聖夜の絵本

その1



サク、サク、サク、サク・・・

まだ誰も踏みしめていない白い雪道

ちいさな青いコートの少女が

白い息を口元からうすく漂わせて

彼の住む家に向かっている

「寒い・・・」

小さくラッピングされた小箱を小脇に抱えて

(うけとって・・・ほしい・・・)

(・・・はじめての・・・贈り物・・・)

そこの曲がり角を曲がれば

彼の家はすぐそこ

少し早足で、駆け抜けようとする少女

そのとき、ふっと白い影

「あっ!」

白い影・・・白いコートのすこし線の細い少年

「あ、綾波・・・」

「い、いかりくん・・・」

真白な少女の頬が、桃色に染まるのは

寒さのせいなのか、それとも・・・?



「え、えと、もうみんなあつまってるのに・・・」

「クリスマスパーティ・・・綾波遅いから・・・」

「迎えに来てくれた・・・の?」

「そ、そうなんだ。うん」

ふたりの間にわずかな沈黙

なぜか視線が定まらぬ少年と

頬を染め、うつむいた少女

「あ、あの・・・・・・かわ・・いいね」

どき

「青いコート・・・綾波に・・・似合ってて」

どき どき

「かわいい・・・」

小さな声でつぶやく少女

「う、うん、とってもかわいいと・・おもうよ」

顔を真っ赤に染め、手に少しつもった雪もとけだして

「あ、ありがとう・・・」

顔を伏せたまま、ちいさなこえで答える少女



少年の視線は、未だ定まらず、うろうろと

「じゃ、じゃぁ、みんな待ってるから、早く行こう」

「・・・うん・・・」

少年はその声に甘い調べを感じる

どき どき どき

ぎくしゃくと、手を少女にさしのべる

どきっ

「あ、あの・・・・い・・・いこう!」

少女は沈黙しながらも

きゅっと手を握り返す

「うん・・・・」

少年は白い手の温もりを感じつつ

かるく、その手をひっぱる

少女は少年の手の、思いのほかつよく、そしてやさしい力を感じつつ

少年とともに、歩みを早める

どちらも声は出さず

視線も合わさず、ただ目の下を紅く染めて

焦るように、歩みを早める



少女は少しだけ、手の力を加える

「えっ」

少年はちょっと驚いたように、顔を後ろに向ける

少女は、少年の手を少し強く引く

深紅の瞳で少年の顔を見つめ、心の中で訴える

(もうすこし・・・このままで・・・・)

少年は、紅い瞳の訴えに気がついたのか

柔らかく、顔をゆるめ、微笑む

(うん・・・いっしょに・・・もうすこし・・・)

歩みをゆるめる白と青の影

雪は細かく、まばらに降り続け

彼らに、無音の空間を与える

少年の家まで、あとすこしだけれど

ふたりの足音は、ゆっくりと、音のない空間に

穏やかな調べの、二重奏を

ひそやかに、やわらかく、響かせる・・・

サク、サク、サク、サク・・・・・








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