街は12月。

お店のウィンドウディスプレイは早くもクリスマス一色。

ツリーや綺麗にラッピングされたプレゼント。

街路樹につけられたイルミネーションがまたたきはじめる。

 

あったかそうなブラウンのダッフルコートを着た彼に出会ったのは,偶然。

でも,いつでも彼の姿だけは真っ先に見つけることができる・・・。

 


   ―― 紅茶を飲み終えるまで ――

                    written by Tomoaki


 

  「あー,碇くん?」

  「あっ,あ,綾波。」

  「なに動揺してるのよ。はーん,さては誰かさんとデートだなぁ?」

  「・・・・・。」

  「――ホントに嘘がつけない性格だね。」

  「・・・ほっといてよ。綾波は今帰りなの?」

  「そ。部活がね,遅くなっちゃってさあ。クリスマスの公演が近いじゃない?」

  「ふーん,大変だね。」

  「ところで,待ち合わせは何時?」

  「7時。」

  「まだかなり時間あるじゃない。」

  「うん。この間,5分遅刻しただけなのに,ものスゴーク怒られちゃったから・・・。」

  「あーら,いつものことでしょーが。腰にこう手を当ててさ,
   『バカシンジ!アタシを待たせるなんていい度胸ね!!』」

  「・・・見てたみたいだね。」

  「シンちゃんたちとは転校以来,ながーい付き合いでしょ。
   ――でも,うまくいってるみたいね,アンタたち。」

 

照れて赤くなる彼。

 

    ・・・そんなに仕合わせそうな顔するのね。

 

  「はいはい,ごちそーさま。ね,時間あるんだったら,ちょっとお茶飲まない?
   近くに紅茶のおいしいお店があるのよ。
   ねぇ,いいでしょ?『このアタシが言ってんのよぉ』」

 

彼女を真似た声音に苦笑して,彼はうなずいた。

 

 

ロイヤルミルクティを注文して,向かい合わせの席に座る。

彼はちらっと壁に掛かった店の時計を見る。

 

    ・・・ごめんね。

    でも,紅茶一杯分くらいの時間はあるよね?

 

きちんと温められた,シンプルなオフホワイトのカップが運ばれてくる。

いい香り。

 

  「ねえ,聞いて・・・。」

 

紅茶を飲みながら交わすのは,とりとめのない話。

友達のうわさ,先生の悪口,部活の練習のこと・・・。

碇くんはにこにこしながら聞いている。

 

    この笑顔が,すき。

 

話の内容なんてどうでもいい。

やさしい笑顔は,紅茶を飲み終えるまでは,わたしだけのもの。

 

  「それでね・・・。」

 

あっという間に過ぎる時間。

 

 

両手で持っていても,もうカップは冷たい。

残った紅茶はひとくち分。

 

    もうちょっと。もう少しだけいいよね・・・。

 

碇くんはまた腕時計を見る。

ちょっと困った顔。

この顔も,キライじゃない。

そして,この顔には弱い。

 

    あーあ。わたしってホントにバカね。

 

  「そろそろ行かないと,また怒られちゃうね。」

  「ごめん。ここおごるからさ・・・。」

  「そお?ありがと。わたし,もうちょっとここにいるね。これ飲み終わったら行くから。」

  「うん。それじゃ,またね。」

  「アスカによろしく。」

 

入口のドアのところで碇くんは軽く手を振って出てゆく。

店を出たとたんに,ダッシュ。

そんなに急がなくても,じゅうぶん間に合うのに。

 

冷たい紅茶を飲み干して,わたしはため息をつく。

 

  「ケーキも頼めばよかったかな・・・・・。」

 

 

 

fin





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mal委員長のコメント:
切ない競作作品を頂いたTomoakiさんから、再び投稿いただきました!ありがとうございます!
ちょっとしたあったかい、それでいてちょっと切ない時間・・・たまらないですね
冷めた紅茶のほのかな香りがレイの気持ちの表われのようですね・・・
シンジは相変わらず鈍感で・・・気付かんか〜〜〜い(^^;
それにしてもなんだかレイに紅茶って似合うんですよね〜〜〜なぜでしょう?(^^;
Tomoakiさんお見捨てなく、また何か書いてくださることを期待しています(^^;

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Received Date: 97.12.6
Upload Date: 97.12.21
Last Modified: 98.1.30
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