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    Over the Trouble   - Part 2 -

                    written by Radical









シンジとレイは行き先も見ず、とりあえず発車しかけていたリニアに飛び乗った。

「はあっはあっはあっ…と、とりあえず、これでしばらく大丈夫だね」

シンジは荒い息を整えつつ、レイに声をかけた。
ほとんど喘いでいるといってもいいほどだ。
考えてみれば、自宅から10キロはある教会までダッシュし、ほとんど休憩もなく駅まで全力疾走だ。
レイに合わせたとはいえ、基礎体力が相変わらず足りないシンジには、1ヶ月分
の運動量といっても過言ではないかもしれない。
レイもゼエゼエと喘いでおり、シンジに何か声を掛けようとするのだがうまく喋れずにいる。
そんなお互いの状態に思わず笑みがこぼれた。
周りの人々もクスクスと笑っている。
二人は改めて自分達を見比べて真っ赤になった。
シンジはあちこちに汗が染み出したポロシャツ姿。
レイは走ったせいで着崩れはしたが、真っ白なウエディングドレス。
そんな二人が手を取り合って列車に掛け込んでくれば、どんな想像をすることか…。
もっとも99%事実と変わらないものだろうが。

「…レイ」
「…何?」
「ごめんね、せっかくのドレスがこんなボロボロになっちゃって」
「いいのよ」
「でも」
「いいの…あんな人のためのドレスなんてどうなっても。また新しいドレスをあなたが用意してくれれば…」

最後の方は消え入るような声だったが、シンジが一気に赤面したところを見ると、ちゃんと伝わっていたようだ。
乗客の目にも期待が込められている。
シンジは何も言わず、レイを強く抱きしめた。
列車は歓声と冷やかし声を大音量で振りまきつつ走って行った。



数時間後。
NERV本部司令室は部分的に、かつての使徒襲来を思わせるほどの活気に満ちていた。

「それで、状況は」

司令席でいつものポーズのゲンドウの前では教会から戻ってきたミサトやリツコ、アスカやカヲル達がモニターを見つめていた。
加持はいつのまにか姿を消している。

「はい。諜報部からの報告ですと、二人は新議事堂前にてリニアを下車。近くのブティックで衣類を購入し着替えた後、18分後に戦自のMP隊と接触。再び逃走に入りました。現在はショッピングモールに逃げ込んだようで、ロストしています」

マコトがモニターに流れるドキュメントを読み上げる。

「ちょっと、なんでMPが二人を追いかけてんの?」

すでにいつもの制服に着替えていたミサトが首をかしげる。

「新郎がMP所属なのよ」

リツコが手元の資料をめくりながら答える。
その資料には諜報部から送られた新郎のデータと、レイとの接触の記録が事細かに書かれている。

「センサーに反応!生体パターンからいって、二人に間違いありません!」

シゲルの声が響いた。
今や日本はおろか、世界の動向さえ左右するNERV本部の中枢は、二人の逃走劇にその全能力を傾けていた。

「どこにいる」
「25番通りを南西に移動しています」
「シンジめ…車を使うつもりだな」

25番通りを抜けたところには、シンジの駐車場がある。

「ま、妥当な選択ね」

アスカが呟く。

「司令、MAGIのシュミレート、終わりました」

マヤが報告する。ちなみに彼女の姓は青葉に変わっている。

「うむ」
「結果は、パターンAの成功率、63%。パターンBは54%。パターンCとDは不確定要素があまりにも多いため、シュミレート不可能です」
「それでは葛城一佐、予定通り作戦パターンAを実行する」

ゲンドウの口元が歪んだ。

「はい。作戦パターンA、実行に入ります」

ミサトが答える。
その口元にもゲンドウのものと同種の笑みが浮かんでいた。

『こんなおもしろい事、黙って見てられないわよねぇ…』

「シンジ君…君に同情するよ」

カヲルが天を仰ぐように呟いた。
しかし彼の口元にも笑みが浮かんでいる。

「…それでは、総員配置」

ゲンドウの声が静かに響き、ミサト達はそれぞれ散って行った。



同時刻。
第三新東京市郊外にある戦略自衛隊駐屯地を若い隊員が歩いていた。
幼さの残るひとなつこい顔立ちに拍車を掛けるような丸めがねと、戦うことを前提にデザインされた制服が違和感を生んでいる。
だが、彼はこの制服に憧れていたし、その上彼の最大の希望をかなえてくれる、そのために彼は戦自に入った。
別の若い隊員がすれ違いざまに敬礼をしていく。
彼の階級は一尉。この歳にしては異例ともいえる。
だがこれは彼の才能と努力の結果であって、なんら後ろめたくはなかった。
もっとも彼の古くからの友人に言わせると、

「あいつは趣味を仕事にしとるだけや。ほんま、中学ん頃から変わらんやっちゃで」

だそうだ。彼はある会議室の前で立ち止まると、扉に手を掛けながら言った。

「技術開発部特3課相田ケンスケ一尉、入ります」

部屋の中はやや薄暗く、5・6人の男達が発する気配が室内を一層不気味な雰囲気にしている。

…MPが何の用だ?

制服からすばやく男達の所属を識別したケンスケは、その中に彼の上司を見つけた。

「時田博士」

時田と呼ばれた中年の男はケンスケの方を向いて立っていた。
とある企業からの出向ではあるが、三佐待遇であるため、彼より階級は高い。

「相田君、君にぜひ協力してもらいたいことがある」
「…?」
「ある男が女性を誘拐して逃亡中だ。そいつを捕まえたい」
「でも誘拐事件なら警察の仕事では」
「もちろん警察にも応援を要請した。だが、さらわれたのはMP隊員のフィアンセだ」

ケンスケは周りの男達を見た。
皆異様に殺気立っている。

…これじゃあ捕まえたら殺しちまうぞ。

「でもなんで小官が呼ばれたのですか?私は技術屋ですからそういった事は苦手なんですが」
「犯人は君の友人なんだよ」

はっとして時田を見た。

「そして私にも少なからず因縁がある」

こめかみには小さく青筋が浮いている様にみえる。

口に出すのも忌々しいように時田は続けた。

「犯人は君の中学時代からの友人、NERVの碇シンジだ」



その頃シンジとレイは旧東京方面に向けて車を走らせていた。
ブティックでお揃いのシャツとジーパンに着替えた後、駐車場に停めてあったシンジの車で街を出たのだ。

「どうやら追いかけては来ないようだね」

シンジが安心したように呟く。
しばらく前に町中でMPをまいてからは追手の姿は見えない。

「でもまさかMPが出てくるとは思わなかったよ」

おどけた様に言って助手席を見ると、レイは悲しそうな顔でシンジに謝った。

「ごめんなさい…私のせいで…あなたを巻き込んでしまって」

ほとんど消え入りそうな声である。

「レイ…謝ることなんてないよ。それに僕が巻き込まれたんじゃなくて、僕が
 面倒を起こしたんだから」
「…シンジ」
「謝らなくちゃいけないのは僕の方だよ。レイのことを誰にも渡したくはないくせにいつも結論を先送りにし続けて、ずいぶん寂しい思いをさせてしまったから。だからレイがあんな行動に出たとしても、本当は僕には何も言う権利はないはずなんだ」
「そんな…確かに寂しかったけど、それを我慢できずにお見合いなんてしてしまって、それを断ることもできなかった私の方が悪いんだわ…」

二人を沈黙が包む。
シンジもレイも真剣な顔で前を見ている。

「…それにしても」

沈黙を破ったのはシンジだった。

「僕たち謝ってばかりいるね、さっきから」

レイの方へ視線を向けると、軽くウインクした。

「ふふ…そうね。謝ってばかりだわ」

レイの顔にも笑顔が戻る。

「もうやっちゃった事は仕方ないよ。今までのことを振り返るよりこれからのことを考えようよ」
「そうね…」

窓の外へ意識を向ける。まもなく箱根峠だ。

PIPIPI…

シンジの携帯がなった。
車を路肩に寄せ、ハザードランプを出してから通話ボタンを押した。

『もしもし、シンジ君?』
「はい。あ、ミサトさん」
『どうやらまだ無事な様ね。レイも一緒でしょ?』
「はい」
『ところでいまどこ?車?』
「はい。あれだけの騒ぎを起こしちゃったんで、とにかくみんなには迷惑は掛けられないと思って…」
『どっち向かってんの?旧東京?』
「連れ戻そうとしても無駄ですよ」
『そうじゃないわよ。もし旧東京方面に向かうんだったら、箱根とバイパスは
 よしなさい。検問が張られてるわ』
「えっ」

まさか、検問だなんて…。
そういえば、この道に入ってから対向車がまだ1台も来ていない…。

『シンジ君、ラジオつけてみなさい。あなた誘拐犯にされちゃってるわよ』

レイがラジオのスイッチを入れると、ちょうどニュースが流れていた。

『…それでは次のニュースです。今日午前10時ごろ、第三新東京市郊外の教会で、結婚式の最中に花嫁が誘拐されるという事件が有りました。犯人は花嫁の古くからの友人と思われ、現在も花嫁を連れて逃走中です…』
『…聞いた?えらいことになってるわ。NERVの方でも対応が大変みたいよ。戦自の連中、かなり頭に来ているみたいね。警察と合同で捜査網を展開しているわ』
「…どうしよう」

シンジとレイは顔を見合わせた。
正直、それほど大事になっているなんて思ってもいなかった。
多分レイも同じだろう。

『とにかく、誤解を解くのが先決よ。このままじゃあなたたち、誘拐犯として指名手配されちゃうわ。とりあえずNERVに…って訳にもいかないわね。
 じゃあ…そうだ、第1期開発地区に行きなさい』
「第1期って…」
『そう、前にレイが住んでいた辺りよ。あの辺はまだ再開発の途中だから、隠れるにはちょうど良いわ。その間にこっちでも手立てを考えてみるから』
「…分かりました」
『それじゃ、また連絡するわね』
「あ、ミサトさん」
『なに?』
「…すいません。結局迷惑掛けちゃって」
『いいのよ、私とシンちゃんの仲じゃないの』
「それじゃあ、移動します」
『じゃあ、あとでね』

シンジは電話を切った後もしばらく携帯を見つめていた。

「…シンジ」

レイが不安そうに声を掛けた。

「…やっぱり駄目だね。なにをやってもみんなに迷惑掛けちゃうみたいだ」

自嘲の笑いを浮かべる。
数あるシンジの表情の中で、レイのもっとも苦手な顔。
こんな顔のときは何を言ったら言いのか、わからなくなる。

「警察まで動いて大騒ぎになってるみたいだ。ミサトさんが何か手立てを考えてくれるから、それまで第1期開発区に隠れてなさいって」
「…ごめんなさい」
「レイは悪くないってば。とにかくミサトさんを信じてみよう」

シンジは車をUターンさせると、今来た道を戻りはじめた。

「…レイ」

しばらく重苦しい沈黙が続いた後、シンジが口を開いた。

「守るから…何があっても、レイを守るから。僕を信じて付いてきてくれるかい?」

レイははっとしてシンジを見た。
シンジは前を見つめたまま、運転を続けている。

「…ええ、私はシンジを信じるわ。たとえ何があっても。あなたが嫌だといっても、どこまでもついていくわ…」

レイは微笑みを浮かべて、シンジを見つめる。

「よかった…」

シンジも微笑みを浮かべてレイを見た。
かつて「逃げちゃ駄目だ」と自分に言い聞かせていた少年の姿はそこにない。
レイはそんなシンジの姿が一回り大きく見えた。








                まだ続く!



Please Mail to Radical <radical@pop01.odn.ne.jp>



mal委員長のコメント:
早くもRadicalさんに第2作をいただきました! まったく、シンジ
しっかりしちゃって・・・好きな人の前では見栄をはってる?(^^;
戦自技術開発部のケンスケと時田・・・こ、これは・・・とんでもないもん
出てきそうだな(^^;、第1期開発区といい(^^;伏線ばりばりっすね(^^)
うーん、先のイベントがたーのしーみだ!

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Received Date: 98.2.2
Upload Date: 98.2.3
Last Modified: 99.02.17
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