・報告書なんて誰も書く気がないんだから・・・」

「・・・そういえば・・・まだお礼言ってなかった・・・
 玄関で落っこちたとき・・・魚に食べられそうになったとき・・・
 『助けてくれて、ありがとう』って・・・」

「全く・・・あんな冷血で、自分勝手で、何考えてんのかわかんなくて、
 優しさのこれっぽっちもない奴だなんておもわなかったっ
 だけど・・・あんな奴でもいてくれないと・・・困るのよね・・・
 ああああああもうっ、教授の馬鹿あああああっ!
 馬鹿娘のもっともっともっともっともっともっと大馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「レイがいてくれなくは・・・何かと不便だし・・・
 しばらくは一緒に住むことになるのだし・・・
 ふたり仲良くしてはくれないものか・・・
 ・・・死んだのを、やはり後悔してしまうな・・」

「ったく・・・ぐーぐーぴーぴーとみんなさっさと寝てしまうし・・・
 ・・・・たとえひとりになったって・・・負けるもんかっ・・・
 ・・ひとりだって・・六分儀教授の調査は・・・だれかがやんなきゃいけないんだっ」

「怒りっぽい人・・・なのね・・・困ってるのは・・・わかるのだけど・・・
 一生懸命・・・勉強して・・・学校・・・やっとはいったのに・・・
 そー簡単に・・・やめるわけには・・・いかないわ・・・
 でも・・・だれか面倒見ないと・・・おじーちゃんが困るし・・・
 困ったな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

それぞれの夜は、しんしんと、ふけていくのであった・・・





そして、翌日

六分儀教授のお葬式は

六分儀教授の大学での友人がひとり、駆けつけ

レイは、その友人と、アスカの助けを借りて

いちばん、簡単な形で

そう・・・死体を、ただ焼いて

お坊さんに、一日、お経を上げてもらって

あっさりと、終わった。


「まぁ、なぁ・・・」

「はい」

「葬式も、無事すんだことだし・・・」

「はい」

「気を、落とさんようにな」

「はい。本当に・・・ありがとうございました」

などと話してる最中にも
六分儀教授の幽霊は
ほくそ笑みながら、浮かんでいるのだから
気の落としよーが、ないとゆーものである(^^;

その後の後かたづけや、なにやらが
結構忙しく
レイとアスカのやり合いも
出会いの初日ほど、激しいものをやる暇もなく
はからずも
そのまま、レイの夏休みの時期に入っていった・・・





「ケンスケっ」

「どぉしたよっ、トウジ」

「お前、しっとったかぁ? 昨日六分儀のじーさんの葬式だったっての」

「へー、あのじーさんも、ついにあの世にいっちまったのか」

「あーんなわけわからんじーさんでも、やっぱ人間だったってことやな」

「そこまでゆーかよ、って・・・確かに死にそーもなかったけどな
 葬式ってことは・・・綾波も帰ってきてるのかなぁ?」

「そーらしーでー、気になるかぁ?」

「別にぃ、あの壮絶なボケに葬式なんてよく出来たなぁ・・・と思っただけ」

「なにゆうとるんや、中学の時は学年順位のマッチレースした仲のくせしおって」

「どーゆー仲だよ、それ。まー帰ってきてんのなら、帰りにひっさしぶりに
 天然ボケの爆発ぶりを楽しみにいくのもわるかない・・・な」

「お前くらいなもんやで、そーゆー酔狂なことゆーのは」

「そぉかぁ? みんな結構面白がってたと思うけど?」

「もし」

夏休み前の最後の登校時、語らう二人の高校一年生コンビを呼び止めたのは
髪は色抜きしたような茶を長く伸ばし後ろでまとめ、
なぜかかすりの和服を身につけ、ご丁寧に下駄まで履いた時代錯誤の服装の
背の高い青年だった。

「六分儀教授のお宅はどちらか、ご存じありませんか?」

「あ・・・あの、丘の上、ですけども・・・」

「そうですか・・・、お話中のところ、わざわざありがとうございます」

一礼して青年は、丘の上に向かう坂道の方に足を向け去っていった。

「何もんだ? あいつわ」

「さあ・・・あーいう人、まだ日本にいたんだねぇ・・・・」

無理もない感想である。





「ちょっとおぉぉぉっ! またごはんカップうどんなの?
 白いごはん、食べるんじゃなかったの?」

「わたし、料理できないんだもの・・・」

「あんたねぇっ、ごはん炊くことさえできないのっ」

「せっかくの食べ物、文句言っちゃ、駄目」

「だっかっらっ、白いご飯が食べたいだけなの、わたしはっ!
 別にぜーたく言ってるんじゃないんだからっ」

「文句があるなら・・・自分で作れば?」

「えーえー、今までそーしてきたし、あんたに遠慮してたけど、
 今度からは自分で作らせていただきますっ!!」

「遠慮・・・してたの?」

「してたのよっ、すっごい腹は立つけど・・・仮にも教授の
 お孫さんなんだとおもってねっ!!」

「それは申し訳ないことを」

「いえいえどういたしまして、って違ううううううううっ!!」

「そーいえば・・・ありがとう」

「丁寧に挨拶すりゃーいーってもんじゃないっ・・・ってなに?その
 『ありがとう』って」

「初めて会った日に、助けてくれて、どうもありがとうございました」

初めて会ったときのように、ぺこりと頭を下げるレイ。

「あ、あんた・・・今頃そんなこと・・・馬鹿っ」

「わたし・・・馬鹿じゃない」

「馬鹿だから馬鹿って言ってるのよっ、この馬鹿娘っ!!」

「???」

「ほんとに・・・馬鹿としかいーよーがないじゃない・・・この子・・・」



『馬鹿野郎は愛の言葉』なんて誰が言ったか・・・野郎じゃないけど(^^;




Continued to - Phase 2 -



Written by mal


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Last Modified: 98.5.25
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