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    Over the Trouble   - Part 4 -

                    written by Radical







シンジはひたすらに車を走らせていた。
そろそろ陽も傾いてきた。
賑やかな市街地を抜け、更地ばかりの地区に入る。
第一期開発区。
かつてこの第三新東京市が都市開発を始めたとき、工事関係者のために作られたかりそめの街である。
都市の開発が終わる頃にはすでに街としての機能はなくなり、そのうえあの都市崩壊により完全に廃虚と化していた。
レイはこの街に住んでいたが、都市が崩壊し、団地が瓦礫の山と化したためNERVの官舎に移り、今ではシンジ達の隣りのマンションで暮らしている。

「…何も無いね」
「…そうね…寂しいところだわ」

すでに瓦礫の山は姿を消し、荒涼とした更地ばかりが延々と広がっていた。

「どこに行けばいいのかな?」

運転しながらシンジは首をひねった。
ミサトからの連絡はまだ無い。
とりあえずレイの住んでいた団地の辺りに車を向けた。

以前団地のあった場所は、再び作業者達の飯場となっていた。
しかしそれも一時的なもので、今ではいくつかのプレハブが放置されているだけの無人の場所となっていた。
閑散とした雰囲気に、二人の口数も自然と減る。
シンジはミサトに連絡を取ってみる事にした。

『もしもしー』
「あ、ミサトさんですか?」
『ああ、シンちゃん?あ、もうこんな時間?…みんなー急いで運んでねー…ごめんね、連絡できなくて』
「い、いえ、忙しそうですけど、いいですか?」
『ああ、大丈夫よ。それよりシンちゃん達こそ大丈夫?』
「はい、何度か危ないときも有りましたけど、なんとか」
『そう…あ、アスカ!気を付けてよ!余分はないのよ!!』

電話の向こうからアスカの悪態が聞こえる。

「アスカもいるんですか?」
『ええ、みんな心配してるわよ』
「…すいません、みんなに心配掛けちゃってるみたいですね」
『いいのよ、アタシ達はシンちゃんのした事を批判はしないわ。好き合ってる
 同士が一緒になろうとしてるんですもの、多少の無茶もアリよ。ところで今何処?』
「レイの団地があった辺りです」
『そう…もう少ししたらそっちに行けるから、少し待っててくれる?』
「はい」
『じゃあ、本部を出るときに連絡するわ。あ、それと、くれぐれも気を付けて
 ね。連中かなりイラ付いてきてるでしょうから』
「はい、分かりました」
『結構荒っぽい事になるかもしれないわ…で・も、危ないときはしっかりレイ
 を守るのよ。男の子なんだから』
「…はい!」
『じゃ、あとでね』

シンジは携帯を切り、照れ笑いを浮かべてレイの方に向き直った。

「久しぶりにミサトさんにハッパ掛けられちゃったよ…荒っぽい事になるかもしれないけど、男の子なんだからレイを守りなさいって」
「フフフ、ミサトさんらしいわね」

レイは嬉しそうな顔で応じる。
すでに昼間の緊張感は何処へやら。その後の会話によって完全に楽天的になってしまっているようだ。
しかし二人はまだ気が付いていなかった。
十人ほどの男達が彼らの車に近づいている事に。

「司令!シンジ君達の車が包囲されつつあります!」

シゲルの声が響いた。
モニター上ではシンジの車を中心に小隊クラスの人数が包囲をしている様子が映し出されている。

「むう、いかんな…どうする、碇」

すでに引退しているが、ゲンドウから「冬月、来い」のメッセージにより呼び出
された元副司令が声を掛けた。

「日向一尉、諜報部からの報告は」
「諜報部からは今報告が入りました。相手も戦自の諜報機関のようで、諜報部でも掴みきれていなかったようです」
「案外頼りにならんな、ウチの諜報部も」

冬月が溜息交じりに言った。

「包囲が狭まりはじめました!捕獲に移る模様です!」

シゲルの声をいつものポーズで聞きながら、内心ヒヤヒヤもんのゲンドウだった。



静寂は唐突に破られた。
いきなり左右のドアが開いたかと思うと、有無を言わせず二人は引きずり出された。
とっさの事で二人ともなすがままである。

「碇シンジだな」

二人を引きずり出したのはごく普通のサラリーマン風の男達だった。
いつのまにか辺りには十人ほどの男達が立っている。
レイは昼間同様反撃に出ようと思ったが、男達の脇が不自然に膨らんでいるのを見て止めた。
自分一人であればどうとでもなるが、シンジに危害が及ぶ可能性が高い。
それに人数も多い。
今は様子を見る事にした。

「一緒に来てもらおう。もちろん綾波レイ、君もだ」

男の声には特権を持つもの特有の威圧感があった。

「…警察の方ですか?」

シンジが探るように聞いた。
今警察の人間に危害を加えるのは得策ではない。
疑惑を晴らす事ができなくなるからだ。
シンジも様子を伺っていた。
ただしレイに危害を加えるそぶりでもあれば、反撃も厭わないつもりだった。

「…君に説明する必要はない」
「おーい、そこ、なにしとんねん」

場違いな声とともに自転車が近づいてきた。
警ら中の警官のようだ。

何ぞ揉め事か?」
警官は自転車を止め、近づいてきた。

「いえ、何でもないんですよ。ちょっと彼らと話をしていただけで…」

シンジの側の男が打って変わって明るい声で応じた。
しかし陰ではシンジ腕をきつく掴んでいる。

「ほんならええけど…ってシンジやないか」
「え?」
「わしじゃわし」
「あ、トウジ!」



「新たに接近したのはフォース・チルドレンのようです」

シゲルの報告を聞き、ゲンドウが軽く溜息を吐いた。

「危機は脱したな、碇」
「ああ、何事にもイレギュラーは付き物だ」
「…碇…これはイレギュラーというより、単なるラッキーではないか?」
「…問題無い」

何が問題ないんだかと思いつつも、とりあえずシナリオは修正可能な状態に戻った。

「調査員より報告が入りました。駐屯地より大型トレーラーを含む一個師団が出動したようです」

マコトの報告に、ゲンドウの口元が歪んだ。

「いよいよだな」

冬月の声も、どこかわくわくしているような声だ。

「葛城君の方はどうなっている?」
「先ほど全て出荷しました」

リツコが白衣に袖を通しながら司令所に戻ってきた。

「充分ご期待に添えられそうですわ」



…でも何でトウジがここに?
警察官になった事は前から知っていたが、勤務が第二東京市であり、なかなか会えないでいたのだ。

「実は今日赴任してきたばっかでな、明日にでも驚かしたろ思うてたんじゃ」

屈託のない笑顔で笑うトウジ。
シンジはうれしい反面巻き込んではいけないと思い、愛想笑いを浮かべてごまかそうとした。

「へ、へえー。びっくりしたよ…でもまだ仕事中なんだろ。話は明日にでもゆっくりしようよ…」

しかしトウジには通用しなかった。

「シンジ…相変わらず嘘が下手やな。こいつらおまえに何のいちゃもんつけとんねん?」

凄みを利かせて男達を見る。

「われわれは戦自諜報部のものだ。碇シンジは誘拐犯として手配されているはずだ。われわれは犯人を確保した。それだけのことだ」

面倒くさそうにスーツの一人が説明する。

「誘拐?シンジが?お前誰を誘拐したんじゃ?」

トウジが不思議そうにシンジに聞く。

「うん…レイを…綾波を誘拐したらしいんだ」

シンジも他人事のように答える。

「シンジが綾波を誘拐?」

ますます混乱するトウジ。
二人をよく知っているだけに、この二人と誘拐という言葉がどうしても結びつかない。

「とにかくわれわれに任せたまえ。警らごときには関係の無い事だ」

トウジに一番近い男が高圧的に言いながら、トウジの前に立ちふさがった。

「ほー、シンジはわしの親友じゃ。関係ない事あらへんやろ」

トウジの眼に好戦的な光が浮かぶ。
男はすばやい動きで間合いを詰めると、トウジの鳩尾に拳を叩き込んだ。
だが、崩れ落ちたのは男の方だった。
隙を突いたはずの拳を受け流すと、流れるような動きで男の脇腹に掌底を叩き込んだのだ。

「やっぱりや。シンジ、おまえも難儀な生活しとるようやな…おーし、おまえ
 ら、傷害容疑でしょっ引いたるから覚悟しいや!」

それが合図であったかのように乱闘が始まった。
トウジは強かった。
シンジも転がっていた鉄パイプを手にレイをかばいつつ戦っていたが、トウジは7・8人を同時に相手にしていた。
相手の攻撃を受け流し、拳を、蹴りを叩き込み、投げを決める。
男達も厳しい訓練を受けているはずだが、ほとんど大人と子どもほどの違いがあった。
それほどトウジの動きは洗練され、美しささえ感じられた。
格闘技に通じた人間が見れば、トウジの動きにはさまざまな格闘技の要素が含まれている事が分かるだろう。
事実彼はさまざまな格闘技に通じていた。
失った左足をNERVのクローン技術を応用して復元した後、リハビリにと太極拳を始めたのがきっかけだった。太極拳から中国北派の拳法にのめりこみ、警察に入ってからは柔剣道や合気道も身につけた。それらの格闘技から得たエッセンスを彼なりにアレンジしたのがトウジの体術だった。
シンジがようやく二人めを倒した頃、残っていたのはわずか二人だった。
一人が踵を返し駆け出すと、もう一人が懐から拳銃を取りだしトウジの足に狙いを付け引き金を引いた。
だがトウジが左手を前にかざすと、キンという甲高い音とともに銃弾が脇にそれた。

「ハッ!」

短い気合とともに半歩踏み出し、右手を打ち出すように突き出す。
すると逃げていた男は背中を撃たれたように仰け反ると、そのまま倒れてしまった。

「どや、思い知ったか!」

埃を叩くように軽く手を叩くと、満足そうに笑った。

「こいつらみんな公務執行妨害も付けたるわ」

周囲にはごろごろと男達が転がっている。
だが、シンジは笑ってはいなかった。
シンジは見てしまった。
トウジが撃たれたとき、かざした左手の前に小さく八角形の光が現れたのを。
そしてその後の男を追撃したのも、おそらくは…

「…ATフィールド」

レイが呟いた。
レイも見てしまったのだ。

「トウジ…さっきのは…」

シンジが低い声で問い掛ける。
シンジの声と裏腹に、トウジは自慢げに明るく答えた。

「おお、見たか?あれが東洋の神秘『気』じゃ!」

…なにか勘違いしているようだった。



「現地にてATフィールドの発生を確認」
「…レイか…それとも…」

冬月があごに手を当て考え込む。

「…使徒反応は?」
「ありません」

シゲルは隅々まで確認した上で答える。

「であれば問題はない。引き続きチェックを継続せよ」

ゲンドウはいたって冷静である。

「しかし碇、彼をこのまま放置しておいていいのか?ATフィールドを使えるのであれば手元において監視しておいた方が…」

冬月が提言するが、ゲンドウは「放っておけ」の一言で済ませた。

「それより戦自の動きはどうなってる」
「はい、現在第一期開発区に集結中。あと30分ほどで包囲網を完成させると思われます」

マコトも次々入る情報を処理している。

「トレーラーが出たという事は…」
「ああ、“あれ”を出すつもりだな」
「あんなモノ、よく使う気になったな、連中は」

冬月が呆れたように言う。

「確かに以前のJAの謳い文句とも符号はするがな」
「初号機の準備は?」
「何時でも出られます」

ゲンドウの声にリツコが反応する。

「S2機関の状態も安定しています」

いつのまにか戻っていたマヤがモニターをチェックする。
司令所のドアが開き、ミサトが入ってきた。

「司令、準備作業完了しました。“差し入れ”はまもなく配達完了です」
「そうか…」

お膳立ては全て整った。

「後は頼むぞ、シンジ」








                まだまだ続く・・・はずだ!(爆)



Please Mail to Radical <radical@pop01.odn.ne.jp>



mal委員長のコメント:
やあああっとその4公開です・・・なんたることやらもうm(__)m
なぁんつっても・・・トウジかっこいい!!頑張ったんだなぁ・・・
うぉぉぉ、これからだ!!って時に更新停止しちゃって、
本当になんと申し上げてよろしいやら、m(__)mm(__)mm(__)m
見捨てられても文句いえませんが・・・ここで終わっては蛇の生ごろし(^^;
Radicalさん・・・・よろしければ続きをお願いしたいです!!
&今頃公開とことん申し訳ないです!!!m(__)m

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Received Date: 98.3.1(爆)
Upload Date: 98.4.8
Last Modified: 99.02.17
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