聖夜の絵本

その3



スゥー スー スゥー

首筋にかかる、細い寝息

綾波の・・思ってたよりの重みが・・背中にかかる・・・

「ほぉんとに、たった一杯で・・よく寝てるわねぇ」

「シンジ! ちゃあんと送っていくのよ! 変な気おこしたら・・・」

「へ、変な気ってなんだよ! そんなことするわけないじゃないか!」

「そーそー、センセにそんな度胸ありゃしませんて」

「そーだよ、ぼくが保証してもいいぜ」

「あんたの保証なんて、なんのあてになんのよ!!」

「アスカ・・・心配だったらついていけば?」

「だ〜め、この子強がってるけどま〜だ足がフラフラなんだから」

「ミサト! わたしがあのくらいのお酒で・・あっ」

「だ、大丈夫? アスカぁ」

「しょ、しょうがないわね。わたしが目を離したスキに何かしようとしたら・・・」

「だから〜〜するわけないって言ってるじゃぁ・・・」

「ま、そうよね。でも・・・碇君いざというとき綾波さんちゃんと守れるか・・・心配」

「い、イインチョウ、何言うんだよ、いざとなったら僕だって・・・」

「クス、そうよね。他ならぬ綾波さんだもんね!」

みんながワッと笑う。アスカはすこし顔をゆがめてたけど。

だけど・・・ぼくってそんなに頼りない・・・度胸なしにみえるのかな?

・・・・・・・・・・

そう・・・かもしれないな・・・

「なに落ち込んだ顔してんの、しっかりしなさい。
 ちゃんとレイの家まで、送っていくのよ」

「は、はい」

ミサトさんが、落ちついた笑顔で、ぼくたちを送りだす・・・

・・・かなわないな・・・






トウジたちと別れて

ぼくと背中の綾波の影だけが

雪はもう降りやんだ、すこしクシャクシャの雪道を

ゆっくりと、移動している。

パシャパシャと跳ねる足音と

耳の後ろからの静かな寝息が

暗い道を歩むぼくを

なぜだか、安心させてくれる。

「ん、ん・・・・」

あ・・おき・・ちゃったのかな?

「あ、やなみ・・・起きたの?」

「ん・・・うん・・・」

すこしだけ・・・残念な気持ち

「いかりくん・・・わたし・・・」

「あは、綾波・・・お酒飲んで・・・ねむっちゃって・・・」

「わ、わたし・・・いかりくんの・・・背中に・・・」

「う、うん・・・おぶって・・・家まで連れていけって・・ミサトさんが・・・」

「そう・・・なの・・・」

あれ?・・・綾波・・・首をすくめて・・・僕の背中に・・・え?

「ど、どうしたの・・・」

「・・・・・・・」

「あ、もしかして・・・お酒飲んだから・・・気持ち悪くなっちゃったとか?」

「・・・ちがうの・・・」

「じゃ・・・どうしたの?」

「・・・・なんだか・・・はずかしい・・・・」

「はずかしい?」

「・・・碇くんの・・・こんなに・・・近くに・・・」

そ・・・そういえば・・・

綾波を・・・膝枕してから・・・

ずっと・・・触れてて・・・

今は・・・綾波の・・体の・・・胸とか・・・

や、やだな・・・今まで・・意識してなかったのに・・・

なんだか・・・顔がほてってきた・・・

綾波も・・・そうなのかな・・・

「い、碇君・・・わたし・・・」

「あ、綾波・・・大丈夫?」

「うん・・大丈夫・・だから・・・」

「じゃ、じゃあ・・・降ろすね・・」

「ま、まって・・・」

「え?」

「もう・・・すこし・・・」

「・・・・・・うん・・・・・・」



綾波は、僕の背中から降りると

ゆっくりと、靴をはいている

少し・・・おしかったかな・・・

って、なにがおしかったんだよ・・・・

「碇くん・・・・」

「あ、ご、ごめん」

「?・・・なぜ、あやまるの?」

「あ・・・・・・つい・・・癖で・・・」

綾波は、すこし、口をほころばせて

「すぐ・・・あやまるのね・・・」

「ご、ごめん・・・・あ」

クスッ

また・・・でも・・・

こんな顔で・・・笑う・・・綾波が・・・

とっても・・・かわいいと・・・おもう・・・

「あ・・・・」

「ど・・うしたの? 綾波・・・」

「忘れもの・・・した・・」

「え・・・じゃぁ・・もどらなきゃ・・」

「ううん」

綾波は、首を軽くフルフルとゆらす

「ここで・・・いいの」

ぼくには、綾波が、なにを考えてるのかわからない

いつも・・・そうだけど・・・

綾波は・・・青いコートの内ポケットから・・・何かをだした

それは・・・ラッピングされた・・ちいさな小箱・・・

「これ・・・碇くんに・・・」

両手に小箱をのせて、ぼくにさしだす

「もしかして・・・クリスマス・プレゼント?」

「うん・・・」

綾波は・・・すこしうつむいて・・・

フードが垂れてきて・・・視線をかくす・・・

「あ、ありがとう・・・よろこんで・・・もらうよ・・」

「よろこんで・・・くれる・・・の」

「も・・もちろんだよ!」

綾波から・・プレゼントを・・・もらうなんて・・・

「あ、開けてみても・・・いいかな」

「うん・・・かまわない・・・」

緑色のリボンをはずし

ゆっくりとラッピングをはがしていく

綾波は・・・じいっと小箱を・・・見つめているようだ・・・

小箱のふたを開けると・・・

「うさぎ・・・・」

それは・・・小さなうさぎが・・・チェロをかかえた・・・人形だった・・・

「碇くんが・・・好きなものって・・・わからなくて・・・」

「だから・・・わたしが・・・欲しくなったもの・・・なの・・・」

綾波の・・・欲しかったもの・・・

チェロをかかえた・・・うさぎ・・・

すこし・・・ぼくの・・・顔が・・・赤くなった・・・かも・・・

「あ、ありがとう・・・」

「気にいって・・・くれた?・・・」

「うん・・・大切に・・・するから・・・」

「よかった・・・・・・・・」

綾波も・・・やわらかい微笑みと・・・すこし赤い顔で・・・

「でも・・・本当に・・・ごめん・・」

「どうして・・・また・・・あやまるの?」

「うん・・・今・・・綾波に・・・あげるもの・・・もってない・・から・・・」

「そんなの・・・かまわない・・・」

「そう・・・いっても・・・なにか・・・おかえし・・・したいよ・・・」

「・・・・・じゃぁ・・・お願い・・・しても・・いい?・・・」

「も、もちろん・・・ぼくに・・・できること・・・だったら・・・」

綾波は・・・僕の目を・・・見て・・・

・・・すこし・・・ためらいながら・・・

「わたしの・・・家まで・・・おんぶして・・・欲しい」

綾波は・・・手を・・・胸にあてて・・・

僕は・・・すこし・・・どきどき・・・してる・・・

「い、いいよ・・・そんな・・・ことなら・・・僕も・・・」

「僕も・・・なに?・・・」

「い、いや・・・いいんだ、いいんだ・・・」

僕も・・・もう一度・・・綾波を背負いたかったなんて・・・

言えないよ・・・

僕は・・・綾波の・・・顔を・・・見ないように・・・

腰を・・・かがめて・・・

「さ・・・綾波・・・どうぞ・・・」

「・・・う・・・うん・・・」

再び・・・綾波の・・・重みと・・・

そして・・・細い腕が・・・首にまわる・・・

「あ、綾波!・・・」

「クスッ」

なんだか・・・からかわれてる・・・気がするけど・・・

いいや・・・綾波への・・・贈り物・・・なんだし・・・

「じゃあ・・・行くよ」

「・・・・はい・・・・」

やわらかい・・・「はい」の声が・・・・

なんだか・・・ここちよくて・・・・

ずっと・・・このままで・・・いたいな・・・

ふと・・・そんな・・・気が・・・した・・・

「いかりくん・・・」

「な、なに・・・綾波・・・・」

「・・・答えて・・くれる・・・」

「え?・・・なんの・・・こと」

「・・・うれしいの・・・」

綾波の・・・声は・・・なんだか・・・

ぼくの・・・こころも・・・あったかく・・・なるようで・・・

「ぼくも・・・うれしい・・・」

ちいさな声で・・・言って・・・しまった・・・

「・・・・・・・・・・・・・」

綾波は・・・だまりこくって・・・

ちょっと・・・まわした腕を・・・キュッと・・・力をくわえて・・・

「・・・ありがとう・・・」




もう降りやんだ・・・

くらい・・・雪道・・だったけど・・

ぼくと・・・綾波の・・・

ふたつの影は・・・

ずっと・・・ひとつのまま・・・

ゆっくりと・・・

ゆっくりと・・・








その2 Contributions Top
inserted by FC2 system