REAL MIND 其の弐    綾波補完委員会1周年&50000HIT記念

                    written by Radical



「ちょ、ちょっと二人とも何言ってんのよ・・・」

ミサトは動揺を隠せない。
家族同然の二人に「お前は誰だ?」と言われたのだから仕方が無いだろう。
一瞬出来の悪い冗談かとも思ったが、本人達の眼が冗談ではない事を語っている。
助けを求めるようにリツコを見るが、こちらも俯いたままだ。
途方に暮れるミサトに、今度はシンジの方から声が掛けられた。

「・・・あの、俺の事、何か知ってんですか?・・・分からない・・・ 気が付いたら病院に居るし・・・目が覚める前の事が、自分の名前まで・・・」

急に興奮してミサトの肩を掴む。

「さっき『シンちゃん』って呼びましたよね。俺の名前ですか? それにあなたは?俺の家族ですか?それとも親戚か何か? 知ってるなら教えてください!!」

スパァァン!
病室に妙に軽い音が響いた。

「いってーなっ!何しやがる!!」

ミサトを押し倒さんばかりのシンジが頭を押さえて振り返ると、無言でスリッパを掴んだ レイが眉をピクピクさせて立っていた。
その紅い瞳は冷ややかに据わっている。
その迫力にシンジはミサトの肩を放し、思わず後ずさる。

「何しやがるじゃないわよっっ!男のくせに取り乱してみっともない。少しは落ち着きなさいよっ! アンタがうるさくて何も聞けないじゃないのよっっ!」

レイが吠えた。
その声にミサトもリツコも、マヤや他の医療スタッフまで、思わず気を付けの姿勢になってしまう。

「だ、だいだいお前も誰だ?俺の知り合い・・・」
「うるさいっっ!!」

なおも食い下がろうとするシンジを一喝し、ミサトの方に向き直り、にっこりと微笑む。

「説明してもらえますよね。私たちの事も、あなたの事も。全部」

顔は微笑んでいるが、眼は笑っていない。
ミサトはカクカクとうなづくことしか出来なかった。



「・・・それにしてもたまんないわね。どうなっちゃったの、あの子達」

ミサトは小さな窓にもたれ、コーヒーを溜息とともに飲み干した。
リツコはマヤを慰めるように背中を撫でている。
マヤもようやく泣き止み、少しは落ち着いたようだ。

「・・・そうね・・・それにしてもキツいものね、自分の事を忘れられてしまうって」

リツコの言葉にマヤはわずかに肩を震わせる。

「事故とはいえ・・・辛いです・・・」

インパクト後は自分の事を省みず、シンジとアスカの世話をするレイだったが、 そのレイを何かと面倒を見ていたのがマヤだった。
もちろんミサトもシンジやアスカ同様にレイの事も気にかけていたのだが、 多忙な毎日の中で目が行き届かない事が多く、マヤの面倒見の良さにいつも感謝していた。
最近ではレイも打ち解け、相変わらず言葉は少ないものの、良き相談相手といった風に接していた。

「最近は柔らかい眼で見てくれる様になったのに・・・ あんな・・・初めて見るような眼で見られたら・・・」

二人は過去の記録を見るため、資料室に行っている。
記録とは言っても公式記録に毛が生えた程度のものだ。じきに戻るだろう。
あんな半端な記録程度では何も解りはしないだろうが、すべての記録など衝撃的すぎて 今の二人に見せる事は出来ない。
戻ったときの攻撃を避けるために、三人はリツコの研究室に移動したのだ。

「記憶の事もそうだけど、あの性格よ。記憶喪失って言ったって、性格まで変わるもんなの?」
「・・・私もそんな症例、聞いた事無いです」

ミサトとマヤがじっとリツコを見つめる。

「・・・とにかく早急に検査が必要ね」

はぁ・・・
三人のため息が期せずしてユニゾンを見せた。

PiPiPi・・・
「はい、赤木研・・・」

リツコは書類に埋まりかけている受話器を取り、一言二言返事をした後、静かに受話器を置いた。
ミサトとマヤは興味深そうにリツコを見つめている。

「・・・ミサト」
「?」

重々しいリツコの口調が、楽しくないニュースを予感させる。
こういうときの感ほどよく当たるものである。

「覚悟はいい?」
「・・・何よ?」
「碇司令が呼んでるわ」



数分前、ゲンドウは怒っていた。
シンジとレイ、ゲンドウにとっては二人とも目に入れても痛くない、大切な子供である。
その二人を揃って記憶喪失にしてしまうとは、許し難い事だ。
特にシンジは、インパクト後強烈な忙しさの中にありながらも 本来の父子の関係を築こうと彼なりに努力をし、今ではぎこちなさを残しつつも いい関係になりつつある。
リツコとの結婚にしても、シンジの「僕の事ばっかりじゃなくて、父さんとリツコさんの 幸せの事も考えた方がいいんじゃない?」との言葉で踏み切れたようなものだ。
罪も無い書類や机に当たり散らし、ミサトの事を「減俸だ!降格だ!!左遷だ!!!」と 怒鳴るゲンドウを冬月は呆れたように眺めている。
・・・コイツもずいぶん変わったものだな。
被害は拡大を続け、MAGIの端末に手が伸びるに至り、慌てて冬月は諌めた。

「落ち着かんか!碇!」

背後から羽交い締めにする。
ゲンドウも手にした端末をゆっくりとデスクに戻し、気恥ずかしげに散らかった書類を集めてまわる。

「原因は落雷だ。天災じゃないか。葛城君をせめても仕方あるまい」
「しかし、指揮を取っていたのは葛城君だ。安全確保は作業の基本だ」

まだ憤然としているゲンドウ。

「だが作業の許可を出したのはお前だろうが」
「・・・」
「上に立つ者としてもそうだが、父親としてもこういう時に真価が問われるんだぞ。 お前が取り乱してどうする」

ゲンドウの不器用さは解っているものの、「どうせならこういう姿を見せてやれば シンジ君ももっと打ち解けるだろうに」と思ってしまう。
司令と副司令ではなく、子供の事で取り乱す一人の父親とその友人となって話しを続ける。

「子供たちだって苦しんでいるんだ。お前が取り乱していたら余計不安になるだろうが」
「・・・そうだな」

すがるような目つきのゲンドウにわずかな悪感を感じながら、引きつった笑みを浮かべて ゲンドウの肩を軽く叩く。

「ま、まあ・・・何だ。父親足るもの、ドンと構えて、毅然としていなくては。 とりあえず葛城君と赤木君を呼んで、今後のことを相談しよう」
「・・・ああ。・・・すまんな、冬月」

デスクに座り、いつものポーズになる。
冬月はややゲンドウから体を離すようにし、インターホンでリツコの研究室に呼び出しを掛けた。
程なくして司令室のドアがノックされた。

「葛城一佐、入ります!」



かなり緊張していたミサトだったが、結局今回の事故については天災のためお咎め無しとなり 少し拍子抜けした気分だった。
話題はすぐに二人の今後の事に移る。

「具体的にどうなのかな、二人の記憶は」
「個人的な情報さえ失っている状態ですから、NERVのことやエヴァの事は ほとんど忘れてしまっていると考えていいでしょう」

冬月の問いに、リツコがカルテを見ながら答える。

「シンクロについては個人の資質に依るものが大きいですから、元のレベルに戻すのは 訓練次第で可能と思われますが・・・」
「何か問題でも?」
「本人達に搭乗の意志があるかどうかです。二人には過去の記録を見てもらっていますから」

リツコの顔にわずかに苦渋の色が浮かぶ。
・・・エヴァにはいい思いは抱いてもらえないでしょうからね。
その思いは他の3人にしても同じだった。
死と隣り合わせの戦地へ彼らを送り出さざるをえなかった、3年前の嫌な感触が蘇る。
だがもう使徒の襲来は無い。
エヴァへの搭乗を強要する必要はないのだ。
重い雰囲気の中、それまで沈黙を保っていたゲンドウがポーズを崩さずに口を開いた。

「・・・本人達の意志に任そう。赤木君、二人をここへ」

やがて資料室から二人が呼ばれた。
シンジは両手をポケットに突っ込んで憮然としている。
レイは心持ち緊張しているのか、手を前で組み、せわしなく指を動かしていた。
緊張していると言うよりも、薄暗い司令室の雰囲気に飲まれてしまっているようだ。
レイの緊張が伝染したのか、やや気まずい雰囲気が流れる。
そんな中、意外にも先に口を開いたのはシンジだった。

「・・・あんたが俺の親父か?」
「・・・そうだ」

シンジの態度と言葉づかいにゲンドウでさえ軽い驚きを感じた。もっとも態度には出さないが。

「フン、たいした父親だな。実の息子をあんな訳の解らねえモンに乗っけて、戦場に放り込むか」
「・・・記録を見たか」
「・・・ああ」

ゲンドウの問いにも萎縮することなくシンジが答える。
その態度には以前のような緊張は微塵も感じられない。

「出来の悪いSFみたいだったな」
「それでどうする・・・もう使徒は現れない。だがNERVの象徴ともいえるエヴァには 今後も役に立ってもらう必要がある」
「・・・まだアレに乗れってのか」
「そうだ」

・・・碇・・・その態度がいかんのだ・・・
二人のやり取りに冬月は額に手を当て、嘆いてしまう。
しかしゲンドウはあくまでポーズを崩さない。
ミサトとリツコもヒヤヒヤして見ている。

「・・・私はいいですよ」

蚊帳の外に置かれていたレイが静かに言った。
5人の視線が集まり、やや慌て気味に後を続ける。

「あ、だって私、身寄りも無いみたいだし、これといって行くアテも無いから ・・・ここに置いてもらえて、危なくないなら乗ってもいいかな〜なんて・・・」

雰囲気にそぐわない軽い声に、一瞬空気が和む。
みんなの視線に恥ずかしくなったのか、わずかに頬を染め、最後は消えるような声になってしまった。

「そうか・・・レイはああ言っている。シンジ、お前はどうする」
「・・・やってやるよ。俺だけ逃げる訳にもいかねーだろうが」

ふてくされ、吐き捨てるようにシンジも承諾した。

こうして二人は待遇的にはこれまでどおりとなり、必要な検査とレクチャーに数日間 忙殺される事となる。


<おまけ>

話しが終わりミサトが二人を連れて出て行った司令室で、ゲンドウは目を潤ませて リツコに泣き付いていた。

「またやってしまった〜」

すがり付いてくるゲンドウの頭を抱き、困った視線を冬月に向ける。
冬月は頭痛さえ覚え、さらに強くこめかみを押さえるのだった。



Please Mail to Radical <radical@pop01.odn.ne.jp>



作者Radicalの言い訳:
どうも、Radicalです。
近日中のはずがお待たせしてしまいました。これも遅筆者の性分とでも思って許してください。
このお話はもう少し続きます。お付き合いください。
激励、催促、感想のメール、お待ちしています。
今後もお世話になるつもりなので、よろしく。

mal委員長のコメント:
RadicalさんのREAL MIND 其の弐頂きました!、
うあぁぁぁ、レイとシンジの性格、そーきたかーーーーーーーー!!(汗)
周りのミサト・アスカ・リツコがおたおたしてる様がいいです…がなんと言っても
「またやってしまった〜」ゲンドウに爆笑しました(汗)
其の三、期待して待っております!!(^^)

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Received Date: 98.09.28
Upload Date: 98.09.29
Last Modified: 98.10.28
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