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    Over the Trouble   - Part 5 -

                    written by Radical



夕闇迫る開発区の一角で黙々とテントを設営する一団。

「あ〜、やってらんね〜」
「・・・正式な任務でもないのによ〜」

周囲に聞こえない程度に文句をたれながら作業に勤しむ彼らは、 時田に無理矢理動員された戦自の若い隊員達である。
正式な任務でもないのに彼らを動員できるあたり、戦自での時田の権力は そう馬鹿にできないものの様だ。

「い〜んですか〜、こんな大事にしちゃって。後始末、大変ですよ」

ちゃっかり時田のスタッフとして作業には参加せず、設営されつつある指揮所を眺めて シニカルに呟くケンスケ。
すでに上官に対しているという態度ではない。

「いいんだ。そんな些末な事は気にするな。我々にはNERVの横暴を阻止するという 大義があるのだ」

いつのまにか目的がすりかわっている。

「それより”セカンド”の方はどうなってる?」
「あなたの部下達が勝手に準備してますよ。あっちこっち弄り回さなきゃいいけど・・・」

・・・政治が動いてるな。
時田の言葉に直感的にひらめく。
確かにNERVの持つ権力に不平不満を言う政治家も少なくはない。
決して彼らの行政能力などとは関係無いのだが・・・。
それであれば時田の後先を考えない行動も説明の付けようがある。

・・・シンジ・・・逃げ延びてくれよ。こんなくだらない事で死んだりしたら馬鹿みたいだからな。
一人息巻いている時田を見ながら、それでも命令に従うしかない自分に歯噛みしつつ、 そんな事を考えていた。

やがて指揮所の設営も終わった頃、何台かのトラックが指揮所にやってくる。

「時田博士」
「なんだ?」
「食料が到着しました」

指揮所にも大量のカレーパンが運び込まれる。

作戦行動中の食料が、カレーパンだと?
送り主は戦自総務部となっている。
・・・NERVの罠じゃないだろうな。
生っ粋の軍人ではない時田には判断が付かない。

「作戦行動中にカレーパンとは、よくあるのか?」

伝令に来た若い隊員に聞いてみる。

「さあ・・・あまり聞いた事は有りませんが、今回は出動が急でしたから、このようなときは こういう事もあるのではないでしょうか?」

若い隊員も首をひねりつつ答える。
しかし他にもする事は山ほどある。
時田は総務部への確認と成分分析を指示した。
程なくして、結果が届く。

「分析の結果、可食物及び調味料の類以外は検出されませんでした」

・・・考えすぎだったか。
時田の口元に自嘲の笑みが浮かぶ。
彼は食料の全軍への配給許可を出すと、再び自分の仕事に戻って行った。


「ちょっとまっとれや、連絡せにゃならんからな」
トウジは二人にそう言うと、携帯無線で報告を始めた。

シンジは呆然としていた。
確かに以前の戦いで、レイとカヲルは生身の体でATフィールドを展開した。
しかし二人の場合とトウジとではあまりにも条件が違いすぎた。
二人は使徒、もしくはエヴァを母体として造られた存在だからである。
今ではシンジも特に意識してはいないが、そればかりは動かしようのない事実である。
だが、トウジは・・・

そこまで考えたとき、シンジの脳裏に第13使徒バルディエルとの戦いが蘇る。
・・・そうだ・・・あの時トウジの乗る参号機は使徒に乗っ取られていたんだ・・・
その前の第11使徒は細菌サイズの使徒だったって後から知らされた。
あの時、使徒が参号機だけでなく、その内部にいたトウジにまで侵食していたとしたら・・・

「・・・心配しないで」

気が付くとレイがすぐ近くに来ていた。
トウジを気遣っているのか、シンジにしか聞こえないくらいの声で続ける。

「たしかに鈴原君の体内には使徒の細胞が寄生しているわ。それは完璧に同化してしまっていて、 どんな技術を用いても取り除く事はできなかった・・・。でも、その細胞は完全に活動を停止しているし、 彼がATフィールドを使えるのはそのためではないの」
「・・・?」

呆然としたままのシンジをよそにレイは続ける。

「あなたは知っているはずよ。ATフィールドの持つ本当の意味を」
「!」

・・・そうだ、僕は知っている。ATフィールドの本当の意味を。そしてその本質を。

『ATフィールドは誰もが持つ心の壁』

カヲルの言葉が、そしてあのサードインパクトの際のATフィールドが崩壊する光景が蘇る。

「そう・・・ATフィールドは誰もが持っているもの。鈴原君は訓練を通してその使い方に気が付いただけ・・・」

そう言ったレイの表情はどこか淋しげだった。

「・・・ごめん、レイ」

いきなり謝るシンジ。

「どうして謝るの?」

「また嫌な事思い出させちゃったから・・・」

例によって自己嫌悪に陥るシンジ。だが、レイは淋しげな表情のまま答える。

「・・・いいわ、気にしないで。それは事実だから・・・」

「・・・ホントにごめん」

「なんやて!ほんまですか?!・・・いや、わしは、その・・・」

報告を続けていたトウジの声が急に大きくなった。
何事かとシンジとレイの視線が集まる。

「・・・はあ、そうですか・・・え!そ、そんな・・・そんな急に・・・め、免職!そんな阿呆な!! はあ、わかりました。とりあえず待機しとりますわ。はぁ・・・」

トウジは深い溜息とともに通信を終えた。

「どうかした?」

シンジが心配そうに尋ねる。

「な、なんでもあらへん!お前の心配するようなこっちゃ無いわ。・・・それよりもうすぐ 応援がくるで・・・」

わざとらしいが明るい声で答えるが、何か不都合な事があったのはミエミエである。
おそらく上司にこっぴどく怒られたのだろう。

「わかったよ、僕らももう行くから・・・」
・・・ごめん、トウジ。
心の中で親友に手を合わせる。

「あ、ああ。ほんならまた近いうちに挨拶に行くで・・・あ、あとな、お前らほんまに手配されてるぞ。 ・・・とりあえずもう何処かへ行ってしもうた事にしといたけどな・・・せやからはよう何処かへ行きや・・・」

「鈴原君・・・」

少し呆けたようになっているトウジにレイが声を掛ける。

「なんや、綾波・・・」
「・・・ごめんなさい、迷惑掛けてしまって」
「え、ええて、そないなこと」

深々と頭を下げるレイを、慌てて制止するトウジ。

「それより気ぃ付けや。かなり面倒な事になっとる様じゃ・・・」

二人はもう一度礼を言うと、車を走らせて行った。

「・・・ヒカリ、怒るやろなぁ」

二人の事も心配ではあったが、彼の心には家で待つ妻の事でいっぱいになっていた。


「・・・完全に囲まれたな」
「ああ・・・」

NERV司令所の正面スクリーンにはシンジ達を表す光点と、それを囲む光の帯を映し出していた。
光の帯の中には妙に大きな点があり、わらわらと動くスクリーンの中でただ一つ動かない。

「奴等、あれは使わないつもりか?」

冬月がその光点を見つめながら呟く。

「使ってもらわなくては、ここまで騒ぎを大きくした意味が無い」

ゲンドウはファイティングポーズのまま、ささやくような声で答えた。

「シンジ君達が包囲網に接触します」

シゲルが叫ぶ。
シンジ達の光点は今まさに光の帯に飲み込まれようとしていた。


シンジ達の前に戦自の陸戦隊が展開していた。
シンジは完璧な包囲網に囲まれながらもよく逃げ回っていた。
すでにトウジと別れてから2時間以上。日もとっぷりと暮れている。
だからといって観念していたかというとそうでもなかった。

「ミサトさーん!もしもーーーーし!!」
「・・・ジくん、そこ・・・に・・・こ・・・」
「なんですかーっ!よく聞こえませーん!!」
「・・だか・・・ネル・・・くる・・・で・・・・」

電波の調子が悪いのか、シンジの携帯からはノイズばかりが聞こえる。
トウジと別れてから何とか連絡をつけようとしているのだが、なかなか繋がらず、 やっと繋がったかと思えばこのありさまだ。
シンジは舌打ちとともに携帯を後ろの席に投げ捨てた。
レイも自分の携帯を使って、思い付く限りのところにかけてみるが、結果は似たようなものであった。

・・・こうなったら何としてでも逃げ延びてやる。
せめてレイだけでも、必ず!

・・・何があっても、シンジには指一本触れさせない。私が守るから・・・。

二人は無言であったが、その思いは互いの隣りにいるものに向けられていた。



Please Mail to Radical <radical@pop01.odn.ne.jp>



作者Radicalのたわごと:
長い事お待たせした上に半端な内容になってしまい、申し訳ありません。
ようやっと次回から山場に突入です。
はたして作者の表現力がついて行けるのか?
とりあえず、乞うご期待。

mal委員長のコメント:
RadicalさんのOver The Troble、第5話頂きました!!
うーん、カレーパンか・・・そーゆー手で来ましたか(^^;煙吹いてそうですが(^^;
トウジのATフィールドはそーゆーことだったんですね・・・すごい(^^;
今度こそ(^^;いよいよ佳境ですが、期待しておりますっ
そして・・・公開異様に遅れて申し訳ない!!m(__)m

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Received Date: 98.5.29(爆)
Upload Date: 98.6.20
Last Modified: 99.2.17
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