秋は黄昏の季節とは誰が言ったか。
セカンドインパクト以来常夏の国となっていた日本にも、三年前のサードインパクトによる地軸変化により、 四季が再び巡るようになっていた。
黄昏には静寂こそが似合うものだが、崩壊した都市の復興に追われる第三新東京市には、 限りなく縁遠いものだった。
今だ夏を思わせる大きな入道雲の下、走りまわるトラックと工事の喧騒。
その中でひときわ異彩を放つ巨人の姿と轟く怒声。

「もぉぉぉいやぁぁぁぁーーー!なんでアタシがこんなコトしなきゃ なんないのよぉぉぉぉぉーーーーーーっ!!」

本日18回目のアスカの癇癪が炸裂していた。
技術局2課謹製のSSTOのパーツを使用した土木作業ユニット(要するにエヴァサイズのスコップ)を 放り出し、ドッカリと座り込む弐号機。
ごていねいにその頭には捻じりはちまきが施してある。
その後ろでは同様に捻じりはちまきをした初号機が、特殊削岩ユニット(ツルハシ)を 「エンヤコーラ、エンヤコーラ」と楽しげに振るっている。
案外シンジの性に合っているのかもしれない。
また2体の周りでは、再生された零号機が、なぜか頬かむりをして、運搬ユニット(一輪車)で 大量の土砂を運んでいる。

「アスカー、そんな事言わないで作業に戻りなさい」

すかさず「現場監督」と書かれたヘルメットをかぶるミサトから通信が入る。

「じょぉっだんじゃないわ!これ以上付き合ってられるものですかっ!!大体エヴァは 汎用人型決戦兵器なのよっ!!ブルドーザーやダンプとは違うのよっっ!!」

通信機から耳を遠ざけ、延々と続くアスカの愚痴から鼓膜を守る。
初号機と零号機は無視を決め込み、作業を続けている。
もう朝から何度聞かされた事か。内容もそろそろ3周目ぐらいだろうか。

「・・・加持、お願い」

ミサトは騒音を越え、ハウリングさえ起こしはじめた通信機を傍らの無精髭の男に渡した。

「アスカ、駄目じゃないか。これも立派な任務なんだぞ」
「加持さん・・・。だってこんなの、格好悪いしぃ・・・」
「シンジ君やレイちゃんも頑張っているじゃないか。それにアスカみたいなか弱い女の子が頑張っていると 思うからこそ、他の人たちも頑張れるんだぞ」

補完計画後のドタバタでいつのまにか戻り、今やミサトの旦那であるが、女性の扱いに関しては 腕は衰えていないようだ。
ちなみに彼の頭には「現場主任」のヘルメットが乗っている。

「・・・うーーーん・・・」
「それじゃここいらで少し休憩して、お茶にしようか」
「うん!」

嬉々として駐機体制に入る弐号機。

「ちょっと、勝手に・・・」
「いいじゃないか、雨も降りそうだし。チルドレンだって長時間エヴァの中じゃ疲れるんだろう? 少しは息抜きも必要だろ。現場主任権限だよ」

ゴロゴロと怪しい音を立てはじめた空を見上げるミサト。
気が付くと辺りは薄暗くなり、今にも降り出しそうである。
ミサトの抗議を軽くいなした加持はお茶の準備を始める。

「シンジ君、レイちゃん、二人も休憩にしよう」

通信機に向かって加持が行った途端、辺りが真っ白になり、爆発音が響いた。
瞬間、加持とミサトは光の中に浮かび上がる初号機と零号機の骨格が見えたような気がした。
落雷。
ミサトの脳裏にその言葉が浮かんだとき、初号機と零号機はゆっくりと崩れ落ちた。

「ちょ、ちょっと、シンジ君?レイ?二人とも、返事をして!シンちゃん!!レイ!!・・・」



    REAL MIND 其の壱    綾波補完委員会1周年&50000HIT記念

                    written by Radical



「・・・検査の結果、二人とも身体に異常は認められなかったわ」

雑然とした研究室の中、パラパラとカルテをめくりながらリツコは言った。

「じゃあ何で二人とも目を覚まさないのよ!」

すでに事故から丸1日が経過している。
当然作業は中止。二人の回復待ちである。

「・・・よっぽど作業が嫌なんじゃない?」

ミサトへの視線が冷たい。
それもそのはず、2週間後にはゲンドウとの挙式を控えているのである。
実際にはサードインパクト直後からゲンドウと同棲状態なのだが、半ば心身症になってしまったシンジの 回復を待ち、それからシンジの気持ちを考え・・・などとしているうちに3年が過ぎてしまったのだ。
リツコにしてみれば待ちに待った人生の晴れ舞台である。
準備に没頭していたいのだが、義理の息子とこれまた娘のような者達の事故であるし、 立場上無視することもできない。

「そ、そんなことないわよ!アスカと違って、シンちゃんなんて喜んで作業してたんだから!」

それはリツコも知っている。
復興作業の支援のためと、今後考えられる災害支援の練習と、そして新生NERVの平和主義の アピールのためと、一石三鳥の計画なのだが、意外にもシンジが会うたびに楽しそうにそのことを 話すのである。
一度現場で身近に見ている加持にそれとなく聞いたところ、返答はゲンドウと同じく

「労働で汗を流す喜びに目覚めたんだろう。良い事だ」

であった。

「レイはシンちゃんと一緒なら、嫌がるはずないしぃ・・・」

それも周知の事実である。
サードインパクト後、半ば心身症となってしまったシンジとアスカを甲斐甲斐しく世話をし、 復帰後も何かとシンジと一緒に居るレイの姿は、周囲に暖かさと微笑みをもって迎えられていた。

「先輩、そんなにいじめたら葛城1佐が可哀相ですよ」

同じくカルテを眺めていたマヤが助け船を出す。

「二人が目覚めないのは・・・はっきり言って解りません」
「はぁ?」
「身体に異常はありませんし、脳波を見る限り二人とも昏睡ではなく、睡眠状態に有ります。 ただ、エヴァの中に居たとはいえ、落雷のショックはまともに受けてしまったようですので・・・」

搭乗者とシンクロするエヴァ故の事態である。
本来、落雷を生身の人間が受けた場合大電流が体の中を通過し、場合によっては生命すら 危ぶまれるが、電流はエヴァの体内でエントリープラグを避けるように通過し、パイロットには 電流による影響はない。
しかし、エヴァとシンクロしていたため、電流が体内を通過するショックのみを受けてしまっているため、 過去の事例に照らし合わせても、何が起こったのか見当も付かないのだ。

「・・・と言う事なのよ」

リツコとマヤの説明により納得はしたが、それは「待つしかない」と言う事の確認でしかなかった。

「・・・とにかく様子を見ましょう」

リツコも溜息を吐き、挙式の延期を考えはじめていた。



ミサトの元に二人が目覚めたとの知らせが入ったのは、その翌日であった。
記録的なスピードで本部施設を駆け抜け、CCUに飛び込んだミサトの目に映ったのは、 ベットの上でぼんやりとしているシンジとレイの姿であった。

「シンちゃん!!」

リツコとマヤが居たが、思わず抱きしめてしまうミサト。
安堵の涙がうっすらとにじむ。

「もうっアンタって子は心配ばっかり掛けて!」
「・・・・・」

なんだか分からないと言った表情のシンジ。
それでもおかまいなしに頭をグリグリと掻き回す。

「・・・あの〜」

妙に間延びした声が背後から掛かる。
隣りのベットのレイだ。

「ああ、レイも大丈夫?ごめんね、取り乱して」

気恥ずかしそうに腕を離し、ポリポリと頭を掻く。

「あなたは誰ですか?」
「へ?」

そのまま固まってしまうミサト。
その時になって初めて室内の異様な雰囲気に気が付いた。
リツコは俯いたままこめかみを押さえ、マヤに至っては半泣きだ。
さらにシンジが声を掛ける。

「俺のこと、知ってるんですか?」
「へ?」

おれ?
嫌な予感がよぎる。
まさか・・・
しかし予感は的中した。

「「俺(私)はだれですか?」」


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作者Radicalの祝辞:
どうも、Radicalです。
malさん、1周年&50000HITおめでとうございます。
拙い話しを載せていただいて、感謝感謝です。
遅筆者の身ですが記念作という事で。でもまた話しをまとめられませんでした (^^;
続きは本当に近日中、と言う事で。
OVER THE TROUBLEの方も有りますし(現在執筆中、今しばらくお待ちください)、まだまだ、 今後もお世話になるつもりなので、よろしく。

mal委員長のコメント:
Radicalさんにわざわざ頂いた1周年&5万ヒット記念作品、本当に本当にありがとう
ございますっ!m(__)m(見捨てられてなかった・・感謝(爆))
土方なエヴァ・・平和だなぁ・・じゃなくって(汗)落雷で二人とも記憶喪失ですか?
ほのぼのなトラブル(なのか?(汗))にはことかかぬRadicalさんの世界ですね(^^;
続きも楽しみにしてますので、どうかよろしく!(^^;

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Received Date: 98.09.07
Upload Date: 98.09.15
Last Modified: 98.09.29
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